瞳の色で使える魔術が変わる世界で俺は魔術が使えない(らしい) 作:伊地知和義
俺が転生してから一ヶ月くらいの月日が経った。
家の中から太陽が何回昇ったかを数えただけなのであまり正確ではないが、大体そのくらいだろう。
一ヶ月を通して分かったことが二つある。
一つは俺と両親の名前についてだ。
俺の今世の名前はニルというらしい。苗字は知らない。
言葉はまだ分からなくても、俺に向かっていつも「ニル、ニル」と言ってくるから流石にそれが俺の名前だとは分かる。
いや待てよ? 何か知らない単語かもしれないけど、それは置いておこう。
そして両親の名前は母親がニナで、父親がウィルというらしい。
前世の記憶があるせいで心の中でもお父さんとかお母さんとか呼ぶのにはまだ抵抗があるけど、そのうち慣れるとは思う。
俺の名前は多分、二人の名前を合わせたとかそんなとこだろう。
そしてもう一つ分かったこと、それは。
どうやら魔術が存在するって事だ。
最初は目を疑ったけど、何度も見せられちゃ信じるしかない。
具体的にはニナに抱っこされて外の庭に居る時、ウィルが庭の草木に水やりをしていた。
そう、魔術を使ってね。
バケツも
そして母親のニナも魔術を使える。
まだ首が座ってないからあまり上手く見れなかったけど。
暖炉の薪に火をつける時に火を手から放ってたね。
いやー凄いな。この世界では日常生活で魔術を使うらしい。
早く俺も使ってみたいし、もう少し成長したら頑張って独学でも練習してみようかな。
ん? そういえば前世で不審者に放ったのもあれは魔術なのか? でもそんなもの前の世界には無いし、近い物なら超能力とかかな。
まあとにかく、考えても分からないし、今の俺はただの赤子で何もできないから寝るのが仕事だな。
にしても今日もウィルはいないのか。
俺の父親であるウィルは仕事が忙しいのかほとんど家に居ない。
まあ俺は一日のほとんどの時間寝てるか寝たフリのどちらかしかする事ないから、その間に帰ってきてたりするのかもね。
あと赤ちゃんと言えばミルクだけど、もちろん母親のニナから直接給油をしたりもするんだけど。
まあ母親だからか興奮はしない。
一応前世は年頃の高校生だったんだけど流石に母親には欲情しないみたいだ。しても困るけど。
さてそろそろ夜か、眠いな。赤ちゃんだからか意思と関係無く眠くなるんだよな。
どうせすることも無いし寝よう。
俺はそのまま眠りについていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
うぅ。なんだか外が騒がしいし、なんか揺れてるな。
俺は何かの爆発する音と何かにぶつかったのか、激しい揺れを感じ取って目が覚めた。
目を開けるとニナが不安そうな顔をして、俺の事を抱っこしていた。
視界に映るこの部屋に俺は見覚えが無く、困惑する。
かなり小さいな、乗り物の中とかかな。
とりあえず赤子の俺にはどうしようも出来ないので、ニナに抱かれて再び眠りにつこうとしたその時。
扉が勢いよく開いて、緑色のローブを羽織ったいかにも盗賊っぽい奴らが声を荒らげ、ニナに向かって何かを言っている。
マズイな、これもしかして死んだりしないか?
俺が絶望していたら、男達は何かを言ったまま扉を閉めてどっかに行ってしまった。
なんだったんだ今の。
そんな俺の死ぬという不安はひとまず解消されたが、これからもっと最悪のパターンが来るかもしれない。
いきなりの出来事に興奮して眠れそうにない。
起きてたらいらない心配をニナに掛けさせてしまうし、寝たフリをしよう。
そしてしばらく寝たフリをしているとまた扉が開いた音がした。
俺は少しだけ目を開ける、するとそこには父親のウィルとその横にさっきの盗賊っぽい奴らよりも厳つい若い男が立っていた。
この男は恐らく盗賊っぽい奴らのボスだな。
何やら三人でしばらく話をした後、なんと俺はニナの腕から厳つい男の腕へと預けられた。
へ? どういうこと? まさか盗賊に脅されて我が子を売り飛ばしちゃうの?
いや多分、俺が可愛い子供では無かったのか? それとも望まない妊娠……それとも実はこの厳つい人が俺の親だとか、それは多分無いな。
おいおいマジかよ……これから俺はどうなるんだ。
俺は絶望のあまりに考える気力を失い、そのまま眠りについていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
はぁ、最悪な気分だ。
俺はまたも揺れる感覚に襲われて目を覚ました。
だが今度は何かに乗っているかのような揺れ方だ。
俺あの盗賊っぽい、てか盗賊だろ……にこれから売られるのかな。
俺は恐る恐る目を少しだけ開けてみた。
だがそこに映ったのは……誰!?
その男はあの厳つい男ではなく、厳ついには厳ついがあっちが盗賊っぽいならこっちはどちらかと言うと戦士みたいな雰囲気をした男であった。
その男の容姿は精悍な顔立ちに茶色の髪、赤色の瞳をした男だ。
俺は更に絶望した。「もう売られちまったのか」と。
だがまあ、ウィルとニナに恨みは無い。
何故なら仕方が無いと思ったからだ、あそこであの盗賊の言う通りにしていなかったら全員殺されていたかもしれないし、ある意味懸命な判断だったのだ多分恐らくきっと……。
さて、これからどう生きていこう……ひとまず自己防衛は出来るようにならないとな、
そう思って俺は頭の中でどうしたらいいか考えるが、赤ん坊に何ができるのだろう。
うっ! 朝日か、眩しいな。
そう思って俺は思わず目を閉じる。
この男もそう思ったのか何かを呟いたのが聞こえたが分からない。
こうして転生して一ヶ月という短い両親との生活は終わり、俺は戦士みたいな男に連れられてどこに行くか分からずに連れられていった。