瞳の色で使える魔術が変わる世界で俺は魔術が使えない(らしい) 作:伊地知和義
この男に連れられてから一ヶ月が経った。
この男の名前はどうやらガルアというらしい。
言葉が分からないなりにこの男と他の人との会話を必死に聞いた結果得られた情報だ。
盗み聞きは良くないとは思うが、まあ何せガルアに抱っこされている時の話だ、嫌でも聞こえてしまうので仕方が無い。
俺は今、そのガルアに連れられてどこかも分からない土地の家にこの男と二人で暮らしている。
そして分かったことが名前以外にもある。
それは俺の目を見てガルアが一瞬驚いた事だ。
人の目にゴミでも付いていたんだろうか、こっちとしては少し不快な気分になる。
だがあくまで一瞬ではあったので何か気の所為ではあると思うが。
とはいえ分かったことといえばそれくらいだ、俺はまだこの世界に来てから二ヶ月しか経っていないし、赤子でこの世界の言葉も知らないから得られる情報も限りがある。
だがこの世界で今の所不満に思う点は無い。
この世界での親であるニナとウィルに身を売られた事に関しては少し傷付いているが、不幸中の幸いか一緒に暮らした期間も一ヶ月と短いため思い入れが少なくて助かった。
二人を恨んでいる訳でも無い。
むしろ仕方が無い状況の二人はまだ良いとさえ思っている、何故なら前世の父親の方がよっぽど酷かったからだ。
とにかく成長するまでは自分で動くことすらままならないし、まずすべきことは言語の習得だろう。
これが分かるだけで得られる情報も大いに変わってくる。
コミュニケーションは大事だしね。
とにかく、何が目的なのかは分からないが、今の俺はガルアに育てられている。
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俺は一歳になった。
この世界の言葉は前世の知識を持っているのと赤子の柔らかい頭脳のおかげか大分理解できるようになっていた。
そして一歳にもなれば自分の足で歩く事も出来るようになる。
まあ歩けてもせいぜい家の中だけだが。
しかしこの家、俺が赤ん坊で小さいってのもあるとは思うけどそれを加味しても部屋が多いし広いんだよな。
家と言うより宿と言った方が合ってるかもしれない。
あと、鏡が無いからよく見えなかったがこの世界での自分の容姿が分かった。
それによって分かったことが何故あの時ガルアさんが俺の目を見て驚いたのかということだが、それはまあ俺の瞳の色が白だったからだろう。
でも別に変じゃないと思うけどな、アニメのキャラにも居たし。
あと、髪はウィル譲りの銀髪で、顔は多分ニナの方に似ているかな? 記憶が曖昧でよく分からないが。
そんな俺は今ガルアさんに本を読み聞かせてもらっている。
何を聞いているかというとおとぎ話だ、こうすることで文字を学ぶ事も出来るしこの世界の考えとかも知ることができる。
「昔昔この世界には悪の存在である『邪神』が存在しました」
ガルアさんが語り出す。
太古の邪神と勇者の物語だ。
正直もう何回も聞いた内容なのであまり興味は無いが、字と言葉を照らし合わせるためにこうして読み聞かせをしてもらっている。
「その邪悪な存在は人々を恐怖させ、魔族を従え人族と争いをしていました。このままでは人族は滅びてしまう、そう思っていた矢先に神は舞い降りたのです」
物語にはもう興味が無いとは言ったものの、神という存在には少しだけ興味がある。
しかしこれはあくまでおとぎ話、事実であると宣言こそしているが物語である以上ある程度の脚色はされている筈だ、だから俺達人類が思い描くような神様では無いと思うが。
「舞い降りた神は人族の中で特に強いとされる五人の精鋭に『神器』と呼ばれる邪神を倒す武器を与え、その五人は人々から『勇者』と呼ばれ、崇められました。五人の勇者によって人族はたちまち力を取り戻し魔族を退けることに成功しました。そして五人の勇者は遂に邪神のもとへ辿り着き、晴れて邪神を打ち倒すことに成功したのです」
読み終えたガルアさんが本をぱたんと閉じる。
うーん、言葉が分かるようになったのはいいけど、そうすると今度はもっと分からない事が増えてくるんだよな。
魔族に邪神や神、それと勇者とかなんなんだ? 前世ではファンタジーの世界の物だったのがいきなり現実にあると言われてもよく分からない。
本当に分からないことだらけだ。
まあ、これからもっと学んでいけばいいか。
「どうだいニル、ちゃんと聞けたかな? 」
こちらを向いて言ってきたガルアさんの言葉に俺は(いつものだな)と思いつつ頷いた。
別に声を出して返事をするのもいいけど、うっかりこの歳で使わないような言葉を発しちゃったりしたら、異端児だとか何かの実験台にされたりとかがあるかもしれないし、そもそも一歳がどこまで喋れるのか詳しくない。
前世で唄葉の面倒を見てはいたけど、何歳からどれくらい話し始めたかなんて細かく覚えていないな。
ああ……二人とも今頃どうしてるのかな。
俺がこの世界に来てから一年が経ったが未だに向こうの世界の妹二人を思い出しては憂いている。
だが考えてももうどうにもならない事なので、最近は上の妹の絵莉がしっかりやってくれているはずだと思うことにしている。
「そうかい。それは良かった、またいつでも頼んでくれて構わないよ」
そう言ってガルアさんは俺を抱き抱えて立ち上がる。
「それじゃあ寝る時間だよ」
立ち上がったガルアさんはそのまま階段を昇っていく。
俺はいつもガルアさんの隣のベッドで寝ている。
まあ小さい子供であるのだから何かあった時にすぐ対応できる場所に寝かせているのだろう。
読み聞かせをしてもらっていたのは一階のリビングで、ガルアさんの部屋は二階にある。
階段を自分で昇る事はできなくはないのだが、ガルアさんの前でやると危ないと怒られるためあまりしないようにしている。
ガルアさんは二階に着くと少し歩いて一番奥の部屋の扉を開けた。
「さあ、おやすみニル」
ガルアさんは俺にそう言うと大きなベットの隣の子供用の小さいベッドに俺を乗せて、ベッドに入った後ランプの明かりを消した。
俺が分からないことの一つには何故ガルアさんがこの世界での俺の名前である「ニル」という名を知っているのかという疑問がある。
まあ順当に考えて名前が分からないと困るからあの盗賊の男が俺の親に聞いて、そのままガルアさんに売った時に名前を教えたとかだろう。
さてと、もう眠いし眠るとしますか。
そして俺は眠りに落ちていった。