瞳の色で使える魔術が変わる世界で俺は魔術が使えない(らしい) 作:伊地知和義
この世界に来てから五年、つまり俺は五歳になった。
つまり今日は俺の誕生日ということだ。
しかし俺が生まれた正確な日は分からないため、孤児院に来た日を俺の誕生日にしているとガルアさんは言っていた。
まあ実際のところは生まれた時からの記憶があるから本当の生まれた日はなんとなくでも分かるけど、俺もこっちの方がしっくりくるという事で納得している。
ガルアさんとは俺が外に出てしまったあの日から、より一層絆を深めたような気がする。
そんな俺だが今日は楽しみな事がある。
先日ガルアさんから「せっかくの誕生日なのだから、何か欲しいものを考えておいてくれ」と言われたのだ。
俺はこの世界にどんな物があるか知らないのでかなり悩んだが、悩んだ末に魔術の本はあるかとガルアさんに尋ねた。
するとガルアさんは「少し早いかもしれないが、お前なら正しく読むことができるだろう」と快く返事をしてくれた。
その魔術の本を受け取る日が今日なのだ。
だが俺はこの世界で魔術を使えないという白色の瞳をしている。
だが、だからといって魔術を諦めることはないと思っている。
何か他の方法があるかもしれないし、この世界の住人ではない俺なら、この世界の固定観念のような物を持っていない俺なら、そう思って俺は魔術の本を頼んだのだ。
そして前世で不審者に襲われた時に、突然不審者が燃えたあの現象……そして謎の体の感覚、あれがもしかするとヒントになるかもしれない。
そうすると俺は土壇場で超能力、所謂パイロキネシスのような物を使ったということになるが、まあそれは考えても分からないことだし置いておくことにする。
暫くリビングの椅子に座って待っていると、玄関が開く音がした。
「ただいまニル」
「おかえりなさいガルアさん」
「さて、今すぐにでもプレゼントを渡したいところだが……その前に話があるんだ。すまないね」
「話ですか? まあはい、分かりました」
俺は話とはなんだろうかと思いつつガルアさんが荷物を片付けるのを待つ。
しばらくするとガルアさんが戻ってきた。
「すまないね。早くプレゼントを受け取りたいだろうに」
「いえ、プレゼントは無くなりませんから」
そう言うとガルアさんは笑った。
別にふざけて言ったわけじゃないんだけどな……まあいっか。
「では話を始めるとしよう、これを見てくれ」
そう言ってガルアさんは小さな木箱をテーブルの上に出した。
「これはなんです? 」
「開けてごらんなさい」
俺はガルアさんの言葉に従いその木箱を開ける、すると中にはビー玉くらいの直径をした蓋のような物、例えるならコンタクトレンズに似ている形状の物が入っていた。
俺は首を傾げてガルアさんの方を見ると、ガルアさんは話し始めた。
「それはね、『偽りの瞳』という魔道具なんだ」
出た、ファンタジー特有の厨二臭い名前のやつ……。
「これ、どうやって使うんです?」
「瞳の色を変えることができるんだよ。文字通り偽りの瞳だ」
とんでもない道具だな……それがあったら全世界の白色の瞳をした人達が正体隠し放題なんじゃないのか?
俺は気になったのでガルアさんに聞いてみた。
「その、そんな道具があるなら白色の瞳をした人達は正体を隠せるんじゃないんですか? 」
「うーん……それがね、この魔道具はとても貴重な代物で入手するのが困難なんだよ、それに正体を隠すことを防ぐために身分証明として瞳の色に対応する属性の魔術を扱えるか示さなきゃいけない」
なるほど、それなら合点が行く。
どうりで正体を隠せないわけだ。
だが新たな疑問が生まれる。
何故入手困難で貴重な道具をガルアさんが手に入れられたのかということだが……。
「どうやってガルアさんはそれを手に入れたんです? 手に入れるのは難しいって言ってましたけど……」
ガルアさんはしばらく黙り込む。
何か話せない事情があるんだろうか、それなら仕方が無いことなのだが。
「そうだな、まあ昔の友人がくれたのさ」
苦笑いしながらガルアさんは言う。
ガルアさんがやっと語り出しとかと思えば答えは曖昧であった。
まあ話したくないのなら無理に話す必要もないしね。
ガルアさんにはちょっと悪いことしたかな。
「そうですか、分かりました。じゃあ話は戻りますが、これをどうやって使うのか教えてくれませんか? 」
「おっとすまない。もうわかると思うがこれは目に付けて使う。ほら、試しに付けてごらんなさい」
薄々勘づいてはいたけど、はっきり言われると一気に抵抗感が出てくるよなぁ。
前世だと目は良いとは言えなかったけど、眼鏡はいらなかったし、もちろんコンタクトレンズなんて付けたことない。
「どうしたんだい? そうか、いくら賢いニルでも怖い物は怖いか。どれ、私が手伝ってあげよう」
そう言ってガルアさんは椅子から立ち上がって俺の方に来ると、「目を大きく広げていなさい」と言い、木箱から偽りの瞳の片方をつまんで俺の右目に付けた。
「どうだい付け心地は? 」
「まあ……普通です」
とは言ったが正直目に異物を入れるのは怖かった。
将来的には自分で付けていかなきゃいけないのだろうが、まあそこは慣れだろう。
「そうかそうか、では水面を見てごらんなさい」
そう言うとガルアさんはコップに水を汲んで差し出してくる。
俺は恐る恐るコップの水面に浮かぶ自分の瞳を覗いた。
するとそこには普段の白いままの左目と、偽りの瞳を入れた赤く染まった右目が映っていた。
「凄いだろう? これを付ければ外に出れる。まあ子供だから身分確認の為に魔術を使えとは言われないだろうが、あまり遠くへは行けないな」
外、か。正直去年外に出た時に見た街の人達の反応を思い出すと、今でも背筋が凍りつくが……まあこれを付ければ大丈夫だろう。
これで活動範囲も広がるというわけだ。
しかし嬉しいね、今まで家の中だけで生きてきたから何だか不思議な気分だ、ん? でも赤子の時は外に出てたしな、なんでだ?
「ガルアさん、聞きたいことがあるんですけど」
「どうしたんだいニル」
「その、赤ちゃんの時はこれを付けていなかったと思うんですけど大丈夫なんですか? 」
「ああその事か、生まれてから一ヶ月くらいは体内の魔力が安定しなくてね、それで安定するまでの期間は母親の瞳の色が遺伝するんだよ」
確かに実の親であるウィルとニナは俺を見ても驚いてすらいなかったしな、なるほど。
「そうなんですか、ありがとうございます」
「ちなみになんだが、その偽りの瞳も自在に瞳の色を変えることができるが、何も設定しなければ母親の色になるぞ。どうやらお前のお母さんは赤色の瞳をしてたみたいだな……おっと、親の話はダメだったな」
「いえ、気にしてないので平気です」
ガルアさんの言葉に俺は笑って返した。
まあ親の事はそもそも一ヶ月程しか暮らしていなかったし覚えていることも名前と見た目くらいだ、少し思うところはあるが、あれは仕方ないと割り切っている。
それにしても、ニナは赤色の瞳だったのか……あれ? 俺の記憶違いかもしれないけど、ニナの瞳の色はたしか青色じゃなかったっけ……?
いや、多分勘違いだな、そこまで重要なことでは無いだろうし。
「おっといかんいかん、本命のこっちを忘れていたよ」
そう言ってガルアさんは積み上げられた荷物の中から一つの本を取り出す。
そう、それは今の今まで欲しがっていた俺ですら忘れていた魔術の本だ。
「あらためて五歳の誕生日おめでとうニル」
ガルアさんが本を俺に向けて差し出してくる。
俺はそれを受け取ってにこやかに笑い元気よく返事をした。
「はい! 」
「私はお前なら白色の瞳をしていても、魔術を使ってくれるんじゃないかと思っているよ。その歳で丁寧な態度に文字を理解している子供なんてそうはいない」
まあ、前世の記憶のおかげ……と言っていいのかわからないけど。
ただガルアさんには恩があるし、タメ口で話すには前世の記憶が邪魔をするからどうしても敬語になってしまう。
ガルアさんも最初は驚いてはいたけどその歳で本の文字を理解できるならとあっさりと受け入れてくれた。
「私はお前にとても期待しているよ、ニル」
ガルアさんは笑みを浮かべてそう言う。
その言葉に俺は「何に? 」と少し疑問を抱いたがそこは問わないようにした。
「さて、お楽しみの本を読みたいとは思うが、今日はもう遅いから明日にして寝ようか」
「そうですね、おやすみなさいガルアさん」
「おやすみ、ニル」
俺はガルアさんの言葉に従い、そのまま魔術の本を抱えて二階の自分の部屋へ入った。
自分の部屋も五歳の誕生日プレゼントなのだが、誕生日よりは少し早めに俺はこの部屋を使っていた。
俺の部屋は階段を昇って一番手前の部屋だ。
俺は部屋に入るとすぐさまベッドに横たわった。
正直今すぐにでも魔術の本を読みたいという気持ちはあるが、だからこそしっかりと睡眠を取ってからゆっくりと確実に理解したいとも思う。
俺は魔術の本を枕の下に入れて寝ることにした。
枕の下に本を入れるとその本の夢を見れるみたいな迷信だ。
だが魔術の本は分厚かったために枕がとても高くなってしまい、硬かった。
翌日俺は、首を寝違えた。