瞳の色で使える魔術が変わる世界で俺は魔術が使えない(らしい) 作:伊地知和義
最悪な気分だ、と朝目覚めた俺は思った。
先日枕の下に分厚い魔術の本を入れて寝たために、首を寝違えてしまったのだ。
今となっては昨日の自分をぶん殴ってやりたいところだがそれはできない。
そんな俺は寝違えて痛めた首を気にしながら魔術の本を読み始めようというところである。
魔術の本のタイトルはというと「魔術のすすめ」と書いてある、何がとは言わないがモロだなとは思うが世界が違うし関係ないか。
俺は本のページを捲って目次を読む。
うーん、まあまずは基本知識から読まないと、ちんぷんかんぷんになっちゃうしそこから読むとするか。
俺はもう一枚ページを捲って「魔術の基礎知識」という所を声に出して読み始める。
俺は前世でも英単語帳等を声に出して読んだ方が覚えやすい派であったのだ。
「『詠唱について』か、『詠唱とは言葉を通して神に語りかけ、その力の一端を借り受けるための物である』、ふーんなるほどね。じゃあ試しに例に乗ってる簡単そうなやつを……」
俺はてっきり詠唱とは長い言葉をたくさん羅列した物だと思い込んでいたが、この世界だと魔術名を呼ぶ行為その物が詠唱であるらしい。
正直前世で妹二人のために忙しかった俺は、ラノベや漫画、アニメ等は見ていたものの厨二病になる余裕が無かった、まあなろうと思ってなるものでは無いと思うが。
とりあえず口に出そう、じゃなきゃ始まらないしね。
俺はこの世界で魔術が使えないと言われている白色の瞳をしてはいるが、男たるもの夢は抱いてしまう物であり、そう簡単に諦められるわけでもないのだ。
期待に高鳴る鼓動に、俺は深呼吸をして落ち着かせ、その言葉を口にする。
「……
……しかし、何も出なかった。
分かっていたことではあったが、やはり現実は厳しい。
その後俺は何度も姿勢を変えたり、発音の仕方を変えたりと色々工夫を凝らしたものの魔術は発動しなかった。
やっぱり……だめかぁ。
まあまだ使えないとは限らないしな、この世界では白色の瞳をした者は魔術を使えないなんて誰が決めつけたのかとそういう気持ちでやらねばできないだろう。
そういう意味でも気持ちは大事だ。
諦めない、折れないという精神は困った時に力になってくれる。
それに俺はまだ魔術のことを詳しく知らないし、なによりこの本自体まだ少ししか目を通していない。
しばらくは読んで実験の繰り返しをしていた。
やることも無く暇な俺は魔術の研究に没頭したのだ。
本は全部目を通したが、基本的には各属性の魔術の詠唱が載っているだけで何も無かった。
もうちょっと五属性とか五元色の事とか知りたかったけど、その辺は常識って考えなんだろうな。
異世界人には優しく一から教えて欲しいところだが、仕方ない。
それと、ガルアさんから貰ったもう一つの誕生日プレゼントである偽りの瞳のおかげで外出しても大丈夫にはなったが、こんな五歳ばかしの子供が外に出ても危ないだけだと思うため結局誕生日後も変わらず家の外には出ていない。
そして俺が魔術の発見をして十日が経ち、ようやくあることが分かった。
それは体の中にある自分の魔力の存在だ。
適当な詠唱を唱えては色々なポーズをとりまくっていた俺は、体の中の変化にも意識を向けている途中で前世には無かった感覚を感じ取ることが出来たのだ。
俺はそれから魔術を使うことではなく、まず体の中にある魔力を操作することに目的を変えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
誕生日から半年が経った。
外は雪が降りしきっており、俺は一階の暖炉の前で両手を伸ばし、ぱちぱちと火の粉を散らしながら燃える薪を眺めていた。
魔術の事に関しては半年経っても発動しないままだったが、魔力の操作は完璧とは言わずともそれなりにはできるようになった。
その副産物として得たものが魔力を特定の部位に集中させたことによる身体強化だ。
とは言っても、あくまで身体能力の強化に過ぎないので重いものが持てるとか遠くが見える程度だ。
だがこれはどうやら自身の身体能力を上げればその能力の底上げとして活躍するんじゃないかとは思う。
無論すべきことが特に無く暇な俺は筋トレと魔術の研究に勤しんだ。
そんな俺が今暖炉の前で居座っているのはガルアさんの帰りを待っているのだ。
ガルアさんが言うには今日、新しい家族がやってくるとの事だ。
そう、新しい家族。ガルアさんと二人で暮らすのも悪くはなかったが、あの一件で外に出るのに抵抗がある俺は飢えていたのだ「友達」に。
しかし男の子か女の子かは聞かされていない、「それは会ってからのお楽しみだよ」とガルアさんは言っていた、全く意地悪な所もあるもんだ。
別に気にしてはいないからいいけど。
でも、ここって孤児院って割には五年もずっと子供が俺一人だけだったのはなんでなんだ?
この世界に孤児は少ないんだろうか? あるいは……やめておこう。
そんな非道な事はさすがに無い筈だと思い、俺は思考を止める。
なんて色々と考え事をしていると玄関が開き、ガルアさんが帰ってきた。
その脇には俺と同じ年齢くらいの男の子が立っている。
「ニルただいま。留守番させてしまってすまない、紹介しよう。この子が新しい家族のアレスだ、仲良くするんだよ」
ガルアさんがそう言うと、ガルアさんの脇にいた緑色の瞳に紫色の髪をした男の子が前に出てくる。
「俺、アレス。よ、よろしく」
ぎこちなく挨拶をしてくる男の子、アレスに俺は手を差し伸べてにこやかに挨拶を返す。
「俺はニル! これからよろしくねアレス」
アレスは俺の態度に少し緊張がほぐれたのか笑みを浮かべて俺の手を取る。
「アレス、これから私達は家族だ。ニルもお前と同じ五歳だ、どうか二人とも仲良くやって欲しい」
やはりアレスは同い年だったのか。
しかし、アレスは俺の目を見ても驚かないんだろうか。
誕生日に貰った偽りの瞳だが、ずっと付けていると目に違和感が生じるため、家では外しているのだ。
まあ子供だからそのあたりの知識とかを知らないのかもしれない。
それにここ、孤児院に来るってことは俺と同じように何かしらの事情は抱えているはず、ならあまり知られたくない事だってあるだろう。
人間誰しも墓まで持っていきたい秘密や事情はあるものだしな。
こうして今日、新しい家族であるアレスが孤児院にやってきた。