瞳の色で使える魔術が変わる世界で俺は魔術が使えない(らしい) 作:伊地知和義
春の生暖かい風が吹く夕暮れ時、アレスが来てから半年が経ち、俺とアレスは六歳になった。
六歳になった事で俺とアレスは、ガルアさんから孤児院の裏庭で剣術を教わるようになった。
剣術を学ぶことがこの世界では義務教育的な物なのかと思ってガルアさんに尋ねてみたが、ガルアさんがただ教えたいだけだそうだ。
まあ特に断る理由もないし筋トレの一環でなんとなく受ける俺と、やたらと剣に憧れていたらしく快く提案を受け入れたアレスの二人で今は木剣を素振りしているところだ。
あと、孤児院にこんな裏庭があるなんて知ったのはつい最近稽古を始めてからで、それまで外に出なかった俺は知らなかった。
「うん、アレスは飲み込みが早くて助かるよ。これなら私なんかすぐに追い抜いてしまいそうだね」
ガルアさんが笑いながらアレスの背中を叩く。
「痛いなガルアさん……恥ずかしいからやめてよ」
アレスはどうやら褒められることに慣れていないらしく、俺とガルアさんが些細なことでも褒めるとすぐに顔を赤く染める。
だからこうして俺とガルアさんはちょくちょくアレスをからかうように褒めるのだ。
「でもこればかりは普段のからかいで言っている訳じゃないよ。本当にアレスは天才かもしれない……よし! 少し早いが実技に入ろう」
「えぇ!? 」
俺は驚きのあまりに持っていた木剣を地面に落としてしまう。
「そんな驚くこともないだろうニル、お前だって剣が苦手と言う割には上達が早いじゃないか」
「そ、それは……」
口が裂けても前世の記憶があるから多少は理解が早いなんて言えない。
だが実技となると話は別だ、今まで一人でこなしてきた素振りや型などと違って人とやり合うのは難しさが桁違いだ。
それに剣の知識が浅い俺でも分かることだがアレスは剣の才能がある、いや天才と言ってもいいだろう。
とにかく、素振り一つをとっても俺とアレスには雲泥の差があるのにも関わらず実技なんて以ての外なのだ。
「どうしてもですか? 」
「うーん……ニルがそこまでやりたくないのならやめておくとしよう」
俺はその言葉にほっと息を吐く。
だがアレスの態度は俺とは正反対のものであった。
「んだよニル、つまんねーの。もしかして俺に負けるのが怖いのかよ」
口を尖らせて放つアレスの言葉に俺は頭に血をのぼらせる。
「こらこらアレス、そんなこと言ってはいけないよ。そんなにやりたいのならほら、私が相手しようじゃ……ニル、どうしたんだい? 」
「やります……やります! 」
俺とアレスの間に立つガルアさんを押しのけて、アレスの前に出る。
「へへっ、そうこなくちゃ」
「全く困った子達だ……二人とも位置につきなさい」
「うらみっこなしだからな、ニル」
「こっちのセリフだよ、アレス……! 」
俺とアレスは互いに言い合いながら裏庭の真ん中で距離を取って向かい合う。
「いいかい二人とも、相手に怪我はさせちゃいけないからね? 危険と判断したら私がすぐに止めるよ。それでは……始め! 」
ガルアさんの掛け声と同時に俺は体内の魔力を操作して跳躍力と動体視力を強化するのに対し、アレスは俺に真っ直ぐ木剣を振りぬこうとしている。
おかしいだろ! なんで動体視力強化してもこんな速いんだよ……!
俺は強化した跳躍力でアレスの間合いから外れるため、後ろへ跳ぶ。
直後、アレスの鋭い剣筋は空を切った。
よ、避けた! けどこれじゃ逃げ回るだけで勝ち目がない、どうすれば……。
「またそれ? 逃げてちゃ勝ち目がない……よっ! 」
アレスが俺の方まで勢いよく踏み込んでくる。
問題無い、後ろにまた跳べば……あれ、柵? もうそんな後ろまで……。
後ろの木の柵に気を取られていると、アレスはもう上から下へ剣を振り始めていた。
「どりゃぁぁ! 」
「ぐっ……! 」
俺は木剣を両手で支えて必死にアレスの剣筋に耐えるが、絶望的な状況のままだ。
「もう、あきらめなよ」
「うっ……負けて、たまるか! 」
俺は腕に魔力を回して身体強化をするが、今度は疎かになった足が震え出す。
ダメ……か。
「そこまで! 」
俺が両膝を地面につけた瞬間ガルアさんが止めた。
「はぁ〜、挑発に乗らなきゃよかった……」
「えへへ、俺の勝ち! 」
そう言ってアレスは膝を地につけた俺に右手を差し出す
アレスに負けて悔しさはあったが、俺の今できることは全てやった、だからか清々しい気持ちもあった。
俺はアレスの差し出したその手を、右手で掴んで立ち上がる。
「やっぱりアレスの剣さばきは素晴らしいね、ニルも魔力の身体強化の精度が上がったかな? 全く凄いことだよニル。単純な全身の身体強化はアレスだってできる、だがそこまで緻密に体内の魔力を使い分けて身体を強化する奴は俺でも見たことがない。アレスは剣の天才、ニルも将来的には『白』でありながら魔術の天才になり得るかもしれない、二人とも自慢の息子達だよ」
そう言いながらガルアさんは両手で俺たちを抱きしめる。
「く、苦しい……」
「や、やめろよこのクソガルア! 」
「こらアレス、『クソ』は使っちゃいけないと言っただろう? 」
アレスがガルアさんの腕をぺちぺち叩くがガルアさんはビクともしない。
にしても「クソ」はないだろ……。
アレスと半年過ごして分かったことは、その辺の常識等を教育されていないのか知らないが、良くない言葉遣いをすることがある。
俺やガルアさんと過ごしていくうちに段々と減ってきてはいるが、たまにこうして出てしまう時がある。
「さてと! もう外は暗くなってきたし夕飯の支度をしなければいけないね」
その言葉を聞いたアレスはお腹を鳴らした。
「おやおや、アレスは随分と正直だね」
ガルアさんの言葉にアレスは顔を赤くする。
「フン! 動いたらお腹は空くだろ……」
「ガルアさん、僕もお腹が空きました」
「そうか、では早く中に入って手を洗いなさい。そうしたら夕飯の時間だ」
そうして俺達は孤児院の中に入って行った。
その日の夕飯は、何故かいつもより美味しく感じた。