見切り発車なのでどうなるかはわかんない。
前略、俺……もとい私は、ぼざろ世界に転生した。以上前書き終わり。
さぁ、ぼざろ世界を楽しむぞぉ!
……と。
流石にそんなんは認められないと思うので、ちょっとだけ私のことを話しておこうと思う。
超どうでもいいと思うんだけど、というか私からしても超どうでもいんだけど、まぁこういうのは通過儀礼みたいなもんだ。
少々お時間をいただくこと、お目汚しすることを許してほしい。
私の名前は
転生者だ。それもTS、前世は男で今世は女なタイプ。
なんか生まれてすぐ後から明確な意識があって、前世のこともしっかりと覚えていた。
前世ではオタクだったのですぐさま「あ、これ転生だ!」と察しが付いて、バラ色のチートライフにドキをムネムネさせてたんだけど……。
現実はそう甘くなかった。
私、チートとか持ってなかったんだ。
なんでだよ。せっかくの転生なんだからチートあれよ。私はそう言いたい。
あるのは前世の知識だけで、まぁこれはこれで十分チートって言えるだろうけどさ。
現代に生きてりゃ大半の日本人はガチガチに知識を溜めこむもの。それをガキの頃合いに振るえば、あるいは天才だ神童だと讃えられてもおかしくはなかっただろうけど……。
結論から言うと、私はそうしなかった。
なんでって? めんどくさいからだよ。
どうせ現代での知識チートなんざ、周りのガキが成長する毎にアドバンテージがなくなっていく。
しかもそこで得られるのは金でも立場でもなく、ただちっさい集まりの中で威張る権利だけ。あまりにもリスクとリターンが釣り合ってない。
無理に見栄張って対抗してくる可愛いロリショタの諸君をわからせたくなる程に大人げなくもないしな。
……それに。
変に異常だと思われれば、最悪排斥される可能性もあるしな。
そこで莫大な利益が発生するんなら話は別として、怠惰な私は原則として、穏やかで安定した生活を望んでいるのだ。
不労所得を得る方法はいくつでもある。
真面目に生きる気力もないし、いい感じに仕事せずに生きていきたい。
そうして幼い私は、できるだけ目立たず、でも前世の知識も程々に使って、あんまり苦労せず暮らしていこうと決めた。
そう、決めた……ん、だが。
世界は、私を放置してはおかなかった。
いや、正直ね? 「なんかおかしくない?」とは思ってたんだよ。
私の髪が日本人としては珍しい薄めの茶色だったり、他の子もどことなく非現実的な、でも何故かあんまり目立たない地味な色してたり。
確かに男もいるんだけど、何故かあんまり視界の中に入ってこなかったり。
ついでに言うと、なんか1回メスガキ(生意気な意味じゃなく、普通にロリ的な意味で)に変に慕われて、それっぽい空気になったこともあったし。
あ、勿論その時は華麗に回避しましたよ。もっとおもしれー女になって出直してこい。
総括すると……。
あれれ~? おっかしいぞ~? なーんかこの世界、変に百合百合しくない? って感じだった。
それを疑問に思いながらも、取り敢えずそんな世界に順応しようと頑張っていた……いや頑張る気力もなく怠惰に過ごしてきた小学校5年間。
そろそろ退屈だった小学校も終わりか、とため息を吐いていた頃。
私はようやく、この世界の真実を知る。
その日は新学期、4月5日。綺麗に桜が咲いて……いたんだけど、前日の大雨でぐっしょぐしょに散華していたのを覚えている。
そんな日に私は「はーまたクラス替えかめんどくせー」と、物憂げな少女(笑)を演じて窓の外を眺めてたんだが……。
ガラリと扉が開き、その子が現れた瞬間。
世界が、色付いた。
いや、別に私が惚れたとかじゃなくて、本当に。主に髪の色的な意味で。
そうして彼女は……。
「喜多いくよです! 喜多ちゃんって呼んでね!」
自己紹介を終えて、にっこりと……擬音で表すなら、「キターン!」って感じの笑顔を浮かべたのだ。
は?
「喜多ちゃん!?!?!?」
「えっはい! 喜多ちゃんだよ……うわ、すっごい可愛い! あなたお名前は!?」
つまりはこれが、私がこの世界を「ぼざろ世界」であると気付いた瞬間であった。
* * *
ぼざろ、もとい「ぼっち・ざ・ろっく!」。
これは、きららで連載されていた漫画の名前だ。
前世でアニメ最終話まで見終わった後、フラッシュバッカーをキメながら漫画を読み漁ったので、私はこの作品をよく知っていた。
主人公であるコミュ障ナメクジ後藤ひとりの、バンドを通して成長してるようで成長しない、でもちょっとだけ成長するお話だ。
この後藤ひとりというキャラクターがめっちゃクセモノで、コミュ障はコミュ障でもどちゃくそ拗らせてるロックのやべー奴なんだよね。友達を作ろうとしても他力本願、少し刺激があればカタツムリみたいに自分の殻に閉じこもるという、本気で社会性がない、ガチの『ぼっち』だ。というかそもそも人外で、気軽に溶けたり胞子になったりする。これが描写上の表現とかじゃなくてガチで起こってる物理現象っていうのがもうキャラ立ってるよね。きららの主人公でこんなんいていいのか? でも個人的にはそんな後藤が実は美少女だったりおっぱいでかかったりギターがクソ上手いというギャップが天才最高100万点。ぼっちとして鬱屈とした感情を抱えてたからこそ虹夏とか喜多ちゃんに向ける想いが重い(激ウマギャグ)女、だけど公式がノンケであると明言している悲しき存在でも……あ、もういい? そう……。
じゃあとにかく、後藤ひとりはクソ陰キャでギターがアホ上手いってことだけは覚えて帰ってほしい。
別にテストには出ないけど、オタクは好きな作品を知ってもらうと嬉しいので。
で、そんな後藤が組む……というか流れで加入することになるガールズバンド「結束バンド」。
作中では激寒ギャグみたいな扱いをされてるけど個人的には最っ高のネーミングだと思うこのバンドに、途中で加入してくる……いや戻って来る? のが……。
小学5年生の私が出会った、レッドヘアーガール、喜多郁代だった。
喜多郁代。
後藤を最底辺の陰キャとするなら、喜多ちゃんは最高峰の陽キャだ。
彼女はゴリゴリの陽キャだけど嫌なヤツではなく、けれど同時に陰キャへの無理解とか自然と放つ陽キャオーラで後藤を何度も殺したことのある恐るべき女である。いや何度も殺すって何? 本質的に生物は1度しか殺せないはずなのだが、何故か後藤には無数の命があるためにこの言葉が成立してしまっている。キルレで見ると結束バンドナンバーワンかもしれないね。何言ってんだコイツと思われるかもしれないが、ぼざろとはそういう世界なのである。しかしそんな大立ち回りを見せながらも、彼女には本質的に悪意がなく、特にアニメ版ではどちゃくそ聖人になっている。原作? まだ知り合ってもない頃から後藤はゴミ箱の中かもしれないと思って蓋を開けてるよ。話を戻すと彼女は「オタクに優しいギャル」よりは僅かに存在確率が高いと言われる「陰キャに優しい陽キャ」であり、割とアレな出会い方になってしまった後藤に対しても優しく、むしろ彼女にギターを教わろうとするという……あ、もういい? うるせぇ? ごめんね。
じゃあ、喜多ちゃんのことは……面食いの陽キャガールだと思えばよろしい。
悲しいことに、結束バンドに入ってない頃の彼女は、まだそれだけの女の子だ。
* * *
それで……えーっと、あー、何の話だっけ? オタク特有の早口に集中して、話の内容忘れちゃった。
あー、えっと、そう。
小学校で喜多ちゃんに遭遇した、ってとこまでだっけ。
そう、私は喜多ちゃんの存在を知った。
喜多郁代という名前、世界っていうキャンバスに唯一落ちて来た絵具のように鮮やかな赤髪、あの「キターン!」とした雰囲気。
間違いなく彼女は、喜多郁代だ。より正確に言えば、あの高校1年生であった喜多郁代の幼体である。
彼女の存在を知ってようやく、私はここがぼざろの世界だと知ったわけだ。
言われてみれば納得だ。
この「主役を食わないように調整されてる」って感じの地味な髪色の多さ。それでいながらどことなく髪色とか顔面偏差値が非現実的になってること。
男が確かに存在するのに、敢えて意識を向けようとしない限りあんまり目に入ってこないこと。
なんか妙に女の子同士が睦まじいことが多くて、ぶっちゃけ若干貞操の危機を感じることさえあること。
そう、ここがぼざろ世界……というかきらら世界であると理解すれば、なるほどと頷けるのである。
もしかして私がTSしてしまったのも、このきらら的世界観に適応した結果なのかもしれない。自我を持った男が侵入していい世界じゃないしね。
「いやでもお前元男じゃん」とお思いかもしれないが、そこに関してはご安心を。私はすっかりこの体のホルモンに飼いならされてしまい、もう
むしろちょっと気を抜くと男を目で追ったりしてるわ、はは。死にたい。
……さて、閑話休題。
ここで1つクエスチョンと行こう。
転生者が大好きな作品の世界に転生しました。
時系列はメインキャラたちと同じで、現在は本編開始の約5年前とします。
その時、転生者はどうするか答えなさい。(20点)
答え。
「うおぉああぁあああああ!! 努力ゥ! 未来ィ! ビュティホゥスタァッ!!」
「あめんぼあかいなあいうえお、かきのきくりのきかけっ……かきくけこ」
「あぁクソ、地理だいぶ飛んでるな……県庁所在地すら思い出せない」
自分磨き。
私はそれから5年間、筋肉を付けたり、発声と活舌を鍛えたり、頭から抜けてた勉強を叩きこんだりした。
あとは表情の動かし方とか人とのコミュニケーションの取り方の勉強もしたり、心理学とか哲学を齧ってみたり、完全に放棄してたお化粧とか髪の手入れについて母から教えてもらったり。
私はとにかくひたすらに、ひたすらにひたすらにひたすらに、自分磨きを続けた。
家族はそんな私に怯えたような視線を向けてきた。というか、知り合いの霊媒師を紹介するとか言ってきた。この世界じゃ霊媒師ってメジャーな職業だったりする?
それでもこんな変な子供を見限ることなく育て続けたあたり、きららユニバースの優しくたくましい両親である。
家族たちには感謝しかない。ここまで苦労をかけた分、家計に貢献したりして、少しずつ恩返ししていく予定です。
「81……82……」
「はぁ……ふぅ、4合目ぇ……肺活量は伸びてきてるかな」
「Go for it! Everyone is waiting for your……あー、incredible announcement!」
「えっと……先行者利益があるから、巨大資本突っ込んで、めちゃくちゃにしてやる、と。……いやその資本があれば苦労はしないが……?」
まぁとにかくその5年間、家族に何と言われようと、私は研鑽をやめなかった。
学校ではハンドグリップとか握ったりして、週末になれば山に登り、親の許可を得て水泳とか英会話に通ったり、これまでは隠してきた頭脳で株とか投資とか金稼ぎの勉強もした。
執拗に、どこまでも、ひたすらに。
私は私という存在を磨き上げる努力を怠りはしなかった。
ただ1つ、とあるジャンルにだけは決して触れなかったけど、それ以外の分野は……まぁ、この5年でだいぶ習熟したと思う。
そうして私は、あの時を迎える頃には、かなりのハイスペック少女となっていたのだった。
……え?
なんでこんなに自分を磨くかって?
そりゃお前、決まってんだろ。
このぼざろ世界を、誰より楽しむためだよ。
* * *
さて、私の話なんてこのあたりでいいだろう。
私はこの世界に生まれ付いた漂流者、決して主人公ではない。
というか、この世界の主人公はあの子をおいて他にはいないし。
脇役のサイドストーリーを語る回も悪いとは言わないさ。殊にそれがバンド随一の常識人でありママであった女の子の悲しい過去とかだと、涙腺が破壊され涙が止まらずそのまま干からびてしまうくらいだ。
だがそれは、あくまでその子が超絶人気キャラかつどちゃくそキャラが立っているから映えるのである。
私は何の変哲もないキャラ……ではないか転生者だし。まぁでも、人気のないサブキャラであることは間違いない。
そんなヤツのサイドストーリーとか冗長でクソ興味も湧かん。前世の私なら1話切り確定である。
そんなわけで、さっさと時間をすっ飛ばしてしまおう。
具体的には、5年くらい。
あの赤色の出会いから、実に5年後の4月6日。
私こと灰炉茶子は15歳となり、今年から晴れて高校に入学することになった。
今日から取れたてピチピチの高校1年生だ!
そんなわけで、私は堂々と校門を潜り。
「こんにちはぁ、マスクのお嬢さん、誰かの妹さんかな?」
「ピチピチの高校生じゃボケ張っ倒すぞ」
「えっ、あ、ごめん……」
人様の体に文句を言ってきたクソ馬鹿を中指と言葉の暴力で撃退しながら、校舎へと向かった。
あー、135センチで成長の止まったこの体が憎い。
胸も小さければ顔も童顔のままで、確かにパッと見ただのロリ。それも小学3年生くらいのガチロリだ。
なんでこんな状態で成長止まっちゃったんだろうなぁ。
確かに人一倍成長の遅い方だったけど、完全に止まってしまったのは……あ、ちょうど喜多ちゃんに会った時くらいか。
……あ。
もしかしてあれか、あの時から積んできたトレーニングで、なんか体に過度なストレスとかかかっちゃった感じか。
うわ、失敗した。後藤レベルとは言わないまでも、せっかく女に生まれたなら胸が大きすぎて肩がこるって体験してみたかったのに。
ま、まぁいいや。
後悔先に立たず、覆水盆に返らず、死者前世に戻らず。
過ぎてしまったことは気にせずに行こう。
「こんにちは、もしかして迷子かな?」
「そうやって見た目で人を判断するのやめてもらえます? 高校生なんですけど? それで傷つく人もいるんですよ?」
「あ、ご、ごめんね……」
マジで煩いわクソが。
割と気にしてるんだから黙っとれ。……黙ってください、お願いします。
* * *
いまいち払いのけにくい善意の手を切っては捨て切っては捨てし、クソ程中身のない入学式を髪をイジって聞き流して。
そうして、私はようやく、宿願の時を迎えた。
入学後のホームルーム。
つまりは、新たな級友たちとの自己紹介の時間である。
赤井だの青木だの大森だのが新生活に向けて気合の入った挨拶をしているのを聞き流しながら、私は少なからぬ感慨に浸った。
……ここまで長かった。
5年間。丸々5年間を使って、ようやくここに辿り着いた。
お父さんに無理を言ってお金を貸してもらい、ちょっとだけ危ない方法で元手を増やして、安全性と将来性のプランニングして、お父さんとお母さんを説得し、トレーダーに話を持ちかけて、前世の記憶から照合して将来性のある企業の株を父名義で買ってもらい、デイトレードも始め、時に失敗しながらもとにかく資産を増やして……。
そうして、普通に受験してこの学校に受かった後、理事会の方にちょーっとお話を通して。
私は私の力で、なんとかこの場所に辿り着いた。
彼女の、2つ左隣の席に。
はぁ、胸が高鳴る。まるで初恋みたいだ。
私、前世も含めて恋ってしたことないんだけど、多分したらこんな感じなんだろうな。
胸と頭が無限に熱くなる。でも対極的に、手足の指先は冷たくて動かしにくい。口の中がカラカラで、喉の先まで痛いくらいだ。
それでも努めて無表情を保ち、私は順番を待ち続け……。
そうしてついに、その時が来る。
この空間で唯一色付いた少女が、口を開く瞬間が。
「じゃあ次、えー、後藤さん」
「あっごっ、はっはい」
呼ばれた彼女は、がたがたごっとんとひっどい物音を立て、そして途轍もなくどもりながら、慌てて立ち上がる。
私は満を持して、千切れそうなくらいに吊り上がる口角を全力で抑えながら……右を見た。
そこには……。
キュービィロップみたいな髪飾りで一房まとめた、目に痛いくらいのピンクの髪を伸ばし。
私服もアリとはいえ原則制服の高校で、入学式初日から平然とピンクのジャージを着た。
とんでもなくキャラの立った……最高にロックな少女が、立っている。
「あっえっどぅへ、あ、後藤です、あ、ひとり、後藤ひとりですぅ……。え、ロック、へへ、ギターやって……はい……」
……っすぅ~~~~~~。
はぁ~~~~~~っ……。
あー、へへ、あぁ~~~~~~~!!
後藤がいる~~~~~~♡♡♡
後藤、後藤様だ! 後藤ひとり様だぁ~~♡
「へ、へへ、気軽に……あ、ない、おぇ……は、はい、死にます……」
あー間違いない、この自己完結してる感じ♡ 人間じゃないのにヒューマンエラーの塊♡
間違いなくモニタの前で、そして紙の上で見ていた、後藤ひとりそのものだ……!!♡♡
多分軽快に名乗った後ギターやってますってカッコ良く宣言し、バンド女子にきゃー後藤様抱いてーとか言われてるって妄想してたんだろうなぁ♡
そして気軽にあだ名で呼んでくださいとか言おうとしたけど、これまで1件たりともあだ名を付けられたことがないことに気付いて絶望したんだろうなぁ♡
そして絶望のあまりスライムみたいにどろっと溶けて、机周りをぐちゃぐちゃにしてしまってるんだねぇ♡ そんなことすればクラスの皆から引かれるだけだろうになぁ♡
あ~~~~推せる。マジで推せる。こんな子があんなにカッコ良くなるってマジ? 逆詐欺だろこんなもん。逆クーリングオフってできます? 分裂とかできそうだし、1人くらい持って帰ってもバレないでしょ、というかお持ち帰りしたい。でも後藤はみんなのものなので、1人で占有するなんて不埒なことはできやしない。なのでこうして眺めるしかないワケなのですクソがよ。
はぁぁぁあああああ~~~~……ホントコイツ……だいしゅき。可愛すぎ100億点。ちゅっ♡
……などという内心は隠して。
歪みまくる表情も無理やりに抑え込み。
私は周りの生徒たちと同じく、ちょっと引いたような感じで、軽ーく拍手するに止めた。
ごめん。
本当にごめん、後藤。
すごく心が痛い。痛すぎて裂けそう。というかもう裂けそうなくらいに心臓は高鳴ってる。いやこれはただの興奮だわ。
1人のファンとして、君のことを好きな人間として、私は君に全力で拍手したい。
なんなら有り余る財産でフラッシュモブとして雇って、このクラスの30人で万雷の拍手を贈りたい。
でも、それはできない。
だって私は
何より、ここで拍手されるような後藤ひとりは……きっと「ぼっちちゃん」にはならないから。
「…………ッ」
堪えろ、堪えろ私……! 欲望を抑え込むんだ。あの滝行の日々を思い出せ、精神集中……ッ!
駄目なんだ、後藤にはここで「友達ほしいパワー」や「認めてほしいパワー」を溜めてもらわないと困る。
そうじゃないと、あの運命の公園で、彼女のヒーローの手を払いのけてしまうかもしれない。
それだけは、絶対に許されない。
あんな美しい物語が楽しめなくなるくらいなら、死んだ方がマシだ。
あーでもキッッッツい!! 甘やかしたい!! でろでろに溶けるくらいにドチャクソ甘やかしてあげたい!!!!
クソ、駄目だ、ここで動いたら私の5年間が……生まれて来た意味がァ……!
「あー、終わり?……はい、じゃあ次、佐々木さん」
私がなんとか欲求を心の底に封じる内、教師はなんとか先に行ってくれた。
後藤は……まだ溶けたままみたいだけど、取り敢えず拍手をする機会は過ぎ去ったらしい。
良かったぁ、あと5秒遅かったら脳の血管ブチ切れてたわ……。
あー、死ぬかと思った。
いくら体を鍛えたって、心は極まらない。こんなとこで我慢のあまり憤死なんぞしたら笑いものにもならないっての。
流石は後藤、たった1度の行動で私をここまで追い詰めるとは、げに恐ろしき女よ……。
「次、えー、灰炉さん」
荒れた心臓を落ち着けている内、教師が私の姓を呼んだ。
ちらと横を見ても……勿論、後藤は溶けたままだ。
私のことなんて見てやしないだろう。というか多分、クラスメイトのことなんか、最初から見てはいないと思う。
後藤ひとりは、恐らくクラスメイト1人1人の個性というものを認識していない。私だろうが、1つ前の席の野田だか野村だろうが、ひとくくりに「クラスメイト」なのだ。私も後藤以外は認識してないし人のこと言えないけども。
だからある程度安全ではあるんだけど……それでも、万全には万全を期し、しっかりと演技をしなければ。
私は一息だけ呼吸を置いて、静かに立ち上がる。
「あー、灰炉茶子です。マスクは気にしないでください。趣味は……人間観察かな。よろしくお願いしまーす」
さぁ、ここからだ。
灰炉茶子の望んだ、ぼっち・ざ・ろっく! 世界を最高に楽しむ物語が、ここから始まる。
転生者ちゃん
名前は灰炉・茶子(はいろ・ちゃこ)。
高校1年にして135センチくらいのロリ体型。でもロリって言うと、とても怒る。
髪は薄い茶のボブ。顔は可愛い方だが、いつもマスクをしているため、あまり知られていない。
いつも無表情なためクール系ロリだと思われやすいが、口を開けば罵詈雑言が飛んでくる。とても口が悪い。性格も悪い。
割とヤバめのぼざろ信者。ぼ虹ぼ喜多ぼリョウリョウ虹ぼ星ぼ廣、全て雑食かつリバ可だが、男を入れるのだけは地雷。ぼっち本人がノーマルであるという、公式との解釈違いに苦しめられている。
(追記)
誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!