ぼざろ世界を全力で楽しみたい転生者の話   作:アリマリア

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ただし、その行動は黒寄りのグレーであるものとする。

 

 

 

 後藤の初出勤、前日。

 

 あんまり後藤との接触を増やしたくはないんだけど……。

 差し当って危急の問題を解決すべく、私は放課後、机の上でスライムになっていた後藤に声をかける。

 

「後藤」

「あっ、へっ、はっ……はいぃ……

「そんなにビビらなくていいよ。明日からバイト、一緒に頑張ろうね」

「アッソウデスネ、ガンバリマス」

「うん。初日からサボる言い訳を作るために風邪を引こうとして、氷風呂に入るとか、下着あるいは水着姿で扇風機の前でギター弾くとか、間違ってもしちゃダメだからね。体を大事にしてね」

えっ!?!? いっいやそんなことしっしませんよォ……! ハハハ、ハァ……」

 

 釘刺し、ヨシ!

 いやスライム状の生物に釘を刺しても効果はないだろうけども。

 

 原作ではこの後、後藤が前述のとんでもない奇行に走り、バイトそのものには出ることができたものの明後日から3日間をお布団の中で過ごすことになる。

 推しには健やかな生活を送ってほしい系転生者である私からすると、当然ながら本意でない展開だ。後藤には健康に、そして幸せに生きてほしい。

 どうにかこの奇行を止め、健康なままに明後日を迎えてもらいたいわけだ。

 

 

 

 ……いや、待て。

 わかる。言わずともわかるさ、同志。

 

 後藤はそういうところでトチるからこそ可愛い。ダメダメだからこその後藤。ポンコツにあらずんば後藤にあらずと、そう言いたいんだろう?

 

 全く以て同意である。

 やっぱり後藤と言えばアホみたいなミス、そういうところで面白ポイントを稼いでもらいたいという想いは、確かに私の中にも存在する。

 

 だが……それはあくまで、創作上で後藤を見ていた場合の話だ。

 現実で推しを観測すると、ちょっとばかり意見も変わる。

 

 ぶっちゃけキャラクター性とか二の次なんだよ!

 推しにはとにかく幸せに、満ち足りた生活を送っていてほしい! 生を楽しんでほしい!

 プロのアーティストでもいい、バンドマンでもいい、ライブハウス店長でもアルバイトでもVtuberでも三流記者でもなんでもいい!

 とにかく彼女たちには、やりたいことで生きてほしいんだ!!

 

 この世界で、後藤を筆頭とする推したちが生きて、話して、笑っているところを見ると、私はどうしてもその想いに駆られてしまう。

 

 でも、それでいい。

 それが、私なりの推し活なんだから。

 

 だから後藤にも……たとえそれが、軽い原作ブレイクになるとしても、健康であってほしいんだ。

 

 

 

 と、そんなわけで。

 私は後藤の風邪で土日壊滅ルートを阻止するため、釘を刺しておいたわけだ。

 

 いやまぁ、後藤が私の言葉を聞いてくれるかはわかんない……というか、モブなんかの話を聞くわけがないとは思うんだけども……。

 

 たとえ達成できる可能性が低いとしても、努力しない理由にはならないからね。

 私は私にできることを、コツコツやっていこう。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ところで。

 最近、私は多くのミスを犯したと思う。

 

 殊に大きくて取り返しの付かないミスと言えば……。

 やはりこの前、STARRYの前でぼっち・ざ・だんす! していた後藤に話しかけてしまった点だろう。

 

 冷静に判断すれば、あの場では静観が正解だった。 

 バイトに遅刻すると言っても致命的なラインになるとまでは思えなかったし、後藤と話せば私の口から賞賛の言葉が漏れてしまい、結果として多くの時間を使ってしまうというのは想像に難くない現象。

 であれば、素直に待機して虹夏ちゃんたちの到着を待った方が、より良い選択肢であると言えただろう。後藤に個別認識されにくいしね。

 

 あれは、致命的とは言い難いが、私らしくない凡庸な判断ミスだった。

 恐らくは、最近推しを近くで観察することができたが故に、気が緩んでしまっていたんだろう。

 

 もう2度と、あんなミスを繰り返すわけにはいかない。

 私はモブとして、彼女たちの活動を近くで見守る。これは絶対的な指針なのだから。

 

 

 

 そんなわけで私は……。

 その日、学校をサボって朝からバイトに行くことにした。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「ふんふんふんふーん、ふふーんふふーんふふーん、ふふふーんふふーん……♪」

 

 STARRYの裏、楽屋の床をモップでゴシゴシ擦りながら、私は軽く鼻歌を奏でる。

 

 今日はついに、ついに後藤の初バイトの日!

 結束バンドが結成した日、後藤が自分からここに来た日と並んで、後藤が初めて自分から1歩を踏み出すというスーパー記念日だ! 最初に、押し入れの暗闇だけがあった。その中から、原作者先生(かみ)は後藤に1歩を踏み出させた。よってこの日を休日とし、あらゆる民が後藤の勇気を讃えるものとする。これが旧約ぼっち・ざ・ろっく! に語られる天地創造である。ゴトウ・エレイソン。

 

 

 

 「ぼっち・ざ・ろっく!」箱推しを自負する私だが、その中でも一等お慕い申し上げているのは、やはり主人公たるぼっちこと、後藤ひとりだ。

 

 完全無欠でもなければ前向きでもなく、人と関わるのが好きでもない。

 ギターが上手い以外に良いところを探そうとすると難しいけど、駄目なところを挙げようとすると噴水みたいに湧き出て来る。

 

 そんな、それこそどこにでもいる村人Aのような人間で……。

 けれど、いざという時には誰よりも、唯一無二の星のように輝く。

 

 そういうギャップに、どうしようもないくらいに、ハートを撃ち抜かれてしまった。

 

 好意とか恋愛とか、そういうんじゃなくて、もっと単純明快に……。

 なんというか、「あぁ、こんな主人公がいるんだ。いていいんだ」って、スカッとしたような気分になったんだ。

 

 ……要は、自分でも気付かなかった性癖にぶっ刺さったわけよ!

 カッコ付けたけどやっぱただの好意だったのかもしれんわ、うん。

 

 でも恋愛ではないだろうな。やっぱり後藤の恋人は結束バンドの誰かか、あるいは星歌さんか廣井がいいし。次点でヨヨコとぽいずん。ちなみに1号さん2号さんは浮気相手。でも個人的にはハーレムも可だ。後藤愛され最高♡ ただ後藤ってああ見えて真面目で律儀なところあるし、積極的に浮気はできないだろうなぁ。だからこそ相手の方から誘惑するシチュが映えるんですけどね! 「ひとりちゃん(ぼっちちゃん)、私じゃ駄目……?」「だっ駄目じゃない、ですけど……」「お願い、今日だけでいいから……」そんな感じで彼女がいながらも誰かと爛れた関係を持ってしまったことで汗だらだら垂らしながら作画崩壊する後藤に対し、ちょっと怒るけど「……ま、惚れた弱みってヤツか」みたいな感じでなぁなぁで受け入れてしまう本妻。そして勢いそのまま後藤のハーレムがどんどん拡大していく。けど最終的には毎日を彼女のケアに費やすことになり、「とほほ~、ハーレムはこりごりだ~!」って感じのオチ。そんな二次創作希望。誰か書いて♡ 書け(豹変)。

 

 ……あれ、何の話だっけ?

 

 あぁそう、私が後藤に惚れこんじゃったって話ね。

 

 後藤すきぴ♡ になって、本気で「ぼっち・ざ・ろっく!」という作品に向き合っていく内、私はどんどん沼にハマっていった。

 メンバーの中でも頭1つ抜けて等身大で、夢に向かって頑張り続ける虹夏ちゃんを応援したくなり。

 クール系に見えて超絶可愛い末っ子気質、甘え上手で実質ロリな山田を甘やかしたくなり。

 ああ見えてちょっとやべー喜多ちゃんは……一定の距離を保ちつつ、外からゆったりと見守りたくなり。

 

 そして何より……。

 後藤と結束バンドの、これから歩んでいく道を、ずっとずっと見ていきたくなったりしたわけだ。

 

 そういう意味において、今日はすごく、すっごく大事で楽しみな1日である。

 そりゃあ私のテンションも上がっちゃうってものなわけよ。私の気分が有頂天。メイン主人公来る! これで勝つる!

 

 

 

 そんなわけで、我ながらちょっとイマイチな鼻歌を鳴らしつつ、バイトの清掃に勤しんでいると……。

 背後から、もう聞き慣れた声がかかった。

 

「ご機嫌だな、不良高校生」

「あっ、店長、お疲れ様です。……いや、1度サボっただけで不良というのも語弊がありますけどね」

 

 ちょっと面白そうに話しかけてきたのは、このライブハウスの店長である星歌さん。

 「学校サボったので、早くからバイト出ていいですか?」という私の我がままを聞いて、朝から私を受け入れてくれた優しい優しいお姉さんである。

 

 下手くそな鼻歌を聞かれてしまったのはちょっと恥ずかしいけど……それよりもやっぱり顔の良い推しに会えた喜びの方が強い。

 今日も今日とて星歌さんはキュートでビューティフルなパーフェクトフェイス。顔良すぎ♡♡ (後藤を)抱いて♡♡♡ でも実際に手を出すところを想像すると犯罪臭がすごい。後藤絶対抵抗できないだろうし。

 

「チャコちゃんも学校サボったりするんだなぁ。なんだかんだ真面目な印象あったんだけど」

「真面目……だとは思いませんけど、両親に悪いので、あんまりサボったりしたくはないのは事実ですね」

「したくはない? んじゃ、今日はなんでしたの?」

「んー……したくはないけど、しなきゃいけなかった、みたいな感じでしょうか」

「なんじゃそりゃ」

 

 星歌さんは呆れたような目でこっちを見て来る。

 

 むっ、なんだその目は。こっちは知ってるんですからね? 星歌さんだって結構アレな大人じゃないですか。アレ仲間ですよアレ仲間。うわ推しと仲間とか嬉しすぎて破裂しそう♡

 

 ……今日学校をサボったのは、単純にぼっち・ざ・だんす! に巻き込まれないための対策だ。いや、今日はダンスしなかったと思うけども。

 

 原作における、後藤のバイト初日。

 彼女は今日も今日とてSTARRYに入ろうとして勇気がわかず、ドアノブを握ったままうごかないせきぞうと化し、そこを星歌さんに目撃されるというイベントが発生する。

 これが、後藤と星歌さんの馴れ初めだ。

 

 冷静に考えると、この時の後藤って結構不審だと思うんだけど、よくあそこまで気に入られたよね。これぞ後藤の魔力。彼女に魅入られるのは私も体験済みなので、星歌さんの気持ちはよーくわかるよ。でも同時に私はあなたにも惹かれてるんですけどね!! しゅき♡

 

 閑話休題。

 そんなわけで、入り口で起こるエンカウント。

 前回のように、その場に出くわすわけにはいかない。私は同じ轍は踏まない転生者なのである。

 

 だが同時、アルバイトには出なきゃいけないし、ああ見えてSTARRY入口周辺は隠れる場所が少なくて、安全に彼女たちを観測するのも難しい。

 

 そんなわけで私は、しかるべき対策を取り、彼女が来るよりも絶対に早い時間からこのライブハウスに入っておいたわけだ。

 

「で、そんな不良はなんでご機嫌なの」

「だから不良では……いや、もうそれでいいですけど」

 

 星歌さんはニヤニヤしてるけど……実際この世界で、学校をサボった程度で不良扱いされるかは微妙なところだ。

 朝早くに起きれなかったから高校中退する人がいる世界だからなぁ……。

 

 それはさておき、機嫌が良い理由。それはとっても簡単だ。

 

「そりゃ、アルバイト仲間が1人増えますからね。嬉しいですよ」

「虹歌が言ってた新しいバイトの子か。私は見たことないけど、そんな良い子なの?」

「見たことはあると思いますよ。あの完熟マンゴーの中の子ですし」

「あー、あのあんまギター上手くない子か」

ぶっ!! ごほっごほっ!」

「チャコちゃん!? おい、大丈夫か!?」

 

 せっ、せせ、星歌さんが!?

 後藤のギターを!?

 上手くないィ!?!?!?

 

 ……あぁいや、そっか。

 そういえばそうだったわ。忘れかけてた。

 

 

 

 現時点で、星歌さんはソロの後藤ギターを……ギターヒーローの演奏を聴いていない。

 本編でもギタ男*1が「ソロ弾きは最強でも、バンドになるとミジンコ以下、最弱になるのだ!」と語った通り、バンドの中の後藤は……多分、ド下手クソだ。

 

 具体的に言うと、1度合わせた際、あの虹夏ちゃんが一切躊躇なく「……ド下手だ」って言っちゃうくらいには下手。

 ……いやそれどんだけ下手なの? 虹夏ちゃん、ほぼ素人でも「うーん、伸びしろアリ!」とか言ってくれそうなイメージあるんだけど。アレか、技術はあるのにセンスが壊滅的だったとか?

 

 音楽は門外漢の私だけど、「突っ走っちゃう演奏」らしいから、リズムがとんでもないことになってるんだろうなーってのは想像に難くない。

 実際初ライブの時は、それはもう走りまくって虹夏ちゃんを振り回してたし。もし正式に付き合うことになっても、そんな感じで無自覚に後藤が虹夏ちゃんを振り回しちゃうんだろうなぁ♡ 虹夏ちゃんはホント苦労人だ。でもそんな苦労が楽しいんだよね♡ 知ってる♡

 

 で、もしもその初ライブを見ていたのが廣井師匠(別に師匠ではない)であれば、あるいは後藤の奥底に眠るヒーローに気付いたかもしれないけど……。

 文化祭ライブとかでもわかるけど、星歌さんは演奏する側や経営する側はともかく、見る側としてはどうやら1歩劣るっぽい。

 だから、後藤の本当の実力も見抜くことができなかった……ということだろう。

 

 実際、後藤の片鱗に気付きかけた時も「前のライブは下手だと思ったけど」みたいなことを思ってたはずだ。多分見抜ける方がおかしいんですけどね、これ。

 

 ……ちなみに、偉そうに語ってるけど、そもそも私は楽器の上手い下手とかよくわかんないから星歌さんよりもずっとずっと下。後藤がプランクトンだとすれば私は単細胞だ。単細胞灰炉でーす……。

 

 

 

 気を取り直して、後藤のギタテクの話。

 

「ずっ、ずみませ、気道に……ん、ん。

 ……まぁ、今は下手かもしれませんけど、きっと上手くなりますよ」

 

 今は取り敢えず、それだけ言っておく。

 

 何も上手くなる理由は練習量だけじゃない。

 結束バンド内でのコミュニケーションや場慣れを通して、その本当の実力を引き出すことができるようになり、結果として上手くなっていくだろう……という意味では、これも嘘じゃないからね。

 

 本当は後藤のすごさについて力説したいところだけど、残念ながら今の星歌さんには伝わらないだろうし……うん、仕方ない。ここはぐっと我慢しましょう。

 

「ふーん。……よくわかんないけど、見込みアリってこと?」

「見込み……」

「言ってたじゃん、ここに来た理由。伝説のロックスターが生まれる瞬間を見たいって。その子にはロックスターの見込みがあるって?」

 

 あ、あーっと……なんか若干歪んで伝わってない?

 私が見たいのは星座*2であって、特段ロックスターの誕生だけを見たいわけではない。

 いや、勿論見たいか見たくないかで言えば見たいんだけど、どっちかと言えば本当に見たいのは瞬間じゃなくて全部、後藤と結束バンドの揺り籠から墓場までを見てたいんだけど……。

 

 いやまぁ、合ってると言えば合ってるかな?

 後藤のバンド活動は見たいし、それはある意味で伝説のロックスターを見たいっていうのとイコール。わざわざ指摘するほどの勘違いでもないか。

 

「そうですね……。彼女ならきっと、私の求めるヒーローになってくれます」

 

 1つ頷きドヤ顔で語る私に、星歌さんはちょっと呆れたような目線を向けてきた。

 

「……相変わらずチャコちゃんの目はよくわかんないな」

「目?」

 

 私の目、日本人としては普通……じゃないけど、この世界では普通の、ちょっと茶の入った黒の瞳なんだけども。

 よくわかんない? 何がよくわかんないって……いや、もしかしなくても比喩か、この場合は。

 

「できたてのライブハウスに目を付けたと思ったら、今度は初心者のギタリストだろ?

 何を基準に選んでんの?」

 

 星歌さんのちょっと眠たげな目には、いつぞやのような敵意とか警戒ではなく、純粋な興味とか好奇心が窺えた。

 ある程度は信を置いてくれてるのか、もう私の意図を探るみたいな意図はなさそう。ここまでせっせこと働いてきたかいがあった。やっぱり信頼は行動で勝ち取るものだね。

 

 しかし、基準か。

 実は私は転生者の元オタクで、この世界はマンガの世界で、STARRYやみんなのことが大好きだから推してます! なんて言ったら狂人の戯言だしな。

 何と答えるべきか……。

 

「うーん、基準……。あんまりこれっていう基準はないですね。投資と同じで、来そうだなって思ったら応援するってだけですよ」

「投資って……あぁ、そういやそっち系にも手出してるんだっけ?」

「まぁお遊び程度ですが」

 

 ごめんなさい嘘です。動かしてるのはちょっと遊びとか言ってられる額ではないんだけども。

 

「そういうの、数字を見て決めるんじゃないの?」

「数字も見ますが、これからの時代の流れとか需要とか、そういうのを色々考えながら決めるんですよ。ここも、そして後藤も、私から総合的に見て期待大です」

「……そこまで他と違うことをやってるつもりはないんだけどね」

 

 星歌さんはちょっと照れたのか、ちょっと視線を外して軽く頬を掻く……!

 

 

 

 こっ、これは──ッ!!

 

 

 

「う、ごッ!!」

「チャコちゃん!?」

 

 かっ……可愛すぎ♡♡♡ 星歌さんの貴重なデレ♡♡ いつも気丈で男勝りの女の人が照れた時にしか摂取できない栄養素がある♡♡ ビタミンS♡♡ 体にドカンと来る♡♡♡ いや物理的にきた♡♡♡

 

「あっ、たたた……」

 

 あまりの可愛さに、壁まで吹っ飛ばされた……。

 相変わらず星歌さんの火力指数はとんでもない。2舞いしたハチマキテクニシャン鋼テラスハッサムのバレパンくらい強いわ。後藤みたいなてんねんしか勝てないだろこれ。

 

「お、おい大丈夫か!?」

「いや、全然大丈夫です。ただちょっとびっくりして跳び上がっちゃっただけというか」

「そ、そうか。いやそういう勢いじゃなかったし、なんか前にもこんなことあったような……

 

 そりゃ星歌さんのデレを真正面から受ければ、誰だってこうなるってもんよ。

 星歌さん、もうちょっと自分の「強さ」を理解してほしい。あなたに微笑まれただけで救われる命も絶たれる命もあるんです。神話の神々かな?

 

 

 

 * * *

 

 

 

 星歌さんと雑談しながら掃除したり機材の整理したりしてる内、彼女は何か用事があると言って店の外に出かけて行った。

 手ぶらだったし、買い出しとかじゃないんだろうけど、何の用だろう。関係者の人に話を付けに行ったとかかな。

 

「……さて」

 

 私は雑務を済ませて道具を片付けた後、ポケットからスマホを取り出す。

 外見はいつも使ってる奴と同じ型番、同じ色だけど……オンラインには繋がっていない、特定用途のためだけに用意した改造端末である。

 

 これを用意した理由は……簡単に言えば、監視のためだ。

 

 これからも、後藤と虹夏ちゃんの出会いのような、「私は出くわしちゃいけないけどその場面は見たい」って機会は増えるだろう。

 そのたびに探偵を雇ったり木に登ったりと、リスクの高い無駄な行動を取ることはできない。

 

 そんなわけで私は先日の内に、STARRY周辺とその内部に数点、超小型の隠しカメラを設置していた。

 

 私は好き勝手この世界を楽しむ系転生者。

 そのためなら軽犯罪……いや犯罪まで行くとちょっと問題かもだけど、ある程度インモラルな行動は問答無用で行っていく所存だ。ストーカーとかはもうやっちゃってるし。

 

 勿論、この映像を悪用するつもりはないし、ネットワーク上には絶対に流れないよう対策してる。

 更に言えば、プライベートな場面を見るつもりは毛頭ないし、というか私の推し活以外の営業時間はシャットダウンしてるし。

 

 とはいえ当然ながら、店長には許可を取ってない勝手な行動。

 裁判にかけられれば敗北は必至である。

 

 というか、そもそも盗撮って良くない行為だし……怒られるのも当然だし……。

 でも、盗撮って軽犯罪法や司法上は、通常衣服に隠されてる下着や体を許可を得ずに撮影することだから、ただ監視カメラ的な位置に設置するだけなら、正確な意味で法的には問題はないはずなんだけど。

 まぁ刑事裁判的にはともかく、民事になるとまず情状酌量の余地はないだろうけども……。

 

 とにかく、その、悪用はしてないのでどうか許してほしい。お願いします。

 私はただ、推したちの輝かしい瞬間を、絶対に見逃したくないだけなんだ。

 

 

 

 ……それに、やっぱりカメラは色々と役に立つしね。

 

「えー、4番から7番、あと10番……不審者侵入者共に確認できず、と。今日もSTARRYは平和だね」

 

 実はこのライブハウス、割と警備がガバガバだ。多分私なら、5分で警報も鳴らさずに侵入できるくらいには。

 だから、盗難とか不審者による被害がちょっと怖かったんだけど……このカメラさえあれば、最低限の警戒はできるというわけだ。

 

 というかこの際だし、勝手に防犯面強化しちゃおうかな。警備会社って建物の持ち主以外でも勝手に登録できるんだっけ? 帰ったら調べてみよう。

 

 STARRYは後藤にとって、虹夏ちゃんにとって、星歌さんにとって、そして結束バンドにとって、すごくすごく大切な場所だ。

 ここを不届者に踏み荒らされることは、決してあってはならない。

 絶対に、私が阻止してみせる。

 

 あぁいや……。

 ある意味では、私っていう不届者に現在進行形で踏み荒らされてしまってるんだけども。

 

「……あーもう、切り替え切り替え」

 

 カメラ設置の罪悪感からか、暗い方向に傾いてしまっていた思考を、軽く頭を振ってリセット。

 改めて、玄関前のカメラのスイッチを入れる。

 

 今は、後藤と星歌さんの出会いに集中しなければ……!

 

 

 

*1
後藤が生み出した質量を持つイマジナリーフレンド

*2
ぼ虹、ぼ喜多、ぼリョウ、虹リョウ、ぼ星、ぼ廣、他多数のカップリングやシチュエーション







 今更ながら透き通る世界観のところに行ったり、南米に戻ったりした結果、遅くなっちゃった。申し訳ない。



(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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