ぼざろ世界を全力で楽しみたい転生者の話   作:アリマリア

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 お久しぶりです。
 連載してたもう1作の方が佳境に入ったので集中してたら、ぼっちちゃんの生誕祭逃しました。ぼざろ二次創作作者として恥ずかしくないんか?(自問自答)

 前回のあらすじ
 モブになりたいイカれたぼざろ信者超スペックTS合法ロリオリ主(口と性格は最悪)こと灰炉茶子は、後藤ひとりにバイトについて色々教えることになったのだった。アニメでいうと2話中盤くらい。





ただし、それは人類にとっては小さな1歩だが、主人公にとっては大きな一歩であったとする。

 

 

 

 当然と言えば当然なんだけど、アルバイトっていうのは非正規雇用なわけで、そこまで大事だったり複雑な労働を任せられるわけではない。

 

 わかりやすいところで言うと、簿記会計とかだろうな。そういうのは私たちが手を付けることはなく、全て店長である星歌さんがパタパタとキーボードを叩いて行っている。

 

 ちなみに、星歌さんはこの記入をそこそこの頻度で間違える。で、その度に私が適宜バレないように訂正してる、というわけだ。

 中学で簿記1級取っといて良かったぜ。……いや、別に資格を取らなくても修正作業はできるわけだが。

 

 というか星歌さん、会計関係かなり雑なんだよなぁ……。

 多分飲み会か何かで使ったのであろう万単位の額を雑に会議費として挙げるのはやめてほしい。

 そうでなくとも、せめてもうちょっと正確に摘要記入してほしいなーって思いますよね。過去の集会の人数とか状況とかを特定するの、結構労力かかるので……はい……。

 

 

 

 ……と、話が逸れちゃったか。

 そんなわけで我らSTARRYアルバイト隊は、基本的には掃除とか受付とかの簡単で単純な業務を任される。

 今後藤に紹介しているドリンクスタッフはその最たるもので、恐らく一番思考停止でできる業務だ。

 

「ドリンクスタッフは、注文されたドリンクを渡すだけの簡単な作業だよ。

 ここの氷をガラガラっと4個くらい入れて、さっき渡したメモ……ん、ここに貼っとこうか。それを見て、ドリンクをびゃーっと入れて、『どうぞー』って笑顔で渡す。ね、簡単でしょ?」

「あっ、はい」

 

 返ってきたのは、ちょっと生返事気味だけど……まぁこんなもんだろう。

 アルバイトなんて慣れだ慣れ。どうせ最初の説明なんてものは大半が頭からポロポロ落ちていくんだから、やりながら慣れていって効率の良いサボり方を見つけていけばいいだろう。

 

「でもチャコちゃん、そうは言うけど自分も笑顔下手じゃん?」

「そんなことないですよ。ほら、にこーっ!」

「え、うわっ、めっちゃ綺麗な笑顔……! いやそれできるんならいつもやってよ!」

「善処しますね」

 

 からかってきた虹夏ちゃんを渾身のロリスマイルで撃退しながらも、私は説明を続ける。

 

「ほらこれ、受付でチケット代とは別に500円払って貰えるドリンクチケット。

 受付で渡されたこれを、お客さんがここに持ってくる。私たちはそれをドリンクと交換するわけ」

 

 私が先程自腹で購入してきたピック型のドリンクチケットを渡しあっ今手が触れた♡ 最推しを汚した罪で死刑。

 

 チケットを握った後藤の表情は無に近いけど……。

 強いて言えば、やっぱり「1杯500円って……」と引いているように見えるね。

「そんなあからさまにぼってるみたいな顔しないでぇ……」

 

 虹夏ちゃんも割高の自覚があるのか、ちょっと微妙な顔だ。

 

 ま、実際には彼女は、「なんでワンドリンク制なんだろ」と疑問に思っているわけだけど。

 

 後藤が疑問に思ってるワンドリンク制っていうのは、大体のライブハウスで取られてる制度。

 めっちゃ簡単に言うと、ライブハウスに入るにはチケット代とは別に、500円のドリンク代も払わないといけない、ってもの。イメージとしては飲み屋のチャージ代に近いだろうか。

 

 なんでそんな面倒な制度を取ってるんだろうとクエスチョンマークを浮かべる後藤(気が抜けてるからめちゃくちゃ素朴で可愛い♡)に苦笑し、虹夏ちゃんが事情を話してくれる。

 

「実はライブハウスは、一応飲食店扱いなんだよ」

「え?」

「よくわかんないけど、ライブできる場所ってだけで営業許可取るのって、すごく難しいんだって」

 

 ドヤ顔知識自慢ができそうな気配を嗅ぎ付け、私は懐から伊達眼鏡を取り出してかけた。ついでに思う存分クイクイもする。

 ふふん、頭良さそうに見えるでしょう? ちなみにちょっと前にIQ計ってみたら157だった。わざわざ覚えてるあたり自慢に思ってますねこれ。

 

「実は、小規模なお店が営業許可を取ろうとすると、飲食店に比べて興行場はハードルが高いんですよ。だから『ライブはあくまで客寄せで、本質的にはドリンクを提供する飲食店』ってことにするんです」

「なっ、なるほど……」

「詳しいねぇチャコちゃん。あとその眼鏡今日ずっと持ってたの?」

「この前、軽く調べただけですよ」

 

 この前って言っても多分3年くらい前だけどね。

 

 せっかくだし、お金のゴリ押しでSTARRYをきちんと興行場にできねーかなーとか思って色々調べたんだけど……結論から言うとほぼ不可能だったんだよね。

 

 いや、不可能ではないか。私が全力で資金援助しながら営業に介入すれば、多分できる。

 

 けど、やめた。

 

 興行場の経営には、世田谷区の保健所長の許可が必要らしい。

 その際に規則や条件に基づいて、このお店が興行場に該当するかをチェックされるんだけど……。

 ぶっちゃけ、このSTARRYだと、色々と難しそうだった。

 

 本格的に興行場として経営を始めるなら、匠レベルの大改築を施すか、他に大きな土地を買って新しくライブハウスを立て直さないと厳しいと思う。

 

 でも……うん。それはしちゃいけないよね。

 星歌さんと虹夏ちゃんの夢は、「このSTARRY」を、彼女たちのお母さんに届くくらいの輝きを放つ場所にすること。

 それなのに、私が勝手に改造し過ぎたり場所を移したりするのは……ちょっと違う気がする。

 

 そんなわけで、私はSTARRYに貢献したい欲を懸命に抑え、月100万円を寄付するに留めているわけだ。

 うーん、なんて理性的な判断。我ながら自制心が強くて偉い!

 

「……って、アレ、聞いてる?」

 

 あ、ごめんなさい!

 ……あ、いや、私じゃなくて後藤のことか。

 

 後藤はピック型のチケットを口元にやり、「い、いつの間にかハードルの高い飲食店バイトデビューまで果たしていたとは……私、成長してる……!」と瞳を輝かせていた。

 こんなことで喜ぶとかチョロすぎ♡ 幸せにしてあげたい♡♡ 自己肯定感上げてけ♡♡♡ そして調子に乗って叱られて凹め♡♡♡ 

 

「ふぅ、まったく……後藤は可愛いですね」

「え? どこに可愛い要素あった?」

「え? むしろ可愛い以外の要素ありました?」

 

 私と虹夏ちゃんは互いに首を傾げ合う。むぅ、価値観の相違ってヤツか……。

 

 後藤、こんなにも可愛いのに評価されないなんて、なんだか腕は良いのに売れない芸術家を見てる気分になるな。ギターの腕は良くても売れない、って意味では合ってるんだけども。

 

 ま、いいや。

 どうせ虹夏ちゃんも、半年以内に後藤に堕とされる日が来るし。

 その日になってから「もっと早く惚れれば良かった」なんて思っても遅いんだからねっ!

 

 

 

 * * *

 

 

 そんなこんな言ってる間に、お客さんが入り始めて来た。

 

 ここらで私たちアルバイターは、受付とかドリンクカウンターで待機することになる。

 人数に余裕があればお客さんに見えない控室の掃除とかしたりもするけど、今日は後藤の初仕事ってこともあり、私と虹夏ちゃんがカウンターでカバーする形だ。

 更に、原作通りであればライブが始まる頃には星歌さんが受付を変わってくれて、山田もこっち側に合流することになるだろう。

 

 恐怖のあまり営業終了のプラカードを掲げたりするハプニングもあったけど……。

 いよいよ、後藤の初仕事が始まる!

 

 

 

 ……と、思われたのだが。

 

「すみませーん、コーラくださーい」

「はーい! ぼっちちゃん、コーラぁ」

「あっ、はい!」

 

 叩きつけるように置かれるコーラ。

 

「私、ジンジャーエール」

「あっ、はい!」

 

 同じくジンジャーエール。

 

 きちんと適切なジュースを入れられているし、返事もちゃんとできてる!

 まぁカウンターの下にしゃがみ込んでるからお客さんからは姿が見えないだろうけど……うん、後藤、頑張ってるな!

 

 私はうんうんと、その努力を認めていたんだけど……虹夏ちゃんはちょっと辛口評価だった。

 

「ぼっちちゃんお客さんに失礼でしょ!?」

「こっここここっ心の準備がぁ……!」

「まぁまぁ虹夏ちゃん、後藤はすごく頑張ってますよ。ここは褒めてあげましょう」

「前から思ってたけどなんでチャコちゃんはぼっちちゃんにゲロ甘なの!? 普通に失礼だからね!?」

 

 ワイワイと騒いでいると、お客さんからは「仲良くて微笑ましいなぁ」って感じに苦笑されてしまった。

 ……いや待てテメェその視線よく見たら「可愛い子供もいるし」みたいなニュアンス入ってるなお客さんで良かったな神様じゃなかったらぶっ飛ばしてたぞ悪運の強いヤツめ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 後藤、撃沈。

 ……うん、後藤は頑張った。

 

 私がしゃがみ込んでしまった彼女に「後藤は頑張ったよー、大丈夫大丈夫、明日から本気出そうねー」って言って、虹夏ちゃんに「こらそこ、甘やかさないの!」なんてツッコまれたりしてる間に……。

 

 いよいよ、ライブが始まる時間になった。

 

「ぼっちちゃん、見て見て」

「え?」

 

 ぐう聖虹夏ちゃんは怒りを引きずったりすることもなく、ひょいひょいと後藤を誘う。

 そして、彼女が頭を上げると、そこでは……。

 

「えーどうもー、アレキサンディズムでーす!」

 

 ステージ上に登った男性モブバンドが、MCを始めている。

 

「あのバンド、結構良いんだよねぇ」

 

 虹夏ちゃんは後藤の緊張が解けるように、そして同時に励みになるように、後藤にライブを見せてリラックスしてもらうつもりみたいだけど……。

 

 仕事ができないことへの自己嫌悪から、むしろ後藤は身を固くしている。

 前日のライブでも下手くそで、今日の仕事でも役に立てなかったと思ってるだろうからね。自己嫌悪に襲われてるんだろう。

 

「力抜いてだいじょーぶ、ライブ始まったら暇になるから!」

 

 虹夏ちゃんがそう言って笑いかけている内に、受付から帰還した山田が合流。

 後藤は虹夏ちゃんに任せて、私は山田の相手をするか。

 

「おつかれー」

「お疲れ様です。受付はどうしました?」

「店長が代わってくれた。今日のバンドはどれも人気あるし、勉強になるから見とけって」

「へぇ……あのアレクサンドリア? も、人気あるんですか?」

「アレキサンディズム。私はそこまで好きってわけじゃないけど、確かに演奏は上手い」

 

 へー、そうなんだ。素人耳だから全然わからんけど。

 そのアレキサンダーは、未だに長々とMCしてる。いや本当に長いな。いつまで話すんだコレ。

 

 私のライブ前MCの知識、アニメで見た結束バンドのものしかないんだけど……え、まだ続く? コール&レスポンス何回するんだよ。こういうのって音楽とか作品で語るんじゃないの? いやライブだしな、盛り上げるためには大事だったりするのか?

 

「すっすすすみません……戦力にならないどころか、お客さんとも目を合わせられなくて……」

 

 私が首を傾げている横では、後藤が落ち込み気味に言っていた。

 そんな彼女に気遣ってか、山田が隅に寄せてあった黒烏龍茶の段ボールを持ち上げる。

 

「これ使う? 完熟マンゴーじゃないけど」

「使わない使わない」

「というかそれじゃ、流石に小さいですよ。ガンダムになっちゃいますって」

「ガンダム?」

 

 振ったネタが伝わらずに「?」みたいな顔をされると、ちょっと申し訳なくなるよね……。

 

 ……と、そんな風に雑談してると、後藤はやっぱり申し訳なさそうな顔でため息を吐いた。

 

 アンニュイ顔があまりにも美少女すぎて、思わずポケットからスマホを取り出しそうになり……私は必死に、自制心をフル稼働させる。

 

 我慢、我慢しろ……! 今から良いシーンが来るんだから、台無しにしたら損だろうが……ッッ!

 

 

 

 後藤ひとりは、自己肯定感が非常に低い。

 

 自己肯定感というのは、言わば自分を許してあげられる度量みたいなもの。

 自己肯定感が高い人間が「ま、このくらいは仕方ないか」と許容できるコトでも、後藤は「自分は駄目な人間だ……皆の足を引っ張ってるんだ……」と思い悩んでしまう。

 

 そして同時、後藤ひとりという人間は、陰キャな性質に騙されやすいが、こう見えて非常に真面目で前向きな女の子でもある。

 自分に足りないところがあれば「仕方ない」では済ませられないし、誰かの足を引っ張っていれば「頑張らないと」と思ってしまう少女なんだ。

 

 この2点の特徴が噛み合ってしまった結果、後藤ひとりは非常に悩みやすく、落ち込みやすい特性を持っている。

 本来は「失敗したー」で済むようなことにも本気で悩み、落ち込み、なんとか解決しなきゃいけないと思い……けれど同時、自己評価が低いから「解決できるわけがない」と思ってしまう。

 

 陰キャで、ぼっちで、コミュ障で……それと同時、底抜けに真面目な努力家。

 それが私の最推し、後藤ひとりという女なのである。

 

 ……え、何? 真面目な人間はバイトをサボるために風邪を引こうとしたりしない?

 うるせぇな、正論は痛いからやめろ。

 

 

 

 そんな後藤が、初バイトでまともに接客もできず、迷惑をかけっぱなし。

 それも迷惑をかける相手が、自分をバンドに誘ってくれた、そして今も優しく受け入れてくれる虹夏ちゃんと山田なんだ。

 そりゃあ当然落ち込んでしまうってもので、彼女の性格を考慮すればもうバイトに出てこれなくなる可能性すらあったんだけど……。

 

 

 

 問題はない。私が手を出すまでもない。

 なにせここには、下北沢の大天使がいるんだから。

 

 

 

「だいじょーぶっ! 今日は初日なんだし、すぐ慣れるって!」

 

 大天使ニジカエルの邪気なき笑顔に、後藤は思わず目を逸らそうとし……けれど逸らし切れずに、言う。

 

「わっ、私みたいなミジンコ以下に、どうしてそんなに優しくしてくれるんですか……?」

 

 う、お……実際に聞くと、かなり重い台詞だ。

 これがクソカスゴミクズメンヘラのうんこみたいな慰めてアピールだったら「黙れよ馬鹿」で終わるんだけど、後藤ひとりは全く以て偽りなき本心からこれを言っているから難しい。

 

 彼女は自己評価が低いけど、同時にマジで要領も悪い。

 ミジンコ以下は流石に言い過ぎにしても……確かに今のところ、アルバイターとして役に立っているとは言い難い。

 その部分を上手く包んで慰めなきゃいけなくて、それは結構難易度が高いと思うんだけど……。

 

 

 

 

 ……けれど、それでも。

 大天使は、その程度の逆境に負けることはない。

 

「……私ね、このライブハウスが好きなの」

 

 そう言って、虹夏ちゃんは……ステージの方に視線を投げかける。

 

 そこには、いまだにMCし続けているとんでもないアレルギードリアとか、どこまでもノリ良くそれに答える観客たちとか、ブースに入ってお仕事中のPAさんに照明さん、そしてその遥か後方の受付には星歌さんの姿が見える。

 

 その全てが、彼女のために用意されたもの。

 ここは虹夏ちゃんのために、そして彼女たちのお母さんのために作られた、たった1つの楽園(ライブハウス)だ。

 

「だから、ライブハウスのスタッフさんが関わるのって、ここと受付くらいだし……『良い箱だった』って思ってもらいたい、って気持ちがいつもあって……」

すっ、すす、すみません……そんな場所でド下手な接客を……

「いやいや、違う違う! そうじゃなくて、あたし、ぼっちちゃんにも『良い箱だった』って思ってほしいんだ」

「あ……」

「楽しくバイトして、楽しくバンドしたいの。

 ……一緒に」

 

 

 

 ……正直、見惚れた。

 

 未来への希望と過去への寂寥を秘めた横顔。

 静かで、けれど決意に満ちた独白。

 

 そのどれも……あまりにも、美しすぎたから。

 

 

 

 後藤もまた、そんな虹夏ちゃんの横顔をポカンと眺めた後……少しだけ俯きがちに、何かを考えるような表情をした。

 

「ま、いつかは笑顔で接客できるようになってほしいのもあるけど。チャコちゃんもね!」

「あはは……」

 

 突然向いて来た矛先に、苦笑を漏らす。

 

 推しのお望みなら、恥も何も捨ててお客さんに「楽しくなーれ!☆ 萌え萌えきゅん♡」とかしてもいいくらいなんだけど……。

 それは、ちょっと難しい。

 

 私こと灰炉茶子は、実態はどうあれ、見た目は小学生くらいの幼い女の子だ。

 そんな私があんまり可愛い態度取り過ぎると、STARRYが「いたいけな幼女を働かせる非合法なお店」みたいに取られかねない。

 ちょっとばかり尖った態度を取って、「ただの幼女じゃない」感を出さないと、面倒なヤツに目を付けられかねないんだ。

 

 彼女の理想を考えるが故にこそ、私はそれを苦笑で受け流すしかない。

 ホント申し訳ない。もうちょっとこの体が育ってくれてれば、普通に接客できたんだけどね……。

 

 

 

 ……と。

 

「ぼっちちゃん、始まるよ!」

 

 ステージに立っていたバンドマンが「よっしゃ行くぞォ!」という威勢の良い掛け声と共に、ようやく歌い始める。いやマジで長かったな。どんだけ喋るんだと思ってたわ。

 

「…………」

 

 いざ始まった、アドレナリンゴリラのライブ。

 

 私は音楽に不案内で、そのバンドの曲がどれだけ良いとかはわからない。

 でもやっぱり、リズムが外れたり露骨なミスがないと、陽気な曲は自然とノッてくるものだ。

 

 私のような人間もそうなんだから……きっと彼女にとっても、その背を押してくれるものなはず。

 

 後藤はその煌びやかなステージを眺めながら……そしてちらりと、虹夏ちゃんや山田、私の方を覗いて、俯いて考え込む。

 

 

 

 そして、その時。

 

「すみませーん、オレンジジュース」

 

 お客さんが、ドリンクカウンターを訪れる。

 それに対して、真っ先に反応したのは……。

 

「はっ、はい!」

 

 ……後藤だった。

 

 

 

 さっきも言ったけど、後藤は真面目だ。

 

 自分が迷惑をかけているなら、なんとか挽回したいと思う。

 誰かが好きな場所にいられるように、相応しい存在になりたいと思う。

 

 その為に、努力を「したい」と思えるんだよ……私の最推しの女の子は。

 

 

 

 後藤は、少しだけぎこちない動きで……。

 私が教えたようにドリンクを用意して。

 虹夏ちゃんが願ったように、お客さんの目を見て。

 

「どっ……どうぞぉ……」

 

 そう言って、ドリンクを差し出す。

 

 

 

 ……その笑顔は、正直に言えば、酷いものだったと思う。

 お芝居の経験がある私だが、その経験とか知識なしに考えても、後藤のそれは笑顔とは判別し辛い。

 口角は上がっているし、目も細めているけど、顔はそこら中ぴくついている。表情筋の鍛錬が不足している証拠だ。

 

 けれど……それでも。

 

 後藤ひとりは、自分の意志で、一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 虹夏ちゃんは「ぼっちちゃん、目、目!」と心配そうに囁いてたけど……。

 その必死な笑顔を見たお客さんは、微笑ましいものを見たという風に「ありがと!」と言って笑い、ステージの方に向かってくれた。

 

「ふぅー……」

「いやぁ、ドキドキしたぁ」

 

 ため息を吐く後藤と、それを見て肩の力を抜く虹夏ちゃん。

 

 全くだよ、本当、ドキドキさせてくれちゃって。

 後藤の強い意志。STARRYのために、虹夏ちゃんのために一歩を踏み出すという黄金の精神。

 ……本当に、良いものを見た。今も胸の高鳴りが収まらない。

 

「でも、すごい! カウンターからちゃんと顔を出して接客できたね!」

「が、頑張りました……」

「うん! ぼっちちゃんのおかげで、きっと今日のライブがもっと楽しい思い出になったよ! 一歩前進だね!」

「一歩……」

 

 後藤はその言葉を聞いて、酷く顔を青くしてしまったけど……。

 

 ここは、私の出番か。

 

「後藤、よく頑張ったね」

「は、灰炉さん……?」

 

 ここに、後藤のことをよく知る人間は、私くらいしかいない。

 故に……彼女の踏み出した一歩を、私くらいは褒め倒すとしよう。

 

「偉い、偉い、よく頑張った。怖かったよね、すごく勇気がいったよね。

 そんな中から踏み出してくれてありがとう、すっごく嬉しかったよ。

 確かに一歩かもしれないけど、後藤にとっては大きな大きな、千歩分の一歩だもんね。

 よーしよーし、後藤は偉いね、最高だね。流石は私の推し、カッコ良かったよ」

「えっ、そっそうですかね? へへへ、でもまぁこれくらいは余裕っていうか? 明日からも全然頑張れそうですけどね!」

「こらそこ! ぼっちちゃんを甘やかしちゃめーでしょ!」

 

 ごめんなさいママ……。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 その後、しっかり閉店まで働いて、帰宅する後藤を見送ってから……。

 虹夏ちゃんと山田、それから私は、STARRYの店内でだらーっと話し合う。

 

「ぼっち、頑張ってたね」

「そだねぇ。それに、また明日って言ってくれたねぇ」

「本当に偉いですね、後藤は」

「出たぁ、チャコちゃんの謎のぼっちちゃん推し。それなんなのー?」

「結束バンドのニューホープですし、そりゃあ期待もするでしょう」

「ふーん……?」

 

 虹夏ちゃんはどことなく不審そうな目でこちらを見てくる。

 ……正直に「最推しですから」なんて言っても、”まだ”伝わらないだろうしなぁ。

 あの台風の初ライブを経験した後なら、虹夏ちゃんとも1夜を語り明かせるようになるだろうけども。

 

 苦笑する私を見て、ふと山田が口を開く。

 

「でも、ちょっとわかる。ぼっち、面白いよね」

 

 おぉ、そういうことだったか。

 山田、今日はやけに口数が少ないなって思ってたけど……やっぱり後藤のことを観察してたんだね。

 

 こう見えて、山田は割と内弁慶というか、あんまり知らない人の前では暴れないからね。

 後藤が身内に入れていい人間かどうか、しっかりと見極めていたんだろう。

 

 その結論が「面白い」なのは……山田的には、多分めちゃくちゃ高評価なんだろうな。

 

「わかりますか山田、流石ですね。後藤は見ていて一生飽きないですよ。

 どうです、今のうちに後藤株買っておきませんか。急騰確定の最強銘柄です」

「買った」

「毎度あり! それじゃこれ、取り敢えず5万です」

「……? 買ったはずなのに、なんでお金が貰える……???」

 

 良い取引ができたとホクホクしている私と、突然お金が手に入って喜びのあまり混乱しているのであろう山田を、虹夏ちゃんは「えぇ……」ってちょっと引いた感じに眺めていたのだった。

 

 

 

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