ぼざろ世界を全力で楽しみたい転生者の話   作:アリマリア

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 詳細は省きますが全人類ブルアカやってください。





ただし、ガバも積もればチャートが崩れるものとする。

 

 

 

 よくできた物語には、何事においても予兆というものがある。

 

 例えば、命のやり取りのある物語で、これまであまりフォーカスが当たらなかったキャラの過去回想が挟まったら……大体死ぬ。

 その子を推しにしてる人は覚悟した方がいい。私はこれまでに3億回くらいこれで心を破壊された。正直NTRの次くらいに効くんだよね。ぷち♡ ぷち♡ って脳の細胞が壊れる音が聞こえてくるようだ。

 

 例えば、チームとかグループがメインの物語で、最近調子が良いからって全体的に浮かれて雰囲気が緩んだら……大体強キャラが現れてボコボコにされる。

 スポ根モノで慢心は最悪のデバフ。だからって口で「こんな試合、2秒で忘れて下さい!!」なんて言っても伝わらない。大事なのは成功体験を積んでもブレない軸なんだ。それでも人間だし「刹那で忘れちゃった、まぁいいかそんな初心」となってしまうのが難しいところ。

 

 例えば、ちょっと特殊な世界観の物語で、主人公が記憶喪失だった時には……大体主人公が諸悪の根源かそれに近い位置にいる存在。

 というか主人公が記憶喪失なのに特に何もない方がおかしいでしょ。どうすんだよただそこら辺で転んで頭打っただけの一般人だったら。そんなんもう主人公たり得ないじゃん。……いや、逆にそんなただの一般人が頑張る話ってのも魅力的か。流石に言い過ぎだったかもしれないけど、まぁそれはともかく。

 

 それらは所謂『フラグ』とも言われる、誰も逆らうことのできないルール。

 みずタイプがほのおタイプに強いこと、「ぼっち・ざ・ろっく!」が面白いこと、たけのこがきのこより優れていることと並ぶくらいに絶対的で、決して覆らない絶対法則なのだ。

 

 

 

 さて、勿論この「ぼっち・ざ・ろっく!」世界にもフラグは存在する。

 その内の1つが、後藤が学校にギターを持って来ることだ。

 

 ……ああいや、これは正確な表現じゃなかったかもな。

 後藤はSTARRYにバイトに入ってからは、ほぼ毎日学校にギターを持ってきている。悲しいことにその全てを観測することはできていないけど、彼女たちはバイト後に併せの練習することもあるらしいからね。

 

 故に、「後藤が学校にギターを持って来る」だけでは、フラグには当たらないのかもしれない。

 正しくは……「後藤が調子に乗って学校にギターを持って来る」。

 このイベントが発生すると、もう盛大なフラグになってしまう……と、そう言うべきだろう。

 

 で、なんで私がそういう話をしたのかと言えば、つまりはそういうこと。

 

 その日、意気揚々と学校にギターを持ってきた後藤は、けれど当然誰にも話しかけられず、「はい、知ってた」とでも言うべき表情で机に肘を突いて落ち込んでいた。

 

 バンドを組み、ライブハウスでバイトをこなせたという事実によって、「私もう陰キャではないのでは!?」と自らの力を過信した結果がこれだよ、悲しいね。でも落ち込んでる後藤可愛いから私にとっては最高にお得♡

 

 

 

 さて、と……。

 果たしてこの状況、どうしようかな。

 

 私は後藤の2つ左の机に座り、いつものように話しかけてくるクソロリコン男子同級生を無視しながら、彼女への対応を考える。

 

 後藤は既に、1歩を踏み出した。

 結束バンドに入り、まだ仮のインストバンドでしかないとしても、初ライブを敢行。

 更にはSTARRYでバイトを始め、そこでお客さんの目を見て、笑顔で対応しようとしたんだ。

 

 今の後藤であれば……あんまり甘やかしすぎたら話は別になるかもしれないけども、きっとこれからも結束バンドのギターとしてやっていけるはずだ。

 であれば……私が友達として彼女と接しても、殊更問題はないわけで。

 孤独を感じる後藤に、例えば今日のバイトのこととか、結束バンドのこととかで話しかけるのも、選択肢としてはアリになってる。

 

 そう、私はいよいよ、推しと問題なく触れ合える段階にたどり着いたのだ!

 これでもう、自分の欲求を抑えることもない。好きなだけ後藤を甘やかせる……!

 

「……と、そう上手くもいかないのが現実なんだけど」

 

 私が自由に動けるのは、あくまで「後藤の成長具合のみを考慮した場合」、だ。

 

 1歩を踏み出すべき結束バンドのギターは、彼女だけではない。

 もう1人の結束バンドのギターが明日への1歩を踏み出すために、私はどうすべきか……。

 

 

 

「ま……もうしばらく我慢、かな」

 

 相手は、推しだ。

 当然、話したい、絡みたい、できればチェキ撮ってほしい。

 

 ……が、それらの私の欲望は、原作のつつがない進行に比べると、ずっとずっと劣る優先度しか持たないわけで。

 

 結論としては……今しばらくの間、後藤との接触は我慢するしかないだろう。

 

 私は血が滲むくらいに下唇を噛みしめ、ロリコン同級生に心配されながらも、これからの行動方針を決定した。

 

 多分、軽く話すくらいなら大丈夫だと思うけど、「もしも」を思うとやっぱり怖すぎる。

 

 ちょっと酷い話になるけど……。

 今日の後藤には、ぼっち飯を食べてもらわなきゃ困るのだ。

 

 

 

 そこから先、お昼休みまでの間に、私が直に観測できた特殊なイベントは多くない。

 まぁそもそも原作でも、この段階では学校でのイベントは少ないけどね。

 友達である虹夏ちゃんと山田は別の学校だし、まだ同じ学校の喜多ちゃんとは知り合ってすらいないからね、仕方ない。

 

 そんなわけで、私が観測できた、後藤の特異な行動は2つ。

 

 まず、朝のホームルーム前、後藤が同級生の会話に食いついたこと。

 相も変わらず音楽関係の話題には疎い私だけど、どうやら彼女たちがバンドの話をしていたらしいことはわかった。

 これに対し後藤は、この話題になら乗れる! と言わんばかりに「あァッ!!」とクソデカボイスを上げた。

 で、相手のクラスメイトたちも、突然顔面ガチ最強美少女が接触してきたことに好感触っぽく、「後藤さん話しかけてくれるなんて珍し~!」と好調な滑り出し。

 ……だったんだけど、やはりコミュニケーション不足により話の振り方がわからなかった後藤が、「すっすみません忘れました……」と日和ってしまった。

 うーん、惜しい。後藤もあと1歩だったんだけど……でも十分頑張った。うん、後藤偉い!

 

 で、もう1つのイベント。いや、こっちはイベントっていうかいつも通りの行動なんだけど。

 4限の授業が終わってお昼休みになると、いつも通り真面目に授業を受けていた後藤が、脱兎のごとくクラスから逃げ出してしまった。

 

 私でもちょっと感心してしまうくらいの逃げ足だ。後藤、スプリンター部門なら案外良いトコ行けるかもしれないね。

 ……いや駄目だ、本番になったら緊張して足がもつれる予感しかしない。音楽以外だと本番に弱いからなあの子。その分音楽では無敵なのがギャップになってて本当に最高なんだけどさ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 さて、と。

 

 私は後藤が教室から逃げ出すのを確認して、バッグの中からイヤホンを取り出した。

 お金に糸目を付けずに購入した、そこそこ高品質な奴だ。

 

 唐突にこんなものを取り出す理由はもちろん1つ。

 盗聴……じゃなくて、こっそりと推しの様子を確認させていただくためである。

 ……いや、うん、すみません。盗聴です。はい。

 

 推しのプライベートもクソもないこの行為、正直ちょっと後ろめたい気持ちはなくもないんだけど……これも推し活のためだ。

 当然ながら過度にやる気はなく、そういうほにゃららになったら速攻で電源を落とす算段だ。私はただ推したちの尊いやり取りが聞きたいだけ、その辺りはご安心いただきたい。

 

 え? 学校側に対しての申し訳なさ? ねぇよそんなもん。盗聴器が取り付けやすい学校さんサイドにも問題があるだろ。

 

「よし」

 

 相変わらず話しかけてくるロリコンを無視して、私は聴覚の向こう側に集中した。

 

 

 

 私や後藤が通う秀華高校には、予備の机や椅子などの備品などを収める倉庫がある。いや、まぁ他の学校にもあるんだろうけども。

 そこは当然ながら人の出入りが少なく、だからこそあまり目立たないところにある。ちなみに目立たないからこそ管理が杜撰で中に収めるはずの机が雑に外に積まれてたりもする。教師陣の緩さが伺えるよね。

 

 場所で言えば……文字だと伝わりにくいかもしれないけど、1階廊下の隅の方、あんまり人が寄り付かない階段、そこを1階から更に下った先。

 そこに、倉庫に続く扉と、予備として積まれた机や椅子で埋め尽くされたスポットがある。

 

 

 

 で、だ。肝心なのはここから先。

 

 後藤ひとりは、ぼっち飯を好む。

 いや、別に好んでいるわけじゃなくて、クラスで食事を取るのを嫌がるっていうのが正しいのかな。

 ひとりぼっちで教室でお昼食べてると、友達と食べてる周りのクラスメイトと自分を比較していたたまれない気持ちになるせいだと思う。あと周りの空気を気にして、っていうのもあるかな。

 ……私、昔からそういうのあんまり気にならない方だったからなぁ。正直ここら辺は推測交じり。

 

 とにかくそんなわけで、後藤はつい先日、偶然この場所を見つけて以来、昼休みにお弁当を食べるスポットとして使っているのだった。

 

 

 

 そして、話はそこで終わらない。

 

 もしもここが、ただ後藤が1人でご飯を食べるための安息の場所ってだけだったら、私としてはノータッチでもよかった。

 後藤だって1人になりたい時はあるだろう。そういうプライベートにまで踏み込むのは……なんというか、セーフとアウトの境界線って感じだよね。

 

 でもこのスポット、実はただのナメクジがいそうな薄暗い空間ではない。

 ここはとある時点から……というか今日から、激エモぼ喜多スポットになるのだ。

 

 推しと推しの絡み。それは、心の穢れたオタクが足を踏み入れてはならない百合の花園(サンクチュアリ)

 ここに踏み込むことは憲法及び法で厳しく制限され、違反した場合には極刑もしくは終身刑に問われる。百合に挟まる男は殺せ。でも百合の花束は正直ちょっと好き。そんな私です。

 

 ぼ喜多はどうしても見たい。でも2人に挟まりたくはない。

 故に私は、彼女たちにバレることなくこれを観測するため、馬鹿みたいに値の張る盗聴器と超小型カメラを数点ずつ設置したのだった。

 

 ……あ、念のため言っておくと、カメラは全部、ちゃんと全部高い位置にしかけてるよ。私はその辺しっかりしてる紳士なんでね。

 もしも見えちゃったりしたら、全宇宙からその記録を私の頭ごと破壊する予定。推しウォッチする際の当然のマナーですので。

 

 ま、その映像自体は、家に帰るまで見ないんだけども。

 もしここで見てみろ、エモが過ぎて頭が破裂したり、発狂して騒ぎ立てたりしかねないもんね。

 クラスメイトからどう思われようがクソどうでもいいけど、後藤に知られて引かれでもしたら死ねる。

 待ち遠しいけど、本当にどちゃくそ待ち遠しいけど……自宅に帰り着くまで自重するしかない。

 

 そんなわけで、私はクラスの片隅で、せめてと盗聴の方だけでもさせていただいているのだった。

 ぶっちゃけ聴覚情報だけでも発狂しそう。頑張って抑えてる私を誰か褒めてくれよ。

 

 

 

 盗聴器は正常に稼働し、鮮明な音を届けてくれている。

 

 僅かな衣擦れの音、更に小さな咀嚼音。左右にそれぞれ設置したことで実質ASMR♡♡♡ 私だけが楽しめる後藤咀嚼音声♡♡♡ これ売り出したら莫大な富を築けそう。いや売るわけねーだろぶっ飛ばすぞ。

 というかそもそも、こうして楽しんじゃってるのも本当はアウトに近いよね。若干キモいし。いやまぁオタクは元々キモいものだし、もうそこは受け入れてもらうとして。

 

 盗み聞きされる後藤には申し訳ないんだけど……今日これを聴いているのには、明確な理由があるんだ。

 

『ごちそうさまでした』

 

 お゛ッ゛♡ すき♡♡♡ 人に聞かれると思ってない素朴で育ちの良さが出る言葉♡♡♡ オタクはこういうのに弱い♡♡♡ でもそんな善性を盗み聞いてしまったことにはすんごい強い罪悪感あるな……。今度から体育とかの時間で2人組ペアになる時、こっちから声かけるから許して♡

 

 今後藤は、将来音ステに出る妄想で1人にへらにへらしてる頃だろう。

 あそこの後藤、ほっぺたがおもちみたいになっててめちゃ可愛いんだよな……。食べちゃいたい♡ でも食べたらなくなっちゃうからやっぱり食べずに神棚一択か。

 

 

 

 ……さて。

 後藤が食べ終わったということは、そろそろ。

 

「この間カラオケ楽しかったねー」

「喜多ちゃんやっぱり歌上手いなー」

「辞めちゃったけど、バンドでギターもしてたらしいよ」

「えー、音楽の才能もあるんだー」

 

 ……後藤のものでない、誰かの話し声が聞こえてくる。

 ちょっと位置が遠すぎて私からは聞き取り辛いけど、ガタンって音したし、後藤はそれに気づいているはず。

 

 彼女はこの言葉を聞いて、虹夏ちゃんがギターボーカルを欲していたことを思い出し、その喜多ちゃんという女の子──勿論あの赤髪キターン! の陽キャガールのこと──をバンドに勧誘しに行くことになるわけだ。

 

 今頃は、友達モブに喜多ちゃんが追い付いて、会話を交わしている頃だと思うんだけど……。

 ……んー、駄目だな。

 距離が離れてしまった会話は、もう聞き取れない。もうちょっと広い範囲に盗聴器をしかけるべきだったかな……。

 

『ぺちょ』

 

 あ、後藤のアイデンティティが崩壊する音~♡♡♡

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ……と。

 ここまでは、全ての事態が私の想定通りに進んでいた。

 

 まぁそれも、当然と言えば当然だろう。

 なにせ私は前世の記憶を持っている。謂わば正答を持った状態でテストを受けているに等しい状態だ。

 未来予知の1つや2つもできなければ、転生者の名が廃るってものだ。

 

 だが……そうして弛緩した精神が、あるいはフラグになってしまったのだろうか。

 

 私のプランでは、ここから後藤は勇気を振り絞って喜多ちゃんのクラスに出向き、突然のヒューマンビートボックスを披露したり、逃げ出した先で今度は喜多ちゃんに見つかったり、彼女にギターを教えることになったり、そしてそれを交換条件に彼女にバンドに入ってもらえることになったりするはずだったんだが……。

 

 現実は、完全に想定通りには進まなかった。

 

 

 

「あっ、あああっあ、あの!」

「後藤? どうしたの?」

「あっ、その、一緒に!! 一緒に、勧誘行ってくれませんか!!!」

 

 彼女は拳を握りしめ、ちょっと作画崩壊気味の必死の形相で、そう言ってきたんだ。

 

 私に。

 灰炉茶子に。

 

 

 

 …………え?

 

 なんで?

 なんで私??

 

「えと、勧誘? 何の?」

「あっえっと、その、結束バンドのボーカル……」

「ボーカル? 候補見つけたの?」

「あ、は、はい……」

 

 振り絞った勇気のガス欠だろう、後藤の言葉は徐々に尻すぼみになっていく。

 だけど私には、それを認識する余裕もなかった。

 

 

 

 え、っと……ちょっと待ってね?

 

 私? なんで私に相談する? ただのクラスメイトじゃん? ただのモブだよ? え、なんで?

 

 あぁそっか、私は……一応、後藤とバイト仲間ではあるのか。

 でも、そこまで信頼度を稼ぎ過ぎないようにしてたつもりだったんだけどな? そんな仲良くもないバイト仲間に後藤が声かけるわけなくない? あれ、なんで? なんでなんでなんで???

 

 ……いや、落ち着け。

 そうだ、一旦落ち着こう。ビークル、カムダウンだ私。

 

 とにかく、今大事なのは、後藤が私を頼ってくれたこと。

 それは、それ自体は嬉しい。そりゃもうどちゃくそ嬉しい。出た脳汁で頭破裂しそうなくらいだ。

 

 いや、そうじゃなくて。私のこととかどうでもよくて。

 問題は目の前の後藤だ。私が答えに窮してるからどんどん作画崩壊が進んでいる後藤だ。このままじゃあと5秒程度でイソスタ案件。あの機械音声ちょっと聞いてみたいな。じゃなくて。

 

 だから、そう、ひとまず後藤の言葉に応えないと。

 

「後藤、大丈夫だよ。面倒でもなければ嫌でもない、むしろ後藤が頼ってくれるのはすごく嬉しい。ありがとう、私に協力させてくれて。

 えっと……それじゃあ、行こうか。未来の結束バンドのギター、その候補の勧誘に」

「はっ、はい!」

 

 うわっ笑顔眩しっ! ちょ、マジで後藤の笑顔可愛すぎでしょ♡ 犯罪犯罪! こんなの可愛すぎ罪!

 

 あぁもう、こんなことでそんなに喜ばなくていいのに。

 後藤、あんまり人付き合いの多い方じゃないから、こんなことでも誰かと協力できて嬉しいんだね♡♡

 これからは結束バンドで人付き合いの経験を積んでいくだろうから、この初々しさは今だけのものだろうなぁ。あぁ今日も推しが愛しい~~~♡♡♡

 

 

 

 ……いや。

 

 いや、待て待て待て待て待て。

 

 思わず舞い上がっちゃったけど、どうしようこれ!?

 後藤が1人で喜多ちゃんを勧誘に行かない!? 私なんかを頼るゥ!?

 めちゃくちゃ原作ブレイクだぞ! いや軌道修正はできる範囲……だと思うけども!!

 

 私、この時点ではまだ喜多ちゃんと学校で会うつもりはなかったのに……。

 あーもう、計画ぐちゃぐちゃだよこれ! やってくれたなぁ後藤ひとり! 大好きだよッ!!♡♡♡

 

 …………いや、落ち着け。とにかく落ち着いて、ここからどうするかを考えないと。

 

 後藤からの好感度調整ミスか、私の立てた計画は崩れてしまった。

 そうして崩れてしまったからには嘆いても仕方がない。どうにかここから、原作の流れに添えるように、物語を調整しなくては……。

 

 私はその方法を考えながら、後藤の隣、喜多ちゃんのクラスに歩いていたんだけど……。

 ふと、後藤が私に声をかけてくる。いや「ふと」っていうかめちゃくちゃ頑張ってようやく口を開いたって感じだったけども。

 

「そ、その、すみません、巻き込んじゃって」

「ん、なんで謝るの?」

「いやその、せっかくのお昼休み、わざわざお時間をいただいてしまって……」

「時間くらいいくらでもあげるよ。後藤とはバイト仲間だし……何より私、後藤たち結束バンドのこと、応援してるんだから」

 

 いや、本当に。時間くらいいくらでも持って行ってくれていいんだ。

 私に協力できることがあればするし、時間でもお金でも、何でも持って行ってくれていい。

 

 だって後藤は、私の最推しなんだから。

 

「あっ、ありがとうございます……!」

「うん……良い笑顔だ。やっぱり後藤は可愛いね」

「えっ、あっ可愛い!? そっそんな、私、えへへぇ……」

「うん、すっごく可愛い。流石後藤。最高。最推し。世界一可愛いよ」

「へへへ、ふふ、そんなそんなぁ、世界一なんてぇ!」

 

 相変わらず褒め言葉に弱い後藤を存分に褒め倒しながら歩いている内に……。

 

 いよいよ、目的地にたどり着いてしまった。

 

 

 

「あっ、ここ……あの赤い髪の子です!」

「あー……うん、そう、そうだよね……うん……」

 

 後藤と一緒に教室のドアを薄く開き、中を覗き見る。

 そこにいたのは当然ながら、席について次の授業の準備をしているらしい喜多ちゃんだ。

 

「こっ声……声かけてください……!」

「私? いや私は声かけないよ。流石に勧誘は後藤の担当」

「え、でっでででも、な、なんて声かければ……」

「『バンドに興味ありませんか?』とかでいいんじゃない?」

「い、いやでも、こんな陰キャが他のクラスの女の子に話しかけたりなんかしたら、雰囲気ぶち壊し罪に問われたりしてぇ……!」

「被害妄想だよそれ。後藤もわかってるんでしょ?」

「う゛っ゛」

「大丈夫。私がここで見とくから」

「でっでもぉ……心の準備がぁ……!」

「よしわかった、それじゃ今から10秒だ、10秒で覚悟決めよう。ね?」

「じゅっじゅじゅじゅじゅうびょう!?」

「はいあと6、5、4……」

「あっ、あわわ、あわわわわ……!」

 

 教室の前で、私と後藤がわちゃわちゃとしていると……いやこれマジで楽しいな、一生後藤と話してたい。というか推しと話せるのマジ幸せすぎて逆に吐きそうなんだが? はーこんなことできるとか私前世でどんな徳積んだんだろうね。いや普通にただのオタクだったが? オイオイ人生って理不尽だな、何もしてないオタクなのにこんなことされてよろしいんですか??

 

 ……などと思いながら、そうしてわちゃわちゃしていると。

 

「あれ、え!? 茶子ちゃん!? ……と、2組の後藤さん?」

 

 結局、喜多ちゃんにバレてしまった。

 

「ビャッ」

 

 面白過ぎる悲鳴を上げて、私の背後に隠れる後藤。

 明らかに捉える主体が私になってしまっている喜多ちゃん。

 そして、2人の推しに挟まれて、心臓が千切れんばかりに高鳴り続ける私。

 

 状況は私の予測を外れに外れ、外れまくり、正しく混迷の様を成していた。

 

 

 

 ……どうしてこうなった?

 

 いや本当にどうしてこうなった!?!?

 

 

 







 ここまでに転生者ちゃんが取った行動
 ・後藤をSTARRYに受け入れ、「またね」と言う。
 ・バイトを始めた後藤にすべきことを教えたり、わざわざ資料を作ってくる。
 ・ことあるごとに後藤を褒め倒す。
 ・結束バンドを応援していると告げる。



(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
 何故か転生者ちゃんを高2にしちゃってました。こういう地味なところに気付いていただける読者様にいつも支えていただいています。
 あと「『たけのこ』が『きのこ』に優る」のは誤字じゃないです。誤字報告送ったヤツ出でこい。
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