ぼざろ世界を全力で楽しみたい転生者の話   作:アリマリア

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 ちょっと調子崩して遅れました。
 今回は転生者ちゃん史上最大のやらかしの話。喜多ちゃん視点。




ただし、彼女にとって転生者はファム・ファタルであったとする。(喜)

 

 

 

 結束バンドに再び迎えてもらって、数日。

 私は彼女と……茶子ちゃんと、一緒にお出かけする約束を取り付けた。

 

 深い意味はないの。

 ただこの前のお礼と……それから、すっきりした気持ちで、改めて遊びたかったってだけ。

 

 前回一緒にライブハウスに行った時も、私はずっと内心で怯えてたんだ。

 あのことを問い質されるんじゃないか、非難されるんじゃないか……そして、彼女に嫌われてしまうんじゃないかって。

 

 そんな気持ちから解放された今、改めて昔の友達と遊びたかった、ってだけ。

 

 ……まぁ、あの時も、茶子ちゃんは私を否定したりしなかったけどね。

 まるで私を見守ってくれるお母さんみたいな優しい目をして、「きっと大丈夫」って言ってくれたんだ。

 

 やっぱり茶子ちゃんは、優しい。

 見た目もそうだけど、中身もあの頃と全然変わらない。

 

 何の見返りもないのに友達を支えてくれる、優しい女の子のままだ。

 

 できれば、これからも長く付き合っていたいと思う。

 

 

 

 でも……きっと。

 

 手を離せば、この子は煙のように消えてしまうんだろうな。

 

 ……あの時みたいに。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 あの日。

 小学5年生になって、クラスで顔合わせする時に。

 

 私は彼女に、灰炉茶子という女の子に出会った。

 

 突然大きな声で名前を呼ばれて視線を向けた先。

 そこにあった彼女の顔を見て、その顔の美しさに、可愛らしさに、あまりにも完璧な造形に、思わず息を呑んだことを覚えてる。

 

 そう、その子の顔は、「完璧」だったの。

 

 歳相応の女の子らしい可愛らしさ。未成熟だけど女性らしい艶やかさ。そして非人間的なまでの、息を呑むくらいの美しさ。

 その全てが、本当に完璧なバランスで共存してる、どうしようもないくらいに綺麗な顔。

 誰かが絵に描いたような、いいえ、きっと誰一人として描くこともできないくらい非現実的な、とんでもない容姿。

 

 ……そういえば当時、噂になってたのよね。

 隣の組に、とんでもなく可愛い女の子がいる。

 その子は本当に、どんなアイドルや俳優なんかよりずっとずっと美人だって。

 

 当時の私は、それをただの誇張だと思ってた。

 まさか本当に、ここまで美人だとは思ってなかったの。

 何度か遊びに来た時には、彼女はいつも机にうつ伏せになって寝てたみたいだったし、私はそれまでに彼女の顔を見たことがなくて……。

 友達が何度も「本当に可愛いんだよ!」って言ってくるのも、ただおおげさに言ってるだけだって思ってたんだ。

 

 

 

 ……でも、考えてみれば、当時から違和感は覚えてた気がする。

 

 小学校に限らず、学校っていう場所では、周りの皆と合わせていかないといけない。

 空気を読むのは必須技能で、今の流行りを敏感にキャッチしたり、皆の考えてることを察さないと、グループから弾かれたり駄目な子扱いされたりしちゃうから。

 

 当時の私は、そういうことを避けるのに必死だった。

 ……あ、別に悪い意味じゃなくて。

 私はただ、皆と一緒にいるのが好きだったから、皆に嫌な思いをさせないように、皆と楽しい時間が過ごせるようにって頑張ってたんだ。

 

 そして、多分、そういうのが「普通」の生き方なんだと思う。

 私の周りにいる子も、他のグループにいる子も、そして明確なグループには属してなかった子も、皆多かれ少なかれそういうことを気にしてたもの。

 

 

 

 でも、噂を聞くに、その子は違ったんだって。

 

 誰かと一緒にいることもない。どこかのグループに属してることもない。

 それどころか、誰かと仲良くしているところも、話しているところも……いや、学校でまともに会話をしてることさえも見たことがない、って。

 

 孤高って言えば聞こえはいいけど、ハッキリ言えば、その女の子は浮いていたの。

 どこにも、誰にも馴染むことができず、孤立してた。

 

 

 

 多分、それが「普通」の子であれば、すぐに折れてたと思う。

 クラスじゃ自分よりもずっと勢力の強い集団に囲まれることになるし、「なんで馴染めないんだ」って周りから咎められることにもなる。

 それはきっと、普通の子には耐えられないくらいに怖いことで……。

 

 ……けれど、その子は孤立を恐れもしていなければ、周囲に咎められることもなかった。

 むしろ周りが、彼女に気を遣っていたんだ。

 

 

 

 孤立してるのに皆から一目置かれるなんて、そんなことあるの? って思ってたけど……。

 こうして彼女の顔を見て、その疑問は簡単に氷解した。

 

 私たちが友達に共感を求めているのは、クラスメイトの子たちが同じ子供だからだ。

 でも、目の前にいる彼女は……その美しさは、とてもじゃないけど「同じ子供」じゃない。

 

 勿論、友達になれれば嬉しい。そんなに綺麗な人と友達になれるのは、一種のステータスだもの。

 けれど、彼女がそれを拒否してきても、こちらからは何も言えない。「そりゃそうだよね」としか思えない。自分たちのグループに入らずに独立していても、何一つ文句も言えはしない。

 

 まるで、教室にもう1人先生がいるみたいだった。

 先生とは友達になれない。先生と自分たちが違っていても、否定はできないもの。

 

 とにかく。

 自分たちと「あの子」は、それくらい違うんだって……。

 まだ子供である私たちにさえそう思わせるくらい、彼女はとんでもなく、綺麗だったんだ。

 

 

 

 

 勿論、私もそんな彼女の美しさに呑まれた。

 

 なんて綺麗な子なんだろう、なんてキラキラしてるんだろう。

 この子と仲良くなりたい、この子と友達になりたい、こんな特別な人と一緒にいられたらどれだけ幸せなんだろう、って。

 

 ……でも、同時に、ちょっと諦めてもいたのよね。

 そのとんでもなく綺麗な女の子は、クラスメイトに全然興味がないって聞いてたから。

 

 話しかけても無視されるか、もしくは酷くつまらなそうに切り捨てられるか。

 お前らに興味なんてない、話しかけるな、くだらないって、その表情にありありと出てるんだって。

 ……そんな視線を向けられるだけでも満足しちゃうくらいに暴力的な「美」を持ってたから、先生さえも怒るに怒れなかったらしいけど。

 

 だから私は、彼女の机の方に駆け寄って、お名前を尋ねて、駄目元で友達になろうって言って……。

 

 

 

「えっと……うん、はい」

 

 

 

 大きな目をぱちくりしながら頷かれて、思わずびっくりしちゃったのよね。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 当時から、私は「普通」の女の子だった。

 友達と一緒にいるのが好きで、楽しい気持ちを共有するのが好きで、趣味を共有したり合わせたりする……悪い言い方をすれば、これっていう拘りのない女の子。

 

 だから、彼女は私に興味なんて持たないだろうって思ってたんだ。

 

 誰が声をかけても、たとえそれが先生だろうと冷たくあしらう氷の君。

 そんな子が、ただの女の子の私に、興味を持つはずがないって。

 友達になろうなんて言っても、そんなの受け入れられるわけがないって。

 

 でも、彼女はそれを許してくれた。

 唯一無二、私にだけ、許してくれたんだ。

 

 だから、夢中になったの。

 

 その1日、暇さえあれば茶子ちゃんのところに行って、彼女らしくなく──後から思えば、ただ学校ではそういう面を見せてなかっただけで、それもまた茶子ちゃんなんだろうけど──ちょっとおどおどする彼女に、色々と話しかけた。

 いつも読んでる雑誌とか、可愛いポーチとか、使ってるコンディショナーとか、そういういつもの話。

 

 彼女は私の取りすがるような話を、一見無表情なんだけど、時々面白がるような、むず痒いような、あるいは痛々しく思うような顔で聞いてくれた。

 ……冷静になると、話に熱中しすぎてちょっと支離滅裂になっちゃったくらいだと思うんだけど……それでも彼女は、ちゃんと聞いてくれたんだ。

 

 だから私、少しは仲良くなれたかなって、友達になれたかなって、そう思って……。

 

 

 

 思って、たん、だけど。

 

 

 

 

 

 

 次の日、茶子ちゃんは学校に来なかった。

 

 何があったのか不安になって、私が訪ねた先で茶子ちゃんのご両親は……。

 茶子ちゃんが、事故でその顔に包丁を突き刺してしまったのだと、そう言った。

 

 

 

 

 

 

 私は放課後すぐ、彼女が入院しているという病院にお見舞いに行って、茶子ちゃんに会って。

 

「え、喜多ちゃ、痛っ」

「え…………」

 

 言葉が、出なかった。

 

 彼女は私を見て、驚きに声を上げかけて痛みに顔を歪め、そしてベッドサイドにあったマスクを付けたんだけど……。

 

 隠される直前に見た、彼女の素顔。

 それが今でも、まぶたの裏に焼き付いている。

 

 

 

 グロテスクな赤黒い傷痕が、大きく大きく頬に走って……。

 

 彼女の完璧な造形は、そのたった1つの傷によって、完全にバランスを崩してしまっていた。

 

 

 

 なんでもその傷痕は、薄まることはあっても、完全に治ることはないって。

 

 

 

 

 

 

 あの日、たった1日だけ見た彼女の美しさは……。

 永遠に、喪われてしまったの。

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 勘違いしてほしくはないんだけど、その傷で致命的に茶子ちゃんの魅力がなくなったわけじゃないのよ。

 例えるなら、あり得ない程綺麗だった顔が、その傷痕まで含めてようやくあり得るライン……街中にいたら思わず振り向くくらいのものになっただけっていうか。

 

 茶子ちゃんが可愛いってことは変わらないし……私にとって、友達であることには変わりがない。

 

 ……いや、むしろ私にとっては、それ以上になったのかもしれない、かな。

 

 

 

 こんなの、ただの妄想に過ぎないってわかってるんだけど……。

 

 あの日、もしも私が、もっと茶子ちゃんの周りにいたら。

 それこそ彼女の家に遊びに行くとか、彼女に電話するとかすれば、起こる事故を止められたんじゃないか、って。

 今でも時々、そんなことを思ってしまう。

 

 せっかく友達になったのに、あんなに綺麗な顔だったのに……それが失われたことが、どうしようもなく虚しくて。

 だから、もしかしたらどうにかできたんじゃないかって……。

 もっと手を伸ばせば、彼女は救われたんじゃないかって、そう思ってしまうんだ。

 

 

 

 だから、ってわけじゃないけど……。

 私はその日からも、茶子ちゃんの近くに居続けた。

 

 彼女の一番の友達であろうと、積極的に話しかけて、一緒に遊んだ。授業の時はペアを組んだし、放課後も一緒に帰ったりもした。

 

 茶子ちゃんは私が話しかけると、いつもちょっと困ったような表情をした。

 でも話している内、すぐに仕方なさそうな、けれどちょっと嬉しそうな顔になるんだ。

 それが、私は嬉しかった。友達として、彼女に認められている気がして。

 

 それに、茶子ちゃんはいつも私をたすけてくれたんだ。

 私がちょっとしたことで男子にからかわれたら、すぐに飛んで来て男子たちを追っ払ってくれたり。

 勉強でわからないところがあったら、優しく、かつわかりやすく教えてくれたり。

 

 氷の君、だなんて言われてたけど、そんなあだ名は彼女には相応しくない。

 茶子ちゃんは、友達には……私には、すっごく優しい人。

 

 まるでお母さんみたいに優しくて、お父さんみたいに頼もしい彼女の、すぐ隣。

 彼女と誰よりも親しい友達として、私はずっと茶子ちゃんの隣にいた。

 

 ……ずっと、そんな毎日が続くんだと、呑気に思い込んでいた。

 

 

 

 そんな中で。

 

「……なんで喜多ちゃんは、私と一緒にいてくれるの?」

 

 彼女が、そう聞いて来たのを覚えてる。

 

 私は……なんて答えたかな。多分、友達だから、って言った気がする。

 

 そしたら、茶子ちゃんは……。

 

「…………そっか」

 

 そう、どこか寂しそうに笑った。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ……それから2週間後。

 

「皆さんに大事なお知らせがあります。

 灰炉茶子さんは、ご家庭の事情で転校することになりました」

 

 私は、唐突に、その事実を知らされた。

 

 

 

 その時、私は学んだの。

 

 大事なものは、しっかり手を伸ばしていないと、取り落としてしまうんだって。

 

 もっと一緒にいたいって、恥ずかしがらずに言えば良かった。

 もっともっと、彼女と色んな話ができれば良かった。

 もっともっともっと、茶子ちゃんと仲良くなって、引っ越すって話を聞ければ……良かったのに。

 

 何もしなかったから。

 この毎日が、当然のように続くと、そう慢心していたから。

 

 私は、大事な友達を、失ってしまったんだ。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 それから何年も経って。

 私は、茶子ちゃんと再会できた。

 

 本当に偶然……考えられないくらいの偶然の果て。

 私が入ったロックバンドの拠点、ライブハウスSTARRYで、彼女はバイトをしてたんだ。

 

 すごく、すごく嬉しかった。

 内心の興奮を抑えるのに必死になるくらい、嬉しかった。

 

 彼女と再会できたこと。もしかしたら、また友達になることができるかもしれないこと。

 それが、涙が出そうになるくらいに嬉しくて……。

 

 

 

 だから、「今度こそは」って思ったんだ。

 

 今度こそ頑張る。

 手に入れたもの、繋がった縁が切れないように頑張るって、そう思って……。

 

 それなのに……。

 

「…………そんな」

 

 私のギターの腕前は、全く上がらなかった。

 

 

 

 私はリョウ先輩に憧れて、ギターを弾けるって偽って結束バンドに入った。

 その決断自体は……正直、今でもそこまで後悔してない。

 何事も積極的にならないと、相手との繋がりを作ったり、維持したりはできないって、知ってたから。

 

 だけど、先輩2人に迷惑をかけたいってわけでもない。

 だからお父さんにお小遣いを前借りして、ギターを買って、なんとか初ライブまでにはまともな演奏ができるよう、必死に練習したの。

 

 ……頑張らないと。

 頑張らないと、また繋がりが切れちゃう。

 いつだって頑張らないと、頑張り続けないと、先輩たちとの、茶子ちゃんとの繋がりがまた切れちゃうんだって……知ってたから。 

 

 

 

 だけど、どれだけやったって私のギターからは、まともな音が出なくて……。

 

「……また、駄目なの?」

 

 情けなくて、辛くて、怖くて、苦しくて。

 

 私は……逃げ出しちゃったんだ。

 

 リョウ先輩と、伊地知先輩と、そして茶子ちゃんとの縁を作ってくれた、ライブハウスから。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ……でも。

 

『失敗したり、間違ったり、迷惑かけたり……でも、そういうのを受け入れて、それでも同じバンドのメンバーをやっていく。それこそ、家族みたいにね。

 ……なんて、楽器もやってない私が言えることじゃないけどさ』

 

 せめてちゃんと打ち明けようって思った時。

 チャコちゃんは、そう言ってくれた。

 

『喜多ちゃんも! これから結束バンド、一緒に盛り上げてほしいな!』

『えー? だって喜多ちゃんが逃げ出してなかったら、ぼっちちゃんとも会えてなかったよ?』

『あたしもずっとバンドやりたかったからさー、引け目感じちゃうのも、でもまだ憧れちゃうのも、気持ちわかるんだよね』

 

 私がやっぱり駄目だって思ったその時。

 伊地知先輩は、私の失敗をプラスに捉えて、受け入れて、共感してくれた。

 

『かなりギター練習してないとならない』

『スタジオ代もノルマも4分割』

 

 私が少しだけ希望を持った時。

 リョウ先輩は、言葉少なに、こんな私のことを温かく受け入れてくれた。

 

『わ、私もですっ!』

 

 私が諦めかけた時。

 後藤さんは、ここに連れて来てくれて、私の密かな頑張りに気付いてくれて、ギターを教えてくれるって約束してくれた。

 

 

 

 もう1度、私にはチャンスが与えられたんだ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 もう、あり得ないって思った。

 先輩たちとも、茶子ちゃんとも、また離れてしまうんだって。

 

 でも、先輩たちと茶子ちゃん、それに後藤さんのおかげで、私はまだSTARRYにいられる。

 結束バンドのギターとして、先輩たちと後藤さんとバンドを組めて、茶子ちゃんともまた会える。

 

 それが、嬉しい。

 

「喜多ちゃん?」

 

 こうしてあなたと、茶子ちゃんと、普通に話せることが嬉しい。

 もう1度友達になれたことが、心の底から嬉しいの。

 

「ん、ごめんね、茶子ちゃん」

 

 だからこそ。

 

 茶子ちゃん。

 今度こそ、私、絶対逃げ出さない。

 

 結束バンドからも、STARRYからも、リョウ先輩や伊地知先輩からも、後藤さんからも、当然茶子ちゃんからも。

 この手を、絶対離さないからね。

 

「さ、茶子ちゃん、デートに行きましょ!」

「でっ、ででっ、デートォ!?」

 

 

 







 転生者ちゃん

 実は人智を超えた領域の美しさになる(app19くらい)という転生特典を持っていたが、自分や自分の評価への興味のなさから全く気付かなかったアホ。
 今は傷が付いた上マスクをしているのでスケールダウンし、かなりの美人程度(app16くらい)になっている。



(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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