ぼざろ世界を全力で楽しみたい転生者の話   作:アリマリア

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 今回は本編をちょっと離れて、転生者ちゃんとその家族のお話。





ただし、それが転生者と家族の日常であるとする。

 

 

 

 喜多ちゃんが無事に結束バンドに再合流し、真の意味での結束バンドメンバーが揃った次の日の朝。

 

 当然ながら、私は上機嫌だった。

 この上なく、とんでもなく上機嫌だった。

 

「ふふんふんふんふふんふーん♪ ふふふふふふふふふんふふんふふーん♪」

 

 もう鼻歌なんて歌っちゃう。ちなみに今お聞きいただいたのは、未だに耳に焼き付いて離れない結束バンド*1の結束バンド*2の曲、ひとりぼっち東京。

 あれ、そこまでメッセージ性とかが良いわけじゃないけど、あの明らかな”陽”オーラ、結束バンド*3の中では異形感強くて好きなんだよねぇ。揚げたてのポテトはラッキー☆

 流石は結束バンド*4の中ではただ一人の陽キャ、喜多郁代作詞。あまりにも結束バンド*5してなさすぎてもう結束バンド*6というよりは断裂バンドである。

 

 あー、この世界でひとりぼっち東京を聞けるのはいつになるんだろうな。

 多分原作漫画の5巻で作詞してたヤツ、あるいはそれをモチーフにしてる曲だろうし、えーと、時系列から考えて……実際に聞くのは、少なくとも、1年半後……?

 うわ、死にたくなってきたな。いや嘘絶対死なないッ!! 結束バンドの曲を生で聞ける機会なんて、ここで死んだら二度と訪れはしないんだからッ!!

 

 それに何より、もう結束バンドは結束したもんねー!

 いつになるかはわかんないけど、いずれは絶対に聞けるんだ! ギターと孤独と青い惑星も、あのバンドも、忘れてやらないも星座になれたらも、その他結束バンド*7収録楽曲全14曲も!!

 ……いや、最後の1曲は流石に無理か。あんま詳しくないけど、めちゃくちゃ有名なバンドのカバー曲らしいし。

 

 とにかく、この世界は問題なく原作の展開に結び付いた。

 以後私がすべきことは、ただSTARRYでバイトしてるだけのモブとして、彼女たちの道筋を楽しむだけ! ボーナスステージだ! いえーい!!

 

 

 

 * * *

 

 

 

 何故私が、こんなにもテンションが高いか。そこにはちゃんとした理由がある。

 だけど、それを直に話すのは、少しばかり難しいから……一旦、ちょっと関係なさそうなことを訊こう。

 

 

 

 ぼっち・ざ・ろっく! というストーリーの中で、最もシリアスで危機的だったタイミングはいつか?

 

 

 

 この問いを投げかけた時、当然ながら人によって答えは違ってくると思う。

 

 後藤がクソみたいな量産型陽キャ歌詞を書いた時?

 オーディションで後藤が「このまま終わりたくない!」と踏み出した時?

 初ライブで後藤が流れを変えるためにギターソロを披露した時?

 学園祭で弦が切れた上にペグが故障して絶望しかけた時?

 もしくは……ここからはそれとなく言葉を濁すけど、「っていうか”ガチ”じゃないですよね」の時?

 山田がゆるきゃんし始めた時?

 ハードロック扱いされてライブハウスに呼ばれた時?

 未確認ライオットの最終ステージ進出発表の時?

 虹夏ちゃんが追い詰められちゃった時?

 ……それとも、やっぱり番外編、星に手向けるあいの花?

 

 うんうん、どの答えにしろ、それもまた解釈の1つ。

 この世界に絶対的な真実、プラトンの語ったイデアのようなものが存在しない以上、どれが一番のシリアスなのかは視聴者や読者が決めるものだ。そこに意見や考えがあったとしても、正答は存在しない。

 

 そう、作品をどう捉え、どのような解釈を抱くか。それは消費者に全て委ねられているのである。

 確かなことは、それこそ後藤がノンケではないってことだけ。これだけは唯一無二の絶対真理なわけだけど、それ以外は絶無と言っていいだろう。

 

 

 

 ……が、私は個人的に、こう思うんだ。

 

 結束バンドにとっての一番の危機は、喜多ちゃんがしっかりと立ち直り、加入するまでだって。

 

 だってここまでって、めちゃくちゃに詰みのルートがあるんだよ。

 後藤が虹夏ちゃんの手を取らないかもしれない。

 バイトで一歩を踏み出さないかもしれない。

 喜多ちゃんに会わないかもしれない。

 そして、喜多ちゃんを引き留められないかもしれない。

 

 これは決められたストーリーが描かれる紙の上や映像作品ではない。彼女たちにとって、そして今世の私にとっての現実世界だ。

 彼女たちも生き物である以上、必ずしも原作正史の通りの道を行くとは限らない。私の存在がバタフライエフェクトを起こし、イフルートのバッドエンドに突入する可能性も存在するだろう。まぁ私程度が何かできるとは思い難いけども……。

 

 とにかく、原作沿いの展開を望む系転生者の私としては、彼女たちの活躍を楽しみながらも、気の抜けない日々が続いてたんだ。

 

 

 

 でも、結束バンドが揃った今、それらの可能性は大幅に減ったと言っていいだろう。

 彼女たち結束バンドの強さは、やはりその結束力。

 誰かが凹めば誰か──半分くらいは我らが主人公(ヒーロー)後藤ひとり──が支える。皆は1人のために、1人は皆のために。そうやって活動を続けられる仲良し(ゆりゆり)4人組だ。

 だからこそ、ちゃんと彼女たちが結びついた今、ちょっとやそっとのことじゃ破綻なんてしないだろう。

 

 ……そう。

 結束バンドが揃った今。

 この時を以てようやく、私は色んな我慢をやめて、この世界を本当に楽しむことができるようになったわけだ。

 

 だからこそ、私は今、最高にハイってヤツなワケ!

 例えるなら、ようやくテスト期間が終わって勉強から解放された高校生だ! いやまぁ私テスト勉強とかあんましたことないけども。授業聞いてたら満点取れるし。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「ふふふんふふんふんふーん、ふふふんふふんふふーん♪」

 

 いや~、もう最高に気持ち良いね! これでようやく本懐が果たせるってもんですから!

 それに、やっぱり結束バンド結束の瞬間はめっっっっっちゃ良かった!! 私っていう異物が混入していたとはいえ、それでもなお陰りが見えないくらいには良かった!

 

 太陽の光と言う程眩しくはなく、けれど夜空のように煌めいて美しく。

 それはまさしく、今はまだ弱く光る星々が星座として結びついた、その瞬間。

 

 はぁ……思い出しても涙が出そうなくらいには良かったよね……!

 昨晩も30回くらいヘビロテしたけど、登校前にまた映像見返そうかな。いやぁ、高画質・高音質の録画残しておいてよかった~~! 後藤の必死の言葉や喜多ちゃんの頑張る宣言が脳に沁みる……! 今はもうガンに効くが、その内不老不死の妙薬になる。まぁ誰にも渡さないから門外不出だがね?

 

 

 

「うふ、うへ、にへへぇ……」

 

 我ながらひっどい蕩けた顔してるだろうけど、そのまま自室を出てリビングへ向かう。

 普通にしてたらすぐ昨日のこと思い出しちゃうし、思い出したら楽しくなっちゃう。まさに笑顔の永久機関、これでノーベル賞は結束バンドんモンだぜ~!!

 

 ……と、そんな感じで私は、生まれて初めて彼女ができた時の男子高校生並みに浮かれポンチになっていたのだが。

 

 スキップするような軽快な足取りで踏み入れたリビング。

 そこにいた2人の人間、つまりは私の両親は、そんな私の様子を見てギョッとした表情を浮かべた。

 

 ……いや、驚くのとは微妙にニュアンスが違うか。

 私の目がおかしくないのなら……なんかビビってるっぽくない?

 

「茶、茶子……?」

「えっと、茶子ちゃん、どうしたの? 頭でも打った?」

「なんですかいきなり失礼な。私は至って正常ですよ」

 

 いや、この世界の平均的一般人を正常であるとするなら、ぼざろ好き好きオタク系転生者の私は異常なんだろうけど……。

 恐らく両親の指すニュアンス、普段の私を基準にするとしたら、今も正常そのものだ。

 私はいつだって結束バンドのことが大好きなだけの一般モブ、それはどんな状況であれ変わらないよ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 さて、と……改めて、2人の男女のことを見る。

 

 片や、私の父。丸縁の眼鏡をかけた、ちょっと童顔で穏やかそうな男性。

 

 実際その性格には尖ったところがなく、非常に緩い感じのパパ上となっている。

 まぁ私が自傷した時は流石にしっかり叱責されたけど、逆に言えばそれくらいしか怒られた覚えがない。どっちかと言うと怒るのはお母さんの領分だからね。

 

 好物はお母さんの料理(建前)と回転寿司で食べるラーメン(本音)。普通に趣味が悪いと思う。サーモンとかイカとか食えよ普通に。

 趣味はサイクリングと読書で特技はグラフィックデザイン。体を動かすのも頭を動かすのも得意なタイプである。

 頻出する癖は眼鏡のブリッジ部分をキザにくいっと上げることで、これは学生の時にカッコ良いと思ってやってたら沁みついちゃったらしく、めちゃくちゃに恥じているみたいだ。トランプとかやってる時に指摘すると顔真っ赤にしてプレイが単調になる。効いてる効いてるw

 

 

 

 片や、私の母。未だに見た目に引っ張られて私を子供扱いしてくる、ちょっと困った女性。

 

 色々と緩いところのある父のストッパーであり、この家庭の大黒柱と言っていい存在だ。

 ほんのちょっとヒステリー気味だったり毒舌なところがあるのがたまに瑕かな。いや毒舌なのはそれはそれで需要がありそうだけど。

 

 好物はちょっとお高めのマカロンとかの洋菓子で、私も時々ご相伴にあずかる。

 趣味はちょっとソシャゲ触るくらいで、特技は料理かな。お母さんの創作料理は大体4割の可能性で美味しくて、4割くらい普通で、2割微妙。そんな感じの、普通という領分を出ないスキルだね。

 

 

 

 ……と。

 そんな、ちょこっとキャラの濃いお父さんとお母さんから生まれたのがこの私、灰炉茶子。

 

 この3人が、私の家族の全容である。

 

 ちなみにパワーバランス的には、母が上で父が下。

 でもって私は……うん、ピラミッドの外にいるって感じ? あんまり強いとか弱いとかはないかな。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ……さて。

 そんな両親たちは何故か、このルンルン茶子ちゃんを見て、少し怯えたような視線を向けて来ていた。

 私はそれに首を傾げながらも、既に朝食の用意されていた食卓に着く。

 甘めのスクランブルエッグと香り高いトースト、一杯の牛乳にサラダ。毎日ちょこっと変化を見せる、けれどいつも美味しいメニューだ。

 何もせずとも食事が出てくる環境、そして作ってくれるお母さんに感謝だね。

 

「……で、なんですか。私のテンションが高かったらおかしいですか」

「い、いや、おかしいってことは……ないよ? なぁ、母さん?」

「いやおかしいでしょ。茶子ちゃんがそんな調子だと、あの……」

「母さん!」

 

 お父さんはどことなく慌てた様子で、言葉で以てお母さんの口を閉ざした。

 あのって何? 私がこんな調子だとどうだって言うんだ。むしろ一人娘がニコニコしてたら親としちゃ嬉しいモンじゃないのかね。

 

 ……まぁいいや。今の私に親心ってヤツは難しすぎる。

 とにかくまずは朝食を取ろう。健全な推し事は健全な食事から、腹が減っては推し活ができぬ。

 

 「いただきます」とお決まりの呪文を唱える私に対して、両親はどこか遠慮がちに声をかけてくる。

 

「あー、その、茶子。なんでそんなに楽しそうなのか、聞いてもいいかな」

「え? 気になる? 気になりますぅ!? いいですよ教えてあげます!」

 

 オタクは推しの話ができるとなると嬉しくなってしまう。私は急激にテンションアップ、というかさっきまでのテンションを取り戻した。

 私は2人の前でピンと人差し指を立て、2人に向かってピンと人差し指を立てた。

 

 

 

「実は私、ついに人生の最大目標を達成したのです!」

 

 

 

「「えっ!?」」

 

 結束バンド結成の瞬間をこの目に捉える……。ぼざろファンとして、これ以上の努力の結実はあるまい。

 その瞬間を目撃できただけで、この世界に生まれつき、そして死に行くには十分すぎる対価と言えるだろう。いやもうホントに。

 

 そんなわけで私は、これまでの一生、そしてあるいはこれからの一生でも二度と在り得ないくらいの超絶ハイパー上機嫌だったわけだが……。

 そんな私を見て、両親は……何故か、めっちゃくちゃ慌ててるみたいだった。

 

「え、あ、それは……」

「茶、茶子! 何かこう、食べたいご飯とかない!? そうだ! 今晩は焼肉行こう! 勿論茶子が収めてくれてる生活費じゃなくてお父さんたちが出すから! 他人のお金で食べる焼肉めっちゃ美味しいよ!」

 

 お母さんは動揺したようにあたふたし、お父さんはなんか知らんけど奢るからご飯行こうとか言い出す始末。何これパパ活のお誘い? そこはかとなくキモいよ。それに焼き肉屋とか行きたくないし。

 

「え、いやいいです。焼肉行くくらいなら高いお肉取り寄せて自宅で食べましょうよ。私お母さんの料理好きですし」

「え? あ、ありがとう……」

「あ、焼肉するならサンチュとかマシュマロもあると嬉しいですね」

 

 お母さんはこう見えてかなり真面目な人なので、レシピの分量は絶対に守る。だから創作に精を出したりしない限り、絶対美味しいんだよね。

 食料系の通販で高級なお肉とか取り寄せれば、きっと美味しいの作ってくれるだろう。まぁ焼肉ならレシピも何もないが。

 

 私がちょっとだけ楽しみが増えたような気になっている中……。

 しかし両親は「そうじゃなくて!」と話を戻した。

 

「な、なんかこう、やりたいこととか食べたいものとかない!?」

「あ、そう、冷蔵庫にチーズケーキ入ってるよ! 食べていいからね!」

 

 ……うーん、なんか認識がズレてるっぽいな、コレ。

 なんでこの2人はこんな必死に……私、何か変なこと言ったっけ?

 

 えーと……。

 ……あー、そうか、わかった。

 これまでの私の行動、両親から私へのイメージ、そしてついさっき私が「人生の最大目標を達成した」って言いだしてから動揺が酷くなったことを考えるに……。

 

「あの、もしかして私、自殺すると思われてます?」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 かつて、この頬の傷を作ってしまった時。

 この両親を酷く悲しませてしまったことを、私はちょっとばかり反省した。

 

 

 

 ……ちょっとだけ、超どうでもいい自分語りをしよう。

 

 人格というのは、なかなかどうして複雑なものだ。

 それまでの人生、それまでの全ての経験がその人を作る。だから人格とか価値観というのは、そう簡単には言い表せるものじゃない。

 

 でも、強いて私の価値観を要約すれば……。

 「自分という存在には価値がない」となるだろう。

 

 あ、先に言っておくけど、別にこれはうざったい自嘲とかそんなんじゃなくて、単に私の価値観はそういうものだっていう説明ね。別に同情はいらないし、否定もあんまりされたくはないかな。

 ちょっとだけ歪んでる自覚はあるけど、私はそういう変なヤツなのだ。

 人生2周目ともなると、そういう人生観になったりもするんだよ。狂ってる? それ誉め言葉ね。別に嬉しくもないけど。

 

 ……話を戻すけど。

 私、ぼざろに出てないし、結束バンドのメンバーでもないんだよ。

 特徴と言えば、多少要領が良かったり器量良しだったことくらいだけど……才能があったり美人だったりするからと言って、人間に価値が生まれるわけでもないしね。

 で、精神的な部分で言えば……普通? ちょっとカス寄りでズレてるけど、まぁ普通の範疇か。

 

 そんな人間に、特筆すべき価値があるかな?

 80億とか存在してて、しかも日に20万も製造される人間ってヤツに、希少価値があるとは思えない。

 人類文明に何らかの寄与ができる程に知能が高いわけでもなく、社会に対して貢献したいと思う程聖人でもない。

 

 ……と、まぁ、色々理屈並べたけど、ぶっちゃけこれらは後付けだ。

 この価値観は前世譲りのもの。私は幼少期あんまり良い経験をしなかったから、自己肯定感とか自己評価が終わってるんだろうな。

 仕方ないことだよ。生まれつき環境の良い人間もいれば、そうじゃない人間もいる。それだけの話。

 

 まぁこの辺はアレだ、理解できなかったり共感できないかもしれないけど、ひとまずはそういう人もいるんだなーと流してほしい。

 

 

 

 とにかく、私は私自身、そして私の持つものに価値を感じなかった。

 

 例えば、自分の顔が如何に良かろうと、それは何の意味ももたらさないし……。

 どれだけ金銭を稼ごうと、それが何か意味を生むわけでもないと思ってる。

 

 価値のない私が自分の持つものをどう昇華しようと、あるいは浪費しようと、ゼロはゼロのまま、イチにはなれない。

 

 だからこそ、喜多ちゃんに変な影響を与えちゃうかもって思って、そこまで躊躇もなく顔をぶすっといくこともできたわけなんだけど……。

 

 私を大事な娘だと思ってくれてる両親には、その件でかなり泣かれてしまった。

 

 ……今思うと、そりゃそうなるわなって感じ。

 当時は色々アレだっとはいえ、想像力不足だったなぁ。

 

 

 

 2人に泣きながら抱きしめられて、私は……正直、ちょっと驚いた。もっと言えば、感動した。

 あぁ、子供の怪我に泣いてくれる親って実在したんだなぁ、って。

 

 私の両親は、好い人だ。

 人格的な欠陥がないとまでは言えないけど、そういう短所まで全部含めても、プラスの方がずっと多いと思う。

 

 至極普通の、どこにでもいそうな人たちであり……。

 娘の生涯残る傷に対して、自分たちの感情以上に、私の感情を想って泣いてくれる、優しい人たち。

 

 そんな人たちだからこそ、泣かせるのは間違ってるよなぁ……と。

 私は、そう思ったのだった。

 

 

 

 私には、価値がない。傷つこうと育とうと、ゼロはゼロのままだ。

 けれど、あるいは……誰かにとっての私は、価値がある存在なのかもしれない。

 それこそ、私にとってのぼざろのように、絶対的で揺るがない価値を持つのかもしれない。

 

 つまり、両親目線の今回の一件を、私の価値観で例えると。

 後藤が事故で、顔を傷つけてしまった……ということ。

 

 それは……辛い。本当に辛い。胸が裂けそうになるし、何なら裂きたくなるくらいだ。

 

 

 

 そうして私は、この人の好い両親に辛い思いを強いてしまったことを、強く強く後悔し……。

 それ以来、自傷や自殺といった行動を禁じたんだ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 自殺、という言葉を使った時、2人の親は少し怯えたように震えた。

 ……あー、完全にトラウマになっちゃってるなコレ。本当に申し訳ない。

 

 自分で言うのもなんだが、私はちょっと判断基準が特殊だ。これほど目的のためなら手段を選ばない人間もそういないだろう。

 なにせ喜多ちゃんと距離を置くために、わざわざ自分の顔に傷をつけるんだ。

 ……いや、私的にはそんなにやべー行為ではないっていうか、喜多ちゃんのために自分の一部を切り捨てるのは異常な行為じゃないんだけど、世間一般的には狂人の所業だってことは流石に理解できる。

 

 殊に両親からすれば、自分の大切な体を平然と傷つける子供というのは、少しばかり理解の外にある物だろう。

 しかしこの両親、理解できない自分たちの娘を「そういうもの」と片付けず、ちゃんと理解しようと想像を巡らせる好い人たちなのだ。

 「人生の最大目標を達成した」という言葉を、自殺という点にまで繋げて警戒しちゃうのも、仕方ないかもしれない。

 

 とはいえ、実際には私は、両親が思っているほどおかしな人間ってわけでもないんだ。

 痛いのは普通に嫌だし(まぁ仕方ないなら受け入れるけど)、怪我だってできれば避けたい(どうしても必要なら受け入れるけど)。

 誤解されてるような気がしてちょっと不服だけど、私は決して、進んで自分を傷つけたがるようなマゾヒストではないんだ。

 

 それに、2人とはあの時、約束したしね。

 

「私は約束を守ります。もうそういうことはしませんし、どうしても必要な時はちゃんと相談します。心配しなくとも覚えてますよ」

「……そっか」

「ふぅ……」

 

 2人はひとまず安心といった感じで息を吐いた。

 

 信頼ないなぁ、私。約束破るかもしれないって思われてたのか。

 ……まぁやっちゃったことがやっちゃったことだし、仕方ないんだけどね。

 

 いやぁ、人との関係って難しいよねぇ。

 そんなつもりはなかったってことでも、それが相手の理解の範疇を超えてしまうと、簡単に信頼感が失われちゃう。

 それを立て直すには誠実に行動……なんてしても意味なくて、相手が望むような、理解できる範囲の行動を取り続けなきゃいけない。それも、とっても長い時間。

 

 正直、めんどくさいなーと思わないでもないんだけど……。

 「ま、2人のためなら、それくらい頑張るか」と思うくらいには、私はこの2人を気に入っていた。

 

「よし、じゃあ改めて朝ご飯食べちゃって! 急がないと遅れちゃうよ!」

「了解でーす」

 

 迷惑をかけちゃったっていう、負い目。 

 ここまで育ててもらった、恩義。

 好ましい人たちだなっていう、感覚。

 

 すごく安直で、何のドラマ性もない、つまらない好意なんだけど……。

 ま、家族が好きだって思う感情って、案外こんなもんなのかもしれないね。

 

「ん、今日も美味しいです」

「んふ。おかわりもあるからね」

「ところで茶子? お母さんのご飯はよく褒めてるけど、お父さんのことは何か褒めたりしてくれないのかなー?」

「え、その眼鏡クイってする癖とかカッコ良いんじゃないですか(笑)」

「うぐぅぅ、若かりし頃の直らない悪癖が今襲い掛かってくるぅぅぅううう!」

 

 騒がしくて楽しい、いつもの時間。

 

 結束バンドを見守る時に比べると流石に劣るけど……。

 こういうのも、まぁ、悪くはないかな。

 

 

 

*1
バンド名

*2
アルバム名

*3
アルバム名

*4
バンド名

*5
概念

*6
商品名

*7
アルバム名







 次回からアニメ4話、それが終わったらいよいよあの5話!
 早くそこまで行きたいですねぇ! ……あと何文字かかるんだ?



(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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