ぼざろ世界を全力で楽しみたい転生者の話   作:アリマリア

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ただし、転生者もまたこの世界に生まれた人間の1人であるとする。

 

 

 

 例えば、の話だ。

 

 例えば……そうだな、自分が創作者であったとする。

 その創作の内容は、何でもいい。脚本とかシナリオ、あるいは構成なり小説なり、動画イラスト漫画デッサン石膏総合芸術、その他どんなものでも構わない。

 

 とにかく、自分が何かを創り出す立場の人間であったとして。

 

 自分が「特定の誰か」に好かれるような、あるいは満足いかせるような、もしくはあっと言わせるようなものを創りたい、と思った場合。

 その「特定の誰か」に向ける感情として、最も適切な表現は何だろうか。

 

 ……いやごめん、ちょっと違う。誤魔化しが入ったわ。

 

 より正確には、その「特定の誰か」に向ける感情は、モブに向けるそれと、果たして同じなのか?

 

 

 

「……………………いや、違うだろうなぁ」

 

 私も一時期色々な創作をしていたが、そんな想いを抱いたことはない。

 いや正確に言えば、「結束バンドの明るい未来を観測するために」という目的意識はあったので、ある意味結束バンドの皆のために創作していたことにはなるだろうけども。

 

 これは自論だけど、創作というのは自らの一部を削り出し、それを外にお見せする行為だ。

 人生観。善悪観念。思考方針。美的感覚。情熱。感情。

 そういうものを、自分の中から抽出し、想像力の上で再構成し、1つの形に作り上げる。

 

 故にこそ創作は、自分の中からしか生まれ得ない。

 これまでに積んで来た人生経験こそが、創作に色を付ける。

 

 そうして生まれた創作物は、作者の内面を映し出す。

 その人がどんな人生を歩んで来て、どんな性格をしている人間か、詳らかにしてしまうのだ。

 

 そういう意味では、自分で作った創作で誰かの関心を買いたいというのは、ある意味当然のことだ。

 創作を認められるのは、ある意味において自分を認められることに等しい。

 それを通して、いわゆる承認欲求が満たされるのである。

 後藤とか一旦ハマったら一生抜け出せなさそう。承認欲求モンスターが求めるところに限りはない。My new gear……の時のように、自分の持ちうる全てのリソースつっぱしそうだ。マジで怖いなこの子、将来的には喜多ちゃんに管理してもらわなければ。

 

 

 

 ……が。

 

 それが不特定多数ではなく、特定個人に向けられる場合は、単純な承認欲求ではない可能性が高い。

 

 多数に評価されるんじゃなく、たった1人に評価されたい。

 創作を……つまり、自分のことを好きだと言ってもらいたい。

 

 その感情は、承認欲求と言うよりは……。

 

 ああいや、勿論、私が観測し得ない何らかの事情がある可能性はあるし、というかむしろこんな荒唐無稽な現実よりも私の調査を免れた情報がどこかに転がっている方がよほど現実味があると思うが……。

 

 でも、もしかしたら、万が一、億が一、決してあり得てはならない可能性ではあるが……。

 

 

 

 

 

 

 後藤と山田は、私に、好意を持っているのではないか……?

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

「勿論自意識過剰であるというのはわかっているんです。

 私はあの子たちに、特別何かをしたわけじゃない。ただ近くで見守って、妥当な程度の賞賛を贈ったりちょっと仕事を代わりにやったり気持ち程度にお気持ちを伝えただけ。

 これは一般的な学生に置換すれば、いわば落ちた消しゴムを拾う程度の、ちょっとした優しさに過ぎません。その程度で相手を好きになる程人間は単純なものではないと、そこは理解しているつもりです」

 

 より正確に言えば、人間の中でもオタク目オタク科に属するオタク(学名オタク・オタク)たちは単純すぎて消しゴム拾ってくれた程度で好きになっちゃうものなんだけども。

 まぁ対人耐性レベルって、ひとえに対人関係のコミュニケーション回数でしか経験値得られないからね。あんまり人と話さないオタク君は、耐性値が低いのである。

 

 しかし、後藤……は、まぁちょっとアレな部分があるとしても、山田はオタク君ではない。

 いやロックオタなところはあるけど、悪い意味でのオタクではないというか、少なくとも誰かの好意に飢えるタイプではないのだ。ご両親の愛の賜物だな! まぁ過干渉すぎて嫌われちゃってるけども。

 

「根本的に、人は自らの主観でしか物事を観測できません。

 私は一般的な平均水準の人よりも視野が広い自信がありますが、だからと言って全てを知るわけではない。つまるところ、私は彼女たちについて、あまりにも多くの物事を知らないのです。

 もしかしたら、彼女たちはただの知り合いのために曲を作れる程にクリエイティブなモチベーションと行動力が高く、単純に「誰か特定個人に対して納得いかせる」という1つの方向性を定め、それを中核にして音楽を作ろうとしているのかもしれない。

 要は私である必要性はどこにもなく、単純に彼女たちの近くにいたから偶発的に選ばれた、という可能性も大いにあると思うわけです」

 

 高スペック系とはいえ、私だってただの人間だ。

 そりゃあミスもあれば計算外もあるし、考察不足な部分もある。

 

 ぼっち・ざ・ろっく! はかなり読み込んだし、アニメの方もヘビロテした。

 結束バンドのことはフレーム単位の表情まで追っかけて、考察するくらいはした。

 それでも味がするのが、この作品の良いところだと、私はそう思っていたんだけど……。

 

 だけど、味がするってことはつまり、新鮮な気付きがあるってことであり。

 それはつまるところ、私が結束バンドに対して、完全な理解を持っていないことを意味している。

 

 故にこそ、私は彼女たちのことを大まかに理解こそしているが、完全に知り得ているわけではなく。

 彼女たちの言葉を、行動を、完全に正しく理解・予測できるわけではない。

 

 きっと多分、そこに問題があると思うのだ。

 というか、そうでなきゃめっちゃ困る。

 

 

 

「つまるところ、お二人にはどうか、これを私の妄想であると否定していただきたいわけです。

 1人のお馬鹿が調子に乗って勘違いしているだけ、ちょっと手が触れたからって『アイツ俺のこと好きなのかな……』とか勘違いする思春期クソ馬鹿男子高校生レベルのド低能だと、そう言っていただきたくてですね……」

「カハッ」

「え?」

 

 私の前で、1人の男の人が血を吐いた。

 べちゃりと、赤黒い液体がテーブルに広がる。

 

 喀血? ……は、喀血!?

 いや落ち着け、冷静に対処しろ私!

 

「この量は、中等量。父さん、大丈夫ですから、落ち着いてください。呼吸に痛みは伴いますか?」

「え、痛み? ないけど?」

 

 は? なんでこの父けろっとしてんの?

 口元に血付いたままなんだが? テーブルに生々しい血痕が付着してるんだが?

 

「茶子、汚いから血に手を突いちゃ駄目よ? ほら、お手々上げて?」

 

 いやなんで母の方も母の方で普通にタオルで拭こうとしてるの?

 そんでもってなんでそんな簡単に血が拭き取れる? こういうのってこびりつくものじゃないの?

 

「……えっと、喀血、しましたよね?」

「え? いや、喀血っていうか、血を吐いただけだよ。ビックリした時にたまにあるよね?」

「ギャグ表現的吐血ですか今の!?」

 

 そ、そうだった、そういえばここ、半ギャグ時空の世界だった……。

 

 後藤が奇行に走るのはいつものことだし、ツチノコになったり承認欲求モンスターになったり作画崩壊したりポリゴンが荒くなったり粒子化したりするのはもう慣れ切ってるんだけどね。

 流石に、唐突に親にギャグ表現されると、まだまだ慣れないなぁと思う。

 ……いやまぁ、今回が親の吐血っていう割とヤバ目イベントだったから慌てた、ってところもあるんだけどさ。

 

 というか私、これから先、人が吐血したらまずはシリアス時空なのかギャグ時空なのか気にしないといけないの? とんでもない世界に生まれちゃったな、今更だけどさ。

 

「まぁ、平気なら何よりですけど……というか、何にビックリしたんですか?」

「あぁ、それはね? この人、私と最初に出会った時にね、鉛筆を取ろうとして手が……」

「母さんやめようよ人の過去の傷を抉るのはッ!!!!」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 両親。

 灰炉茶子にとって、目の前の二人を指すのは、その言葉だった。

 

 

 

 片や、生まれた頃はちょっとウェイウェイ系のノリがあったが、私が思いの外アレなところを目撃したせいか、徐々に年相応の落ち着きを手にしてきた父。

 恐らく私に茶髪の遺伝子を渡してきたであろう、明るめな髪色の背丈高めの成人男性だ。

 

 最近は、父親としての威厳とか私との付き合い方について悩んでいるところがあるらしい。

 気になってたガジェット買ってくれたり、美味しいお店に行こうと誘ってきたりして、定期的に父としてカッコ良いところを見せようと奮闘してくれている。

 

 ……いやまぁ、金銭面で私にマウント取るのは難しいと思うけどね。

 私、両親が稼いでくる金額の8倍くらいは毎月家に収めてるし。

 あと、こんなこと言うのはなんだけど、高校生の頃から母が好きだったって聞くと、どうしてもロリコン疑惑が付き纏っちゃうからね。色んな意味で威厳はマイナスだ。

 

 

 

 片や、基本的にいつも温厚だけど、私が自傷した例の件の時は泣きながらとんでもない剣幕で怒り散らかし、この私に十数年ぶりに恐怖という感情を抱かせた母。

 

 いやマジで怖かったなアレ、前世で家に変な襲撃者来た時よりずっと怖かったわ。

 直前までは「まぁ最悪死んでもいいや」って思ってたけど、喜多ちゃんを見てここがぼざろ世界と知った以上、行動の自由を奪われるわけにはいかなかったからなぁ……。

 なんとか怒気を収めてもらわねばと必死に弁明を行ったのを覚えてる。

 

 まぁそんな母も、いつも羅刹の如きわけではない。

 基本的にはいつも、あらあらうふふ系の落ち着いたお母さんだ。

 

 ちなみに胸はほぼ絶無で体格はかなり小さめ。実に家系だなぁと思います。

 ……正直、ここに関しちゃちょっと恨んでる部分がないでもない。母が豊満なわがままぼでぃであれば、私もガキだロリだ小学生だと言われることはなかったんだろうなぁ……。

 

 

 

 ……まぁ色々言ったけど、二人とも、こんな私を受け入れてくれたとんでもない聖人だ。

 正直その懐の広さには感謝してるし、尊敬もしてる。

 「こういう茶子ちゃんを受け入れましょう」って言ってくれた母も、「茶子が自分で選んだ道なら、僕は応援するよ」って頷いてくれた父も、マジで良い人すぎて眩しいくらいだ。

 

 推しを追っかけるのは当然ながら大前提だけど……。

 2人に親孝行というか、恩返しするのも、忘れないようにしないとな。

 

 

 

 

 * * * 

 

 

 

 ぶっちゃけ、私がこの世界で心底信頼できる人と言えば、やっぱりこの二人が挙がる。

 

 勿論ぼっち・ざ・ろっく! の豪華絢爛たるネームドメンバーのことは心の底から信じ申し上げているんだけども、崇拝しているからこそ私如きの面倒ごとを持ち込んだりして甘えたくはないわけで。

 信頼できる人の中で、甘えてもいいなって思える人となると……やっぱり両親になるんだよね。

 

 そんなわけで私は、最近発生しためちゃくちゃデカい悩みを、両親にぶちまけていたのだった。

 

 

 

 ……が。

 当の両親は、どうにも私の話が呑み込めていない様子。

 

「話を戻すけど……えっと、つまりどういうことなんだろう。

 正直茶子の話ってかなり難しいし、もうちょっと簡単にまとめてほしいなって思うんだけど……」

「推しに特別に認知されてそうでゲロ吐きそうです」

「それもそれで難しいな……ちょっと時間ちょうだい?」

 

 そう言って、父は母と一緒に、何やらスマホで調べものを始めた。

 アイコンタクトと軽いジェスチャーで何やらコミュニケーションを取った後、1分くらいで頭を上げる。

 

「『推し』っていうのは今好きなアーティストとかアイドルのこと、だよね?」

「今じゃなくて未来永劫アンリミテッド大好きですけどね」

「ああうんそうだね。で、『認知される』っていうのは……『推し』に名前とか顔を覚えられる、っていう認識でいいのかな?」

「より正確に言えば、『個』として認識される、というのがニュアンス的に正しいですね」

「個?」

「いわゆる推しというのは、大抵の場合は多くのファンを抱えているアイドル的存在を指します。

 故に推しはファンのことを集団として捉えがちで……その中でもただ1人の『個』として認識されること。これを『認知』と呼ぶのです」

「なるほど……?」

 

 むぅ、と頭を捻る父に、母が助言。

 

「あれじゃない? いっぱいいる友達の中でも特別に意識してる異性がいる、みたいな?」

「あのね、お母さん……」

「お父さんも高校生の頃、皆の中で私だけ露骨に態度が違……」

「ねぇ僕何かやった!? 今日はえらく茶子の前で昔のこと抉って来るよね!?」

 

 まぁそう言われたらだいぶ気持ちもわかるけど……と、父は頭を抱えた。

 

 安心してほしい、父さんよ。

 学生時代の恥ずかしい過去を知ったところで、私はあなたのことを軽蔑したりはしないよ。

 まぁ当時身長140センチくらいだったらしい母が好きだったとかロリコンじゃんとは思うけど。

 

 

 

「茶子の言いたいことは、だいぶわかったけど……」

「わかってくれますか」

「いやごめん今のところ吐きたいって気持ちは全然わかんない」

「どうして……?」

 

 わかってないじゃん大事なところが。

 なんならそこが一番肝要なんだって。そこがわかんないと一切先に進まないんだって。

 

 思わず頭を抱える私の前で、両親は首を傾げていた。

 

「いや、好きな人に自分を特別に覚えてもらえるって、普通に考えて嬉しいものじゃないの?」

「嬉しいですよそりゃあ!」

「あ、そこは嬉しいんだね」

「嬉しいです、嬉しいですけど……でも、私の存在なんかが推しの純度を下げてしまうって考えると、そこには呑み込みづらいものがあるんです……ッ!」

「想像より全然重症」

 

 いやまぁ、この辺はオタクになってみないとわかんないかもしれないけどさ。

 ……いや、オタクっていうか、私が特殊なのか?

 

 私は自分自身に、あまり価値を感じない。

 客観的、数値的に見れば有能だし有用だろうことは自負しているけど、別に有能=価値がある、というわけでもなし。

 結局、何のどこに価値を感じるかなんて個人的観点によるし、私の価値観からすると自分には価値がない、というだけで。

 

 そんな私が何に価値を感じるかと言えば、そりゃあぼっち・ざ・ろっく! とか結束バンドのことだ。

 え、知ってた? そう言うと思ってた? 私のことをわかってくれてきているようで何よりです。

 

 で、そんな価値ある人々に無価値な私が変に干渉するっていうのは、例えるならカッティングされた綺麗な宝石の詰まった箱の中に、無骨で無価値な小石を思い切り投げ込むようなもの。

 下手にぶつかれば宝石が傷ついてしまうし、傷つかなかったとしても宝石箱としての価値が大きく下がってしまう行為である。

 

 だからこそ、私は結束バンドには入らず、外部からその宝石たちを眺めるだけのモブになろうと思っていたんだけど……。

 

 ……と。

 こういう事情を両親に説明するのは、少し難しい。

 何故なら、そういった私の価値観は前世譲りのものであり……。

 私は両親に、転生者であることを明かすわけにはいかないからだ。

 

 

 

 私は現状、自分が転生者であることを両親に隠している。

 理由は単純で、両親からしたらクソ程気色悪いだろうからだ。

 

 特に、母にとってはマジで最悪だと思う。

 想像してほしい、自分が腹を痛めて生んだ大事で無垢なはずの子供の中に、どこぞの馬の骨とも知れん他人が入っているのだ。

 その衝撃は、想像するに絶するものがある。

 

 私はまだ子供とか生んだことないけど、自分の生んだ娘の中に誰かしらの魂がまぜまぜされるとか、こう、極めてなにか生命への侮辱のようなものを感じるというか、なんというか。想像するだけでもちょっと吐きそうだ。

 こんな私が言うのもなんだけど、転生とかいうシステム、だいぶ非人道的だよね。

 

 

 

 とにかく。

 今のところ、私は両親に「変な子供だなぁ」「人生何周目だよ」と思われてる可能性はあるとしても、明確に転生者であると言ったことはない。

 

 知らぬが仏という言葉もあるし、両親には私のことでめちゃくちゃ辛い想いをさせてるからね。

 これ以上迷惑とかかけたくないし、悲しそうな顔をしてほしくもない。

 ……あとまぁ、おまけ程度だけど、この優しい両親に拒否られると流石の私でも悲しくなりそうだし。

 

 そんなわけで、私が転生者であることは墓の下まで持っていく予定。

 それを隠して事情を語ろうとすると、なかなかに難しいものがある。

 

 が、相談している以上、ただ黙っているわけにもいかないわけで。

 

「……なんというか、嫌じゃないですか。

 推しが自分のことを認識してるってことは、つまり推しの記憶に自分が残るってこと。

 人はその一瞬一瞬の出来事を記憶して性格を形作り、その蓄積が自我へと形成されていくわけで、私が推しの記憶に残るってことは即ち、私という不純な異分子が推しの存在の一部を構成するってこと。

 そんなの……そんなの、推しへの冒涜ですよ」

 

 私は一般通過結束バンドオタクA。灰色一色で彩られるモブだ。

 そんな私が、この世界の不純物である私が、結束バンドに余計な影響を与える。

 それは、ぼっち・ざ・ろっく! という物語を汚す行為になりかねない。

 そう思えば、どうしても良い感情は抱けない。出来得る限り避けるべき展開だと思えるわけだ。

 

 

 

 そうやって、私は出来得る限り思いのたけをぶつけたわけだけど……。

 しかし、それでもなお、両親はなおも怪訝そうに寄せた眉を緩めない。

 

「……うーん、よくわからないな」

「わかりませんかー」

 

 ちょっとだけ、がっくり。

 いやまぁ、他者に理解されないことには慣れてるし、正直今回に関しては、明かせる情報が少ないが故に納得を仰ぐのも難しいかなって思う。

 

 ただ……まぁ、なんだろうな。

 この両親と分かり合えないっていうのは、ちょっと悲しいとは思うね。

 この人たちは多分、前世まで含めて私が出会った人々の中で、一等善性の強い人たちだ。

 そんな2人と家族に、肉親になれたんだから、せっかくなら分かり合いたい……っていうのは、少し甘い夢を見過ぎているだろうか。

 

 そんな風に思っていた私に、ふと父が聞いてくる。

 

「……なんで茶子は、そんなに自分を卑下するの?」

「卑下……してるつもりはないですよ。別に誰かにへりくだるつもりはありませんし。

 ただ私の個人的価値観として、私自身にはそこまで価値を感じないというか。

 今を生きてる彼女たちに、私なんかが接触すべきじゃないんですよ、本質的に……」

 

 

 

 本質的に、私はノイズなのだ。

 

 灰炉茶子なんて人間は本来、「ぼっち・ざ・ろっく!」に存在しない。

 あの最高品質のジャンクフードみたいなどちゃくそさいこ~の原作に、灰炉茶子なんていう異分子は存在してはならない。

 

 私はどうしたって「ぼっち・ざ・ろっく!」には入れない、どんなに頑張ったってモブにしかなれない、世界の隅っこで生きていくしかない存在なのである。

 

 だから……そんな私が、結束バンドのノイズになり得る私が、彼女たちに深く触れ合うべきじゃない。

 山田が、虹夏ちゃんが、喜多ちゃんが、そして後藤が作り上げる結束バンドのカラーを、私ごときが穢してはいけない。

 

 そう思って、そう自重して……。

 

 

 

「でも、茶子だって、この世界に生まれ付いた女の子じゃん」

 

 

 

 その言葉に、言い返そうとした口が、自然と閉じていった。

 

「『何かをしちゃいけない』って思うだけじゃなく、もっと自由に生きて良いんじゃないかな。

 ああいや、茶子は本当に自由に楽しそうに生きてるっていうのはわかるんだけどさ」

 

 父は「うーん、なんて言えば伝わるかな……」って腕を組んでしまった。

 それと入れ替わるように、今まで事態を静観してた母が、口を開く。

 

「茶子ちゃんが小学5年生の頃、頬を傷つけちゃったじゃない?」

「あ、はい。その件に関しては本当に申し訳なく……」

「うん、今でも悲しいな、って思うんだけど……でも、それだけじゃないの」

「それだけじゃない?」

 

 母は、私が頬を傷つけた時、ちょっと怖くなるくらいにマジでキレ散らかしていた。

 だから、それ以外に含む感情があるとは思っていなかったけど……。

 

「勿論怒ってたけど、悲しかったけど……でも、後になって気付いたんだけど、私、ちょっとだけ嬉しかったのよ」

「嬉しい……え、嬉しい?」

「親として失格かもしれないけどね」

 

 母は申し訳なさそうに苦笑して、言う。

 

「それまでの茶子ちゃん、全てに興味がない、って感じだったじゃない?」

「まぁ、はい」

 

 生きる気力もなく、かといって死ぬ元気もなく。だからただ、ただぼんやりと生きていこう。

 それが当時の、無気力極まる私の方針だった。

 

 ……今思うと、あの時の私を見て、両親はどう思ってたんだろう。

 ふと感じた疑問に答えるように、母は寂し気に笑った。

 

「それが、すごく悲しくて。せっかく生まれたのなら、この世界を楽しんでもらいたいなって」

「それは……えっと、今更ながら申し訳なく」

「謝らないでいいのよ。子供がどう生きるかなんて、その子の自由。何かを求めるのは、ただの親のエゴだもの。

 ……けど、だからこそ。茶子ちゃんが、そんなことをするくらい何かに拘って、何かに執着して……何よりそれを楽しんでるみたいで。私、それが嬉しかったのよね」

「あぁ、それは僕もそう! ……いやまぁ、自傷行為はちょっとやり過ぎだと思うし、その後のストイックすぎる姿勢もちょっと心配だったけど」

「そうだけど……最近のすごく楽しそうな茶子ちゃんを見ると、やっぱり生んで良かったなってなるし。

 確かに頬の傷は、すごく残念。茶子ちゃんは当時から引き込まれるくらいに可愛かったからね。

 でも……きっと、あの頃のままより、茶子ちゃんにとっては幸せな今なんじゃないかって思うの」

 

 ……そんな風に、思ってくれてたんだ。

 

 てっきり私は、こんな変な子供だし、迷惑ばっかりかけてると思ってたんだけど……。

 

 生んで良かった、って。

 そんな風に、言ってもらえるんだ。

 

 「ぼっち・ざ・ろっく!」の世界の片隅に生きる、この両親に……。

 私は、誕生を、祝福してもらっているんだな。

 

「だからね、茶子ちゃん、もっと自由に、楽しく生きていいのよ」

「……え?」

 

 自由に、楽しく?

 ……いや、私はもう、精一杯自由に楽しく生きてるつもりなんだけど。

 

 思わず眉をひそめそうになった私に……母は、笑みを向けてくれる。

 

 

 

 ……でも、その慈愛に満ちた言葉は……。

 

「あなたも、この世界に生まれた、この世界の登場人物の1人なんだから」

 

 結果的には、大いに私を悩ませることになるのだった。

 

 

 







 ちなみに両親は、茶子ちゃんが前世の記憶を持っていると勘付いています。
 その上で、どんな記憶や知識を持っていたとしても、自分たちが生んだ子として愛しています。ぐう聖ペアレント。
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