ぼざろ世界を全力で楽しみたい転生者の話   作:アリマリア

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ただし、転生者はモブにはなれていないものとする。

 

 

 

 灰炉茶子という人間は、果たしてこの世界に必要なのか?

 いや何、別に哲学的問答をしたいわけでもなければ、承認欲求を満たすために慰めてもらうつもりもないんだけどさ。

 そうじゃなくて……言葉で端的に表すのは少し難しいものがあるけど、原作的に私っていうピースは不必要じゃね? って話だ。

 

 灰炉茶子なる人間は、至極当然の話、原作「ぼっち・ざ・ろっく!」には登場しない。

 名前が出てこないのは勿論、茶髪マスクのロリなんて見た目の人間は、一瞬たりとも紙面にも画面にも登場はしないのだ。

 

 いわば私は、既製版における完全版で追加されたキャラ。

 もうちょっと現代的に例えるなら、DLCを入れてないゲームでのDLCキャラか。

 ポケモンまでもがDLC商法に切り替わった昨今、もはやバージョン違いはともかく、完全版を出す会社はそうそうないだろうしな。

 というかはよ絶滅しろよ完全版商法。DLCでいいレベルの追加要素しかなかったペルソナ5Rの罪は重い。いやまぁ曲とかストーリーとかキャラとか超覚醒は好きだったし、竜司の扱いにもだいぶケアが入ってたのは良かったけどさ。ちなみに私が一番好きな超覚醒は真のヤツ。ちゃんと乗り物形態に戻ってくれたの神采配だよね。いやそもそもなんで進化で立ち上がったんだよ、バイク型っていう最大のアイデンティティ捨て去るの正気か?

 

 ……あれ? 今何の話してたっけ。

 あー、ヤバい、頭回ってないわ今。

 

 あぁ、そうそう、灰炉茶子の話か。

 私はそもそも、この世界には存在しないはずの人間だ。

 こことは別の時空、別の世界からやって来た、一般転生結束バンドファン。それこそが私。

 

 なんで私がこの世界に転生したのかは正直わからんけど、ぼざろファンがぼざろ世界に転生ってところから感じる作為性からして、これは恐らく誰かの意図が絡んでいる可能性が高い。

 考えられる最も高い可能性は、私を含むこの世界が二次的世界──ここで言う二次的は、いわゆる作品内世界を指す二次元ではなく、一般的定義における二次的──である、というものだろう。

 つまるところ、私は物質的実在存在ではなく、あくまでも仮定されたシミュレーション上の存在、要約すればフィクションでしかない、ってこと。

 更に平たく言うとすれば、私はどこぞの誰かが書いた架空のオリ主であるって可能性が高いってことよ。あ? 今平たいのは話じゃなくて胸だろって言ったヤツ誰だ? 先生怒らないから出て来なさい。今なら特別に百叩きで許してあげますよ。

 

 まぁ、私としては、自分が架空の存在である可能性が高いとしても、特に気にすることはないんだが。

 私がこうして明確な自我を持ち自由と認識できる思考を抱いている時点で、ある意味で1つの命と捉えることができる。

 ここがイデア的世界と証明できる人なんぞどこにもいないんだし、我思う故に我あり程度の認識でいいんだよ、人なんてものは。

 

 この際、誰がどういう目的で私を作ったのか、世界は何分前に生まれたのか、私以外にゾンビでない人間がいるのかはどうでもいい。

 結局のところ、1つの観測視点しか持たない存在にとっては自分の認識する世界こそが全てで、これを疑っていても特に実利はないんだ。

 

 だからこそ、もしもこれがフィクションな世界で、未だにこんな私を観測するような物好きな人たちがいるのなら、精々楽しんで欲しいと思うんだが……。

 

 ……あら、また話が逸れた。

 自分の思考の中ですらちゃんと集中し切れない雑魚がいるらしい。わ た し で す。

 このまま遠回りしてると永遠に主題に辿り着けない気がしてきたので、さっさと今持つ悩みの解消に取り掛かろう。

 

 

 

 私が悩んでいるのは、要するに、私がどの程度までこの世界に干渉していいのか、という点だ。

 

 私はこの世界の尽くを愛している。

 ライクでもリアリーライクでもなく、純然たるラブである。

 

 唯一神(原作者)様が創りたもうた、この世界。

 後藤が、喜多ちゃんが、虹夏ちゃんが、山田が、店長がPAさんが廣井が大槻がぽいずん♡が司馬さんが生きるこの世界。

 残酷でありながら温かく、優しくありながらどこか厳しいこの世界のことが……私は、大好きなのだ。心の底から愛しているのだ。

 愛です、愛ですよ観測者。美しい物語とは、他人同士が仲を深め築き上げるものなのですよ。

 

 この世界は、例えるなら、推しのアイドルがやるライブ映像。

 あるいは、推しのアーティストが出した楽曲。

 もしくは、推しの作家が出した漫画……いや、これじゃたとえ話にならんな。

 

 とにかく、そんな大事な作品の中に、今は私がいるわけで。

 

 謂わば私は、美しい花束の中に潜む一匹の毒虫。カフカ的には、いなくなった方が良い存在なのである。

 まぁでも私はグレゴールと違ってオタクなので、結束バンドメンバーに放置プレイなんて食らおうものならむしろ嬉しすぎビクンビクンと生きる活力湧いちゃうけどね♡ オタクは最強(チャコ from ONE PIECE of ANOTHER WORLD)

 

 しかし、だからと言って好き勝手暴れるのはやっぱり違うとも思うわけ。

 そりゃあ世界一美しい花束だもの、パクパクボリボリしたら美味しいのは間違いないんだけど……私がそうして葉を貪り食えば食う程、花束の美しさは喪われしまうわけで。

 

 美しい世界(花束)があって、自分(毒虫)がその美しさを穢す存在だと分かった時……。

 果たして、私たちはどう生きるか。どのように生きるべきなのだろうか。

 

 カフカが書いたように、絶望の中で緩やかな死を受け入れるべきだろうか。

 あるいは、リンゴを投げつけられる覚悟で抗い、全てを穢しながら生きる道を選ぶべきだろうか。

 

 ……これは人それぞれの価値観によって正答が変わる、永遠の命題だろう。

 だが、実際にそんなことになった以上、私は決心しなければならなかったわけで。

 

 花束の中核を担う花々を喰らい、穢すことは許されない。

 それはぼざろ原作のみならず、それに救われた私の心までをも凌辱することになる。

 

 しかし、例の作品と違ってこんな毒虫でも愛してくれた両親の手前、自ら死や傷を望むこともできない。

 私は両親と約束して、自らを傷つけることを禁じた。今更この誓いを裏切るわけにはいかない。

 

 だから私は、中道を……モブとして生きるという道を選んだのだ。

 

 彼女たちの近くでその活躍を見守り、されども強く干渉せずその流れは乱さない。

 そんな凡人の役目を、この身に背負ったのである。

 

 生きる以上楽しみがないとダメだし、私だってせっかくならこの世界を楽しみたい。

 まぁ私の要領の良さなら上手~くモブとして世界に溶け込めるだろうし、問題ないでしょう! ヨシ!

 

 

 

 ……とか、そんなことを想っていたのに。

 気付けば私は、後藤と山田には好感を持たれてる(?)らしく、喜多ちゃんからも親しい友達として扱われている。

 こんなのモブじゃないわ! ただのネームドキャラクターよ! 何を見てヨシって言ったんですか?

 

 

 

 * * *

 

 

 

「あの……茶子さん? どうかしたんですか?」

 

 声をかけられ、知らぬ間に俯いていたことに気付く。

 どうやら最近のナーバスの末、ついに忘我の境地に辿り着いてたらしい。

 人と話している時にぼーっとするのはクソ程失礼なのでやめようね! 深く反省。

 

「すみません、ちょっと最近の疲れが出たようで。それで、例の件は」

「あい、問題なく。……おい、持ってこい」

 

 私の対面に座っていた取引相手、サングラスをかけたスーツの男性が軽く顎で示すと……。

 部屋の隅で後ろに手を組んで待機していた数人の強面男性の1人が「はい」と返事して、部屋から出て行った。

 

 どうやら例のブツが置いてあるのは、少し遠くだったらしい。

 まぁ物が物だけに、てきとうな場所に保管、とはならなかったんだろうな。

 

 あの強面男が帰って来るまでにはしばし時間がかかるようで、グラサン男が世間話のために口を開いた。

 

「いやはや、驚きました。まさか茶子さんが再びウチに商談を持ちかけてくるとは」

「この手の品を求めるとなれば、やはりあなた方が適任かと思いまして」

「嬉しいですね。誠実な仕事には誠実な評価を。茶子さんはやはり、取引相手としてこれ以上ない」

「ただその手際と徹底した仕事を評価しているだけですが。あなたたちなら、私が望んだ『アレ』も用意できるでしょう?」

「えぇ、まぁ。用意できたからこそお呼びしたわけですが。……ところで」

 

 そう言って、グラサン男はチラリとそのアイデンティティをズラし、私の目を見て来る。

 おぉ、若造にしてはまぁまぁ鋭い視線。流石はこの歳で1つの集団を纏め上げてる優秀な人材って感じ。

 

 まぁこの私をビビらすには300年くらい年季が足りないけどね。

 こちとら転生記憶持ちの高スペック人間じゃ、舐めるでないぞよ。

 

「茶子さん、例のブツはどう使うつもりで?

 アレは日本には出回ってないモンです。使いようによっちゃ、俺たちに払った以上の利が出るのは間違いないでしょうが……下手に使われちゃ、こっちにも累が及ぶ可能性がある」

「累が及ぶ、ね。随分と大げさな物言いで」

「……アンタはアレの恐ろしさを知らないんです。アレは、人の心を惹きつけ過ぎる。法で禁じられてないだけで、それこそハッパみたいなモンですよ」

「おや、まるで自分たちは実体験があるかのような言い方。もしや、部下が呑まれたりなさりました?」

「…………」

 

 マジで呑まれてて草。よわよわ自制心♡ 自分は精神力強いから大丈夫って考えが命取り♡ 依存症は立派な病気だから大人しく病院行ってね♡

 

 ……しかし、そうかぁ。やっぱりそれだけ良いモノなわけだ。

 正直あんまり期待してなかったんだけど、これは案外当たりを引いたかもしれないな。

 

「いや、失敬、少し踏み込み過ぎましたね。大丈夫、あくまでも個人的に使うだけです」

「個人的に、こんなものを?」

「えぇ。……おかしいでしょうか? 嗜好品というものは、そういうものでしょう?」

「……ふぅ。相変わらず、茶子さんと話すと、ずっと年上の方を相手しているような気分になりますね」

 

 グラサン男は少し疲れたような言い方をして背もたれに身を預け、そのしわの寄った眉を揉んだ。

 まぁ私転生者だから、精神年齢は実年齢の何倍にもなるからね。

 そりゃあ話し方とか考え方はずっと年上の方ですよ。

 

 

 

 そんなことを話していると、さっきブツを取りに行った強面マンが戻って来た。

 その手には、大事そうに1つの小さな包みが握られている。

 透明な封の中に収められているのは、白い粉がいくらか。

 

 ……うーん、量はこれだけかぁ。

 まぁ必要な量には足りてるからいいけども、もう少し多いかなって思ってたんだけど。

 

 そんな私の思考を察したか、グラサン男が取り繕うように口を開く。

 

「言っときますがね、与えられた時間と予算じゃこの量が限界ですよ。こっちは多少とは言えど被害まで出てるんだ、これ以上は無理ってもんです」

「えぇ、その心中お察しします。これで十分です」

「では、入金を」

 

 言われて、私は軽くスマホをタップタップ。

 まぁ、入金はあの粉を見た時点で遠隔で済ませているので、これはあくまでポーズに過ぎないんだけど。

 

 グラサンも自分のスマホをぽちぽち触り、指定額の入金が済んでいることを確認して、それから大きくため息を吐いた。

 

「確認しました……が。本当にいいんですね?」

「構いませんとも。皆さんへの成功報酬と慰労、それから設備の増強にでもお使いください」

「……俺には少し、理解しかねますね」

「先程も申しましたが、嗜好品とはそういうものですとも」

 

 そう言いながら男から包みを受け取る私を、グラサンは何とも言えない感じで眺めていた。

 

 

 

「……いやだって、ただの砂糖に何百万とか。ちょっと正気の沙汰じゃないと思いますがね。

 あのクソ探偵からの紹介じゃなきゃ詐欺か何かだと思ってましたよ」

「『ただの』じゃなくて超最高級の砂糖、ですよ。皆さんも体験したでしょう?」

「まぁそりゃ、中毒性あるんじゃないかってくらいには旨かったですよ? 俺の部下の中にも大枚はたいて自分の分確保したヤツもいます。でも、アイツらが払ったのも高々数十万ですし、何よりただの砂糖ですよ? それに五百万って……」

「その価値があるからこそ、こうして調達屋の皆さんに依頼を出したのです」

「ちゃんと公正な取引の上だから、俺らとしちゃ構いませんがね。……さっきも言いましたが、変にバラ撒いたりしないでくださいよ? それ旨すぎるんですから、諍いの元になりますからね?」

「大丈夫ですってば。ただ……ただ、ちょっと友達の誕生日プレゼントに使うだけですから」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そんなわけで、そろそろ原作における初ライブ……の前の、クソ最高えもえも楽曲お披露目オーディションも迫って来つつある、5月下旬。

 私は探偵の伝手で紹介してもらった調達屋……というか何でも屋? に、この世界でも最高級の砂糖を調達してもらった。

 

 用途?

 そんなもん、虹夏ちゃんのバースデーケーキに決まってるでしょうがッ!!

 

 そう、下北沢の大天使ことニジカエル、伊地知虹夏ちゃんの誕生日は5月の29日。

 これは私が公的に祝うことのできる、結束バンドメンバーの最初の誕生日なのである!

 

 勿論私個人としてはこれまで毎年、自室に祭壇を個人製作して、結束バンドメンバーの生誕と無事な成長を喜ぶ祭りを催してはいたんだけど……。

 「後藤ひとりの同級生モブ・灰炉茶子」が彼女たちをお祝いできるのは、今回が初めてのことになる。

 

 だからこそ、こうやってしっかり材料から拘ろうと思ったんだけど……。

 

 

 

「……『モブ』かぁ」

 

 モブだモブだと私は言っているけれど……。

 果たして今、私はモブを完遂できているだろうか?

 後藤や山田、喜多ちゃんから関心を寄せられている今、果たしてそれをこなせていると言っていいものなんだろうか?

 そう思うと、どうしても……心の中に、クシクシとした痛みが走る。

 

 そして、何よりも……。

 

 

 

『あなたも、この世界に生まれた、この世界の登場人物の1人なんだから』

 

 

 

 あの母の祝福の言葉が、どうしても心を乱す。

 

 私が、この世界の登場人物であると、そう言われた時……。

 私の心には、反射的な否定の感情が生まれた。

 『それは違う。自分はただの……』と、そう思いかけて、その先は明快な言葉にならず、思考の泥濘の中に沈んでいった。

 

 ……それで、今更ながらに、自覚した。

 私は「モブになる」と言いながら、結局、モブになりきれていないのだ。

 

 モブっていうのは、その世界に確かに存在する、登場人物の1人だ。

 ただその世界の物語全体で見ればスポットライトが当たらないというだけで、彼ら彼女らは確かにその世界に生きている。

 

 対して私は……お恥ずかしいことに、どうやら未だ、この世界に生きている自覚が薄いらしい。

 まるで俯瞰的に世界を眺める観測者のような……いや、観客のような、おかしな自覚がある。

 

 

 

 つまるところ。

 私はまだ、この世界にきちんと根を下ろせていないのだ。

 

 この物語の「モブ」にすら、なりきれていない。

 言わば私は、「モブになりたい」一般転生者、といったところだろうか。

 

 

 

「はぁ……」

 

 自分の駄目なところに、思わずため息。

 全く、何と言う認識不足。これに今の今まで気付かなかったとは、怠慢と言う他ないだろう。

 

 勿論、駄目なところを駄目なままにしておくわけにもいかない。

 早急に改善案を考え、適切な対処を取らなければ……と。

 

 そんなことを考えながら歩く帰路、その途中。

 私が何気なく目をやった先の、ゴミ捨て場の上。

 

 そこには……。

 

 

 

 やけに見覚えのある、酒カス呑兵衛が寝転がっていた。

 

 

 

「……は?」

 

 

 







 なんか最近シリアス要素多くない? と思われるかもしれませんが、そろそろ一区切りも近いので多少はね。
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