ぼざろ世界を全力で楽しみたい転生者の話   作:アリマリア

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ただし、彼女の隣には全裸のロリが寝ているものとする。

 

 

 

 至極どうでもいいことだと思うが、灰炉茶子はそこそこの戦闘能力を持っている。

 わかりやすくTRPGに例えると、〈近接戦闘(格闘):90〉くらいの腕前と思ってもらって構わない。

 世界規模だったらともかく、日本規模の格闘技の大会にでも出ればまぁ優勝するくらい、と言えば多少はわかりやすいだろうか。

 

 なんでここまで鍛えたかと言えば、それは勿論結束バンドのみんなのためだ。

 もしかしたら結束バンドを狙う不埒なテロリストがセッション中のライブハウスに乗り込んでくるかもしれないからね。そういう時にどう対処するかを考えておくのもおたくのおしごと! である。

 ……え、あり得ない? 中学生男子の妄想? 黙れ小僧! そうなった時お前に結束バンドが救えるか!?

 

 そんなわけで、幼少期からレンジャーもかくやってくらいには過酷な訓練を積み、私は戦闘能力とかサバイバル技術とか、そういうものを培ってきた。

 で、その副産物なのだろうか、どうやら私の各種感覚も相応に鋭くなったらしく……。

 結果として、周りにいる人の気配が感じられるようになったり、寝てる時部屋に誰かが入ってきたら瞬時に覚醒したりできるようになったのだ。

 

 戦闘能力もそうだけど、この鋭敏な感覚は何気に役に立つ。

 ちょっと前に変な逆恨みを受けた時も、夜道に背後から襲い掛かってきた暴徒(改造拳銃持ち)の存在に素早く気付くことができて、結果的に命を拾ったし……。

 何より、後藤があまりの緊張とか興奮から逃げ出しちゃったりした時、何か起こったりする前に見つけ出すこともできるんだもんね!

 

 みんなも、転生したら取り敢えず戦闘能力は身に付けとけ。

 たとえギャグ時空だろうと現代日本だろうと、なんだかんだ結構役に立つぞ。

 金とか権力も大事だけど、結局最後は力。単純な暴力こそが正義を形作るのだ。暴力・暴力・暴力って感じで!

 

 

 

 ……とまぁ、それはさておき。

 

 そんなわけで鋭い感覚を持つ私は、その日、急激な覚醒と、私の横で身じろぎする気配を感じた。

 

 まさかこんな距離に近付かれるまで相手の存在に気付かなかった……?

 そう思い、警戒しながら確認すると……。

 

 私の寝ているベッドの横には、1人の女性がまどろんでいたのだった。

 

 あずき色の長い髪を、後ろで雑ぅ~に三つ編みに。

 顔立ちはかなりの美人なのだけど、その口をくか~っと、女性としてはどうかと思うくらいに口をおっぴろげて。

 こんな美人からはどんな良い匂いがするのかと思ったら、漂ってくるのは酒とゴミ捨て場の匂いばかり。

 着ているのはちょっと心配になるくらいに薄いワンピースとジャケットのみ。

 

 そう。

 

 このバァチクソ女性力のない奇怪な生物は、廣井きくり。

 ベーシスト目クズ科酒クズ属に属する、ぼざろ原作ネームドキャラクターです。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 あぁ、そうだった、思い出した。

 

 つい昨日のこと。

 調達屋にすんごい砂糖を用意してもらった帰り道……。

 私は、ゴミ捨て場の上でぐーすかしてる酒クズ呑兵衛ベーシスト、廣井きくりを発見したのだ。

 

 その時の心境としては、当然だけども、そりゃもうびっくりした。

 

 突然のネームドキャラクターとの出会い。

 それは私にとって、オートセーブがなくてセーブできる頻度が低い昔ながらの硬派なRPGゲームで、がっぽり儲けて帰ろうとした時、不意にFOEに接敵してしまったようなものだ。

 死を直感する……程ではないにしても、頭が真っ白になって「どうしようこれ!?」と一瞬だけ硬直してしまったのは、これはもう仕方のないことだったと思うんだわ。

 

 だが、不幸中の幸いと言うべきか……いや、原作ネームドキャラに巡り合ったことが不幸なわけはないし、幸い中の幸いか? それはもうただの幸運なのでは。

 いやまぁとにかく、どうやら廣井には意識がないようで、ゴミ捨て場に積み重なった指定ゴミ袋の上に、まるで玉座に佇む王のように堂々と横になっていた。

 その目も……廣井って目を細めてる時が多いから、正直寝てるかどうかは判別付きづらいんだけど……まぁ気配も感じないし、寝てるっぽい。

 

 しかし、相手に気付かれるという最悪の状況は免れたとはいえ、これが恐るべき状況であることに変わりはない。

 なにせ、私はこんなところで廣井と接触する気なんてなかった。

 ただのモブとして、彼女と初めて知り合うのは彼女がSTARRYを訪れた時……つまり、結束バンドの初ライブにしようと思っていたんだ。

 

 こんなとこで知り合ってしまえば……まぁモブに殉じてる私がそこまで強い影響力を持つとは考え辛くはあるけど、バタフライエフェクト的にどんなピタゴラなスイッチを押してしまうかもわからない。

 原作ブレイクを避けようと思うのなら、この時点での彼女との接触は回避しなければならないだろう。

 

 そんなわけで、私はそっとその場を立ち去ろうとして……。

 

 

 

『あなたも、この世界に生まれた、この世界の登場人物の1人なんだから』

 

 

 

 その言葉が、また、脳にリフレインする。

 

 ……灰炉茶子。

 

 仮にコイツが、この世界の登場人物だったとして……。

 仮に私が、「ぼっち・ざ・ろっく!」の世界に住む1人の人間だったとして。

 

 この場で、廣井を見なかったことにして、置いて行っていいのだろうか?

 

 

 

 この辺りは決して治安が悪いわけじゃない。むしろ良い方だろう。

 多分だけど、きららユニバースの加護もある。そうそう滅多なことも起こらないはずだ。

 

 ……でも、もしも、万が一。

 廣井きくりに、何かがあったら。

 

 これが創作物であれば、きっと何も起こらないけれど……。

 この世界がリアルで、きららユニバースの加護なんてモノはなくて、小さく無邪気な誰かの悪意で、簡単に崩れ去るような脆い世界であるならば……。

 

 万が一、億が一、そうなれば。

 ……あるいは、そんな可能性なんてものが、なかったとしても。

 

 私は……灰炉茶子は、彼女たちをこよなく愛する転生者は。

 原作ブレイクだとか何だとか言う前に、この心のままに、行動をおこすべきではないのか?

 

 

 

 ……僅かな逡巡の後。

 私は、「もー、おねーちゃんこんなところにいたー」なんて嘯きながら、廣井の体を頑張って背負い込んだのだった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 要約すると、酔いどれバンドマン(妙齢の女性)をお持ち帰りしたってことだ。

 

 ……うーん、言葉だけで見るとカスだな私。

 この身が女でなければ余裕でアウトでしたね。

 

 まぁ下心は全くない……あぁいや、流石に役得意識ゼロだったって言うと嘘になっちゃいそうだから、全くないわけではないんだけど、昨日の時点では心配の気持ちの方がめちゃ多かったからセーフでしょ。

 今? 推しと同衾してるっていう情報に普通に興奮してるし何ならもう濡れてきましたけど何か? 下心100%充填完了いつでも撃てます! って前世はともかく今世はもう撃てんやろがーいってね!w ……いやごめん今のは流石に下品だったな。忘れてほしい。ちょっと自分でも死にたくなってきたから。

 

 あー、ちょっと興奮しちゃってるなぁ、私。

 まぁでも、それもやむなしだろうとは思う。

 

 なにせ廣井きくりと言えば、我が最推し後藤ひとりの師匠ポジ。

 いつも酔いどれで他人に酒とか世話を強請る乞食だし酔って機材壊すし壁に穴も空けるし吐くし叫ぶし色々と問題アリな人なのだけど……。

 それでも、決める時には決める人。

 後藤ひとりにとって、大きな導きになった人なのだ。

 

 そんな人が目の前で、しかも僅か数十センチ先で寝ていたら、そりゃあ興奮もしようというもので。

 

「むふ」

 

 いや、むふじゃないが。

 流石に浮つきすぎてるな、一旦落ち着いて……状況整理を再開しよう。

 

 

 

 私は昨日、廣井をお持ち帰りしたのだが……。

 残念ながら、ウチには客間というモノがなかった。

 

 私と両親が住んでいるのは小さめの一軒家であり、お風呂やトイレの他はリビングとキッチン、両親の部屋と私の部屋で構成されている。

 それぞれの部屋も決して廣井……じゃなかった広いわけではなく、私自身、仕事で使う機材の大半は他のセーフルームに安置している。

 

 そんなわけで、私の家にはお客様に使わせるためのベッドというものがない。

 しかし、まさか廣井に椅子やソファで寝てもらうわけにもいかないし、私自身もちょっと疲れてたので、ベッドで疲労を抜きたかった。

 

 そうなれば、都内にあと5か所程ある私のセーフルームを使うか、とも思ったけど……それは避けた。

 

 その理由は、大きく分けて2つ。

 

 1つは、そっちには他人に見られるとヤバいモノとか、そこにあると知っただけで色々面倒ごとに巻き込まれちゃうようなヤツが置いてあるから。

 アングラ寄りの存在とはいえ真っ黒ではない廣井を、こっちの世界に巻き込むわけにはいかない。

 

 そしてもう1つは……今朝、両親に「今日は家に帰るから」って言っちゃったからだ。

 我が両親は結構心配性で、私に1日連絡が取れなかっただけで警察沙汰にしかけた過去がある。その時はちょっと面倒ごとに巻き込まれてたから、まぁ助かったと言えば助かったんだけども……。

 そんな両親だから、「帰る」って言って帰らなかったら無用な心配をかけちゃうことは間違いなかった。

 

 

 

 そんなわけで、私は1人廣井を背負い、我が家に帰還。

 大層驚いて「どうしたのその人!?」と聞いてくる両親に「ゴミ捨て場で寝てたから保護する」と答えると、「悪いことは言わないから返してきなさい!」と怒られてしまった。捨て猫かな? まぁタチかネコで言ったらネコだろうけど。

 

 結局その後、廣井きくりを保護した方が良い理由300選を演説してひとまずの納得をいただき、彼女は我が家で一晩の休息を得ることを許された。

 ちなみに決まり手は「知らない人じゃないよ、何度も会ったことあるよ」。

 何度も(FOLTで彼女たちのライブに立ち)会ったことがあるってのは嘘じゃないからね。

 

 とはいえ両親の部屋にこんな酔いどれ不審者を置くことは流石に許されず、「自分の部屋で休ませてあげなさい」「でもいざという時は私たちの部屋に来てね。いつでも起きてるから」という方針になった。

 

 両親からは罰のつもりだったかもしれないけど、私からすれば問題ないどころか万々歳。

 脱力した彼女の体は、いつも私の使っていたベッドに寝かせたのだった。

 あ、勿論シーツとかは変えたし消臭もしたよ? 最低限のマナーね。

 

 

 

 そんなわけで、廣井を寝かせた……んだが。

 まぁ、その、なんというか。

 

 いわゆる……そう、気の迷い?

 ちょっとした気の迷いで、私も同じベッドにインしてしまったんだよね。

 

 昨日は調達屋とやり取りする他にも、色々あったのだ。

 午前は普通に学校に行って、どんどん上手くなっていってる喜多ちゃんと相変わらず馬鹿程上手い後藤のギターを聞いたりしたし、その後はSTARRYでしっかり労働をこなしたり、探偵にぽいずん♡の身元特定についての進捗を聞いたりもして、PAさんが最近は控えめになってた配信を突発で始めたのでそちらも見たりもして、両親を数時間に渡って説得して。

 

 そんなわけで、私はその時点で、割と疲れていたというか。

 推しの安全が確保したことで、一気に疲れが押し寄せて来たというか。

 

 そういう疲労感から来る、気の迷い?

 あるいは、ベッドに横たえた廣井が丸くなったのが可愛すぎて、ムラッときた、的な?

 

「んっ……」

 

 そんなこんなで、私は衣服を脱ぎ捨てて、彼女の体温の籠るベッドに入って……。

 

 

 

 そうして、僅か数秒で、深い眠りに就いたのだった。

 

 え、手? 出してないよ。出すわけないだろ。

 ただ、寝る時には服を脱ぐのが慣習なんだよ。なんか服着て寝ると縛られる感じで嫌じゃない?

 

 

 

 * * *

 

 

 

 さて、状況の整理は終了。

 

 結果として今ここにある現実を羅列すると、私の部屋の私のベッドで、裸の私と服を着た廣井が並んで寝ている、と言う感じ。

 そして件の廣井は、今、もぞもぞと覚醒の気配を見せている。

 

「よっ」

 

 超小声の掛け声と共に、サイドテーブルに昨夜置いておいた今日の分のマスクを拾い上げ、装着。

 流石に、いきなりこの頬の傷を見せるのはヤバい。

 ただでさえ、気付けば全裸の見知らぬロリ(体型だが決してガチロリではない高校1年生)と同衾しているという、混乱は避けられない状況だし。

 

「んっ……頭、いた……吐きそ……」

 

 あるいは、そんな聞こえるかどうかもわからない小声が、更に覚醒を助長させたのか。

 私の横から、声が聞こえてくる。

 

 どうやら、ついに廣井が再起動を果たしたらしい。

 しかしこのローテーションで愚痴を吐きながらの起床、もしや低血圧だったりするのだろうか。

 

 ……いや、違うわ。

 酔いが醒めてるだけだなコレ。

 

 廣井は普段クソたわけな感じのふざけた女なんだが、実はアレはアルコールパワーによるセルフ狂化バフみたいなもの。

 素の彼女は、実は常識的で内気な女性なのである。

 まぁ本編内で酔いが醒めるタイミングはほとんどないので、それを我々が観測できることはそうそう多くはないんだが……。

 

 どうやら今の彼女は、いつものアッパーテンション酔いどれ酒カス廣井ではなく、むしろダウナーテンションエロティック陰キャ美女廣井らしい。

 

 しかし、ホント美人だなこの人……。

 二日酔いで目覚めて苦い顔してる美女からしか得られない栄養素がある。

 

 

 

 しかし、前述の通り、本編内で廣井が素のテンションになることは滅多にないんだよね。

 この状態の廣井が、すごい事態に直面した時、どんな反応するか気になるな。

 

 ……ちょっとだけ、混乱を助長させてみようか。

 

「……あれ? ここ……」

 

 ちょっと掠れた声で困惑の声を漏らす廣井の横で、まぶたを閉じてイメージを構成。

 

 今回は……そうだな、ちょっとアングラなバンドハウスに憧れてFOLTに入って、最初に聞いたSICK HACKの演奏にべた惚れ、以降ずっと慕っていたバンドマンである廣井にお誘いをもらって極上の夜を体験した、ちょっと良い家の耳年増な箱入りお嬢様(中学1年生)。

 

 その生まれを想像し、過程を想像し、人生を想像する。

 そしてそのエミュレートを、魂に落とし込んだ。

 

 いわゆる、憑依型の演技。

 私は基本どんな演技もできんだけど、昔芸能界で遊んでた時から、一番得意なのはこれだったんだよね。

 

 

 

 そうして私は、箱入りお嬢様の思考過程に遵って……。

 廣井の背中に、後ろからぺたりと抱き着いた。

 

「え……あ? やわらか?」

 

 困惑してこっちを窺ってくる廣井に向かって、僅かに頬を赤らめ恥ずかしさを滲ませながら、しかしどこか夢心地な満足感を漂わせた微笑を浮かべて、私は言う。

 

「おはようございます……お、お姉さま。昨晩は、その……えへへっ」

 

 そう言って、ちょっと可愛らしく頬とか掻いてみたり。

 うーん、我ながら悪くない演技。オスカー賞とかくれてもいいのよ? いややっぱイラネ、下手に目立ちすぎると困るしな。

 

 さて、果たして、素の廣井の反応は如何に。

 ワクワクしながら彼女の方を見る私に対して……。

 

 

 

 廣井は、一瞬のガチ困惑からの硬直の後。

 ただでさえ二日酔いからか白かったその顔を、更に青白くした。

 

 

 

 ……やべ、真面目な廣井だとこんなガチな反応になるんだ。

 普段の廣井が常識人ってことはわかってたつもりだったんだけど、いつものちゃらんぽらんな態度ばっか印象に残ってたから、こんなことになっても「なはは~、ロリ少女抱いちゃった~」とかかるーく済むかなって思っちゃった。いやロリじゃないですけど!

 

 しかし、冷静に考えると私は小学生にしか見えないロリ体型ガールなわけで、廣井は昨夜の記憶はないままそんなロリ(しかもマスクだけ付けた裸というなかなかマニアックな姿)と同じベッドで寝ていたわけで。

 更に言えば、そんな子が明らかに蕩けた顔でこっちを慕ってくるんだ。

 

 ……あれ、これもしかして、普通に社会的常識がある人間なら死にたくなるレベルでは?

 

「あ、あの……」

 

 取り敢えず誤解を解こうと声をかけた私に対して、廣井は……。

 

 ちょっとキマった目で、言った。

 

 

 

「……あのさ、急にこんなこと聞いて悪いんだけど、お酒とかない?」

 

 

 

 こ、この駄目大人、アルコールで現実から目を背けようとしてやがる……っ!

 

 

 







問1:このシーンの廣井さんの気持ちを考えてみよう!
 ヒント①:廣井さんはお酒の影響で昨晩の記憶がないぞ!
 ヒント②:廣井さんは今、殆ど酔いが醒めてる状態だぞ!



(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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