ぼざろ世界を全力で楽しみたい転生者の話   作:アリマリア

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 投稿の時間だ、621。





ただし、彼女はSSRであるとする。

 

 

 

「もしもし? はい、お久しぶり。

 ……あ? いや、もう描かないっつってんでしょ。そっちだって十分プロパガンダになったでしょ? ここらで満足しておきなって。

 は? ……へぇ、私と敵対すんの? へー、そんな判断するんだぁ……。

 いいよ、やってみろよ。ま、私の名前出して頷いてくれる世間知らずのアホがいればの話だけどね。

 はいはい、負け犬の遠吠え乙。さっさとお亡くなりになってね。それじゃ二度とかけてくんなよ」

 

 クソ面白くない某所からの連絡を、てきとうに切り上げる。

 まったく、ちょーっとお遊びで依頼受けてやったら子飼いできたみたいに錯覚しやがってよぉ。

 こういう手合いには理解(わか)らせが必要だな。一発デカい花火でも打ち上げてやろうか……。

 

 

 

 などと、仄暗い策を巡らせていると。

 

「あ、あの……」

「ひゃい!」

 

 彼女の声に、正気に戻される。

 

 そ……そうだ、そうだった。

 いきなり連絡が来たからそっちに対応させてもらって、その内容がアレすぎたから忘れそうになったものの、今の本題はそちらではなく……。

 

 今、私が行うべき行動は、ただ1つ。

 介抱した最推しの師匠であり推しの1人、廣井きくりへの情報共有であった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 廣井きくり。

 この人は、大きく分けて3つの属性を併せ持つ♣

 

 まず1つ目が、泥酔モードの廣井だ。

 本編に登場する廣井の内、実に95%くらいはここに該当する。コモン廣井である。

 壁に穴開け機材を壊し、酒と介抱を他人にねだって無関係の打ち上げに紛れ込む、正真正銘の酒カスだ。

 この時の廣井は非常にアッパーテンションであり、いわゆる絡み酒で非常に面倒くさいタイプ。

 ただし、通常は隠されている彼女の根底にある人の好さが最も色濃く出るのもこの時であり、特に音楽を志す若人には非常に優しいという一面も持つ。

 冷静に考えると、お客さんとの付き合い方を教えるためとはいえ、偶然知り合った虚言癖のギタリストと一緒にゲリラライブやるってだいぶすごいよね。度量が広すぎて廣井になったわね……。

 

 続いて2つ目が、覚醒モードの廣井である。

 この状態の頻度は、本編登場時の4%くらいだろうか。かなりのレア廣井だと言えよう。SRくらい?

 自前のベース、スーパーウルトラ酒呑童子EXを掻き鳴らす時とか、音楽について語る時などがこれに該当するんだけど……まぁぼざろって基本日常モノだからな。あんまり見られないんだわ。

 この時の廣井は泥酔の気配が全くないシリアスモード。いつも閉じているまぶたも開き、明らかな強キャラ臭が漂う。

 誰もが好きな、普段ちゃらんぽらんなキャラが覚醒するヤツである。勿論私も大好きです♡ 推したい申し上げております♡

 

 で、最後に残った3つ目が……酒抜きモードの廣井。

 これは私が前世で読んだ限り、残念ながら本編内には登場していない、設定のみの存在*1。文句なしのSSRだ。

 本人曰く、アルコールが入っていない彼女は「隅でじっとしてるネクラ」で、「陰キャで真面目でつまらない」とのこと。

 つまるところ、廣井は本質的には後藤と似ているのだ。ただアルコールの力によって1つ目のテンションの仮面を作り上げているだけで、根本にあるのは自己否定と昇華欲求だ。

 うーん、見たい。見たいですね幻の酒抜きモード。いや廣井は他人には絶対見られたくないって思うんだろうけど、やっぱり1ファンとしてはそのキャラの全ての側面を覗いてみたいと思うものなのですよ。

 

 

 

 ……で。

 今、私の前の前にいるのは、なんと3つ目。

 

 幻とも呼ばれた、酒抜きモードの廣井さんなのである。

 

 信じれば願いは叶うと、私が確信した瞬間だった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 通話に使っていた仕事用のスマホをしまい、改めて彼女に向き合う。

 

「すみません、お待たせしてしまいまして」

「いえ……その、ご迷惑をおかけしたのはこちらなので……はい……」

 

 ベッドに座った私に対して、青い顔をした廣井は、あろうことか床の上に丁寧に正座なさっている。

 勿論、「そんな、床の上なんて! 普通にお座りください!」って何度もお願いしたんだけど、彼女は意地でもこの姿勢を崩そうとはしなかった。

 というかむしろ、全力で床に頭を擦り付けようとするのを止めるので必死だった。

 

 中断された話を再開しようと思って彼女の瞳を覗き込むと、ぷいっと視線を逸らされる。ぞくっ♡ としないでもないけど、今はそれどころではないので自重自重。

 

 予想通り、目を合わせてお話とかは厳しいか。陰キャモードだもんね、今。

 しかし、廣井が目を細めがちなのって、もしかして目を合わせるのが苦手だからだったりするのかな。

 気分が上がるとまぶた開くし、多分目を細めてるのって多分癖だよね? 学生の頃に意識的に付けたものだったりするんだろうか。

 だとしたらだいぶ”萌え”だな。バリタチがずいって顔を寄せた時に思わずまぶたを開けて目を合わせたまま逸らせなくなる廣井概念。我ながらめちゃくちゃ良いなコレ。誰か早く描け。誰も描かないなら私が描いちゃうぞ♡

 

 

 

 と、好き勝手妄想を楽しむのも楽しいけど、改めて廣井としっかり話さねば、だ。

 

 今彼女は、気付けば見知らぬロリ(体型)少女の家にいた、というわけのわからん状況だ。ちゃんと説明してあげないとちょっと気の毒というもの。

 

「……さて、まず、「お酒はないか」という話でしたよね。

 すみません、ここにはお酒の類は置いていなくて……両親はお酒を飲みませんし、私も未成年ですので」

「い、いや、むしろその、寝ぼけてたとはいえ、君みたいな子供相手にお酒を求めたりしてごめんなさい……ふざけた大人でごめんなさい……」

「謝る必要性はありません。こちらの準備が悪かったというだけですし。

 他のセー……家なら、世界中から最高級のお酒を揃えてあるんですが、何分距離があるもので」

「他の家……? あ、いや、大丈夫です、そもそも全部私が悪いわけで、はい……」

 

 そう言う廣井は、ちょっと猫背気味な正座のまま、すさまじく気まずそうに視線を横に投げている。

 

 すごいな、これ……マジで後藤を相手してるみたいだ……。

 確かに「ネクラで陰キャで真面目」って言葉が相応しいだろう思考過程と態度だ。自分がやってしまった(実際はやってない)ことへの罪悪感で混乱中、と言う感じ。

 

 開かれた瞳を絶望の色に染め、極めて真面目な表情で落ち込んでいる廣井。

 へべれけ妖怪やってた原作やライブ時では、おおよそ見る事の出来なかった推しの裏の姿。

 非常にレア度の高いその様子は一生見ていたいくらいなんだけど……。

 

 いくらなんでも、このままにしておくのは憐れというものだ。

 そろそろちゃんとネタばらしといかなきゃ。

 

 

 

「……すみません、先程は悪ふざけが過ぎました。そもそも昨夜、あなたは私に何もしていないのです。

 私はただ昨晩、ゴミ捨て場の上で寝ているあなたをお見かけし、放置できずに保護させていただいただけなのです。

 だから、大丈夫、安心してください。特に重い法には触れていません。もっとはっきり言うと、昨晩私とあなたが性交渉したという事実は存在しません」

 

 まぁ公共の場であるゴミ捨て場で寝るのは刑法上は建設物等侵入及び不退去にあたるので、軽くなら法に触れてはいるのだが……。

 少なくとも幼女の性的搾取、強制性交等罪は犯していない。その点に関しては間違いない。

 

「え……でも、裸……」

「これは癖です」

「くせ」

「私、いつも裸で寝ているのです。服に縛られる感覚が嫌で」

「ふ、冬とか、大丈夫なんですか」

「体力と免疫には自信があります」

「すっ、すごい理論……」

 

 「そんなわけでご安心ください、特に大きな問題にはなりませんし、するつもりもありませんから」と、私がそう言えば……。

 ようやっと、廣井は少しだけ肩の力を抜いてくれた。

 

「はぁ、安心した……本当に、酔った勢いでとんでもないことをしでかしてしまったのかと……」

 

 そう言ってため息を吐く、廣井きくり推定29歳。

 

 いやぁ……本当に真面目というかなんというか。

 いつもの廣井なら「やはは~、まぁやっちゃったもんは仕方ないよね~」みたいな感じだろうに、今はちゃんと目の前の問題や責任に向き合っている。

 まぁでも、こういう時の廣井はあまりにも色んなところに正面から向き合っちゃうからこそ、将来のことを考えて鬱になっちゃったりもするんだけど……。

 

 とまぁ、それはともかく。

 彼女に返すべきものを返さねば。

 

「勿論、一緒にあなたのものらしきベースも持ってきています」

「あ……良かったぁ、私のベース……」

 

 私が部屋の隅に安置していたSUSDX*2を差し出すと、彼女は深く安堵したように息を吐いた。

 

 その反応を見て、少しだけ意外に思う。

 原作では、廣井って結構楽器の扱いが雑だったんだけど、実は酔いが抜けた素の状態では、自分の楽器を大事にする人なんだろうか。

 

 ……いや、当然っちゃ当然か。

 廣井は後藤と違って、音楽に対するモチベーションが高そうだもんね。

 というかむしろ、あれだけの技量を持っておきながら未だに音楽に愛着の1つもなく、ただの成り上がりの1手段としてしか捉えてない後藤が珍しいタイプなのかもしれないけどさ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 取り敢えず、現状の説明は終了。

 これで廣井が無駄に杞憂して心をすり減らすことはないだろうと、私は心の中で額を拭った。

 ちょっと調子に乗ってお芝居なんてしてしまったが、私とて推しを苦しめるのは本意ではない。というかできるだけ幸せにあってほしいのだ。そして遠くからそんな幸せな推しを見てニチャりたい。

 

 そんなわけで、「よーし、あとは廣井をFOLTに送り届けるだけだ」と安堵していたんだけど……。

 

 そんな私に対して、廣井はおずおずと口を開いた。

 

「すっ、すみません、助けていただいて本当に助かりました……」

「当然のことをしたまでですから、どうか謝らないでください。それに敬語も結構ですよ、私、この見た目程幼いわけではないにしろ、まだ高校生ですし」

「あ、ありがとうござい……ありがとう。……でもまさか、ファンの方に助けてもらうなんて、本当になんとお礼を言えばいいか、あるいは謝ればいいか……」

 

 ……ん?

 

 は?

 なんか今、聞き逃せないこと言わなかった?

 

「え、っと……ファンの方って?」

「あ、え、あの、もしかして人違いです……だったりする? 最近毎回ライブを見に来てくれてる子……だよね?」

 

 え。

 

 いや、は、なんで!?

 

「い、いや、人違いとかじゃないんですけど……その、まさか認知されているとは」

「あぁ……えっと、本当はこういうの、あんまり良くないんだけど……ライブハウスに子供が来ることって珍しいから」

「子供じゃないですけど」

「あ、はい。でも……その、本当に良くないことだとは思うんだけど、やっぱり人って最初は見た目の印象で考えちゃうところがあるから……志摩がちょっとヤバいかもって言って、銀ちゃん……あのライブハウスの店長ね。銀ちゃんに君のこと聞いて、高校生らしいって言ってて。

 ……それに、最近は毎回、ライブの時に来てくれるから、私も自然と目に留まって、さ」

「あぅ……」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ……そうなんだよね。

 

 喜多ちゃんと一緒に、SICK HACKのライブを見に行って以来。

 私は頻繁に……というかぶっちゃけ毎度、彼女たちのライブを見に行っていた。

 

 本当は、見に行かない方がいいのはわかってた。

 万が一にも、こうやって認知なんかされたら、原作の流れに影響が出てしまうかもしれない。

 それを避けるためには、可能な限り接触の機会と可能性を減らした方がいいって。

 

 それでも、見に行ってしまうのは……。

 

 ……ひとえに、SICK HACKのライブが、思っていたよりずっと良いものだったから。

 

 アニメで魂を抜かれるような表現をされたのもよくわかる。

 廣井の、高いカリスマ性を持つ熱唱と、破天荒極まりないベース。

 志摩さんの、廣井のめちゃくちゃな旋律に完璧な追従を見せ、更にクオリティを上げるが如きドラム。

 イライザの、模範的でいてアドリブも利いた調和の取れたギター。

 それがライブハウスの中で響き渡り、反響し、体と心を揺らす。

 

 前世から、あまり音楽関係には詳しくなかったんだけど……。

 まさかリアルのライブってものが、あんなにも感情を揺らすものだとは思わなかった。

 

 ……いやしかし、思えば当然か。

 色彩と光度、重なり合った音楽。

 これは言わば、それら全てが組み合わさった総合芸術だ。

 

 更にそこに、たった1度しか味わえない瞬間っていうライブ感とか、同じものを好むファンに囲まれるっていう環境まで合わさるんだもの、そりゃあ感動もするってもので。

 

 で。

 そんなライブを見た私は……。

 我慢しきれず、SICK HACKのライブの常連と成り果ててしまったのであった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「うぅ……まさか、そんなに目立ってるなんて……!」

「いや、その、最後までライブハウスに残って、余ったグッズ買い占めていくのは、普通に目立つと思うよ……? 大槻ちゃんも……あ、私の後輩のバンドマンの子ね。その子も、『あんな幼女に負けられない!』って対抗心出してたし」

 

 そ、そんな……ヨヨコにまで個として認識されている……だと!?

 

 馬鹿な……こんな、こんなはずではなかったのに……!

 できるだけ目立たないよう閉店ギリギリまで隅の方に隠れ潜んで、最後に駆け込みで残ったヤツ全部確保しただけだぞ!

 確かにお値段はちょっとだけ張ったけど、SICK HACKのライブの報酬としては当然の額だ。これくらいはモブの範疇でしょうに!

 

 ……いやでも、冷静に考えると、確かに結構目立つ行為だったか。

 だって私、ロリ体型だもんな。

 ロリ体型のマスクガールなんて、ライブハウスに入るだけでも目立つ。それが物販でそこそこお金使ってたら尚更だ。

 

 くそっ、私がいくら常識的モブ行動をしても、この体型のせいで変に目立ってるじゃん!

 どれもこれも全部私のロリ体型のせいだ。なんで私はもっと成長できないのか。生まれでステータスが決まるとかこんなの理不尽じゃないか。せめてリセマラさせてほしい、全部カンストまで粘るから。

 

 あークソ、でもSICK HACKのグッズ購入はやめられないしな……。

 次回からは誰かを買収して、購入代行してもらった方がいいかもしれない。

 

「すみません……決してアピールするような意図はなかったんですが……」

「いや、いいよいいよ、謝らないで! っていうか、私たちからすればいつもありがとう、だし。イライザが趣味で作ったようなグッズも全部買ってくれて、あの子も喜んでたよ」

「え、それはちょっと意外な。イライザ……さんなら、『いっぱい買ってくれるのは嬉しいけどできれば多くの人に届いてほしい』って言いそうなイメージがありました」

「え、エスパー!? それとも思考盗聴!?」

 

 あ、やっぱりそう思ってはいたんだ。

 うーん、流石はコミケに創作側で参加するオタク、物販の流通に関してはしっかりしてる。

 

 まぁその上で、買われなかったグッズたちが全部売れたことに感謝されてるってのは嘘じゃないのかもしれないけど……。

 

 何にしろ、彼女たちに特別な意識を持たれたのは、あまりよろしくない状態だ。

 まぁでも、あくまで2人だけ。流石に志摩さんの方には何も思われてないはずけど……。

 

 「あちゃー」と思わず頭を抱える私をどう思ったか、廣井はわたわたと両手を動かしながら言ってきた。

 

「あ、えっと、その、志摩もね! 最初は子供かと思って心配してたけど、高校生ってわかったら、好きになってくれて嬉しいって言ってたよ! ちゃんと音聞いてくれてる感じが良いって!」

「あっはい」

 

 救いはなかった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 大好きなぼざろ世界に転生し、一般通過モブとして推したちのことを見守ろうとしていたら、いつの間にかめちゃくちゃ認知されていた件についてwwww

 

 ……いや全然おもんないわ。

 

 どうしようマジで、こんなの全然想定外だ。

 FOLTに行くときは目立たないよう、わざわざダサめのパーカーとズボン、頭にはキャップにマスクっていうカッコで行ってたのに……。

 そもそもそんな変装など何の意味もなく、このクソロリ体型の時点でめちゃくちゃ目立ってたっぽい。

 

 はー、マジでなんでこんな体型で止まっちゃったんだよ私……。

 今からでもいいから、せめて中学生並みの身長に伸ばしてくれないかな。無理だろうけどさ。

 こうなったら、いっそ手術するか……? いやでも、骨延長はともかく、整形とかすると両親は悲しみそうなんだよな……。

 

 

 

 ……なんて、私がこれからのことを考えていると。

 

「えっと、何か、悩みとかある……感じ?

 お、お金とか持ってないし、物もアレだけど……その、もし必要なら、今回助けてもらったお礼っていうことで、相談に乗りたい……とか思ったり」

 

 恐る恐るといった感じで、廣井が声をかけて来た。

 

 顔、には……出てないはずだ。

 私はこれでも、結構ポーカーフェイスの技量が高い。

 いや、ポーカーフェイスって言うと無表情って意味になっちゃうけど、要は感情を抑えて表情にまでは出さずにいるのが上手いんだ。

 

 だからこそ、断言できる。

 私はずっと、人を落ち着かせるような、緩い笑顔を浮かべていた。

 決して、困ったような表情は出してはいなかったはずだ。

 

 それなのに……一体どこから?

 

「……すみません、顔に出ていましたか?」

「いや……なんとなく、そんな雰囲気だった、というか……」

 

 ……あー、そうか。そうだった。

 廣井のあまりの廣井っぽくなさに、頭から飛んでた。

 廣井って、かなり目が良いんだよな。

 

 

 

 廣井きくりは、目が良い。

 これは視力とかそういう話じゃなくて、いわゆる観察眼とか鑑定眼が鋭い、という意味で。

 

 初対面の時、後藤の態度から一切語られていない彼女のバックボーンに察しを付けたり、モードに入った後藤を見て「絶対伸びて来る」と確信したりしたのもそうだし……。

 そしてやはり極め付けは、文化祭ライブの時。

 後藤ばっかり見てるはずの店長……星歌さんが全く気付かない後藤の異変に、彼女は真っ先に気付いた。

 

 人と、楽器と、音。

 この3つを見る目が、彼女は飛び抜けて良いんだ。

 

 そして私は、どうやら……。

 彼女の直感的な視点を以て、内に秘めた不安を見抜かれてしまったらしい。

 

 

 

 ……本当は誤魔化すべきだろうけど……言い繕っても無意味なんだろうな。

 ここは潔く、敗北と共にその事実を認めようか。

 

「……ふぅ、まさか気付かれるとは。人気ベーシストってすごいですね」

「ま、まぁ、それほどでも……っていうか、ベーシスト関係ないし……。

 えっと、それで……もしよければ、相談してくれるかな。君が悩んでること、とか」

 

 おどおどとした態度ながら、私のことを気遣ってくれる廣井。

 ……やっぱりこういう、年下への面倒見が良いとこは、彼女の生まれ持ったものなんだろうなぁ。

 

 本来は音楽を志す者に向けられることの多いそれは今回、恐らく一宿の恩義ってことで、私にも向けられている。

 勿論、原作ファン的にはめちゃくちゃに嬉しいけど……。

 でも、こんなことを廣井に行っても理解は仰げないだろうし、こんなつまらない悩みに彼女を付き合わせるのは申し訳ないなぁって思うんだけど……。

 

「……それとも、やっぱり、いつも酔ってる頼りないお姉さんには、相談したくないかな」

「謹んで相談させていただきます」

 

 屈した。

 

 いや……いやこれ、ズルすぎるでしょ廣井。

 弱った子犬みたいな目でこっち見ないでほしい。ンアーッ! 自信なさげな瞳がえっちすぎます!

 オタクは推しにそんな目で見られると、言うことをなんでも聞いてしまうものだ。

 悔しい……けど相談しちゃう! びくんびくん。

 

 

 

「実は……少し説明し辛いんですが、SICK HACKの他に、もう1つ推しているバンドがありまして。

 そのバンドのメンバーとは、少し縁があって交友を持つに至ったんですが、彼女たちに関わり過ぎれば彼女たちの悪影響になるんじゃないか、その音楽が失われてしまうんじゃないかと、そう思ってしまって」

 

 どうだろう、上手く真実を隠しながら、しかし趣旨は伝わったんじゃないだろうか。

 

 しかし、当然ながら、この辺りは私自身で答えを出すべきことだ。

 彼女から答えを教えてもらえるとは思っていなかったけれど……。

 

 ……しかし。

 少し考えた後、廣井はおずおずと切り出した。

 

「えっと……気持ちは、わかるよ。相手に迷惑をかけるって思うと話しかけたくなくなるし、空気を乱すって思うと絡みたくないし、ていうか人と関わるのが嫌だし、そもそも誰かと関わらなきゃやっていけない現代社会が悪いよね……時代に併せて社会の在り方も変わって来てるんだし根本的な改革を図らなきゃいけないんだよ……」

「あ、はい」

 

 いやおずおずって言うか、いきなり流暢に社会批判し始めるじゃん……。

 将来への不安とか現代への不信が重なり過ぎた結果、ちょっと意識高い系みたいになっちゃってるじゃん。案外廣井って陰謀論とかそっち系に弱いのかもしれない。解像度の高まりを感じる……。

 

 と、ぼんやり彼女の愚痴を聞いていると、廣井はハッとして頭を振った。

 

「あっ! いや、ごめんなさい、変なこと言って……。ん、ん。それで、話を戻すけど」

 

 そうして、彼女は語った。

 

 ……きっと、彼女の生き方の根本にあるんだろう指標を。

 

「気持ちはわかるけど……でも、後悔だけはしちゃ駄目だよ」

「後悔、ですか?」

「うん、そう、後悔。

 お姉さんは駄目な、大人だからね。自分の人生なんだし、どんなことをしてもいい。誰に迷惑をかけても、どんな悪いことしてもいいと思うんだ。

 ……でも、将来後悔するようなことは、駄目だ。嫌な自分のままでいることは、駄目だと思う」

 

 それは……。

 あるいは、彼女の人生の教訓だろうか。

 

 嫌な自分のままでいることは、駄目。

 根暗で真面目でつまらない自分を、音楽と酒の力で変えようとした彼女の……彼女だからこその言葉、なのかもしれない。

 

 

 

 ……でも、そうか。

 

「後悔……か」

 

 例えば、10年先。

 私は今を振り返って、後悔せずいられるだろうか。

 

 せっかく目の前に推しがいるのに、原作の流れに配慮して、あんまり積極的に行動できず……。

 こんな毎日を振り返った時、将来の私は「この世界を全力で楽しんだ」と言えるだろうか?

 

「……なるほど、確かに」

 

 そうだな。

 

 ……私はここらで一度、自分の方針を見直す必要があるかもしれない。

 

 

 

*1
6巻で登場しました

*2
スーパーウルトラ酒呑童子EX







 621、投稿は終わりだ。
 次の投稿までゆっくり休め。



(追記)
 誤字報告を頂き、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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