ぼざろ世界を全力で楽しみたい転生者の話   作:アリマリア

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ただし、その時は刻々と迫って来るものとする。

 

 

 

「うーん……」

 

 6月頭のとある日の、お昼休み。

 私は久々に自分の席で、頬杖を突いて窓の外を眺めながら、ゆったりとこの時間を過ごしていた。

 

 最近はほとんど毎日、昼休みはぼ喜多の間に挟まる……ことはないけど、2人がいちゃいちゃギター練習をしてるところを眺める備品みたいになる毎日を送っていたので、こうしてぼっちで過ごすのは久々だ。

 

 いやまぁ、精神的にはともかく、物理的にはぼっちってわけじゃないけど。

 今日も今日とて全く懲りることもなく、ロリコン変態特殊性癖系モブ同級生君が話しかけて来てるし。

 

 入学から2か月弱、いい加減私の人当たりの悪さもクラスに知れ渡っているというのに、未だに楽しそうに話しかけて来るっていうのは、もはや正気を疑う行動だ。

 今まで1回たりともまともに応答したことないのに、諦めずに毎日笑顔で話しかけ続けて来るとか、コイツどんだけメンタル強いんだよ。正直私でも呆れるレベルだぞ。

 

 ……ま、そんなモブのことなんてどうでもいいんだけどさ。

 

 

 

 毎日のようにぼ喜多の超らぶらぶ♡あつあつ♡手取足取りギターレッスン♡♡♡ に呼ばれていた私が、何故今日に限って教室で過ごしているかと言うと、だ。

 

 ……まぁ、その、うん。

 ぶっちゃけ、参加をお断りされたんだよね。

 

『ごめんねチャコちゃん! 今日からしばらく、後藤さんと2人で練習したくて!』

『あっ、は、はい……えっと、すみません……』

 

 みたいな感じで。

 

 

 

 ……うん。

 その、なんだ。

 

 正直、ちょっとだけ凹む。

 

 

 

 いや勿論さ、私にとってこれは結構理想的な展開なんだよね。

 

 私は元来、観葉植物になりたい系地味地味モブ系転生者だ。髪の毛だってツールで貼り付けたような茶色で、背景に溶け込めそうなコントラストしてるしね。

 

 ……まぁ、ちょこっとだけモブっぽくないところもあるかもしれないけどね?

 かなり重度のロリ体型とかマスクに関しては、これはもうとやかく言っても仕方ないことだ。

 結束バンドメンバーとの交流も、諸々の都合で必要不可欠なことだったし……。

 うん、四捨五入すればただのモブと言っていいだろう。多分。ギリギリ。

 

 そんなわけで、ぼざろのありとあらゆるカプを推せる雑食オタク系モブである私だが、やはり最推しはメインヒロインと言っても過言じゃない虹夏ちゃんとのぼ虹、そしてアニメ版でどちゃくそフューチャーされて萌え萌え最高激重感情ヒロインの解像度が上がった喜多ちゃんとのぼ喜多。

 勿論他のもぜーんぶ好きなんだけど、中でも選ぶとすれば、この2つがアツい。

 

 そんな私からすれば、彼女たちの決断は、この上なく好ましいものだ。

 「後藤と喜多ちゃんが2人きりで練習したくなった」というのは、どう見たってぼ喜多の芽がすくすくと育っているという証拠。

 ぼ喜多大好きボタク*1としては、喜ばしいことこの上ない。

 

 

 

 ……この上ない、はずなんだけど。

 心から望んでいたはずのそれを、私は今、素直に喜べずにいる。

 

 何故かって言えば、それは簡単な話。

 母からの「あなたもこの世界の登場人物」っていう言葉。

 廣井の「後悔するような自分でいるのだけは駄目だ」って忠言。

 それらが、小骨どころか超絶巨大でかでか骨として、未来永劫喉に引っかかっているのだ。

 

 

 

 このままこうしてぼ喜多を見送り、徐々に疎遠になって、忘れられ、観葉植物になるのは……いやそっちはむしろ心の底から歓迎ではあるんだけど。

 

 あるんだけどぉ……!

 

 

 

 ……あー、言葉選ぶのめんどくさ。

 もういいや、この際ぶっちゃけるわ。

 

 私、すっごい駄目なオタクになっちゃった。

 後藤とか喜多ちゃんと友達みてーな距離感で触れ合えるのが楽しすぎて、フラれたら寂しくなっちゃったんだよチクショウ!

 

 

 

 はーもう、私ったらほんと贅沢になっちゃったよ。

 元はただ推しと同じ世界にいて、彼女たちの活躍を見ているだけで満足だったのに……。

 

 火の温かさを知った獣は野に戻れない、というヤツか。

 推しから多少なりとも好意を向けられるという体験は、そのあまりの甘美さで私の脳を焼いたのだ。

 傭兵稼業に手でも出さない限り、これで失った人生を買い戻せるだけの金は得られそうにない。いや傭兵なんかするよりトレードの方が手早く稼げるが。

 

 あ、でもね? だからと言って駄々をこねてぼ喜多を困らせる私じゃないよ?

 喜多ちゃんから「ごめんね」された時も、ちょっとだけ残念という思いをぼ喜多成立嬉しすぎワロタという気持ちで縫い縫いし、「わかりました、頑張ってくださいね」と言って笑顔を浮かべてみせた。

 

 任せろ、心を殺すのは得意技なのでな。色んな意味で。

 

 

 

「んー……」

 

 私が視線を向けた先先、窓の外の校庭の隅には、鮮やかな紫陽花が咲きかけている。

 

 ……虹夏ちゃんの誕生日も終わったし、そろそろ、あのタイミングだ。

 私自身の生き方や心持ちで悩んでいられる時間は、そんなに多くない。

 

 しかし、どうしたものかね。

 一度決めた生き方を覆すというのは、私を以てしても、これがなかなか難しいのだ。

 

 いや、やろうとすればできるんだけどね。

 ただ、問題は……生き方を変えること、変えないこと、それぞれ一長一短だってことで。

 

 今の生き方を守り続ければ、原作の流れは踏襲できるはずだ。

 原作「ぼっち・ざ・ろっく!」を愛している私にとって、それはこの上なく望ましい運命。

 しかし恐らく、母と廣井の言葉は、未来永劫胸のどこかに引っかかり続けるだろう。

 勿論、母の言葉は、原作踏襲に比べれば優先度は低いんだが……それでも、原作関係の次に優先度の高いものでもある。

 そして廣井というネームドの言葉もそこに合わさるわけで、これは決して無視できるものじゃない。

 

 一方、生き方を転換すれば、あるいは今感じている迷いも解消できるかもしれない。

 母からの存在定義と、廣井からの忠言。胸に引っかかり続けている2つの事柄を、多少なりとも解決できるかもしれない。

 しかし、ぼざろの原作の流れの踏襲は……少なくとも、今より難しくなる。

 というか、私自身が原作の流れを乱し、結束バンドという存在を穢してしまう可能性が高い。

 

 どちらも取ることはできない、二者択一の問い。

 どちらを取るべきか、これがなかなか悩ましい。

 謂わば、君たちはどう生きるか。ちょっと流行に乗り遅れた感あるけど。

 

 

 

 と。

 私がそんなことを悩んでいる間にも、前の机を占拠したロリコン同級生はぺらぺらと口を回している。

 なんだよステュクスの川と三途の川の相違点で見る西洋と日本の土着的死生観の違いって。

 ……割と興味深いじゃねーか。そういうのは引用記述の上で論文に纏めてくれ、後で読むから。あと個人的には死生観って言うんなら冥界渡り系の話の方がいいと思うんだよね、黄泉平坂とか有名でしょ?

 

 ……というか、そもそもコイツ、なんでこんなに話しかけて来るかね。

 

 私はこれまで、一度たりともコイツと話したことがない。

 殆ど毎日あっちから話しかけて来るけど、存在ごとガン無視してるくらいだ。

 それなのに、実に2か月以上の間、私へ話しかけ続けているわけで……。

 そんな敵対的な対応を取られたんだ。私のことなんて「なんだコイツ」って思って放置、あるいは敵視し出すのが妥当なところだろう。

 

 それなのにコイツ、マジで毎日話しかけて来る。

 私が反応しなくとも、ペラペラと話し続けるんだ。

 

 その上、話題も毎日ちゃんと変えてくる。

 昨日は美味しくポテトサラダを作るコツだったし、一昨日は2か月で上達するデッサン練習法とおススメの画材店だった。

 先週聞いた話題だと、ジャムを塗ったパンを落とした時ジャムの面が下になる統計的確率の話とか、あと日常の中でできる軽い自主トレとその効果の話とかもあったな。

 

 ……認めよう。

 正直、コイツはおもしれー男だと思う。変わってるって意味で。

 

 もしも私が転生者ではなく、一般ぼざろ世界住人であれば、コイツの鋼メンタルと多彩な話題に陥落していたかもしれないと思う程に。

 いやまぁ、高校生にしては選ぶ話題選び渋過ぎでは? と思うけど……最初の頃は近くのカラオケボックスとか化粧水とかの話してたし、私はそういうの興味なさそうっていう判断なのかもしれないな。

 

 ま、実際のところ、私はぼざろに興味全振りの女。

 多少彼のおもしれーところを見せられても、揺らぐことなんてありゃしないのだが。

 

 

 

 ……しかし。

 この男が、何を求めて私に話しかけてきているのかは、少しばかり興味がある。

 

 故に私は、2か月に渡る無視を破り、カロンと鬼の類似性について語るモブ同級生男子に、訊ねた。

 

「なんでそんなに話しかけて来るの? ずっと無視されて、嫌われてると思わないの?」

 

 何を以て生きるか。

 何の為に生きるか。

 そういうのにちょっと迷ってしまってる私にとって、このよくわからん変な男が何を考えているかは、一定の判断材料になり得る可能性があった。

 それだけだ。他意はない。

 

 そうして、ちらりとだけ彼に目をやった私に、その同級生モブは……。

 

 

 

 

 

 

「……私の容姿が好みで、しかも冷たく扱われるのも好きだから? あ、そう……」

 

 

 

 ロリコンだけじゃなくてドMだった。

 

 終わってるわコイツ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 あまりにキモい欲望を一方的にぶつけられて、一瞬「終わってるわ」と思ったけど……。

 冷静に考えると、あのモブ同級生の生き方は、それはそれでアリなんだよな。

 

 自分が「こう」と決めたあり方に基づいて、誰かの迷惑とか考えることなく、一方的に自分勝手に行動を取る。

 これはとんでもなく自分勝手な生き方だが……きっと、自己満足度の高い生き方でもあるわけで。

 

 他者への影響や社会での存在意義を求めて生きるのが人類という種だが、私たちは進化の過程で理性の強化に伴い、それぞれの自我が強くなった。

 もはや私たちは人類種の内の1欠片ではなく、1つの生命体としてこの地球に根を下ろしているのだ。

 である以上、周りへの迷惑などを考えず、ただ自分のために生きるというのは……あくまで個人的にはだけど、それはそれでアリだと思うのだ。

 

 問題は、その生き方が人類の共同体においてはこれ以上ないくらいに適合しない生き方であること、そしてその自分勝手によって消費されたリソースの分憎悪がかさみ、敵を作りやすいところか。

 

 かく言う私だって、可能な限り他者に迷惑はかけないよう努力こそしているものの、自分勝手という意味ではかなりやらかしている。

 仄暗いどころか真っ黒手前なところにアクセスしたり、そことやり取りとか取引することもあるし、お金をコロコロして増やしたりぶんどったり色々してるもんね。

 

 そもそも根本的に、私の最大目標は「この世界を全力で楽しむこと」であり、その為ならば基本的に手段を選ぶつもりはない。

 それは、喜多ちゃんに出くわしたあの日から、微塵たりとも揺らいではいない。

 

 問題は、その「基本的に」って部分の範囲で……。

 

 原作踏襲を例外とし、そこにだけは配慮しながら控えめに楽しむか。

 あるいは、どこまでも自分勝手にこの世界を楽しんでしまうか。

 

 その2つの選択肢の狭間で、私は揺れているのだった。

 

 

 

 

「どうしたものかなぁ」

 

 小声でそんなことを呟きながら、今日も今日とてSTARRYに向かう。

 学校からSTARRYに向かう場合、いつもは後藤や喜多ちゃんと一緒に向かうのがテンプレなんだけど、お昼の時に引き続き今も2人とは別行動。

 しかし、今回は何も2人に拒否られたわけではなく、単にシフトの時間の問題である。

 

 私はSTARRYのバイトであって、それ以上でもそれ以下でもない。

 だからこそ、業務時間外にSTARRYにいることは、公私混同すぎてあんまりよろしくはない。

 まぁよろしくはないってだけなので、勿論これまで業務時間外に労働することもあったんだけど……。

 ……ちょっとだけやりすぎてしまって、店長に割と真剣に怒られちゃったんだよね。

 

 「気持ちは嬉しいけど、仕事には対価が必要だし、チャコちゃんの働きに報いるだけのお金は出せないから」って……うーん、店長ってダメな大人扱いされてるけど、それでもちゃんと大人なんだなぁって思いました、まる。

 

 と、そんなわけで。

 結束バンドのメンバーなわけでもない私は、STARRYに行く大義名分を失ってしまった。

 結果として、こうして2人から遅れて向かうことになってしまったのだった。

 

 ……原作の流れを多少乱すことを許容し、もっと臨機応変にやっていくんなら、私のSTARRYにおけるポジションとか考えることもなくみんなと駄弁りに行くこともできたんだけど。

 あっちを立てるとこっちが立たず、やっぱりこの問題、なかなか悩ましいよ。

 

 

 

 と、そんなことを考えている間に、STARRYに到着。

 

 気合を入れ直すため、両の頬を叩く。

 思い浮かべていた思索の内容は中に封印して、綺麗な笑顔を作成。

 ビジュアルは学問であり可愛いは作れる。同じように、マスクで口元を隠してもなお伝わる笑顔だって、人工的に作れるのである。

 劇団に殴りこんで半年強でトップ取って嫉妬から刺されそうになった私が言うから間違いない。

 

 そんなわけで、いつも通り「こんにちはー」とSTARRYに入ろうとした私だったが……。

 

 ドアの取っ手に手をかけたところで、気配を察知。

 手を離して、数歩離れたところで道を譲る姿勢を取る。

 

 そうして、待つこと僅か。

 

「未だにぬいぐるみ抱かないと寝れないくせにぃ~っ!!」

 

 なんともショッキングな怒号を上げながら、最かわプリティ激重背景チュリトスドラマーガールこと、虹夏ちゃんがSTARRYのドアを叩き開けた。

 

 中にいるであろう店長の極秘ゴシップを暴露系Drummerな彼女は、内部から外に視界を向けて、ようやく私がここにいることを認識。

 何故かちょっとだけ気まずそうな顔をした後、ふっと顔を背けて走り去って行ってしまった。

 

 

 

 …………。

 あー、これは……うん。

 

 やらかしたな。

 

 

 

 思わず頭を抱えそうになる私の前で再びドアが開く。

 中から現れたのは、明らかにやる気なさそうに「いや虹夏だって実力不足はわかってるしただ拗ねてるだけだからしばらくすれば戻って来るでしょ」って顔をした山田と、シンプルに人が良すぎて取り敢えず追いかけなきゃと必死な喜多ちゃんだ。

 山田っていつもそうですよね! 人の心を何だと思ってるんですか!? 虹夏ちゃんだって慰めてほしい時くらいあるでしょ。そういう時に寄り添って抱きしめてあげてこそリョウ虹なんじゃないんですか? 頑張って慰めてきて♡ 走れ山田。山田は借金した。必ずや、あの新進気鋭の楽器を買わねばならぬと決意した。

 

 で、そんな2人は私を見て、驚いた表情を……ああいや山田はほとんど表情変化なしだけど、それでも少しだけ眉が上がるくらいには驚いたようだった。

 ちなみに喜多ちゃんはめちゃくちゃオーバーに驚いてる。何その反応、いくら私でもちょっと傷ついちゃうぞ♡

 

「チャコ」

「茶子ちゃん!?」

「こんにちは。今虹夏ちゃんがドアから出て来て、道路に向かって右手の方に走った後十字路を左に曲がって行ったけど、何かあったんですか?」

「ごめんなさい、説明はまた後で! リョウ先輩、行きますよ!」

「うー」

「行ってらっしゃい」

 

 面倒臭そうに呻く山田を引きずり、喜多ちゃんは駆けて行った。

 

 

 

 ……うん。

 これはもう、完全にやらかしたな。

 

 今日か。

 今日、だったかぁ~……。

 

 私は深くため息を吐いて、改めてSTARRYのドアを開ける。

 

 すると、そこには……。

 

 

 

「わ、わんっ!」

 

 後藤が、仰向けの姿勢でお腹を見せるポーズを取っており……。

 それを、星歌さんとPAさんが、スマホで撮影していた。

 

 

 

 いっぱいいっぱいらしい後藤は気付かないけど、私と店長、PAさんはそれぞれに視線を交わして、その存在を確認し……。

 

 ……ちょっといたずら心*2の湧いた私は、2人が対応するよりも早くスマホを取り出し、その光景を撮影して、呟いた。

 

「……陰湿なイジメとパワハラ、はんたーい」

「待て、待て待て待て! 違うんだ、これはぼっちちゃんが勝手に!」

「しくしく……店長、私のことを裸で土下座なんてさせて、その上後藤まで毒牙に……」

「いや、そもそもチャコちゃんも自分から……さては面白がってるなコイツ!?」

 

 

 

*1
ぼ喜多オタク

*2
変化技を 先制で 出すことが できる。







 つうほう 
 タイプ:ノーマル 威力:- PP:10
 分類:変化 命中率:90 対象:1体選択
 効果:直前にあくタイプの技を使った対象を(社会的に)瀕死にする。
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