ぼざろ世界を全力で楽しみたい転生者の話   作:アリマリア

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 山田ァ! 遅れたけど誕生日おめでとうァ!





ただし、転生者は恐れているものとする。

 

 

 

 紫陽花の綺麗に咲き誇る6月上旬、皆さんお元気でしょうか。

 運良く雨の降らなかったその日、STARRYに到着した私の前には、後藤ひとり(最推し)が仰向けになって手足を縮こまらせる姿を星歌さん(推し)PAさん(推し)が面白がって撮影するという、なんともショッキングな光景が広がっていたわけですが。

 

 ……いやまぁ、別にこれは陰湿なイジメとかそういうんじゃないんだけどね。

 

 「ライブに出す気はないけど事件」の発生後、みんなが駆け出して行った後、もたもたしていた後藤は店長に呼び止められてしまう。

 そうして怒り狂った星歌さんは、衝動のままに後藤に屈辱的なポーズを取ることを強要……。

 ……なんてことをしたわけではなく。

 シンプルに、いつも通りの後藤の奇行である。

 

 優しさの化身オブザイヤー2022受賞(同時受賞者は喜多郁代、伊地知虹夏)こと星歌さんではあるが、尖った外見とか鋭い眼光から怖い人だと誤解されがちな人でもある。

 

 後藤はその師匠と違って人を見る目は割とカス寄りなので、当然のように星歌さんのことを誤解。

 怖い人に呼び止められたと思い、相変わらずの被害妄想っぷりを発揮して、「自分は敵じゃないですよー」というアピールのために、獣が服従を示す際に使われるとされるポーズを取ったのだった。

 まぁ、それを面白がって撮影するのは人としてどうかと思わないでもないが……。

 

 改めて、後藤、すごいよね。

 普通はこんな思い切ったこと、なかなかできるものじゃない。

 

 人はその自我を育てすぎた結果、種族上確かに動物でありながら「自分たちは他の獣とは違う」って思いがちなのだ。

 それなのに、こんなに即座に畜生ポーズを披露するとは……。

 

 流石は後藤、私の最推し。プライドなんて無駄なものは欠片たりとも持っていない。

 対して、私は所詮裸土下座という人間レベルの行為止まりだ。もっと後藤のことを見習って人間としての尊厳を投げ捨てていかねば。

 

 

 

 さて、そんな後藤は、服従心を示すポーズ(どっちかと言うと可愛すぎ小動物が主人と遊んでる時のそれに見える)を私に見られたのが恥ずかしかったのか、慌てて立ち上がってSTARRYの外に走って行ってしまった。

 プライドがないことと恥を感じることは、共存できる。この歴史的生き証人こそが後藤ひとりという少女なのであった。

 

 ま、ここに関しては、私がいなくとも自然とそうなったはずだ。

 なにせ後藤、今すぐにでも虹夏ちゃんたちに伝えなきゃいけないことがあるはずだし。

 

 

 

 とはいえ、ここにいなかった私がその辺の都合を知ってるのは不自然というものだ。

 私はさも何も知りませんよーみたいな顔して、最近定位置みたいになってきつつあるカウンターの隅っこに座った。

 

 原作を知る転生者あるあるの、不必要な情報収集タイムといこう。

 

「えと、何かあったんですか? 虹夏ちゃんたちも駆け出していきましたが」

 

 そう訊くと、私の2つ隣に座っていた店長は、少し不機嫌そうに唇を尖らせる。

 

「別に。チャコちゃんは気にしなくていい、つまんないことだよ」

「なるほど。元よりライブ自体には出す気だったけど、妹の将来を思って『中途半端な状態じゃライブには出さないから、しっかりオーディションまでに仕上げて来い』って言おうと思ったら、口が滑って露悪的な言い方になってしまった、と」

「私の言葉のどこからその文章を抽出した?」

「大体正解ですね~」

「オイ」

 

 横でテーブルに就いていたPAさんが、いつものニコニコ顔で教えてくれる。やさしくて泣ける。ありがとう音戯アルト、フォーエバー音戯アルト。また次の配信でスパチャさせていただきますね♡ 最近は音戯アルトに感謝するのが日課になりつつあります♡

 

 

 

 私は個人的な調査でPAさんの本名も知ってるんだけど、やっぱりPAさんはPAさんだし、音戯アルトって響きも素敵すぎて、内心ではついこの2つで呼んでしまう。

 PAさんという絶妙に本編には関係しないさも脇役っぽい呼び名、そして音楽モノに相応しいとしか言いようのないVの者としての音戯アルトという呼び名、この影に潜む陰と誰より明るい陽の2つの属性を併せ持つあたりが誰にでも優しく温かくもピアスとかバチバチに開けてるPAさんの二重構造的魅力を象徴するものだと思いますね(オタク特有の早口)。

 あと魅力と言えば、この前見せてくれたスプリットタンめっちゃえっちかった。思わず堕落させてくださいお姉さま♡って言いかけたよね。流石に踏みとどまったけど。

 

 

 

 そんなPAさんは、店長の軽い叱責を「ふふ~ん」と鼻歌で誤魔化し、机にぺったりとうつぶせになってスマホを見始めてしまった。

 

 このお店、店長とスタッフたちの距離感が近いのも良いよね。

 高圧的で下を使い潰す気満々のカスも多い世の中、上下関係がありながらもこういう軽快なやり取りができる関係って結構貴重な気がする。

 まぁ、店長単体だとコミュ力がアレなので、そういう面で支えてもらってる感は否めないけども。

 

 

 

 店長はPAさんに恨みがましい視線を向けていたけど、ため息1つこっちに向き直る。

 

「てか、チャコちゃんが思ってるようなことじゃないよ。オーディションに出ればライブには出すってことはちゃんと伝えたし」

「PAさん、言ってました?」

「言ってませんね~」

「オイ!」

 

 知ってた。

 星歌さん、かなり口下手だからなぁ。

 

 この人、何年も一緒に暮らして、多少なりとも以心伝心状態かつ優しさ地母神級の虹夏ちゃんが傍にいるからか、「これだけ言えば察するだろ」と中途半端に言葉を切り上げてしまうところがあるんだ。

 

 私が体験したヤツだと、「ステージモップがけしといて」って言われたからお店全体の清掃したら「そこまでしろとは言ってないって!」って言われたりもしたなぁ。

 バイト君は言われたことしかわからないんだし、掃除しちゃいけないなら事前に通達が欲しかったところだ。

 

 

 

 さて、そんな星歌さんが、虹夏ちゃんに向かって吐いた言葉とは。

 

「もしかしてですけど、虹夏ちゃんがライブに出たいって言い出して『ついにこの時が来たかぁ』って感慨深く思いながらも、今の状態でライブに出た時お茶の間ならぬ観客エターナルフォースブリザードになって皆の心が折れてしまうことを懸念し、『(今の中途半端な状態じゃ)出す気ないけど』って言って、前回はスタートダッシュキャンペーンの10連ガチャ的な扱いで無条件に出したけど今後はちゃんとデモ音源審査やオーディションを経て実力を認めないと出すことはできないって意味で『いつもはデモ音源審査とかしてるの知ってんだろ』と心を鬼にして告げて、そんなに焦らなくてもいい、というかそもそもメジャーの道を目指さなくても楽しくバンド活動する道はあるだろって教えるために『一生仲間内で仲良しクラブやっとけ』って締めて、自分としては皆のために厳しいことは言ったけど道理には叶ってると思ったから、思いの外落ち込んでる虹夏ちゃんに動揺しながら『まだなんかあんの』とか訊いたりしました?」

「……したけど」

「シャニPの対義語かな?」

 

 すごいやこの人、パーフェクトバッドコミュニケーションの擬人化。これに比べると後藤のコミュ障はカスや。いやカスは言い過ぎだろぶっ殺すぞ。

 これでいて「よし、楽しく話せたな!」とか思ってそうなのがホント致命的だよねこの人。流石は後藤との相互好感度が永遠にすれ違ってるだけあるわ。

 後藤や大槻がフィーチャーされがちだけど、この人もこの人で別ベクトルのコミュ障だよね。

 

 ぼっち・ざ・ろっく! コミュ障三銃士を連れて来たよ!

 ぼっち・ざ・ろっく! コミュ障三銃士?

 陰キャの象徴、圧倒的後ろ向きの消極派、後藤。「う、うぇーい! よろしくぅ~!」

 プライドの高さと放言に自信ネキ、大槻。「は? 話せないんじゃなくて話さないだけだから」

 誤解することされることでは並ぶ者なし、星歌さん。「ライブ出す気ないけど(最初からライブには出してあげるつもりだから頑張ってね、の意)」

 

 

 

「……うーん、その言い方だと、『お前ら雑魚をステージに立たせるわけねーだろ、一生お遊戯会の木の役やっとけ』的な伝わり方すると思いますけど」

「いやそんな酷い言い方はしてないから!」

「そう言われたと思ったから虹夏ちゃん出て行っちゃったんじゃないですかね。あの子、感情を抱え込むことはあっても、それで暴走することなんて滅多にないでしょう?」

「うぐ」

 

 思い当たる節があるのか、星歌さんはピクリと表情を震わせた。

 

 虹夏ちゃんは、マジで良い子だ。

 基本的には色んな感情を自分の中で鎮められるし、たとえそれが不可能になったとしても、怒りの形に出力して誰かに迷惑をかけることは殆どない。

 

 恐らくだけど、唯一の例外は……彼女の母親が他界した時くらいだろう。

 

 勿論、今回の爆発はその時程ではない。

 その時が火山の噴火だとすれば、今回はちょっと油が跳ねたくらいか。

 

 だけど、それでも、ほんの少しだけとはいえ……虹夏ちゃんが怒ったんだ。

 どうやら店長さんは、言われてようやくその異常性に思い至ったらしい。

 身近だからこそ気付かないこともある、ってヤツね。灯台デモクラシー。

 

 しかし、だからと言って彼女は、言葉を撤回するわけでもなく。

 

「だけど……今の虹夏をステージに立たせるわけにはいかない。

 音楽の世界は、人気と実力と独創性の3つが武器。どれも持ってなかったら、冷たい視線を向けられるだけの冷たい世界だ。

 そういう耐性も、そりゃあいつかは付くだろうけど……」

「虹夏ちゃんたちにはできるだけ傷ついてほしくない、と?」

「……別に。そういうわけじゃないけど」

 

 星歌さんは、ぷいっと顔を背けた。

 

 このツンツンツンツンツンツンツンデレさん、マッッッジで妹に甘いな。

 私的には、こういうのも体験だと思うので、思い切り打ちのめされた後這い上がればいいじゃんと思うわけだけど……まぁ、大切な人に傷ついてほしくないって気持ちは、理解できないものじゃないか。

 

 

 

「先程の後藤の表情を見るに、店長さんの真意を虹夏ちゃんに伝えようとしてくれていると思うので、今回は大丈夫だと思いますが……一度、虹夏ちゃんの活動について、ちゃんとお話ししてみては?」

「……必要ないだろ。アイツらの活動に私が口を出すべきじゃない」

「そうじゃなくて、家族として先輩として、活動を応援してるって伝えてあげるべきでは」

「いっ、いや、別に……」

 

 気恥ずかしそうに誤魔化そうとする星歌さんだったけど、軽く周りを見回して、店内に私(柄にもなく真剣に喋ってる)とPAさん(スマホをいじってるフリしてる)しかいないことを確認した後……。

 ため息を吐いて、諦めたように言う。

 

「……それこそ、今更言う必要なんてないだろ。虹夏だってわかってるよ」

「むぅ、必要がないことはないと思いますが。家族に愛を伝えて損することはないですよ」

 

 実際私も、あの小学5年生女児自傷事件以来、両親には事ある毎に感謝と親愛を伝えている。

 私をこの世界に生んでくれたこと、私の行動を叱って気付きをくれたことへの感謝は勿論、1つ屋根の下に住む家族への親愛も。

 かつてウェイウェイしてたことを一生こすられ続けてイマイチ決まらない父も、父に対するガンメタ性能してる基本温厚で時に恐ろしい母も、私は親しく想い愛している、と。

 そういうコト言うと、大体2人は照れたり喜んだ後、「私たちも愛してるよ」と返してくれるのだ。

 

 互いの想いの確認……謂わば、交感。

 これは、人間関係を繋ぐ上で、とても大切な行為だ。

 

 私たちが種としての集合意識を持たない以上、家族というのは、最も近しい位置にいる他人でしかない。

 だからこそ、強く固く結びつくために、そうして想いを交わすことは大切なのだと思う。

 

「愛せる家族を得られることは、それだけで尊いことですから。その数奇な奇跡を続けられるよう、大切に育てることをおススメします。

 ……なんて。あは、ちょっと上から目線になっちゃいましたね、すみません」

 

 いかんな、家族関係になると、どうしても熱くなってしまう。

 

 私にとって、今世で出会った家族の善性は、ここがぼざろ世界だったこと、小学5年の時に喜多ちゃんと同じクラスになったことに次ぐくらいの衝撃だった。

 だからこそ、家族のことは大事にしたいと思うし、大事にしてあげてほしいと思う。

 

 が。

 それはあくまで私の思想であって、他者に押し付けるべきものではない。

 殊にそれがネームドたれば、勝手なエゴイズムを強いるのは最悪オブ最悪の愚行オブ愚考。

 

 私は自分の言葉を恥じ、ちょっとしょぼんとしてしまったんだけど……。

 

 星歌さんは、ちょっと視線を逸らした後、「……そうだな」と言ってくれた。

 やっぱこの人妹に激甘だよ……。このシスコンがよぉ! しゅき♡♡♡

 

 

 

 * * *

 

 

 

 さて。

 それからしばらくして、結束バンドの4人はSTARRYに帰って来た。

 

 「オーディション受けるから……ライブ、出してほしいんだけど」と、ちょっと気まずそうに切り出した虹夏ちゃんに対して「……おう」とこちらも気まずそうに答える星歌さん。

 ま、仲直りの時ってお互い気まずいし、そんなもんだよね。多分翌日には仲の良い姉妹に戻っていることでしょう。

 

 そうして「オーディションで星歌さんに実力を認めさせる」という当面の小目標を手に入れた4人は、勇んで練習用のスタジオへと歩みを進めていくのであった……。

 

 

 

 ……ふぅ。

 いつ発生するかわからず、序盤の方のやり取りを見逃してしまったのは残念極まるけども……。

 このイベントを見ると、ついに迫って来たって感じるな。

 

 私を含む多くのアニメ勢も、そして恐らくはずっと原作を追ってた原作勢も、誰もが魅了されてしまったあのシーン。

 

 アニメ5話の……オーディション。

 彼女たち結束バンドが、初めてその音楽を世に出す瞬間が。

 

 

 

 当然ながら、ドクドクと心が高鳴る程に楽しみではあるけど……。

 ……正直に言うと、ほんの少しだけ、不安もあった。

 

 私は、FOLTでSICK HACKのライブを見てしまったから。

 

 アレはいつか結束バンドのライブを楽しむ時のための、ライブの空気感を掴む予行演習であり……。

 同時に、自分勝手さに落ち込んでしまった喜多ちゃんに「下には下がいる」というある意味残酷な真実を突き詰めるためでもあった。

 

 だが、実際に見たSICK HACKのライブは、私の想定を超える程の衝撃と刺激をもたらした。

 酩酊にも似た恍惚、情緒を揺らす光と音。

 それは確かに、金銭を払ってでも見るべきものだったと思う。

 

 しかし、歴戦のロックバンドであるSICK HACKに対して、結束バンドは……心苦しいけど、まだ結成して間もない連携に欠けるバンド。

 その上、1人は頑張ってるとはいえ素人にも等しい状態だ。

 更に言えば、ライブではなくオーディションである関係上、照明や音響も本番程凝ったものにはならないと予想できる。

 

 その上で、果たして私は彼女たちの歌と演奏から、あの日に感じた以上の衝撃を覚えるだろうか?

 そこが今の私の、自分の生き方と並ぶ大きな懸念だったんだけど……。

 

 その答えを知る日は、刻一刻、着々と近づいて。

 

 

 

 そうして。

 

 いよいよ、その日が来た。

 

 

 







 ちなみに、PAさんがチャコちゃんに優しいのは、弱み(ライバー活動)を知られているからだったりそうでもなかったり。



(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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