ぼざろ世界を全力で楽しみたい転生者の話   作:アリマリア

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 めーっちゃ苦戦しました。
 後藤ひとり視点で、結束バンドのオーディション後編。





故に、ヒーローは奏でる。(独)

 

 

 

 最初にそれに気付いたのは、いつのことだっただろう。

 

 毎日のように、灰炉さんに褒められて。

 でも、その特徴的な言葉に、どこか聞き覚え……じゃなくて、見覚えがあるような気がして。

 

 もしかして……。

 もしかして、そう(・・)なんじゃないかって。

 

 そんなわけないと思う。

 けど、もしもそうだったらって、その想いがどうしても抑えきれなくて。

 

 意識的に、灰炉さんの言葉を聞くようになって。

 意識的に、「あの人」の言葉を集めるようになって。

 

 

 

「流石後藤、心を掴む演奏です♡♡ 心に響きすぎてもはや割れそう♡♡♡ これが長い長い練習の成果なんですね、素敵♡♡♡」

『流石ギターヒーロー、積み重ねてきた年季が違い過ぎる! 心にビンビン反響して割れちゃいそうです!! 割れ物注意』

 

「楽器は詳しくないですが、やっぱりこう、オーラが出てますよねオーラが。風属性の攻撃を受けるか100以上のダメージを受けるまでダメージ無効のバリアを展開って感じ」

『オーラがすごい……! まさしくカリスマ、ヒーローという名に相応しい凛々しさ!! 凛々しすぎて百合*1になるわね将来的に』

 

「はーほんと好きマジで好き愛してる……なんで後藤ってこんなカッコ良いんだろうな。やっぱり普段はちょっと抜けてる寄りのキャラクター性だからこそ肝心なところで輝くんだよな。正しく闇夜を照らすただ1つの星のように。されど星は輝きを受ければ色褪せてしまうもの、影に潜み闇に生きるアンダーグラウンドだからこそ後藤の後藤らしさは映えるというか? 社会的に適合してしまうとその美しさは儚く消えてしまう定めか。この先の人生は、真っ当に生きると、社不一直線になってしまいます。だから、結束バンドに所属する必要があったんですね」

『ギターヒーローさんって本当にカッコ良いですよね……。文字は置いておいて、動画内で下手に弾き語りとかせずに淡々と、されど美しく演奏するこの感じ。まさしく天上に輝く星ですね! 言葉などよりなお雄弁にその輝きで自らを語る。美しすぎて目が焼かれるぅ!! まぁ文字はアレですけども。さておき星はやはり星と繋がって星座になって絵を描き出すもの、やっぱりバンドとか組んだらもっともーっとカッコ良いんだろうなーって思ったり思わなかったりしますね』

 

 

 

 ……似ていた。

 

 灰炉さんと「あの人」の言葉は、すごくよく似ていた。

 早口になった時のワードチョイスとか、時々よくわからないことを言うところとか、ところどころに難しめな言葉を使うところとか、似すぎるくらいに似ていたんだ。

 

 それに、他にも判断材料はあった。

 

 今年の4月まで、「あの人」がギターヒーローのチャンネルにコメントを書いてくれる時間帯は、7割くらいは夕方だったんだけど……4月から、時間が後ろにズレた。

 そしてそれは、灰炉さんがSTARRYでバイトを始めたっていう時期と、ほぼ完全に一致してたんだ。

 

 それと、見つけ出した「あの人」のSNSアカウントでの呟きは、結構頻度が高めなんだけど……。

 私が見ている限り、灰炉さんがスマホを持っていないタイミングでは、そのアカウントの更新は1度もされたことがなくて……。

 そして1度だけ、更新があった直後、灰炉さんが触っていたスマホをポケットにしまうところを見た。

 

 灰炉さんの正体は、「あの人」。

 ……ギターヒーローのチャンネルに初めてコメントをくれて、チャンネル登録もしてくれて、今でも応援し続けてくれている「Mob」さんなんだって。

 そう結論付けるのに、そこまで時間はかからなかった。

 

 

 

 嬉しい、と思った。

 ギターヒーローの最初のファンが、こんなに近くにいて。

 その上、私をギターヒーローだと知らずに、それでも「すごい」って言ってくれて。

 本当に、こんな私のことを好きになってくれるんだって、そう思ってしまって。

 

 灰炉さんは、すごい人だ。

 何をやっても要領の悪い私と違って、何かに手を付ければすぐにできるようになる。

 できないことなんてないって余裕の表情で、何もかもを淡々とこなすんだ。

 

 美人で、可愛くて、その上実力もすごくて、そうすると当然周りに人が集まって、それなのに興味なさげに遠ざけて……。

 まさに孤独じゃなくて孤高って感じで、カッコ良くて。

 

 そんな人が、私のことを好きでいてくれることが、本当に嬉しかった。

 

 本当は、私がギターヒーローです! って名乗り出て、もっと褒めてもらおうかとも思ったけど……。

 そうすると、結束バンドのみんなにも、ギターヒーローのことがバレちゃう。

 いや、別にバレてもいいんだけど……なんとなく、自分からは打ち明け辛い感じがする。

 第一、こんな陰キャがチャンネル登録者数10万人越えのギターヒーローの正体だなんて、信じてもらえないかもしれないし。

 

 

 

 そうして毎日を過ごしながら、彼女を見ている内……。

 ふと、気付いたことがあった。

 

 灰炉さんは、私とは全然違う人で。

 けれど……少しだけ、似ているところがあるのかもしれない、って。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ちょうどその頃、リョウさんと話す機会があった。

 どんな歌詞を書けばいいか迷ってた私に、リョウさんは静かに言ってくれたんだ。

 

 私らしい歌詞を書いてほしい。

 結束バンドらしい曲、この世界にたった1つしかない歌……灰炉さんの心を動かせるただ1つの音楽を作りたい、って。

 

 だから……。

 伝えたいと、そう思ったことを書き連ねた。

 

 ノートの上で、シャープペンシルを動かし、止めては、また動かして。

 そうして出来た勢いだけの混沌とした文字の羅列を、消して、書いて、消して、書いて。

 ボツにして、書いて、書いて、ようやく気に入ったフレーズができて、それを元に書いて書いて書いて、ボツにして、また書き直して、消して、書いて、書いて書いて書いて書いて書いて。

 

 結束バンドの3人に恥じない歌詞を。

 私たちの歌として、相応しい歌詞を。

 ……灰炉さんに、聞かせたい歌詞を。

 

 書いて、書いて、書いて、書いて、書いて、書いて、書いて、書いて、書いて……。

 消して、消して、消して、消して、消して、消して、消して、消して、消して……。

 

 

 

 そうして、長い時間をかけて、出来上がった。

 きっと私にしか書けない、この世界にただ1つだけの歌詞が。

 

 ぼやける意識のままにSTARRYに持ち込んだノートを見て、結束バンドの皆は、肯定してくれた。

 特にリョウさんは「暗いけど、きっと誰かの心に届く」って言ってくれて。

 そうなるといいって、あの人の心に届くといいって、私はそう思って。

 

 そうして、結束バンドのそれぞれが、自分のできる分野で頑張りを持ち寄って。

 歌詞(にく)()が通い、テンポ(ほね)に乗って歌声(うごき)が生まれて。

 

 私たちの音楽(ロック)が、この世界に生まれた。

 

 

 

 そうして、それを最初に聞かせたい相手が……。

 灰炉茶子さん、その人だったんだ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ギターをかき鳴らす内に、心を凍らせていた緊張感が消えていく。

 強張ってた顔からは力が抜けて、指先は滑らかに動き出し、視線は自然と下に落ちた。

 

 お父さんから借りたこのギターとは、もうそこそこ長い付き合いだ。

 何度もメンテと修理はしてきたけど、多分合計すれば8000時間くらいかな。

 そんな長い時間使っていれば、当然ながら多少なりとも手に馴染むようになって、「いつもの状態」ができあがる。

 私が、私なりに独学で見出した、ギターの演奏法が。

 

 それこそが、あの人が……灰炉さんが憧れてくれた、ギターヒーローの姿だ。

 

 とはいえ、個人で演奏するのとバンドで演奏するのは、全然違う。

 虹夏ちゃんとリョウさんが作るリズムに乗ってみんなに併せながら、主張の強すぎない音を出さなきゃいけないんだ。

 これまでずっとそれに苦戦して、思うままに演奏できずにいたけど……。

 

 ようやく、少しだけ、いつもの状態に戻れた気がする。

 

 

 

『エリクサーに張り替える作業もなんとなくなんだ

 欠けた爪を 少し触る』

 

 

 

 喜多さんの、いつもより低くて凛々しい声が、STARRYの中に反響する。

 

 私たちが足を踏み入れたのは、結束バンドのオリジナル楽曲、「ギターと孤独と蒼い惑星」の2番。

 本当は、このオーディションではやる予定のなかったパートだ。

 

 私たちのバンドはまだ結成したばかりで、上手く連携が取れるわけじゃない。

 リョウさんはそこそこベース上手いけど、虹夏ちゃんは……客観的に見て程々だと思うし、喜多さんに至ってはようやく初心者の領域を出たばっかりだ。

 

 各々の技量も連携も日々成長中の私たちだけど、逆に言えば伸びしろばかりで完成の日は程遠い。

 だからこのオーディションでは、1、2曲程度のオリジナル曲を1番だけ完璧に仕上げて店長さんにお披露目しよう、って話だったんだけど……。

 

『どうしても、灰炉さんに、最後まで聞いてほしいんです。

 私の歌詞、リョウさんの曲、虹夏ちゃんのドラム、喜多さんの歌……私たちの、結束バンドの曲を』

 

 私が無理を言って、最後まで演奏しようって、皆にお願いしたんだ。

 

 

 

『半径300ミリの体で 必死に鳴いてる

 音楽にとっちゃ ここが地球だな』

 

 

 

 半ば無意識で指を動かし、ギターをかき鳴らす。

 

 練習して、練習して、練習して。

 1日最低6時間、多い時は18時間、ただただこれに時間を注ぎ込んできた。

 

 だから、このギターはもう、私の手の延長。

 当然のように自由に動き、自由に音を奏でる器官だ。

 いちいち意識なんてしなくても、指で覚えた動きを今更間違えることはない。

 

 だからこそ、考えるのは別のこと……。

 

 灰炉茶子さんのことだった。

 

 

 

『空気を握って 空を殴るよ

 なんにも起きない 私は無力さ』

 

 

 

 最初は、灰炉さんは、私とは全く違う人間だと思ってた。

 全てが完璧で、全てが満ち足りた、否定しようのない人間なんだって。

 

 実際、灰炉さんは何でもできて、それを心の底から当然だって思ってるすごい人だ。

 だからそれも、あながち間違いではなかったと思うんだけど……。

 

 でも、完璧とか、全てが満ち足りたっていうのは、ちょっと違ったかもしれない。

 

 灰炉さんは確かに、なんというか、万を能う人だ。

 ぱっと思い付く限り何でもできるし、その事実に裏付けられた自信を持ってる。

 まさしく私が憧れるような、キラキラした人に近い。

 

 でも、全てを能う……全能な人ではない、気がした。

 

 だって……。

 全てが満たされた人が、あんな表情を浮かべるわけがない。

 

 

 

『だけどさ その手で この鉄を弾いたら

 何かが変わって見えた ような』

 

 

 

 ここ最近、灰炉さんは何故か元気がなかった。

 虹夏ちゃんや喜多さんはそれを心配してて、だからこそこのオーディションでフルを演奏するのに同意してくれたんだけど……。

 

 そんなある日、私は店長さんに言われて、灰炉さんを呼びに行った。

 その時、彼女はバックヤードで1人で仕事してて……。

 多分、ぼんやりしてたんだと思う。いつもはすぐに気付く私の接近に、一瞬だけ気付かなくて。

 

 その時、見えたんだ。

 彼女の、飾らない、素の表情が。

 

 

 

 そこに浮かんでいたのは、孤独感。

 この広い世界の中で、自分はたった1人きりなんだって。

 自分の居場所なんてどこにもないんだって、そう理解している人の顔だった。

 

 

 

『眩しい 眩しい そんなに光るなよ

 わたしのダサい影が より色濃くなってしまうだろ』

 

 

 

 アレを、私はよく知っている。

 だって、毎日毎日、鏡の中に見ていたから。

 

 誰とも分かり合えない。誰とも信じあえない。対等に話すことも、接することもできない。

 そう、世界を呪う顔。

 

 灰炉さんの表情は、そこまで底抜けに暗いものではなかったけど……。

 それでも、ほんの微かに、「欠けた」ものがあった。

 

 

 

『なんでこんな熱くなっちゃってんだ 止まんない

 馬鹿なわたしは歌うだけ』

 

 

 

 私は、それを知ってた。

 その不足だけは、その欠落だけは、よく知ってたんだ。

 

 だから、書いた。

 

 書いて、書いて、書いて書いて書いて、ひたすらに書き綴った。

 私の底、私の根本。誰にも言えない、言えなかった、痛くて苦しくて恥ずかしくて怖い……。

 

 劣等感と疎外感。

 

 どうしようもなくくだらない、私の浅い底を。

 

 

 

『うるさいんだって 心臓!』

 

 

 

 勿論、私の言葉や心が、1から10まで灰炉さんに刺さるとは欠片も思わない。

 私と灰炉さんは、真逆と言っていいくらいに違う人間だ。そう波長が合うわけもない。

 

 けれど……。

 

 少しでも伝わればいいと思う。

 少しでも……彼女の疎外感が、和らげばいいと思うんだ。

 

 

 

『蒼い惑星 ひとりぼっち

 いっぱいの音を聞いてきた』

 

 

 

 ……あの日。

 初めて投稿した動画に、コメントが付いて、評価されて。

 

 私は、初めて世界を知った。

 

 私に反応してくれる人がいる。

 私を見てくれる人がいる。

 私に「すごい」って言ってくれる人がいる。

 

 それは、本人からすれば、きっと大したことじゃなかったんだと思う。

 なんとなく気に入った動画があって、楽しめたからコメントを付けた。ついでに高評価とチャンネル登録もしておいた。

 ただ、それだけのことだと思う。

 

 でも、そんなことが、私にとってはこれ以上ない救いだったんだ。

 

 あれがなければ、きっとあの日、虹夏ちゃんのお願いも聞けなかった。

 ライブハウスに付いて行くこともできなかったし、飛び入りでバンドの演奏もできなければ、STARRYでバイトをすることも、そこで勇気を出すことも、喜多さんを止めることだってできなかっただろう。

 

 「Mob」さんの……灰炉さんの言葉に、あの日、私は救われたんだ。

 

 だから……。

 

 私も、出来る範囲で、彼女に手を差し伸べたい。

 

 

 

『回り続けて 幾億年

 一瞬でもいいから ああ』

 

 

 

 こんなことが、灰炉さんの助けになるかはわからない。

 何でもできて、綺麗で、孤高で、私にないものをたくさん持っている灰炉さんだ。この程度で何かしら救いになるとは限らない。

 むしろ、こんな陰キャの余計な気回しなんて邪魔なだけかもしれない。逆効果まであるかもしれない。

 

 でも、多分、わたしにできることは、これくらいしかない。

 書いて、弾く。……思えば、ギターヒーローがすることと同じ。

 

 私にはそれくらいしかできないんだ。

 でも……それだけは、人並にはできるから。

 

 精一杯に、この指を、このピックを動かす。

 

 

 

『聞いて』

 

 

 この音が、この曲が、この音楽が。

 

 どうか、孤独な彼女の心にまで届きますように、って。

 

 

 

 ……だから!

 

 

 

 

 

 

『 聴 け よ ! 』

 

 

 

 

 

 

 その瞬間。

 一瞬だけ上げた、視線の先に……。

 

 初めて、見えた。

 灰炉さんの瞳の奥に、揺れた感情が。

 

 

 

『わたし わたし わたしはここにいる

 殴り書きみたいな音 出せない状態で叫んだよ』

 

 

 

 汗が散る。

 音が飛ぶ。

 私の意思が流れ出る。

 

 いつしか、音は綺麗に合わさっていた。

 リョウさんのベース、虹夏ちゃんのドラム、喜多さんの歌。

 その全てが、まるで必死に食いついて来るようにして、私のギターに併せてくれている。

 

 リョウさんは技量がある上、虹夏ちゃんとの練習の成果か、人に併せることを意識できてるみたい。

 虹夏ちゃんはいつもリョウさんに振り回されてるからか、そもそも併せることが上手い。

 喜多さんも、必死に歌とギターの両方で演奏に食いついてくれている。

 

 あぁ……。

 みんなには、本当に申し訳ないんだけど……すごく「良い」って感じてしまう。

 

 今、4人の音楽が噛み合ってる。

 リョウさんの言う通り、4人の音、4人の色が、結束バンドの色を作り上げている。

 

 私は、バンドを組んでいる。

 3人のメンバーと一緒に音楽を奏でてる。

 そしてそれを、本当に聞かせたい人に聞かせている。

 

 

 

『なんかになりたい なりたい 何者かでいい

 馬鹿なわたしは歌うだけ』

 

 

 

 私は今、本当に楽しめてる。

 私は今、本当に満たされてる。

 

 だから……。

 どうか、灰炉さんにも、楽しんでほしい。

 

 このオーディションを。この毎日を。この世界を。

 心の底から、全力で。

 

 

『ぶちまけちゃおうか 星に!』

 

 

 

*1
リリィ







(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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