ぼざろ世界を全力で楽しみたい転生者の話   作:アリマリア

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 ぼっち視点。





ただし、灰色の星は自らの輝きを自覚できないものとする。(独)

 

 

 

 初めてやったライブは、すごく楽しかった。

 

 虹夏ちゃんのドラムの音。

 リョウさんのベースの音。

 それらに乗せて、私のギターの音がライブハウスに響き渡る。

 

 テンポはズレる。リズムは合わない。いくら弾いてもいつものテンションに乗れない。

 それでも……誰かと音を重ねるのは、これ以上ないくらいに楽しかったんだ。

 

 

 

 ずっとずっと、夢だった。

 話す前に「あっ」って言っちゃうし、人と目を合わすのも苦手な私だけど……。

 バンドは、陰キャでも輝けるから。

 

 だから、いつか私も誰かとバンド組んで、輝くんだ。

 ライブハウスで、学園祭ステージで、そしていつかは武道館で!

 

 

 

 ……でも。

 夢は、夢に過ぎない。

 

 

 

 私は中学でも高校でも友達ができなくて、そんな陰キャがバンドを組めるわけもなくて。

 じゃあ誘ってもらえばいいんだって思って学校にギターを持って行っても、当然話しかけられることすらなくて。

 

 もう駄目なんだろうなって、諦めかけた。

 学校行ってもバンドなんて組めない。

 ……私の夢が叶うことはない、って。

 

 幸い、私にはネットって居場所があった。12万人っていう人が、何よりあの人が、私のことをすごいって認めてくれて、褒めてくれる。

 じゃあもうそれでいいじゃんって、私は諦めかけて……。

 

 

 

『あっ! ギターッッ!!!!』

 

 

 

 金髪の女の子に、救われた。

 

 伊地知虹夏ちゃん。

 結束バンドのドラム担当。

 

 彼女は私の手を取って、強引にライブハウスに連れてきてくれた。

 最初はちょっと怖かったけど、虹夏ちゃんはすごく良い人だ。ギターヒーローのこと褒めてくれたし。

 

 ライブハウスも、入口はイケイケな感じがして怖かったけど、中は暗くて圧迫感のある空間で、まるで自宅みたいにすごく落ち着いて。

 スタッフさんも、すごく小さな子とか口の下にピアス付けた人とかいて驚いたけど、皆優しくしてくれたし……。

 

 虹夏ちゃんは、私を新しい世界に連れて来てくれたんだ。

 慣れない場所、見慣れない人たちばっかりで怖いけど……それでも、私の夢を叶えられる、きっと唯一の場所に。

 

 

 

 そうして……私は、今、音を奏でてる。

 結束バンドの一員として、ギターを掻き鳴らしてる!

 

 

 

 コミュ障の陰キャな私は、2人に合わせることができない。

 ソロでならそこそこ弾ける自信はあるけど、こうして誰かと一緒に弾けばミジンコ以下のド下手くそ。

 

 いつもの実力全然出せなくて最悪だけど……。

 

 

 

 でも。

 

 

 

 バンド組んで誰かと演奏するのって、こんなに楽しいんだ!

 

 

 

 

 

 

 でもそれはそれとして、こんな段ボールの中で演奏するなんて、人生で一番みじめかもぉ……!!

 

 

 

 * * *

 

 

 

 あんなの、私が思い描いてたバンドマンじゃないっ!

 

 私がやりたかったのは、こう、もっとカッコ良くてシビれるようなギタリスト!

 こんなんじゃ私の夢も叶わないし、何より結束バンドのギターに相応しくない……ッ!

 

「次のライブまでにはクラスメイトに挨拶できるくらいにはなっておきますっ!」

「何の宣言?」

「目覚ましい成長……!」

 

 このコミュ障を治して、ギターヒーローとしての実力を発揮するんだ……!

 私を連れてきてくれた虹夏ちゃん、受け入れてくれたリョウさん……結束バンドのために!!

 

 でもごめんなさいっ! 歓迎会は怖いッ!!

 今日は人と話しすぎて疲れたので、帰らせていただきますぅっ!!

 

 

 

 そうして私は今、ライブで体に溜まった熱を冷やすように、星空を見上げていた。

 

 今日は、本当にたくさんのことがあった。

 

 バンド少女っぽさをアピールするために、たくさんグッズを身に着けて登校したり。

 それでも誰にも話しかけられず、薄々気付いていた結果に落ち込んだり。

 公園でブランコに座っていたら、いきなり知らない人に話しかけられたり。

 勢いそのままサポートギターとしてライブハウスに連れて行かれたり。

 合わせて演奏するのが下手くそだってわかってプランクトンになったり。

 虹夏ちゃんがギターヒーローとしての私に興味を持ってくれてるって知ったり。

 初めて、あだ名を付けてもらったり。

 

 ……何より、初めてバンドで演奏をしたり。

 

 最高の滑り出し、ってわけじゃない。

 下手くそで、みじめで、馬鹿馬鹿しいスタートだ。

 

 ……でも。

 これまで、夢に向かってたった1歩すら歩み出せなかった状況が、変わったんだ。

 

 バンドを組めた。

 ただのサポートギターじゃなく、「次もいていい」って言ってもらえた。

 

 だから……私は!

 

 

 

「……あ」

「え」

 

 その時、階段を上って、小さい女の子が出てきた。

 

 えっと……確か、虹夏ちゃんが紹介してくれた、スタッフさん。

 小さいから小学生が働いてるのかと思ってびっくりしちゃったけど、高校生だって言ってた。

 それも、確か私と同じ高校の生徒なんだよね……。確かに、サイズは小さい上ちょっとぶかぶかだけど、ウチの学校の制服着てるし。

 

 どっどど、どうしよう……目が合っちゃったし、やっぱり何か言った方が良いよね?

 でもでもでもっ、あ、あんな演奏しちゃった私が何を言えば……!?

 

 そ、そう言えばこの人、ドリンクのところからじっと私たちのこと見てた気がする……。

 もっもしかして、私の演奏が下手くそ過ぎて「もう来んじゃねーよカスが消えろ」とか思われてたり……!!??

 

「あっ、えっと、あ、そのっ!」

 

 あっあっあっ、待って私、変な声口から漏れてるぅ!

 駄目だ、キモがられる……! 「陰キャはライブハウスくんなよ、ぺっ」って唾吐かれちゃう……!

 虹夏ちゃんとも仲良いみたいだったし、「あのご……なんとかさん、すっごい感じ悪かったですよ? ギターならもっと明るい子紹介しましょうか?」みたいな感じで、私の首切られちゃうんだ……!

 

 はは、短いバンドマン人生だったな……。

 でも、一瞬だけど、すっごく楽しかった。ありがとう、虹夏ちゃん、リョウさん……。

 

 私が諦めて「私は結束バンド抜けますから、虹夏ちゃんとリョウさんに良いギタリスト紹介してください!」と言おうとする、その直前。

 

 

 

 くすりと。

 彼女は、笑った……んだと、思う。

 

 

 

 マスクしてるから、口元は見えないけど……。

 どちらかと言えば冷ややかで吊り上がってた目が垂れて、優し気な雰囲気を醸し出した。

 

「お疲れ様、後藤。また今度」

「あっ、え、後藤……」

 

 びっくりした。

 まさか、名前を憶えてくれるなんて。

 

 だって私、陰キャだし、サポートギターだったし。「虹夏ちゃんのバンドのサポートギターの子」って覚えられてるだけでも御の字だと思ってた。

 ……そ、それに、陰キャは人の名前覚えるのが苦手で、私も……その、彼女の名前を憶えてなかったし。虹夏ちゃんとリョウさんの顔と名前を一致させるのが精いっぱいだったんだ。

 

 それなのに彼女は、私の名前を憶えてくれてて。

 その上……虹夏ちゃんたちと同じように、「また今度」って言って、ここに来ていいんだって肯定してくれて。

 

 それが申し訳なくて、同時にすごく嬉しくて。

 

「はっ、はいっ、また今度!」

 

 私は必死に頭を下げて、その場から逃げ出した。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「あー……うー、やっちゃった……」

 

 でも、家に帰ってから、ちょっとだけ後悔した。

 せっかく声をかけてもらったんだ、恥を忍んで、改めて名前を聞けば良かったんじゃないかって。

 

 だってあっちは私の名前を知ってて、これからも今日みたいに話しかけてくれるかもしれないんだ。

 そんな中で私の方は名前を憶えてないってバレたら、「人の名前も憶えられない陰キャは結束バンドに不適切ッ! ここから出て行けーっ!!」ってモップで叩きだされちゃう。

 

 それよりは、必死に土下座して「ごめんなさいぃっ! お名前教えてくださいぃ……!!」ってお願いした方が良かったかもしれない。

 

「でも無理だよ……だって万年ぼっちですし……」

 

 押し入れの中で動画の編集をしながら、いつものように独り言をこぼす。

 

 私、陰キャでコミュ障で根暗でぼっちだし。そんな機転が利くなら、友達だってできてるし。

 

 私にできることなんて、精々ギターを弾いて、動画サイトに上げることくらい。それだって私より上手い人がいるかもしれないし、私に価値なんて……。

 

 あうぅ、駄目だ、またへこむ……。

 こういう時は、動画のコメントを見て心を落ち着けよう……。

 

 自分のチャンネルのページにを見れば、たくさんの人たちが挙げた動画に反応してくれてるのがわかる。

 そして、何より……。

 

「……あ、へへ、またコメントしてくれてる」

 

 動画のコメント欄に、とあるアカウントを見つけて、私は唇を緩めた。

 

 灰色の初期アイコンで、名前は「Mob」っていう3文字。

 動画投稿とかはしてなくて、再生リストも私の弾いてみた動画だけ。

 

 すごくシンプルで、一見目立たないアカウントだけど……私はずっと、この人のコメントに励まされてきたんだ。

 

 

 

 ギターもある程度弾けるようになった頃、私は動画投稿を始めた。

 

 今見るとすごく拙くて、ピッキングも鈍ければリズムも酷く、更に言えばカメラの画質も悪くて手元も見え辛い、黒歴史みたいな初投稿の動画。

 

 それに最初にコメントをくれたのが、『Mob』さんだった。

 

『最高にカッコ良い! これからも頑張ってください、応援してます!』

 

 わざわざ20そこらしか再生数のない動画を見に来てくれて、初めて高評価とチャンネル登録、そして温かいコメントをくれた人がいる。

 

 それを理解した時……脳の奥から、ジンと熱が広がった。

 

 私を見てくれてる人がいる。

 私を評価してくれる人がいる。

 

 それを知って、自分の世界がぐっと拓けた気がした。

 

 虹夏ちゃんが、リアルの世界で私の世界を広げてくれた人とするなら……。

 『Mob』さんは、ネット上の世界で私の場所を拓いてくれた人なんだ。

 

 

 

 それからも『Mob』さんは私が投稿するたび、必ず30分以内にコメントをしてくれた。

 多分、そこまでギターには詳しくないんだと思う。ピッキングとか音色に関するコメントはなかった。

 でも、「音が好き」とか「カッコ良い」とか「応援してます!」って、毎回心底楽しんでるってわかる文章を送ってくれるんだ。

 

 当然のことだけど……私はそれが、本当に嬉しかった。

 

「今回は……『最高すぎです! 死ぬ程リピします! ギターヒーローさんヒーローすぎる!!』だって。えへへぇ、そんなそんな、私なんてそれほどでもぉ……!」

 

 思わずその場で照れ照れと身をよじってしまう。

 それから、カタカタとキーボードを叩いて……トゥイッターでずっと前に見つけた、同名のアカウントを覗いてみる。

 

「あ、こっちでも呟いてくれてる! 『必見! 最強ギタリスト!! この人を見ずして新時代は語れない!』……!」

 

 えへ、へへへ、えへへへぇ!♡

 

 そう、私こそは新時代のロックスター!

 虹夏ちゃんだって憧れてくれてるような最強ギタリスト!!

 高校生でスカウトされてプロデビュー、その後爆発的に人気が加速していずれはZeppワンマンライブ!!

 そしてインタビューで応えるんだ! 『学生時代は友達も作らずにギター弾いてましたね。むしろギターこそが唯一の友達、いえ、生涯の友でしょうか』って!

 

 

 

「……なんて、言えたらよかったんだけどなぁ」

 

 調子に乗るのも程々に、私はパソコンを畳んでその場に溶けだした。

 

 はぁ……そりゃソロ弾きならいっぱいコメント貰えるけどさ。

 人と合わせるのってソロよりずっと難しいんだよね……。

 

 バンドを組まないと、アーティストとして名を広げるのは難しい。

 音楽は楽器1つでは成立しない。たくさんの音が合わさるからこそ、たくさんの人の心を動かすことができるんだ。

 

 だから、私はバンドを組まないといけないのに……。

 組んだら組んだで、あんな風にひっどい演奏をしてしまう……!!

 

「……とにかく、今は練習するしかないよね……」

 

 仕方ないからギターを握って、メトロノームを聞きながら掻き鳴らす。

 

「ぼっちならぁ……無敵でもぉ……人がいるならすぐ終わる、リズムが崩れて駄目になる。

 そんなぁ悲しい、人生でーす……」

 

 作詞作曲私。プランクトンの慟哭でした。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 練習しようと嘆こうと、容赦なく時間は過ぎていく。

 あっという間に夜が過ぎて朝が来て、学生の私は仕方なく学校に向かうことになった。

 

「はぁ……学校やだなぁ……」

 

 片道2時間かかるし、友達いないし、ギター弾けないし、居心地悪いし。

 どうせ今日も、誰とも話さず、目すらも合わせない日が始まるんだ。

 

 ……なんで学校行かなきゃいけないんだろう。

 陰キャは学校に行かなくていい法律とかできないかなぁ。いやでも、そんな法律できたらむしろ本当に友達を作れる機会が皆無になってしまう。……機会があっても作れないけど。

 

 お母さんに言って1日だけサボって……いやいやいや、そんなことしたら常習化しちゃうのは目に見えてるし。

 結局、コツコツ通うしかないんだよね。人生ってなんでこんなに苦痛が多いんだ……。

 

「……生まれ変わったら花になりたいなぁ。何も頑張らなくても誰かにお世話されて褒められるし……」

 

 沈鬱に沈みながら、私は教室のドアを開けて……。

 

 

 

 ふと走った視線の先に、その子を見つけた。

 

 

 

 小学生くらいの身長で、学校の椅子ですら足が付くか付かないか。

 顔の半分以上をマスクで隠し、薄い茶の髪を退屈そうにイジっている女の子。

 

 そう、間違いなく、あの子だ。

 

 

 

 ……マズい。

 

 やっぱり名前がわからない……ッッ!!

 

 

 

 私は咄嗟に視線を逸らし、速やかに自分の席に着いた。

 

 あ、危なかった……! もしも話しかけられて名前が出て来なかったら、本気で終わってた……!

 幸い私みたいな陰キャの視線なんて気にしてないんだろう、その子は特に反応することもなく、相変わらず髪をイジり続けている。

 

 ま、まさかSTARRYのスタッフさんが同じクラスにいたなんて、全然気づかなかった……!

 うぅ、ずっと美容室に行けなくて前髪伸び放題だし、それであんまり上の方が見えなくて……いや、それ以上に人と目を合わせるのが嫌で、あんまり顔を見てなかったのが悪いのかな。

 

 で、でもあっちの方も私に反応してないみたいだし、多分私だってバレてない!

 お互い様だからセーフ! これはセーフ……!

 

 

 

 ん、あれ?

 でも、そう言えば……。

 

『お疲れ様、後藤。また今度』

 

 あの時、私の名前覚えてて、やけにフレンドリーな上、「また今度」って……。

 

 まッ……まさかッ、覚えられてる……ッ!?

 同じクラスだから名前覚えてて、やけにフレンドリーで、その上「また今度クラスで会おうね」ってことだったり……!?

 

 あっ、あああっああああああ!!!!

 

 どっどうしよう!

 どうしようどうしようどうしよう!

 彼女、せっかくあんなにフレンドリーに接してくれたのに、私が視線逸らしちゃった! しかも名前も覚えてない!

 こんな態度じゃ「いやお前とか興味ないから近づくなよ」って言ってるようなモノだ! 絶縁されてもおかしくない暴挙ォ……!

 

 どうすればいい!? 今からでも話しかけに行く!? 「あっすっすみません、実はあなたの名前覚えてなくて、気まずすぎて視線逸らしちゃいました」……ってそんなの言えるわけないッ!!

 じゃあ「あっこんにちは、先日はありがとうございました」? さっきなんで視線逸らしたのって言われたらどうすんだ私の馬鹿!

 

 ……う、うおおお!!

 こうなったら気付かなかったフリするしかない!!

 

 あっちから声をかけてきたら「あっ同じクラスだったんですねー不注意で全然気づきませんでしたーはははごめんなさいっ!」って謝るんだ!

 1か月半の間気付かないとか心証最悪だろうけど、全力で土下座して許してもらう他ないッ!!

 

 そう、そうだ、ここは静観! あっちが話しかけてきた時に対処すればいいよね!

 放課後までには、どこかのタイミングで話しかけてくるでしょ! うん、そうに違いない!

 

 よーし、そうと決まれば今日の授業の予習しちゃおう!

 ただでさえもう授業付いて行けてないし、少しでも遅れを取り戻さないとなー!

 

 

 

 その日、彼女が話しかけてくることはなかった。

 

 

 

 はは……。

 今度こそ終わった。

 

 私、STARRYで「同級生のアルバイトに声もかけないクソコミュ障陰キャ」って評判流れて、「そんな子はバンドにいらないよー、じゃあねー!」って追い出されちゃうんだ……。

 

 私のバンドマン人生、完。

 

 後藤ひとり先生の次回作にご期待しないでください……。

 

 

 







 口調と思考のインストール、虹夏ちゃんよりぼっちの方が圧倒的に簡単でした。
 同じ陰キャだからね。


(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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