くるがい 短編集   作:庫磨鳥

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【推奨】:第四十二話までの既読。

【報告】:アスクたちの会話は現在、実装未定となっています。






くるがいCS(キャラクターストーリー)
蝶番野花 ce1


 

 

 

生徒会長となって初めての大規模侵攻。

話に聞いていた通り、『街林』に行かなくていいとなった私は、ひとり生徒会室に居た。

古いけどものすごくフカフカな会長席に座って、卓球ラケットでピンポン玉を百回以上コンコンやってる。

 

最初こそ、学園内にいる『ペガサス』が自分だけとなったことで、謎のワクワク感に浸っていたが、時間が経つにつれて本当に行かなくていいんだろうかという気まずさに変わった。

 

生徒会長としてするべき業務が終わってしまったのもある。大規模侵攻が始まれば多分すること増えるだろうなって思っていたけど、むしろ何もなくなるとは。

 

生徒会室だけではなく、学園どこへ行っても静かで、なんだかみんなが戦っているのに自分だけっていう気持ちになる。

でも、それが生徒会長なんだし、戦う代わりに生徒会長としての業務を色々と頑張ったしと思い直す。

 

いつも酒を飲んでて機嫌が悪い学園長と話すのは、すごく大変。話の内容も、よくわからない愚痴ばっかで、頼みごともてきとーで質問しても無視するか、自分で考えろと怒鳴られる。

 

なので生徒会長業務は歴代の先輩たちが残してくれたマニュアル表を参考にしてやってる。いつも怠けてるとか、てきとーだとか言われてたけど、昔は真面目な生徒会長も居たようだ。ありがたやー、ありがたやー。

 

でも本当に大変で、頼れる人も居ないので、初めて電子マネーが十倍振り込まれたときはうわーってなって爆買いしちゃった。多分ストレス。

その時のお菓子がまだ結構残ってる。甘いものって意外と食べられないね。私だけかな?

 

「あ」

 

ピンポン玉が、扉のほうへと飛んでしまった。

なんだか拾う気にもなれずに、ラケットを机の引き出しに片付ける。

ついでに別の引き出しを開けて、買ったお菓子を幾つか取り出した。

 

「……おいち」

 

チョコスナックをボリボリ食べる。庶民生まれの私では、東京地区に居たら大人になっても食べられなかったであろうお菓子。

最初はあまりの美味しさにテンションぶち上がって、友達とひと口齧るたびにはしゃいでた。

今は何回も食べたからか甘くて美味しいけど、それだけって感じがする。

 

……大規模侵攻での配置を思い出して、アレで良かったのかと悩む。

でも、何日間も考え抜いて決めたし、もう始まったし、しかたないよね。

……また同じこと考えている。これで十回目ぐらいだ

 

まあ、戦況次第で配置は結構コロコロ変わるみたいだし、ダメだったとしても縷々川リーダーなら、ちゃんとやってくれるよね。

……そうだよね? もしもの時は帰ってきたときに心から謝ろう。

 

そもそも自分が『街林(がいりん)』に行ったとしても戦力にならないしね。

同級生の中では勉強ができるほうで、何事も真面目に取り込むところが長所って言われていたけど、戦いは下手っぴのダメダメ。

 

縷々川グループでは直ぐに戦力外って言われて、4回の大規模侵攻とかで何をやっていたといえば後方での雑用ばかりだった。

『街林』に運び込んだ物資の管理と配給、足りなくなったものを学園にとりに戻ったり。

あとはやった回数は少ないけど記録係や伝令とかしたが、直接『プレデター』とは殆ど戦わなかった。

 

そんなわけで大規模侵攻よりも、平和な時のほうが『プレデター』と戦っており、大規模侵攻で起きた出来事も、今の今まで割と他人事であった。

なので誰かが“卒業”しても悲しかったが、あまり落ち込むことは無かった。

いつも一緒に居た同じ雑用係の友達ふたり以外とは、関わりが薄かったからってのもあるけど……。

 

同じ戦闘音痴で雑用係となったふたりと、仲良くなるのは直ぐだった。

全員『ペガサス』として落ちこぼれで、戦いの事はとことん蚊帳の外で。二年生の終わりになって、そろそろ私たちも戦わないといけなくなるかな、そうやって言い合って笑ってた。

ふたりがどう考えていたか分からないけど、私の場合そうやって笑わないと怖かった。

 

今度はポテチを食べる。しょっぱくてパリパリな食感がたまらない。

そういえば友達とは、趣味も結構合って色々と遊んだり、色んなもの食べたりと、本当に楽しかったなぁ。

 

……うん、考えるの止めよう、寂しくなっちゃった。

そんな感じで、私は友達以外の交流があんまりなくて、同じグループ内の『ペガサス』がどうなっても、どこか他人事であった。

 

……脳天気な考え方が変わったのが、“卒業”した先輩ペガサスを火葬場に連れて行く手伝いをしたとき。

何度か話した事があった先輩が冷たくなった姿に、なんとなく、本当になんとなく、私も近々こうなるんだと、現実を見せられた気がした。

 

話した事のある先輩が“卒業”して火葬されるのも間近で見ちゃった私は、その日から寝るのが怖くなっちゃった。

活性化率が上がるのも嫌で、数値を誰かに伝えるのも本当に嫌で……。

だから、生徒会長の話が来たときに、私らしくなく直ぐに手を挙げられたんだと思う。

 

口の中が油っこくなって、食べるのをやめる。

もういちど甘いものを食べようとしたが、食欲が完全に無くなっちゃった。

 

することがなくなって。何かやろうかとひとりで遊べる玩具を見るが、どれもやる気にならない。

思えば、生徒会長になる前は、友達はなんだかんだで毎日一緒に居たよね。途中から同じ部屋に暮らすことになったし。

 

……みんなどうしているかな? 

てっきり、生徒会に入りたいって言ってくるかなと思って待っていたけど、そんなことはなかった。

私が抜けたぶん、大変だって動き回っているのかな? 大規模侵攻が終わったら来てくれるかな?

 

戦ってはないと思う、〈魔眼〉は私みたいに外れじゃないけど、友達も本当に戦闘音痴だったから。

特に矢を射つのはみんな下手っぴで、3人で誰が一番射撃が上手いか勝負の結果は、いま思い出すだけでも笑ってしまう。

アシスト機能無しにしても、あれは本当に酷かった。

 

「ふふ……はぁ」

 

また色々と思い出しちゃって、完全に寂しくなっちゃったと後悔する。元から寂しいのを誤魔化していたとも言うけど……。

テレビゲームでもやろうかな?

テレビゲームは楽しくなかったとしても没頭できて時間を忘れられるからいい。

 

でも、大規模侵攻を考えると、流石にゲームをやるのはなんか悪い気がした。

といっても“卒業”したくないから、行きたいとも思わないけど。

はやく終わらないかな。

 

……なんで、ふたりは生徒会に来てくれなかったんだろう。

そりゃあ、みんなが生徒会をよく思っていないのは知ってるけど……。

……あ、もしかして誘ってないからかな?

 

だとしたら悪いことしちゃった。

大規模侵攻が終わったら、会いに行って誘ってみよう。

生徒会長となってから、なんだか気まずくて会わなかったし、いい機会だよね?

 

……でもやっぱり気まずい。

友達もそうだけど、中等部ペガサスたちからすれば、やっぱり不参加な自分はアレだと思う。

文句言われちゃうかな? 私だったら直接は言わないけど陰でこっそり言っちゃうかも、前の生徒会長のこと、話題に上がったら酷いねっとか言っちゃってたし。

 

「……そうだ」

 

――思い付いた。お菓子とかたくさん持っていこう。

お金たくさんあるし、中等部ペガサスのみんなの分買える。

お疲れ様って労いも兼ねて、パーティを開いてもいいかもしれない。

 

そうしたら、辛い目にあって落ち込んでいる人も気が紛れるかもしれないしね。

 

我ながらいいアイディアだと思う。

じゃあ、どうしよう。今から準備を始めたほうがいいよね?

商店街区画にいって、お菓子やジュースをたくさん買おう。

数十人分ってどれくらい要るかな? まあ余ったら好きなように持って帰ってって言えばいいよね。

 

やることが生まれると、途端にやる気が満ち溢れる。

どうしてもっと早く思いつかなかったのか。

早ければ明日か、明後日には帰ってくると思うけど、できればもう少しだけ待ってほしいな……なんて考えるのは流石に失礼が過ぎる、ごめんなさい。

 

――ああ、会うのが楽しみだな。

 

+++

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――友達が“卒業”していた。

お喋り好きなほう、それに付き合いが良くて会話を盛り上げてくれる友達だった。

 

今回の大規模侵攻でも、いつもどおり雑用をしていたが、人手が足りなくて急遽前線に出ることになって、そのままカブトガニ型プレデターに取りつかれて……。

どうすることもできなかったらしい。

 

それだけじゃない。他にも同級生、先輩、後輩が数名“卒業”していた。

そんなのは当たり前だった。

でも知らなかった。知らなかったんだ!

 

「――ウッ、グズッ……!」

 

図書館の隅っこで泣いている。

悲しいからじゃない。

怖くて怖くて泣いている。

 

中等部でみんなを出迎えてからの記憶があんまりない。

でも、何十個の恨みがましい目で、恐ろしい目で。

たくさん責め立てられて、めちゃくちゃ批判された。

 

ようやく分かった。縷々川リーダーが生徒会長にならなかった理由。

こうなるからだ。こんな風にみんなから思われるからやめたんだ。

ずるい。どうして言ってくれなかったの?

 

友達たちも、それに気づいて生徒会に入らなかったんだ。

どうして? 友達が“卒業”してもう二度と会えないって理由以上に、こんなに辛い目にあわないといけないの?

ちゃんと悲しくなりたいのに、こんなんじゃ本当にひどいやつじゃんか!

 

呑気にパーティ開こうとしたのが馬鹿なことだったって今ならわかる。

でも何も知らなかったんだ。想像できなかったんだ。

これまで何となくで過ごしてこれたから、考えたくなかった。

 

「だって、いいって言ったじゃん!」

 

生徒会長は戦わなくていいって大人たちが決めたことなのに。

私、別に間違ったことしてないよ?

マニュアル通りにちゃんとやったよ?

 

なのになんで? こんな目に遭わないといけないの?

なんで……なんで……?

なんでと考えるが、何も思い浮かばない。

 

「…………?」

 

泣き疲れてぼーっとし始めた。

生徒会に戻るのが怖くて、もうここにずっと居ようかな?

寝返りをうつ、すると棚に並べられた本たちが目に映る。

 

何か気を紛らわせたいと思ったのか、無意識に手を取った。

文字しかない、小説? いや違う。なんだか辞書のようだ。

タイトルを見て一気に興味を惹かれる。

 

「……死後の世界」

 

“卒業”したあとはどうなるのか、そういえば知らない。

話にちょっとだけ聞いた。死んだ人間は、ここじゃない何処かへと旅立つんだって。

…………いいなぁ。

 

きっとこれから毎日、『ペガサス』に会うたびにあんな目に遭うんだろうな。

学園に居たくない。でも『ペガサス』は学園で生活しなくちゃダメ。

それならいっそ、死後の世界に行くのもいいかも知れない。

 

毒を飲んでも、苦しくないらしい。

むしろ幸せな気分になれるとか。

でもやっぱり怖い。

 

そうだ。この本を見て死後の世界のことを知ってから決めよう。

もしも、今よりもアレな場所だったら困るしね。

なんだか結構、絵があるみたいで読みやすい。

 

死後の世界には極楽と地獄があります。

どっちも聞いたことがある。

でも死後の世界のことだったんだ。

 

「――地獄ってどんなところなんだろう」

 

嫌な気分や辛い時に口にする地獄という言葉は、死後の世界の事だったらしい。

死後の世界の中で、何故か一番に気になった。

 

――少し後に野花は思う、ここからが本当の意味で地獄の始まりだったと、なにせこの日、初めて地獄というのをちゃんと知ったのだから。

 

 







[蝶番野花 ce2]に続く(第四十三話と同時公開予定)
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