くるがい 短編集   作:庫磨鳥

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【推奨】:三章前半読了。


鈔前亜寅 ce1

 

 どうにもならない、クソみたいな終わりを、生まれた時から決めつけられていた。

 

 この世界は『プレデター』とか言う、ヤバい奴らに支配されていて、そいつらに人間は、自分たちの中から『ペガサス』を選んで、無理やり戦わせて、なんとか生きながらえている。

 

 言ってしまえば人間は子供を生贄として差し出して、のうのうと生きているようなものだ。

 

 ワタシたちに仕方ない面して説明した先生は、もう少し綺麗な言葉を使っていたかもしれないが、特に生まれた瞬間から生贄だったワタシには、そう聞こえた。

 

「──おい」

 

 リビングに居るやつらに声をかける。何も反応しない。こいつらの名前はとっくに忘れた。

 ずっと顔を俯かせている口に、箸を動かして飯を放り込んでいる。人間の癖にお人形みたいな感じで、見るからに生きていると思えないこいつらを見るたびに、とっととくたばれば良いのにと思う。

 

「おい」

 

 なんど声を掛けても無駄なのは分かっている。こいつらに何をしても無駄だ。

 ずっと無視される事に、いちど腹を立ててテーブルの上にあるものを、こいつらに投げつけたことがある。

 その時は流石に箸を止めたが、ソース塗れ、料理塗れになったのに俯くだけで、動かなくって、ワタシが出ていくまで、なにも喋らずじっとしていた。

 

 もはや我慢とかの話じゃない。頭がおかしくなっているんだ。

 名前、カタカナだけなのが嫌で、自分で漢字を当てたのにも反応しなかった時、こいつらに関してワタシは全てを諦めた。

 

 こいつらは、ワタシを産んだ親は何もかも半端な奴らだった。

 生まれた時から、ワタシのことを生贄として選んだくせに小学校三年になるまでは普通に育てやがった。

 そんな風に普通だったこいつらは、それじゃあ駄目だと急に思ったのか思ったのか、唐突に無視をしはじめた。あの時のことを思い出すたんびにイラついて仕方がなくなってくる。

 

 そんでクソアホなこいつらは、ワタシを居ないものとして扱う癖に、隔離するわけでもなく自由にさせている。

 こいつらの事だから、理由なんて自分たちはあと数年我慢すればいいだけだし、自由にさせてやろうとか馬鹿すぎるものだったに決まっている。

 なんなら、これが親の愛情とか本気で思っていたのかもしれないな。

 なんど聞こうが喚こうが何も言わないから、全部ワタシの妄想。でも間違ってないだろう。じゃないとあまりにもアホ過ぎる。

 どっちにしても、行きたい学校があるからお金がほしいと、問い詰めた時に本音を口にした二番目の姉のほうが百億倍マシだけどな。

 

「……ふん」

 

 なにも変わるわけないって分かっているのに、どうして声を掛けたのか、()()()()()()

 余計な事をしたとして、ムカムカとしながら家を出た。

 

 

+++

 

 

 ──考えることを辞めた親たちを見ていたからか、ワタシは逆にたくさん考えるようになった。

 おかげで、こんな扱いされているのに、他の生贄たちと違って、まともに人と話せる……と思う。

 でも、好きだからじゃなくて必要で、こうなっただけでなので勉強は嫌い。やりたいとは思わなかった。

 

 そもそも学校言っても勉強なんてできる状況じゃなかった。

 三年になってから、学校中のやつらがワタシが『ペガサス』になる事を、どこからか知った。

 これもアホの両親の仕業かもしれないが、それはもうどうでもいい。

 

 明らかに変わった、一番わかりやすかったのは大人たちを含めた全員の態度が変わったことだろう。

 仲が良かった奴らは人を腫れ物扱いしはじめたし、特に仲良くなかったやつらが虐めて来やがった。

 

『ペガサス』にされる事が決まった生贄ははみ出しもの扱いされる。なりそうでもそうなる。

 お母さんが言っていた、お父さんが言っていたと必ず最初に言って『ペガサス』は東京でたらもう二度と帰ってこないって言って、そうする。

 

 始まりは授業中、背中に消しゴムを投げられた時だった。ワタシにしては結構長いこと我慢できていたと思う、というか周囲の変化に戸惑ってばかりだっただけだが。

 でも、ワタシは他の奴らと違って黙ってされるだけじゃ、どうしても我慢できなかった。

 消しゴムから徐々に重たいものになって、先端が尖ったシャーペンをダーツのように投げて来た時にブチギレた。

 

 シャーペンを投げてきたやつに筆箱をぶん投げた。当たりどころが悪かったのか目ん玉に命中して、ギャンギャンと大泣きする姿は、正直言って思い出す度に笑えてくる。

 ただ、あの時の自分を思い出すと恥ずかしい、なんでももっと上手くやれなかったのかと。

 

 担任は、ワタシだけを怒鳴りつけた。本性を剥き出して理由なんて関係なく、抵抗すること自体が間違っていると言わんばかりに。

 ワタシが『ペガサス』になるからかと言えば、そうに決まっているだろと言う。つまりそういうことだ。我慢の限界を超えたと思ったが、まだ上があったらしい、ワタシは担任を引っ掻いた。

 その際に腹を殴られて、結構な怪我になって。それが行けなかったのか、その担任はワタシが一週間休んでいるうちに学校から消え去って、代わりに気弱で役に立たない若いやつに変わっていたが、そこはどうでもいい。

 

 こいつらは全員が敵だった。子供も大人も『ペガサス』にならないやつも、『ペガサス』に送られるやつも、全部全部が敵。

 

 こいつらを『ペガサス』になって守れと言う。そんなのごめんだ。

 でも、ちっぽけなワタシでは『ペガサス』になるのを避けることはできない。誰かになすりつける事もできない。

 それなのに、こいつらは自分のしたいことだけやって、大人になっていく。

 

 だったら、ワタシが『ペガサス』になるまでの、こいつらの人生を楽しくなんて絶対させてやらないと決めた。こいつらの好き勝手にだけは絶対にさせてやらないと決めた。

 無駄だとかなんて関係ない、こいつらが今後とも安全無事に過ごすが気に食わない。

 なにも考えずにバカとアホ丸出しで生きるコイツらと違って、しっかりと考えて、そう決めた。

 

 誰だって関係ない。出来るだけ暴れてやった。

 ワタシを気に入らないとボコボコにしてきた奴らは、絶対にやり返した。

 人のことを居ないものとして扱うやつらには、きちんとワタシの存在を示し続けてやった。

 

 そんなワタシも、もうすぐ小学校を卒業して、『ペガサス』になる。

 もう、おしまい。年貢の納め時っていうやつらしい。

 だけど、その前にやることがひとつ残っている。

 

「──亜寅、ねぇ、亜寅ってば」

「……んだよ」

 

 学校をサボってもう一ヶ月以上、街の地下へと繋がる階段に座っていると、ワタシの同級生で『ペガサス』になる事が決まっている丑錬が、顔を真っ青に話しかけてくる。

 もう捨てられている場所らしく、ほとんど人が来ない。

 来たとしても汚い風貌のおっさんが時々、行き来するぐらいで、お互い見ないふりをするのでどうだっていい。

 

「ほ、ほんとうにやるのぅ? や、やめたほうがいいよぅ……」

「ああ、やる」

「あぅ……」

 

 丑錬が止めてくるのはワタシを思ってとかじゃなくて、ビビっているからだ。

 ずっと一緒にいたワタシには分かる。丑錬は確実に周りを恨んでいるし、怒っている。でも痛いのが嫌で、相手を傷つけて仕返しされるのが嫌だからなにもできないだけだ。

 

 丑錬はワタシと同じく虐められており、容赦なく殴られてきたし、蹴られてきた。

 それに丑錬は体がでかいので大人に見える。ワタシが助けなかったら、それ以上の事をされていただろう。

 ワタシがやられた時は、ワタシの体も、あいつらの脳みそもガキだっただけに過ぎない。

 

 テレビでは『ペガサス』になる子を対象としたいじめが社会問題になっているとか、絶対に辞めよう、もしもしてしまったら普通よりも重い罰則が課せられることがあるって言っているけど……言っているだけ。

 

 いちど交番に言ったけど、取り扱ってくれなかった。悪戯が多いんだよだってよ。やっぱり全員が敵だ。

 

 ──なんだったか、また考えすぎて本題を忘れちまった。

 ああ、そうだ丑錬の事だ。というかワタシが握っているものについてだ。

 

「……どうせ、何をしたって『ペガサス』にされるんだ……だったら最後に好きにしたっていいだろ」

「あ、亜寅はいつも好きなようにしてる……」

「うっせ、というか丑錬はいいのかよ。このままだとアイツら、元はワタシたちだった金で焼き鳥とか食いに行って美味いって言うんだぞ……そんなのはごめんだね」

 

 そういってワタシは、手に持っているナイフを見つめる。

 二ヶ月前、小学校に行くのも面倒になってから、丑錬と共に周辺をぶらつき始めた。そんなワタシたちを見ても、通り過ぎるやつは一瞬だけ見て直ぐに顔を逸らす。

 

 見ないふりがほとんどが、丑錬が大きいから、『ペガサス』にならなくて良かったのに何もしてない若者に見られたのかもしれない。

 そんな奴らを見ながら、ワタシは『ペガサス』になる前にやりたい事があって、ずっとあるものを探していた。

 それが、ナイフだった。路地裏の隅っこに落とし物を盗んだのかもしれないが、でもいいだろ、どうせすぐに『ペガサス』になるんだから。

 

「は、犯罪をしちゃうとアルテミス女学園じゃないところに連れてかれるって聞いたよぅ……そこだと怖いことをされるってのも……」

 

 それはよく聞く噂だ。ワタシにやられている奴がよく言う脅し文句だ。

 罪を犯したやつが『ペガサス』になると、贅沢な暮らしができるアルテミス女学園ではなく、別のところに送られるらしいと聞いた。

 そこでは実験とかされて、最後には生きたまま体をバラバラにされるらしいって。

 

「──知ったこっちゃねぇよ。『ペガサス』になったら大人になる前に死ぬんだ。だったら何されたって変わんないだろ」

 

『ペガサス』になったらどうなるのか。

 どう頑張っても18歳には死ぬらしい。つまりワタシはあと六年にしか生きられない。

 その前に『プレデター』に殺されるか、活性化率がある程度上がったら死なないと行けないから、きっともっと短い。

 それなのに、人間たちは何十年も生きる事が生きて、好きなように生きられる。

 特に、このまま黙って血のつながっているアレらの金に変わるのだけは、どうしても許せなかった。

 

 あのアホな親たちもそうだ。だから考えて考えて、ワタシは決めた。

 

 ──最後の最後に、ワタシが居たことを刻みつけてやる。

 

「丑錬は、アルテミス女学園に行けよ。なんか色々とすげぇ税金掛かってるらしいぜ」

「あぅ、や、やだよ、1人で知らないところなんて…… ……あ、亜寅も一緒にぃ……!」

「……悪いけど、今更決めたことを変えるつもりはないぜ」

 

 立ち上がったワタシは、地上へと出る。

 

「とりあえず、今日はそれだけ言いに来た……じゃあな丑錬、『ペガサス』になって一緒だったら、またよろしくな」

 

 丑錬かが何か言っているが、声が小さすぎて分からないまま、この場を後にする。

 

 

 +++

 

 

 帰り道、通り過ぎる人々はワタシに目も暮れない。身長が低いから、そもそも視線に映っていないのかもしれない。

 たまに関わってくるやつらも居るが、そいつらはワタシが『ペガサス』になる生贄だとわかれば、すぐに気まずい顔してどこかへと消える。

 学校よりもまし、今はそうしか思わなくなった。

 

「──あ、アトラじゃん」

 

 聞き覚えのある声で名前を呼ばれたので、とっさにそちらを見た。

 男性が、ニヤニヤしながらワタシを見ていた。どこか見覚えがある。

 そうだ、数年前に卒業した上級生、ワタシの事を率先して虐めてきたやつだ。たしか……今は中学二年生になるのか、ずいぶんと背が伸びたが、ゲスの顔は相変わらずだ。

 

「久しぶり、俺のこと覚えてる?」

 

 ワタシにやり返されて、体中カッターの切り傷だらけにしてやったあと、そのまま小学校を卒業していった。

 どうなったかは知らなかったが、どうやら普通に東京地区内で生活していたらしい。

 

「無視はひどいな、アレから反省したんだぜ? 親に言ったら、なんてことって泣かれながら殴られたりしてさ。あやうく自衛隊に連れて行かれるところでさー。土下座しまくってなんとかなったけど」

 

 そのままなればよかったのに、イラッとしてやり返そうとするが、ポケットの中にあるナイフをぎゅっと握ったら、少しだけ冷静になって無視して帰ろうとする。

 

「あれ? なんも言わないの? こう恨まれてるなら謝ろうと思ったんだけどー、許してくれるかんじ?」

 

 あまりにもうざい言い回しに、足が止まって睨みつける。

 そいつの顔は、謝罪の気持ちなんて一切なくて、あの時と変わらない『ペガサス』になるんだからと別にいいだろと、楽しそうにしている顔だ。

 

「いやでも、それだとちょっと悪いなー。一発殴ってもいいよ。ほれ、ほれ、俺の頬あいてますよー。前みたいに殴ったり、切りつけてこないんですかー? でも殴ったら贅沢三昧できるアルテミス女学園に行けないかもしれなくなるねー」

 

 どうやら、あの噂を信じて、ワタシをひどい事をされる場所へと送るために煽ってきているらしい。とことんアホなやつだ。全く持って変わっていない。クソすぎる。

 それはお前を守ってくれるものじゃないし、ワタシがアルテミス女学園行く気がなくて、ポケットにナイフが入っているを知ったらどんな顔をするのか。

 

「お、やっぱ殴れないんだ。そうだよな、アルテミス女学園って俺らの税金で贅沢して暮らせる場所なんだろ? そこに行けなくなるのは、やっぱ嫌だよな?」

 

 呆れ返っていたら、勝手に話が進んでいる。

 うざったい、別にどうでもいい、ポケットの中に握りしめているこれは、お前に暮れてやるものじゃない。

 

「そんな顔すんなよ。だから謝るって、土下座でもしようか? なっ、なっせっかく謝ってるのに無視は流石に理不尽じゃないの? お前だってあの時反撃してきたんだからお互いさまなところを、こうやって言ってるんだぞ?」

 

 どうやらこいつは、ワタシを嵌めるまで粘るつもりらしい。

 だったら、ワタシが普通の人になりすまして、先に大声で助けを呼ぶかして騒ぎを起こしたほうがいいかもしれない。

 でも、そうなれば最悪ポケット中を探られると不味い。

 

 どうするか、どうするべきか、考えて考えて──無視して家に帰ることにした。こいつを追い払うのは到着してからでいいだろ。

 

「……ちっ、まあいいや。もう会うこともねぇしな──ああ、そういえば、お前とずっとつるんでいた背の高いやつ居ただろ! 今から見つけ出して『ペガサス』になる前に、いっかいだ──」

 

 

 

 

 ──ナイフを腹部へと突き刺した。

 

 

 

 

 間の抜けた叫びや、悲鳴とか、なんか言葉が周辺から聞こえてくる。

 でも、よく聞こえない。

 誰だよ、刺すと気持ちが良いとか言ったやつ。嘘付きやがって。

 

 

 

 

 

──なにも考えられなくなって、気持ち悪くて、吐きそうだ。

 

 

 

 


 

 

 鈔前アトラ

【特記事項】

 加害歴 有り

 公的機関による補導経歴 有り

 態度 難有り

 学校評価 最低

 以上のことからP細胞の投与まで麻酔による昏睡状態を推奨。

 北陸聖女学園、もしくは四国防衛女子高知分校への輸送入学を推奨する。


【返答】

 問題なし。

 アルテミス女学園入学 承認

 

 

 

 




人食い虎のふりをした少女。
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