くるがい 短編集   作:庫磨鳥

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第一回月世先輩が言いそうで言っていないモノマネ選手権

 

 その日、暇なペガサスたち十数名が歓迎会を行った地下音楽室へと集まっていた。

 

「──さあ、何気ない言葉から御本人の強い要望によって始まってしまいました、“第一回月世先輩が言ってそうで言っていないモノマネ選手権”が始まりました」

 

 ちなみに第二回が有るかは誰も知らない。

 

「実況は、なんかやり方知ってそうという理由だけで選ばれた中等部二年『戌成ハルナ』。解説は高等部二年『土峰真嘉』先輩でお送り致します」

「よろしく」

「さて真嘉先輩、今の気持ちはいかがでしょうか」

「何事もなく終わってほしいな」

 

 プロ根性からか任された以上はきちんと実況をするハルナと、解説というかは本音を口にする真嘉は目からハイライトをオフにしながら進行する。

 

「それでは、一人目にして最後の参加者、アルテミス女学園高等部二年ペガサス『雁水レミ』先輩の登場です」

 

 旧時代からテレビで使用されているらしい独特の登場曲と共に、舞台裏からレミが駆け足でステージの上へと現れた。

 

 これからレミが行うのはタイトル通り、先輩であるアルテミス女学園高等部三年ペガサス、『久佐薙月世』のモノマネである。

 ただし、その内容は本人が言ってそうであるが言っていないであろう言葉を予想したものであり、あくまでレミの個人的な想像によるもの。

 

 まあ百歩譲って、それをするのは良いかもしれないが。

 問題は、このネタを常に微笑み何を考えているかわからなくて、他人を躊躇いなく利用して使い捨てそうで、怒らせたらいったい何をされるのか怖くて想像すらしたくない御本人の眼の前でやるというのは、くそ度胸が過ぎる。

 

「えー、“何か良くない事を言われたさいに攻撃力MAXの罵倒をする月世先輩”』

 

 レミが内容を読み上げる。ハルナはこの時点で誰か中止にしてくれないかなと願っていたが叶う事は無く、モノマネが始まる。

 

 レミは長さが足りない自分の髪を撫でつつ、ニヤッと笑みを浮かべた。明らかに攻撃的であるが厭味ったらしくなく、妖艶さを感じられるもので、無駄に再現度が高い。

 真嘉とハルナは本当に帰りたくなった。

 

 

「──“貴女の脳みそは、ミミズの塊ですか?”」

 

 

 言い終えた瞬間、レミの真下の床が開き、舞台下へと落ちていった。

 真嘉が思わず、いつのまにあんなの付けたんだよと呟く。

 底が浅く、レミは直ぐに這い出てきて自分の足で舞台裏へと引っ込んでいった。

 

「……あー、それではお二方、感想のほうをどうぞ」

 

 若干声が振るえているような気がしなくもないハルナは、パイプ椅子に座り、もっとも間近で見ていた先輩二名に声を掛ける。

 

「……あれ? なんか聞き覚えがあるような、たしか中等部時代で喧嘩になった時に」

 

 最初に口を開いたのは真似された本人である月世ではなく、その隣で見ていた親友たる『喜渡愛奈』であった。

 

「ああ、そんな事もありましたね。ただあの時わたくしが口に出したのは“貴女の脳みそは丸めた新聞紙のようですね?”だったはずです」

 

「あー、そうだった! もう、あの時は本当に大変だったよー」

 

「おっとー、まさかのニアミス。言ってそうで言わないモノマネ的には減点かー」

 

「レミのやつも大概だと思ったんだけどな……」

 

「しかもレミさんとは違い、様々な情報が載っている新聞、紙製となれば古臭く更新もできない、それも丸まっているとなればまともに読むこともできない。かなり皮肉度が高い内容、正直その発言に至った事情を一切知りたく有りません、流石ご本家と言ったところか」

 

「レミのやつ落ち込んでいるかもな……あ?」

 

 真嘉たちが舞台袖の方を見たら、レミが顔と手だけ出して指を二本立てていた。

 その意味を正確に読み取った真嘉とハルナはめちゃくちゃ嫌そうな顔をする。

 

「……どうやら急遽二回目をするそうです、どうですか解説の真嘉先輩?」

 

「もう2度とやってほしくはない」

 

「そうですか、私もです」

 

 昔話に花を咲かせはじめて楽しそうにする真似された御本人と親友とは裏腹に、とにかく心臓が悪い実況と解説は盛大に溜息を吐いた。

 

「もういいですか? ……はい、それでは雁水レミ先輩、二回目の登場です」

 

 例のBGMが流れ、レミは寸分違わず全く同じ動きで舞台袖から小走りで出てきて、定位置へと立つ。

 だったら、最初からやり直す必要無いでしょとデカかった言葉をハルナはギリギリのところで胃の奥にしまう。

 

「──えー“夕食のさい、周りの『ペガサス』が思わず二度見しちゃう雑学を何気なく言う月世先輩”」

 

 レミはナイフとフォークを持つふりをして、肉を切るジェスチャーを行う。演技の才能があるのか、しっかりと切った肉を口へと運び、上品に口を動かして、絶妙なタイミングで空気を飲み込んだ。

 

 

「……“そういえば、豚の臓器は人間に移植できるほど形が近いらしいですよ”」

 

 

 レミは再びぱかっと割れた床下へと落ちていく、たしかに豚肉食べているとき、そんなこと言われたら二度見するかもしれない。

 

「ええ! そうなんだ!?」

 

「おっとー、愛奈先輩思わずモノマネではなく知識の関心の方が勝る」

 

「え? マジなのか?」

 

「解説役も驚愕、ちなみに私も分からないです」

 

「そうですね。豚は多くの点で人間に近しい肉体構造をしており、また家畜として多くが育てられていたので調達しやすく、そのため人間の異種移植における最優先研究対象になっていたそうです。噂によれば旧時代末期ではあらゆる問題を解決する目処がたち、臓器交換が容易くなる事から人間の寿命が二倍以上伸びるのも後少しとされていたようですが、『プレデター』が現れてしまった事で、異種移植の技術は紛失、残っていても社会衰退によって現状、再現が難しいとか」

 

「「「へー」」」

 

 月世の雑学(トレビア)に全員が感嘆の声を上げる。愛奈が異種移植って何と話題が続いていき、それに他の『ペガサス』も興味を惹かれ、誰もがステージよりも月世に視線を向ける。

 

 そんな光景に、穴から這い上がってきたレミは膝と手のひらをステージ上に付けて落ち込んでいる。ルールとしては成功のようだけど試合に勝って勝負に負けた感じなのだろう。

 それにハルナは気づいていたが、このまま心が折れて終わってくれないかなと無視した。

 

 しばらくするとレミは立ち上がり、静かにステージへと去っていく。

 

「……どうやら今回はここまで……ん?」

 

 再び例のBGMが鳴りはじめた。小走りでレミがステージ戻ってくる。三度目の挑戦である。

 

「──“山に登っているときに──」

 

「また来週!」

 

 ハルナはテーブルに設置されていた緊急ボタンを押して、レミを強制落下させた。

 ふぎゃっと床下から聞こえてた情けない声を聞きながら、ハルナは思う。

 

 ──本当にまた来週する事になったら、流石に断ろう。

 





来週ないです。
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