くるがい 短編集   作:庫磨鳥

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モ◯スターズメイトさんごめんなさい。




誰が一番『加護(チート)』を手に得られるか選手権

「――可辰たちの将来は前途多難です。時には茨の道を進む事になるでしょう。地獄に等しい場所を潜り抜けなければならないかもしれないでしょう! そのためには、より強い『加護(チート)』が必要だと可辰は思います!」

 

「お、そうだな」

 

中等部一年『祝通(はふりどおり)可辰(かしん)』はスピリチュアル系ペガサスである。

そんな可辰とは同じグループに所属する仲間であり、友達である『キメラ』の『鈔前(しょうぜん)亜寅(アトラ)』が、慣れた様子で話を聞いていた。

 

「可辰は多くの『加護(チート)』を得るために滝に半日以上打たれたり、アルテミス女学園を休まず百周するなど、してきました!」

 

「お前ほんといい奴だよな」

 

正直、そのスピリチュアル行為が、どれほど効果があるのか、亜寅は懐疑的であるが、自分たちのために苦行を厭わずに祈ってくれる事を、嬉しく思っていた。

 

「ですが、それでも可辰たちの将来を考えれば、まだまだ足りてるとは思えません!」

 

「そっかー」

 

「ですので、ここで新たなる『加護(チート)』を得るための儀式を始めます!」

 

「唐突だなー」

 

足りないと思うのは、可辰が将来に不安を抱いているから。

なので、儀式でもなんでも、すれば安心するのであれば、気が済むまでやらせてやった方がいいだろうと亜寅は見守る事に徹する。

 

「――可辰、お待たせ、言われた通りに作ったけど……本当にいいの?」

 

そんなふたりに中等部一年真白いペガサス、『上代兎歌(かみしろとか)』が合流。手に持っていた皿をテーブルへと乗せた。

 

「おっ、おやつの時間か! へへっ、今日も美味そうだぜ!」

 

皿の上には、兎歌お手製のシュークリームが九つ乗っている。

食べようと思えば、十代女子である『ペガサス』でもひと口で食べられるほどのサイズであり、口の中に放り込んで噛み締めたら、溢れるクリームで幸せになれるやつだと亜寅は自然と笑顔になる。

 

「九つってことは『勉強会』の分か? ならひとり一個だな!」

 

「あー、ごめん亜寅。これ可辰に頼まれたやつなの」

 

「可辰に? ってことは言ってた儀式のやつか」

 

「うん、みんなの分はまた後でね」

 

用意されたシュークリームは、おやつではなく可辰の儀式に使うものだと知って、亜寅は少しだけ残念に思う。

しかし、いったい何をする気なのか、亜寅は皆目検討がつかず、説明してくれと可辰に視線を送る。

 

「何をするにしても、何があろうとも“運気”というものは大事です。尽きてしまえば災を一身に受けることとなります……なので、この儀式をを行う事で“ 運気”を向上させる『加護(チート)』を得ます!」

 

「なるほどなぁ……兎歌、あの中身って何が入ってる?」

 

「六個はカスタードクリームだよ」

 

「あと3つは?」

 

(みどり)(えにし)、運命を司る色であります。そんな緑にエネルギーを増幅させる力を持った黄色を混ぜることでさらなる強い『加護(チート)』となることでしょう! さらにさらに、儀式を天明に委ね、辛い試練にする事で得られる『加護(チート)』はより強固で強いものに変わります!」

 

「………………ワサビとカラシか」

 

「いちおうクリームも入れたよ……マシになるかなって」

 

「いやむしろダメじゃね?」

 

亜寅は、もしも自分が食べてしまったことを想像して、うげっと顔をしかめる。

 

「つまりなんだ。可辰は今からロシアンルーレットみたいなのをやるのか?」

 

ロシアンルーレット。

物騒な起源は置いといて、同じ見た目の食べ物にいくつか外れを用意し、順番に食べていくなり、一斉に食べるなりをするゲームのことだ。

もし外れを食べてしまえば、激辛に苦しんだり、酸っぱさに苦しんだり、苦味に苦しんだりと、まあろくな目には合わない。

 

「できれば、普通に美味しいものを食べて欲しいんだけど……」

 

「よく用意したよな?」

 

「わたしたちのためって話だし、押しに負けちゃって……」

 

「じゃあ仕方ねぇな。アイツ自分のやりたいこと意地でもやり通すやつだからな……」

 

態度こそ人馴れしておらず気弱に見える友人であるが、自分の意思を決して曲げない頑固者だ。

そんな自分たちを想って行動してくれる友達の頼みとなると、多少主義に反する事でも断れないよねと兎歌は諦めた表情で引き受けた。

 

「それでは儀式を始めたいと思います! おふたりは無事に成功して、素晴らしい『加護(チート)』を得られるようにと、お祈りください!」

 

「……なあ可辰、これって具体的には、どうなればいいんだ?」

 

「三つの苦難を、できるだけ早く取り込む事です!」

 

「ってことはつまり、何にしてもカラシとワサビ入りのを三つ食べ切らないとダメってことか」

 

「ええ!? そうなの!?」

 

儀式の内容まで聞いていなかった兎歌は驚きを露わにする。

 

「可辰ちゃん、やっぱり普通に食べない? 流石に三つはキツいと思うよ。普通に拷問だよ!」

「そんな拷問を用意した張本人が言っております」

「亜寅!」

 

流石に三つ全てを食べる気だったのは予想外だったと、止めにかかるが時すでに遅し、意識を集中していた可辰には届かなかった。

 

「それでは行きます! えい!」

 

「「あ」」

 

ひょいぱく。

可辰は躊躇なく、シュークリームをひとつ口の中へと放り込んだ。

もぐもぐと咀嚼する可辰を見て、亜寅と兎歌はごくりと喉を鳴らす。

美味しそうだから、ではなく緊張から来るものだった。

 

「……ど、どう?」

 

当たり、いや、儀式の内容からして外れを引いたのかと、兎歌は聞いてみる。

 

「……――――――――」

 

「あっ」

 

可辰は、急に噛むのを止めて、ピタリと停止する。目が見開き、心なしか顔が真っ青だ。

全てを察した亜寅が声を漏らす。

 

「か、可辰ちゃん?」

 

「無理すんなよ? 可辰? おーい聞こえているかー? かしーん?」

 

「どうしてもダメなら、ペッってしてもいいからね!?」

 

「……た、体内にきちんと……受け入れ……ることでさらなるちぃとほ――――ぷえ」

 

「「わーーーーーーー!??」

 

 

 

――しばらくお待ち下さい

 

 

 

「あっぶねぇ、マジでギリだった!」

 

「バケツ用意しておいてよかった!」

 

ギリギリのところで間に合わないと判断した亜寅は、手に持った袋いりバケツごとヘッドスライディング。

一歩間違えれば、床も自分も大惨事になりかねない危険な賭けであったが、おかげで最悪な事態を回避できた。

 

「ううっ、不甲斐ないです……」

 

「もー、あまり無茶しないでね。はい、これお水」

 

可辰は渡されたお水で口内をうがいして、一息つく。

 

「でっ可辰、味の方はどうだった?」

 

「辛かったです」

 

「うん、でしょうね!」

 

入っているのワサビとカラシだもの、辛くて当然だ。

 

「でも最初、カスタードの甘さがあって、最初食べられるかもって思ったんですが……それから凄かったですね」

 

「うわっ」

 

味を思い出して目からハイライトが消える。

それを聞いた亜寅が思わず引いた声を出してしまう。

 

「と、とにかく飲み込めませんでしたが、食べること自体はできました! 先ずは一つ目です!」

 

「えぇ、続けるの?」

 

「はい! これもみなさんの将来が、より安全なものになるよう『加護(チート)』を得るためです!」

 

「ほんとすげぇやつだよお前は。心から尊敬している」

 

この行為に果たして意味が有るのかは置いておいて、亜寅は誰かのためならば苦難を受ける事を厭わず、祈願してくれる友達に気持ちが暖かくなる。

 

「……うしっ、わかった可辰!」

 

「は、はい?」

 

「この儀式ってやつが、ワタシたちに関係することなら、別にワタシたちが参加してもいいんだろ?」

 

「……ん? わたし“たち”? ……ええ!?」

 

急に何を言い出すのと驚く兎歌に、亜寅は耳元まで寄って小声で話始める。

 

「可辰の事だ。ここで中止にしたら気に病むし、かといって、このままひとりでやっているの見ているのは、お前だってキツいだろ?」

 

「そ、それはそうだけども!」

 

「ちょうど三分割できる数だし、みんなで幸運を手に入れようぜ?」

 

「ああもう、分かったよ! わたしも参加する! いいよね可辰!?」

 

「は、はい!」

 

こうして、可辰の儀式に、ふたりは参加する事となった。

 

 

+++

 

 

九つのシュークリーム。

兎歌お手製のふわふわ生地の中には、程よい甘さのカスタードクリームが入っている。

しかし、その中のうち三つにはカラシとワサビ入りとなっており、食べたら悶絶すること間違い無いだろう。

 

元々、『加護(チート)』を手に入れるため、可辰がひとりで食べ切る予定だった。

 

「――ほ、本当にいいんですか?」

 

「お願いされたとはいえ、用意しちゃった責任があるし、わたしも食べるよ!」

 

「そうそう、つっても運ゲーだから、どんな結果になっても恨みっこ無しだぜ!」

 

自分たちの未来が良きものになるおうにと、儀式をしているのを見守るだけでは忍びないと兎歌と亜寅は、参加を表明した。

 

「んじゃ、可辰は一個食ったし、ワタシたちのどっちかからか、順番どうする?」

 

可辰が一個食べて、残りは八個。その中で、カラシとわさび入りは二個となっている。

三名で割れば、ちょうど三個ずつ食べる事になるため、次は兎歌か亜寅のどちらかになる。

 

「じゃあ、わたし先に行っていい?」

「おっ、意外と乗る気じゃん」

「数が多い時のほうがいいかなって……」

 

一緒に食べる事に同意こそしたが、じゃあ食べたいかと言われれば視線を逸らしてしまう心境の兎歌は、普通のシュークリームを食べられる確率が高い二番手を指名。

特に反対意見はでなかったので、亜寅が三番手になった

 

「というか思ったんだけどよ。作った張本人だから当たり外れの場所知っているんじゃないのか?」

 

「可辰に絶対分からないようにって念押しされたから、中身を詰める時に一個ずつ場所を変えたり、お皿回したりしたから、どれか全然分からない」

 

「まじめ〜」

 

「わたしも、そう思う」

 

ズルをするつもりは無いけども、こうなるなら外見がなるべく統一するように努力するんじゃなかったなと兎歌は、己のこだわり強めの性格に文句を言う。

 

「あ、兎歌ちゃん。間近で見て選んで食べるとなれば、得られる『加護(チート)』の性質が変わってしまうかもしれません! なので、ここから選んでください!」

 

「そういうとこ、ちゃんとしてるんだね……」

 

実は内心、近くで見れば違いが分かるかもと思っていただけに、兎歌は普通に困る。

歩幅十歩分の距離ぐらいなら、『ペガサス』の視力だとシュークリームの僅かな細部まで見る事ができる。

しかし、距離は問題ないが、違う角度から見れないとなると、多少の違いを判別できた所で、どれも一緒に見えてしまう。

 

「がんばれー、はやくしないとくさっちゃうぞー」

「うー」

 

この状況を明らかに楽しんでいるであろう、ニヤついた亜寅に渋い顔を向ける。

とはいえ、ずっと悩んでいても仕方がないと、兎歌は覚悟を決めた。

 

「……よし、じゃあこれ!」

 

意を決して指定したシュークリームを手に持ち、その勢いのままパクリと一口で食べる。

 

「──うん、美味しい!」

 

口の中に広がるカスタードクリームの甘さに、兎歌は我ながらいい出来と自画自賛する。

 

「まあ正直、予想通りっちゃ予想通りだな」

 

正直、これで外れていれば(当たっていれば)面白かったのになと思う亜寅であったが、そうはならないと確信を持っていた。

なぜなら兎歌は幸運だから。それは誰もが知る所であった。

 

物的証拠があるわけではないが、『勉強会』メンバーでトランプゲームなど運要素が強い遊びをすると、兎歌の手札はいつも、笑えるぐらい神がかっている

それこそポーカーで遊べば、その日の内には必ずフォーカードかロイヤルストレートフラッシュが出るほどである。

 

なので、兎歌がカラシとわさび入りのシュークリームを食べない事は、亜寅にとって予見していた事である。

 

「んじゃ、次は俺か」

 

「亜寅も、ここから選んでね」

 

「分かってるって」

 

──甘いぜ兎歌! このワタシが無策に参加するわけないだろ!

 

自分の番となった亜寅は、先ほど兎歌の立っていた場所に立ってシュークリームを眺める。

兎歌と可辰のふたりが見えないことをいいことに、亜寅はにやりとほくそ笑んだ。

兎歌は幸運だ。だからといって勝算が無いまま参加したわけじゃない。

 

――『キメラ』のワタシが本気になれば、カラシやわさびの刺激物の匂いなんて一瞬で嗅ぎ分けられるぜ!

 

可辰がひとりで悶絶する所を見守っているだけなのは嫌だったというのは本心だ。

だが、美味そうなシュークリームを食べたいというのも本心だし、カラシとわさび入りなんて絶対食べたくないというのも本心である。

 

なので彼女は全力で甘くて美味しいだけのシュークリームを食べるために本気で策を容易る。

食べたいという感情を高ぶらせて、『キメラ』の嗅覚を鋭くする亜寅。

手足や尻尾が変化しないように注意を払う。変化操作訓練の成果を、ここで発揮する。

 

なお、こんなことのためにキメラモードになるのは、先輩に結構ガチ目に怒られるやつである。

中等部一年特有の若さを発揮する亜寅、嗅覚に意識を集中させて生地から漏れ出す匂いを、正確に嗅ぎ分ける!

 

――嗅ぎ分ける………嗅ぎ分け………?

なんの匂いもしねぇ。

 

「どうしたの亜寅? 尻尾がなんか踊ってるけど……」

 

「……兎歌、これかあくまで例え話だけど、中に入っているカラシとわさびって匂いするやつか?」

 

「するよー。だから一応、穴は後からクリームで塞いだりして匂いは漏れないようにしたけど、近くで嗅いだら流石に分かるかも」

 

いや、完璧だと思うぜと亜寅は内心で、友人の仕事ぶりを褒め称える。

 

「でも、なんで匂い……あ、もしかして亜寅、匂いでどれがワサビカラシ入りか当てようとして――」

 

「よし、これにしたわ!」

 

図星を突かれた亜寅は勢いのまま、シュークリームを掴んで口に放り込んだ。

噛みたくねぇなと思いながら、最初はゆっくりと顎を動かす。

 

「――っ! しゃあ!! うめぇ!!」

 

用意していた策は失敗に終わったものの、亜寅が選んだのは甘くて美味しいシュークリームであった。

 

「ほんと、兎歌の作るお菓子はうめぇな。なあ可辰!」

 

「はい、いつも本当に美味しいです!」

 

「ありがとー、でも複雑だよー」

 

不正がバレそうになったのを、亜寅は勢いでなんとか誤魔化す。可辰はそもそも気づいておらず、まあ食べたからいいかと兎歌は流した。

 

こうして、三名が一個ずつ食べ終わり、残りのシュークリームは六個、カラシわさび入りは二個となっている。

続いて、可辰の番。亜寅は申し訳ないと思いつつ、これは勝負の世界だからと、もう一回食べてくれーと、まぁまぁ強めの念を送る。

 

「――あ、甘いです!」

 

「良かった〜。これで可辰ちゃんだけ食べれなかったどうしようかと思ったよ」

 

「……おう、そうだな!」

 

そんな亜寅の願いとは裏腹に、可辰が食べたのは普通のシュークリーム。

残り五個、からしワサビ入りは二個健在である。

 

「ん、じゃあわたしの番だね……ううっ、できれば食べたくないな」

 

これで兎歌が普通のを食べたら、自分の二巡目が来た時は四個中二個がカラシわさび入り、つまり50:50(フィフティ・フィフティ)となってしまう。

これは本格的に不味いぞと、ふたりに見えないように頬を引きつらせる。

 

兎歌は幸運だ。ここで引くのはあり得ない。

それに可辰も、ワタシに比べれば運があるほうだ、このままでは二個とも食うハメになりそうだと亜寅はメンタルで負けそうになる。

 

──いや、本当にありえないのか? 未来というのは定められているものだろうか? そんなの嫌だね。この世の中、幸運だけじゃないはずだ!

たとえ、兎歌が外れを引かなくても──()()?。

 

「──はっ!」

 

などと気合を入れ直した亜寅に電流が走る。

 

「可辰、ちょっといいか?」

 

「はい、どうしましたか?」

 

「うーん、悩んでても仕方ない、右のこれ!」

 

亜寅が可辰に話しかけたと同時に、兎歌は食べるシュークリームを選び終えて小走りに駆け寄る。

 

「これってカラシとわさび入りが入っていた方が、なんつーか、“当たり”何だよな?」

 

「そうですね! 可辰たちに『加護(チート)』を与えてくれるのは、この3つとなるので、そう考えてもいいと思います!」

 

「──あ、やっぱこっちで!」

 

兎歌は途中で心変わりをしたのか、最初に決めたものとは違うシュークリームを手にとって、口に放り込んだ。

 

亜寅は知っている。兎歌が幸運のペガサスであると、必ず当たりを引くのだと。

そして、その“当たり”と呼ぶべきものは、本人にとって良いことであるとは限らないと、亜寅は知っている。

 

「あ、や──? んっ──ん゙~~~~っ!?!?!?!!?」

 

一瞬の甘さの後に襲いかかってくる、カラシとワサビの刺激。兎歌はまるでウサギのようにぴょんぴょんと飛び跳ねる。

 

「シャッ」

 

流れが変わったと、亜寅はふたりには見えない角度でガッツポーズを取った。

 

「兎歌ちゃん大丈夫ですか!?」

 

「おっと、ほらバケツ。ちゃんと袋の中に出せよな」

 

「────うっ」

 

 

※しばらくお待ちください。

 

 

「……うーっ、もったいない! てか本当にやばいよこれ!?」

 

「お水をどうぞ!」

 

「ちゃんと口ゆすげよー」

 

「ありがとー……うー……うっ──」

 

「「あー」」

 

 

※しばらくお待ちください。

 

二回目もやっと落ち着き立ち上がる兎歌の白肌は、若干青みがかっているように見えた。

 

「むり、飲み込めなかったぁ……」

 

「なんというか、どんまい」

 

「いい笑顔過ぎるよ亜寅……」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「いいよ、元はといえば、わたしが作った奴だし……でも、もう一個は無理かな!」

 

「泣いても笑っても、あと一個ずつ、しっかりと食べ切ろうぜ!」

 

「元気だね、亜寅……」

 

残すところ、あと一巡、亜寅はこのまま美味しいシュークリームだけ食ってやるぜと、薄暗い笑みを浮かべた。

 

 

+++

 

 

残るは3つ。ワサビとカラシ入りがひとつ。

つまり、あと一回は誰かが食べる事となる。

 

「んじゃ、次は可辰だな」

 

「は、はい! 頑張ります!!」

 

他のふたりとは違い、可辰はむしろ自分が食べなければと意気込む。

 

「いいって、いいって、そんな気を張らなくても、もうちょっと楽しくやっても罰は当たらないと思うぜ?」

 

「なんか余裕だね、亜寅」

 

「いやいや、もうワタシは残された最後の一個を食うだけだから。悩んでも仕方がないってだけだよ」

 

「悟ってる……」

 

ジト目で見てくる兎歌に、亜寅は穏やかな笑みを浮かべて両手を合わせて、全てを受け入れる構え……と見せかける。

 

その実は、その前に兎歌が“当たり”のシュークリームを食べるのを確信しているゆえの余裕だった。

 

幸運とは何をもって、そう呼ぶのか分からないが、とにかく“当たり”を引くという事に関しては兎歌は天才的だ。

このロシアンシュークリームにおいて、当たりとはカラシわさび入りの方となっている。

つまり、ワタシは最後の一個を食べるペガサスとして、“残念ながら”至って普通の美味しいシュークリームが食べられるのだと、亜寅はニヤけるのを我慢する。

 

「――ううっ、とても美味しいですっ!」

 

「美味しかったら、普通に喜んで欲しいな……」

 

可辰が引いたのは、その普通に美味しいほう。

口の中に広がるカスタードの甘さを感じつつ、可辰は悔しそうにする。

 

「まあまあ、ほら次は兎歌の番だぜ」

 

「うー、順番が早いよー」

 

「信じてるぜ、マイフレンド」

 

「どういう意味でかは聞かないよ」

 

自分の番が回ってきた兎歌は、真剣に2つのシュークリームを交互に見比べる。

でも、やっぱり違いが全然わからない、作った本人なのにと、ぐぬぬ顔になる。

 

「決めた、今度するときは美味しくするからね!」

 

「次もやるのか」

 

「言葉のあやだよ!」

 

「とにかく、早く選ばないとくさっちまうぜー」

 

「分かってるけど……決められないー!」

 

どうしよう、二個目は流石に無理と兎歌は決めきれないでいた。

 

もし本当に次やるなら、抹茶とか栗がいいな。でも高いんだよね。

いや、甘さに拘らずベジタブルシューとかどうだろうか、程よい塩気のある生地を作って、その中にペースト状にした野菜を入れてみよう。

これなら、緑や黄色だけじゃなくて、いろんなものが作れる。

うん、これなら野菜が苦手な東海道ペガサスの子とかも食べられるかもしれない。ものすごくいいアイデアなのでは?

 

兎歌は悩みすぎて思考が明後日の方向に飛び始める。

決めたと身体を動かそうとすると、先程の口の中に広がった地獄を思い出してしまい後ろへと下がるを繰り返す。

亜寅は真顔を浮かべつつ、内心でおもしれぇと他人事のように楽しんでいた。

 

「う~、亜寅~、順番変わってー」

 

「二番手を選んだのはお前だぜ。それに、もしワタシが普通のシューを食ったら、分かってても残ったやつを食わないと行けなくなるぞ」

 

「それはそれで嫌だ……ほんとなんで平常心で居られるの?」

 

「全てに身を委ねるのです」

 

「すごく悟ってる……!」

 

実際は、お前が絶対に引くと信じているからだぞ。という本音を亜寅は飲み込む。

 

「うーん」

 

しかし長期戦になりそうだな。そういえば可辰はどうしてるんだと気になった亜寅が、様子を見ると何か考え込んでいた。

 

「どうした可辰、なんかトラブルか?」

 

「あ、いえ、儀式は順調です! ……ただ、その……」

 

「なんか言いたい事があるなら、遠慮なく言った方がいいぜ?」

 

亜寅が助言を送ると、可辰は少し考えた後、恥ずかしそうに口を開いた。

 

「その、この儀式は皆さんの未来を善きものにするための『加護(チート)』を得るものなので、食べてもいいのですが……」

 

「決めた、左!」

 

話の最中であるが、兎歌が長い苦悩の末に食べるシュークリームを決めて歩き出した。

 

「──みんなで、一個ずつ当たりを食べたら、より善い『加護(チート)』を得られるかもしれないと思っちゃいました」

 

「やっぱり右!」

 

「あ」

 

兎歌は再び寸前で違うシュークリームを手に取ると、口の中へと放り投げた。

 

亜寅は何だか嫌な予感がするなぁと真顔で、咀嚼している兎歌を見る。

 

「――うっ……お、おいしい〜!」

 

普通のシュークリームを食べられた事に、心からはしゃぐ兎歌。

ちょっと嬉しいと思いつつ、複雑な表情を見せる可辰。

膝から崩れ落ちる亜寅。尻尾がヘタっている。

 

「──そうだな、お前は友達の幸せを心から望めるやつだったな」

 

可辰の願いが叶う結果となったいま、亜寅はなんかいい感じの事を口にする。

膝立ちの姿勢で天井を見上げる亜寅に、兎歌がはしゃぎながら近づく。

 

「さあ、亜寅! 最後のひとつだよ!」

 

「嬉しそうにしちゃってまぁ……くぅ」

 

もはやシュークリームは一つだけ。選ぶ必要がないため亜寅は側まで移動する。

中身は見えないが、自分がしばらくお待ち下さい状態になるのは確定事項であるため、亜寅はその場で固まる。

 

「……あ、亜寅ちゃん、この儀式は可辰が始めたことですし、食べるなら……」

 

「──みなまでいうな可辰、こういうのは最後までしっかりやってこそだろ? じゃないと可辰と兎歌の頑張りも無駄になっちまう」

 

「あ、亜寅ちゃん!」

 

可辰の魅力的な提案を、亜寅は断る。

確かにワタシは美味いシュークリームのみを食べるために、友達相手にまあまあガチな策を打つヤツだ!

だが、自分の我が身可愛さで友達の善意を蔑ろにするクズじゃねぇ!

 

「ワタシたちの未来が、めちゃくちゃ()いものになる事を祈って──おりゃー!!」

 

「「いったーー!!」」

 

「かっれごばぁ!?」

 

「「亜寅ーー!!?」

 

 

「おーっす、なにしてるっすかー、うわぁきったね!?」

 

※しばらくお待ち下さい。

 

──亜寅は責任をもって、自分が汚した場所を掃除しているさなか、『キメラ』の食えるものじゃなかったなと思った。

 

ちなみに三名は後に、もしかしたら東海道ペガサスの子たちが真似するかもだから、食べ物で遊んでいる風な行為は控えてねと、生徒会長にやんわり叱られた。




おひさしぶりです
くるがいを書こうとすると手が止まっていました。
最近、動きましたのでリハビリを兼ねて。
いつもどおり、やっていきます。
楽しんで頂けたら幸いです。
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