【推奨】:2章読了
【報告】:小説を通常投稿に変更しました。
──最悪の目覚めとしか言いようがない。
変にケチって安く買った目覚ましの音が、あまりにも微妙だった。初めてだよ、あの独特のピピピ音で逆に寝たのは。安眠時計と間違えたのかと起きて五分ぐらい疑ったレベル。
その所為で寝坊した。二度寝による目覚めにしては爽やかだったけど、もうお昼だよ。完全に遅刻、どんだけ頑張っても四時限目にも間に合わない、寮から私の全力を以て校舎へと登校したところで到着する頃にはお昼休憩半ばである。
そして、あろうことか私は寝起き早々遅刻であると現実を受け入れてしまい、全てを諦めて、それなら家でゆっくりとお昼を食べてから五時限目に登校しようと判断してしまった。
自主性を重んじる校則、そしてこの時ばかりは授業を免除されている立場であるのを感謝しつつ贅沢にビーフジャーキーサンドを食べて、パックの紅茶を楽しみ、昼のゆったりと時間を楽しんでいた。気分は全てを許されるお姫様である。後にそれが全て勘違いだったと処刑される系の。
──神様が情けを掛けてくれたのか、ごちそうさまと両手を合わせた瞬間、本日どうしても破ることのできない約束があった事を思いだして、絶叫した。
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途中、パジャマ姿で外に出たことに気付き、もう1度家に帰って黒シャツとスカート、紺色の上着の高等部制服に着替え直すというトラブルに見舞われながら、どんな奇跡か、お昼休憩の間に学園へと到着することができた。残り五分だけど。
この学園の校舎はとても広い、なので入っても速度を緩めることはせず、もはや亀並みに遅くなった全速力でゴール地点まで走る。
半泣き、もはや全泣きで手足を動かし、本当にもうとにかく向かう。 そんな必死の頑張りの末に到着、お昼休憩はまだ終わっていない、やった間に合った!
「「そんなわけあるかい!」」
──ですよね! ごめんなさい!! そして申し訳ありませんでしたああああ!!
完全にキレてらっしゃる友達二人に謝罪し、そして自分が呼び出しておいて待たせてしまった“先輩”に向かってスライディング土下座を行なう。ううっ、無駄に高級そうな絨毯の摩擦が熱い。
カチャリとカップを皿に置いた音を合図にしたかのように、学校のチャイムが鳴った。
「──おや、お昼休憩終了のチャイムが鳴ってしまいました。困りましたね、これでは頑張る後輩たちのお仕事を邪魔しながらお茶を頂いただけの、はた迷惑な先輩になってしまいます」
いえいえいえいえいえと、自分たちは先輩に向かって千切れてもいいってぐらい首を横に振るう。
「ふふっ、冗談が過ぎましたね。ごめんなさい」
そう言って楽しそうに上品に笑う先輩。この人のこういう所が本当に怖くて……もうほんと怖い。私は心体共々震えさせながら、改めてお待たせしてしまって本当に申し訳ありませんでしたと、額を擦りつけながら謝罪する。
「本当に気にしていないので席に座ってください。既に授業に出ず卒業だけを待つ身であるので時間は持て余すほどあります。それに、副会長と書記のお二方が話し相手となってくれましたので有意義でしたよ」
──きっとめちゃくちゃ友達“で”遊んだんだろうなと思ったが、絶対に口にはできない。
友達のほうに向けて本当にごめん、そしてありがとうと感謝の視線を送ると、本当だよこら、これは何か奢ってくれないと許せないですねと言う意味が込められたであろう睨みが返ってきたので、今月分の食券の残り枚数と、財布の中身を思い出し、視線をそっと先輩の方へと元に戻す。
「さて、授業の方は問題ないとはいえ一日の時間は有限です。用件に移ってもよろしいでしょうか?」
もちろんですと高らかに叫ぶと、月世先輩はコロコロと笑い出した。分かっていた事だが、この件で暫くは虐められるんだろうなと魂が飛び出そうになる。
──寝過ごしただけなのに、なんだこの踏んだり蹴ったりは、あの目覚まし時計め~、流石に制作会社にクレームを入れてやろうと決意する。
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二つ上の学年、つまり高等部三年の
西日本を実質支配しているとまで言われている、あの久佐薙財閥の血縁者である文武両道のお嬢様。ここアルテミス女学園に居ることが不思議なくらい、国民という階級を通り越したかのような天上の人。
本来であれば極々普通のモブ学生である私なんかでは、視界に入る事すら無礼になるんじゃないと考えてしまうような位のお人なのだが、そんな先輩とは去年から公私共々、がっつりと交流していた。
それは何故か、私がアルテミス女学園の生徒会長で、月世先輩はそんな私のサポーター的立場だったりするからである。
そう何故か、本当に何故か、中等部三年から選挙に当選してしまって生徒会長になってしまったのだ。それも二年連続、なんど考えても意味が分からない。
この学園は自由な校風を売りにしまくったせいで、活動や業務によって限りある学生としての自由時間を奪われてしまう生徒会というのは、超絶不人気であり、大昔には、誰1人としてやりたいという生徒が出なかった事もあったそうだ。
これを重く見た学校側により、生徒会長および生徒会に就任した生徒には破格の特典が与えられる事になり……そう、その特典の中にある毎月支給される食券十倍という文字に心を奪われた私は、気がつけば生徒会長選挙に手を上げてしまったのであった。
立候補してしまった以上は仕方ない、友達二人を巻き込んでの選挙活動に勤しんだ。それ事態は大変だったけど、絶対に選ばれないだろうなと、ここの時点では本気で思っていたのもあって気は楽だったし、選挙活動のために学園のそこら中を回れたのは良い経験になって本当に楽しかった。
普段なら見学するのも厳しい部活に仮入部できたり、有名な先輩や後輩たちとの交流を持てたりと、良い思い出を作ることができ、いちおう自分の掲げたスローガンも恥ずかしかったけど公表をしたとき、いいねとか応援するとか言われて充実していた。
友達には変に真面目だねっていわれたが、やるからには変に怠けるよりかはいいでしょと、それぐらいの気持ちで頑張った。
そんな時に突如として、このヤバイ先輩が話しかけてきたのである。
応援演説会に誰に出て貰おうかなとぼんやりと考えている私の前に現われて、貴女“が”生徒会長ですと意味分からない事を言ったかと思えば、私の応援演説人として、壇上に立ち、わたくしが支持するこの子に投票してくださいとひと言だけ口にした。
こうして流石に、アレでは無理だよねー……無理だよね? などと友達たちと青ざめた顔同士で慰め合いながら迎えた投票日、私は大差で無事……全くもって無事ではないが、生徒会長へと就任した。
縁が無いと思っていた生徒会室で別の意味で泣いちゃって、友達としばらく抱き合った。その後、どうして生徒会長になるって言っちゃったのと散々に怒られたりもして、その日は世の中って理不尽で出来ている事に気付いた日となった。
──以前から申し上げていました四つの部活なんですが……何度か交渉を重ねましたが、やはり最初の条件以外では飲まないとのことです。
「おや、わたくしが後ろに居ると自覚してもなお強気に出ますか。分かりました、近いうちに直接出向いて話しましょう」
──はい、ありがとうございます! ……それで例の備品に関してですが、どうしましょうか?
「その事ですが、知り合いの会社に伺ったところ、倉庫で眠っている古いものであれば無料で譲ってくれるとの事で、個人的な寄付として手配させて頂きました。数日後には届くと思いますので対応のほうを、よろしくお願いします」
──あ、はい。
月世先輩が、どうして私を生徒会長にさせたかったかは知っている、というか本人から直接聞いた。それはアルテミス女学園生徒らしく、卒業までの残り一年間を自由に楽しく過ごしたいからであった。そのため無難で特に大志と呼べるものも無ければ、深い欲も無い私を担ぎ上げて、傀儡政権にすることで、学校の権力を裏から牛耳りつつ面倒な事をしなくてすむようにしたらしい、本当に酷い。
生徒会自体は月世先輩“たち”の後ろ盾があるとあって、学園の生徒であれば凡人の私の話でもちゃんと聞いてくれますし、どうしようもない案件は、今みたいに月世先輩が対応してくれるため、生徒会長の業務自体は割となんとかなっている。
でも、月世先輩が働きたくない部分を、私が代わりにやってるだけであって、絶対に私いりませんよね? 十倍頂いている食券、部活やサークルの交渉材料としてしか使ってないし、なんなら自腹出費とかもしてるので、毎月赤字なんですけど?
「本当にご苦労を掛けます。今年で卒業する身、残された少ない時間を貴女のおかげで心から楽しませて貰っています」
──いえいえいえいえいえいえ。こちらこそ貴重な経験ありがとうございます!
……もう、他の先輩といい、この人たちは普通に心を読んでくるから、迂闊な思考もできないよ、怖いよ。それで口にするのも感謝で、敬意を払ってくるんだから、なんていうか凄くずるい。やっぱりこういう所が庶民との違いなのだろうか?
まあ、蛇に飲まれた蛙の如く諦めて、今年いっぱい頑張りますか。
「このお礼は必ず、就職に関する事柄は全てお任せください。来年からの二年間、是非ともなにも考えず自由に遊んでください」
──わーい、嬉しいですー。
できればご遠慮したい。そんなこと言える度胸はなく死んだ目で喜ぶ。約束通りに久佐薙グループの会社にコネ入社できたとして、絶対分不相応で上手く行かない気がするので本当は断わりたいのだが、私はもはや腹の中に入れられた消化される身、拒否権などありはしないのだ。
「──生徒会長、失礼します……やっぱり、ここに居たんだね、月世」
「おや、迎えに来てくれたのですか? 愛奈」
そんなこんなで数時間後、相談事が丁度終わったころに生徒会室の扉が開いた。用事をお願いした友達たちが帰ってきたのかと思ったが、声を聞いてすぐに来客であると分かった。
高等部三年の『
伝統的な日本美人を思わせる黒髪の月世先輩と、茶髪ポニーテールの現代風美人の愛奈先輩、親友同士の二人が並ぶ姿は圧巻のひと言であり、拝む後輩たちの気持ちがすごく分かる。
「もうお話は終わったの?」
「ええ、ちょうど」
「そっか、生徒会長もいつもお疲れ様、いつも学校のことを見てくれてありがとね」
あ~、いつもの事ながら愛奈先輩は私を気に掛けることを忘れることなく、慈愛に満ちた微笑みで謝辞をくれる。この人に褒められると、なんか心から頑張りが報われてる~って思えてしまい、一瞬にして自己肯定感が満タンになる、ヤバイ。
愛奈先輩は普通の家庭出身らしいけど、アルテミス女学園の化身と呼ばれるほどアイドル視されている先輩だ。優しく誰とでも分け隔て無く接して、どんな話題でも乗っかってくれる有り様は、本当に女神様のようで、私も上手く行かなくて落ち込んだときとか愚痴や悩み事を聞いてもらって癒してもらった。
──あ、もしかして月世先輩とお約束が? それでしたらごめんなさい!
「ううん、約束はしていなかったから安心して、遅刻したの? 体調は平気? あんまり無理しないでね」
ああ~、優しい〜、全てが許された気になってしまう~。というかよくよく考えたら愛奈先輩と約束があったら、月世先輩がこんなに悠長にしているわけないかと、完全に余計な質問だったね。
「それで月世、これから皆で遊びに行く事になったんだけど、どうかな?」
「愛奈のお誘いなら断わるわけないじゃないですか、用事があったとしても行きますよ」
「そういうことしちゃうから、聞いてるんだよ?」
愛奈先輩に誘われた月世先輩は、私たちに向ける捕食者の微笑みではなく、心から嬉しそうな笑みで応じる。
月世先輩は、愛奈先輩の事を親友という言葉に収まらないぐらい特別視している、この間、もしも久佐薙財閥と愛奈先輩どっちを取るんですかって疲れすぎて気が狂った質問したら、即答で愛奈先輩と言うぐらいには。
久佐薙財閥のお嬢様、というかあの月世先輩にここまで言わせる愛奈先輩、どういった経歴で、こうなったかは分からないけど、この人も結構大概なんですよね。
「そうだ、仕事が終わったら生徒会長も一緒に遊ばない? もちろん友達も一緒に」
などと、心を読んでくる系先輩たちであるのを忘れて、かなりアレな事を考えていたら、愛奈先輩からお誘いを受けた。
──大変申し訳ありませんが、今回は遠慮しておきます。
「あら、お金の心配はしなくて構いませんよ? わたくしが全て持ちます」
──いいえ、遠慮しておきます。
愛奈先輩は学歴立場関係なく、こうやって遊びに誘うコミュ力おばけであるため、去年から交流を持った時点で既に何度も誘われており、実際に遊んでもいる。なんだかんだで、とても楽しかったりするのだが、今回はご遠慮する。
愛奈先輩と月世先輩たちを含めた『伝説』の三年と呼ばれている十人の先輩たちが揃っているみたいだし、流石に業務終わりに、あの濃さの中では気疲れして迷惑をかけるだけだと思うしね。
それに最近、部費関係で何人かと話し合いになっちゃったので、しばらく対面するのはご遠慮したかったり。というか月世先輩、それが分かって誘いましたよね?
「愛奈、彼も来るんですか?」
「今日はちょっと用事があって無理みたい」
「それは残念ですね。久しぶりに会いたかったのですが」
「週末になったら、一緒に会いに行こうよ」
なお、愛奈先輩には彼氏が居る。偶然、町の中で並んで歩いているところに出くわした事があった。愛奈先輩はアイドル並みに人気があるだけで、芸能人ではなく、彼氏が居たっておかしくないのだが、あの時は見てはいけないものを見てしまった気分になってしまい、頭が真っ白になっちゃった。
そんな事もあって、彼氏彼氏と脳内で連呼しているが実はちゃんとした確認が取れていないため、彼氏(仮)だったりする。兄妹ではなく、どうにも月世先輩とも仲がいいみたいだが……これ以上は深く考えてはいない
そんな彼氏(仮)さん。ちょっと頼りない感じこそしたが、大きくて包容力があるって言えばいいのか なんか大人でありながらも気さくで優しく、あの愛奈先輩のことを守って行けそうな男性って感じで、この人と本当に特別な関係だったら、ちょっと羨ましいなって思った。
……そんな事を思ったためか、ついつい友達に愛奈先輩の彼氏(仮)が居ることを暴露してしまい盛り上がってしまったのは、もうしばらく秘密です。ごめん愛奈先輩、なんかそれが原因で学園で騒動が起きたら、生徒会権限フル活用して助けるから許して、たぶん月世先輩だけで、どうにかできそうだけども。
「では、生徒会長、わたくしたちはこれで失礼させて頂きます。今度、寝坊するさいは事前に連絡してくださいね」
──はい、もちろん! 今度は夢を見ていても連絡する所存です!
「もー、あまり苛めないの! ごめんね、生徒会のお仕事大変だよね? できるかぎり私も手伝うから、必要だったら遠慮無く言ってね」
はい、もしもの時はお願いしますと偽りの無い気持ちを伝える。でも愛奈先輩が動くとなると、まあまあ……結構……割と、問題以上の事態が起きるというか、解決の後に発生する面倒事のほうが大変というか……本当に最終手段的にお願いしたい。
──なんだか、生徒会長になったのは私自身のために良かったかもしれないなと、二人を見てると、ちょっとだけ思ってしまう。
+++
それから先輩たちは帰っていき、入れ替わる形で戻ってきた友達ふたりと、ゆるやかな雑談タイムとなった。当然であるが遅刻した事に対して、自分たちが如何に月世先輩の接待で心身共に削られたかという内容混じりに、めちゃくちゃ叱られた。本当にごめん。
それでも、最初提示された賠償スイーツがとんでもない値段だったため、なんとか頑張って交渉して、ほどほどのものに妥協してもらう……食券十倍に増えても、十倍以上使ったら赤なんですよね、社会って難しい。
「月世先輩が就職、面倒見てくれるって言うのは、久佐薙グループにコネ入社させてくれるってことだよね? ……いやー、んー、就職活動しなくても良くなるって考えるとありがたいけど、久佐薙系列の会社って末席までエリート中のエリート集団って言われてるじゃん、絶対にやっていけないって」
「といっても、久佐薙グループに関係がある下請け会社とかじゃないですか?」
──その事なんだけど、なんか内容のニュアンス的に久佐薙財閥の会社ではなさそうなんですよね。月世先輩、実家嫌いらしいし、もしかしたら東京で起業して、自社に私たちを入れるつもりとか?
最初は笑い飛ばそうとしたが、冗談のつもりで口にした私を含めて、あり得ると項垂れた。もし、この考えがマジだった場合、残り二年間青春を楽しむぞーなんて言っている場合ではないのだ。
実際に久佐薙グループにコネ入社だけなら、何かあった場合、最悪辞表を出せば、とりあえずは終わる話ではある、月世先輩と会社で働くとなれば、そんなわけには行かない。
「……ボク、今からなんか事務系の資格とろうかな?」
「それより、マナー講座行きませんか? なによりもお客様対応で失敗するのが怖すぎます」
据わった目をした友達たちの会話を聞いて、ふと、生徒会長の業務で培ったスキルって何だか社会に出ても普通に通用しそうだな、と思った。なんなら、そういったスキルって月世先輩ご本人からナチュラルに教え込まれているという。
「……ねぇ、怖いことに気付いたので言っていいですか?」
「やめて、ボクも気付いたから言わないで」
──私たち、生徒会業務を通して月世先輩に将来の部下として鍛えられています?
「うわあああああああああああ!!」
「生徒会長! ボクたちに絶望を与えて楽しいですか!?」
──喉に違和感を持ちながら学校生活なんて送りたくないでしょうが!
そのあと、どったんばったんと飽きるまで行なわれたレスバトルは、なんにしても月世先輩から逃げられないということを再確認して決着した。
──帰ろっか。
お肉になる未来を予知してしまった家畜のような目をしながら、私が言うと、二人は細い声で返事をして立ち上がった。
ああ、けっきょく学校に来たのに授業に出られなかったな。生徒会特典として活動が認められれば単位は貰えるけど、それに甘えちゃうと学校生活が薄まるというか、なんか、仕事しにアルテミス聖女学園に来ちゃっているみたいな気がして、できるだけ普通の学業もしていきたいものですが、中々に難しい……いや、今回は寝坊しただけなんですが。
そう思いながら、そそくさと生徒会室を出ようとした私の両肩を友達が、がっしりと掴む。
ちっ、謝罪スイーツの件、忘れていませんでしたか。
+++
仕方なしに学園内の商店街区画にある喫茶店へと、トボトボ歩みで向かう。本当に今月やばいのに、しばらくは給食で餓えをしのぐしかない。
「仮に卒業後の進路の話が本当だったとして、来年から生徒会を辞めたボクたち何も考えずに、残り二年間を遊びに消費できると思う?」
「無理ですね! だって、このあいだ遊びにいったときも、気がついたら生徒会のことばっかり話題にしていたじゃないですか」
本当にそれな、なんですよね。手遅れなレベルで生徒会に染め上げられてしまっており、たまには何も考えずに普通の学生らしく遊ぼうぜと、三人で遊びに行ったら、ランチでも、映画でも、ショッピングでも、気がつけば生徒会関係の話題ばかり話して、なんなら一番盛り上がった。
──真面目であることは良いことなんだろうけど、公私分別ができるほど器用ではなく、かといって混同して生きれるほど強くはない。
「なんていうか……」
「本当に……」
──普通だよねー。
別に生徒会の活動や業務は嫌なことばかりではない、大変な思いはいつもしているが、楽しい事や嬉しい事が数え切れないほどあった。それでも、こんな風に悩ましく思っちゃうところも含めて、普通なんだろうなと気疲れをしてしまう。
「──おーっほっほっほっほっほっほっほっほっほ!!」
うわぁ、と出かかった声を、どうにか寸止めする。見れば友達たちが微妙なくしゃり顔をしており、きっと私も同じ顔をしているんだろうな。我慢しきれずに深いため息を吐いたあと、笑い声のした方向に目を向けた。
「生徒会長! 随分とお疲れのご様子ですわねっ! そんなに大変でしたら本日中の退任をオススメしますわよ!」
──それは無理な話って何度も言ってるでしょ? 猫都さんや。
高笑いの正体は、分かりやすく派手なお嬢様風の中等部三年と一個下の後輩である猫都であった、うん、知ってた。
彼女はいわゆる現生徒会アンチの筆頭で、何かと絡んで私たちに辞職しろと言ってくる困ったちゃんである。粘着性が高く、五月蠅くて凄く面倒なのだが、陰湿ではないのは幸いか、どちらにしろ絡みに来るのはいいとして、いい加減同じことを言わせないで欲しいな。
「ふん! 優秀な先輩たちを差し置いて! 貴女たちが生徒会であることは言語道断! やはり不正な手段を以て当選した以外、あり得ませんわ!」
──違うよ。不正はね、無かったんだよ、不正はね……。頼んでいないのに、この学園でいちばんヤバイ人が後ろで私に投票しろーって言ったら、大体の生徒がハイって従っただけなんですよ。
「黙りなさい! どちらにせよ、この歴史有るアルテミス女学園に貴女のような平凡な生徒は、生徒会長に相応しくありません!」
それに関しては私も同意である。本来であれば生徒会長なんて成れる器ではないのは自分が一番自覚している。だけど月世先輩が学園を卒業するまで辞めるに辞められないんだよ、ちくしょう!!
まあ、途中で放り投げるってのも嫌だしね。
「というか、生徒会に対する不信任決議も否決になったんだから、今年は諦めなよ」
「私たちは諦めましたよ?」
「ぐぬぬ……」
猫都は私たちを生徒会長の座を降ろすために活発的に活動しており、続投が決定したさいに全校生徒投票式の不信任決議を敢行してしまったのだ。
もうどうにでもなーれとテキトーな態度で、生徒会に対してネガティブ活動をする猫都たちアンチグループを放置し、成り行きに任せていたら、反対大多数によって否決となり、これによってむしろ私たちは余程の事情が無い限りは生徒会を辞められる手段を最低でも来年まで失ってしまった。
なんか無難で安心する。ちゃんと話聞いてくれるからいい。仕事してるんだなー、頑張ってるんだなって分かる。月世先輩が大人しいのは貴女のおかげ。他の人になるよりかはマシ。良くも悪くも仕方ないかって思える。同情するから生徒会長やってくれ。
などなどの応援? の言葉と、生贄の山羊を見るような視線を頂き、私たち生徒会は続投、無事二年目へと至る、涙が出たのは自分の仕事をちゃんと見てくれている事への嬉しさからだと思いたい。
「あとはもうスポンサーの説得というか、月世先輩に直談判しかないと思うよ」
「うっ!」
あからさまに動揺する猫都。分かる分かる、月世先輩とは話したくないよね。
「あ、そういえば猫都さん。また部活サボったんですか? 響生先輩が探していましたよ?」
「きょ、今日はこの辺にしておきますわ! ……ぜ、絶対認めませんからね〜!」
月世先輩の説得が嫌なのか、勘違いで入ったらしい高等部二年響生先輩が立ち上げたお笑い部の活動が嫌なのか、猫都さんは顔を青褪めさせて、脱兎の如く逃げていった。
「……今日も元気だったね〜」
「丁度いいタイミングで来てくれました。おかげで少しだけ気分転換できましたね」
そうだねー、と私たちは猫都さんを生暖かい視線で見送った。確かに絡んでくる彼女は面倒だと思ってるし、トラブルを引き起こすし、猫都本人含めて彼女の支持生徒が居るサークルや部活とかと話し合いする時とか心の底から面倒くさいと思っているけど、ああやって、バカ丸出し……もとい、元気いっぱいに絡んでくると、後輩というのもあって、ちょっと可愛らしく見えてきて私たちの癒しになっていた、めんどくさいけど。
「んー、まあ、将来の事を考えたってしかたがない」
「そうですね、とりあえずは今をしっかり生きましょう!」
──そうそう、将来を考えたところで私は自らの選択によって、うわばみに飲み込まれた憐れな餌なのだ、怪物の栄養になりながら消化されないように、やっていくしかない。
侵略者が現われました! 侵略者が現われました! 侵略者が現われました! 侵略者が現われました! 侵略者が現われました! 侵略者が現われました!
ぎゃあっと、唐突に鳴った甲高いアラートに驚いて悲鳴を上げてしまった。もう何度も聞いているのに、相変わらず慣れない。
警報だから気付かせることが何よりも大事なのは分かるけど、せめてもうちょっと平和な音にしてほしいと常々思う、絶対に生徒会長の権力を活用して今年度中に変えてやる。
「嫌なタイミングで来てしまいましたね!」
「──デザートはお預けだね」
ある日、地球に現われた侵略者。アルテミス女学園の生徒たちは、そんな侵略者と戦う事を義務付けられている。
正直行きたくないし、私が居なくても、めちゃ強い先輩たちがなんとかしてくれると思うが、生徒会長なので、そういうわけにも行かない。こういうのは表だった行動が大事なのだ。
「茉日瑠は既に到着しているかな?」
「──また夜稀が変な装備を使おうとしないといいですけど」
SFチックなデザインのナイフを握る。侵略者相手では心許ない『ALIS』、どうしてボクの武器は、これなのだろうか?
「そういえば、ふたりは前線で戦いませんね」
「──どうして居ると思ったんだろ」
──。
「なんにせよ、早く行こう──みんなが待っています!」
────。
誰かに呼ばれている。おかしいなボク以外、誰も居ないのに。
──────野花。
お願いだから、名前を呼ばないで、辛いんです。
+++
──意識が覚醒すると共に、自分が泣いている事に直ぐに気付いた。
感情が溢れて、思考が纏まらない。
ひどい夢を見ていた気がする。なにも覚えていない事にホッとするような、そんな夢。
「…………?」
遅れて己の頭が撫でられていることに気付く、気力が湧かず確認はしないが、この小さな手の正体は判っていた。
ここ最近、うなされていると彼女は、こうやって頭を撫でてくれた。どうしてと理由を聞いても、よく分からなかったが、して上げたことを返してくれているらしい。
そんな彼女の恩返しに身を任せながら、瞼を気怠げに開く、すると目の前にはベッドに背中を向けて床に座る、冷たくも頼もしい背中が見えた。
もしかして彼女が呼んでくれたのだろうか? そうだったら後でお礼を言わないと、頭もいっぱい撫でて上げよう。
──でも今は最も安心できる、この空間でもう1度眠りたかった。どうせ目が覚めたら、こんな世界で頑張らないと行けないんだから。
「──おやすみなさい……また、後で──」