平和な元の世界を創造した……はずなんだけど。   作:クレナイハルハ

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笑顔を作るという事

 

あれから屋敷の中にお邪魔することになった私は今、大きな広間らしき場所の中央。いかにも目の前に偉い人が座るんだろうなぁって感じの座椅子の前に用意された座布団の上に正座して、出されたお茶を飲んでいた。

 

出されたお茶を飲まずに帰ったらいけない、これも先輩の魔法少女から学んだことの1つだが平和な世界で、それもヤがつく人達の屋敷で活かされるなんてあの人も考えていないだろうなぁ。

 

一応、前の世界では偉い人の護衛とかも任されたことがあった為にこうした場での挨拶は経験したことがあった。だけど、こんなに早く帰りたいと思ったことはない。

 

そもそも私が伝えられるのって何処で拉致されて、犯人が二人の2つくらいだ。もし、本名を伝えたら絶対に大変なことになるから、出来るだけセルリアンで通さないと。

 

そんなことを考えていると、部屋の入り口の扉が開いた。

 

さて、一体どんな強面の人が出てくるのか。そう思いながら頭を下げて目の前の座椅子に誰かが座ったのを確認する。

 

「取り敢えず、顔を上げてくれるかな」

 

相手の許可を貰い顔をあげると目の前には、二十代後半くらいの容姿で、失礼だけど都会にいる金髪のチャラい感じの男性が笑顔で座っていた。

 

「いやぁ、待たせてごめんね。」

 

「いえ、問題ありません。」

 

「そう言って貰えると助かるよ………その、フード外したら?ここは室内だし」

 

やっぱりそこからか来るか、確かに室内で相手との対面でフードを被っているのは普通なら失礼だ。

 

「無礼を承知で申し上げます、フードを取ることは出来ません。申し訳ありません」

 

そう話すと男は全くニコニコした笑顔を崩さないで頷くと、ゆっくりと頭を下げた。

 

「いや、構わないよ。改めて、娘を助けてくれて本当にありがとう。君は恩人だ」

 

「あ、頭を上げてください。私は、私に出来ることをしただけですから」

 

「私に出来ること、ね。それは君のその格好や、神永から聞いた話が本当なら君には不思議な力があるようだね」

 

「ッ……」

 

この人がここまで来るのに少し間があったのは、神永さんから話を聞いていたからか。

 

「そう言えば、自己紹介がまだだったね。ボクの名前は……カナタ。希代 彼方(キダイ カナタ)だよ、魔法少女さん?」

 

「魔法少女セルリアン、この姿での名前です」

 

「へぇ、セルリアンさんね。覚えたよ、色々と話したいことはあるけど取り敢えずノゾミが誘拐された状況を教えてくれるかな?」

 

先程までの少し軽い話し方から、真剣なものに変わったのを感じて私は気を引き締める。

 

「貴方の娘さんの悲鳴が聞こえて、聞こえてきた方向に向かったら真っ黒な車に貴方の娘さんが連れ込まれていたのを見ました。警察に連絡しても間に合わないと思ったので、車の後を追うことにしました」

 

「なるほど、黒い車ね。それは神永からの報告で聞いた廃ビルの一階に停車していたものかい?」

 

「はい、それで車が廃ビルに入っていったのを確認した私は貴方の娘さんを助けようと潜入して誘拐犯と思われる男性二人を鎮圧して娘さんの縄を切っていた時に」

 

「神永が部屋に突入しきた、という訳だね」

 

「はい」

 

「ふむ…………」

 

説明を終えるとカナタさんは顎に手を当てて考え込み始めた。

 

「心当たりが?」

 

「まぁね、気付いていると思うけどウチはそういう家だからね。」

 

うん、まぁ今世でチラリと見たドラマから連想しているけど、結構ヤのつく方々の生活というか仕事は、常に物騒なイメージがある。

 

「取り敢えず、今はそれらは置いておこう。君へのお礼が先だ」

 

そう言いながら希代さんは懐から財布のような物を取り出して、この中から長方形のカードを取り出すと私へと差し出した。

 

「これ、ボクの連絡先。何か困ったことがあったりしたら力になるよ?」

 

「……頂戴します」

 

私との繋がりを保とうとしている?いやそれとも純粋な感謝の心からのお礼なのか?

 

後者で考えるなら、本当にあった話のような事が2チャンネルで見たことがある。ボロボロのヤ◯ザを助けたら、後に助けた人物が大変なことに巻き込まれたり等し、ヤ◯ザの人達に助けられる。鶴の恩返しのような話だ。

 

だけど前者として取るならば、弾丸を素手で掴み取る事ができ、自分より背が高い大人二人を制圧出来る私を、何らかの争いにて『切り札』として利用しているのだと考えられる。

 

カードを受け取ると、ただ単に連絡先が書かれた物ではなくカナタさんの名刺だった。

 

これ、もし家で見付かったらどうしよう……。

 

カードを仕舞っておく場所について考えながら受け取った名刺をしまう。ちなみに名刺交換や、受け取り方も前の世界で学んだことの1つだ。自衛隊の人が、将来就職したときに役に立つよと笑いながら教えてくれた。

 

まさか、こんな所で活かされるなんて思わなかったけど……。

 

「すいませんが、そろそろ失礼させて頂きます」

 

「そうだね、君の外見からしてもう家に帰らなければならない時間だろう」

 

「それでは、失礼します」

 

「いつでも遊びにおいで」

 

そんな気軽に来ちゃダメなのではないだろうか。

 

神永さんの案内で希代さんの屋敷を出て、家まで全力で走る。希代さんの屋敷の部屋に置かれていた時計の針は4時30分を指していた。5時までには家にいないと、両親に迷惑がかかる。

 

瞬速と身体強化使って家へと屋根を伝って走り家に着いたのは4時45分頃だった。変身を解いてから家に入り靴を確認する、どうやらまだコハルは帰って来ていないようだ。

 

ふと、戦場で怯えた様子で震えていた光景を思い出した。

 

私はあれを知っている、軍に所属した魔法少女が強いビーストや敵魔法少女と交戦し敗北した時の彼女たちと重なって見えた。

 

もう嫌だ、戦いたくない、怖い……そんな感情で埋め尽くされて泣くしか出来ない。

 

もし、コハルがウィザーズとして戦うことを止めてくれるのなら、嬉しいと思う。コハルが戦いで傷付く事がもう無くなるのだから。

 

それにウィザーズを名乗っていた彼女達全員が戦うことを止めてくれるなら嬉しい。彼女達はまだ子供だ、戦場も知らなければ戦いも知らなかったはずの少女達。今回の戦いで彼女達も学んだだろう、見た限りでは全員が地面に倒れ伏していた。

 

自身より遥かに強い敵との交戦を通して自身の弱さを自覚し、命の危機が目の前に迫る恐怖を感じたはずだ。

 

彼女達が戦いを止めるのを私は望む。

 

戦うのも、傷付くのも全部私でいい。

 

私は魔法少女セルリアン、すべての人の夢や希望を守る者。

 

もし、またあの鎧を身に着けた男と戦うとしたら今のままの私では勝ち目はない。切り札である騙し討ちは既に対策されているだろう。

 

どうにか策を考えないと……。

 

その時だった、玄関の扉が開く音がして玄関に向かうと俯いているコハルが玄関に立っていた。取り敢えずコハルとはいつもの様に接した方が良いだろう、そう思いながら口を開いた。

 

「お帰りコハル、前に言ってたおやつを作ったんだけど夕飯の後にでも────」

 

「ありがとうお姉ちゃん……後で食べるから冷蔵庫に入れておいて」

 

そう言うとコハルは何も話さず黙って二階への階段を上がっていった、恐らく自分の部屋に向かったのだろう。

 

やっぱりさっきの戦いを引きずっている様に見える。かといって私が励ますのは違う気がするし、取り敢えず様子を見た方が良いか。

 

そう思った私は自分の部屋へと向かう為に二階への階段を上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

晩御飯を食べてすぐに自分の部屋に入った私は部屋の電気をつけずにベッドの中で布団を被る。

 

先程の戦いが脳裏に過り、収まった筈なのにまた体が震えてきた。

 

初めて、死ぬかもしれないと思った。

 

目の前で切り捨てられた、ウィザーズのリーダーのような存在が……いつも笑顔で、つられて笑ってしまうような。まるで太陽のような存在がゆっくりと倒れていく姿。

 

あの男が持つ剣が自分に向けられたら?そんな恐怖が体を支配する。

 

初めて目の前で感じた、死というものが目の前まで迫ってくる感覚を。ウィザーズステラとして活動してきて、初めて味わった。

 

テレビアニメの魔法少女みたいな、地球を悪から守るヒーローになれる。きっと、そしたら私はもっと輝ける、そんな夢を見て私はウィザーズになった。

 

でも、もう嫌だ。

 

震える体を両腕でギュッと抱き締める。

 

怖い、戦ったら死ぬかもしれないとそう思ったら震えてマジーナステッキを持つことが出来なかった。

 

私がウィザーズなのは秘密でお父さんにもお母さんにも、お姉ちゃんにも相談することは出来ない。アニメの魔法少女が味わっていた孤独感を、初めて実感した。

 

「苦しいよ、怖いよ………」

 

口から漏れた本音は、静かな部屋の中でやけに鮮明に聞こえた。

 

昔、お母さんが「なにか悩みがあったら、誰かに相談した方がいいわよ?その方が、心が楽になるわよぉ♪」と話してくれた。でも、こんな事を相談できる人なんて、誰もいない………。

 

お父さんは小説家でお母さんは主婦、そしてお姉ちゃんは普通の学生だ。そんな人達にこんな事を相談するなんて………そうだ、お父さんは小説家だ。

 

不思議なお話を書くこともあるはず、それならもしも想像の世界や出来事としてお父さんに相談できるかもしれない。

 

そう考えた私は、階段を降りてお父さんの部屋に向かい扉をノックした。暫くしてガチャという音と共に扉が開きお父さんが目を見開いて私をみていた。

 

「コハル?珍しいなぁ、お父さんの部屋に来るなんて」

 

「少し、お父さんとお話ししたくて……ダメ?」

 

「そんな事はないよ、春とはいえ部屋の外は寒いだろうし中に入って」

 

いつもの優しい笑顔で自室へと迎え入れてくれたお父さんにありがとうと伝えて部屋に入り扉を閉める。お父さんがいつも座っている椅子に座ると近くにあった折り畳みの椅子を出して、私の前に並べる。

 

折り畳みの椅子に座るとお父さんは机の上のパソコンを閉じて私を見つめてきた。

 

「それで、どうしたんだい?」

 

「お父さん、もしもの話なんだけどね。もし地球が狙われていて、自分を含めて五人しか戦えないの。きっと、痛い思いもするし苦しいと思うの……お父さんならどうする?戦える?」

 

お父さんは一度困ったような顔を浮かべた後に瞼を瞑ると、ゆっくりと開いてからいつもの優しい笑顔で口を開いた。

 

「そうだなぁ、お父さんなら戦うと思うよ」

 

その答えに私は思わず何も言えなくなった。お父さんは臆病だ、ジェットコースターは怖いと言うしお化け屋敷も嫌だと言うし、お母さんが好きなホラー映画を見ていたら、絶対に近寄らないようなお父さんが、逃げるではなく戦うことを選んだのだから。

 

「どうして?苦しいし、痛いんだよ?死んじゃうかもしれないんだよ!?」

 

「戦わないと、コハルやソラ。それに母さんを守れないからかなぁ……」

 

そう言いながらお父さんは、机に置かれた四人で撮った家族写真を手に取る。

 

「なぁ、コハル。父さんは小説家になる前に夢があったんだ」

 

「夢?」

 

「テレビやアニメの主人公みたいな、正義の味方に……ヒーローに成りたかったんだ。今となっては凄く子供っぽくて現実味のない夢だったけどね」

 

そう恥ずかしそうに笑うお父さん、父さんにそんな夢があったんだと初めて知った。

 

「じゃあ、諦めちゃったの?だから小説家?」

 

「ううん、違うよ」

 

お父さんは首を横に振る、それじゃあ諦めてないの?でもお父さんは正義の味方に成りたいんだよね?

 

「父さんはね、体力はないしヒーローみたいに強くないし戦えない、何かを守る事も出来ない。だから、父さんが作った話で憧れた正義の味方や、ヒーローみたいに沢山の笑顔を作りたいと思って小説家になったんだ。」

 

沢山の人の笑顔をつくる?

 

「コハル、小説や絵本はな。凄い力を持ってるんだ、一冊の本がその人の人生や考え方を変える。悩みや苦しみを無くして笑顔を作る、父さんは小説を通してヒーローのように笑顔を作る事が出来ると分かったんだ」

 

本が誰かを笑顔にする、何となく図書館で本を読んでいる人達の気持ちが、お姉ちゃんが本を読んで笑っている理由が分かったような気がした。

 

「だから、小説家になったの?」

 

「そうだよって、話が逸れちゃったね。コハルの質問の答えだけど、父さんは戦うよ。例えどんなに苦しくて痛くても。小説風に言うなら、守りたいものがある。この身に代えてでもコハルやソラや母さん達を守りたいから……まぁ、そんな力どこにも無いんだけどね?アハハ」

 

この身に代えてでも、守りたいもの……。 

 

ふと、私がウィザーズになることを決めた日の事を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれは、放課後に公園で歌を歌っていた時の事だった。

 

『キュピーン!ビビビって来る人、見つけちゃった☆ねぇ、そこの人間さん!ミューと契約して世界を守る気、ないかな?』

 

普通の人より小さい、絵本で見た妖精のような明るいオレンジ色の髪をサイドテールにした、まるでアイドルのような格好をした小人がマイクを片手に私へともう片方の手を伸ばしていた。

 

「え?わ、私!?」

 

『うんうん!そうだよ?私と貴方ならきっと無敵!最強のウィザーズ(アイドル)になれるよ!』

 

アイドルになりたい、そう思ったのは私がまだ幼稚園の頃の話だ。当時幼かった私とお姉ちゃんを連れて家族全員でカラオケに行った時、歌った私をお姉ちゃんやお母さん達が誉めたのがきっかけだった。

 

お母さんは綺麗な歌声だと誉め、お父さんは可愛いと誉めお姉ちゃんはきっとアイドルになれると笑って誉めていた。

 

『君の歌声に惹かれたの、一目惚れしたんだ☆キャー!ミューちゃんったら大胆!』

 

そんな事を言いながら頬に両手を当ててクネクネしている小人に困惑していると「見つけたー!」という声が聞こえてきた。

 

聞こえてきた方には学校で私より1つ上の学年の人達が、彼女より何処か神聖な雰囲気を持った妖精らしき小人さん達を連れて来ていた。

 

自己紹介をした後で、その人達から語られたのはこの世界が危ないという事。ウィザーズになってこの地球を守り、フェインさんの国を取り戻す為に力を貸してほしいという事。

 

アイドル、お姉ちゃんが話していた事を思い出した。「コハルは可愛いし綺麗だから、きっとみんなを笑顔にするようなアイドルになれるよ」いつもの様に微笑みながら話していたその言葉に、私は戦うことを決めた。

 

「私がウィザーズになって、みんなを笑顔にする!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沢山の人の笑顔を作る、お父さんの言葉が私がウィザーズになった時と同じ考えだと気付いた。

 

「お父さん、カッコいいね」

 

「そうかな?」

 

思い出した、私はみんなを笑顔にするウィザーズステラ。こんな所で恐怖に負けてたらセルリアンさんのような強い魔法少女になれるはずはないし、お父さんのように笑顔を作るようなヒーローになれない。

 

私が守りたいもの、それはお父さんやお母さんやお姉ちゃん。そしてヒヨリさん達や学校の皆を守って笑顔を守りたい。

 

「聞いてくれてありがとうお父さん、おやすみ」

 

「おやすみコハル、いい夢を」

 

そう言いながらいつもの優しい笑顔を浮かべたお父さんが私の頭をそっと撫でる。お父さんの部屋を出て、自分の部屋へと向かう。

 

新たな決意を私は取り敢えず明日の為に寝ようとベッドに横になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父さんに、そんな夢があったんだ………」

 

コハルとお父さんの話を聞いていた私は、コハルが部屋の扉に近付いてくる気配を感じて早足で部屋へと戻る。

 

妹が元気になった事を喜べばよいのか、それともまた妹が戦いに向かうことを心配すれば良いのか。

 

そんな複雑な感情に思わずため息をついた。

 

取り敢えず今は、あいつに対して何らかの作戦を立てないと。

 

『ご主人様、提案ある』

 

私のベッドに座っていたメリアは翼を広げて飛び上がり私の目の前で止まり滞空し少しの間を空けて彼女は口を開いた。

 

『ご主人様、このままじゃあの黒い鎧の男に勝てない、そう思ってる?』

 

メリアの口から告げられたのは真実であり私自身が感じていた物だ。

 

私の剣術は我流だ、前の世界で軍の人や軍に所属した魔法少女による演習や組み手、ビーストとの戦いによって磨かれてきた歪な剣。 

 

それに対してあの男は、必ず同じ構えを取り、防御する際の動きも統一感のある、流派のある場所で学び研鑽されてきた綺麗な剣。

 

私の勝つ可能性が唯一存在する不意討ちは避けられ、私に残された手札はもうない。

 

「そう、だね」

 

戦えば最悪、体の一部が使い物にならなくなる可能性だってある。

 

新たに戦術を生み出すか、それとも耐久戦か持久戦に持ち込むか。あの男と戦えば今までのような無傷に近い形で勝利を収めるのは難しいだろう。

 

それに、前々から感じていた違和感。

 

世界を創造したからか前の世界より身体強化と瞬速の持続時間や効果が弱くなっている気がする。確証はないけど、あくまで私の感覚でだ。

 

メリアは真剣な瞳で私を見つめ、やがて口を開いた。

 

『私の変身したアイテムと妖精魔法を使う覚悟、ある?』

 

 






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