平和な元の世界を創造した……はずなんだけど。   作:クレナイハルハ

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誓いの剣

 

荒廃した町、崩れたビルの間。

 

暗く、ゴミや瓦礫が散乱するその場で私は膝を突いて目の前で倒れている少女の亡骸へと近付いて抱き締める。

 

温かかった筈の体は酷く冷たかった。

 

あの日、私に戦いを教えてくれた彼女は、いつも私に笑いかけてくれていた彼女は死んだのだ。

 

涙が溢れる、悲しみの感情が体を支配する。

 

なにも出来なかった。

 

ここへ来た頃には全てが終わった後だった。

 

大雨に濡れるのも構わず彼女の亡骸を抱き締め涙を流す。自分が濡れることも、汚れることも構わず。

 

私は他の軍関連の魔法少女が来るまで彼女を抱いて泣き続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると、目の前には見慣れた天井が広がっていた。

 

………懐かしい夢を見たな。

 

体を起こしていると布団に雫が垂れた。思わず片手で目元を拭うと指は涙で湿っていた。目元をパジャマの袖で擦って涙を拭き取る。

 

切り替えなきゃ、もうあんな世界じゃない。

 

私は戦わなくてもいい、もうあいつらと戦う存在はいる。私が出ていく必要はない。

 

ふと時計が目にはいる、時計の針は8時30分を指していた。

 

何で目覚まし時計が鳴らな……そっか今日は土曜日だ。

 

慌てて着替えそうになったが、今日は休みだと言う事を思い出しベッドに腰を下ろす。それにしてもどうして今になってあのときの夢を……。

 

服の下に仕舞っていたカタリストを取り出して片手で軽く握る。

 

………なんで、迷ってるんだろう。

 

私はもう戦わなくていい、戦いたくない筈なのに。

 

一度深呼吸してから私服に着替えて部屋のカーテンを開ける。朝の日差しが窓から部屋に差し込んで明るく照らす。

 

改めて窓から見る景色は本当に平和だ。道は整理され人々は笑い、子供は空腹に泣くことはない。

 

あぁ、平和だ……平和なはずだ。

 

脳裏に、昨日のショッピングモールでの出来事が浮かび眉を顰める。

 

私は影のある場所を歩き階段を降りる。見ると玄関でコハルが靴を履いていた。

 

「コハル、もう出掛けるの?」

 

「おはようお姉ちゃん!そうだよ!みんなで集まって遊ぶんだ!」

 

そう言いながら出掛けていく妹を見送る、こんな早くから出かけるなんてよっぽど仲の良い友達がいるんだろうなぁ、ちょっぴり羨ましい。

 

母さんのいるであろうリビングに向かうと、母さんがテーブルに私の分の朝御飯を用意して待ってくれていた。

 

「おはようソラ、朝御飯出来てるわよ?」

 

「ありがとう」

 

キッチンで皿を洗っているお母さんに感謝を述べつつ席について手を合わせ、朝御飯に箸を向ける。

 

「コハルったら、お友達と遊ぶからって早く食べて行っちゃったのよ?元気ねぇ」

 

「そうだね」

 

「ソラ、ソラは友達とかと遊んだりしないの?」

 

お母さんの言葉に思わず箸を動かす手が止まった。

 

私には元から友達はいない。

 

私はクラスで避けられているから、それは周りよりも成熟した精神と話し方から私を気味悪く思う人が多かったから。

 

それに、私は前の世界の経験から家の手伝いをするため部活動にも所属せず学校が終われば直ぐに帰宅している。だから、誰かと話すことなんて無かった、あるとしても事務的な事ばかりだ。

 

友達と言える存在は前の世界ではいた、同年代の魔法少女達だ。この世界に彼女達はいるだろうが、私の知る彼女らでは無いし、相手も私を知らないだろう。

 

「みんな、忙しいから……」

 

「そう?それなら仕方ないわねぇ」

 

どうにか嘘を吐いてその場を流し箸を動かす。

 

「お母さん、お父さんは?」

 

「まだ寝てるわ、昨日は執筆が捗っちゃって三時まで書いてたみたいなの。ふふっ♪」

 

うちのお父さんは人気小説家だ、お父さんがこうして朝起きてこないのは珍しいことじゃない。きっとお昼頃には起きてくるのだろう。

 

「ソラの本が好きな所はあの人から遺伝されたのかしら♪」

 

「そう、なのかな……ごちそうさま。手伝うよ」

 

「ありがとう、助かるわ」

 

朝食の入っていた皿とお椀を流しにおいて、皿を洗う母さんの横で洗われた皿を綺麗な布で拭いて水気を切る。

 

「………なんかあった?」

 

「え?」

 

「いつもより元気がないなぁって思って」

 

「その、夢見が悪くて………」

 

「ならお母さんに話してみない?楽に成るわよ?」

 

「大丈夫だよ、もう気にしてないから」

 

「んむぅ……」

 

お母さんから渡された最後の皿の水気を拭き取り皿を棚へとしまう。

 

「次は洗濯、だよね?」

 

「ソラ、いつもお手伝いしてくれるのは嬉しいけど今日くらいは休んでも良いんじゃない?」

 

「え?」

 

「お昼代はあげるから、出掛けてらっしゃい。たまには遊びにお出掛けしてきなさい」

 

そう言いながら財布から1000円を取り出して私の掌にのせて握らせるお母さんの言葉に取り敢えず頷いた。

 

「よろしい、楽しんでらっしゃい!」

 

取り敢えず部屋に戻って着替えてから家の外に出る、手を振る母さんに苦笑しつつ手を振り返して適当に道を歩く。

 

正直、外に出ても行き場がない。

 

ウォークマンから繋がっているイヤホンを片耳に付けて道を行く。ふらりふらりと何処へ行くか悩みながら歩き、取り敢えず商店街に向かう。

 

休みだからか、沢山の人で賑わっていた。

 

何度見ても、前の世界ではあり得ない光景だ。

 

そう思いながら商店街を散歩する。

 

「らっしゃいらっしゃい!うちの肉はどれも美味いよ!そこの奥さん、どうだい?買ってかない?」

 

「今日は春キャベツが良いよ!これを使ったロールキャベツなんてどうだい!?」

 

精肉店や八百屋からは元気な商品の宣伝と客引きが聞こえる、賑やかで皆が笑ってる。

 

本当に、平和な世界だ………。

 

きっと皆も、普通の女の子として過ごしているのかな?

 

取り敢えず、本屋にでも行こうかな。

 

商店街にある本屋に入って面白そうなタイトルの小説へと手を伸ばしてあらすじを軽く読み、他に面白そうな小説を二冊程購入し本屋の外に設置されたベンチで購入した本を開く。

 

文章に目を通し、暫くして読むのを止めて立ち上がり散歩を再開する。商店街を歩いていると、1ヵ所にコハルと同じくらいかそれ以下の年齢の女の子が電器屋に集まっているのが見えた。

 

どうしたのだろう?そう思いながら近付くと、電器屋の外にテレビが飾られており、テレビにはアニメが映っているのが分かった。

 

女の子達が真剣にテレビを見詰めている、どうやら魔法少女が主人公らしい。テレビを見れば主人公らしいピンク色の髪に沢山のフリフリが着いたドレスを着た少女が苦しそうに膝を突いていた。

 

正直、前の世界の経験からこの手の作品は苦手になった。

 

明らかに今攻撃すれば勝てる、そんな無駄な動きをしてる暇があるなら攻撃しろ、そんな都合良くパワーアップしたり暴走する力を制御出来るわけがない、何故あんな無謀な行動が取れる?もしあの世界ならこの子は死んでいる。

 

見ていると、そんな感想ばかり浮かんでしまうからだ。

 

「がーはっはっは!ここまでだな魔法少女マギナ!!」

 

「私は、負けないッ!」

 

本当に、よく作られた夢のある作品だ。

 

主人公らしき少女はゆっくりと立ち上がりそれに、驚きの声をあげる怪人。なんてご都合主義なんだろうか。

 

「なんだとッ!?何故立つことが出来る!貴様にはもはや立つほどの力など残っていないはず……」

 

あぁ、よくある展開だ。

 

「私は……()()()()()()()()()()()()()()()だから、私はみんなの為にも負けない!何度でも、何度でも立ち上がって戦う!!」

 

主人公らしき彼女の言葉に、心臓がドクンと跳ねる。

 

今の言葉、何処かで………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荒廃した町でビーストの鳴き声や魔法少女達の声で埋め尽くされた戦場で、恩人がビーストの攻撃で倒れた。

 

怪我した彼を背負い、前線から離れ攻撃の届かないであろう近くのビルの裏に入り恩人をそっと座らせる。

 

腹が大きくえぐれ服の上からでも分かるほどの出血量に私は涙が流れそうになるのを堪えて口を開いた。

 

火守(カガミ)さん……治療の魔法があれば、きっと!!」

 

私が軍所属の魔法少女になってから共に戦ってきた、私を妹のように扱ってくれて沢山の事を教えてくれた恩人を死なせたくない。

 

仲間の魔法少女に治療系の魔法少女がいた、彼女ならきっと……。

 

その思いで紡いだ言葉は───

 

「もー無理だな、内臓は治せないらしい」

 

─────恩人の言葉で否定された。

 

希望が簡単に碎け散った。

 

「ごめんな、俺、死んじまうみたいだ」

 

現実は何故こんなにも非情なのだろうか?

 

彼が、私が何かしただろうか?悪いこともなにもしてないはずだ。なのに、なんでこんな事になっているのだろうか?

 

頬を涙が伝うのが分かる、人前で泣くことの恥ずかしさはない。

 

あるのは、目の前の人が死んでいくと言う現実の悲しさだけ。

 

「それより、さ」

 

そう言いながら彼は私の目を見て口を開いた。

 

「戦えよ、魔法少女」

 

「え……」

 

「知ってるかソラ……俺の知る魔法少女ってのは、みんなの夢や希望を守る者。なんだぜ?」

 

血を吐きながら、苦しそうに息をしながら話す彼の言葉を聞き逃さないように、必死に耳を澄ませる。

 

「そういやお前の剣……まだ名前が無かったな」

 

私が魔法少女になった時に最初から持っていた武器、青い刀身に水色の刃を持つ大剣。周りからも名前を付けた方が愛着も湧くし、強くなると揶揄われていた。

 

でも、私は名前を付けることはなかった。

 

そんな青の大剣を見詰め彼は呟いた。

 

「エスペランサー、確か外国の言葉で『希望』だ。お前が、この戦いを終わらせる希望だ……信じてる、ぜ」

 

「火守さん?火守さん!火守さん!!」

 

そう言いながら目蓋を閉じた彼に、私は立ち上がり大剣を握りしめ火守さんの前に見せるようにして構え口を開いた。

 

「火守さん……この剣に、エスペランサーに誓います。私は魔法少女として……皆を、そして()()()()()()()()になる」

 

そう言って私はエスペランサーを握りしめ、ビーストと魔法少女が戦う戦場へと走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付けば、電器屋のテレビにはエンディングが流れていた。

 

どうやらあの事を思い出している内にさっきの番組は終わったらしい。

 

「ねぇ、お姉ちゃん大丈夫?」

 

「え?」

 

近くにいた女の子の一人が私の手を引き心配そうな表情を浮かべている。何故だろう?そう困惑していると、別の女の子が口を開いた。

 

「だって、お姉さん泣いてるよ?」

 

服の袖で頬を拭うと、腕には涙の跡が付いていた。

 

「あぁ……」

 

なんで、忘れてたんだろ。

 

きっと、戦い続けた結果忘れかけていた魔法少女として戦う理由。

 

それは平穏な世界を作りたいだとか、そんなものじゃない。

 

私の原点、それはきっと……あの人に自分が誇って名乗れるような……あの人の知っている夢や希望を守る魔法少女になること。

 

 

 

エスペランサーに誓った、大事な事を。

 

「ありがとう、大丈夫よ。貴方達は優しいのね」

 

そう言いながら私は、電器屋から離れる。

 

そうだ、私は戦わないといけない。

 

平穏な世界に作り直した?戦いは終わった?

 

だからなんだ。

 

この平和な世界を脅かす存在がいるんだ、私はこの魔法少女としての力を何故か持っている。

 

なら、()()私。

 

この世界の平穏を壊させはしない、魔法少女としてこの世界の人々を守る。

 

この世界の皆を、夢と希望を守る。

 

エスペランサーに誓ったのだから。

 

 






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