魔法少女のメモリアル~平和な元の世界を創造した……はずなんだけど。~ 作:クレナイハルハ
息を切らしながら、走る一人の少女。
彼女は走りながら、目の前で起こった全てを思い出そうとする。
けれど────その瞬間。
ズキンッ。
「っ……!」
胸に鋭い痛みが走った。
痛みに耐えきれず、走っていた足が止まる。
そのまま少女は、その場に踞った。
「はぁ……はぁ……」
精一杯、息を吸う。
苦しい。
痛い。
それでも、治まらない。
「なんで……?」
収まらない。
「どうして……?」
疑問が浮かんでは、消えていく。
何かがおかしい。
でも、それが何なのか分からない。
とにかく走らないと。
そう思った少女――浅桜陽愛は、再び立ち上がった。
その手には、一つの杖が握られている。
マジーナステッキ。
ウィザーズスカーレットへと変身するための、彼女の大切な変身アイテム。
朝、起きて学校へ行くまでは良かった。
「あの、浅桜さん。少しよろしいですか?」
行間休憩、次の授業の準備をしていた私はどこか余所余所しい様子でそう声をかけて来たユリエちゃんに首をかしげた。
「えっと、どうしたの?ユリエちゃん」
「少しお話ししたいことがありまして」
「ちょっと聞きたいことがあってさ~、浅桜ちゃん。ちょっと教室から出て話さない?」
「その、すぐに終わりますから」
ユリエちゃんと話していると、気がつけば側にはマナミちゃんもユリエちゃんの横に並んでいた。
「えっと、うん。今いくね」
そう言いながら教科書類を机の上に並べておいて、待っててくれた二人と教室を出る。
二人の後を追いかけ、やがて辿り着いたのはいつもウィザーズとしての話をするときに使っていた空き教室だ。
「えっと、どうしたの?二人とも」
「浅桜さん?どうかしましたか?」
「それは私の台詞だよ……どうしたの二人とも?なんか変だよ?」
「変、ですか?」
「いやいや、浅桜さんこそどうしたのさー?私達
「え」
「そうです。確かに席は近いですが、話すことはあまりありませんでしたから。そこまで距離感の近い話し方をされるのは、少し不思議で……」
「え……?」
二人の言葉が理解できない。
ほぼ、話したことがない?
そんな、え?
「あは、あはは……冗談だよね?」
ともだち、え?
「ねぇ、浅桜さん。こんなの、持ってたりしない?」
そう言いながらマナミさんが取り出し、フリフリと振るうソレはマジーナステッキ。
私やみんなが、ドーラちゃん達精霊に認められウィザーズになるときに貰って、ウィザーズに変身出来るアイテム。
「う、うん!待ってて」
そうだ、きっと勘違いだ。
マジーナステッキを取り出せば、きっと大丈夫だ。
他人じゃない、他人じゃないはずだ。
私達、友達……だよね?
私だけ?私が勝手に、みんなのことを友達だと思っているだけなの?
全部、全部私の独りよがり?
「これ!」
あれ、どうして?
どうして二人が、そんな鋭い目で私を見てくるの?
どうして、そんな……敵をみるような目で。
「やはり……フェインさんの元から
「…え」
何を言っているの?
失くなった?
違う、違う。
これは、これは私がフェインちゃんから貰って……。
はじめて、フェインさんと出会って……倒れているのが心配で見ていられなくて。
助けて、力になりたくて……それで。
私は、ドーラちゃんに出会って認められて……ウィザーズになった。
「簡単に尻尾を出してくれたねぇ、浅桜さん?」
「マナミさんの誘導に簡単に引っ掛かって下さり助かりました」
「……どう、して?」
何でだろう、足元が……感覚が分からない。
「ちがう、ちがう……」
なんで?私達、一緒に戦ってきたよね?
「私は、私はっ───」
「あっ!?待ちなさい!」
「何してんのユリエ!早く追いかけるよ!コユキやコハルにも連絡を!」
背後から聞こえるマナミちゃんの声。
どうして?どうして追いかけてくるの?
私は何もしていない。
マジーナステッキを盗んだわけじゃない。 私はウィザーズで。
みんなと一緒に戦ってきた仲間……。
何かの間違い。 きっとそう。
少し話せば分かってくれる。 ウィザーズのことを話せば、ドーラちゃん達のことを話せば……そうすれば、きっと───。
「ヒヨリさん!」
今度は、聞き慣れた声。
「……コユキちゃん?」
思わず足が止まり振り返る。
廊下の向こうに、コユキちゃんがいた。
いつものようにアニメの話をしてくれる。
一緒に宿題をして、一緒に戦って。
私にとって、大切な友達の一人。
そうだ、コユキちゃんならきっと!
「待って!」
振り返って見たコユキちゃんの目に浮かんでいるのは、心配する色ではなかった。
まるで、危険なものを見るような目。
「……っ」
「ヒヨリちゃん、マジーナステッキを持ってるんでしょ!?」
「違う!」
反射的に叫んでいた。
「これは私の!フェインちゃんから貰った、私のマジーナステッキなの!マナミちゃんもユリエちゃんも、さっきから変で──」
「だから、それが変なんだよ!」
「え……?」
コユキちゃんの言葉が胸に刺さる。
「フェインさんは、そんなのを浅桜さんに渡してない」
「……嘘だ」
「嘘じゃないよ!」
違う。
違う違う。
私は覚えている。
フェインちゃんと出会った日のこと。
倒れていたフェインちゃんを助けたこと。
ドーラちゃんに認めてもらったこと。
全部、覚えている。
「私たち……一緒に戦ったよね」
しっかり覚えてる、なのに声が震えた。
「最初は怖かったけど……それでも、みんなで頑張って……」
「……その、何の話?」
「え……」
コユキちゃんの言葉。
それだけで、頭の中が真っ白になった。
「私、あなたとそんな話した覚えないよ」
「…………」
違う。
そんなはずない。
だって。
「コユキちゃん!」
遠くから聞こえた声に、私は振り返る。
そこにはコハルちゃんまでいた。
ウィザーズに最後に入った、年下でみんなにとって妹と呼べる存在。
「その人、フォールエンスなんでしょ?」
「…………え?」
コハルちゃんの言葉が、頭の中で何度も反響した。
「……違うよ」
「あなたが、マジーナステッキを盗んだんだよね?」
「違う」
「じゃあ、なんで持ってるの?」
「これは……」
言葉が出てこない、これは私が。
私はウィザーズ。
みんなは私の仲間で。
目の前が、ぐらぐらと揺れて見える。
まるで地震が起きたときみたいで、足元が不安定になる。
「……近付かないで」
「……え?」
「お願い……来ないで」
その言葉を聞いた瞬間、私は走り出していた。
「ヒヨリちゃん!」
「待って!」
後ろから声がする。
でも、もう振り返れなかった。
ただ、走って、走って、走った。
気がつけば校舎をでて、校門を抜けた。
まだ学校で勉強しなきゃいけないのに、そんな考えをすぐに消して走る。
どこへ行けばいいのかなんて分からない。でも、早くにそこから離れたかった。
「はぁ……はぁ……」
呼吸する度に、胸が痛い。
苦しい。
でも、それ以上に怖い。
どうして?
どうしてみんなが私を知らないの?
どうして私だけが、みんなのことを知っているの?
私は何を間違えたの?
「……違う」
もう走れない程、ふらふらとおぼつかない足で歩きながら呟く。
「違う……違うよ」
自分に言い聞かせる。
「私たちは、友達……」
けれど、その言葉を口にするほど胸が痛くなった。
「止まりなさい!!」
「っ……!」
次の瞬間、足に鋭い痛みが走った。
痛い、すごく痛い。
何が起きたのか分からない。
足元を見れば、そこには水の矢が突き刺さっていた。
聞こえてきた声の方を見上げれば、ユリエちゃんが……ウィザーズ・ロゼがパワーアップした姿で、水精弓ミスティフェインを此方へ向けて構えていた。
え?私、ユリエちゃんに?
足が痛い、もう走れない。
立てない。
「さっさと観念して貰えるかな?フォールエンスの手先さん?」
そこにマナミちゃんが、ウィザーズ・エアリアルが現れる。
彼女もパワーアップした姿で、その手には風双刃靭クライン、ツヴァイスを持っている。
その後ろでは、コユキちゃんにコハルちゃんが変身したウィザーズ・スノウとウィザーズ・ステラが佇んでいる。
どうして、どうして?
「どうして?……どうして、みんなそんな目で私を見るの?」
「浅桜さん。抵抗しないでください」
「抵抗なんて、してないよ……」
「なら、マジーナステッキを渡して」
「なんで……」
「どうしてです?それは貴方の物では」
苦しい、息を吸うのもみんなの顔を見るのも。
警戒されている、あんなに一緒に過ごしていたのに。
なんで?どうして?なんで?なんでみんな私を怖い目で見てくるの?
「私たち……友達、だよね?」
「…………」
ユリエちゃんが、怖い目をしたままミスティフェインの弦をしぼる。
「一緒に笑ったよね?」
「…………」
マナミちゃんが、冷たい目で私を見てくる。
「一緒に戦ったよね?」
「…………」
コユキちゃんが困った様子でマジーナステッキを構える。
「…………」
コハルちゃんは、少し強張った顔でマジーナステッキを向けてきた。
「…………あぁ」
返ってきた沈黙だけで、十分だった。
「そっか……」
体から、少しずつ力が抜けていく。
「じゃあ……今までの私は……何だったの?」
頭の中に、これまでの日々が浮かんでは消えていく。
フェインと出会った日。
ドーラと出会った日。
初めてウィザーズになった日。
みんなで戦った日。
笑った日。
泣いた日。
全部、確かに私の記憶にある。
なのに、覚えていない。
「…………」
気がつけば、目から涙が零れた。
みんなを見上げていた私は、気がつけば下を向いていた。
涙が頬を伝い、地面へポタポタと落ちていく。
ピシッ!
何かに、罅が入ったような気がした。
「────っ」
胸を押さえる。
苦しい。
もう、何も考えたくない。
何も思い出したくない。
みんな、みんなが、私を怖い目で見てくる。
「……助けて」
ずっと耐えてきた。
大丈夫、きっと勘違いだと思っていた。
小さな声だった。
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からない。
そして気付いた。
「あぁ……そっか」
誰も、私を助けてくれないんだ。
瞬間、さっきまで罅が入っていた何か。
その罅が広がっていくような気がした、もう取り戻せない、取り返せない何かを失うような。
でも、もうどうでも良かった。
全てを手放そうとした瞬間、私の意識は何かを強く抱き締められた。
温かい、桜の匂い……。
そんな何かを感じて、抱き締められた安心感からか私は意識を失った。
突如として俯き、ピタリと動くことすらしなくなった浅桜 陽愛にウィザーズ達は警戒し動けずにいた。
全員が警戒し、声をかけずにいた。
相手は、マジーナステッキを盗み出した存在だ。
警戒しないに越したことはなかったのだ。
すると先程まで俯き泣いていたヒヨリは突如として口を開いた。
「人とは、これほどまでに……脆弱だったか」
ゆらりと、先程まで痛みで立てずにいた筈の彼女が立ち上がる。
俯きながらもゆらりと立ち上がるその姿に、コユキやコハルは怖くなり肩が跳ね、ユリエは水精弓ミスティフェインを構え精製された弓をつがえる。
「これほどまでに愚かであったか」
その目は先程までのヒヨリとは違い、瞳孔は縦に細く裂け、獣のような光を宿していた。
ヒヨリは静かに四人を見渡す。
「まっこと、理解し難い」
その声には怒鳴るような激しさはない。
ただ、酷く静かだった。
「この程度のことで……この子を……嘆かわしい。人の心とは、斯様にもわ脆いものなのか」
ゆっくりとその手に持っていたマジーナステッキを正面に構えたヒヨリは、そのマジーナステッキの中央。
本来ならばウィザーズへ変身する際にフェアリーストーンをセットする窪みへと反対の手を翳す。
「許さぬ……我が恩義に懸けて、貴様らを払う」
その手から、桜色の炎がゆらりと現れる。その炎はやがてヒヨリの手からマジーナステッキの窪みへと向かう。
やがて桜色の炎が注ぎ込まれたマジーナステッキは、その形を大きく変化させていく。
シャラン……。
変化したそれは、柄の先から無数の鈴が吊り下げられた、巫女が舞を踊る際に用いる神楽鈴だった。
ヒヨリはそれを軽く振る。
振るう度にシャラ、シャララ……と鈴の音が辺りへ響き渡る。
「さて……これならば扱うに値するかの」
「マジーナステッキが!?」
「一体、何をしたの!?」
神楽鈴へ変化したマジーナステッキに満足そうにうなずくと、ヒヨリは口許で弧を描いた。
「説明する義理はなし、参ろうか。どれ、こう唱えるのだったか?」
そう言いながら神楽鈴を静かに振るう。
シャン!と、何処か神秘的な鈴の音が響き渡る。
「とらんすうぃざー」
ヒヨリの体を、桜色の炎が包み込む。
その場にはなく季節的にも咲いていない筈の桜の花びらが、風に舞いあがる。
制服が桜色の炎に包まれ、布地が光へと溶けるように消えていく。
その下から現れたのは、赤と桜色を基調とした和装。
白を基調とした着物に赤い帯。
その上から桜色の布が幾重にも重なり、長く伸びた振り袖がゆらりと揺れる。
リン、と先程の神楽鈴より控えめ鈴の音と共に振り袖の先に鈴が現れる。
頭部に桜色の炎が二つ、左右に集まるとその炎は狐の耳へと変化した。
続いて背後で桜色の炎が渦を巻いた。
一つ。 二つ。 三つ───。
炎は次々と形を成し、九本の尾となって広がっていく。
周囲に舞っていた桜の花弁が、一斉にヒヨリへと吸い寄せられていく。
花弁は身体へ触れることなく、ひらひらと振り袖へ吸い込まれていく。
一枚。
また一枚。
無数の花弁が振り袖の布地へと溶け込んでいくたび、その白と桜色の生地へ鮮やかな桜の模様が浮かび上がっていった。
袖の先から、桜の枝が伸びるように。
淡い桜色の花が、幾つも咲いていくように。
最後の一枚が振り袖へ吸い込まれる。
チリン……。 チリン……。
涼やかな音が辺りへ響き渡った。
ヒヨリはゆっくりと振り袖を見下ろし、満足そうに目を細める。
「……ふむ」
そして、その手を前へ伸ばす。
桜色の妖炎が掌へ集まり始める。
炎は次第に細く、鋭く形を変えていく。
やがて炎が消えた時。
そこには、一振りの刀が握られていた。
鞘に収められた刀。
カチンと音を奏でた刀を片手に持った彼女は、ウィザーズから見て異様だった。
突如として生えた狐の耳に9本の尻尾。
いまの時代からは考えられない和服、それも一目見るだけで上等な品といえるそれを着た目の前の少女。
先程まで俯いていた少女とは全く別物だった。
「貴方、浅桜さんではありませんね」
ユリエが毅然とした態度で弓を向ける、それに対しヒヨリ?はピクリと眉を動かす。
「貴様ら如きが、浅桜の名を呼ぶな。虫酸が走る」
「話し合いは無理そうだねぇ~」
「話し合いをしようともしなかったうぬらが言えることかの」
ため息をつくヒヨリ?に、マナミもまた言い返されたからか、ピクリと眉をひそめた。
「貴様らなどに名乗れるほど、私の名は安くないのでな。それと、いつまでこの体に弓を向ける……小娘」
「こむっ!?」
瞬間、ヒヨリ?の姿がゆっくりとその手にもった刀の柄に手を伸ばす。
その動作に即座にミスティフェインにつがえた水の矢を放つが、それがヒヨリ?の元へ辿り着くよりも早く。
宙に浮かぶ、ユリエの隣にいた。
「なっ!?」
懐に入られた!?攻撃が来るッ!?
身構えたユリエだったが、ヒヨリ?はそんな彼女の横を通過する。
「
困惑すると同時に、チンッと金属音が聞こえた。
「一ノ太刀……
次の瞬間、宙に浮かぶユリエの体に一筋と線が浮かび上がると、そこから勢い良く桜の花弁が吹き出した。
まるで血飛沫の代わりと言わんばかりに吹き出すと、その姿がウィザーズ・ロゼから制服姿のユリエへと戻る。
「ユリエっ!」
即座に側にいたマナミが抱き抱え地面へと下ろすが、ユリエは未だに自身の身に起きたことを理解できずにいた。
「すみま、せん。油断、しました」
そう告げると、ユリエはゆっくりと目蓋を閉じた。
居合いによる一太刀、それだけで行動不能に追い込んだ。
「ふむ、ある程度の攻撃を加えれば……その姿は保てぬようじゃな」
「ユリエに何をしたっ!」
ユリエが倒れたからか、いつものふざけた様子から一転。
怒りを隠さずにヒヨリ?へと向き直る。
「なに、命は取らぬ。本来ならばその命を持って償って貰うべきじゃが、事が事故な……特別に峰打ちとした。」
「ふざけないで!ユリエに、私の仲間に……こんなっ!」
「ふざけているのは、貴様ら人間だろう」
静かに、淡々と告げられたその言葉にマナミは止まった。
いや、マナミは体を動かせなかった。
獣に睨まれた獲物、体が動かない。
何より、ヒヨリ?の能面のような表情に恐怖を覚える。
「その程度で友情を唄い」
吊り上げられた、鋭い目付き。
「その程度で友と呼び」
淡々と告げられる筈のその言葉は冷たかった。
「その程度の絆で……恩人の心を砕いた」
歩いてくる、手にもったクラインとツヴァイスを振るえる程の距離。
なのに、動けない。
「まこと、ふざけるなよ……小娘ども」
奥歯がガチガチと音を立てる、マナミは体が震えていることに今更ながら気付いた。
「
ヒヨリ?はゆっくりと納刀された刀の柄を掴むと、鞘からさっと引き抜いた。
現れたのは、赤……綺麗な暁色を写した刀身だった。
刀が振り下ろされる、だがマナミには斬られたという感覚すらなかった。
「……ぅえ?」
けれど………ぞくりっ。
振り下ろされた、斬られたと思われる場所。
そこから、じわじわと体が冷たくなっていく。
指先が冷たい。
腕が動かない。
そして、その皮膚に……白い霜と、淡い桜色の結晶が咲き始めた。
それはまるで、冬の夜に咲く桜だった。
花が咲くように、凍結が広がっていく。
「四ノ太刀…
ゆっくりと納刀され、チン!と音が響いた瞬間。
マナミを覆っていた氷が砕けた。
だが、マナミの姿はウィザーズ・エアリアルではなく学校の制服姿。
膝から崩れ落ち、倒れ付したマナミは気絶していた。
「さて、次は」
「ウィッチクラフト・アイスメイキング!剣!」
背後からコユキがマジーナステッキから生やした氷の剣を振り下ろす。
だが、ヒヨリ?はそれに対し慌てることなく鞘でその剣を受けた。
そして鞘を持たない手で、刀身めがけて拳を振るった。
「ふんっ!!」
瞬間、魔法で作られた氷の剣が砕け振るわれた拳がコユキの腹部へと突き刺さる。
「あぐっ!?」
振り抜かれた拳に吹き飛ばされたコユキの先には、コハルがおり勢い良くぶつかる。
「脆いな、もっと氷の密度を上げたらどうじゃ……まぁ」
ふたりは少し離れた場所でようやく止まると、ウィザーズへの変身が解除され、意識を失っていた。
「聞こえておらぬようじゃがな」
意識を失い気絶した4人の少女を気にすることもなく踵を返すと、彼女は先程から感じていた視線へと目線を合わせた。
他の人に見られないよう息を殺した私は、建物の屋上から少し先で起こっている、ウィザーズ内での争いを双眼鏡を片手に眺めていた。
情報は大切な武器であり、コハルもあのように戦うならばある程度の覚悟はしていると思っているからこそ手を出していない。
「やっぱり、メリアの言う通りみたいね」
『記憶は、私の専門分野だから』
肩に乗るメリアが誇らしそうにそう話すのを横目に、双眼鏡を眺め続ける。
ウィザーズのリーダーらしき赤い子が、コハルを含めた他のメンバーから追い詰められていく。
その姿に、体が早く助けにいけと魔法少女なら守れと叫ぶがそれを理性で押さえつける。
しっかり、見極めないと。
双眼鏡で成り行きを見守るなか、今朝のことを思い出した。
『ご主人様、報告。昨日の深夜、記憶への干渉があった』
今日の朝、メリアから言われた言葉に私は目を見開いた。
「どういうこと」
『たぶん、この町に記憶への干渉があった。私は記憶を司る妖精、メリアと契約したご主人様は記憶への干渉は受けない』
記憶への干渉、それが起きたということは何ら異変が起こっている筈だ。
メリアとの契約によって私は、記憶への干渉は受けないようになっていたらしい。
そうして学校へ行きつつ、様子を見ているとウィザーズが赤い子を執拗に追いかけだしたのを確認して私は学園から抜け出したのだ。
見た限り、あの赤い子を敵だと思い込むように記憶を改竄された可能性がある。
じゃなきゃ、あの子達があのような状況になる筈がない。
そんなことを思っていると、双眼鏡の向こうで突如として変化した赤い子がウィザーズ全員を制圧した。
何が起こっているのか、いつ斬ったのか。
自分ならば対応できるだろうか。
そう考えてしまう。
あの太刀筋、初見ならばきっと避けられないかもしれない。
それほどまでにあの剣技は、洗練されていた。
「彼女は、一体……」
思考を回そうとしたとき、双眼鏡で覗いていた彼女と目があったような気がして即座に双眼鏡から目を離した。
こちらを、認識した?かなり距離が離れているのに、勘違い?
「貴様か、私のことを見ていたのは」
『…ぴゃっ!?』
背後から聞こえてきた声に、ドクンと心臓が跳ねる。
肩に乗っていたメリアが慌てた様子でコートのポケットへと入る。
現れた赤い子?から感じる何かに、違和感を感じた。
前にうちに遊びに来た時には感じなかったもの。
自分達とは違う、人とは違うと思わせるナニカ。
「傍観に徹していました。この現状を把握するためには情報が少ないので」
「ほう、どうやらお主は
どうやって背後に回った?先程まであんなにも離れていたのに、一瞬で移動したの?
「貴方は、ヒヨリさんではありませんよね。名前を聞いても宜しいですか」
自分よりも年下である筈の彼女から感じる子供とは思えない雰囲気に思わず敬語がでていた。
敬語は偉い人の警護とかで使えるよう、散々教わったことが体に染み付いているみたいだ。
「お主、ずいぶんとこのような状況になれているようじゃな?本来ならば年下である筈の私にそのような話し方、ふつうの童とは思えんな?」
「魔法少女ですので、こうした公務はなれています……」
こう答えるのも、あの時は慣れっこだったな。
偉い人の護衛について、態度を崩さず注意して周囲を警戒していれば気の張りすぎだと言われる。
そしてそれに対して、申し訳ありませんと答えるのも。
「……公務、とな」
「……はい」
言われて、そう答えていた事に気付いて私は口を閉ざした。
また、前の世界の感覚に囚われてる所があるみたいだ。
「魔法少女とは、この子のうぃざーずとやらとは違いずいぶんと物騒な務めもあるようじゃな。」
「……そうですね、そう言うこともありました」
そう言えば目を細めたヒヨリ?さんは、じっと私を見つめると口を開いた。
「そなた、この現状をどう見る」
「私の推測も入りますが、彼女たち皆……記憶への干渉を受けたと思われます」
「ほう?」
「浅桜陽愛さんを、敵だと認識している様子でした。でも、浅桜さん自身は……皆さんを仲間だと認識していた」
そこまで口にして、私は一度だけ言葉を止めた。
「だからこそ、おそらく記憶に干渉を受けたのは一人だけじゃない。浅桜さん以外のウィザーズ全員が、同じような影響を受けている」
「ふむ。なるほど、そこまで理解しているそなたが敵と考えることも自然かと思うが」
「私は、彼女たちのように妖精と契約しています。その子が司るのは記憶、だから私に記憶の干渉は効かなかったんです。」
この人に、嘘はついてはいけない。
直感とも言えるソレに従って、自身の持つ情報を伝える。
少なくとも、ウィザーズ達から彼女を守ろうと行動したのは間違いない。
ウィザーズ達が殺されず、気絶していることが何よりの証拠だ。
「ふむ、そなた……ずいぶんと真面目だな。嘘の匂いもない、うむうむ。ならばひとまずは信用することにしよう。暫しの間、あのうぃざーずとやらからこの子の肉体を隠しておきたい。匿え」
「……はい?確かに、こうなった原因を叩くまで貴方は身を隠した方が良いのは分かりますが」
「私は、あくまでもこの子の肉体を借りているだけ……この子の心が砕けぬよう保護しているだけしゃ、この子には何より必要なのは安らかな時間。分かるな?」
心が砕けぬよう保護している。
その言葉に、また前の世界でのことを思い出した。
敵の魔法少女や、ビーストとの戦闘。
それだけじゃなく、戦闘の被害で亡くなった人達を見て心を砕く少女は少なくなかった。
知り合いの彼女も病んでしまい、気付けば病室のベッドで虚ろな目をするようになっていた。
何かしたくて、側にいればきっと少しは彼女の心を支えられないかなと思って。
ある魔法少女の病室に通っていたことがあった。
でも。
バチン!頬に走る衝撃と痛み。
じんわりと感じる熱に私は呆然と目の前の、ベッドで虚ろな瞳で静かに横になっている魔法少女の母親から、頬を打たれた。
『なんで気付かないのっ!』
分からなかった、なんで怒られているのか。
どうして、そんな目で見るのか。
『アンタが!あんたが病室に来るからこの子は治らないのよ!』
打たれた頬に手を添える。
目から涙が流れる、痛みと恐怖からかその場から動けなかった。
『あ、その……私』
『アンタが来るから、この子の心が休まらない!!さっさと消えなさいっ!』
その時の事は、よく覚えてる。
だからこそ目の前の彼女が、彼女が守った心を休めるように。
私には出来ることをする、彼女の負担にならない事だけを。
「本当にそなたは、時折他の童とは思えん顔をするよな」
「そう、ですか?」
「自覚なしか」
「ともかく、匿うにしても色々と準備がいります。少し待って貰えませんか?」
「疾く準備せよ」
「努力します」
「出来ますと言わぬのが、子供とは思えぬ気づかいよな」
人一人を匿うにしても、どうする?
希代さんは……以前に頼ってしまったしこれ以上負担をかけるわけにはいかない。
私の家も、コハルがいる以上匿うことは難しい。
隣町の星雲町や星之扉町に逃がして以前に使ったテント達を使って貰うしかない。
でも、それだといざというときに駆け付けるには時間がかかる。
人気の少ない山、もしくは廃墟を見つけて身を隠して貰うしかない。
「その、そろそろ貴方について教えて頂けませんか」
「おや、そうだったの。名乗ろうか……私の名は
これまでの私の人生、いろいろな経験をした。
魔法少女になって、軍に所属した。
魔法を使った戦闘、ビーストや人との殺し合いだってしてきた。
死にかけて、世界を創り変えたり別次元へ行ったり、色々と経験してもう驚くことはないと思っていた。
「……???????」
そんな経験をした私でも、神様と出会って驚かずにいられるほどの成長は、していなかった。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「マジカル!」
「デジタル?」
「クロニクル!」
「「「魔法少女図鑑!!」」」
「第11回魔法少女図鑑!進行は私、
「
「このコーナーは毎回異なる魔法少女をゲストに読んで、本編に登場していた魔法少女について詳しく解説していくコーナーよ!今回のゲストは、この人!」
「魔法少女セブンスホープ、
「ということで、ノゾミ先輩に来て貰ったわ!」
「いつもお世話なってました」
「いやぁ、いつもは声だけなのにこうして顔を会わせて番組を進めるのってなんだか変な感じがしますね~ささ、私の紹介はここまでにして魔法少女紹介いきましょう!」
「さ、流石オペレーター……会話の促しが自然すぎる」
「流石はホープ先輩。スタッフ、紹介だして」
──────────────────────
【魔法少女名】魔法少女チェイレット
【変 身 者】霧渚 鎖莉《キリナギ クサリ》
【 武 器 】アントラーヴ・シェーヌ
【 魔 法 】《ドレインバインド》
《アンチマジックバインド》
──────────────────────
「魔法少女チェイレットこと、霧渚 鎖莉《キリナギ クサリ》先輩について解説していくわ!」
「武器は腕輪から垂れた伸び縮みが自由な鉄の鎖、アントラーヴ・シェーヌ。相手を拘束する以外にも鞭にしたり、スイングしての移動にも使える」
「軍に所属しての戦闘では、魔法少女ビースト両方での戦闘で活躍したと言われていますね。相手を拘束できる、移動が他の魔法少女と比べても早い事から、彼女は様々な作戦に参加していました」
「ミク先輩といいクサリ先輩といい、やっぱり移動系の魔法があるのはやっぱり強いわね……」
「……でも、ソラの方が速い」
「流石はソラさん!」
「いや、あの人は……別じゃないです?瞬速の連続使用で移動してますから。強すぎて速いのでセルリアンのせいで新しく配属された魔法少女が育たないって、上層部は愚痴ってましたし」
「でも、戦わなくて良いなら楽」
「いや、確かにそうなんですけど。特にソラさん、クサリさんと組んだ時期が一番酷いですからね?クサリさんがスイングしながら移動して、見つけたビーストを捕縛、瞬速で加速して追いかけてきたソラさんがほぼ一撃で仕留める。そして瞬速で移動するソラさんにクサリさんはスイングしてついてく、これでほとんどの小型ビーストは殲滅してましたし」
「敵に回したくないコンビよね、ソラさんとクサリ先輩」
「ん……そろそろ次のコーナー行く」
「そうね!さあ『マジカル!気になる?クエスチョン!魔法少女アンケート10』のコーナー!いくわよ!」
──────────────────────
Q1.好きな食べ物は?
A.たいやき
Q2.好きな事は?
A.編み物
Q3.自分の魔法少女としての衣装で、一番気に入っている部分は?
A.あまりない
Q4.最近観た映画は?
A.ジョン・アベェンジ
Q5.魔法少女としての自分にキャッチコピーをつけるなら?
A.鎖の繋ぐ先
Q6.もし休日が1日だけ完全に自由なら何する?
A.編み物
Q7.魔法少女カフェを開くなら、貴方はどんなメニューを作る?
A.パスタ
Q8.魔法少女として戦う時のテーマソングを選ぶなら?
A.転調が2回くらいある感じのうた
Q9.魔法少女としてCMに出演するなら、何のCMに出たい?
A.編み物道具
Q10.最近ちょっと恥ずかしいと思った時
A.色々な魔法少女の編みぐるみを作っていたのを見られたこと。
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「アンケートの感じを見るし、凄く手先が器用な感じね」
「ですね。結構この人の武器、アントラーヴ・シェーヌの操作って繊細な作業ですからね。鎖の先をどう引っ掛ければ固定されるか、どう拘束すれば抜け出しにくいかとか」
「確かに、一口に拘束といっても、ただぐるぐる巻きにするのは違いますもんね」
「……前、クサリ先輩に自分から縛るのお願いしてる人いた」
「……あぁ、あの人ですか。主には……いえ、魔法少女全体への変態なんですけどソラさんには固執したストーカーですから。見たことは忘れた方が良いですね」
「ん」
「あと、意外ですね。クサリ先輩がジョン・アベェンジを見てるなんて。少し想像できないです、編み物をしながら見てるんですか?」
「確かに彼女がこういった作品を見ているのは驚きですね」
「……どういう作品?」
「ユズキは見たことがなかったわね、簡単に言うと復讐劇ね。自分の大切なフィギュアを壊された殺し屋が、フィギュアを壊した殺し屋へ復讐を始めるって感じの映画だったかしら?」
「配信前はほとんどの人が駄作とか言って酷評されてましたが、しっかりしたガンアクションと俳優の渋さと、主人公がオタクだということ、物語の展開や演技が素晴らしいと掌返しな感想になったのよね」
「ん、魔法少女の編みぐるみは気になる」
「確かに!私とユズキは先輩と関わることは少なかったし、見てみたいわね!特にソラさんのとか!今からでも見せて貰いにいこうかしら」
「私とオトハの、あるなら見たい」
「お二人とも、興味津々って感じですねぇ」
「前に貰った連絡先から電話して見せて貰う」
「いいわね!それじゃあ、今回はここまで!」
「いやそんな適当に閉めていいんですか!?」
「だって私たちに全部任せられてますし?それじゃあ、いくわよ!マジカル!」
「デジタル」
「く、クロニクル?」
「魔法少女図鑑のコーナーでした!次回もおたのしみに!さ、いくわよユズキ!」
「うん」
「えぇ、そのもっと深掘り出来るところとか……もう!自由すぎますよ二人とも!!」