皇甫嵩編
「おいおいおい、勘弁してくれ。おっさんついて行けないよ…」
洛陽城、軍議室で草臥れた韓服に身を包んだ中肉中背で中年の無精髭の男が呟く。
「袁紹の嫉妬から反董卓連合とか…そんなにも地位が欲しいのかねぇ…あー、やだやだ。」
力有る諸侯を巻き込んだこの大騒動は結果がどうであれ戦国乱世に成ってしまうことを予期させるには十分であり、また、董卓が戦国乱世が始まる為の“生け贄”
「で、何でおっさん呼ばれたの?おっさん、将でも軍師でも無いんだけど?」
「あんたが断ってるだけで実質、将みたいなものでしょうが!緊急時くらい働け!」
「ま、まぁまぁ、落ち着いて、ね?詠ちゃん。」
実際、将に成らないかと言う誘いを断っては居るが男の軍内での扱いは将と変わらない。
飄々として面倒臭がりではあるが戦場での機転が効き、武力も呂布には及ばないが張遼と互角くらいではある。
「…まったく、おちおち隠居もできやしねぇ。」
その呟きは誰に聞かれることも無く消えて行った。
………
……
…
汜水関、関外。
関羽と孫策が華雄を挑発、罵倒し、関内から出てこさせようとする。
「離せ張遼!彼奴らは殺さねば気が済まんっ!」
「せやからアレは敵の作戦で今出て行ったらマズイって言うとるやろ!あー、もう!皇甫のおっさんも何とか言ってやってや!」
関から出て行こうと暴れる華雄と、それを留めようとする張遼、敵の罵倒をツマミに酒を呑む皇甫嵩。
「おー…華雄、お前さんの武ってあんなくだらない挑発で曇ってしまうもんなのかい?」
「そんな訳無いだろうが!」
噛み付かんばかりに皇甫嵩に詰め寄る華雄。
「なら放って置け、放って置け。
お前さんの武に対する意欲はウチの奴ら皆が知ってるさ。
お前さんの部隊の奴らも今にも飛び出さんばかりだしな。
だが我慢している。
此処で出たら此方が不利になるからだ、その兵達の気持ちを無下にして迄出るってんなら止めやしねぇ。
だが、オレ達は助けねぇしお前さんを見捨てて此処も放棄する。
さて、お前さんはどうする?」
普段はのんべんだらりとした男であるが故に、曇り無く真面目に見つめる瞳とその雰囲気は華雄を怯ませ冷静さを取り戻させるには充分であった。
「ちっ…」
一つ、舌打ちして張遼を振りほどき、踵を返す。
「ちょ、華雄、どこ行くねん!?」
「素振りだっ!
…少し、頭を冷やす。」
華雄の行動が信じられなかったのか、張遼は唖然と見送る。
皇甫嵩はチラリと華雄を一瞥して笑みを深め、酒を煽る。
「…華雄、お前さんのその悔しさ、晴らす為の舞台は整えてやるさ。」
そう呟き、関外を見下ろすその顔は、笑みを浮かべて居るが瞳だけは鋭く、冷ややかであった。
………
……
…
作戦上、汜水関は放棄するしか無く、皇甫嵩達が撤退した後、連合軍は関入りを果たし、それにより士気が上がり虎牢関を苛烈に攻め立てる。
呂布、華雄、張遼、皇甫嵩等、大陸でも上位に食い込む将達が守る虎牢関であったが、数の暴力にはどうしようも無く決戦の地落陽へと戦場は移行する。
「此処迄来たらもうどうしようも無いな…。
嬢ちゃん達を逃がす算段でも考えようかね…。」
「なっ!?私達が負けるとでも言うのかお前は!」
董卓軍主要メンバーが集まる落陽城会議室。
そこで呟いた皇甫嵩に華雄が食ってかかる。
「状況見ようや華雄。
此処迄来られたらもうどうしようも無いだろう。
これからの大陸に嬢ちゃん達は必要な人材さ、なら、生かす事を考えようや。」
そう言い放ち華雄が口を開く前に賈詡へ向き直る。
「確か馬騰殿と嬢ちゃんは面識があったな。
保護を求めに行け。
張遼が先行、その後ろに嬢ちゃん達、護衛に華雄、殿を呂布。
奴らが此処に到達する前にさっさと行け。」
言う事は言ったと、席を立つ皇甫嵩に賈詡が待ったをかける。
「あんたはどうするのよ!?
それに馬騰だって保護してくれるかどうか…。」
「おっさんは奴らの足止めでもしとくさ。
それに、馬騰は保護してくれるさ。
あいつの性格上この場に自ら参戦して無いって事は連合に反対してるんだろうよ。
娘こそ参戦しているがそれも世間体を保つためだろうさ。」
ヘラヘラっと笑い片手をひらひらと振りながらながら会議室を後にする皇甫嵩。
その後ろ姿は散歩にでも行くような気楽さであった。
「ワハハハハハハ!何故此処迄するのかだと!?それだけ董卓の嬢ちゃんが慕われてるからだ!貴様らみたいに己の利益のために!欲望のために!偽りの正義に良くも考えず飛び付く様な奴らに!嬢ちゃんを殺らせる訳には行かねぇんだよっ!
此処に居る奴らはテメェ等の侮るたかが数100程度の老兵だがな、老兵には老兵なりの戦い方ってのがあるんだよ!
舐め腐ってんじゃねぇぞクソガギ共がぁっ!」
恋姫†夢想 • 皇甫嵩編〜おっさん、さっさと隠居したいんだけど…あ、ダメですか、そうですか…〜
「あー、あー、泣くな泣くな、
嬢ちゃん。って、だからって蹴るんじゃねぇよ賈詡!うぉ!?アブねぇっ、暴れんな華雄!ちょ、此処で寝るんじゃ無い!呂布!張遼…って、酒クサッ!呑み過ぎだテメェっ!おい、笑ってないで助けろやクソ老人共がっ!」