そしてなんか知らんうちに多くの人が見てくれているようで。
ビビってます。お手柔らかにお願いします。
後藤さんたちと別れた俺は、コンビニへと向かう。
これから向かうライブハウスSTARRYは姉さんの職場であるのだし、やはり何かしらの手土産は必要なのではないか?と考えたからだ。つまり俺の目的はコンビニの壁にほぼ飾りになっている菓子折りである。
あれ、買う人いるんだろうか?って思っていたが俺みたいに急に必要な人がいるのだろう。いやぁ、需要とは色々な形であるものだな。
「あ、そのセットひとつ」
なかなかリーズナブルな値段だと思う。
こんな事、高校生が気にすることではないと思うのだが、何故だろうか?これから長い付き合いになる予感もあるためこの辺の挨拶は大切だろう。
店員さんに菓子折りを紙袋に詰めてもらい、軽くお礼を言って受け取る。さて、少し緊張するけど向かいますか。
「おっと、すみません。大丈夫ですか?」
コンビニから出たところで人にぶつかってしまった。……ん?この髪色とアホ毛、さっきまで見ていたような。
「あぁ、こっちこそ悪い。大丈夫だった?」
「大丈夫です。自分がよそ見をしていたので、すみません」
「…………」
「あの、何か?」
この女性、やたらと顔をジロジロ見られる。
そしてたぶん俺もジロジロと見てしまっている。
「いや、どっかで見たような気が……」
「……実は俺もどこかで見たような気が」
そして俺たちは、ほぼ同時にこう言った。
「姉いる?」
「妹います?」
…………。
いや待てよ?たぶん俺たちの気持ちはこれだろう。
「なんで姉知ってるんですか?」
「なんで妹知ってるのよ?」
何故か通じ合った瞬間だった。
……高校生になってからこんな事ばかりである。やっぱり高校生になると不思議な能力を手に入れるらしい。俺と後藤さんだけだとか言うのは無しな?
「「……あぁ、なるほど」」
またお互いに何かを察してしまった。
つまりあれだ。
この人は伊地知さんのお姉さんだろ?そして姉を知っていて、俺の事も知っていそうならおそらくだがSTARRYのスタッフさんだな。
俺、名探偵になれるんじゃね?……毎週下北沢で事件が起こるのだけは勘弁してほしい。
ていうか姉さん。俺の事職場の人に話してるのね?
「姉がお世話になっています」
「妹が何か迷惑をかけたようで」
「あ、これ。職場のみなさんとよければ食べてください」
「あ、どうもご丁寧に」
お互いにペコペコと頭を下げ合っているのだが……ここはコンビニの前である。
移動、しますか。
伊地知星歌さん。
この人は伊地知さんの姉であり、STARRYの店長さんだった。いや、ほんと姉がお世話になってます。そしてこれからたぶんですけど俺もお世話になるし、もっと言えば後藤さんがお世話になりますたぶん。そんな予感が今日はすっごくしている。
「ふーん。じゃあうちの妹とはそんな感じで会ったんだ」
「はい。俺の友達にいい刺激を与えてくれそうだなという打算もありましたが、思っていた通りになりそうでありがたい限りです。ですので妹さんにはこれからも俺たち二人でずいぶんとお世話になるかと」
今はSTARRYに向かいながら今日あった出来事を話している最中だ。あまりに変な出会い方をしたのもあり、この際全てぶちまけるかと思った俺は伊地知さんとの出会いや、後藤さんについて、そして俺の考えも全部話しておいたのだ。
「そーゆー事、直球で言えるのな」
「まぁ、隠してても印象悪いかなぁと。子供の考えることなんて、大人からしたらお見通しでしょうし。俺なんてこんな感じに捻くれたことしちゃいますしね」
「どうしよ。なんか聞いてた話と違うから戸惑うなこれ……」
「聞いてた話?姉さんですか?」
「そう。ずいぶん可愛い可愛いって言ってたよ。弁当まで作ってくれるって」
「それはまた……少し恥ずかしいですね」
想像できてしまった。
喜んでくれているのは知っているが、そこまでとは想像したことがなかったからな。嬉しい反面恥ずかしい。
そんな俺を気にする事なく……伊地知さん……?いや名前は姉妹で被るし店長さんと呼ぼうか。店長さんは話を続ける。
「だからなんか……ギャップに戸惑うよ。姉を骨抜きにしちゃうほど純粋で優しい天使みたいな子って聞いてたのに、簡単に友達やその日会ったうちの妹までも自分の思惑に巻き込んでるあたり、鬼みたいな事もできるんだなってな」
「あはは〜……すみません」
「それに高校生のくせに手土産って……。本当は何歳?」
「……何歳に見えます?」
「高校生には見えなくなりつつあるな。あと変に絵になる感じで聞くのやめときなよ?自分の顔を武器にしてるのがわかって少しイラッとするから」
「あはは〜ズバッと行きますねぇ」
……ずいぶんと話しやすい人だなと思う。
ついつい遠慮なく話してしまって、俺も加減が効きにくい。そろそろセーブしておかねばと気持ちを切り替えようとする俺。だがそこに店長さんは畳み掛けるように言ってきた。
「ていうかその友達、そんなに引っ込み思案な感じの子なら続くのか疑問だけど?」
「ん?後藤さんの事ですか?」
「そう。話を聞く感じ、今日の演奏もまともにできるか怪しいぐらいだしね。ステージの上での失敗って結構しんどいよ?」
まぁ、そうだろうなぁ。
こればっかりは俺には想像しかできない、わからない話ではあるのだが……だがしかし、後藤ひとりを舐めてもらっては困るのだ。
「まぁ失敗するでしょうね!」
「えぇ……。君ねぇ、失敗がわかってて引っ込み思案な友達をステージに叩き込んで、それに人の妹まで巻き込むって本当に何?悪魔なの?」
「いやいや、だって最初に大コケしてた方がいいでしょ?」
「いや、それで大怪我したら意味ないでしょうって」
「大丈夫です」
「はぁ……根拠は?」
そりゃあ一ヶ月見てきてますからね。
「後藤ひとりはあれで中々根性がありますよ」
嫌々ながらもちゃんと学校に来ているのだ。
俺は誰よりも近くで、この一ヶ月溶けながらも頑張っている彼女を見ている。ステージの上の失敗だろうと、なんだかんだで次へ繋げるだろう。
それに、伊地知さんは居なくなったギターを探すためだけに街中を駆け回る人だろ?あの人も情熱や根性はすごいと思う。
「それに、妹さんはライブでの失敗をずっと引きずって音楽をやめてしまうような子なんですか?」
「……んなわけないでしょ。てか、なに?人の妹を引き合いに出して喧嘩でも売ってる?言い値で買うよ?」
ここまで話してSTARRYの前に辿り着く。
「まぁ俺たちで話してても仕方ないでしょう?後藤さん達がこれからも音楽を、ロックを続けるかはこれから見れますよ」
「……なんか、君、本当に最初のいい子の印象がなくなってきたよ」
「そうですか?」
「そうだよ。高校生じゃなく悪魔に見えるわ」
「あはは。ロックに悪魔はつきものらしいですね」
「階段下で言うな。そこだと影になってるせいで妙な迫力あるからね?」
「えー?」
そして二人でSTARRYへと入る。
何故かわからないがワクワクとするこの感情はなんなのだろうか?これから始まることへの興奮だろうか?
「は?店長なんで音寧くんと一緒なんです?え?ひっかけたんですか?は?」
「え!?怖い怖い!何、何なのいきなり!!ちょっ!音寧くん助けて!これどうにかして!」
「音っ!?なんで音寧君の名前呼んでるんですか店長でも事と次第によっては」
……まずは姉をどうにかしよう。
いきなり迷惑をかけてごめんなさい店長さん。
何故かいきなり荒ぶり出した姉さんを、なんとか止めることに成功した俺である。……ていうか、ですね?そんなに抱えられたら、周りの視線がものすごく恥ずかしいといいますか。
だからそろそろ離してね?そして仕事に戻りなさい。
「ねぇ、ここでイチャつかれると困るんだけど?」
「えぇ〜店長そんな、イチャつくとかそんな」
「え?そんな嬉しそうな顔、初めて見たわ」
「姉がご迷惑をおかけします」
やはり菓子折りは正解だった。
カウンターにある椅子に座る俺、そこに後ろから抱きつくように引っ付いてくる姉。なにこれ?あの、いつもこんな事しないから何かこう、恥ずかしい。
「それで、音寧くんはどうしてここに?まさか私に会いに来てくれたんですか?」
「いや、友達の付き添い。すっごいビビリな女の子が来なかった?ギター背負ってるんだけど」
「……女の子?……友達?」
「そう、友達」
「……へぇ、友達ですか。来ましたけど、今はスタジオで練習中だと思いますよ?」
どうやら無事に辿り着いていたらしい。
伊地知さん、本当にお疲れ様でした。
「なぁ、音寧君よ」
「はい?」
少し安心している俺に店長さんが声をかけてきた。
あ、姉さんそんな勝手にジュースを……お代は姉さんの給料から天引きでお願いします。
姉さんからコーラを受け取りながら話を聞く。
「これ、いつもこんな感じなの?」
店長さんが姉さんを指差しながらそう言う。
いや、こんな感じじゃないんですけどねぇ……。たまに奇行はあるけど、もう少しまともというか。うん。
「いや、なんかおかしいです」
「仕事してくれるか心配なんだけど?」
あぁ、なるほど。
お任せあれ。
「姉さん」
「何です?他のも飲みます?あ、音寧くんが買ってきたお菓子食べますか?」
「姉さんのPAって仕事を見たいなって。カッコ良さそうだし」
「任せてください!」
シュババっと、何か機材が置いてあるスペースに入り込む姉さん。……え、はっや……何あの速度。
「これで大丈夫ですね」
「やっぱ君怖いわ」
「えぇ〜?」
「さっきといい、絶対わかってやってるでしょ?」
この短時間の間に店長さんとは色々ありすぎたようで、印象はマイナスになってそうだな。最近の俺にとっては珍しく新鮮である。昔は〜いいや、この話は置いておこう。
しばらくジュースを飲みながらボーッとしていると、店長さんは仕事の為に席を離れて行った。そして入れ替わるように姉さんがやって来る。
「そろそろ始まりますよ」
「あ、姉さん」
「初のライブハウスを楽しんでくださいね」
「うん。最近興味あったし楽しみにしてるよ」
「私の仕事もしっかりと見ていてくださいね?あ、私の横に椅子持ってきます?」
「ここで見るから大丈夫」
ほらほら、さっさとお仕事に行ってください。
しっかりと自分の仕事をしない人はカッコ悪いよ」
「あ、はい」
「あ、声に出ちゃった」
少し落ち込んだ姉さんを見送り、初のライブハウスでバンドを楽しむ事にする。ライブハウス特有?の空間と、周りの熱が上がってきているように感じてワクワクドキドキと興奮してくる。
あ、伊地知さんだ。もうひとりはわからないがベースを持ってい……え?完熟マンゴー?なにあれ?
「え?」
三人目に完熟マンゴーのダンボールが出てきた。
いや、本当になにあれ?え?後藤さん?
……………………。
「初めまして〜!結束バンドでーす!」
「は!?」
しばらくフリーズしてしまったが、伊地知さんの挨拶で我に返る。
そして演奏が始まり、完熟マンゴーからギターの音が……ご、後藤さん……。
「流石にそれは……完熟マンゴーは……ないよ」
「……え?マンゴー知り合い?」
いつの間にかドリンクカウンターへ戻ってきていた店長さんの声が俺の頭に響いたのだった。
「あぁ、あれが根性がある後藤さんね」
……うわぁあん!!
君のためにカッコつけたのに!バカァ!後藤さんのバカァ!!!
揶揄うような店長さんの声。顔を見る事もできなくなった俺はカウンターに突っ伏してしまうのだった。
「ひぃ!!ちょっ!音寧くん!見てるから、こっちに殺気飛んできてるから何とかして!いやちがう!虐めてないから!その親指で首切るみたいなジェスチャーやめて!あれどうにか……って音寧くん?音寧くん聞いてる!?」
知りません聞こえません。
俺は今、どう後藤さんのフォローをするか考えるのに必死なのです。
……大丈夫だよね?ね?後藤さん?
あ、明日から、仕事、頑張りましょう……。