コツコツと書こうと思ってはいたが体力優先の為すぐに寝てしまう毎日。
定時が欲しい。
いきなりだが明日からバイトをする事になった。
バイト先はSTARRYで、付き添い?保護者?通訳?……友達としてと言っていたほうがいいか?と、とにかく後藤さんと一緒にお世話になる事になった。
最初は断ろうと思っていたのだ。
学生兼主夫?のような事をしている俺にとって夕方とは戦争である。この一ヶ月の間は後藤さんと一緒に帰る日もあれば、スーパー半額セールに走っている時もある。
俺は店内で主婦の叔母様や金欠学生、仕事が早く終わっていそうな人達と鎬を削っているのだ。それはもうバチバチと威嚇しながらだ。
たまに後藤さんを連れ出して、卵や牛乳を多く獲得するために協力もしてもらったことも何回かある。……ただ、うん。簡単に想像できると思うのだが、スーパーから出ると後藤さんは虫の息だ。だがちゃんと報酬に何か甘い物を奢っているので許してほしい。スーパーの前に来ている移動販売のクレープとか。……ん?結局高くついてないか?
まぁ置いておこう。
そんなわけで日々姉さんに美味しい食事をと思っている俺にとって、夕方に長時間の拘束をされるバイトは厳しかった。厳しかったのだが……。
『だからバイトしたらご飯作る時間がなくなっちゃうし。ね?おかず減っちゃうよ?』
『食事の一品が無くなるよりも!音寧くんと仕事がしたいです!!というわけで採用です!!!』
『あれぇ?』
最終的に姉さんの強行採用通知が出てしまったのだ。店長さんの「あれ?私が店長だよね?」と言う小さな呟きは、おそらく俺しか聞こえていないだろう。
諦めた俺は店長さんに、うちの姉が申し訳ないが、弟の事もよろしくお願いしますね?なんてにっこり笑顔で言ったら笑顔が怖いなんて言われてしまった。
と、ここまで詳しく説明をしたが、その時のことを振り返ってみよう。
そう、それは数日前のことだった。
「音寧くーん!シャンプーないでーす!」
……姉よ、邪魔をしないでほしい。
とりあえず回想の前に、詰め替え用のシャンプーを風呂の扉の前に放り投げた俺であった。
お昼ご飯を食べ終えた昼休み。
何も変わりないと思っていたのだが、非常に珍しいことが起こっている。
「あ、あの。天見、くん?」
「…………」
「あ、え、あ、どどどうしたら、あば、あばばばば!」
「あ、ごめん待ってバグらないで!!!無視してないごめん!!」
「あ、はい。……天見くんに無視されたら、この先の人生、どうしたらいいかと思いました……」
「いや、人生って……せめて高校生活にしようよ」
後藤さんから話しかけられたのだ。
いや、たまにはあった。だがそれは会話のキャッチボールが絶対に続かない内容なのだ。
過去の酷い例を挙げてみよう。
『きょ、今日いい天気ですね』
『だねぇ。こんな日はポカポカしてて眠くなるよね。後藤さんは晴れの日は好きなの?』
『いえ、別に……割と何でも』
頭を抱えてしまった俺は悪いだろうか?
どうしろと?そっかとしか言えんわ!!
後藤さんから話しかけられた時は、それ以上の広がりを作れないことが多かったのだ。ここから無理に話を続けた事はあるが、五分ぐらいすると後藤さんはバグる。どうも無理な会話をさせているという罪悪感が膨らみすぎるらしい。
……話がそれた。
「そ、それで、もう一回だけ聞かせてくれない?」
「あ、はい。その、私と一緒にSTARRYに行ってほしくて、虹夏ちゃんに今後のバンド活動について話し合うから集合してねって言われたので……私だけだったら緊張しちゃうから、天見くんにもついてきてほしい……な、と。あ、でも天見くんスーパーが」
長文!?
それに後藤さんからの話題を広げられる会話!!
そしてついてきてほしいというお願い!!
信じられないが、に、虹夏ちゃん!?名前!?
俺の涙腺は限界を迎えそうになる。この一ヶ月の苦労が報われた瞬間だった。音楽は、人を成長させるのか。ロックって、すげぇや。バンドって、偉大だわ……!
っと!馬鹿な事を考えないで答えないと!!
「スーパーなんていつでも行ける!!ふぅ……うん。もちろん俺でよければご一緒させてよ」
危ない、勢いが強過ぎてしまった。
圧が強くなりすぎると後藤さんが萎縮してしまう。そのため、一呼吸置いて気持ちを抑えておく。
「あ、ありがとうございます……!」
喜んでもらえたようで何よりだ。
あ、ごめん。やっぱりスーパーには寄らせてね?たまご補充しないとないんだよね。弁当を作っていたら分かるのだが、たまごとは意外と消費するのである。
そして割とどうでもいいのだが、弁当に卵焼きを入れないと姉さんが拗ねるのだ。実にお世話のしがいがある姉だな。
そして放課後。
俺達二人は買い物を終えてSTARRYへと到着したのだ。……したのだが……。
「は、入らないの?」
「こ、これって勝手に入っていいものなんですか!?」
「いいと思うけど。……え?なんかダメなの?虹夏さんが外で待っててとか言ってた?」
「だ、だって!私なんかが勝手に入ったりしたら不審者扱いになって不法侵入からのお巡りさんのお世話に!……ん?虹夏さん?」
「うん。虹夏さん」
「……」
どうしたのだろうか?
急にフリーズし始めたが……?
「名前!!??」
「!?」
びっくりした!!
こんな狭い空間で叫ばないでほしい。
耳がキーンとなるからね?
それにしても名前って、虹夏さんの事か?いやまぁ、この間勢いと流れでつい名前で呼んでしまったからな。自分の中で伊地知さんと呼ぶのはもうなさそうだし、ていうか呼びにくい伊地ッ!!って舌を噛みそう。
「えっと、二人で何してるの?」
「ぼっち、すごい声だった」
虹夏さんと山田さんが現れた。
いやもう、二人揃って不審者です。ごめんなさい。
大騒ぎしたのを後悔し、バグった後藤さんを連れて四人でSTARRYに入り、テーブルを囲んで席に着く。そして虹夏さんが飲み物まで用意してくれた。ありがてぇ。
「それでは!第一回結束バンドメンバーミーティングを開催しまーす!拍手!」
虹夏さんの掛け声に対して、なんとなく掴みどころがなさそうな山田さんが意外と素直に拍手をしている。後藤さん?拍手しようとしていたが、一度フリーズしたせいで出遅れてタイミングを逃したよ?俺?いや、楽器弾けないしメンバーというか外部の人間だろ?
「虹夏」
「何?」
「結束しないね」
「私も思ったけどそこはツッコマない!……さて、気を取り直して〜と言いたいところだけど、まずはちゃんとお互いを知るところからかな。前はすぐ解散しちゃったしね」
まぁそれもそう。
だがしかし、後藤さんは手強いですよ?
ちゃんと自分の事を紹介しながら円滑に話を広げられると思って……。
「それで、今日はこんな物を用意しました」
「じゃん」
取り出したるは話題を書いたサイコロ。
バンジージャンプはスルーしておくが、百獣の王がマスコットな某番組を思い出す。
風邪で学校休んだ時とか適当につけてたテレビで見たことあるな。気を遣って一緒にいてくれた姉さんと色々な話をしたのも思い出した。
そんなちょっとした昔のことを思い出しつつも俺は感動に震えている。さすが虹夏さん!やべぇ、俺の中でこの人の株が爆上がりしてしまっている。
「リョウと話したんだけどね。ぼっちちゃんはこうやって話題を決めた方が話しやすいかなって……どした?天見くん」
「虹夏さん。山田さん。ありがとう、ありがとうございます。これからも後藤さんの事、よろしくお願いします」
「よ、よろしく、お願いしますぅ」
「あ、はい」
「何この状況」
しばらく変な空気感になってしまったが、気を取り直してサイコロを振ることに、そして出てきたのは学校の話。つまりは!
「せーの」
「「がこばな!」」
「え?え?」
「なんでそんなに息ぴったり?」
イェーイと虹夏さんとハイタッチ。
後藤さんは取り残され気味でオロオロしてるし、山田さんはマイペースである。うん、ちょっと落ち着くわ。とりあえず話を広げていこう。
「お二人は同じ学校ですよね?」
「うん、下高」
「二人とも家が近いから。ぼっち達二人は、秀華高校だよね?」
「そうですね。俺は家も近いですし、色々と理由もあって秀華高校に行きましたね」
「あ、天見くんとは同じクラスで、お世話になってます」
「へー。ぼっちちゃんも秀華高を選んだ理由は家が近いからとか?」
あ、虹夏さん。
仕方ないとはいえ、いきなりそこを踏むのかと思った。いや、後藤さん相手だと、どこもかしこも問題が出てくる話題だらけの地雷原だ。早めに洗礼を受けてもらうとしよう。
「あ、家は片道二時間です」
「え!?二時間!?」
あ、あ……。
「ぼっちは秀華に何か行きたい理由とかあった?」
…………。
「……高校は誰も自分の過去を知らないところに行きたくて……」
さすが後藤さん。
場の空気を一瞬で自分の色に染め上げた。この辺りはもう、プロの犯行だと思う。悲しいプロだ。
「はい終了!!がこばな終了!!」
「ぼっちらしい」
「ていうか天見くん知ってたよね!?教えてよ!なんかいきなり躓いた感じじゃん」
「ははは。この程度、後藤さんと付き合っていく上ではあいさつみたいなものですよ」
稀によく人外じみてるし……。
「え?」
「ちなみに俺は慣れました」
「…………き、気を取り直して次!!」
後藤さんのあんまりにあんまりな理由でワチャワチャしてしまった。だが、この程度でいちいち止まっていては日が暮れる。お二人には早いこと慣れてほしいものだ。
この後も山田さんがボッチなのではなく、一人行動が好きというのがわかり後藤さんが落ち込んだり、好きな音楽の話では後藤さんの答えが青春コンプレックスを刺激しない歌とか言い出して場を支配したりと、後藤さん……もう才能だよこれ。
「ぼっちちゃんが向こうの世界から帰ってこない」
「まぁ、こうなると少しかかるので先に話を進めましょうか」
「そだね」
「とりあえずバンドのミーティングと言うことなので一応聞きますが、ボーカルは居ないんですか?」
このままではミーティングが進まないと思い、少しでもバンドに関係がある話を進めることにした。正直、今は日常的な話題をすると後藤地雷に引っかかるので、引き戻すのにいちいち時間がかかりすぎるよりは多少放っておいても進めたいのだ。
帰って家事をしたいし、いつまでも長くは居られない。
「あー。それなんだけどね」
「多分もう……」
え?何この重たい空気?
……まさか。ボーカルの人はもう……。
もしかして、結束バンドってだいぶアレなバンドなのか?……間違えたところに後藤さんを放り込んでしまったかもしれない。
ごめんなさい。
リョウのセリフが少ないです。
リョウ自身のキャラ、そして原作を読めていない事もあり掴みにくい。
虹夏ちゃんはしっかりと動いてくれる子なんだけどなぁ。
ぼっちちゃんもキャラ濃すぎる事もあり、割と動いてくれる。
だがリョウよ。どうしたらいい?どうしたら動いてくれる?
必ずなんとかしますので、リョウに関しては勘弁願いたい。