ろっく?いや、ギターすら持ったことないけど?   作:クウト

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この話はPAさんから見た音寧くんの過去を語ったものです。
本編にはあまり関係はありません。
あと最初に言っておきますが、主人公である音寧くんは少々ぶっ壊れてます。


酒で過去を思い返す

明日からバイト初日である。

少しの不安はあるがそれ以外はいつもと変わらない為、俺は紅茶でも飲みながらリラックス中である。

しばらくすると、姉さんがお風呂から上がってきた。

 

「えっと……音寧くん。ちょっとだけいいですか?」

 

「ん?うん。姉さんも紅茶いる?」

 

「あ、もらいます」

 

なにやら改まって話がありそうな雰囲気を察知。

これは長くなるかもしれないと思い、紅茶を入れる事にした。茶菓子はもう遅い時間だしやめておこうかな。

紅茶を用意し、姉さんの元へと戻る。

 

「はいどうぞ。それで、どうしたの?」

 

「ありがとうございます。……その、ですね」

 

「……え?何この感じ。変な事でもした?」

 

「変な事ってなんですか!?」

 

え、また勝手に俺の服着てたり?

今は身長も俺のが少し高いからだろうか?俺のシャツを着ても無理があるとは言えないのだ。だからその場では違和感を持つ事もなく、後から『あれ?ソレ俺の服じゃね?』となる事もしばしば。

それでもないなら、この姉は何をやったのだろうか?言いにくそうにしながらも姉さんは話を再開する。

 

「バイトの事です」

 

「え?なんか前もっている物でもあった?メモとかは用意してあるけど」

 

「そうじゃなくてですね。……その、暴走気味になって無理矢理だったなと。ごめんなさい」

 

「……今更だよねぇ〜」

 

「うぐぅ……」

 

この姉は今更何を言っているのだろうか?

もう数日も前の事をずっと引きずってたの?だから最近なんか悩んでる感じだったの?それでバイトも明日に迫ったしいよいよ言わなければって?

はぁ……。

 

「別にもうなにも思ってないからいいよ。友達と働くのも楽しそうだし」

 

「音寧くん」

 

「もちろん姉さんともね」

 

「音寧くん!!」

 

……少し、恥ずかしいな。

なんか、このままなのも少しモヤモヤとしてしまう。というわけで、姉さんをイジっていきますか。

 

「でも……これからバイトの日はあんまり姉さんに腕を振るって料理もできないから……それは残念かな」

 

「音寧……くん」

 

「ごめんね」

 

「そんな、そんな事ないですよ!音寧くんが作ってくれるならレトルトでも最高です」

 

「俺の料理はレトルトと同じって事?」

 

「いや、ちがっ!……ん?音寧くん?からかってますね?」

 

「……バレた?」

 

表情に出てしまったか?

ダメだな。姉さんとの遊びはついつい誤魔化しきれなくなる。楽しすぎるのがいけないんだな。

 

「はぁ、本気であせりました」

 

「あははは!ごめんね」

 

こんな風にしばらく楽しく雑談を続けると、気がつけばもう深夜だ。そろそろ寝なければ明日がキツイな。

 

「そろそろ寝るよ」

 

「そうですね。もう結構遅い時間ですし、おやすみなさい」

 

「おやすみ」

 

リビングから出て自分の部屋へ向かおうとした時だった。姉さんが俺に声をかけてくる。

 

「あ、最後に一つだけ」

 

「ん?」

 

「もう引越しもないですから、自分が一番好きになれる物を見つけてもいいと思いますよ?」

 

「……」

 

「大丈夫です。あの子達なら、音寧くんが無理に合わせないでも楽しくやっていけると思いますよ?音寧くんを傷つける人たちじゃないでしょう?」

 

「……そだね」

 

「でも姉としては、あまり距離感近すぎると妬いちゃいますけど。あ、あと好きになる物が音楽なら私が飛んで喜びます」

 

「ははは。うん、考えとくね」

 

「はい。おやすみなさい」

 

パタンと扉を閉める。

ほんと、姉さんには勝てないなぁ。

 

 

 

〜PAさんサイド〜

 

パタンと閉まる扉を見つめて数秒。

…………。

 

「よ、よかったぁ〜……」

 

思わず机に伏せてしまった。

こ、これで姉の威厳は保たれたのでは!?

良い姉ムーブができたのではないだろうか?とついつい自画自賛してしまう。

 

「はぁ……照れた音寧くんも可愛かった」

 

音寧の揶揄いには慣れてはいる。だがあまりにも自然とやる演技のせいで一瞬だが私も騙されてしまうのだ。

あれはあの子の生き方の一つ。

今となっては武器にして楽しんで利用しているようだが、昔は防衛のための手段の一つだったようで……。それを考えると少し思う所はあるのだ。

まぁ、顔と演技を武器にされるのも可愛いので完全にやめてほしいわけではない。こんな姉でごめんなさい。

……つい思い出してしまうが、初めて会った頃の音寧は静かな子だった。

急に姉と母親ができたのだから仕方のない部分はあるのかもしれない。だが、私達をどこか観察するように見ているあの子を不思議に思ったものだ。

 

「懐かしいですねぇ」

 

少し気分が乗ってきた。

ここは秘蔵のお酒でも取り出して、昔の事を思い出すのも良いかもしれない。

という訳で、少しばかり過去を思い出していこう。

 

『天見、音寧です。よろしくお願いします』

 

小学生なのに礼儀正しく、静かな子だった。

私が小さい頃はこんな感じだっただろうか?もう少し我儘だった気がする。そんな印象を持った。

数日過ごしてみて思った事、それはすごく居心地がいい。急にできた弟にストレスを感じるかもしれないと思っていたのだが気負いすぎたのだろうか?

 

『あれ?』

 

『あの、お皿なら、下げてます』

 

『あ、ありがとう』

 

こんな事が普通なのだ。

よく周りを見ているなと思った。

だがさらに数日。あぁ、これは観察されているのだと気がついた。だが何故?そんなに怖いだろうか?と不思議に思い父親に相談した。

 

『音寧に警戒されてる?』

 

『はい……何かしてしまったのなら、謝りたいなと』

 

『…………すごいね』

 

『え?』

 

『ちょっと、長くなるけど……。音寧を知るために必要かもしれないね』

 

父になった人から帰ってきた言葉は賞賛。

困惑した。

だがそんな私を置き去りにしながらも父は話を続ける。

 

『あの子、亡くなった母親の生き写しと言って良いぐらい顔が似ていてね。ほら』

 

そう言って見せられた写真には驚いた。

音寧くんが成長すれば、双子と見られるのではないだろうか?男の子だし背も高くなればそうなるだろうなと。

 

『だが目元とかは僕に似ていてね。ほら、母親の方は少し柔らかい目元だろう?』

 

確かに。

音寧くんの目はもう少し鋭い気がする。

ちょうど、目の前の父の様に。

 

『だけど、この容姿のせいで学校でトラブルが多くてね。男の子には仲間はずれにされるし、女の子にはおもちゃのように扱われるみたいでね』

 

少しわかるなと思ってしまう。

あれだけの容姿だ。ただ、男の子なのに女の子のような顔。言ってしまえばその程度だが子供というのは時に残酷で、ただ揶揄うだけでも音寧くんにとっては辛いだろう。

 

『音寧は母親が大好きだった。それこそ、小さい時なんて母親と似ている容姿を自慢としていたんだ』

 

『そうなんですか』

 

『でもどうしても異物として見られちゃうんだろうね。先生達にも心無い言葉を言われた事もある。体調が悪くて休んだだけで女々しいとかね』

 

酷い話だ。

 

『そんな事もあって、あの子は同年代の子が苦手で、一部の大人が苦手なんだ。だからあの子にとって歳上である新しい家族というのは、自分を傷つけるかもしれない。母親の容姿を悪くいうかもしれない人という認識なんだろうね。だから観察してる』

 

『なる、ほど』

 

ショックを受けなかったと言えば嘘になる。

弟ができるのだから姉弟らしい会話や接触を、少しは期待していたのだ。それが開始前に破綻しているとなれば少し傷ついてしまう。

 

『ははは!そんなショックを受けた顔をしないでよ。アレでなかなか強かな子だから』

 

『え?』

 

『いやぁ、僕のせいだろうから、恥ずかしい話なんだけどね』

 

そして語られたのは納得はできないが、するしかないような話。

母が亡くなった後、父親を支えるためにと家事をし始めた音寧くん。幸い、母親とよく家事をしてしたおかげか、ぎこちないながらも良くやっていたらしい。数ヶ月もしないうちにある程度のことは任せれるようになったようだ。

すごいと思う。まだ小学生なのにと。

 

『情けないよ。子供の方が、頼りない僕を見てしっかりしないとなんて思っていたなんてね。そのせいで子供なのに子供らしくない音寧になってしまった』

 

『確かに、小学生なのに料理上手ですよね』

 

『そうだろう!?いやぁ、特にね、煮込みハンバーグなんて絶品だ。一度作ってもらうといいよ』

 

それはいい事を聞いた。

今度、私の母親経由でおねだりしてみよう。幸い、私の母親とは自然に接しているように見えるし。

 

『……まぁ、アレだ。普通の同年代よりも、周りが見えすぎる子になってしまった。考え方も子供らしくない。それに、我が子を褒めちぎっているように聞こえるが、頭も良い。回転も早い』

 

『…………』

 

『だからクラス崩壊させちゃったんだよね』

 

『……え?……は?』

 

あまり軽く言った一言にフリーズしてしまう。

え?クラス崩壊?

 

『色々とブチギレたみたいでね。それも怒鳴り散らすとかじゃなくてジワジワと計画したみたいで……。まず女の子を味方につけたみたい。自分がおもちゃにされる事も我慢してね』

 

まず女の子と仲良くなり情報網を構築。

次に男の子の誰が好きとか嫌いとかを聞く。

その後、嘘を混ぜながらジワジワと特定の人物の噂を流していく。すぐに消えるようでもいい。なんでも良いからとにかく続ける。

すると、子供は素直なのだろう。

数ヶ月もしないうちに男女が対立したらしい。

 

【そんな顔でもお前は男なんだからこっち側だろう!?】

 

【アレだけ遊んだから女の子の味方だよね!?】

 

そうなったら音寧の思う壺だった。

どちら側にも言われたら嫌な事実がある。それをまた噂として流す事で完全にクラスを崩壊させた。そして教師達にもその手が及ぶ。

音寧くんは職員室に乗り込み、別の先生達に相談を持ちかけた。あまりに完璧すぎる演技は教師を簡単に騙したのだ。あの教師がひどい、言葉で虐められると無表情で静かに泣く様子は、大人を慌てさせるに十分すぎる効力を発揮した。

悪く言った教師が止めようとすると顔を硬直させて震えたとかも効果がありすぎる。

 

『結果、校長とかいろんな人が謝りに来たよ。問題にされたくないんだろうね。……まぁ、音寧に聞いたら全部こうやったって普通に話すもんだから呆然としたけど……』

 

『そ、それはそうなってもおかしくないですよ』

 

うちの弟恐ろしすぎない?

え?それ全部計画してた?こわいこわい!

え、これ、本当にイメージしてした事ってできるの?無理じゃない?ハードル高すぎない?

 

『ま、まぁ、安心してほしい!音寧は真正面から向かってくる人に対してはちゃんと接してくれる』

 

『え?』

 

『悪意には悪意で返すし、善意には善意で返す。自分の好きな人達という輪の中に入れば大丈夫』

 

『……できるでしょうか?』

 

『うん。簡単だよ』

 

次の日から、私は音寧くんと積極的に話す様にした。どこか驚いていた音寧くんだが、父の言う通りで私の言葉にちゃんと答えてくれるし、お姉ちゃんと呼ばれた時なんて思わず涙が出た。今まであの、とかしか呼ばれなかったし……。

そんなこんなで気がつけば私の方が音寧くん無しでは辛すぎる様になってしまったのだが……。

でも、高校中退してからなんて音寧くんの善意が申し訳なさすぎて、朝起きられないなんて理由も音寧くんに起こしてもらえるから目覚ましかけなくなってしまったのが理由の一つなんて申し訳ないし情けなさすぎて……。はぁ……。

ちなみに音寧くんだが、母に私の事は起こさなくて良いから学校に行けと叱られたらしい。よくも余計な事を!いや、私が悪いから言えないんだけど……。

そんな事もあり家に勝手に居づらくなって飛び出して……。音寧くんと会えない日々は辛かった。父に音寧くんの寝顔を毎日撮って送ってもらわなければ危なかったと思う。ちなみ父は毎日部屋に侵入するスキルが高まって行ったらしい。

 

 

 

懐かしいなぁ。

 

「っと、思わず呑みすぎちゃいました」

 

気がつけば瓶が空っぽだ。

ふわふわとする頭で考える。

音寧も高校生になり、今となっては過去を気にせずにちゃんとできている。私よりしっかりしているだろう。

だからと言って見えてくる交友関係が女の子ばかりなのは気になるが……!まぁ、信頼できる子達だし、一人はなんか、こう、よくわからないけど多分良い子?要介護って言ってるから本当にわからないけど……。ま、まぁ、これから見ていけるし!姉としてしっかりと見ていこうと思う。まぁ最後には私の元へとくるから別になんでも良いや。

 

「うーん。とっとと」

 

危ない。転ぶ所だった。

という事で一人じゃ危ないし、音寧のベッドで寝よう。

 

「音寧く〜ん。今行きま〜す」

 

たまには……いや、毎日甘えさせてください。

そうして音寧の部屋に乗り込み、ベッドに侵入する私だったが……。

 

「酒臭……」

 

酷いです。




こんな過去でした。
まぁこうやって姉弟の絆が深まっていった訳なんですけど……。
なんか賛否ありそうで怖いわ。
あまり音寧くんとPAさんの過去を引っ張るとなぁと思ったので頭の中にあったのをザッと書きました。
次回からは本編の方のバイト開始です。
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