リオ ー屋上のラストボスー   作:ディヴァ子

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夏が来た。来てしまった。そして時間だけが過ぎていく。皆みんな、死ねば良いのに。


命ある限り

 ――――――十年前、東京都のとある河川敷。

 

「………………」

 

 橋の下、とりあえず雨風が凌げる程度の空間に、一人の少女が膝を抱えて蹲っていた。周りには何も無い。段ボールすら無い。唯々、咽返るような夜風に吹かれ、不快に身を寄せている。

 そして、少女を気に掛ける者も居ない。人っ子一人。むしろ、彼女をあってはならない物として、ホームレスすら避けていく。

 まぁ、それも仕方ない。少女は、何処からどう見ても反社っぽい人間たちに追われ、ここに隠れ潜んでいるのだから。普通の人間であれば、とっくに諦めているだろうし、例え裏社会の人間だとしても、もう終わりだと嘆いて自棄っぱちに命を散らす事であろう。

 

「……殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる」

 

 しかし、少女は諦めていなかった。止めどない殺意に苛まれ、世を呪い続けている。歯を食いしばったせいか唇から血が流れ、握り締めた腕には爪がめり込み肉が裂けて衣服に血が滲んでいた。

 

「居たぞ!」「××の娘だ!」「今度こそ逃すな!」

 

 だが、現実は非情で社会は冷たい。全てに見捨てられた少女に救いの手は差し伸べられず、代わりに追手が彼女を見付けてしまった。もう終わりだ、お仕舞いだ。

 

「――――――殺してやるぁっ!」

「ぐぁっ!? ……この! それはこっちの台詞じゃ、ボケェ!」「殺せ殺せ!」「死ねやクソガキィ!」

 

 追手の一人に獣のように飛び掛かった少女は、しかし無力であっさりと捕まり、叩き伏せられる。せめてもの抵抗として追手のエンコを歯で詰めてやったが、もちろん逆効果であり、顔の形が分からなくまで殴り倒されてしまう。虫の息になった所で、少女の頭に拳銃が押し当てられる。今度こそ終わりである。

 

「ご、ろじ、で……や……る……」

「こ、こいつ……!?」

 

 こんな有様になっても全く諦めない少女に、追手はドン引きした。恐ろしい執念だ。

 ――――――まぁ、この後彼女が撃ち殺されるという結果は変わらないのだが。

 

『女子供に寄って集って嬲り殺しか。……チンピラやくざなんぞ、こんな物か』

「な、何だおま……ぎぃゃあああっ!?」「ぐべぇぁっ!?」「はぁああぉぅっ!?」

 

 だが、突如として彼らの間近に金色の闇が発生、その渦中から黄金の鎧に身を包んだ何者かが現れ、瞬く間に追手たちたちを血祭りに上げた。

 

「うぅぅ……!」

『お前、面白いな。気に入った。まるで昔の(・・・・・)私みたいだ(・・・・・)。惨めで、無力で、どうしようもない子供。……言え、何が望みだ?』

 

 さらに、死に掛けの少女へ寄り添うようにしゃがみ込み、声を掛ける。

 すると、少女はカッと目を見開き、

 

「――――――私は、皆と楽しく過ごせれば良かった。普通に、生きたかった。なのに、どいつもこいつも私から奪って行きやがる。“やくざの娘の癖に”と蔑んで、“何で生きている”“さっさと死ね”と、殺しに掛かって来る。……だから、今度は私が奪ってやる。生活も、財産も、命も、全部全部壊して、殺してやる! 何もかもぶっ壊してやる! こんな世界、大嫌いだぁっ!」

 

 とても十代に満たない少女とは思えない、理知的で暴力的な言葉の数々。一体何をどう生きて来れば、こんなにも醜い大人のような台詞が出て来るのか。それは少女自身にしか分からない。

 

『……良いだろう。お前は駒では無い(・・・・・・・・)。対等な同志として、力を貸そう。この復讐は、お前の……いや、私たちの物だ』

 

 否、違う。眼前の何者かは理解している。最初は利用するつもりで近付いた事も明かした上で、この手を取れと、悪魔の手(アンノウンハンド)を差し伸べる。

 

「………………」

 

 とても信用出来た話ではない……が、断るという選択肢も無い。何故なら、少女はまだ子供だから。

 

「……よろしくね、心友(・・)

 

 そして、少女は本当の悪魔(ニンゲン)として生まれ変わった。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 ――――――現在、東京都、「東京駅」。

 

「……いや~、偶には弾丸新幹線(バレットレイン)で来るのも乙かなと思ったが、予想以上に暇だったなぁ。思わず微小化粒子酸素光線(ラスタービーム)を乱射しようか迷ったぜ」

「止めろや」

「という事で説子、東京のど真ん中で熱線を吐き散らかせ。そしてテロリストとして処理されろ」

「誰がするか」

 

 遥々東北の地より関東へとやって来たお上りさん、もとい香理(かり) 里桜(りお)天道(てんどう) 説子(せつこ)が物騒な会話をしている。

 

「高が乗り換え一つでテロリズムに走るとか、お前新幹線向いてねぇよ」

「煩いなぁ。……それより、他の連中はどうした?」

「お前と違って今頃は大阪の空の上だよ」

「何だよ、風情が無い奴らだな」

「お前が言うな」

 

 そう、暇を持て余した里桜たちは、先行組を追い掛ける形で大阪を目指しているのだ。里桜と説子は弾丸新幹線で、他は飛行機や船を使っている。各々が勝手に集まり、好き勝手にするだけの大阪旅行である。足取りとしては里桜と説子は中間ぐらいと言った所か。

 

「折角東京に来たんだし、大阪へ行く前に(しん)でもからかってやるか……ん?」

 

 と、その時。

 

「あ、純子じゃん。こんな所で何してんだよ?」

「おやおや、里桜ちゃんじゃない。そっちこそどうしたの~?」

 

 人込み(ゴミ)の中に、(スーパー)悪目立ちする輩が居た。里桜と同じ狂科学者(マッドサイエンティスト)にして、その代表格たる「三狂」の一人、雪岡(ゆきおか) 純子(じゅんこ)だ。こんな公衆の面前で堂々と白衣を纏って歩いていれば、嫌でも目に入る。

 

「私らは大阪旅行だよ。ここから乗り継ぐんだ」

「奇遇だねぇ~。私も東京へ向かう所なんだ~」

「何故ゆえに?」

「ちょっとした調査かな。現地で真くんと合流する予定なんだよね」

「ほほぅ、それはそれは……」

 

 純子の言葉を聞いた里桜が、厭らしく嗤った。彼女は「雪岡 純子の殺人人形」こと相沢(あいざわ) (しん)を虐めるのが大好きなのである。

 

「ちょっと里桜ちゃん、真くん虐めちゃ駄目だよ~?」

「ええ~、ちょっとくらい良いじゃん。先っぽだけ、先っぽだけだから!」

「何か厭らしく聞こえるなぁ~」

「……おい、そこのお二人さん。無駄話はそれくらいにして、ホームに行くぞ。もう直ぐ出発時刻んだからよ」

 

 すると、説子が聞くに堪えない会話を断ち切った。事実、彼女の言う通り、東京はあくまで乗り換えで寄っただけなので、時間はあまり無い。

 

「ま、折角同じ場所に向かうんだし、珍道中と行こうじゃないの」

「良いよ~」「う~ん……」

 

 こうして、里桜と説子に純子を足した、摩訶不思議な三人組の珍道中が始まった。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 ほぼ同時刻、東京湾の沖合。

 

『もう東京かぁ~』

『案外と近いもんだな』

『そんな物ですよ』

 

 大海原を背に、祢々子河童・竜宮童子・お白様の妖怪トリオが豪華客船(フェリー)に揺られていた。祢々子河童は服を着ているし、お白様も下半身を変形させて人間に擬態している為、違和感は無い筈なのだが、やはり元が妖怪だからか、結構目立っている。ついでに言えば、竜宮童子は何時もの恰好なので時代錯誤が甚だしい。

 何故この組み合わせなのかと言えば、普段から屋上でつるんでいるからだろう。後はメンバーの過半数が水棲生物だからかもしれない。

 

『――――――大阪なんて久し振りやな~』

 

 波間を泳ぐ魚を見ながら、祢々子が呟く。

 

『そう言えば、オマエの故郷だもんな』

『そ~そ~。おかん元気かな~?』

『……あの人が元気無い姿を想像出来ないんだけど』

『せやな~』

 

 祢々子は元々大阪の生まれだ。母親の禰々子河童が歴史上に浮上した時に棲んでいたのは利根川付近であるものの、彼女自身も元は大阪の生まれである。近畿地方で生まれ育ち、関東で名を馳せ、故郷へ帰る形で逃げ延びて、今に至る訳だ。

 

『おかん曰く、元は“遊郭に売られた極貧娘”だったらしいで~。しかも、吉原みたいな大手やのうて、場末のこじんまりとした外れだったみたいやよ~』

『それが何をどうしたら“河童の女大将”になるんだか……』

 

 閑古鳥が鳴くような小さな遊郭に売られた貧困層の生娘。絶対にロクな末路は辿っていまい。その果てが関東一円で大暴れする大妖怪とは、何と因果な運命だろう。その一人娘が東北に流れ着いて、竜宮の王子様と仲良く里帰りしてる事も含めて。実に不思議な巡り合わせである。

 

『『………………』』

 

 大洋を望み、祢々子河童と竜宮童子が海風に吹かれる。

 

『青春ですね~』

 

 意外とロマンチストなお白様が、二人の後ろ姿を見ながら悶えた。流石は王子の白馬様と一体化した妖怪。思考が常軌を逸している。

 

『……ん?』

 

 と、その時。祢々子河童がある事に気付く。

 

『どうした?』

『……魚が浮いとる』

 

 言われて見れば、波間に揺ら揺らと魚が浮いている。それも表層では無く、深海に棲む種類が、幾つも幾多もプカプカと。水圧の変化で中身が裏返って口から飛び出している様は非常にグロテスクだ。

 

『何でこんなに……?』

まるで(・・・)何かから(・・・・)急いで逃げて(・・・・・・)来たみたい(・・・・・)ですね(・・・)

 

 お白様の言う通り、水圧差すら考慮出来ない程に命からがら逃げて来た、と表現しようが無い、異常な光景である。

 

『おわっ!?』『な、何や何や!?』『馬脚展開!』

 

 さらに、それを裏付けるかの如く、船の真下から白い気泡が噴き出し、小島を一呑みしてしまう程に広がった末に水蒸気爆発を伴って、巨大なナニカが姿を現した。

 

『何じゃこりゃあ!?』

 

 巻貝や珊瑚をごちゃ混ぜにした殻を背負った、鯨の骸。その有り様は、骨で出来上がった原子力潜水艦だ。その上、セイル部分に当たる殻の部分が、戦艦の砲塔を思わせる形をしている。事実、発射管や開閉口がある為、砲塔としての役割があるのだろう。まるで、動く要塞である。

 

 

◆『分類及び種族名称:要塞大海獣=化け鯨』

◆『弱点:腹部』

 

 

『「化け鯨」!』

 

 浮上した怪物――――――「化け鯨」を、海に投げ出された竜宮童子が見上げて言った。

 「化け鯨」とは、近畿近海に伝わる鯨の化け物だ。かつて捕鯨が盛んだった頃に夜な夜な現れては、通り掛かる船舶を沈めたり、見てしまった船乗りに呪いを掛けたりしたと言われている。その姿は骨と皮ばかりな鯨の骸で、既に死んでいる故に銛も火も通じないが、下手に刺激せず平伏していれば見逃してくれる事もあるらしい。神霊化した鯨の言い伝えは全国処か全世界に存在し、化け鯨もその類の一つである。

 しかし、目の前にいるこいつは神秘性の欠片も感じないし、荒ぶる側面にしか見られなかった。あと、物凄く生臭い。それも魚や海生哺乳類が腐ったというよりは、甲殻類の体液が臭うような感じだ。

 だが、今はそんな事を考えている場合では無かろう。

 

『た、助けて~! 私、馬娘なので泳げないんです~!』

『ま、そりゃそうやろな~』

 

 完全陸棲生物のお白様は溺れているし、

 

『プゥヴァゥウウウァッ!』

『来るぞ!』『ひゃ~!?』『お、溺れちゃう!』

 

 そもそも、化け鯨が標的を客船の生き残りたる祢々子河童たちへ向けたからである。

 

『プルァアアアァァヴッ!』

『『『うわぁあああ!?』』』

 

 喰らえ、【鯨撃要塞砲弾(ホエール・ボンバード)】!

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 一方、奈落県(ならくけん)の上空。

 

「もう少しで大阪だよ、鳴女(なりめ)ちゃん」

『ぐごぁ~』

「もうちょっと謹んだ鼾を掻いてよ鳴女ちゃん」

 

 大阪行きの206便で、茨木(いばらぎ) 富雄(とみお)令和(れいわ) 鳴女(なりめ)がファーストクラスを満喫していた。

 

『「屋上のリオ」様々だね』

『どっちかって言うと、デルタ・コーポレーションの会長のお立場だと思うポ』

 

 向かいでは、ちゃっかり同席した呵責童子と八尺様がカードゲームに興じている。むろん、プレイしているのは「ジュエル・マイスターズ」。あれだけズリーコや餓者髑髏に酷い目に遭わされたのに、懲りないね君たち。

 ちなみに、今回の旅費は全部里桜持ちである。会長様ともなると、お金の使い方も湯水のよう。

 

「ご注文のお蕎麦をお持ち致しました」

『待ってました~♪』「美味しそ~♪」

『『いや、ファーストクラスで蕎麦食うなや』』

 

 注文していた十割蕎麦をズルズルと音を立てて食べる鳴女と富雄を見て、呵責童子と八尺様が苦言を呈した。そこはフレンチとかじゃあないのか。

 

「こちら、「蕎麦屋・儒烏風亭」より取り寄せた物になります」

「……そこの店主、ら○んって言わない?」

 

 古物商とか骨董店とかにして欲しいだけの人生だった。

 

 

 ――――――ヴィーッ! ヴィーッ!

 

 

 突如、機内全域に警報が鳴り響く。エコノミークラスの一般人は慌てふためき、CAが彼らを宥め、

 

『ズルッ、ズルルルッ!』

『『食ってる場合か!』』

『いや、だって勿体無いじゃん!』

「命が勿体無い!」

「お客様、もう少し焦って下さい!」

 

 鳴女は富雄の分まで蕎麦をカッ食らい、全員からブーイングを喰らった。何してんだ貴様は。

 

『『ドワォッ!?』』

「機体が……!」

『これがスカイダイビングって奴か』

「パラシュート無しのダイブはスポーツでは無く事故ですお客さ……まぁあああっ!?」

 

 しかも、何かにぶつかったかのような衝撃があったかと思うと、機体が一気に空中分解。乗員・乗客の全員が投げ出された。もちろん、パラシュートを付けている暇など無く、誰も彼もバッドエンドが確定している。

 

『お、重いポ……!』

『女子に重いとか言うな』

『そいつ落して良いよ、はっちゃん』

「止めて差し上げて!」

「何故私は生きているのでしょうかお客様」

 

 自力で飛行出来る八尺様と呵責童子、それにしがみ付く鳴女たちを除いて、だが。八尺様が鳴女とCAに纏わり付かれ、富雄を呵責童子が持ち上げている状態である。

 ……元より飛び回っていた実績のある八尺様は分かるけど、特にそんな過去の無い呵責童子が足からのジェット噴射で飛行している事に突っ込んではいけないのだろうか。おそらく体内の菌類を燃焼していると思われる為、気にしたら負けなのかもしれない。

 そんな彼らの前で、機体の残骸や唯の豚以下の一般人が市街地に落ちていく――――――、

 

『あれ? 何も落ちてないぞ?』

 

 かと思いきや、僅かな破片が降り注ぐだけで、人も機体も忽然と姿を消してしまった。

 

『……いや、食われたんだ』

 

 否、そうではない。呑み込まれてしまったのだ。空に浮かぶ、巨大な積乱雲に。ほんの少し前(・・・・・・)までは存在(・・・・・)していなかった(・・・・・・・)筈のそれは(・・・・・)避ける間も無く(・・・・・・・)突っ込んで(・・・・・)しまった機体を捕らえ(・・・・・・・・・・)中の人間諸共(・・・・・・)バリバリと(・・・・・)食べてしまった(・・・・・・・)のである(・・・・)

 

 

 ――――――ギィカァアアアォヴヴヴッ!

 

 

 そして、彼女たちには馴染み無いが、里桜たちからすれば聞き慣れた唸り声が、雷鳴に混じって積乱雲の中から轟く。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 その時、大阪府と京都府の境目近くの路地裏。

 

《そっちの調子はどう~?》

 

 バーチャフォンに着信が入り、雪岡(ゆきおか) 純子(じゅんこ)の姿が映る。

 

「どうもこうも無い。死体が転がってるだけだ」

 

 それに対して、バーチャフォンの持ち主――――――相沢(あいざわ) (しん)が淡々と答えた。

 今、彼の周囲には無数の死体が転がっている。どいつもこいつも不法滞在している外国人で、漏れなく全員が斬殺されていた。その割に血痕は殆ど見当たらず、血飛沫の類も無い。全ての傷口が“何か”で焼き切られているので、出血しなかったのだろう。

 なるほど、原理は分かった。

 しかし、これ程の人数を、一体どのような方法で膾切りにしたのか。真はその調査を、他ならぬ犠牲者たちの上層部――――――カルテルやシンジゲートに頼まれているのだ。

 もちろん、普段の真であれば顔見知りでも何でもない犯罪者の依頼など受け付けないのだが、純子に再依頼される形で調査している。

 とは言え、進捗は芳しくない。現行犯処か目撃者が皆無に等しいのだから。たぶん、居合わせた不幸な一般人は容赦なく口封じされているのであろう。事実、殺されたチンピラの近くに、どう見ても堅気な死体が転がっている事がしばしばある。監視カメラにも映っていない事を鑑みるに、電子戦も得意なのかもしれない。

 

《噂では、関西のやくざが動いてるって話もあるけどね》

「でも、実行犯はまた別なんだろ?」

《そうだね。一応所在は確認してるけど、「輪失会(わろすかい)」が行動を起こしている様子は無いんだよね。それ処か、凄い静か。里桜(りお)ちゃん所と揉めて以降、ビックリするくらい動きが無い》

「………………!」

 

 里桜、という言葉に思わず身震いする。真は里桜が大の苦手だ。それこそ、話題に上がっただけで身体が硬直するくらいに。

 

「と、とにかく、僕が調べた限りじゃ、標的が裏通りのマフィア共で、星はレーザーに近い武器を持つ、近代的かつ徹底的な連中だって事だ」

《真くん、本当に里桜ちゃんが苦手だよね。一体何をやったのさ》

「……言いたくないね。つーか、今何処だよ?」

《弾丸新幹線の中だよ。もう直ぐ大阪駅に着くかな~。そう言えば、MSJに累くんが居る筈だし、調査が終わったら一緒に遊んでも良いんじゃない?》

「う~ん……」

 

 純子の提案に、真が唸る。彼としてもやぶさかでは無いが、今回の旅行は累の人見知り改善の為でもあるので、安易に合流しては意味が無かろう。

 

《ちなみに、さっきばったり純子ちゃんと説子ちゃんと出会っちゃたから、皆で乱痴気騒ぎとか――――――》

「えい」

 

 だが、何故か里桜と説子までセットで付いて来ると聞いてしまえば、迷う理由など無い。真は問答無用でバーチャフォンの通信を切り、電源も落とした。これで捕捉されないぞ♪

 

「さてと。これ以上の進展は望めないし、そろそろ切り上げて……」

 

 すると、その時。

 

「きゃあっ!?」

「………………!」

 

 近くから、女の子の悲鳴が聞こえてきた。急いで駆け付けてみれば、黄金の鎧で全身を包み込んだ怪人が、三つ編み眼鏡の生真面目委員長風の女子高生へ、今にも襲い掛かろうとしている所だった。その手には、光る刃を持つ刀剣らしき得物が。今までの被害者たちの傷跡から察するに、あれが凶器なのだろう。

 つまり、目の前に居るこいつが、一連の事件に関連する重要参考人という事である。大方、目撃者を念入りに殺そうとした、まさにその瞬間という所か。慎重過ぎて追跡者に見付かるとは詰めが甘い。

 

「とりあえず、去ね」

《……相沢 真か。雪岡 純子の操り人形》

「殺人人形だ。その呼ばれ方も嫌だけど……なっ!」

《………………》

 

 早速、真が両者の間に銃弾で割り込み、二人を引き離す。完全な死角から狙撃された怪人は一瞬だけ驚くと、ほんのりと皮肉を込めた捨て台詞を残して、煙のように消えた。

 

「……嫌にあっさりと退いたな」

 

 それは喜ぶべき事なのだけれど、どうにも釈然としない。もしもこの怪人が、里桜たちの相手取る黒幕の女だとしたら、あくまで人間でしかない真に横槍を入れられたからと言って、逃げ出す道理は無い筈なのだが……。

 

「まぁ、考えても仕方ないか。それよりも――――――」

 

 今は殺され掛けた女子高生の方を気に掛けるべきだ。少なくとも見ず知らずの通り魔に襲われたのだから。

 

「あんた、大丈夫か? 怪我とかは?」

「あ、いえ……」

「一体何があって……いや、何を見ちまって、ああなったんだ?」

「えっと、ですね……」

 

 それから、助けた少女は語り出した。曰く“修学旅行中に慌てた様子のマフィアに襲われて、次いで現れた怪人に殺されそうになった”そうな。

 大方、マフィアたちが怪人に追われていて、道中偶々見掛けた彼女を人質に取ろうとしたのだろう。命の危機で自棄っぱちになってたのであろうが、目撃者までしっかりと始末するような奴を相手には効果が無かったようである。そりゃそうか。

 

「(夏に修学旅行か。……何処の学校だ?)」

 

 真も元は首都出身の中学生。東京の学校は大体知っているつもりだったが、意外と分らない物らしい。

 

「まぁ良いや。一先ず警察に行くか。迷子なのは変わりないしな」

「………………」

「おい、何が言いたい? 年下だと思って舐めてないか?」

「いえ、そんな事は……」

「悪いけど、若いのは見た目だけだよ。生きた年月は確実にあんたより上だ」

「合法ショタって事ですね?」

「……理解力があるようで何より」

 

 話を振っておいてなんだが、少女の発言に真はちょっと引いた。一般人の芋い女子高生から「合法ショタ」なんて台詞が聞けるとは。オタク文化も日進月歩という訳か。

 

「そう言えば、あんた名前は?」

「……東村(あずむら) 真子(まこ)です。よろしくお願いします」

 

 そう言って、女子高生――――――東村(あずむら) 真子(まこ)は頭を下げる。合法ショタにもお辞儀を出来る、礼儀正しい女の子である。

 

《おやおや真くん、浮気か~い?》

 

 と、狙い済ませたように純子から着信が。何で電源を落としているバーチャフォンに電話が掛かって来るんですかね?

 

「そう見えるか?」

《うん。鼻の下を伸ばしてたよ~?》

「嘘吐くな。あんまりそういう事ばかりすると、電源じゃなくて本体を叩き落すぞ」

《そう言わないでよ~。ボクと真くんの仲じゃ~ん?》

「なら、どうすべきか分かってるだろ?」

《分かったよ、もぉ~》

 

 真が凄むと、純子はやれやれと通話を切ろうとしたが、

 

「雪岡 純子さんですか! 実在したんですね!」

 

 真子が目をキラキラさせながら割り込んできた事で、そのタイミングは逸される。

 

《おやお~や、ボクの事、知ってるんだねぇ? こんな普通の女の子にまで知られてるとは、いやはや照れるなぁ~♪》

「ええ、凄く有名ですよ。“依頼者殺しの狂科学者”だって」

《……それ、ボクじゃなくて里桜ちゃんじゃないの~?》

「似たような物だろうに」

《真くんまで~!》

 

 酷い話……と言いたい所だけれど、否定するのも憚れる不思議。

 

「それにしても、何だってマフィアばっかり狙われるのかね? しかも、それを隠してまでさ」

 

 会話が繋がってしまったついでに、今日までの疑問を投げ掛ける真。

 

《仮に関西のやくざだとしたら、今はまだ準備段階なのか……もしくは、単純に戦力不足なのかも》

 

 さらに、隣に真子が居ると言うのに、バリバリに機密情報を漏らす純子。それで良いんか、君ら。

 

「……やくざって、まだ残ってたんですね」

 

 今度は真子が首を突っ込んできた。

 

「何だ、あんたやくざに知り合いでも居るのか?」

「昔世話になっただけです。こう見えて、捨て子なので……」

「ほーん」《意外だねぇ、そうは見えないけど》

「それだけ良くしてくれたって事ですよ」

「里親にでもなってくれたって事か?」

「ええ。学校にも通わせてくれましたし。高校からは奨学金で通ってますけど」

《ご立派だねぇ~》「………………」

 

 真と純子の疑問に、真子が微笑みながら答える。中学中退とそもそも真面な学徒ですらなかった魔女からすれば、耳が痛い話である。

 

「――――――やくざって、そんなにご立派な物なんかねぇ? だってそうだろ? ドラマや映画の中ならまだしも、現実のやくざなんて、マフィアと大差ない連中だ。今まで結構な数の組を潰してきたけど、どいつもこいつもクズみたいな奴ばっかりだったし。そもそもマフィアの縄張り争いに負けて“暴力装置”にすらなれなかった負け犬が、今更出しゃばられても困るんだっつーの」

「………………」《えぇ~……》

 

 しかし、真は壊滅的に空気を読むのが下手だった。そういうとこやぞ。

 

「真さん」

「何だ?」

「あなた、モテてるでしょ?」

「……まぁ、そこそこは」

「でしょうね。だからこそ、不幸になる。相手がね(・・・・)

「………………」

 

 だが、切れ味は真子の方が上であった。何せ真は過去に沢山の友人と実の母親を失ったのだ。それが原因で裏通りに堕ちてしまったのだから、耳が痛い話だろう。真は真子の言葉に、何も答えられなかった。極道に育てられた女は伊達ではないらしい。

 

《それはそれとして、これからどうするの~?》

 

 すると、嫌な雰囲気を払拭する為なのか、純子が話題を逸らした。

 

「そりゃあ、警察署へお届けだろう。餅は餅屋に、迷子はお巡りさんに、だ。腐っているとは言え、薬仏市警よりかはマシだからな」

 

 真が事も無げに答える。

 神無川県(かむがわけん)に暗黒街がある事からも分かる通り、薬仏市警(やくぶつしけい)は汚職の温床で、真面には機能していない。霧崎(きりさき) (けん)が手掛けた最強のサイボーグ刑事・芦屋(あしや) 黒斗(くろと)を含む幾人かが洗い出し、蠅声為邪神によって物理的に消毒されても、その体質は変わらなかった。こうなって来ると、土地や建造物自体が呪われているようにも思える。何でこんなに腐るんだ。

 

《まぁ、修学旅行中だしね~。ただ――――――》

 

 と、純子が何か言い掛けた、その時。

 

『うぅぅ……』

 

 眼前に見知らぬ誰かが現れた。それも正気……というか、生気を失っている、生ける屍が。嚙み傷こそ見当たらないが、目・鼻・口から血を垂れ流してるし、肌は死斑と土気に塗れている。あれで生きていると判断されるなら、医師会は今日から解散である。

 

「……何アレ?」

「ゾンビじゃないですか?」

「じゃあ、撃ち殺して良いよな。ゾンビに向ける慈悲なんて必要無いし」

 

 そう言って、真は何の躊躇いも無く弾丸を叩き込んだ。

 

 

 ――――――カァァァンッ!

 

 

 教会の鐘のように良い音色を出して弾かれた。あんなに腐り掛けの柔肌に見えるのに。

 

『アァ……ァ……ア、ナタ……ハ……』

「ん?」

『アナタハ神ヲ信ジマスカァアアア!?』

「いや、何でだよ!?」

 

 その上、信心深いとした。口振りからして、キリシタンだろうか?

 

「ウォラァッ!」

『カミバァッ!?』

 

 しかし、その毒牙が届く前に、誰かがゾンビを殴り飛ばした。ダイナマイトが炸裂したかのような、物凄い音を立てて。然して、その正体とは、

 

「バイパーか」

「よぉ、真。久し振りだなぁ」

 

 通りすがりのバイパーだった。

 

「いや~、人間とは思えない馬鹿力ですね!」「本当にね」

「アリスイ、ツツジ」

 

 しかも、見知った「イーコ」の二人――――――アリスイとツツジまで。

 

「何でお前らが一緒に居る?」

 

 彼らを見た真が、眼付きをより鋭くして訊ねる。当然の疑問……と言うよりかは、嫌な予感がしたからだ。壊し屋とお助け屋が一堂に介しているなんて、絶対にロクな事案では無かろう。

 

『ウゴゲゲゲ……ッ!』

「あ、まだ動いてらぁ」

 

 だが、理由を聞く前に、目の前の死に損ないを何とかした方が良さそうである。流石は弾丸でベルを鳴らすゾンビ、硬度が違う。それでも顔が罅割れ、今にも割れてしまいそうだ。

 

『――――――グギュグバァッ!』

 

 すると、死んでいる癖に生命の危機を感じたのか、ゾンビが姿を変えた。内側から肉が隆起するかの如く裏返り、根源的恐怖を想起させる海洋生物と成る。具体的に言うと、三葉虫(トリロバイト)に鎌脚と天使の輪(エンジェル・ハイロゥ)を組み合わせた、奇怪な生物である。

 

 

◆『分類及び種族名称:雨天使=マトリエル』

◆『弱点:腹』

 

 

「理由は“天使(コイツ)”だよ!」

 

 しかし、バイパーは臆する事無く立ち向かう。アスファルトの大地を蹴り砕き、神速の拳を繰り出した。

 

『グギュバァヴォッ!』

 

 対するマトリエルは身体をボール状に丸め、鎌脚を器用に使って高速回転しつつ、車輪が如く襲い来る。またしても爆音が鳴り響き、両者は交差した。

 

『ギャガァアアアッ!』

 

 と、マトリエルが振り向き様に触角を振るい、フルアンチモン酸とよく似た組織の体液を、雨のように降らせる。浴びたが最後、骨も残さず溶かし去る超酸性の液体だ。

 

「「させません!」」

「ナイスアシスト!」

 

 だが、アリスイとツツジのゲートにより別の場所に転送され、代わりにバイパーがマトリエルの目前に召喚された。反撃直後に不意を突かれたマトリエルはロクな反応が出来ず、鎌は普通に空振り、無防備な腹に拳を叩き込まれる。その一撃で胸郭部の(コア)を破壊され、マトリエルの身体は光を失った。

 

「……流石に体液全部が超酸って訳では無いようだなぁ!」

「いや、訳が分からないんだが?」

 

 訳知り顔のバイパーに、訳の分からない真が文句を言う。

 

「こいつらは「天使」だ。最近、デルタ・コーポレーションのお偉いさんと関わる機会があったんだが、そいつの依頼で狩るように言われていてね」

「天使は人を含む知的生命体に寄生して自分たちを上書きする厄介な連中でしてね!」

「侵略的外来生物の駆除って訳よ。放っておいたら、あっと言う間にパンデミックが始まってしまうからな」

 

 この日ノ本に天使の陰が見え隠れしているのは、前々から分かっていた。だから壊し屋が掃除を依頼されていたとしても、驚くべくもない。

 しかし、感染と潜伏に増殖という、病原体その物としか言い様の無い生態を持つ彼らが、こうも露骨に姿を現すとは。それはつまり、そうせざる(・・・・・)を得ない(・・・・)何か致命的な(・・・・・・)きっかけが(・・・・・)起きたという事(・・・・・・・)あるいは(・・・・)これから(・・・・)起こるのか(・・・・・)

 

『ギケケケッ!』

『ギャーオッ!』

『ビシャーン!』

 

 だが、現実は何処までも考える時間を置き去りに進む。柱の陰から、街角から、ビルのオフィスから。多種多様なカンブリアモンスター(天使たち)が正体を表す。まさか、ここまで浸食が進んでいようとは。

 

「……ったく、本当にキリがねぇな。ワクチンは(・・・・・)まだかよ(・・・・)

 

 そんな天使たちに辟易したバイパーが吐き捨てた、その時。

 

「ひょえぇえええ~!」

 

 今度は都市型妖怪の「孕琶太郎」が現れた。琵琶のような体形をしたキモデブ系の怪異であり、音波で女を狂わせ自分の子供を孕ませ繁殖する女の敵でもある。

 

 

◆『分類及び種族名称:音狂怪人=孕琶太郎(はらわたろう)

◆『弱点:琵琶』

 

 

 しかし、恰好の獲物がすぐ目の前に居るというのに、孕琶太郎は襲う処か、無様に慌てふためくばかり。一体何に怯えているのだろう。

 

『シャアアアッ!』

「ぎゃあああっ!?」

 

 すると、答えは向こうからやって来た。地方型妖怪の「鎌鼬」が、孕琶太郎を八つ裂きにしてしまったのである。

 

 

◆『分類及び種族名称:斬裂超獣=鎌鼬』

◆『弱点:頭』

 

 

『ギィグァヴヴヴッ!』

『グギャアアアアッ!?』

 

 そして、血肉を貪る鎌鼬を、突如アスファルトを噛み砕いて飛び出した「大百足」がバラバラにした。

 

 

◆『分類及び種族名称:蟲毒大怪獣=大百足』

◆『弱点:口』

 

 

 人間<怪獣<超獣<大怪獣。人知れず営まれる妖怪たちの弱肉強食が、何故か首都のど真ん中で巻き起こっているのだ。異常事態が過ぎる。

 

 

 ――――――ゥゥヴヴヴヴゥゥヴヴヴッ!

 

 

 さらに、けたたましい警報が鳴り響き、よりいっそう妖怪たちが現れ、天使をも巻き添えに暴れ出し、いよいよ以て収集が着かなくなる。文字通りの百鬼夜行である。昼だけど。

 本当に、一体何だというのだ。

 

「おいおい、まるで意味が分からんぞ!?」

《それはニュースを見た方が早いんじゃない?》

 

 すると、急展開過ぎて存在感を失くしていた純子が、ここぞとばかりにネットニュースを見せてきた。そこに移されているのは、雲を突くような巨大な妖怪たち――――――八岐大蛇と両面宿儺が、東西から都心目掛けて進軍している様子。

 

「……なるほど。全員こいつらにビビッて逃げ惑ってんのか」

 

 否、全員というのは正しくない。おそらくは両面宿儺と八岐大蛇の眷属と思われる、大百足や土蜘蛛、餓者髑髏などは好き勝手に暴れ回っている。混沌としているように見えて、実はきちんと陣営が分けられているのである。

 

「これも、奴の仕業なのか?」

 

 先程真が取り逃がした、あの女。きっと全部あいつが悪い。全部ドン・サウ○ンドって奴が悪いんだ!

 

「言ってる場合ですか!?」

『ギィグァヴヴヴゥッ!』

「……チッ!」

 

 真子の言葉にハッとして、真は大百足の毒液を躱す。真子の言う通り、そんな事をしている場合じゃなかった。誰が何を企んでいようとも、目の前の百鬼夜行は紛れも無い現実だ。ボーっとしていたら、あっと言う間に磨り潰されてしまう。暴徒の織り成す荒波の渦中では、一個人の命などあまりにも軽い。

 

「何だか分らんが食らえっ!」

『………………?』

「駄目でした~」

 

 そして、この場における人間という立ち位置を、真はあっさりと分らされた。愛銃の「じゃじゃ馬ならし」の放つ弾丸が、まるで下らない悪戯であるかのように、大百足の甲殻に弾き飛ばされてしまったのである。抵抗は無意味……というか、抵抗にすらなっていないと体現されたのだ。蟲妖怪というのは、どうしてどいつもこいつも馬鹿みたいに硬いのか。

 

『ガヴォオオオォッ!』

「くっ!?」「きゃあ!」

 

 相手を取るに足らない虫けらと判断した大百足が、真と真子(えさ)へ食らい付く。

 

「真! ……ドワォッ!?」

「いっぱい来たぁ!?」「わきゃーっ!?」

『キィキィッ!』『ギシャアアヴヴヴ!』『アヴォオオン!』

 

 バイパーたちも雪崩れ込んで来た妖怪や天使に阻まれ、間に合いそうもない。魑魅魍魎犇めく百鬼夜行において、人間とはかくも無力な事か。

 と、その時。

 

 

 ――――――キィイイイイイインッ!

 

 

 何処からともなく飛んで来た微小化粒子破壊光線が、大百足の胴体を穿ち、粉砕した。

 

 

 ――――――ゴヴォオオオオオオッ!

 ――――――ザァアアアアアアアッ!

 

 

 さらに、放射熱線と極光線が、バイパーたちをシェイクせんとする妖怪たちを薙ぎ払う。

 

「……よぉ、真。久し振りじゃねぇか。中々顔を見せないから、お姉さん寂しかったぜぇ?」

 

 そして、真と真子の前に降臨する、白衣の悪魔。暇を持て余した邪神――――――香理(かり) 里桜(りお)の登場である。

 

「お前がバイパーか」

『ビバルンル~ン♪』

 

 さらに、バイパーたちの前にも、天道(てんどう) 説子(せつこ)とビバルディが現れる。何時もの屋上トリオだ。

 

「あ……」

 

 そんな彼女らの……正確には里桜の姿を見てしまった真は、

 

「………………っ!」

「いや、何で卒倒!?」

 

 ビシっと気を付けした上で、ビターンと仰向けに卒倒した。キング○ョーかお前は。真子も驚かずにはいられないが、真にも理由がある。彼は里桜が死ぬ程苦手なのだ。気絶する程の事かぁ?

 

「いやいや~、本当に里桜ちゃんが苦手だねぇ、真くん」

「えいえい」

「こらこら、真くんをその辺の棒で突かないの」

「オブリビ○イト」

「忘却呪文も駄目だってば」

 

 と、いよいよ以て純子も登場。早速真を弄る里桜を嗜める。

 

「おいおい、何を友情ごっこで楽しんでやがる。周りを見やがれってんだ」

 

 石化魔法を食らったかのような真の脇でイチャつくマッド二人を見遣って、バイパーが吐き捨てた。里桜たちが薙ぎ払ったとは言え、周りはまだまだ化け物だらけだ。その上、東からは両面宿儺、直ぐ傍に八岐大蛇が迫っている。この絶望的状況下で、一体何人生き残れるか……。

 

「煩いんだよ、黒○坊が。周りが見えていないのは、お前の方だよ」

 

 だが、里桜は歯牙にも掛けず、バリバリの差別用語でバイパーを見下す。まるで、ゴミ虫を目の当たりにしたかのように不快な表情を浮かべている。完全に人間として扱っていない。

 

「……それはお前も同じやろ」

 

 すると、そんな里桜と、彼女に向かい合う純子の首元に、赤い光の刃が宛がわれた。柄の両端から刀身が伸びるそれは、例の黒幕が使っていた得物と酷似していた。間近で見たからこそよく分かる。これは盗まれたステリウム光石を燃料として、超合金「Y」を高熱で変形し刃状に再構成した熱光学兵器――――――「極光剣(ラスター・ソード)」とでも言うべき代物である。

 そして、その発展形たる双極光剣(ダブル・ラスター・ソード)を構えるのは、

 

「二人揃ってノコノコ出て来るなんて、頭のええ奴は阿保やなぁ?」

 

 何故か関西弁で話す(・・・・・・・・・)真子であった(・・・・・・)。彼女は関東ではなく関西の出身だったのだ。何処から来たのかは、今までの事件と照らし合わせて紐解けば分かる事。言うまでもなく、大阪のやくざ……「輪失会(わろすかい)」の鉄砲玉である。

 

「下らんその場凌ぎの嘘を吐いて真に近付いた癖に、よく言うぜ」

「今日修学旅行をしている学校は、全国の何処にも無いからね~」

 

 しかし、里桜も純子も慌てない。何故なら知るタイミングは違えど、真子が大阪やくざ界隈からの刺客である事は分かっていたのだから。大方、例の黒幕にでも唆され、大妖怪の出現による大混乱に乗じて、里桜と純子の首を取りにでも来たのだろう。利用しているつもりで自身が走狗に成り果てるとは、哀れな連中だ。

 

「……あたしらが小間使いやと思っとる顔やな? ええなぁ、お偉いさんは。“悩む”なんて贅沢な選択肢が取れて」

 

 と、里桜たちの心中を表情から読み取ったのか、真子が忌々し気に吐き捨てる。

 

「あたしらには、そないな余裕、何処にも無いねん。せやから、これは“背水の陣”って奴や。取るか取られるか、それだけの事。分かり易いやろ?」

「せやな。これが「輪失会」、一世一代の大博打や」

「大阪の裏通りは既に制圧した。後は東京の暗黒街な訳やが……テメェらには色々恨みつらみがあるからなぁ? 裏通りだけとは言わず、関東その物を滅ぼしたるわ。花火は盛大に上げんとなぁっ!」

 

 さらに、彼女の憤りに呼応するかの如く、新会長(元若頭)を筆頭とした「輪失会」の面々が現れた。どいつもこいつも極光剣で武装し、全身をスーツ風味のアーマーで包み込んでいる。背部にバックパックが付いている事を鑑みるに、空中戦も可能なようである。とんだ近未来やくざだ。

 しかも、その数驚きの二千四十人。上層部から末端まで、「輪失会」の全組合員が大集合である。まさに背水の陣で臨む、一世一代の大博打なのであろう。それ程までに、やくざという人種は絶滅し掛けているのだ。

 

「おうおう、ゴキブリみてぇにゾロゾロと湧いて出て来やがったな、社会のゴミ共が」

「大阪の方が多いとは言え、よくもまぁこんなに残ってたねぇ~」

「貴様ら……!」

 

 だが、それでも里桜と純子は慌てない。増々虫を見るかのような目付きが強くなる。その態度が、真子の剣を握る手に力を込めさせた。

 しかし、調子に乗れるのはここまで。

 

「ならば、お前らに生きる資格すら無い事を、身を以て味わわせてやろう』

「えいやっ!」

「………………!」

 

 里桜が変身しつつ光刃に噛み付き、純子は素手で刀身を原子分解する。こいつら人間じゃねぇ。

 

『ガァァヴィィアアアアアッ!』

「くぅっ!?」

 

 そして、驚き怯んだ隙を突き、里桜が獣の如く極光剣ごと真子を放り投げた。

 

 

 ――――――ザァアアアアアッ!

 ――――――ドゴォッ! バゴォッ! グバヴォッ!

 

 

 さらに、ビバルディが極光線、説子が獄炎弾で追撃する。

 

「舐めるなぁっ!」

 

 だが、真子は身を翻して極光線を回避し、獄炎弾は一極集中して出力を上げた極光剣で弾き飛ばして、「輪失会」の陣頭に降り立つ。

 

「我ら、関東「輪失会」っ! 全軍、前進っ!」

「いてこましたれぇっ!」「真子に続けぇッ!」

 

 そして、真子を篝火に、輪失会の面々は赤い火垂る(ホタル)となって地を走った。

 

『しもしも~? アイス、「Avatar(アバター)」シリーズ、投入お願~い♪』

《人使いが荒いのだ。……申請受理。》

『グルゥッ!』『ギカカカッ!』『キィキィキキッ!』『ジュルァッ!』『ガヴォルァアッ!』『コギィィヴヴッ!』『ギシャヴォッ!』『クァヴォッ!』『クァカァキギィヴヴッ!』『バァヴォオオッ!』『クゥルァァオッ!』『キリリリリッ!』『フォオオン!』

 

 

◆『Type 001:Avatar(アバター) the() Hydrogen(ハイドロゲン)

 

◆『Type 017:Avatar(アバター) the() Chlorine(クロリン)

 

◆『Type 022:Avatar(アバター) the() Titanium(チタン)

 

◆『Type 023:Avatar(アバター) the() Vanadium(バナジウム)

 

◆『Type 029:Avatar(アバター) the() Copper(コッパー)

 

◆『Type 032:Avatar(アバター) the() Germanium(ゲルマニウム)

 

◆『Type 037:Avatar(アバター) the() Rubidium(ルビジウム)

 

◆『Type 040:Avatar(アバター) the() Zirconium(ジルコニウム)

 

◆『Type 043:Avatar(アバター) the() Technetium(テクネチウム)

 

◆『Type 044:Avatar(アバター) the() Ruthenium(ルテニウム)

 

◆『Type 050:Avatar(アバター) the() Tin(ティン)

 

◆『Type 054:Avatar(アバター) the() Xenon(キセノン)

 

◆『Type 056:Avatar(アバター) the() Barium(バリウム)

 

 

 里桜の号令で「Avatar(アバター)」がデルタ・コーポレーション大阪支部ビルから召喚され、輪失会を迎え撃つ。無数の生物兵器(モンスター)に囲まれながら敵を見下す様は、誰がどう見ても魔王である。

 

「負けられへん……あたしらに次は無いんやぁっ!」

 

 こうして、日本全土を巻き込む「やくざVS悪魔王」の戦いが始まった。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 

 

   駄目だ

 

      楽しい

 

         嫌だ

 

           素敵ね

 

              苦しい

 

                 どうして

 

              死ねよ

 

           愛してる

 

         殺す

 

      生きて

 

   苦しめ

 

      希望を

 

         殺してやる

 

          どうしたの?

 

              死ね

 

                何が嫌なの?

 

              死ね

 

          どうして?

 

         死ね

 

      何で?

 

    死ね

 

      答えて

 

         死ね

 

           答えてよ

 

              死ね

 

                答えろよ

 

              死ね

 

           死ね

 

         死ね

 

      死ね

 

    死ね

 

      死ね

 

         死ね

 

           死ね

 

              死ね

 

                死ね

                死ね

                死ね

                死ね

                死ね

                死ね

                死ね

                死ね

                死ね

                死ね

                死ね

                死ね

                死ね

                死ね

                死ね

                死ね

                死ね

                死ね

                死ね

                死ね

                死ね

 

 

           イヒヒヒヒヒ

 

 

        きゃはははは

 

 

 

 ヒャッホッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 ――――――そして、東京に死が華開く。




◆両面宿儺

 「日本書紀」に登場する、伝説の鬼神。二つの顔と四本の腕を持つ巨人として描かれており、様々な武器を用いて飛騨地方を荒らしまわったとされるが、肝心の飛騨地方では英雄として描かれており、矛盾が生じている。これは地方有力者を神格化したのが両面宿儺で、それを面白く思わない大和朝廷が侵略した上に、都合良く歴史を改竄された結果と言える。
 その正体は、餓者髑髏と土蜘蛛が合体した戦闘形態。どちらも伝承上では朝廷の敵を妖怪化した存在なので、弱者が協力して理不尽な強者に対抗する、分かり易い共闘関係と言える。
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