ハリー・ポッターと呪われた一族の少女   作:しきり

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Lead of star

 ハリーとルイスはフィレンツェの背に跨って森の中を疾走していた。

 フィレンツェは、ふたりの目の前で仲間のケンタウルスと言い争いをした。ルイスは、何故だか酷い罪悪感を覚えていた。自分たちのせいでフィレンツェが仲間のケンタウルスと喧嘩をしてしまったのだと思うと、ルイスはとても不安な気持ちになった。

「どうしてベインはあんなに怒っていたの? 君はいったい何から僕たちを救ってくれたの?」

 ハリーはフィレンツェに向かってそう問いかけた。すると、フィレンツェは走るスピードを落とす。低い枝にぶつからないように頭を低くして進んだが、フィレンツェはハリーの質問には答えなかった。

 三人はしばらくの間、何も話さなかった。長いこと沈黙が続いたので、もう話すことは何もないのだろうと思っていた。それとも、フィレンツェは先ほどまでの言い争いのことを考えているかもしれない。

 ところが一際木の生い茂った場所を通る途中で、フィレンツェは突然立ち止まった。

「ハリー・ポッター、ユニコーンの血が何に使われるか、知っていますか?」

「ううん」ハリーは突然の質問に驚いたようだ。「角とか尾の毛とかを魔法薬の時間に使ったきりだよ」

「ユニコーンを殺すことは、非道極まりないことなのです。これ以上失うものは何もない、しかも殺すことで自分の命の利益になる者だけが、そのような罪を犯します」

「……ユニコーンの血はね、ハリー。例えその人物が死の淵にいる時だって、命を長らえさせてくれるものなの」フィレンツェとハリーは肩越しにルイスを振り返った。「でも、そのためには、恐ろしい代償を支払わなければならない。自らの命を救うために、純粋で無垢で、無防備な生物を殺害するのだから、得られる命は完全な命ではない。その血が唇に触れた瞬間から、その人物は呪われた命を生きる。生きながらの死の命となるの」

 ジュリアードの耳飾りが、月の光を浴びて青白く輝いた。赤い石ですら、青く見えた。

「いったい誰がそんなに必死に? 永遠に呪われるんだったら、死んだほうがましだと思うけど。違う?」

「その通りです。しかし、他の何かを飲むまでの間だけ生きながらえれば良いのだとすれば――完全な力と強さを取り戻してくれる何か――決して死ぬことがなくなる何か――今、この瞬間に学校に何が隠されているか、知っていますか?」

「賢者の石」

 ハリーとルイスの声が重なり、フィレンツェの背の上で互いに顔を見合わせた。

「そうか――命の水だ! だけど一体誰が……?」

「力を取り戻すために長い間待っていたのが誰か、思い浮かばないのですか? 命にしがみ付いて、チャンスを伺ってきたのは一体誰なのか」

 そんなもの、この世にひとりしかいない。そうルイスは思った。背筋が凍るように冷たくなる。

 あのヴォルデモート卿が今、この禁じられた森にいるのだ。そして、先ほどユニコーンの血を貪るようにしていたマントの人物こそが、ヴォルデモート卿その人だったのではないか。

「それじゃ……」

 ハリーの声はしわがれていた。おそらく、ハリーもルイスも同じことを考えている。

「僕が今見たのはヴォル――」

「ハリー、ルイス! ふたりとも大丈夫なの?」

 ハーマイオニーが道の向こうから大急ぎで駆けてきた。ハグリッドとネビルもその後ろから走ってくる。ふたりとも肩を激しく上下させていた。

「僕は大丈夫だよ」

 ハリーは視線が定まっていない様子だった。たった今ヴォルデモートに出会ったという事実を突き付けられて、どうしていいのか分からなくなっているのかもしれない。

「ハグリッド、向こうでユニコーンが死んでいた。森の奥の、開けたところ」

「ここで別れましょう、あなたがたはもう安全です」

 ハグリッドがユニコーンの亡骸を確かめに急いで戻っていくのを見ながら、フィレンツェが言った。ハリーとルイスは、フィレンツェの背中からするりと滑るように降りた。

「あの、どうもありがとう、フィレンツェ」

 ルイスは遠慮がちにフィレンツェに握手を求めた。フィレンツェは最初、驚いたように青い目を見開いたが、すぐに手を握り返してくれた。

「あなたはこの耳飾りを見たことがあるの?」

「私はあなたの父親を知っています。彼がそれと同じ物を身につけていました。世界にふたつとないものです」

「あたしの父と話したことが?」

「ルイス・ジュリアード、決してその耳飾りを外してはなりません。それを身につけているかぎり、あなたは護られています」

 フィレンツェはそう言ったかと思うと、すぐにルイスから目を逸らしてしまった。

「あなたがたの幸運を祈ります。ケンタウルスでさえ、星読みを間違えることはあります。今回もそうなりますように」

 ところがフィレンツェは森の奥へ去ってしまう前に、もう一度だけルイスの方へ蹄を鳴らしてやってきた。きょとんとして見上げると、フィレンツェはルイスにしか聞こえないような小声で囁くように言った。

「惑星はあなたに、ハリー・ポッターと共にあれと教えています」

「え?」

「私とあなたが出会うことは、ずっと前から予言されていました。そう、私とあなたの父親が出会った時と同じように」

「――どういうこと?」

 ルイスは眉を寄せたが、フィレンツェは今度も明確な答えを与えてはくれなかった。ただ最後に、今日はいっそう火星が明るい、と囁いて走り去ってしまった。

 森の探索を終えてハグリッドと別れ、四人が談話室に戻ると、ロンはみんなの帰りを待っているうちに、暖炉前の肘掛け椅子で眠ってしまっていたようだった。ネビルはそのまま部屋に戻ってしまったが、ハリー、ルイス、ハーマイオニーはその場に残って、ロンを揺り起こした。

 ロンはしばらく寝呆けていたが、三人がたった今起こったことを話して聞かせてやると、その目はすっかり覚めてしまったらしい。ハリーは話の間中ずっと座らずに、暖炉の周りを行ったり来たりしていた。堅く握ったこぶしが、小刻みに震えているように見える。

「スネイプは、ヴォルデモートのためにあの石が欲しかったんだ。ヴォルデモートは森の中で待っているんだよ。僕たち、今までずっと、スネイプはお金のためにあの石が欲しいんだと思ってた」

「お願いだからその名前を言うのはやめてくれ!」

 ロンはヴォルデモート卿の名前に真剣に怯えていた。そのヴォルデモート卿がすぐ近くにいるかもしれないことを知って、今話していることが本人に聞かれているのではないかと、そう恐れているように見える。

「フィレンツェは僕たちを助けてくれた。だけど、それはいけないことだったんだ。ベインが物凄く怒っていた。惑星が起こるべきことを予言しているのに、それに干渉するなって言っていた。惑星はヴォルデモートが戻ってくると予言しているんだ。ヴォルデモートが僕を殺すなら、それをフィレンツェが止めるのはいけないって、ベインはそう言っていたんだと思う。僕が殺されることを、きっと星が予言していたんだ」

「頼むから、その名前を言わないで!」

 ロンはヴォルデモート卿の名前が出るたびに、身体を大袈裟なくらい仰け反らせた。

「それじゃ、僕はスネイプが石を盗むのをただ待っていればいいんだ」

 ハリーはロンを無視し続けた。無視しているというより、誰の声も耳に入らないと言った方が正しいのかもしれない。

「そうしたら、ヴォルデモートがやってきて僕の息の根を止める。それでベインは満足なんだから」

 ロンと同じようにハーマイオニーも怯えきっていたが、それでも必死にハリーを慰めようとしていた。

「ハリー、ダンブルドアはあの人が唯一恐れている人よ。ダンブルドアが傍にいるかぎり、あの人はあなたに指一本触れることはできないわ。それに、ケンタウルスが正しいなんて誰が言ったの? 私には占いみたいなものに思えるわ」

 四人は話をしているうちに空が明るみはじめたことに気付き、少しの間でもベッドに入って睡眠を取るべきだということになった。しかし、ルイスはベッドに潜っても中々眠ることができなかった。

 ヴォルデモートが甦るのだと、そう考えると、ルイスは父親を思い出す。とはいっても、思い出せることなど何もない。家には父の肖像画や写真の類は一切ないのだ。もしかしたらどこかにはあるのかもしれないが、ルイスは自分の父親の顔も、母親の顔も知らない。ただ、両親が確かに存在したという事実を、思い出していた。

 ルイスはベッドの上で落ち着きなく寝返りを打った。すると、ローブの中で紙が擦れるような音が聞こえてくる。それを取り出すと、今朝ラウルから届いた手紙を読まずに、ポケットに入れていたのだということを思い出した。

 こんなに気分は打ちのめされているのに、この上小言がたくさんつまっているかもしれない手紙を読まなければならないというのか。だが、沈んだ気持ちがこれ以上沈むことはないだろう。

 ルイスは頭まですっぽりと布団を被り、外に光が漏れないようにしてから、杖明かりを灯した。手紙は、全部で二枚入っていた。

 

 

 ルイスへ

 

 君が正直に伝えてくれて、僕はとても嬉しいよ。だけど、ドラゴンのことも、夜中ベッドを抜け出したことも聞き捨てならないな。特にドラゴンは、先生に見つかっていたらただでは済まなかったよ。 でも、この手紙を受け取った頃にはもう処罰も終えていると思う。

 それに懲りたら、もう悪さはしないように。分かったね?

 

 ラウルより

 

 

 ラウルからの手紙は、思いの外簡潔だった。余計なものがすべて排除された、そう、書き手の感情が一切伝わってこないような文面だった。

 そして、もう一枚の手紙は、リーマスからだ。

 

 

 ルイスへ

 

 ラウルの手紙に何が書いてあったかは分からないけれど、私は私の思った事実を忠実に書かせてもらうよ。

 ラウルがどんなに厳しいことを書いていたとしても、それは多分、半分は建前だ。ルイスからの手紙を読んで大笑いしていたからね。ドラゴンの生まれる瞬間は、そう見られるものじゃない。ラウルも君が貴重な体験をしたと思っているだろう。

 もう処罰は終えたのかな? 確かに、真夜中にもなってベッドを抜け出すのはいいことだとは言えない。先に先生や私たちに相談するべきだったということは、今の君自身が最も理解していることだろう。済んでしまったことをとやかく言うつもりはないけど、次に同じようなことが起こったら――君たちだけの手には負えないような何かが起こったら、必ず誰か大人に相談すると約束してくれ。決して、君たちだけで無茶をしてはいけない。これは、ラウルが口うるさく言っていたから分かるだろう?

 また手紙を待っているよ。私たちも昔は学校の規則を少しは破ったものだ。でもきっと、ハグリッドはドラゴンを失ってひどく落ち込んでいるのだろうね。

 

 リーマスより

 

 

 それは、ラウルの手紙とは対照的な内容だった。ラウルが頑張って隠そうとしていることを、リーマスがすべて書き記してしまっている。

 その手紙を読んで、ルイスは少しだけ笑うことができた。けれど、手紙を何度か読み返しているうちに、また処罰の時に森の中で起こったことを思い出してしまう。今になって、自分の身体が微かに震えていることを自覚していた。

 皆が恐れる試験期間になると、ルイスたちはしばらくヴォルデモート卿のことを考えずに済んだ。ハリー、ルイス、ハーマイオニーは一心不乱になって試験に没頭した。ロンは試験の時間ぎりぎりまで教科書を確かめ、一心不乱というよりは、どうにか遣り遂げられますようと必死になっているように見えた。

 筆記試験は大教室で行われた。教室は蒸すように暑く、ルイスはとてもぐったりとした状態のまま試験を受けた。魔法がかけられたカンニング防止用の羽ペンを使っているせいか、そうでなくても教室の前ではマクゴナガル先生が鋭い眼差しで生徒たちを見回しているので、カンニングをしようとする生徒は誰もいなかった。

 実技試験では、フリットウィック先生が生徒をひとりずつ教室に呼び入れて、パイナップルを机の端から端までタップダンスをさせられるかどうかを試験した。

 マクゴナガル先生の試験は、ねずみを嗅ぎたばこ入れに変えることだった。

 セブルスは忘れ薬を全員に作らせた。生徒たちが必死になって材料と作り方を思い出していると、生徒のすぐ後ろを歩きながらじろじろと監視をしたので、みんなは酷く緊張をしていつも通り薬を煎じるというわけにはいかなかった。

 いつだったか、ネビルが試験勉強をしていたルイスの所へきて、ハリーが毎晩夢にうなされているということを教えてくれたことがあった。ネビルは、ハリーが極度の試験恐怖症だと信じて疑わない様子だったが、ルイスにはそうは思えなかった。

 ルイスが時おりハリーの方を見ると、額を押さえていることがよくあった。ハリーはヴォルデモート卿の悪夢にうなされているのかもしれないと、そう思った。

 最後の魔法史の試験が終わっても、ルイスは何故か開放的な気分になることはできなかった。ハーマイオニーは試験を終えるとすぐに答え合わせをしたがったので、ルイスはハリーとロンがうんざりとした顔をする横で、ハーマイオニーの回答を聞いていた。

 勉強ばかりしていてカビが生えそうになった身体に風を当てようと、四人は校内から飛び出して気分転換をすることにした。ぶらぶらと歩きながらちょうどいい日陰を捜し出し、そこに並んで寝転ぶ。双子のウィーズリー兄弟とリーが、浅瀬で日向ぼっこをしている大イカの足を擽っているのが見えていた。

「おい、ハリー、もっと嬉しそうな顔をしろよ。試験の結果が出るまで、まだ一週間もあるんだ。今からあれこれ考えたってしょうがないだろ?」

 ロンが努めて明るく振舞う隣で、ハリーはご機嫌が斜めだった。

 ルイスはハリーとハーマイオニーに挟まれるようにして寝転がっていたので、仰向けだった身体をハリーの方へと向けた。

「これがどういうことなのか分かればいいのに! ずっと傷が疼くんだよ。今までも時々こういうことはあったけど、こんなに続くのは初めてだ」

 ハリーは額にある稲妻型の傷の辺りをごりごりと擦りながら喚き散らした。

「マダム・ポンフリーの所へ行った方がいいわ」

 ハーマイオニーはその場に起き上がり、ハリーを心配そうに見た。けれど、それが逆にハリーの機嫌を悪くさせてしまったようだ。

「僕は病気じゃない。これはきっと警告なんだ。何か危険が迫っている証拠なんだ」

 ハリーは相当切羽詰まっている状態だった。それなのに、ロンはあまりの暑さにうだって、真面目に取り合おうとしない。

「ハリー、リラックスしろよ。ハーマイオニーの言うとおり、ダンブルドアがいるかぎり石は無事だよ。スネイプがフラッフィーを出し抜く方法を見つけたっていう証拠はないし」

「だけど、僕、何か大変なことを忘れているような気がするんだ。とても重要な何かだよ、それなのに、それが思い出せないんだ」

 ハリーは頻りに首を捻っていたが、ハーマイオニーがそれは試験疲れのせいだろうと言い張った。

 ハリーの言う大変なこととは何だろうと、ルイスも考えようとしてみた。しかし、そうして考えていくうちに、未だにセブルスが疑われているということが気になりはじめて、ハリーの言う大変な何かを考えてはいられなくなってしまった。

「ねえ、みんな。ちょっと聞いて――」

 セブルスのことを切り出そうとしたときハリーが突然立ち上がったので、ルイスはびっくりして続きの言葉を飲み込んでしまった。

「どこに行くんだ?」

 木陰で気持ちの良い風に吹かれてロンはとても眠たけだった。しかし、ハリーの顔は真っ青だった。その顔にただならぬ何かを感じ取ったルイスは、咄嗟に起き上がった。

「今気付いたことがあるんだ。すぐハグリッドに会いに行かないと」

 走りだしたハリーの背中を、ルイスも走って追い掛けた。その後ろを、ロンとハーマイオニーもついてくる。

「どうしてハグリッドなの?」

 ハーマイオニーが息を切らしながら聞くと、ハリーは振り返りもせずに答えた。

「だって、おかしいだろう? ハグリッドはドラゴンが欲しくてたまらなかった。でも、いきなり見ず知らずの人間が、たまたまドラゴンの卵をポケットに入れて現れるかい?」

 その言葉を聞いて、ルイスもはっとした。ハリーが忘れていた大変な何かが、分かったような気がした。

「そう、おかしいよね。法律で禁止されているのに、ドラゴンの卵を持ち歩いているなんて。ハグリッドにたまたま出会って、ハグリッドの手にたまたまドラゴンの卵が渡ったなんて、話ができすぎているもの」

ハリーとルイスは顔を見合わせると頷き合い、一目散にハグリッドの小屋へと全力疾走した。誰かが何かを言ったかもしれないが、ルイスの耳には風を切る音しか聞こえなかった。

 ハグリッドは家の外にいた。大きな肘掛椅子に腰を下ろし、うだるような暑さの中で豆のさやを剥いている。

「よう。試験は終わったんだろう?お茶でも飲んでくか?」

 ハグリッドは四人を見てにこりと笑った。どうやら今日は機嫌が良いらしい。ノーバートを手放した悲しみからも立ち直りつつあるようだ。

「うん、ありがとう」

 ルイスはロンがそう言いかけるのを、口に手で蓋をして遮った。ハリーは誰かが何かを言う前に、誰よりも早く口を開いた。ルイスは、ロンに口を挟まれないように手で口に蓋をし続けていた。

「ううん、僕たち急いでいるんだ。ハグリッド、聞きたいことがあるんだよ。ノーバートを賭けで手に入れた夜のことを覚えている? トランプをした相手って、どんな人だった?」

「そんなもんわからんよ。マントを着たままだったしな」

 ハグリッドは事も無げに答えた。ルイスは、マントを着たままの怪しげな人物から賭けで勝ったからといって、ドラゴンの卵を受け取るハグリッドが信じられなかった。

「そんなに珍しいこっちゃない。ホッグズ・ヘッドなんてとこにゃ――ホグズミード村のパブだがな、おかしなやつが代わる代わるやってくる。顔も見んかったよ。フードをすっぽり被ったままだったし」

 ハリーは力が抜けたように、その場にへたりこんでしまった。

「ハグリッド、その人とどんな話をしたの? まさか、ホグワーツのことを何か話したりした?」

「話したかもしれん」

 今度はルイスの身体から力という力が抜け切る番だった。ロンの口に蓋をしていた手も、ぶらりと下に落ちてしまった。

「相当酔っ払っていたもんでな。ええと、そうだな、あいつは俺が何をしているのかって聞いたような気がするぞ。そんで、俺はホグワーツで森番をしとると答えた。そうだろうが? ホグワーツの森番といえば、この俺しかおらん。そしたら今度は、どんな動物を飼ってるかっちゅう話になった。そんときに、本当はずっとドラゴンを飼うのが夢だったっちゅう話をしたんだ」

「それで、そのマントの人と賭けをしたの?」

 ハーマイオニーがわなわなと震える両手を胸の前で組み合わせながら、青白い顔で訊ねた。

「そうだ。ちょうどドラゴンの卵を持っているから、トランプで飼ったら譲ってやってもいいって言ったんだ。でも、ちゃんと責任を持って飼うと約束をしなければ駄目だというから、俺は言ってやったさ。フラッフィーに比べりゃ、ドラゴンなんか楽なもんだってな」

「そ、それで、その人はフラッフィーに興味があるみたいだった?」

 ハリーはどうにか落ち着こうと懸命になっているようだったが、それはどうみても失敗していた。元々くしゃくしゃな髪の毛を片手でぐるぐると掻き回し、そわそわとしている。

「まあ、そりゃそうだろう。三頭犬なんて、例えホグワーツにだって、そんなに何匹もいねえだろうからな。だから俺は言ってやったよ。フラッフィーなんか、なだめ方さえ知ってさえいれば、なぁんも怖くねぇ。ちょいと音楽を聞かせればすぐにねんねしちまうって――」

 ハリーの顔が絶望を物語るように、一気に蒼白になる。四人がそろそろと顔を見合わせ、それでも言葉を失っていると、ハグリッドは突然しまったという表情を浮かべた。

「こんなこと、おまえさんたちに話しちゃいけなかったんだ!」

 ハグリッドの慌てた声を背に、四人は早足で城まで戻った。玄関ホールに辿り着くまで、誰ひとりとして口を開かなかった。犯人が誰であろうと、このままでは賢者の石が奪われることは確実だと、ルイスはそう思っていた。

「ハリー、やっぱりダンブルドアのところに行こうよ」

 そう言うルイスの声に、ハリーは頷いた。

 これこそ、ラウルやリーマスがルイスに対して口を酸っぱくして言い続けていたことだ。誰か大人の力を借りなければならない。

「ハグリッドが怪しいやつに、どうやってフラッフィーを手懐けるか教えてしまった。マントの人物はスネイプか、それかヴォルデモート本人だったんだ。ダンブルドアが僕たちの言うことを信じてくれればいいけど。ベインさえ止めなければ、フィレンツェが証言してくれるかもしれない」

 しかし、校長室はどこだろうと、四人は辺りを見回した。当然だが、矢印で校長室のある方向が指し示されているわけもない。誰ひとりとして校長室のありかを知らなかったことに、ルイスは初めて気が付いた。

「こうなったら、僕たちとしては……」

 ハリーが何と言って続けようとしたのかは分からない。急に、ホールの向こうから厳しい声が聞こえてきたからだ。

「そこの四人、こんなところで何をしているのですか?」

 マクゴナガル先生だった。先生はたくさんの本を両手で抱えている。またハリーたちが何かを企んでいるのではないかと、そう思っているのかもしれない。もしくは、本を運ぶのを手伝わせようとしているのかもしれないが、四人はそれどころではなかった。

「今すぐにダンブルドア先生にお会いしたいんです」

 ルイスはマクゴナガル先生を真っすぐ見上げて言った。ハリーとロンは、その勇敢な様子を見て半ば尊敬の眼差しをルイスに向けていた。

「ダンブルドア先生にお目にかかりたいですって?」マクゴナガル先生は訝しんで、オウム返しに聞き返してきた。「理由は?」

「それは、ちょっと秘密なんです」

 その一言で、ルイスの勇敢な行為は意味をなさないものとなった。マクゴナガル先生は四人を冷ややかに見て、その表情と同じくらい冷ややかに言った。

「ダンブルドア先生は十分前にお出かけになりました。魔法省から緊急のふくろう便が着てすぐに、ロンドンに飛び立たれました」

「先生がいらっしゃらない? この肝心なときに?」

 ハリーは信じられないという顔で、これ以上ないくらい慌てていた。

「ポッター、ダンブルドア先生は偉大な魔法使いですから、大変御多忙でいらっしゃるのです」

「でも重大なことなんです」

「魔法省の件よりあなたの用件のほうが重要だというのですか?」

「実は……」

 ハリーは本当のことを言おうかどうか迷っているように見えた。だが、迷っている暇はない。そう思ったルイスは、ハリーの代わりに口を開いた。

「マクゴナガル先生、あたしたちは賢者の石について、ダンブルドア先生とどうしても話したいんです」

 まさか、生徒たちの口から賢者の石という単語が出てくるとは、マクゴナガル先生も思っていなかったらしい。予想外だという顔をしたかと思うと、その両腕からどさどさと本が床に落ちたが、先生はそれを拾おうともしなかった。

「ど、どうしてそれを……?」

 マクゴナガル先生は明からに狼狽していた。

「先生、僕たちの考えでは――」

 ハリーはちらりと友人たちを見回した。

「いいえ、僕たちは知っているんです。誰かが石を盗もうとしています。どうしてもダンブルドア先生にお話しなくてはならないんです」

 マクゴナガル先生はハリーたちに驚きと疑いの表情を交互に向けていたが、しばらくすると大きく息を吐き出し、ゆっくりと口を開いた。

「ダンブルドア先生は、明日お帰りになります。あなたたちがどのようにしてあの石のことを知ったのかは分かりませんが、安心なさい。磐石の守りですから、誰も盗むことはできません」

「でも先生!」

 ハリーとルイスの声がホールに大きく反響した。

「ふたりとも、二度も同じ事は言いませんよ」しかし、マクゴナガル先生には取り付く島もなかった。「四人とも外に行きなさい。せっかくのよい天気なのですから、晴れ間を楽しむように」

 先生は床に散らばった本を屈んで拾い終えると、四人の前から立ち去ってしまった。だが四人とも、外には行かなかった。

「今夜だ」ハリーは声を低くして言った。「スネイプが仕掛け扉を破るなら、それはきっと今夜だ。必要なことは全部分かったし、ダンブルドアも追い払った。スネイプが手紙を送ったんだ。ダンブルドアが顔を出したら、きっと魔法省は驚くに違いない」

「でも、一体私たちに何ができるって――」

 ルイスが慌ててハーマイオニーのローブを引っ張り、ハーマイオニーが口を噤んで息を呑むのとは、ほとんど同時だった。ハリーとロンが急いで振り返ると、そこにはセブルスが立っていた。

「ごきげんよう、諸君」セブルスは愛想笑いを浮かべ、猫なで声でそう言った。白々しい笑みだった。明らかに作られた微笑だ。「こんな日には、室内にいるものではないだろう」

 ルイスはじっと、ただセブルスの目だけを見つめていた。いつも通り他人に対して心を閉じているのが分かる。その表情からは一切、思考や感情を読み取ることができない。

「僕たちは……」

 ハリーはルイスの時と同じように勇敢にも口を開いたが、その後にどう続けたらいいのかが、考え付かないようだった。

「君たちには及びもしないことかもしれないが、もっと慎重に願いたいものだ。こうしていつも顔を突き合わせている現場を目撃されてばかりいるようでは、何かを企んでいるようだと噂されても仕方がない。グリフィンドールとしては、これ以上減点される余裕もないはずだ」

 ハリーは怒りと恥で顔を赤らめ、ルイスはその言い様を腹立たしく思い、セブルスを睨みつけた。ふたりはロンとハーマイオニーに引っ張られるようにして外へ出ようとするが、それをセブルスが呼び止める。

「ポッター、警告しておこう。これ以上夜中に徘徊しているのを見かけたら、私が自ら君を退校処分にするぞ。さあ、ふたりを連れて行きたまえ」

 セブルスはそう言い残し、職員室の方へ大股で歩いていってしまった。ハリーが退校にされるなら、ルイスも間違いなく退校だ。四人は正面玄関の石段のところで頭を突き合わせ、ハリーが緊迫した口調で囁くのを聞いていた。

「よし、分かった、こうしよう。誰かひとりがスネイプを見張るんだ。職員室の外で待ち伏せをして、スネイプが出てきたら後をつける。ルイス、君がやってくれるかい?」

「え? あたしが?」

 ルイスは突然の指示にきょとんとした表情を浮かべた。すると、少し慌てた様子のハーマイオニーが早口でまくしたてる。

「それなら私がやるわ。フリットウィック先生を待っているふりをするの。そうすれば怪しまれないでしょう?」

 ハーマイオニーは、ラウルとセブルスが友人だということを知っている。ルイスもホグワーツ入学以前からセブルスとは面識があった。もしかしたらハーマイオニーは、ルイスが何か余計なことを話をしてしまうのではないかと、そう思ったのかもしれない。

 しかし、ルイスはその考えもあながち間違ってはいないと思い、何も言わなかった。すると最後には結局、ハーマイオニーがセブルスを見張るということに決定した。

「じゃあ、僕たちは四階の廊下の外にいよう」

 だがすぐに、この計画は失敗だったと嘆くことになった。フラッフィーを隔離している扉の前に着いた途端、またマクゴナガル先生と出会ってしまったのだ。おそらく、ハリーやルイスたちがまた何かを起こすのではないかと思い、ここを見張っていたのかもしれない。

 普段はとても我慢強いマクゴナガル先生だったが、今度こそ堪忍袋の緒が切れたようだ。ハリーたちが今度この場所へ近づいたという話を聞いたら、先生はグリフィンドール寮から更に五十点減点すると、物凄い剣幕で言い放った。そして、ハーマイオニーの方も失敗に終わったのは言うまでもないだろう。

 ハーマイオニーが職員室の前でセブルスを監視していると、当の本人が出てきて、ハーマイオニーを問い詰めたらしい。フリットウィック先生を待っているというと、セブルスは先生を呼びに行ったそうだ。それで、ハーマイオニーがその場に止まる理由を無くしてしまった。

 他の三人には気付かれないよう、そっと息を吐いた。ルイスには、次にハリーが口に出そうとしている言葉が、手に取るように分かった。

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