ハリー・ポッターと呪われた一族の少女   作:しきり

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Party at the school yearend

 アルバス・ダンブルドアとセブルス・スネイプがルイスの話を聞きに医務室へやって来た翌日、ハリーは目を覚ました。その時ちょうどダンブルドアがきていて、ハリーはダンブルドアの顔を見るなり興奮気味に声を荒らげていた。

 ハリーとダンブルドアの話を隣のベッドで聞いていたルイスは、自分のときには知ることのできなかった話を、いくつか聞くことができた。あの部屋からふたりを運びだしてくれたのは、やはりダンブルドアだったということ。ハリーに透明マントを送ったのも、思ったとおりダンブルドアだった。

「クィレルが言ったんですが、スネイプ――先生が僕のことを憎むのは、僕の父を憎んでいたからだって。それは本当ですか?」

「そうじゃな、お互いに嫌っておったことは、確かじゃろう。君とMr.マルフォイのようなものだ。そして、君の父上が行なったあることを、スネイプ先生は許せなかったのじゃよ」

「何を許せなかったんです?」

「スネイプ先生の命を救ったんじゃよ」

 ルイスは瞬間的にハロウィーンの夜のことを思い出した。トロールとの対決後、担架に乗せられて医務室へ運ばれている道中の廊下での、セブルスとの会話を思い出したのだ。

 ルイスが、自分はスリザリンに入るべきだったかと聞いたとき、セブルスは自分の命すら顧みず他人のために投げ出せるような勇気を持っていた人物を知っていると、そう言っていた。ルイスがネビルやハーマイオニーを捨て身で助けたと聞き、セブルスはその人物を思い出したのかもしれない。彼はグリフィンドール寮生で、ルイスも彼に似た勇気を持っている。

 だから、セブルスはルイスがグリフィンドールに入るべくして入ったと、そう思っているのかもしれない。そしてあのとき、セブルスは自分自身の話をしていたのだと、ようやく理解することができた。セブルスを助けた人物は、ハリーの父親だったのだ。

「スネイプ先生は君の父上に借りがあるのが我慢ならなかった。この一年間、スネイプ先生は君を守るために全力を尽くした。これで父上と五分五分になると考えたのじゃろう」

 ルイスは普段垣間見ることのできないセブルスの人間臭さに、思わず笑みがこぼれた。そして同時に、セブルスを信じていてよかったとも思った。疑うことは簡単だが、信じることは難しい。

 ルイスは小さな頃から、ラウルに人を信じろと教えられてきた。信じ続けてそれでも裏切られたとき、傷つくのは信じていたほうではなく、信じられていたほうなのだと。信じてくれていた人を裏切るという行為は、計り知れない苦痛を伴う事になるのだと、ラウルはそう言った。

 最後にハリーは、自分がどうやって石を手に入れたのかを、ダンブルドアに尋ねていた。ハリーは鏡の中から取り出したといったが、鏡とはあの部屋の真ん中にあった、大きな鏡のことだろうか。

 石を手に入れるには、石を見つけたい者、でも決して石を使おうと思わない者だけが、それを鏡の中から取り出すことができるのだと、ダンブルドアは言った。欲のない者だけが、石を手に入れられるということだろうか。

 ルイスは目の前にどっさりと積み上がっているお菓子の山を眺めながら思った。今のルイスには、このお菓子の山を片付けたいと思う欲すらない。見ているだけで、お腹も胸もいっぱいになった。

「先生、最後にもう一ついいですか? ルイスのことなんですが――」

 バーティ・ボッツの百味ビーンズを漁っているダンブルドアに、ハリーは言った。ルイスはまさか自分の名がふたりの会話に出てくるとは思わず、体をびくりと跳ね上がらせる。もしかしたらハリーは、自分がここにいることに気が付いていないのかもしれないと、そう思った。

「ハリー、それはわしに聞くべきことではない。もし君が本当に知りたいと思うのなら、ルイス本人に聞いてみることじゃ。幸い――」

 ダンブルドアがそう言って脇に退くと、ふたりの間を憚るものは何もなくなった。ルイスがそろそろとハリーを見やると、驚きで見開かれた宝石のように美しい目がこちらを見ていた。

「――本人がここにおるのでな。もしルイスにそのつもりがあるのなら、ハリーの質問に答えてあげなさい」

 ダンブルドアはにこりと笑ってそう言うと、ビーンズをひとつ口に放り込んだが、途端にむせ返ってしまった。

「なんと、耳クソ味だ!」

 ルイスが思わずふっと吹き出すと、ハリーも釣られて笑い出した。

 ダンブルドアが医務室を出ていくと間もなく、ハリーがルイスに質問するよりも先に、ロンとハーマイオニーが医務室の入り口に現れた。マダム・ポンフリーはとてもいい人だったが、それと同じくらい厳しい人でもあった。前にルイスのお見舞いにきてくれたときも、五分だけと頼み込んだのに、実際は五分と経たないうちにふたりは追い出された。

「僕たち、休息しています。ほら、横になっているし。ねえ、マダム・ポンフリー、お願いだから」

「……仕方ないわね。でも、本当に五分だけですよ」

 ハリーの交渉の結果、マダム・ポンフリーはふたりを五分だけ医務室へ入れることを許可してくれた。

「ハリー!」

 ハーマイオニーはルイスが目覚めたと聞いて医務室へ駆け込んできたときと同じように、ハリーに駆け寄った。今にもハリーを抱き締めそうに見えたが、ハーマイオニーは思い止まったようだ。ハリーはその様子に胸を撫で下ろしていた。

「あぁ、ハリー。私たち、あなたがもう駄目かと……ダンブルドア先生がとても心配してらっしゃったのよ」

「学校中がこの話でもちきりだよ。ルイスのお見舞いにきたときは、僕たち、その話を聞く前に追い出されたんだ。本当は何があったの?」

 ふたりはその話をとても聞きたがったので、ハリーとルイスは顔を見合わせて頷きあうと、一部始終を話して聞かせた。とはいっても、専ら話していたのはハリーだけで、ルイスは隣のベッドで横になりながら、ハリーが興奮気味に話す声と、ロンとハーマイオニーが時々洩らす相槌に耳を傾けていた。

 ただルイスが魔法薬の部屋の黒い火を抜けた方法だけは、ルイス自身が説明しなければならなかった。クィレルのターバンの下にヴォルデモート卿の顔があったという件になると、ハーマイオニーが大きな悲鳴を上げた。

「それじゃ、賢者の石はなくなってしまったの? ニコラス・フラメルは死んじゃうの?」

「僕もそう言ったんだ。でも、ダンブルドア先生は、ええと、何て言ったっけ? 『整理された心を持つ者にとっては、死は次の大いなる冒険に過ぎない』だったかなぁ」

「だからいつも言ってるだろ? ダンブルドアは狂ってるってさ」

 ロンはそう言いながらも、尊敬するヒーローの調子外れな言葉に感心しているようにも見えた。

「それで、君たちふたりの方はどうしたんだい?」

「私たち、ちゃんと戻れたわ。ロンの意識を回復させてから、ダンブルドアに連絡するためにふたりでふくろう小屋に行ったら、玄関ホールで本人にあったの。ダンブルドアはもう知っていたわ。そして、ふたりはもう追い掛けていってしまったんだねって、それだけを言うと矢のように四階に駆けて行かれたの」

 ダンブルドアは何故、ハーマイオニーたちの連絡を受け取る前に帰ることができたのだろう。それに何処、ダンブルドアはふたりがあの部屋に行ってしまったのを知ったのだろう。

「もしかして、ダンブルドアは君たちがこんなことをするように仕向けたんじゃないかなって、そう思うんだ。だって、君のお父さんのマントを送ったりさ、それにルイスには耳飾りを送ったんだろ?」

 すると、そう言ったロンの言葉に反応し、ハーマイオニーはかっとなって言った。

「もしも、もしも本当にそんなことをしたんだったら、私はきっぱり言わせてもらうわ! だって、酷いじゃない。ハリーもルイスも殺されていたかもしれないのよ?」

「ううん、ハーマイオニー。たぶん、それは違うと思う」

 ルイスは天井の隅っこを見つめながら言った。ハリーも小さくそれに頷き、ルイスの言葉のあとを引き継いだ。

「ダンブルドアっておかしな人なんだ。たぶん僕と、何故かは分からないけどルイスにもチャンスを与えたいって気持ちがあったんだと思う。あの人はここで何が起きているか、ほとんどすべてを知っているんだよ。僕たちがやろうとしていたことを、相当前から知っていたんじゃないかな。僕たちを止めないで、むしろ僕たちの役に立つよう必要なことだけを教えてくれていたんだ。鏡の仕組みが分かるように仕向けてくれたのも、偶然じゃなかったんだよ。僕にもルイスにも、そのつもりがあるのなら、ヴォルデモートと対決する権利があるって、そう考えていたような気がするんだ」

 ダンブルドアって本当に変わってる――そうロンは半ば呆れた口振りで言った。

 明日は学年末パーティだということを、ルイスはロンに言われて思い出した。

「得点は全部計算が済んで、スリザリンが勝ったんだ」

 苦々しくロンが説明していると、マダム・ポンフリーが勢い良く現れ、時計を指差してきっぱりと言い切った。

「もう十五分も経ちましたよ! さあ、出なさい!」

 ルイスはもうどこも悪くないとマダム・ポンフリーに訴えたかったが、ハリーをひとりにするのは気の毒だと思い、何も言わずに差し出された薬を飲んで、ベッドのなかに潜り込んだ。

 ハリーはそのような様子を見て、何か言いたそうにしていたが、結局ふたりはそのまま眠りについてしまった。ハリーはルイスに聞きたいことを、ひとつも訊ねることはできなかった。

 翌日になって、ハリーとルイスは自分たちが無事に退院できるかどうかが不安だった。スリザリンの優勝を祝うための学年末パーティに出ることは癪だったが、それでも、豪勢な食事を逃す手はないと思ったのだ。

「ねえ、マダム・ポンフリー。あたしたちもパーティに出たいのだけれど」

「あ、あの、行ってもいいでしょうか」

 山のようなお菓子の箱を片付けているマダム・ポンフリーに、ふたりはいそいそと頼んだ。すると意外にも、マダム・ポンフリーはそれを快諾してくれた。

「ダンブルドア先生が行かせてあげるようにとおっしゃいましたからね、仕方がないでしょう?」

 ハリーはルイスと顔を見合わせてにっこりしたが、マダム・ポンフリーは不満そうに鼻をふんと鳴らした。まるで、パーティには魔物が住んでいるとでも言いたげだ。

「ああそれから、また面会の人がきていますよ」

 ふたりはもう一度顔を見合わせて、入り口に目をやった。すると、ハグリッドがドアから体を斜めにして入ってくるのが見えた。部屋の中で見ると、ハグリッドは余計大きく見えた。

 ハリーとルイスが並んで座っていたベッドの、ハリーの隣に座ると、ハグリッドはおんおんと声を上げて泣きだしてしまった。

「みんな俺の、馬鹿な、しくじりのせいなんだ!」

 大きな手で顔を覆い、発作のようにしゃっくりをするハグリッドを見て、ルイスはハグリッドが医務室から追い出されてしまうのではないかと気が気ではなくなってしまった。幸い、ハリーとルイス以外に患者の姿はないので、マダム・ポンフリーはこちらを睨むだけに留まってくれている。

「悪いやつらに、フラッフィーを出し抜く方法をしゃべっちまった。俺がやつに話したんだ! やつはこれだけは知らんかったのに、しゃべってしもうた! おまえさんらは死ぬところだった! たかがドラゴンの卵のせいで! もう酒はやらん! 俺なんか、摘み出されて、マグルとして生きろと言われてもしょうがない!」

 悲しみと後悔に身体を振るわせ、ハグリッドはぼろぼろと大粒の涙を零した。ルイスは、ハグリッドがホグワーツから摘み出される前に、確実に医務室から摘み出されるだろうと思った。

「ハグリッド、あいつはどうせ見つけ出していたよ。相手はヴォルデモートだもん、ハグリッドが何も言わなくったって、どうせ見つけていたに決まっているんだ」

「お前さんたちふたりとも、死ぬとこだったんだぞ。それに――その名前を言うな!」

「ヴォルデモート」

 ハリーとルイスは同時にその名を呼んだ。するとハグリッドは、恐怖のあまり泣くことをやめた。

「僕たちはヴォルデモートに会ったし、あいつを名前で呼ぶんだ。さぁ、ハグリッド、元気を出して。蛙チョコを食べてよ。山ほどあるからさ」

 ハリーはハグリッドを慰めようと必死だった。ルイスはハグリッドの背中を優しく擦り、その髭に覆われた顔を見上げていた。

「おお、それで思い出した。俺からもハリーにプレゼントがあるんだ」

「イタチサンドイッチじゃないだろうね」

 そうハリーが心配そうに聞くと、ハグリッドとルイスはくすりと笑った。

「いんや。これを作るんで、昨日ダンブルドア先生が俺に休みをくれたんだ。あの方に首にされて当然なのにな。ダンブルドアは本当にお優しい人だ……と、まあ、とにかく、はい、これだ」

 ハグリッドが差し出したのは、小綺麗な皮表紙の本のようなものだった。ハリーが訝しげにそれを開くと、ルイスはハグリッド越しにそれを覗き込んだ。中にはたくさんの写真が貼り付けられていて、そのすべてがこちらに笑いかけて、手を振っている。

 ルイスは、それらの者たち見たことがあるような顔に思えた。はるか昔かつい最近か、それは分からないが、見たことがあるように思えるのだ。

「おまえさんの両親の友達にふくろうを飛ばして、こうして写真を集めたんだ。だって、おまえさんは両親の写真を一枚も持ってないだろう? どうだ、気に入ったか?」

 ハリーは感激のあまり声が出ない様子だった。ハグリッドはそれを見て、満足そうににっこりとしていた。

 そういえば、とルイスは思う。

 ルイスも、両親の写真を一度も見たことがない。おかしな話だ。ジュリアード家は代々あの家に住んでいて、遺品はすべて残っているのに、写真や肖像画の類だけが何処にも見当たらなかった。ルイスは何故だか、無性にハリーが羨ましくなってしまった。

 その夜、ふたりは一緒に学年度末のパーティに行った。マダム・ポンフリーがもう一度最終診察をすると煩かったので、大広間に着いたときには、七年連続で寮対抗杯を獲得したお祝いで、広間にはスリザリンカラーの飾り付けがなされていた。スリザリンの象徴である蛇の描かれた巨大な横断幕が、ハイテーブルの後ろの壁を飾り立てていた。

 ふたりが大広間に入っていくと、広間は突然静まり返り、その後全員がいっせいに大声で話しはじめた。ハリーはロンの隣に滑り込み、ルイスはハーマイオニーの隣に座った。みんながふたりを一目見ようと立ち上がっているのを、ふたりは無視しようと決めていた。

 運良くダンブルドアがすぐに現れ、がやがやとした喧騒が一瞬で静かになった。

「また一年が過ぎた!」ダンブルドアはいつものように朗らかに言った。「ごちそうにかぶりつく前に、老いぼれの戯言をお聞き願おう。何という一年だっただろうか。君たちの頭も、以前に比べて少しは何かが詰まっていれば良いのじゃがのう? 新学年を迎える前に、君たちの頭が綺麗さっぱり空っぽになる夏休みがやってくる」

 誰も何も言わず、ただひたすらに、全員がダンブルドアの話に耳を傾けている。

「それでは、例年通りここで寮対抗杯の表彰を行うとしよう。得点は次の通りじゃ。四位、グリフィンドール、三一二点。三位、ハッフルパフ、三五二点。二位、レイブンクロー、四二六点。そしてスリザリン、五三二点」

 スリザリンのテーブルから嵐のような歓声と、足を踏みならす音があがった。ドラコがゴブレットでテーブルを叩いているのが見えた。対するグリフィンドールのテーブルは、まるで葬式が開かれているように静まり返っている。

「よし、よし、スリザリン。よくやった。しかし、つい最近の出来事も勘定に入れなくてはなるまい」

 ダンブルドアがそう機嫌よく言うと、大広間全体が水を打ったように静まり返った。すると、スリザリンのくすくす笑いが少し消えた。

「駆け込みの点数をいくつか与えよう。まずは、Mr.ロナルド・ウィーズリー」ロンの顔が真っ赤になった。酷く日焼けをした赤かぶのようだ。「この何年間かホグワーツで見ることができなかった、最高のチェスゲームを見せてくれたことを称え、グリフィンドールに五十点を与える」

 グリフィンドールの歓声は、魔法をかけられた天井をも吹き飛ばしかねないくらいだった。

「僕の兄弟さ! 一番下の弟だよ! マクゴナガルの巨大チェスを破ったんだ!」

 パーシーの自慢げな声が、ルイスの耳にも辛うじて聞こえてきた。

 大広間が静かになるのを待って、ダンブルドアはまた口を開いた。

「次にMiss.ハーマイオニー・グレンジャー。火に囲まれながら、冷静な論理を用いて対処したことを称え、グリフィンドールに五十点を与える」

 ハーマイオニーはルイスの腕をしっかりと掴み、その細い肩に額を強く押しあてた。小刻みに震えている。嬉し泣きをしているに違いない。おそらくハーマイオニーの耳には、グリフィンドールのこの溢れんばかりの歓声は届いていないだろう。

「三番目はMiss.ルイス・ジュリアード」

 歓声は消え失せ、グリフィンドール寮生の顔という顔がこちらを見た。ルイスがダンブルドアを真っすぐに見ると、ダンブルドアはにっこりと笑った。

「均等の保たれた頭脳、類い稀な魔法力、友のために己の体をも投げ出す勇気、そして、他者に流されず人を信じる強い心を称えて、グリフィンドールに六十点を与える」

 ルイスは何度も瞬きをし、口をあんぐりと開いたまま茫然としていた。今まで嬉し泣きをしていたハーマイオニーも、嬉しさのあまり舞い上がっていたロンも、驚いてルイスを見ている。

「そして最後に、Mr.ハリー・ポッター」大広間中の生徒たちは息を詰め、ダンブルドアの声に聞き入っている。「その完璧な精神力と、並はずれた勇気を称え、グリフィンドールに六十点を与える」

 耳をつんざく大騒音がルイスの頭に響いて、酷い耳鳴りがした。ハーマイオニーがたまらずルイスの首に抱きつき、耳元で何か叫んでいる。

 この時もし、足し算ができるほど冷静な者がいたとしたら、グリフィンドールがスリザリンの得点に並んだことが分かっただろう。スリザリンと同点で、引き分けだ。

 ダンブルドアが手を挙げた。広間が徐々に静かになっていく。

「だが、勇気にもいろいろある」ダンブルドアは愉快そうに微笑んでいた。「敵に立ち向かっていくのには、確かに大いなる勇気が必要じゃろう。しかし、味方の友人に立ち向かっていくのには、おそらくそれ以上の勇気が必要じゃ。そこで、わしはMr.ネビル・ロングボトムにも十点を与えたい」

 大広間は爆発音に包まれた。爆発という言葉以外に、適切な表現が見つからないほどの歓声が、グリフィンドールのテーブルから沸き上がった。ハリー、ルイス、ロン、ハーマイオニーは立ち上がって歓声を上げたが、ネビルは驚いて顔を青白くさせていた。みんなに抱きつかれ、もみくちゃにされて、人に埋もれて姿が見えなくなった。ネビルはこれまでに、ただの一度だって誰かに点数をもらったことがなかったのだ。

 ハリーとロンがスリザリン寮のテーブルの方を見て愉快そうに笑っていたので、ルイスがそちらを見ると、ドラコは元から青白い顔を更に青くさせて、恐れ戦いた顔をしていた。

 レイブンクロー、ハッフルパフもスリザリンが一位ではなくなったことに喜んで、グリフィンドールのどんちゃん騒ぎに加わっていた。

「従って、飾り付けをちょいと変えねばならん」

 そう言ってダンブルドアが両手を打ち鳴らすと、グリーンの垂れ幕が深紅に、銀色が金色に変わった。それから巨大な蛇が消えて、グリフィンドールのそびえ立つようなライオンが現れた。セブルスは苦々しげな作り笑いを浮かべて、マクゴナガル先生と握手をしている。

 ルイスがその様子を見ていると、セブルスはこちらの方向をちらりと見た。その視線の先には、ハリーがいるようだ。ルイスがセブルスに目を戻すと、彼は今度こそこちらを見ている。

 ――なあに?

 声を出さずに口だけをそう動かすと、セブルスはいつかと同じように頭を左右に振った。その表情は明らかに不満そうだ。だが、他の生徒たちが見ても、普段と何ら変わらない仏頂面に見えていることだろう。

 宴会の後で試験の結果が発表されると、ハリーとロンがほっと息を吐いているのが目に入った。

「ふたりとも、その分だと落第はしないで済みそうね」

 ルイスが悪戯っぽく言って笑うと、ふたりともにやりと笑って頷いてみせた。

「ハーマイオニーが何処に行ったか知らない? さっきから探しているのだけれど」」

「探さなくてもここにいるわ」

 ハーマイオニーがルイスの背後からぬっと現れたかと思うと、ハリーとロンの成績表を素早く取り上げた。

「ふうん、まあまあね」

「何がまあまあね、だよ。そういう君はどうだったんだい?」

 ロンがその手から成績表を取り返して言うと、ハーマイオニーは愚問だとでも言いたげににっこり笑った。

「彼女、学年トップだよ」

 ルイスが苦笑を浮かべて代わりに答えると、ロンは聞くんじゃなかったと苦い顔をして頭を振った。

「ルイスはどうだったの?」

 ハリーがそう聞くので、ルイスは肩を竦めてハーマイオニーを見た。

「ハーマイオニー程ではないけれど」

「ハーマイオニー並みに成績が良かったら逆に異常だよ。僕、君が勉強をしているところなんて、これっぽっちも見たことがないし」

「あら、それは失礼じゃないかしら。魔法薬学と変身術、それに闇の魔術に対する防衛術とか天文学では、とても成績がいいのよ」

 ハーマイオニーがまるで自分のことのように胸を張って言うものだから、ルイスは自分が凄いのか、ハーマイオニーが凄いのかが分からなくなった。

 クローゼットはあっという間に空になり、逆にトランクの中がもので溢れ返った。休暇中には魔法を使わないように、という注意書きが全生徒に配られると、双子のウィーズリー兄弟が不満で仕方がないという様子で、びりびりと破り捨てている姿が目に入った。

「こんな注意書き、配るのを忘れりゃいいのにって、いつも思うんだよな」

 ホグズミード駅へ着くと、四人はひとつのコンパートメントを占領した。車内販売でお菓子や飲み物を買い、他愛ない話ばかりをして過ごす。

 ルイスは、ロンとハーマイオニーがわざとヴォルデモート卿について話さないようにしているのではないかと、そう思った。

 しばらく経って話が尽きたルイスは、ホグワーツ特急の窓から見える景色を、窓越しに眺めていた。学校を発つ前、本当にぎりぎりにルイスのもとにふくろうがやってきた。それはラウルからのもので、駅まで迎えに行くよ、と一言だけ記されていた。

「――ルイス!」

「え? 何?」

「どうしたの? 大丈夫?」

 ルイスがコンパートメントに視線を戻すと、三人の顔がこちらに集結していた。

「ごめん、ちょっと考え事をしてただけ」

 ルイスはそう言うと、かぼちゃジュースを一口だけ飲んだ。相変わらず、砂糖を舐めているような甘さだと思った。

「ねえ、ルイス」

「何? ハリー」

 もう一口かぼちゃジュースを飲み、それを脇へ退けた。ルイスにはハリーが聞こうとしていることが分かるような気がした。

「あのさ、医務室でダンブルドアが言っていただろ? もしルイスさえ良かったら、その……」

「いいよ、別に。あたしに答えられることなら何でも答えてあげる」

 ロンとハーマイオニーは突然の話に、何が何だか分からないというふうな顔をしていた。

「ヴォルデモートが、君の両親も自分が殺したって、そう言っていたよね? それに、君を見て笑ってた」

 しかしヴォルデモート卿の名前が出てくると、ロンとハーマイオニーは突然耳を塞ぎたくなったようだ。

「本当のところはあたしもよくは知らないけれど、あたしの両親がヴォルデモート卿に殺されたのは確かだと思う」ルイスはふたりがヴォルデモート卿の名前にびくびくしているのを無視して、先を続けた。「それから、ヴォルデモート卿があたしを見て笑ったのは、あたしが父さんの子供だから」

「君の父さんとヴォルデモートには、何か関係があるの?」

 ルイスはふうと息を吐き出して、ハリーを真っすぐに見つめた。緑色の、優しい目だ。

「あたしの父親はね、ハリー。ヴォルデモート卿の一番の側近だったと言われているの。だけど、ダンブルドアの友人でもあった。あたしの父親は、ヴォルデモート卿を裏切って殺されたんだって、ラウルはそう言っていたけれど、ごめんね、あたしはそれ以上のことは何も知らないの」

 ルイスは頭を振って、今度はハリーから目を逸らした。この話を聞いても、ルイスはハリーが自分から離れていくわけがないと、そう信じたかった。自分の両親を殺した人物の一番の側近を父親に持つルイスを、ハリーは拒絶するだろうか。もしそうなっても、それはそれで仕方がないと思う反面、そうなって欲しくないとも願っていた。

「……だけど、もしそれが本当だったとしても」けれど、ハリーの声は思いの外明るかった。「ルイスはルイスじゃないか。それに、僕はダンブルドアのことを信じている。そのダンブルドアの友達なら、きっと悪い人じゃないと思う」

「ハリー……」

「それにさ、ルイスは僕を助けにきてくれたじゃないか」

 ハリーがそう言ってにっこり笑うので、ルイスも安心して笑みを零した。

 汽車は次々とマグルの街を通り過ぎ、ホグワーツの生徒たちはローブからマグルの服に着替えはじめた。

 キングズ・クロス駅の九と四分の三番線に到着すると、プラットホームを出るのに少し時間がかかった。年寄りのしわくちゃな駅員が改札口に立っていて、ゲートから数人ずつ外へ送り出さなければならなかったからだ。そうしなければ、どこからか現れた大勢の子供たちを見て、マグルたちはとても怪しむことだろう。

「夏休みに三人とも家に泊りにきてよ。ふくろう便を送るからさ」

 ロンが急に思いついたように言った。

「ありがとう。僕も楽しみに待っていられるようなものが、何かなくちゃ……」

 ハリーは頼りない笑顔を浮かべてそう言った。魔法界からマグルの叔父と叔母のところに帰るのだと思うと、憂鬱で仕方ないようだった。

 四人は人の波に押されながら、徐々にゲートへと近づいていた。

「……あれ?」

 ルイスはゲートの少し手前まで来ると、足元に一本の木の棒が落ちているのを見つけた。しかし、それはただの木の棒ではなく、今ここに集まっている子供たちならば、誰でも持っているものだった。

「どうかしたの?」

 ルイスがきょろきょろと辺りを見回していると、ハーマイオニーが不思議そうに言った。

「ほら、これ。誰かが杖を落としたみたいなの」

「えっ!? そんな、まさか!」

 信じられないとでも言いたげに、ハーマイオニーはルイスの手元を覗き込んだ。もちろん、杖に名前など書いていない。ダイアゴン横丁のオリバンダー氏に聞けば分かると思うが、わざわざそんなことをしていたら、杖の持ち主が困ってしまうだろう。

「ここに落ちていたということは、その人はもう外に出たってことじゃないかな」

 ルイスとハーマイオニーは取り敢えず、ハリーとロンの後に続いてゲートの外に出た。その後で、杖を探して困り果てている姿はないかと思いながらきょろきょろしていると、今度はハリーとロンが訝しげにふたりを見た。

「何をやってるんだい?」

「誰かが杖を落としたの。ハリーたちの前には誰がいた?」

「そんなこと覚えてないよ」

 ハリーは首を横に振り、ロンは無責任にもそう言った。

 ルイスはまじまじと杖を見て、落としたのはまず一年生ではないだろうと思った。どちらかというと使い込んでいるように見えるので、おそらく持ち主は上級生のはずだ。持ち歩いているより、さっきの駅員に渡しておいたほうがいいかもしれない。

 そう思ったルイスがハーマイオニーに声をかけようとして振り返ると、視界が急に塞がれて、顔面に何かがぶつかった。

「痛っ……」

 そう言った声ですら、くぐもって聞こえる。ルイスが慌てて一歩後ろに下がると、背の高い黒髪の男の子が目の前に立っていた。

「ごめん、大丈夫かい?」

 男の子はそう言いながらも、どこか余裕がないように見えた。それに加え、男の子はルイスの顔を見ると一瞬目を見開いて驚いてみせたが、すぐに足元に目をやってきょろきょろとしはじめたのだ。

「何か捜し物?」

「ああ、うん、そうなんだ」

「もしかして、これを落とさなかった?」

 ルイスはにこりと笑って、握っていた杖を男の子に差し出した。男の子はまたびっくり顔でルイスを見たが、今度は心底ほっとした様子で息を吐いてみせた。

「どうもありがとう。杖をなくすなんて、魔法使い失格だよね」

「ゲートのところに落ちていたの。魔法使い失格だとは思わないけれど、ずいぶんおっちょこちょいなんだね」

 ルイスが悪戯っぽくそう言って笑うと、男の子は少し顔を赤くした。

「それじゃ、友達を待たせているから」

 じゃあ、と言って男の子に背を向けると、背後から声が追い掛けて来たような気がしたが、ルイスは振り返らないでハーマイオニーたちのところへ戻った。

「ルイス、何処に行っていたの?」

「杖の持ち主が見つかったの。あそこの――ほら、あの背の高い黒髪の人」

「え? ああ、あの人だったの」

「ハーマイオニー、知り合いなの?」

「知り合いじゃないわ。だけど、彼は有名だもの。ハッフルパフの三年生で、セドリック・ディゴリーよ」

「ふーん」

 ルイスはさほど興味もなさそうに頷き、ハリーとロンの所へ駆け寄った。その近くには、ひとりの女の子と、その母親らしき女の人が立っている。

「ロンのお母さん?」

 ルイスがこっそりハリーに聞くと、ハリーはこくりと頷いた。それを見てルイスは一瞬顔を顰めたが、それでも次の瞬間にはにっこりと笑っていた。

「はじめまして、ルイス・ジュリアードです」

 ルイスが握手を求めると、ウィーズリー夫人の笑顔が少し凍り付いたように見えた。握手を求めた手は行き場なく宙を彷徨い、結局はその手が握られることはなかった。

「ルイス!」

 聞き慣れた、それでいてクリスマス休暇ぶりに聞く懐かしい声に、ルイスはほっとして後ろを振り返った。

「ごめん、遅くなって」

「ううん、大丈夫。迎えに来てくれてありがとう」

 振り返り際のルイスの顔を見て何かを察したのか、ラウルはウィーズリー夫人を見て、そしてまたルイスを見た。

「大変だったね」

 ラウルはそう言うと、ルイスの頭をとんとんと軽く叩いてにっこりと笑った。

「早く帰りたい気分」

「その前に楽しい煙突飛行が待っているよ」

 ラウルは愉快そうにそう言うと、何の躊躇いもなくウィーズリー夫人の所へ行ってしまった。ルイスがその背中を見ていると、ばつが悪そうにしたロンがこちらを見ていたので、ルイスは顔の前で手を振って肩を竦めてみせた。

「準備はいいか」

 果てしなく不機嫌そうな、そして軽蔑的な眼差しをあちらこちらに向けている男の人が、ハリーに向かってそう言っているのが聞こえた。ルイスが咄嗟にそちらを見ると、意地悪そうな顔をした三人の者たちが、ハリーと向かい合うようにして立っている。

「ハリーのご家族ですね」

 ウィーズリー夫人がそう言う隣で、ラウルはマグルの三人組を品定めするように見ていた。

「小僧、さっさとしろ。お前のために一日をつぶすわけにはいかん」

 男の人はそう言ったきり、ハリーを置いてとっとと歩いていってしまった。ルイスは、魔法族にもあれほど嫌な人は少ないと思った。

 ラウルは何を思いついたのか、ハリーの後ろから何か耳打ちをしている。ウィーズリー夫人はそれを気にくわないとでも言いたげに、じろりと睨み付けていた。

「じゃあ夏休みに会おう」

「ハリー、手紙を書くからね」

「楽しい夏休みを、あの、そうなればいいけど」

 ハーマイオニーは酷く心配そうに言って、さっさと行ってしまったハリーのおじさんの背中を見送っていた。

「もちろんさ」

 ハリーが嬉しそうに顔をほころばせ、ラウルをちらりと見たので、ルイスは何か嫌な予感がした。

「僕たちが家で魔法を使っちゃいけないことを、あの連中は知らないんだ。この夏休みは、ダドリーと大いに楽しくやれるさ」

 ハリーはそう自嘲的な言葉を残して三人に手を振ると、おじさんの後を追い掛けていってしまった。

「ラウル、ハリーに余計なことを吹き込まないで」

「実際に使わなきゃ大丈夫だよ」

 ふたりがひそひそと話していると、ゲートを遅れて抜けてきた双子のウィーズリー兄弟がルイスの所へやってきた。学校で起こった極秘の事件以来、彼らとのわだかまりも一切なくなっていた。

「やあ、ルイス」

「夏休みは家に遊びにくるだろ?」

 フレッドとジョージはロンと同じようにルイスを誘ってくれたが、ウィーズリー夫人の顔を思い出すと、彼らの望む返事をすることは簡単にはできなかった。

「誘ってくれてありがとう。でも、行けるかどうかは分からないと思う。その――色々あって、ね?」

 ルイスが話を合わせろというように足をぎゅっと踏み付けると、ラウルは曖昧に、適当だが話を合わせてくれた。二人は残念そうにしていたが、学校が始まる前にルイスとダイアゴン横丁で会う約束を取り付けると、自分の家族の所へ行ってしまった。

「それじゃ。僕たちも帰ろうか、ルイス」

 ルイスの代わりにトランクを持つと、ラウルはウィーズリー夫人とロンやフレッド、ジョージたちに挨拶をして歩きだした。

「楽しい夏休みを。新学期前にダイアゴン横丁でね!」

 ルイスはみんなにそう言って手を振ると、ラウルの隣に並んで歩き出した。家に帰るんだ。そう思うと何故かほっとして、心が暖かくなるのを感じた。

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