ハリー・ポッターと呪われた一族の少女   作:しきり

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Two letters

 ルイスかホグワーツへ向かう頃になると、リーマス・ルーピンのローブの継ぎ接ぎは更に増え、みすぼらしさが増していた。それでも、自分がプレゼントしたものを大事に着てくれていることが、ルイスはとても嬉しかった。

 だからというわけではなかったが、ルイスはリーマスに貰ったキャンディを毎日一個ずつ、大事に食べていた。しかしそれも、ホグワーツに出発する前日になくなってしまい、残念に思っていたところだった。

 珍しくひとりで起きることのできたルイスは、マグルの服を着てトランクを引きずりながら、階段を降りていった。がたんがたんと騒がしく階段を下りていくと、リビングにはいつもの継ぎ接ぎローブ姿のリーマスが見えた。しかし、いつもソファに座って紅茶を飲みながら本を読んでいるラウルの姿が見えなかった。

「おはよう、リーマス。ラウルは?」

 リーマスは口にマフィンを詰め込んでいたせいで、もごもごと何を言っているのか分からない。多分おはようと言ったのだろうと、ルイスは勝手に解釈した。

 紅茶でマフィンを飲み下したリーマスは、いつもより少しだけ顔色がよく見えた。

「ラウルは用事があるからって出掛けたよ。だから、今日は私がルイスを駅まで送るからね」

「用事? こんな早くから?」

「私もどんな用事か詳しくは知らないんだ。さあ、朝食を」

「紅茶だけでいい。それより、ルナは帰ってきた?」

「帰っていないのかい? それじゃ、まだ森にいるんじゃないかな」

 リーマスはちらりと森に目を走らせ、ポットの頭を杖で叩いた。ルイスも森に目を向けるが、空を飛ぶルナの姿は見えない。窓辺に立ってルナを呼んでみるが、帰ってくる気配もなかった。

「まったく。きっと、煙突飛行が嫌なんだと思う。あたし、ちょっと森まで探しに行ってくるね」

「いいけど、急ぐんだよ。もう少しで出発するからね」

「はーい」

 ルイスは少し駆け足で森に入った。だが、あまり奥へは進まないほうがいいだろう。そう思いはするものの、ルナを探すことに夢中になってしまうと、そこまで気が回らなくなる。

「ルナ、どこに行ったの? ルナ!」

 煙突飛行が嫌なのはルナだけではない、あたしだってできることなら遠慮したい、などと言いながら森の中を歩き回っているルイスは、森に棲息している動物たちから見ても酷く滑稽だったことだろう。

 刻々と出発の時間が近づいているのに、ルナは一向に姿を現そうとしなかった。別にルナはひとりでもホグワーツに来られるはずだが、今日、今ここで連れていかなかったら、ルナはこの森に住み着いて、もう二度とルイスのところには帰ってこないような気がした。

「またこのような奥にまで……」

 呆れきった声とともに、ルイスの前に姿を現したケンタウルスのフェリオは、苦々しい顔をしている。さほど奥に入ってきたつもりはなかったのだが、辺りを見回してみると、やけに緑が濃く見えた。

「さあ、出口まで送りましょう」

「ちょっと待って、ルナを、あたしのふくろうを見なかった? 探しているのだけれど、見つからないの」

「あなたのふくろうなら心配はいりません」

「なぜ?」

「少し前に帰っていきました。さあ、早く私の背中に乗ってください」

「少し前に帰った? じゃあ、ルナはずっとフェリオのところにいたの?」

「森にくると大半は私のところへ来ていました。さあ、乗ってください。今日からホグワーツがはじまるのでしょう」

「駄目、乗れない」

 ルイスはルナに腹を立てながらも、フェリオの背に乗ることは頑なに拒んだ。くるりと振り返って早足に歩きだすと、背後からため息が聞こえてくる。それから蹄の音が横に並び、ふうふう言いながら歩いている歩いているルイスを、フェリオが呆れたように見下ろした。

「急がないと汽車に乗り遅れてしまいます」

「だから急いでいるでしょう? それとも、あたしがあなたの背中に乗らないと、汽車に乗り遅れると星が予言をしているの?」

「分かっているなら早く乗ってください」

 ルイスは釈然としなかったが、隣で立ち止まり乗りやすいように屈んでくれたフェリオの背にまたがると、振り落とされないようその体に手を回した。しっかり掴まったことを確認すると、フェリオは風を切るようにして走りだした。

「あたしは別に、フェリオを馬やロバみたいに思ってなんかいないからね」

「分かっています」

「でも、フェリオの仲間たちはそうは思わないかも」

「乗せたヒトがあなたなら、誰も文句は言わないでしょう」

「それはあたしが――あたしがジュリアード家の人間だから?」

 この森はジュリアードの領地だから、誰もジュリアード家の者を襲ったりはしない。

 そう言ったラウルの声が、今も耳の奥に残っている。フェリオがこうやってルイスに世話を焼くのは、自分がジュリアードの人間だからだろうかと思うと、何だか沈んだ気持ちになった。

 フェリオはルイスの言葉に対して何も言わない。それが答えのような気がして、なぜか鼻の奥がつんと刺激されるのを感じた。森の出口に辿り着くと、フェリオはまた態勢を低くして、ルイスが降りやすいようにしてくれた。

「――どうもありがとう、フェリオ」

 ルイスは背中から滑り降りるとすぐに礼を言ったが、フェリオの顔を見ることはしなかった。今フェリオの顔を見たら、もしかしたら泣きだしてしまうかもしれないと思ったからだ。

 フェリオは何かを言いたげにしているようにも感じられたが、結局は何も言わなかった。庭の空を見上げると、ルナが大きく翼を広げて飛び回っている。

「ああ、ルイス。よかった。もう出発しなきゃいけない時間だったんだ――どうかしたのかい?」

「ううん、何でもない」ルイスはにっこりと笑って、首を横に振った。「ルナ、降りてきて!」

 いつもは籠に入ることを渋るルナも、どういうわけか今日はおとなしく籠に納まった。ほうほうと静かに鳴き、大きなくりくりとした目をルイスに向けて、従順ですよと語りかけてくるようだった。

 ルイスはふと、ケンタウルスたちは他の言葉をもたない動物たちと会話をすることができるのだろうかと、疑問に思った。ふくろうはこちらの言葉を理解しているかもしれないが、ルイスはふくろうの言葉を理解することができない。でももし、ケンタウルスは言葉を持たない動物たちとも話ができるのなら、ルナは一体フェリオと何を話したのだろう。

「ルイス?」

「ん? あ、うん」

 今日ばかりは煙突飛行が苦にならなかった。それ以上に、フェリオがルイスをどのように思っているのかを考える方が、ずっと苦だった。ルイスがジュリアードの人間だからという理由で、今まで仲良くしてくれていたのだとしたら、相当なショックだ。しかし、ルイスがフェリオを好きだからといって、フェリオがルイスを好いているとは限らない。そのようなことくらい、ルイスにも分かっている。

 ルイスはマグルの地下鉄のなかで、ほとんど何も話さなかった。リーマスもルイスの様子がおかしいと思いながらも、あえて何も聞かないようにしているようだった。

 キングズ・クロス駅の九と四分の三番線に到着すると、ホームは人で混雑していたが、出発までにはまだ少し時間が残っていた。

「懐かしいな。凄く久しぶりだ」

 ルイスの横に立つリーマスは、とても嬉しそうに辺りを見回していた。その表情は悪戯を思いついた子供のようにきらきらとしていて、突然十歳も若返ったようにさえ見えた。

「またここにこられるとは思わなかった」

 リーマスやラウルのような体質、人狼と呼ばれる者たちは本来、学校に通うこと自体が難しいのだ。ふたりが学生の時代、脱狼薬はまだ存在していない。約一ヵ月に一度の周期でやってくる満月の晩に、狼に変身し人間を襲う人狼は、人とも動物とも認められていないのだ。社会的地位というものがなく、日々虐げられ続けている。

 そのようなふたりの人狼を受け入れたのが、現ホグワーツ校長のアルバス・ダンブルドアだった。人狼だからというだけで教育を受けられないのはおかしいと、ふたりの入学を認めてくれたのだ。

 校長がダンブルドアでなければ、ふたりはホグワーツに通うことはできなかっただろう。そして、この九と四分の三番線には、一度だって足を踏み入れることができなかったはずだ。

「あ、そうだ。ルイスにプレゼントがあるんだったよ」

「プレゼント?」

「そう。はい、どうぞ」

 リーマスは継ぎ接ぎローブのポケットから取り出した紙袋をルイスに渡した。中を見ずとも、それが何かはすぐに分かった。キャンディだ。

「美味しそうに食べていたからね」

「ちょうど昨日で終わってしまったの。ありがとう」

 久しぶりににっこりとしたルイスを見て、リーマスは少し安心したようだった。

「さあ、そろそろ汽車に乗り込んでいた方がいい。トランクを乗せるのを手伝ってあげよう」

 汽車の入り口の上からルイスがトランクを引っ張り、リーマスが下から押し上げた。ルナの入った籠とトランクを脇に退け、ルイスはありがとうと言って笑った。

「手紙を書くね。きっと授業の愚痴ばかりになってしまうと思うけれど」

 すると、リーマスは少しかわいそうなものでも見るような目でルイスを見た。ギルデロイ・ロックハートのことを考えているのだと見透かしたに違いない。

「大丈夫、きっと楽しいよ」

 リーマスは励みにならない励ましをルイスに送った。

「そうなるといいけれど」

 ルイスは苦笑いを浮かべると、去年とまるで同じことを言っている自分に気が付いた。

「いいかい? 何度も言われているから、分かっているとは思うけど、無茶なことや危険なことはしないようにね。子供たちだけではどうすることもできない問題が起こったら、先生や私たちに相談するんだ。あまり羽目を外さないように。また夜にベッドを抜け出して先生やフィルチさんに見つかることがあれば、今度こそ君のところに吼えメールを送ると、ラウルからの伝言だ」

 ルイスはぎゅっと眉根を寄せた。それを見てリーマスは楽しそうに笑うと、ルイスの肩に手を置く。

「正直に言うと、私たちはルイスに規則を守れと言える立場にない。私たちも相当学校の規則を破っていたからね」

「ラウルからの伝言を聞くと、先生たちに見つからないように規則を破れって言われているみたい」

「そういうことなんだと思うよ」リーマスは頷きながらくすりと笑った。「さて、そろそろ出発の時間だね」

 リーマスは少しだけ名残惜しそうな表情を見せた。ルイスも、今まではふたりきりだった家にリーマスが来てくれてとても嬉しかったし、楽しい夏の休暇だった。ギルデロイ・ロックハートのこともあるし、学校にはあまり行きたくなかったが、クリスマス休暇にまた会えるのだと思い直し、リーマスの頬に短くキスをする。

 リーマスが驚いて目を見開いたのを見て、ルイスは少し恥ずかしくなって頬を赤らめる。

「家族の挨拶なの。ラウルが言っていたのだけれど、あの、嫌だったらごめんなさい」

「……家族の挨拶か、ラウルらしいね」

 そう言ってリーマスが微笑んだので、ルイスはほっと胸を撫で下ろして、両手に荷物を抱えた。

「それじゃ――」

 ルイスが行ってきますと言いかけてちらりと横を見ると、隣の入り口からウィーズリー家の兄弟たちが汽車に乗り込んでくるのが見えた。乗り込んだとほぼ同時に、汽車が汽笛を鳴らす。ゆっくりと走りだす汽車を見送る声とは別の騒がしさが九と四分の三番線の入り口を取り巻いていて、そちらに気をとられていたルイスは、リーマスにちゃんとした挨拶をすることができなかった。

 しかし、リーマスもそちらに気をとられていたようで、カーブを曲がってホームが見えなくなる瞬間に振り返ったリーマスと、最後に一瞬目が合ったような気がした。

 ルイスはがらがらとトランクを引っ張って、取り敢えず空いているコンパートメントかハーマイオニーの姿を探そうと思った。しかしその前に、隣の入り口付近で固まっているウィーズリー兄弟のところへ行ってみることにした。方向的には、進行方向とは逆のコンパートメントを目指す格好で歩き出した。

「ぎりぎり間に合ったみたいだね」

 ルイスはそうして声をかけてから、全員が青い顔をしていることに気が付いた。きょとんとして首を傾げる。

「どうかしたの?」

 左からパーシー・ウィーズリー、フレッドとジョージ・ウィーズリー、そして今年入学のジニー・ウィーズリーが互いに顔を見合わせている。ルイスはすぐに、その中にロンとハリーの姿が見当たらないことに気付いた。ハリーはこの一ヵ月間、ウィーズリー家で寝泊りしていたはずだ。

「ハリーとロンは? まさか……」

「そのまさかだよ」

「乗り遅れたみたいだ」

 フレッドとジョージは蒼白な顔のままでルイスを見た。いつもは楽観的なふたりがそのような顔をしたので、ルイスは少し驚いた。

 しばらくの間沈黙が続いていたが、最初にそれを破ったのはパーシーだった。監督生のPの銀バッチが、反り返った胸できらきらと輝いている。

「まったく、僕は付き合っていられない。失礼するよ、監督生の仕事があるんでね」

 パーシーはぶつぶつ言いながらルイスの横を通り抜けて、監督生専用の車両に向かっていった。フレッドとジョージがなんて無責任なんだ、バッチを汽車から投げ捨ててやるなどと、口々に喚き散らそうが、どこ吹く風だった。

「乗り遅れたっていうけれど、ふたりも駅までは一緒にきたんでしょう?」

 ルイスは話を戻すために、感情が高ぶっている双子にではなく、妹のジニーに話しかけた。

「ええ、一緒にきたわ。だけど、本当に出発の時間ぎりぎりだったから」

「いなかったことに気付かなかったの?」

「そう……」

「まあ、乗り遅れてしまったんだもの、それは仕方がないとして」ルイスがパーシーと同じように無責任なことを言い出したので、三人は少し面食らったようだ。「別に見捨てようってわけではなくてね。汽車が出発するとき、少し出入口の様子がおかしかったの」

「私も見たわ。外に出られないみたいだった。ホームにいた人たちは大丈夫かしら」

「大丈夫だと思うよ。大人の魔法使いや魔女たちは、大抵姿くらましができるから」

 ジニーが言った外に出られないみたいだったという言葉に、ルイスは何か手違いがあって九と四分の三番線の出入口が塞がれてしまったのだろうと思った。しかし、そんなことが実際にありえるのかどうかは疑問だ。だが、ルイスとジニーがふたりでその現場をちらりとでも目撃したのだが、信憑性は高い。

「そうだな、ここでごちゃごちゃ言ってても仕方がない」

 フレッドが諦めたように言った。すると、ジョージもそれに頷き、トランクを持ち直す。

「あたし、ふたりが乗り遅れたことをマクゴナガル先生に手紙で知らせてみる。ルナが届けてくれるだろうから」

「ああ、頼むよ」

 そう言うと、双子たちはトランクをがらがらと引き摺りながら行ってしまった。コンパートメントをちらちらと覗きながら歩いている。きっと親友のリー・ジョーダンを探しているのだろう。

 しかし、これまでに汽車に乗り遅れた人がいたという話は、ルイスも聞いたことがない。ハリーとロンは一体、どうやってホグワーツまで行くのだろう。

「ジニー、一緒にくる? ハーマイオニーを探さなければいけないのだけれど」

 ルイスが気さくに話し掛けると、ジニーはにこりと微笑んで頷いた。少なくとも、ルイスを見て怯えているような素振りは、まだ一度も見せていない。コンパートメントをひとつずつ確認しながら歩いていると、ジニーがぼそぼそと話し出した。

「本当はね、ママがあなたとはあまり親しくしてはいけないと言ったの。直接ではないけど、私にはそう言っていたように聞こえたわ」

「ふうん」

 何とも思っていないような素振りをルイスが見せると、ジニーは少し目を丸くした。

「だけど、ママがそう言ったら、ロンとフレッドとジョージがかんかんになって怒ったの。パパもよ。私、あなたと仲良くしたいわ。だって、三人の話を聞くかぎりでは、ママが言うような人だとは思えないんだもの」

「あなたのお母さんがあたしのことを何て言ったかは知らないし、知りたくもないけれど、そうね、ジニーがあたしと仲良くしてくれるのなら、もちろん嬉しい」

 後ろ指を差されることには慣れている。しかし、決して傷つかないわけではない。ジニーの言葉も、ロンや双子たちが自分のために怒ってくれたということも、ルイスはただ純粋に嬉しかった。

 ふたりはもう何個ものコンパートメントを見て回り、ハーマイオニー・グレンジャーの姿を探したが、なかなかその姿を見つけることができなかった。しかし、残っているコンパートメントがあとふたつだというときになって、今まさにルイスが開けようとしたコンパートメントから、見慣れた栗色のふわふわとした髪の毛が視界に現れた。

「ハーマイオニー、よかった。あなたを探して――」

「まあ! いつまで待っても通りかからないから心配していたのよ! 私、ここでじっとしているほうがあなたたちに早く会えるだろうと――」

 ハーマイオニーはルイスの言葉を遮ってほっととしたように息を吐き、叫ぶようにそう言った。すると、籠の中で大人しくしていたルナがその大声に驚き、ハーマイオニーを威嚇するように鳴いた。

「あら? ハリーとロンはどうしたの?」

 不思議そうに首を傾げるハーマイオニーを見て、ルイスとジニーは顔を見合わせた。自分たちの荷物と一緒にハーマイオニーをコンパートメントの中に押し込み、ジニーがあまり詳しいことを知らないルイスとハーマイオニーに、すべてを話して聞かせた。その間に、ルイスはマクゴナガル先生宛に急いで手紙を書いた。

 マクゴナガル先生へ、という書き出しのあと、ハリーとロンが汽車に乗り遅れてしまったということ、九と四分の三番線の出入口が何らかの事故で塞がってしまったかもしれないということ、それが原因でふたりが汽車に乗り遅れてしまったかもしれないと、ルイスはとりあえず要点だけを書き記した。

「まあ、そんな……じゃあ、ふたりは――」

「多分大丈夫だと思うわ。だって、出入口が塞がれていたからって、すぐ近くにうちのパパとママがいるわけだし、出入口がいつまでも塞がっているわけじゃないでしょ?」

 これではどちらが年上か分からないと、ルイスはふたりに分からないよう、こっそりと笑った。ジニーよりハーマイオニーの方が、ずっと取り乱しているように見えたからだ。

「さあ、ルナ。仕事の時間だよ」

 ルイスが籠を開けると、ルナはその中から飛び出して膝の上に降り立った。

「大急ぎでホグワーツまで行って、この手紙をマクゴナガル先生に届けてほしいの。ホグワーツ特急がホグズミード駅に着く前にね」

 ルイスはコンパートメントの窓を空け、足に手紙を括り付けたルナをそこから放した。ルナは少し風に流されて後方に飛ばされたが、すぐに平行感覚を取り戻すと、汽車を追い越して学校の方に向かって飛んでいった。

 窓を閉めて振り返ると、ハーマイオニーのふわふわした髪が倍に膨れ上がっている。ハーマイオニーはそれを撫で付けることに必死だった。

 ルイスはそれを横目に見ながらトランクを開けて、また羊皮紙を取り出した。一度閉めてしまったインク瓶の蓋をジニーに開けてもらうと、それに羽ペンに浸し、一気に書き上げた。

 

 

 リーマスへ

 

 友達のハリーとロンがホグワーツ特急に乗り遅れてしまったの。汽車が出発するときに出入口のところが騒がしかったけど、何かあったの? 出入口が塞がって、ホーム側の人たちが外に出られないみたいだったって、そう言ってる子がいるのだけれど、出入口は本当に塞がれていた? ハリーとロンはそのせいで乗り遅れたのかもしれない。一応マクゴナガル先生にはルナで手紙を送ったけれど、本当かどうか分からなかったから――子供の力ではどうしようもない状況って、今みたいなことをいうの? どうか手を貸してください。

 

 ルイスより

 追伸――この手紙が無事に届くといいんだけど。

 

 

「また手紙を書いているの?」

 ジニーが手元を覗き込もうとするのと同時に、ルイスは手紙を小さく折り畳み、頷くのと一緒にポケットに入れていた杖を取り出した。

「エイビス!」

 ルイスがそう言って杖を一振りすると、一羽の空色の小鳥が杖先から飛び出した。指を差しだすと空色の小鳥はそこに停まり、翼をバタバタとはばたかせる。ハーマイオニーとジニーは突然のことに驚いて、目を丸くした。

「お願いだから、この手紙を必ず家に届けてね。絶対よ。そうしたら森に放してもらえるからね」

 空色の小鳥はチュンチュンと鳴き、ルイスが足に手紙を結び付けている間も、忙しなく動き回っていた。元気はよさそうだが、あまり頭が良さそうには見えない。

 今度はコンパートメントの窓を僅かに開け、お願いだから真っすぐ家まで飛んでね、と念じるように頼み込んで、隙間から小鳥を外に放り出した。

「お兄さんに手紙を出したの?」

「ああ、うん――そう」

 ルイスはいちいちリーマスのことを説明するのが面倒で、ハーマイオニーの問いにこくりと頷いた。

「出入口が塞がれたことについて、何か知らないかと思って」

 ルイスは空色の小鳥を送り出してすぐ、あの鳥が家に手紙を届け損ねるような気がして、少し不安になった。

 車内販売がやってくると、ルイスは朝から飲まず食わずだったことを思い出し、大鍋ケーキをひとつと、かぼちゃジュースを人数分買った。ハーマイオニーは人数分のちょっとしたお菓子を買い、それらを三人で分け合いながら食べた。

「ジニーはどこの寮に――といっても、グリフィンドールに決まっているよね」

 ジニーには、去年のロンほど緊張した様子がなかった。

 話をしてみると、ジニーはさすがウィーズリー家の末っ子だと言いたくなるくらい明るい子だった。ロンの性格より、双子の性格を色濃く受け継いでいるような感じがする。悪戯を思いついたようなきらきらした表情は、双子にそっくりだとルイス思った。

 それに、ジニーはハリーにかなりご執心らしく、一年生の頃のハリーの話ばかりを聞きたがった。ジニーはハーマイオニーが話して聞かせるハリーの話に夢中だったし、ハーマイオニーもジニーが聞き上手なせいか、話すことに夢中になっている。ルイスも時々話に交ざったが、それ以外は窓の外を眺めてホグワーツまでの汽車の旅を過ごしていた。

 しかし、すぐに窓の外を見ているんじゃなかったと、後悔することになった。声にならない声をあげそうになったルイスは慌てて手で口に蓋をし、窓の外とコンパートメントの中を交互に見比べた。話に夢中のふたりは、外の様子になど一切興味がないようだった。

 ルイスはゆっくり息を吐き、もう一度外に目を向けるが、そこにはもう何もなくなっていた。

 もしルイスの見間違いでなければ――見間違いであって欲しいと思うが――空を飛んでいたのだ。それは空色の小鳥でも、ふくろうでもない。車だ。空飛ぶ車が、左右に頼りなく揺れながら飛んでいた。

 ルイスは一瞬にして蒼白な顔になった。空飛ぶ車を持っている人物に、心当たりがある。信じたくはないが、あれに乗っていたのはハリーとロンではないだろうか。見たくなかった。見ない方がよかった。どうして見てしまったのだ。

 ルイスは大鍋ケーキを口のなかに詰め込み、いっそ息が止まってしまえと思った。自分が学校に手紙を書いたことも、間違いだったのではないだろうか。もし彼らが見つからずに学校まで辿り着くことができたとしたら、どうやってホグワーツまで来たのかを話さなければならない。違法の空飛ぶ車で来たなどと先生に知られてしまえば、ハリーとロンだけではなく、マグル製品不正使用取締局に勤めているというロンの父親も罰せられるだろう。

 ルイスはそれ以降、ホグズミード駅に着くまでほとんど一言も発しなかった。ふたりは心配そうにルイスを見たが、どうやら大鍋ケーキを食べ過ぎたようだと、そう適当に誤魔化しておいた。

 ルイスは心底悪いことをしたような気分になり、自己嫌悪に押し潰されそうになっていた。学校に着いてから、マクゴナガル先生にあの手紙は間違いだったと言っても、きっと信じてはくれないだろう。

 まずいことになった――そう思いながら、夕暮れ色に染まりつつある空を見上げる。ホグワーツは、もうすぐそこにまで迫ってきていた。

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