ホグワーツ特急を降りると、一年生だけがボートに乗っていくので、ジニーだけがふたりと別れ、ハグリッドの後ろを少し不安そうについていった。ハグリッドはルイスとハーマイオニーに声をかけていったが、ハリーとロンのことについては何も触れなかった。ただ、元気のないルイスを慰めるように肩をばしばしと叩いていった。
「……何これ」
ルイスは二年生から上の学年の為に用意されている馬車の前までくると、ぴたりと足を止めた。滅入っていた気分が、更に滅入っていくのを感じる。馬車を引っ張っている気味の悪い巨大コウモリのような、ごつごつと骨張っている体付きの――おそらくそれは馬のようなものなのかもしれないが、ルイスの目には馬には見えなかった――生き物が、馬車に人が乗り込むのを待って、走り出す。頭はドラゴンのようで、背中には翼が生えていた。
それがあまりにも気味悪くて、ルイスは急いでハーマイオニーを引っ張り、馬車のなかに乗り込んだ。一体あの動物は何という動物なのだろう。青白い顔をして考えていると、馬車のなかにふたりの男の子が乗り込んできた。
ルイスははじめ、その男の子が誰なのか気にもしていなかったが、こちらを見て少し驚いたのを認めて、誰なのかを思い出した。
「あなたはあの時の、ええと……」
「セドリック。セドリック・ディゴリー。あのときはありがとう」
男の子はにっこりと微笑み、ルイスに手を差し出してきた。
「別にお礼を言ってもらえるようなことはしていないから。あたしは――」
「ルイス・ジュリアードだろう? 知っているよ、君は有名人だから」
「ああ、うん、そう。いろんな意味でね」
ルイスはセドリック・ディゴリーの一言に少しむっとした。握り返していた手を放して、引っ込める。知っていてくれてありがとう。そのような顔をして笑っていたつもりだったが、様々なことが重なったせいか、ルイスはどうやら上手く笑えていなかったらしい。
「……ごめん、気を悪くさせたなら謝るよ」
「いいの。慣れているし、気にしていないから」
ルイスがつっけんどんにそう言うと、お尻辺りに鋭い痛みが走った。すぐにハーマイオニーがつねったのだと分かるが、なぜつねられなければならないのか、その意味が分からない。睨むようにして隣を見やると、ハーマイオニーは顰め面を浮かべていた。
「痛いじゃない、ハーマイオニー。どうしてつねるの?」
「あなたこそ、もう少し気のきいた話し方はできないの?」
「気のきいた話し方? どうしてあたしがそんなことをしなくてはいけないの?」
馬車を降りると、ルイスとハーマイオニーはひそひそと話しはじめた。後ろから歩いてくるふたりに聞かれたくないのか、大声を出すルイスの口をハーマイオニーは慌てて塞ぐ。
「声が大きいわよ。いい? 相手はハリーやロンじゃないんだから――」
「ハリーやロンじゃないから何だっていうの?」
ルイスはハーマイオニーの方を向いて歩いていた。だからなぜ、ハーマイオニーが目を見開いてびっくりしていたのか分からなかったし、足を止めたのかも分からなかった。そこに立っていた人物にぶつかるまで、そこに誰が立っているかなど考えもしなかった。
「痛っ――あ、セブルス」
ルイスが反射的にぶつかってしまった相手を見上げると、そこにはいつも以上に険しい表情を浮かべている、セブルス・スネイプが立っていた。ぶつかってしまったことを、謝る隙すら与えない。
「Miss.ジュリアード、着いてきたまえ」
「は、はい」
見えないロープにでも繋がれているような気分だった。後ろを振り返ると、心配そうなハーマイオニーの顔と、その後ろから歩いてくるセドリック・ディゴリーの姿が見えた。ルイスはハリーやロンについて聞きたかったが、今のセブルスにそんなことを聞こうものなら、感情の大爆発を起こしてしまいかねない。
ルイスは別に自分が悪いことをしたわけではないのに、妙に後ろめたい気持ちになっていた。
「入りたまえ」
連れて来られたのは、地下にあるセブルスの研究室だった。机のまわりには、新学期からの授業で使うと思われる薬草などが瓶詰めになって置かれている。他にも大きなガラス容器に入った緑色をした気味の悪いものや、ホルマリン漬けにされた何かの脳みそらしきものが見えた。セブルスは乱暴に杖を振り回してそれらを片付け、最後にもう一度杖を一振りすると、背もたれの付いた椅子を取り出した。
「座るんだ」
ルイスは言われるがまま、その椅子に腰を下ろした。セブルスは机の上から一枚の羊皮紙と預言者新聞の夕刊を手に取り、ルイスの前までやってくると、それらを突きつけてくる。
「君はその羊皮紙に見覚えがあるはずだ」
「うん、あたしがマクゴナガル先生に送った手紙だから」
ルイスは羊皮紙を開いて、なかの文字を確かめた。確かに自分の書いた字だし、文章だ。ひとつも違っているところはない。
ルイスはちらりとセブルスを盗み見た。
セブルスは落ち着きなく、ルイスの前を行ったり来たりしている。眉間の皺はいつもの五割り増しだと思った。黒いローブをはためかせ、脂っこい髪を肩まで伸ばし、がりがりに痩せた体に土気色の不健康そうな顔、鉤鼻のその人は、去年とまったく変わっていない、いつも通りのセブルス・スネイプだ。
「でも、どうしてセブルスが持っているの?」
「私がマクゴナガル教授から預かったからだ。その手紙に書かれていることは事実かね」
「事実、だと思う。だけど、こっちの記事も事実なの?」
ルイスはセブルスに押しつけられた新聞に目を落とした。新聞の一面大見出しには、まさにルイスの恐れていた記事が掲載されていたのだ。
――空飛ぶフォード・アングリア、いぶかるマグル、そう大きく記され、空飛ぶ車の写真がはっきりと写っている。
「車はホグワーツに向かって飛んでいる。もうすぐご到着する頃だろう。やつらが来れば、何が真実で何が嘘かはすぐに分かる」
「まさか――まさか、あたしが嘘の手紙をマクゴナガル先生に送ったとでも思っているの?」
「その可能性がないわけではあるまい」
「何のために?」
「君があのふたりを庇っているとは考えられんかね」
「庇うのだったら、普通はもっと利口な方法を考えるけれど。マクゴナガル先生に嘘が通じるとは思えないもの。例えば――」
ルイスが今まさにセブルスに食って掛かろうとしていると、突然、金属が捻り潰されるような、何かが壁に激突したような、もの凄い音が頭上の方から聞こえてきた。すると、セブルスはにやりと薄気味悪い笑みを口元に浮かべ、その場で踵を返して、ローブを翻した。
「君はここで待っていたまえ」
セブルスはきっと、ハリーを退学にさせるための格好の口実を手に入れたと喜んでいるのだろう。
去年はクィレル――正しくはヴォルデモート卿だったが――の手から必死になってハリーの命を守ろうとしていたというのに、もうハリーの父親への借りを返したつもりなのか、セブルスはこれで心置きなくハリーを退学させられると思っているに違いない。ほんの些細なことですらハリーを退学へと導く材料になるのではないかと、そう考えているのではないだろうか。
それに、セブルスが九と四分の三番線の出入口が塞がってしまったことを本当に信じていないということは、あの小鳥はリーマスに手紙を届けられなかったのかもしれない。
「さあ、入りたまえ!」
その声は、ルイスを部屋へ招き入れたときとはまるで響きが違っていた。今のセブルスを何か言葉で例えるのなら、生き生きとしている、としか言い様がない。
ルイスがため息を吐いていると、開けられたドアからハリーとロンが姿を現した。ふたりは、何故ここにルイスがいるのだと一瞬不思議そうな顔をして見せたが、それもほんの一瞬で、セブルスに向けられる視線に恐怖のあまり縮み上がっているようだ。
ルイスは椅子から立ち上がって、少し脇に除けた。
「なるほど」セブルスは猫撫で声で言った。「有名なハリー・ポッターと、忠実なご学友のロナルド・ウィーズリーは、あの汽車ではご不満だった。ど派手に登場したい。それがお望みだったわけか」
「違います、先生。キングズ・クロス駅の柵のせいで、あれが――」
「黙れ! うまく口裏を合わせたつもりなのかもしれんが、私は騙されん。あの車はどう片付けた?」
ふたりは瞬時に言葉を失った。ルイスが口裏なんか合わせていないと文句を言おうとすると、セブルスが目の前までやってきて、夕刊預言者新聞を引ったくった。そして、それをふたりの前に広げると、感情を押し殺したような声で言った。
「君たちは見られていた」ハリーかロン、どちらかの喉の鳴る音が聞こえた。「空飛ぶフォード・アングリア、いぶかるマグル――ロンドンではふたりだ、ノーフォーク、ピーブルズ――少なくとも六、七人のマグルに見られていた。確か、君の父親はマグル製品不正使用取締局に勤めていたはずだな」
セブルスは新聞から顔を上げて、一層意地悪くほくそ笑んだ。
「何ということだ。捕らえてみれば、重大な過ちを犯したのが我が子だったなど、あまりに悲劇的ではないか」
ハリーはがっくりと肩を落とし、打ちのめされているように見えた。車に乗っていたときは早くホグワーツへ到着するために必死だったのかもしれないが、たった今セブルスの言ったことを聞いて、ウィーズリー氏に迷惑をかけるという事実に気が付いたのかもしれない。
「私が庭を調査したところによれば、非常に貴重な暴れ柳が相当な被害を受けたようだ」
「あの木より、僕たちの方がもっと被害を受けました」
ロンが思わず言ってしまった、というふうに口を利いた。
「黙れ、ウィーズリー!」
セブルスの声にふたりは肩をびくりと震わせた。ルイスはただ立って見ていることしかできず、手に持ったマクゴナガル先生宛ての手紙を両手でもてあそんでいた。
「まことに残念なことではあるが、君たちは私の寮生ではない。ふたりの退校処分は私の決定するところではない。これからその幸運な決定権を持つ人物たちを連れてくる。ふたりとも――君もだ、ジュリアード。ここで待て」
それから十分ほどの時間、三人は黙りこくっていた。一言でも話せば何か特別な罰が課せられるかのような、そのようなことを思わせる沈黙だった。
セブルスが戻ってきたとき、最初に連れてこられたのは、やはりグリフィンドールの寮監であるマクゴナガル先生だった。
マクゴナガル先生は入ってくるなり唇を真横に引き結び、今までに見たことがないくらい厳しい面持ちで、激怒しているように見えた。加えて杖を振り上げたのを見て、ルイスはぎょっとして目を剥いたが、マクゴナガル先生は火の気のない暖炉に火を入れただけだった。
「おかけなさい」
マクゴナガル先生は三人に椅子をすすめた。ハリーとロンは暖炉の傍の椅子に座ったが、ルイスは遠慮をしてセブルスが出してくれた椅子にひとり、離れた場所に座った。あの張り詰めた緊張のなかに飛び込むのはごめんだったし、マクゴナガル先生も何も言わなかった。
「ご説明なさい」
マクゴナガル先生の不吉に光を反射させる眼鏡を見て、ロンが顔色を伺うようにして話し出した。
どうやらルイスとジニーが見ていた通り、キングズ・クロス駅の九と四分の三番線は、ふたりが言うには通り抜けることが不可能だったようだ。あとはほとんど想像通り、駅に来るために使った車が空を飛ぶ能力を持っていたことを思い出し、それに乗って学校に行こうと思ったと、そう告白をしていた。
「ですから、僕たち、他に方法がありませんでした。先生、僕たち、汽車に乗れなかったんです」
「何故ふくろう便を送らなかったのですか? あなたはふくろうをお持ちでしょう?」
すると、ハリーはぽかんとした表情を浮かべた。口をだらしなく開けて、先生を見つめている。
「ぼ、僕、思いつきもしなくて……」
「考えることもしなかったでしょうとも。あなた方ふたりの代わりに、ジュリアードがふくろうを送ってくれました」
マクゴナガル先生がそう言うと、ふたりは何故ルイスがここに呼ばれていたのかを理解したようだ。しかし、また部屋の扉がノックされ、ますます上機嫌になったセブルスとダンブルドアが中に入ってくると、ハリーとロンはますます萎縮してしまう。
ダンブルドアは、いつもとはまったく比べものにならないほど深刻な顔をしていた。いつもにこやかで、目をきらきらと悪戯っぽく輝かせているダンブルドアはどこにもいない。
「どうしてこんなことをしたのか、説明してくれるかの?」
ダンブルドアの声は、どこか失望したような響きがあった。これならきっと、思いきり怒鳴られたほうがずっとましに違いない。
ダンブルドアがふたりをじっと見つめていても、ふたりはダンブルドアをまっすぐ見つめられるはずがなかった。故に、ハリーは先生の膝の辺りを見て話していた。空飛ぶ車について、あたかも駅の外にたまたま止めてあったものに乗ってきたような話し方をしていたが、きっとダンブルドアにはすべてがお見通しのはずだ。
ハリーが話し終えても、ダンブルドアはしばらくの間黙っていた。ルイスが扉の前に立っているセブルスに目を向けると、精神的に痛め付けられているふたりの姿を見て大層ご満悦な、半ば興奮したような表情を見ることができた。
「あっ……」
ルイスが小さく声を洩らすと、部屋中の視線がこちらに集まった。
それでも、ルイスはセブルスの立っている方向から目を逸らすことができず、口をぱくぱくと動かしながら、何とかそれを指差した。完全には閉まっていない扉の向こうから来ようとしているものに、ルイスは驚いていた。
「ルイス、一体何だ」
セブルスが訝しんで振り返ると同時に、一羽の小鳥がセブルスの横顔を掠めて、部屋の中に飛び込んできた。ルイスには見覚えのある鳥だった。本当は空色のはずなのに、暖炉で燃え上がっている炎のせいで、オレンジ色に見える。
小鳥はダンブルドアの頭の上でぱたぱたともがき、足に括り付けられていた手紙を自力で外すと、まっすぐにルイスのところへ飛んできた。小鳥はルイスの肩に乗ると急におとなしくなり、可愛らしい声でちゅりちゅりと鳴いた。
鳥がここに来たということは、リーマスが手紙を受け取り、ダンブルドアに返事を書いて寄越したということかもしれない。そう思い、ルイスは肩の鳥をちらりと見る。
「はて、一体誰から……」
ダンブルドアは足許に落ちたそれを拾い上げると、小さく折り畳まれた紙を丁寧に開き、険しい表情のまま手紙に目を通している。
「僕たち荷物をまとめます」
小鳥が運んできた手紙とルイスをちらちらと見ていたマクゴナガル先生が、ロンの観念したような声に、眉間の皺を一本増やした。
「ウィーズリー、それはどういう意味ですか?」
「僕たち、退校処分になるんでしょう?」
ロンが諦め切ったようにそう言うと、ハリーは急いでダンブルドアの顔を見た。ダンブルドアはちょうど、小鳥の運んできた手紙を読み終えたところだった。ダンブルドアはその手紙を、そのままマクゴナガル先生に渡した。
「Mr.ウィーズリー、今日というわけではない。しかし、君たちが犯した過ちの重大さについては、はっきりとふたりに言っておかねばならぬ。今晩ふたりのご家族に、わしから手紙を書こう。それに、ふたりには警告しておかねばならんが、今後またこのようなことがあれば、わしとしても、ふたりを退学にせざるを得んのでな」
セブルスはクリスマスをお預けにされたような顔をした。今ここでふたりが退学になれば、セブルスはこの先何年かのクリスマスプレゼントを望まないだろう。
まだ諦めきれないのか、セブルスは大きく咳払いをして言った。
「ダンブルドア校長、この者たちは魔法省が定めた未成年魔法使いの制限事項令を愚弄し、貴重な古木に甚大なる被害を与えております。このような行為はまさしく――」
「セブルス、この少年たちの処罰を決めるのはマクゴナガル先生じゃろう。ふたりはマクゴナガル先生の寮の生徒じゃから、すべては彼女の采配しだいじゃ」ダンブルドアは静にそう言い、マクゴナガル先生の方を向いた。「ミネルバ、わしは歓迎会に戻らねばならぬ。二言、三言話さねばならんのでな。さあ、行こうかの、セブルス。ルイスも一緒においで。美味しそうなカスタード・タルトがあった。わしはあれを一口食べてみたい」
ダンブルドアはそう言って優しい笑みを浮かべると、ルイスに手招きをした。
ルイスが気遣わしげな目をハリーとロンに向けると、ふたりはほっとしたような、がっくりきているような、少し複雑そうな顔をしている。セブルスも渋々ダンブルドアの後を追いながら、ハリーとロンを毒々しい目付きで睨みつけていた。
「ルイスにはお礼を言わねばならぬのう」
ダンブルドアは、先ほどまでの険しい表情とはまるで対照的な、穏やかな口振りで言った。
「君が学校に手紙を書かず、ご家族に九と四分の三番線の出入口について調べてもらえるよう、その小鳥を送らなければ、今夜わしはふたりの生徒を退学処分にしていたかもしれん」
ダンブルドアはルイスに向かってぱちんとウィンクをした。ルイスは困ったように笑い、肩をすくめて答えをはぐらかした。セブルスがその隣で不愉快そうにふんと鼻を鳴らした。
「そうじゃ、ルイス」
ルイスが大広間へ行くための道を曲がろうとすると、その背中にダンブルドアが声をかけてきた。
「何でしょうか」
「もしよかったら、その鳥を貸してくれんかのう。君のご家族にお礼状を書きたいのじゃが」
「はい、どうぞ」
「ずいぶんと利口な鳥のようじゃ」
ダンブルドアが手を差し出すと、ルイスの肩に乗っていた空色の小鳥が、その手に飛び移った。小鳥はダンブルドアの手の中でチュンチュンと鳴いている。
「それでは、あたしは」
「ああ、お行き」
ルイスはダンブルドアに向かって目礼すると、セブルスにちらりと目をやってから、大広間まで小走りで向かった。なるべく皆の目につかないよう態勢を低くして大広間に滑り込むと、一番端のグリフィンドールの席に急いだ。ハーマイオニーの姿を見つけてその隣に音もなく座ると、びっくりした顔がルイスを迎えてくれた。
「ああ、驚かさないでちょうだいよ、ルイス。一体何だったの?」
「少し待ってて。あたし、お腹ぺこぺこなの」
おそらく、ルイスがこれほどまでに物凄い勢いで物を食べている様子を、ハーマイオニーが見たのは初めてだろう。いつもは心配になるほどの小食なのに、今日は目の前の皿にたくさんの食物を取り分けていた。
ルイスがグリルポテトを頬張りながら教職員の席を見ると、ダンブルドアとセブルスが席に着いたところだった。そこから数席離れた場所には、ギルデロイ・ロックハートが生徒たちに向かってにこにこと微笑んだり、手を振ったりしている。
「あ、そうだ、ハーマイオニー。ジニーはどうなった? どこの寮?」
ルイスは周りを見回しながらハーマイオニーに聞いた。
「彼女もグリフィンドールよ。まったく、ロンったら自分の妹の組み分けも見ないなんて」
ハーマイオニーのぶつぶつ言う声を聞きながら、ルイスはジニーの姿をグリフィンドール寮の席に見つけて、にっこりと笑った。これで、ウィーズリー家は全員がグリフィンドール生ということになる。寮が定まっていないジュリアード家から考えてみれば、それは凄いことのように思えた。
しばらくすると、テーブルの上の料理が綺麗になくなった。ダンブルドアが立ち上がると、大広間は静まり返り、全員が一斉に教職員席の方を向いた。
しかし、グリフィンドールの一部の席では、何故かテーブルの下を覗き込み、何かをひそひそと話している姿があった。その中には、双子のウィーズリー兄弟の姿もある。ハーマイオニーはうるさくしているグリフィンドール寮生をどうにか黙らせようとしているが、ダンブルドアの話も聞かなければならないので、終始落ち着かない様子だった。
ダンブルドアが二言、三言話し終え、皆は寝る時間だと宣言すると同時に、ルイスは後ろから思いきりローブを引っ張られ、後ろに倒れそうになった。ハーマイオニーはルイスが自分の後ろをついてきていると思っているのか、席を立って先に行ってしまう。
「フレッド、ジョージ。びっくりさせないでよ」
「ごめん、ごめん」ジョージはさほど悪怯れた様子もなくルイスの体を椅子に押し戻すと、にやにやしながらフレッドと顔を見合わせた。「これを見たかい? 今日の夕刊預言者新聞だ」
「凄いぜ! 我が弟よ、なんて誇らしいんだ!」
ふたりは嬉しそうに夕刊預言者新聞を突きつけてきたが、ルイスがそれほど反応を示さないのを見て、少しがっかりしたようだった。
「あたし、それはもう見た。そのことでさっき先生に呼び出されたんだもの」
「ルイスが? それはまたどうして」
「多分、あたしがふくろう便で手紙を送ったからだと思う」
「それで? 例のふたりは――」
「もう学校にきているよ」
ルイスの言葉を聞くと、ウィーズリー兄弟はにやりと笑って顔を見合わせ、大急ぎで大広間から出ていった。嵐のように現れ、嵐のように去っていったふたりの背中を唖然として見送っていると、ルイスを置いて大広間を出ていったと思っていたハーマイオニーが興奮顔で戻ってくる。
「ハーマイオニー、どうしたの? 先に行っていてよかったのに」
ルイスが席を立つ頃には、グリフィンドール生はほとんどいなくなっていた。
「今、変な噂を耳にしたのよ! まったく馬鹿馬鹿しい話だけど、ハリーとロンが空飛ぶ車で墜落して退校処分になったって!」
そんな噂が立つなんて本当に馬鹿馬鹿しいと言っているが、ハーマイオニーが言っていることの半分は事実なのだと心の中で呟きながら、ルイスはグリフィンドール寮に向かった。
ルイスは絶対に自分の口から、それは半分事実だよ、とは言いたくなかった。言えばハーマイオニーの雷が落ちるに決まっている。あのふたりの代わりに怒鳴られるなど、真っ平ごめんだった。
「あっ!」
階段を上って廊下を辿り、あと少しで寮に到着するというところまでくると、ハーマイオニーはルイスの耳元で大声を上げて、勢い良く走りだした。
ルイスは耳鳴りする耳を押さえながら、ハーマイオニーの後ろを追い掛けた。すると、ハリーとロンがピンクの絹のドレスを着た太った夫人の前で、合い言葉が分からずにうろうろしてるところに出くわす。
「やっと見つけた! 一体どこに行っていたの? 馬鹿馬鹿しい噂が流れて――誰かが言っていたけど、あなたたちが空飛ぶ車で墜落して退校処分になったって」
「うん、退校処分にはならなかった」
ハリーはそうハーマイオニーを安心させるように言ってから、ルイスを不思議そうに見た。
――君、ハーマイオニーに言ってないのかい?
ハリーはそう言いたいのだろうと、ルイスは思った。
「まさか、本当に空を飛んでここに来たの?」
ハーマイオニーはマクゴナガル先生そっくりの口調で、厳しくそう言い放った。
「おい、お説教はやめろよ」ロンはハーマイオニーの態度に少し苛々しているようだ。「それより、新しい合い言葉は?」
「ミミダレミツスイよ。でも、話をそらさないで!」
ハーマイオニーも、ロンにまけじと苛々している。
しかし、ハーマイオニーの口にした合い言葉を太った婦人が聞いていたのか、肖像画がぱっと開くと、突然大きな歓声と拍手の嵐が起こった。グリフィンドール生全員が談話室でぎゅうぎゅう詰めになり、傾いたテーブルやふかふかの肘掛椅子の上に立ち上がったりして、ハリーとロンの到着を今か今かと待ちわびていたようだ。何本かの手が穴から伸びてきて、有無も言わせずハリーとロンの体を談話室のなかに引っ張り入れた。
取り残されたルイスとハーマイオニーは、ハリーとロンの後を追って入り口をよじ登った。
「やるなあ! 感動的だぜ! なんてご登場だ! 車を飛ばして暴れ柳に突っ込むなんて、何年も語り種になるぜ!」
ルイスの耳にリー・ジョーダンの嬉しそうな声が飛び込んできた。
ルイスはハリーとロンの周りにできている人集りにできるだけ近づかないで済むように、談話室の隅の方に置いてある肘掛椅子にひとりで腰を下ろした。
「何で俺たちを呼び戻してくれなかったんだよ!」
フレッドとジョージは口を揃えてそのようなことを言っている。ダンブルドアやセブルス、マクゴナガル先生に叱られてみればそんなことは絶対に言えなくなると、ルイスは思った。
ルイスはハーマイオニーと同じように、ふたりを快く思っていないだろう人物をひとりだけ見つけた。監督生で、ロンの三番目の兄であるパーシー・ウィーズリーだ。パーシーはこれでもかという顰め面で、ふたりの方にじりじりと歩みを進めていた。
「僕たち、ベッドに行かないと。ちょっと疲れたんだ」
パーシーの不穏な気配を察したのか、ロンはそう言うと、ハリーの背中を押して男子寮に上がる階段に向かった。ふたりは何か言いたげにこちらを見たが、ルイスは肩をすくめて頭を横に振ってみせた。
「おやすみ」
ハリーはルイスとハーマイオニーにそうとだけ言うと、螺旋階段に姿を消した。
ふたりが姿を消した後も、談話室内はしばらくの間騒がしかった。フレッドとジョージ・ウィーズリー、それからリー・ジョーダンは、あのふたりがいかに素晴らしいことをしたかを力一杯演説していたし、グリフィンドールに組み分けされた一年生たちは、あの有名なハリー・ポッターはやっぱりやることも凄いと思っているようだった。
「ルイス、あなた知っていたのね?」
ハーマイオニーはちょっと困ったような表情を浮かべて、ひとりぽつんと隅っこに座っているルイスのところにやって来た。そして、ルイスの隣にある少し傾いた肘掛椅子に座った。
ルイスは、セブルスに呼び出されてから大広間に行くまでにあったことを、簡単に話して聞かせた。
「空の旅はさぞ楽しかったでしょうね。あたしは汽車の中であの車を見てから、ずっと気が気ではなかったのに」
ルイスはハーマイオニーとジニーが汽車の中で話し込んでいるときに、窓からあの車を見たことも話した。もう隠していても仕方のないことだ。グリフィンドール生が知っているということは、学校中がそれを知っているということなのだから。
ルイスは精神的な疲れと、呆れからくるため息を吐き出した。
「ねえ、ハーマイオニー、部屋に行かない? あたしも疲れちゃった」
そう言ったルイスが本当に疲れて見えたのか、ハーマイオニーはとても哀れそうにこちらを見て、頭をこくんと縦に振った。