ハリー・ポッターと呪われた一族の少女   作:しきり

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Strategy success

 次の日の朝、ルイスは少しだけロンやハーマイオニーとは別行動をとることにした。

 まだ朝食前だったが、大広間の外でマクゴナガル先生がフリットウィック先生に、昨夜のうちにグリフィンドール寮のコリン・クリービーが襲われたという話をしているのを、偶然聞いてしまったのだ。

 コリンはミセス・ノリスのときと同じように、石にされてしまったらしい。ロンとハーマイオニーは急いでポリジュース薬を作った方がいいと言って、嘆きのマートルが取り憑いているトイレに行ってしまった。

 ルイスはというと、昨日の骨抜き事件のために一晩医務室に泊まり込んだハリーのところへ、面会に行くことにした。自分がいなくても、ハーマイオニーがいればポリジュース薬はできるだろう。ルイスは去年の経験からいって、誰も面会にきてくれないときの患者の心細さを知っていた。

「失礼します」

 ルイスは小さく呟いて、医務室の扉を自分がやっと通り抜けられるくらいの幅まで開き、中に体を滑り込ませた。昨日と同じベッドで、ハリーが朝食を取っているのが見えた。

「おはよう、ハリー。気分はどう? 大丈夫?」

 そう言うルイスの姿を見つけると、ハリーは嬉しそうににっこりと微笑んだ。

「うん、大丈夫。ありがとう」

 ハリーは左手で食べにくそうにオートミールを口に運んでいた。右手を見ると、どうやら骨は完全に蘇生されているようだった。

「ロンとハーマイオニーはどうしたの?」

 オートミールを食べ終えたハリーが首を傾げながら訊ねた。すると、ルイスは注意深く周りを見回して、マダム・ポンフリーが近くにいるのを見つけると、あとでね、と小さく囁いた。

 朝食を食べ終え、マダム・ポンフリーから退院の許可が出たハリーが着替えるのをまたカーテンの外で待っていると、ルイスはベッドの四方をカーテンで囲われている場所に目をやった。きっと、あそこに昨夜襲われたというコリンが横になっているのだろう。

 そのようなことを考えていると、さっさと着替えを終えたハリーが、カーテンの内側から出てきた。とても急いでいる様子で、マダム・ポンフリーの気が変わらない内にと、挨拶もそこそこに医務室から出て行こうとする。

 案の定、ハリーは昨夜コリンが何者かに襲われた事を話し出した。

「待って、ハリー。そのことなら知ってる。今朝先生たちが話しているのを聞いてしまったの」

 ハリーは話しながらグリフィンドール塔に戻ろうとしたので、ルイスはローブを引っ張って方向転換をした。

「ふたりならマートルのトイレにいるよ。ポリジュース薬を作り始めてると思う」

 しかし、ハリーにはまだ話し足りないことがあるらしく、更に話し続けようとするルイスの言葉を遮るように、顔の前で手を左右に振った。

「そんなことより、分かったことがあるんだ。九と四分の三番線の柵を通れなくしたのも、昨日のブラッジャーに細工をしたのも、ドビーの仕業だったんだよ!」

「ドビー? それ、誰?」

 ルイスは思い切り不思議そうに首を傾げたが、ハリーもルイスと同じように不思議そうにしてみせた。

「屋敷しもべ妖精の――って、僕話してなかった?」

 ルイスがこくんと頷くと、ハリーはちょっと済まなそうな顔をしてから、屋敷しもべ妖精のドビーの事を詳しく話してくれた。

 プリペット通り四番地のハリーのおじさんの自宅に突然、そのドビーが現れたこと。ドビーが魔法を使ったせいで、自分が魔法省――魔法不適正使用取締局――から手紙を受け取ったこと。夏休み中、ずっと友達から送られてきていた手紙をストップされていたこと。それに加え、九と四分の三番線の柵のことや、昨日のブラッジャーのことも、一気に聞かせてくれた。

「ドビーは、僕にホグワーツへ行くなと言ったんだ。昨日は家に帰れって言った。でも、ここが僕の家だよ。それに秘密の部屋のことも少し知っているみたいだった」

「部屋について何か言っていたの?」

「うん。このホグワーツで恐ろしいことが起きようとしている、歴史が繰り返される、またしても秘密の部屋が開かれた、って。それって、前にも開かれたことがあるってことだよね?」

「まあ、そうだね。そうなるかな」

 しかし、ルイスはハリーの話を聞いていて、それと同じくらい気にかかることがあった。

 屋敷しもべ妖精は基本的にその屋敷自体に縛られていて、よほどの事がない限りは、その屋敷の外に出ることはできないはずだった。それなのに、そのドビーというしもべ妖精は、おそらく主人の許しなくハリーの前に現れたのだろう。

 ふたりは三階の廊下までやってくると、周りに誰もいないことを確認してから、マートルが取り憑いている女子トイレのなかに入った。トイレのドアを開けると、ロンとハーマイオニーの声が内鍵をかけた小部屋のひとつから聞こえてきた。

「ふたりとも、僕たちだよ」

 ハリーがドアを後ろ手に閉めながら言う。すると、小部屋の中からはっと息を呑む音と、騒がしい音が聞こえたあと、ハーマイオニーの片目が鍵穴からこちらを覗いた。ルイスはそれを見てくすくすと笑った。

「ああ、ハリー、ルイス、脅かさないでよ。ほら、入って。ハリー、腕はどうなの?」

「もう大丈夫だよ」

 ふたりが狭い小部屋の中に入ると、その中は本格的にぎゅうぎゅう詰めになった。古い大鍋が便座の上に置かれ、その下には火が焚かれている。

「本当は君の面会に行くべきだったんだけど、先にポリジュース薬に取り掛かろうって言ったんだ」四人で何とか鍋を囲うようにして立ち、ハリーが内鍵を掛けるとロンが言った。「コリンのことはもう知ってるだろ? マルフォイのやつ、クィディッチの試合の後、負けた腹いせでやったんだと思うな」

「僕、話があるんだ」

 ハリーはちらりとルイスを見た。そして、ドビーのことを話し始める。そうすると、ハーマイオニーはニワヤナギの束をちぎって煎じ薬のなかに投げ入れる作業を止めて、ハリーの話を聞いた。ロンも壁に背中をぴたりとくっつけたまま、ハリーの話を聞いている。

「秘密の部屋は以前にも開けられたことがあるの?」

 ハーマイオニーは眉根を寄せた。

「ほら、これで決まりだな」ロンが意気揚々と言う。「ルシウス・マルフォイが学生だったときに、部屋を開けたに違いない。今度は我らが親愛なるドラコに開け方を教えたんだ。間違いないね。それにしても、ドビーがそこにどんな怪物がいるかを教えてくれたらよかったのに。そんな怪物が学校の周りをうろうろしているのに、どうして今まで誰も気付かなかったのか、それが知りたいよ」

「それ、きっと透明なのよ」ヒルを棒で突いて大鍋の底の方に沈めながら、ハーマイオニーが言った。「そうでなければ、何かに変装しているわね。カメレオンお化けの話、読んだことがあるわ」

「ハーマイオニー、君、本の読みすぎだよ」

 ルイスがロンに死んだクサカゲロウを袋ごと渡すと、ロンはそれをヒルの上に空けた。空になった袋をくしゃりと丸めながら、ロンはハリーに向き直った。

「それじゃ、ドビーが僕たちの邪魔をして汽車に乗せられないようにしたり、君の腕をへし折ったりしたっていうわけなのか」ロンはそう言って、思案げに首を傾げてみせた。「ハリー、分かるかい? ドビーが君の命を救おうとするのをやめないと、結局、君を死なせてしまうよ」

 コリン・クリービーが襲われた事件は、月曜の朝には学校中に広まっていた。一年生はグループで行動するようになった。ひとりで勝手に動き回ると、何者かに襲われてしまうと思っているようだ。一年生といえば、ロンの妹のジニーは、呪文学のクラスでコリンと隣り合わせの席だったらしく、すっかり落ち込んでしまっていた。フレッドとジョージは必死に励まそうとしていたが、その励まし方の何かがいけなかったらしく、パーシーがかんかんになって怒り、ジニーが悪夢にうなされているとママに手紙を書くぞと脅して、ふたりの行動を止めさせた。

 その内先生たちに隠れて、魔除けやお守りなどの護身用グッズが流行りはじめた。ネビル・ロングボトムはれっきとした純血なのにもかかわらず、それらを必死になって買い込んでいた。

 十二月の二週目に入ると、例年どおりマクゴナガル先生がクリスマス休暇中、学校に残る生徒の名前を調べにやってきた。ハリー、ロン、ハーマイオニーは名前を記入したが、ルイスはクリスマス休暇には家に帰ると前々から決めていたので、名前を記入しなかった。

 ルイスがクリスマス休暇に帰ると聞いてあまりいい顔をしなかった三人だったが、スリザリンの生徒からドラコも休暇中学校に残るらしいということを聞き付けてくると、どうやら機嫌も直ったようだった。

 休暇中なら、ポリジュース薬を使ってドラコを出し抜ける絶好のチャンスがあるに違いない。

 ところが、ポリジュース薬はまだ半分しか出来上がっていなかった。しかし、あと必要な薬品は最初から手に入れるのが難しいと分かりきっていた、二角獣の角の粉末と、毒ツルヘビの皮だった。

 休暇までにポリジュース薬を完成させるためには、セブルスの研究室に盗みに入るしかない。駄目でもともと、ラウルに相談の手紙でも送るべきだったかと、ルイスは少し後悔していた。

「いい? 必要なのは」木曜日の午後は、セブルス・スネイプの魔法薬の授業だ。その日の昼休みに、ハーマイオニーが切り出した。「気を逸らすことよ。そして、私たちのうちの誰かひとりが、スネイプの研究室に忍び込み、必要なものを頂くの」

 まさか、去年の三人だったらハーマイオニーがこんなことを言いだしたら、気が狂ったとしか思えなかっただろう。しかし、今のハーマイオニーは、確かに正気だ。

「あたしが取ってこようか? 一番警戒されていないと思うし」

 ルイスが何でもないことのようにそう言うと、三人は揃って首を横に振った。

「まあ、そうね、あなたは確かに警戒されていないとは思うけど」

「でも、気が付いていなかったのかい?」

「何を?」ルイスはきょとんとして、何も言わずに苦笑を浮かべているハリーを見た。「スネイプって、授業中はあたしのこと無視しているでしょう? だから、都合がいいかと思ったのだけれど」

「ルイス、それ本気で言ってるの?」

「だから、いったいなんだっていうの?」

 ロンが呆れたように言うので、ルイスは少し顔を顰めた。すると、今度はハリーが口を開き、これ見よがしに肩を竦める。

「無視どころか、よく気にしてると思うよ、ルイスのこと。まるで監視するみたいに」

「か、監視? まさか」

「本当よ。嘘じゃないわ。私もずっとそう思っていたもの」

 ――セブルスがどうしてあたしを監視する必要があるのだろう。

 ルイスが眉根をぎゅっと寄せて難しい顔をしながら考えていると、ハーマイオニーが話を先に進めた。

「ルイスじゃなくて、私が実行犯になるのがいいと思うわ」

 不安そうなハリーとロンを見ても、ハーマイオニーは平然としていた。

「まあ、あたしが駄目ならそれが妥当だね。ハリーとロンは今度問題を起こしたら退学処分だもの。あたしたちで一騒ぎ起こして――五分くらいあれば大丈夫でしょう? その間にハーマイオニーがスネイプの研究室に入り込む」

 魔法薬の授業は地下牢教室のひとつで行なわれた。授業はいつもと変わらず進行していたし、問題はまだ何も起こっていない。大鍋からは湯気が上がり、机の上には秤と材料の入った広口瓶が置いてある。

 セブルスはいつものように教室内を闊歩し、グリフィンドール生の作業に文句ばかりを付け、そして何故がルイスのところまでやってくると、まるでそこには誰もいないかのように振る舞った。

 いったい、これのどこが監視なんだと思い、ルイスは首を傾げる。

 ドラコがハリーやロンに河豚の目を投げ付けているのが目に入ったが、今回ばかりは文句を言うわけにもいかず、ルイスは一切合財無視を決め込んで、今は作業に集中した。

 セブルスがこちらに背を向け、毎度の授業で楽しみにしているらしいネビルいびりを行いにいくと、ハリーとハーマイオニーは軽く目配せをして、ゆっくりと頷きあった。

 ハリーは辺りの様子を注意深く観察したあと、大鍋の影に身を隠して、ルイスがフレッドから貰っておいたフィリバスターの長々花火を取り出し、杖で先をちょんと突いてみせた。花火がしゅうしゅう、ぱちぱちと音をたて始めたかと思うと、ハリーはそれを放り投げ、スリザリンのゴイルの大鍋のなかに落とした。

 ゴイルの薬が爆発すると、それが雨のようにクラス中に降り注ぎ、膨れ薬がかかった生徒たちは、それぞれに悲鳴を上げた。ドラコとゴイルは顔いっぱいに薬を浴びて、鼻が風船のように膨れ上がっている。ルイスも左手に違和感を覚えて目を落とすと、手の甲がぷっくりと膨れ上がっていくのが目に見えて分かった。

「あーあ、これは酷い」

 セブルスはどうにかして騒ぎを納め、原因を突き止めようとしているようだった。そのどさくさに紛れて、ルイスはハーマイオニーが教室からこっそり抜け出すのを横目に捉えた。

「静まれ! 静まれと言っている!」

 セブルスは激しく怒鳴り、そしてルイスの脇を通り抜けるときに、しっかりとその左腕をつかんだ。

「薬を浴びた者はぺしゃんこ薬をやるから、こちらへ来るのだ。誰の仕業か判明した暁には――」

 セブルスはそう言いながら、ルイスの手にぺしゃんこ薬を押しつけた。どうやら、飲めということらしい。それを飲み終えたそのとき、後ろからルイスを押し退けてやってくる人物がいた。鼻が小さなメロンほど膨れあがり、その重みのせいで項垂れてしまっている、ドラコ・マルフォイだ。

 ルイスは必死に笑いを堪え、道を開けてやった。自分の大鍋の前に戻って膨れ薬の具合を見ていると、ローブの前の部分を膨らませたハーマイオニーが教室に戻ってくるのが見えた。左手の膨れが収まった頃、セブルスはゴイルの大鍋の底をさらって、黒焦げの縮れた花火の残骸を掬い上げた。クラス中が不自然に静まり返る。

「これを投げ入れた者が誰か判明した暁には」セブルスが低く唸って言った。「私が間違いなく、その生徒を退学にさせてやろう。覚悟しておくのだな」

 セブルスは怪しげな生徒――明らかに、ハリーとロン――を見て言った。ハリーは必死で、いったい誰がそのようなことをやったのだろうという顔をして、周りを見回している。終業のベルが鳴ると、三人は逃げるようにして教室を飛び出していった。

 そのようなことをしたら、尚更怪しく見えるのに――ルイスはその後をゆっくりと追いかけながら、小さく息を吐き出した。

 嘆きのマートルが取り憑いている女子トイレに向かう途中で、ハリーが三人に言った。

「スネイプは僕がやったって分かってるよ」

「だけど、そうじゃないかもしれないとも思っている」

 ルイスは左手を顔の前でひらひらと振りながら言った。

「どういうこと?」

「あたしがゴイルの膨れ薬を被ったから。まさか、ハリーがあたしにそんなことをするはずがないと思ったのかも。あたしが近くにいたのに、まさかゴイルの鍋に花火を入れるわけがないってね。だから、ハリーがやったっていう確信があっても、何も言えなかったのだと思う」

 トイレに到着すると、ハーマイオニーは大鍋に新しい材料を放り込んで、鍋を夢中で掻き混ぜた。

「あと二週間で出来上がるわ」

 ハーマイオニーは嬉しそうに言った。

「ルイスの言う通りさ、ハリー。スネイプは君がやったって証明できないよ」

「だけど相手はスネイプだ――」

 ハリーが不安そうに言うと、大鍋いっぱいの煎じ薬がぶくぶくと不気味に泡立った。

 それから、あと一週間でポリジュース薬が完成するという日になって、ハリー、ロン、ルイス、ハーマイオニーが玄関ホールを歩いていると、掲示板にちょっとした人だかりができているのを見つけた。シェーマス・フィネガンとディーン・トーマスが、興奮気味に四人を手招いた。

「決闘クラブをはじめるんだって! 今夜が第一回目だ!」

 シェーマスが言った。

「役に立つかもね」

 四人で夕食に向かう途中、ロンが他の三人に言った。ハリー、ロン、ハーマイオニーは大乗り気だったので、ルイスもそれに便乗することになったが、いまいち気乗りはしなかった。

 その晩の八時に、四人は再び大広間にやってきていた。いつもの食事用の長いテーブルは取り払われ、一方の壁にそって金色の舞台が出現していた。何千もの蝋燭が漂い、舞台を照らしている。天井は見慣れた状態のままで、大広間にはほとんど学校中の生徒が集まっているのではないかと、ルイスはそう思った。

「いったい誰が教えるのかしら」生徒たちの間を縫うように進みながらハーマイオニーが言った。「誰かが言っていたけど、フリットウィック先生って、若いときは決闘のチャンピオンだったんですって。たぶん彼だわ」

「誰だっていいよ、あいつでなければ――」

 ハリーは途中まで言い掛けたが、残りは呻き声になって消えた。ルイスも、隣でそれに倣った。

 ギルデロイ・ロックハートが、舞台上に現れたのだ。深紫色のローブを纏い、後ろには何と、セブルス・スネイプを従えている。ロックハートは観衆に手を振り、静粛に、と呼び掛けた。

「みなさん、さあ、前のほうに集まって。私がよく見えますか? 私の声が聞こえますか?」

 ルイスは今すぐロックハートの見えない、声すらも聞かないで済む場所へ行きたいと思った。

「校長先生から、私がこの小さな決闘クラブをはじめるお許しを頂きました。では、助手のスネイプ先生をご紹介しましょう」

 ロックハートは満面の笑みを振りまき、ぱちん、ぱちんとウィンクの安売りばかりをしている。ルイスはうんざりとしてしまった。

「スネイプ先生がおっしゃるには、決闘についてごく僅かですが、ご存じらしい。訓練をはじめるにあたり、短い模範演技をするのに、勇敢にも手伝ってくださるという御了承を頂きました。私が彼と手合せをしたあとでも、みなさんの魔法薬の先生はちゃんと存在します。ご心配めされるな」

 ルイスはセブルスが存在するかどうかよりも、ロックハートが存在していられるかどうかのほうが興味深かった。セブルスは見るからにロックハートを殺したそうにしているし、その視線には憎しみすら込められている。これでは、小さな決闘クラブどころか、ちょっとした殺しあいになりかねない。

 ロックハートはセブルスと向き合った。腕を振り上げ、くねくねと回しながら体の前に持ってきて、大袈裟な礼をしてみせる。女子生徒たちはそれを見て、きゃあきゃあと黄色い声を上げた。対するセブルスは申し訳程度に頭を下げただけで、ふたりは杖を剣のように前に突きだして構えた。

「御覧のように、私たちは作法に則って杖を構えています。三つ数えて、最初の術をかけます。もちろん、どちらも相手を殺すつもりはありません」

「どう見ても、セブルスは殺そうとしてる」

「うん、僕もそう思う」

 咄嗟にセブルスと言い間違ってしまったことを後悔したが、ハリーはそんなこと気にもとめていない様子だったので、ルイスはほっとした。

「一――二――三――」

 ふたりとも杖を高く振り上げた。しかし、呪文を唱えたのはセブルスの方がずっと早かった。

「エクスペリアームズ!」

 目が眩むような紅の閃光が杖から飛び出し、ロックハートは舞台からすっ飛ばされて、壁に激突した。壁伝いにずるずると滑り落ちたかと思うと、無様に床に大の字になって転がった。

 ドラコや数人のスリザリン生が歓声を上げるのに合わせて、ルイスは思わずにっこりとした。頬が高潮し、セブルス・スネイプを見つめる目に尊敬の念が混じる。良くぞやってくれたと、拍手喝采したい気分だった。

 しかし、ハーマイオニーは爪先立ちで跳ねながら、不安そうな声を漏らした。

「ロックハート先生、大丈夫かしら? ルイス、あなたはどうしてそんなに嬉しそうなの?」

 ロックハートはふらふらとしながら立ち上がった。小粋に被った帽子はすっ飛び、綺麗にカールしてあった髪は逆立っている。

「さあ、みんな分かったでしょうね?」よろめきながら舞台に戻ってきたロックハートは、無理やりにこにこと笑っているようだった。「あれが武装解除の術です。御覧の通り、私は杖を失ったわけです――ああ、Miss.ブラウン、どうもありがとう。スネイプ先生、確かに生徒にあの術を見せようとしたのは、素晴らしいお考えです。しかし、遠慮なく一言申し上げれば、先生が何をなさろうとしたのかが、あまりにも見え透いていましたね。それを止めようと思えば、いとも簡単だったでしょう。しかし、生徒に見せたほうが教育的によいと思いましてね」

 ただの負け惜しみだ――ルイスはそう思って、ふんと鼻で笑った。

 セブルスはとても殺気立っていて、次こそはロックハートを殺しかねない。ロックハートもそのことにやっと気が付いたらしく、続けてこう言った。

「模範演技はこれで十分! これからみなさんのところへ下りて行って、ふたりずつ組にします。スネイプ先生、お手伝い願えますか?」

 先生たちは生徒の群れのなかに入り、適当にふたりずつ組ませていった。ロックハートは、ネビルとジャスティン・フィンチ-フレッチリーとを組ませ、セブルスはまっすぐハリーとロンのところにやってくる。

「どうやら、名コンビもお別れの時がきたようだ。ウィーズリー、君はフィネガンと組みたまえ。ポッターは――」ハリーはルイスやハーマイオニーの方へ寄ってきた。しかし、セブルスは冷笑を浮かべて、それを阻止する。「そうはいかん。Mr.マルフォイ、ここへきたまえ。かの有名なポッターを、君がどうさばくのか拝見しよう。それからMiss.グレンジャー、君はMiss.ブルストロードと組むのだ」

 ルイスはドラコと、その後ろからきたスリザリンのブルストロードを見て、軽く肩を竦めた。さり気なくその場から後退りをすると、その隣に、頼んでもいないのにセブルスがやってきた。

「言っておくけど、あたしは決闘なんてしないからね」

 ルイスはなるべく口を動かさないようにして言った。スリザリンの寮監とグリフィンドール寮生が立ち話など、明らかに異常な光景だ。

「というより、できないだろう」

 セブルスはルイスの耳元を一瞥した。

「まあね」セブルスも出来るかぎり口元を動かさないようにしているようだった。口のなかに声がこもって、聞こえづらい。「さっきはすっきりした。ロックハートをすっ飛ばしてくれてありがとう。ラウルが聞いたら大喜びするでしょうね」

 ルイスが悪戯っぽく笑って言うと、セブルスはいつもの険しい面持ちでルイスを見た。しかし、ルイスとセブルスが壁を背にして並ぶように立っていると、相手が見つかっていないとでも思ったのか、ロックハートがこちらに向かって歩いてくる。

 ルイスは思わず隣に立っていたセブルスを見上げた。ロックハートが段々とこちらに近づいてくるにつれて、セブルスの殺気が増すので、もしロックハートを殺すつもりならば、自分から離れた場所でやってほしいと思った。

「Miss.ジュリアード、どうしました? 組む相手が見つからないのですか?」

「あの、いいえ、いないというか……」

 ルイスが困り切って殺気立つセブルスと、それに気が付かないロックハートを交互に見ていると、隣に立っているセブルスが面倒臭そうに大きなため息を吐き、ロックハートに向き合った。

「よもや、この子がどんな家系の生まれかご存じないわけではありますまい。他の生徒とジュリアードを決闘の場に立たせるのは、得策とは思えませんな」

 次の瞬間、ロックハートは蛇に睨まれた蛙状態になり、何事かを口にしたあとできびすを返すと、大声を出した。

「さあさあ、皆さん、相手は見つかりましたか?」ロックハートはそう言いながら舞台の上に戻り、大広間を見渡す。「相手と向き合って! そして、礼!」

 ハリーとドラコの間には、ぴりぴりとした緊張感と、互いへの憎しみが渦巻いているように見えた。

「杖を構えて。私が三つ数えたら、相手の武器を取り上げる術をかけなさい。武器を取り上げるだけですよ。皆さんが事故を起こすのは嫌ですからね。一――二――」

 少し離れたところで、ハリーとドラコの様子を見ていたルイスは、ドラコのあまりに卑怯な行為にため息を吐いた。ハリーが杖を肩のうえに振り上げたとき、ドラコは既に術をはじめていた。ハリーはよろよろとよろけたが、間髪入れず、杖を振り上げた。

「リクタスセンプラ!」

 銀色の閃光がドラコの腹に命中し、ドラコは体をくの字に曲げて、笑い続けている。しかし、どの組み合わせも、ほとんどがハリーやドラコと同じようなことになりつつあった。

「武器を取り上げるだけだと言ったのに!」

 ロックハートは大きく叫んだが、ドラコはまだ床に膝を付いて座り込んだままだ。くすぐりの術をかけられたドラコを見下して、ハリーはもうそれ以上攻撃を仕掛けようとしなかったが、その油断がいけなかったのか、ドラコはその隙をついて声を詰まらせながら杖を振り上げた。

「タラントアレグラ!」

 次の瞬間、ハリーは両足がクイックステップを踏み出した。

「やめなさい! ストップ!」

 ロックハートが叫ぶと、隣に立っているセブルスが諦めたように息を吐いた。

「フィニート・インカンターテム」

 セブルスが浪々とそう呪文を唱えると、ハリーは踊るのを止め、ドラコは笑うのをやめた。

 緑がかった煙が辺り一面に立ちこめ、ネビルとジャスティンは肩を激しく上下させながら床に横たわっているし、ロンは蒼白な顔をしたシェーマスを抱き抱えて、折れた杖でしでかした何かを必死に謝っている。ハーマイオニーとブルストロードだけがまだ動いていて、ブルストロードがハーマイオニーにヘッドロックをかけていた。

 ハリーとルイスは咄嗟に間に入り込んで、ハリーがブルストロードを、ルイスがハーマイオニーをそれぞれ引っ張った。

「ハーマイオニー、大丈夫?」

 ルイスの声など聞こえていないのか、ハーマイオニーはハリーの手で押さえられているブルストロードを、まるで猫のようにふうふう言いながら威嚇している。

「むしろ、非友好的な術の防ぎ方をお教えする方がいいようですね」

 大広間の真ん中に面食らって立ち尽くしていたロックハートが言った。ロックハートはセブルスを横目に見たが、セブルスはすぐさま視線を逸らす。もうこれ以上の模範演技はごめんだと、そう顔に書いてあった。

「まあ、いいでしょう。さて、誰か進んでモデルになる組はありますか? ロングボトムとフィンチ-フレッチリー、どうですか?」

「ロックハート先生それはまずい」セブルスはその言葉を聞くと、思わずというように口元に嫌らしい笑みを浮かべていた。「ロングボトムは簡単極まりない呪文でさえ惨事を引き起こす。フィンチ-フレッチリーの残骸を、マッチ箱に入れて医務室に運び込むのはあまりに哀れだ」

 ネビルの頬が、みるみるうちに赤くなった。

「マルフォイとポッターではどうかね?」

「それは名案!」

 ――何が名案だよ。

 ルイスはそう思って、落胆した。セブルスはどうやら、騒ぎを起こしたくて仕方がないらしい。それとも、ハリーが全員の前で恥をかくところを見たいだけだろうか。どちらにしろ、やはり悪趣味だ。

 ロックハートは、ハリーとドラコを大広間の真ん中に来るように手招きをした。他の生徒たちは後ろに下がり、ふたりのために空間を空けた。ハリーにはロックハートが、ドラコにはセブルスが何かを耳打ちし、ふたりは睨み合うようにして向かい合っていた。

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