ハリー・ポッターと呪われた一族の少女   作:しきり

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「それじゃあ、いきますよ! 一――二――三――それ!」

 ハーマイオニーはルイスの隣で、両手を胸の前で組み合わせ、心配そうにハリーを見ている。ルイスはそれほど心配してはいないものの、この組み合わせのせいで何か問題が起こるのではないかという不安は、確かにあった。

 案の定、ドラコ・マルフォイは素早く杖を振り上げ、大声で呪文を叫んだ。

「サーペンソーティア!」

 すると、杖先から長い黒蛇がにょろにょろと出てきて、ルイスは思わす顔を顰めた。蛇はハリーとドラコのちょうど中間の辺りにぼとりと落ち、鎌首をもたげて攻撃の態勢を取っている。周りにいた生徒は悲鳴をあげ、ハリーはその場に凍り付いていた。

「動くな、ポッター」

 そう言うセブルスは明らかに、ハリーが身動きも取れずその場に立ちすくんでいる姿を見て楽しんでいる。ドラコに耳打ちをしていたのはそういうことだったのかと、ルイスはセブルス・スネイプの醜悪さに顔を顰めた。

「私が追い払ってやる」

「いえ、ここは私にお任せあれ!」

 ロックハートは胸を張ってそう言うと、蛇に杖を向けて何かの呪文を唱えた。弾けるような大きな音がして、蛇は消えるどころか二、三メートルの高さまで飛び上がり、地上にまた落ちてくる。そのことに怒り狂ってシューシューと、蛇はジャスティン・フィンチ-フレッチリー目がけて地を這って進み、牙をむき出しにして今にも噛み付いてやろうとしていた。

 すると、何を思ったのかハリーは蛇の方に足を進めて行き、蛇が威嚇をするときに出す声に似た声を喉から絞りだし、蛇に向かって言った。

『手を出すな。去れ!』

 ルイスは自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。

 ハリーは何か、わけの分からない言葉を発している。聞いたこともない言葉だ。それなのに、ルイスにはハリーが何と言ったのかが分かった。

 あれは、蛇語に違いない。パーセルタングだ。でも、どうして――?

 今はもうジャスティンを襲おうなどとは考えてもいないように大人しくしている蛇は、従順にハリーを見上げている。ハリーはジャスティンににっこり微笑みかけた。ところが、ジャスティンは恐怖におののいた顔をして、ハリーを睨んでいた。

「一体、何を悪ふざけしているんだ?」

 ジャスティンは叫ぶと、逃げるようにして大広間から出て行ってしまった。

 ルイスはポケットに手を突っ込んで杖を取り出し、ハリーのところへ駆け寄ろうとした。何よりも先に、あの蛇をどうにかした方がいい。

 しかし、ルイスがハリーのところへ辿り着く前に、手前に立っていたセブルスが猫を捕まえるように首根っ子を掴んだので、ルイスは前のめりになって息を詰まらせた。

「ヴィペラ・イヴァネスカ」

 セブルスがルイスを捕まえたまま杖を振って呪文を唱えると、黒い蛇は煙をあげて消えてしまった。そろそろとセブルスを見上げると、その目はハリーを探るように睨めつけている。

 周りの生徒たちが囁きあう声を聞きながらハリーが不思議そうにしていると、その後ろからロンが現われて何かを囁いたあと、その袖を引いて大広間から出ていこうとした。ハーマイオニーも急いでその後を追いかける。

 セブルスにローブの首元を捕まれていることも忘れ、飛び出そうとしたルイスは、また息を詰まらせてしまった。

「ちょっとセブルス、放して」

 ルイスは両手を後ろに回して、ローブを掴んでいるセブルスの手を引っ張った。ハリーの姿が見えなくなるとようやく、セブルスは掴んでいた手から力を抜いた。そして、それと同時に大広間中の生徒たちが口々にハリーのことを噂しはじめる。

「あのハリー・ポッターがパーセルマウス!?」

「それじゃあ、ポッターがスリザリンの継承者なのかな」

「そうに決まってるだろ? サラザール・スリザリンもパーセルマウスだったんだ!」

「やっぱり、フィルチの猫を石にしたのも、クリービーを襲ったのもポッターだったんだわ。今のを見たでしょう? 蛇をジャスティンにけしかけていたわ。次の狙いは――」

 ルイスは自分の周りで囁きあっている生徒たちをじろりと睨んだ。好き勝手なことを言って――証拠なんて何もないのに。

 ルイスは何だか無性に悔しくなって、今度こそセブルスの手を振り払って大広間から飛び出した。ハリー、ロン、ハーマイオニーが通ったときにできた人の道はもうなくなっていたので、人と人の間を押し退けるようにして進んだ。

 ルイスが大急ぎで走っていくと、太った婦人の肖像画を潜り、入り口をよじ登っている三人の姿をとらえることができた。入り口が閉まる前に穴をよじ登ると、蒼白になったロンとハーマイオニーがハリーを椅子に座らせているところだった。肩を上下させて三人に歩み寄ると、ハーマイオニーが不安そうにルイスを見た。

「君はパーセルマウスなんだ。どうして僕たちに話してくれなかったの?」

「僕が、何だって?」

「パーセルマウスだよ。君は蛇と話ができるんだ!」

「そうだよ」ハリーは、こんなこと何でもない、ほんの些細なことだろ? とでも言いたげに口を利いた。「でも今回で二回目だよ。一度、動物園で偶然大ニシキヘビを従兄にけしかけたんだ。その蛇が、自分はブラジルなんか一度も見たことがないって僕に話しかけてきて」

「大ニシキヘビが、君に一度もブラジルに行ったことがないって言ったの?」

 ロンが絶望的だと言いたげに呟いた。

「それがどうかしたの? ここにはそんなことできる人、吐いて捨てるほどいるだろうに」

「それがいないんだ」ロンが言った。「魔法族だからって、そんな能力は普通持ってない。ハリー、まずいよ」

「何がまずいんだい? みんな、どうかしたんじゃないか? 考えてもみてよ。もし僕がジャスティンを襲うなって蛇に言わなきゃ――」

「へえ、君はそう言ったのか」

「どういう意味? 君たちあの場にいたし、僕の言うことを聞いたじゃないか」

「ロンやハーマイオニーは、あなたがパーセルタングを話すのを聞いたの、ハリー。蛇語を話すのをね」

「君が何を話したか、他の人には分かりはしないんだよ。ジャスティンがパニックしたのも分かる。君ったら、まるで蛇をそそのかしているような感じだった。あれにはぞっとしたよ」

 ルイスは一瞬、自分もハリーの言っていたことが分かったと、三人に言おうかどうか迷った。しかし、ルイスが口を開くより先に、ハリーが驚いたように言った。

「僕が違う言葉を喋ったって? だけど、僕は気が付かなかった。自分が話せるってことさえ知らないのに、どうしてそんな言葉が話せるんだ?」

 ロンとハーマイオニーは揃って首を横に振った。ハリーは不思議そうな顔でこちらを見たが、それはルイスが聞きたいことでもあった。どうして自分が蛇語を理解することができたのか、全く分からなかった。

「あの蛇がジャスティンの首を引きちぎるのを止めたのに、一体何が悪いのか教えてくれないか? どういうやり方で止めたかなんて、問題になるの?」

「問題になるのよ」ハーマイオニーが恐ろしそうに、囁くようにして言った。「どうしてかというとね、ハリー。サラザール・スリザリンが蛇と話ができることで有名だったからなの。だから、スリザリン寮のシンボルは蛇でしょう?」

「そうなんだよ、ハリー。今度は学校中が君のことを、スリザリンの曾々々々々孫だとか何とか言い出すだろうね」

「だけど、僕は違う」

 ハリーは顔から血の気を失っていた。眉間にはセブルス顔負けの皺が寄っている。すると、ハーマイオニーが最後の追い打ちをかけるように、ハリーに向かって言い放った。

「それは証明しにくいことね。スリザリンは千年ほど前に生きていたんだから、あなただという可能性もありうるのよ」

 ルイスは、ハーマイオニーがハリーに対して言った言葉を、頭の中で何度も繰り返していた。

 ジュリアード家は何代も遡ることができる家系のひとつで、その記録が地下の倉庫に残っているはずだ。千年前まで遡ることは可能だろう。パーセルタングを操れるということは、ハリーと同じようにサラザール・スリザリンの末裔かもしれないと考えても、おかしくないのではないだろうか。

 ルイスは急に不安になって、胃の辺りがきゅっとなるのを感じた。

 翌朝、目を覚ますと外は大吹雪で、今学期最後の薬草学の授業は休講になった。スプラウト先生がマンドレイクに靴下をはかせ、マフラーを巻く作業をしなければならなくなったからだ。ミセス・ノリスやコリン・クリービーを蘇生させるために、一刻も早くマンドレイクを育てなければならない。

 しかし、朝食を終えて戻ってきたグリフィンドールの談話室では、授業が休講になってしまったことで、ハリーが恐ろしく苛々としていた。暖炉のそばでロンとハーマイオニーが魔法のチェスで対決をし、その隣で本を読んでいたルイスは、目の前を行ったり来たりしているハリーにため息を吐いた。

「ハリー、お願いよ」

 ハリーからルイス、ルイスからハーマイオニーに苛々が伝染したのか、ハーマイオニーが眉根を寄せて言った。

「そんなに気になるんだったら、ジャスティンを探しに行けばいいじゃない」

 すると、ハリーはハーマイオニーの言う事を真に受けたのか、無言で方向転換をして談話室から出ていこうとしたので、ルイスは慌てて本を閉じた。それをハーマイオニーに押しつけ、椅子から立ち上がる。

「待って、ハリー。あたしも一緒に行くから」

 ようやくハリーに追い付いたのは、肖像画の穴を這い出て、廊下をしばらく行ったところだった。

「無理をして一緒に来ることはないんだ」

 ハリーはどうやらまだ苛々が収まっていないらしく、ルイスに当たるようにしてそう言った。ルイスはそのような態度のハリーに向かって、きょとんとした表情を見せる。

「別に無理なんてしていないけれど」

 ハリーは今日の薬草学の時間にジャスティンに会ったら、昨日の蛇のことについて話そうと思っていたらしい。それが休講になってしまったものだから、こんなにも苛々しているのだ。

「ジャスティンはどこにいると思う?」

 ルイスに当たるようなことをして悪かったと思ったのか、ハリーは突然話を変えた。声の刺々しさも、幾分和らいだような気がする。

「ハッフルパフの談話室って可能性が一番高いと思うけれど、もしいるとしたら図書室ではないかな」

 ルイスがそう言うのとほぼ同時に、変身術の教室からマクゴナガル先生が誰かを叱り付ける声が聞こえてきた。どうやら、誰かがクラスメイトをアナグマに変えてしまったらしい。ハリーとルイスは思わず顔を見合わせて、にやりと笑った。

 図書室までの道のりを、ルイスは少なくとも昨日のことや、スリザリンの継承者のことについて触れないようにと、話題を気にしながら歩いていた。しかし、ハリーはルイスに何かを聞きたそうにしている。

「ハリー、あたしに何か言いたいことでもあるの?」

 下から覗き込むようにして見ると、ハリーはうーとか、あーとかいう唸り声をあげ、少し困ったような笑みを浮かべた。

「あの、前から気になっていたんだけどさ、ルイスって、その、スネイプと仲がいいの?」

「は?」

 ルイスは足を止めて、唖然とした表情を浮かべた。そのようなルイスを見て、ハリーは更に困った顔をする。そして、足を止めたルイスの袖を引っ張った。

「どうしてそう思うの?」

「だって、君って時々スネイプのことを――ほら、名前で呼ぶじゃないか。一年生の時だって、ルイスだけは最後までスネイプを信じていたし、スネイプだって君のことを何かと気に掛けているみたいだしさ、どうなのかなと思って」

 どうやら、ハリーはルイスが間違ってセブルスと呼んでしまうのを気付かなかったのではなく、気付かないふりをしていてくれたらしい。ルイスは少し吹き出して、ハリーを見た。

「別にあたしとセブルスが仲良しっていうわけではなくてね」ルイスがはっきりセブルスと呼ぶと、ハリーは驚いて目を見開いた。「兄のラウルとセブルスが友達なの。ホグワーツに通っている頃からの付き合いだって聞いているけれど、詳しくは聞いたことがない。あたしの家にもよく来ていたから、入学前からの付き合いにはなるけれど」

「友達? ルイスのお兄さんと、スネイプが?」

「うん。そうだけれど、おかしい?」

「だけど、ほら、君のお兄さんは、えっと――どこの寮だったの?」

「スリザリン」

「ス、スリザリン!?」

 ハリーはラウルとセブルスが友達だということよりも、ラウルがスリザリン生だったという事実に、いい知れぬショックを感じているようだった。

「僕、てっきり君のお兄さんってグリフィンドール生だったんだと思ってた……」

「間違いなくスリザリンだよ、ラウルは。これでいい例になった? 何もスリザリン生はみんなドラコやセブルスみたいな人たちばかりじゃないって」

 ルイスがおかしそうにくすくす笑うと、ハリーは少し複雑そうな顔をして首を少し傾げた。

 図書室に到着すると、思った通りハッフルパフの生徒たちが奥の方の席に固まって座っていた。だが、それはどう見ても勉強をしているようには見えない。ジュリアード家の地下室のように高い本棚がずらりと立ち並ぶ間で全員が額を寄せあって、何かを夢中で話し合っていた。

「ジャスティンはいる?」

「分からない」

 ふたりがハッフルパフの生徒たちが集まっているところまで行く途中で、ルイスの耳には話の内容が聞こえてきた。思わず立ち止まり、ハリーの腕をつかんで引き止める。

「ルイス? どうかした?」

「静かに」

 ちょうど隠れ術の本が並んでいる棚のところに隠れて、ルイスは耳を澄ませた。

「だからさ」ハッフルパフの太った男の子が、ひそひそと話している。あれは確か、アーニー・マクミランだ。「僕、ジャスティンに言ってやったんだ。自分の部屋に隠れてろって。つまりさ、もしポッターがあいつを次の餌食にしようと考えているのなら、しばらくは目立たないようにしてるのが一番いいんだよ。もちろん、あいつ、うっかり自分がマグル出身だなんてポッターにもらしてしまっただろ? いつかはこうなるんじゃないかと思っていたよ。あいつ、イートン校に入る予定だったなんてポッターに話してしまったんだ。そんなこと、スリザリンの継承者がうろついている時に言いふらすべきことじゃない」

「じゃあ、アーニー、あなたは絶対にポッターだって思っているの?」

 そう言った女の子は、綺麗なブロンドの髪を三つ編みにしたハンナ・アボットだった。

「彼はパーセルマウスだぜ。それが闇の魔法使いの印だっていうことは、みんなが知ってる。蛇と話ができるまともな魔法使いなんて、聞いたことがあるかい? スリザリン自身のことを、みんなが蛇舌と呼んでいたくらいなんだから」

 ハッフルパフの集団はざわざわと騒めき、アーニーは得意げに話を続けた。ルイスは、どうしてもハリーの方を見ることができなかった。

「でも、もしポッターがスリザリンの継承者じゃないとしたら、怪しいのはジュリアードだろうな」

 ルイスは自分の名前突然話題に上ったので息を呑んだ。ハリーがちらりとこちらを見るのを感じた。

「ジュリアードって、あのルイス・ジュリアード? いつもポッターと一緒にいる?」

「誰だってあいつの父親のことは知っているだろ? 例のあの人の最も身近にいた人物なんだ。そんなやつの子供なんだから、スリザリンの継承者だってちっともおかしくないじゃないか。それに、ジュリアードなら人を石にする呪文を知っているかもしれない」

 ルイスはぎゅっと眉根を寄せた。これでは去年とまったく同じではないかと思う。ルイスは去年、誰かにこの図書室で陰口を叩かれていたことを思い出していた。

「壁に書かれていた言葉を覚えているか? 継承者の敵よ、気をつけよ。ポッターはフィルチと何かごたごたがあったんだ。そして気がつくと、フィルチの猫が襲われていた。あの一年坊主のクリービーは、クィディッチの試合でポッターが泥のなかに倒れているとき写真を撮りまくって、ポッターに嫌がられた。そして、クリービーがやられていた――もしかしたら、ふたりで協力してやっているのかもしれない……」

「でも、ポッターもジュリアードもいい人に見えるけど」ハンナは顰め面を浮かべ、納得のいかない様子で反論する。「それに、ほら、彼が例のあの人を消したのよ。それなのに悪人であるはずがないわ。それに、私はジュリアードの父親は例のあの人に殺されたって聞いているもの」

 アーニーは訳有りげに声を落とし、ハッフルパフ生はより近々と額を寄せあった。ハリーはもっと近くで話を聞きたがったが、ルイスにとってはあまり聞きたいと思える話題ではなかった。

「ポッターが例のあの人に襲われて、どうやって生き残ったのか、誰も知らないんだ。事が起こったときは、ポッターはまだ赤ん坊だった。木っ端微塵に吹き飛ばされて当然さ。それほどの呪いを受けても生き残ることができるのは、本当に強力な闇の魔法使いだけだよ」

 ――ただの赤ん坊が闇の魔法使いだって? ルイスは思わず声を上げそうになった。

「だからこそ、例のあの人ははじめからポッターを殺したかった。闇の帝王がもうひとりいて、競争になるのが嫌だったんだよ」

「それじゃ、ジュリアードはどうだっていうの? 彼女は別に例のあの人を打ち負かしたわけじゃないわ」

「だから、さっきも言ったろ? あいつの父親は例のあの人の側近だったって。あいつの父親は間違いなく闇の魔法使いだ。父親が例のあの人に殺されたっていうのも、結局は噂じゃないか。闇祓いに殺されたっていう話もある。その子供が闇の魔法使いだって、ちっともおかしくないさ。いったいあのふたりは、他にどんな力を隠してるんだろうな」

 ルイスはもう、ほとんど泣き出しそうになってしまっていた。自分のことならばどれだけ侮辱されても構わない。だがしかし、死んだ父親を悪く言われるのだけは許せなかった。例え本当に闇の魔法使いだったとしても、ルイスにとってはたったひとりきりの父親なのだ。

 ルイスがぼうっとしてその手を離してしまうと、ハリーはもう我慢できないとでも言いたげに大きく咳払いをして、本棚の影から出て行ってしまった。

「ちょっと、ハリー」

 ルイスもその後ろを追いかけるようにして出ていくと、ハリーの背中と石のように固まって動かなくなったハッフルパフ生の姿が見えた。アーニー・マクミランの顔から、一瞬のうちに赤みが消えていくのが分かった。

「やあ、みんな」ハリーがこれ見よがしに明るい声を出す。「僕たち、ジャスティン・フィンチ-フレッチリーを探しているんだけど、知らないかな」

 ハッフルパフ生たちは、恐れていた最悪の事態が現実のものになったとでも思っているのだろう。全員が恐々とアーニーを見た。

「……あいつに何の用がある?」

 ハリーとルイスの姿が見えない間は、あれだけ大口を叩いていたのに、いざふたりを前にしたアーニーの声は頼りなく、そして震えていた。

「決闘クラブでの蛇のことだけど、本当は何が起こったのか、彼に話したいんだよ」

 アーニーは蒼白になった顔でハリーを睨むと、唇を噛み、深く息を吸った。

「僕たちはみんな、あの場にいたんだ。全員で何が起こったのかを見ていた」

「だったら、僕が話し掛けたあとで、蛇が遠退いたのに気がついただろう?」

「僕が見たのは」アーニーは恐怖に震えながらも、ハリーに楯突いていた。「君が蛇語を話したことと、そして蛇をジャスティンの方に追い立てたことだ」

「ハリーが蛇と話をしていたとして、あなたには蛇語を理解できないのに、どうしてハリーが蛇を追い立てたと言い切れるの?」

「そうだ、蛇はジャスティンをかすりもしなかった!」

「もう少しってところだった!」

 アーニーが果敢にもハリーに言い返す。ルイスの握った拳は、怒りでわなわなと震えていた。

「それから、君たちが何かを勘繰っているんだったら言っておくけど、僕の家系は九代先まで遡れる魔女と魔法使いの家系で、僕の血は誰にも負けないくらい純血で、だから――」

「そんなに純血が誇らしい? だったらあなたもご立派なスリザリンの継承者候補ね、マクミラン」

 ここが図書館ではなく、ルイスが無類の本好きでもなかったら、間違いなく杖を取り出して呪いのひとつかふたつ浴びせかけていただろう。

「君がどんな血だろうと構うもんか! 何で僕がマグル生まれの者を襲う必要がある?」

 ハリーは激しい口調で言った。だが、こうなってしまえばアーニーも負けはしない。椅子からすっくと立ち上がると、毅然とハリーに立ち向かった。

「君は一緒に暮らしているマグルを憎んでいるそうじゃないか」

「ダーズリーたちと一緒に暮していたら、憎まないでいられるもんか。できるものなら、君がやってみればいいんだ」

 ハリーはそう言うと、ルイスを置いて走り去るように図書館から出ていった。そのまま後を追うことも考えたが、なぜかルイスの足は動かず、その場に止まっている。そのようなルイスを睨むように見ているアーニーの顔は、相変わらず蒼白だった。

「……言われっぱなしでは気分が悪いから、あたしからも少し言わせてもらうけれど」ルイスはハッフルパフ生をぐるり見回し、胸の前で両腕を組んだ。「ハリーは確かにパーセルマウスよ。それは事実だけれど、ハリーが本当にスリザリンの継承者だとしたら、ほとんど全校生徒が集まっているような場所で、パーセルタングを披露すると思う? 相当な馬鹿ではないかぎり、そんな愚かなことは絶対にしない。事実、もしあたしがスリザリンの継承者だとしたら――ううん、そうじゃなくても、自分がパーセルマウスだということは隠すもの」

「だったらポッターは、君が言うところの馬鹿だったってことじゃないか?」

「ハリーはあなたたちなんかよりもずっと頭が切れると思う。知らないかもしれないけど」ルイスがふんと鼻で笑うと、アーニーはかっとなって顔を赤くした。「それに、石化したミセス・ノリスやコリンはダンブルドアにすら治せなかった。ダンブルドアですら反対呪文を知らないというのに、石化させる事のできる呪文をあたしやハリーが知っているとでも思うの?」

「君なら知っていたっておかしくはないだろう? 闇の魔法使いの子供なんだ、君の父親が例のあの人の近くにいたことは――」

 ばしんっ、とルイスはハッフルパフ生が座っているテーブルを力一杯叩いた。それから、じろり、とアーニー・マクミランを睨み上げる。

「今度その口であたしの父を侮辱してみなさい。誰も試したことがないような恐ろしい呪いで、二度とその減らず口を叩けないようにしてやるから」ひっと、アーニー以外の者たちも息を呑むのが分かった。「どんな理由があろうと、それがいったい誰だろうと、あたしはあたしの家族を侮辱する人を絶対に許さない」

 マダム・ピンスの到着があと少し遅れていたら、ルイスは今度こそ間違いなく、アーニーに杖を突き付けていたことだろう。その手は既に、ローブのポケットに入り込んでいた。

「何事ですか! ここは図書室ですよ! 静かにできない人はみんな出ていきなさい!」

 言われなくても出ていくつもりだったルイスは、最後に青い顔でこちらを見続けていたハンナ・アボットと目が合った。ルイスがぎこちなく微笑んでみせると、ハンナはびくりと肩を震わせた。

「まだ何か言いたいことがあるっていうのか!」

 そう言ったアーニーをルイスは一瞥し、またハンナを見る。

「あなたにはお礼を言いたくて。どうもありがとう」

「ど、どうして?」

「ハリーと、それからあたしを最初から疑おうとしなかったから。嬉しかったの」

 ルイスはそう言い、ただ立ち去ろうとしたが、次の瞬間誰かの――多分、ピーブズだ――の大声が聞こえてきたので、足を止めて耳を澄ました。

「襲われた! また襲われた! 生きていても死んでいても、みんな危ないぞ! 命からがら逃げろ! おーそーわーれーたー!」

 ルイスはその言葉にぎょっとして、そしてすぐに駆け出した。すると、その後ろから荒々しく付いてくるひとつの足音があった。肩越しに振り返って見ると、アーニー・マクミランがそこにいた。アーニーはわざと、ルイスと視線を合わせないようにしているようだった。

「ハリー!」

 階段を昇り、何故か松明の灯りが消えてしまっている廊下を進み、角を曲がると、散っていく人垣のなかにハリーを見つけて、その名前を呼んだ。しかし、足元を見て思わず足を止める――蜘蛛だ。一列に並んで、ミセス・ノリスの現場と同じように、また不審な動きを見せている。

「現行犯だ!」

 ほとんど叫び声に近いその声に反応してルイスが横を見ると、少し離れた場所で、アーニーがハリーのことを指差していた。ハリーの足元には、ジャスティン・フィンチ-フレッチリーが倒れている。恐怖の表情を顔に貼り付けたまま硬直し、見開かれた目はじっと天井だけを見ている。その隣には、ほとんど首無しニックが浮いていた。だが、いつもの透明な真珠色ではない。黒っぽく変色をし、床から十五センチほどのところで、横になってぴくりとも動かずにいた。

「おやめなさい、マクミラン!」

 マクゴナガル先生が厳しく嗜めると、アーニーは仕方なくというように黙り込んだ。ピーブズはハリーの上をふわふわと漂いながら、意地の悪い笑みを浮かべている。しかし、何を思ったのか、ピーブズは突然大声で歌いはじめた。

 

 おー、ポッター、嫌なヤツだ! 一体お前はなにをした!

 お前は生徒を皆殺し、お前はそれが大愉快

 

 その歌に我慢ならなくなったルイスは、だんっと足を踏みならし、ふわふわと漂いながらまだ歌っているピーブズの真下までやってくると、鋭く睨みつけた。

「いい加減にしなさい、ピーブズ!」

 すると、どういうわけかピーブズは突然歌うことをやめた。そして、ハリーに向かって真っ赤な舌を出すと、いつものように姿を消してしまった。

 教室から廊下を覗き見ていた何人かの生徒は、ピーブズがルイスの言うことを聞いたことに驚いている。ルイス自身も、そのことには酷く驚いていた。あのピーブズが自分の言うことを聞くなど、ありえないことだ。これはただの気まぐれに違いないと、そう思った。

 ジャスティンは、フリットウィック先生と天文学科のシニストラ先生が医務室に連れていった。ほとんど首無しニックはマクゴナガル先生が魔法で出した大きなうちわで、アーニー・マクミランが階段の上まで煽り上げた。

「さあ、おいでなさい、ポッター」

「先生、聞いてください。僕はやっていません!」

「ポッター、これは私の手には負えないことです」マクゴナガル先生は蒼白な顔でハリーにそう言うと、今度はルイスを見た。

「ジュリアード、あなたは真っ直ぐグリフィンドール寮にお戻りなさい」

「……はい、マクゴナガル先生」

 ハリーは暗い澱んだような眼差しでルイスを見たが、それは本当に一瞬のことだった。すぐにマクゴナガル先生の後について、とぼとぼと重々しい足取りで歩いて行ってしまった。

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