ハリー・ポッターと呪われた一族の少女   作:しきり

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Christmas holidays 1

 ジャスティンとニックのふたりが襲われた事件以後、校内には今まで以上の不安感が渦巻いていた。ほとんどパニック状態で、特に廊下でハリーや、そして何故かルイスの姿を見つけると、呪われたり石にされたりするのではないかと恐れているらしく、ほとんど誰も近付いてこなくなっていた。

 そのためかどうかは定かでないが、今年のクリスマス休暇はホグワーツに残らず、帰宅しようとする生徒が続出しているらしい。

「この調子じゃ、居残るのは僕たちだけになりそうだな」

 ロンが呆れたような口調でハリーとハーマイオニーにそう言っていた。クリスマス休暇には帰宅することになっているルイスは、ロンの言葉に苦笑を浮かべる。

「僕たちと、マルフォイ、クラッブ、ゴイルだ。こりゃ楽しい休暇になるぞ」

 しかし、ハリーはほとんどの生徒が学校内からいなくなることを非常に喜んでいるようだ。自分を見てびくびくする人たちを見ないで済むと思うと、気が楽になるのかもしれない。

 けれど、ハリーやルイスを見て恐れ戦かない生徒も存在した。フレッドやジョージにしてみれば、どうやらこんなに面白い事は他にないらしい。わざわざハリーやルイスの前に立って、恭しくお辞儀をして見せたこともあった。

「これはこれは、誠に邪悪な魔法使い、スリザリンの継承者様たちがお通りだぞ」

「牙を剥き出した召使とお茶をお飲みになるので、秘密の部屋にお急ぎなのだ」

 けれど、ハリーとルイスは、それを気にしてはいなかった。フレッドとジョージのふざけようを見ていると、ふたりをスリザリンの継承者などとは露ほども思っていないと分かるからだ。しかし、パーシーやジニーはそれを冗談とは受け取れなかったらしく、過剰に反応していた。ジョージがハリーやルイスを見かけるたびに、大きなにんにくの束で追い払うふりをすると、ジニーは涙声でそれをやめさせようとしていた。

「あたし、休暇で家に帰ったら秘密の部屋について少し調べてみるから」ルイスはロンとハーマイオニーが宿題をしている横で、ハリーに小さく耳打ちをした。「それから、パーセルマウスのことも。サラザール・スリザリン以外にもパーセルタングだったヒトはいると思うし」

「でも、いったいどうやって調べるの?」

「家の地下が図書室になっているの。何か詳しいことが書かれた本があると思うから」

 それから、と言ってルイスはハーマイオニーを横目に見ると、不安そうな面持ちを露にする。それを目の当たりにしたハリーは少し首を傾げた。

「どうしたの?」

「ん? ああ、うん」

 ルイスはハリーの顔を見て、曖昧に微笑んだ。ハーマイオニーのことが心配だったのだ。今まで、ことごとくマグル出身の生徒がスリザリンの継承者に襲われ続けている。ハーマイオニーもマグル出身の魔女だ。彼女だけは襲われるはずがない、という確信はどこにもなかった。

「あたしがいない間、ハーマイオニーのことを見ていてあげてね。大丈夫だとは思うけれど、用心するにこしたことはないと思うから」

 すると、ハリーは少し神妙な顔つきになって、ルイスと同じようにハーマイオニーを盗み見た。

 ロンとハーマイオニーは、ふたりがそのようなことを話しているとも知らず、ハーマイオニーはより熱心に、ロンは渋々というように宿題を片付けていた。

「ねえ、ハーマイオニー、ポリジュース薬はできそう?」

 教科書を捲り、宿題の答えを探すふりをしながら、ルイスはさり気なく問いかけた。ハーマイオニーだけではなく、ロンもつられてこちらを見た。

「ええ、もう少しで出来上がるわ」

 だが、問題は最後の材料だろう。変身したい人物の体の一部を、最後に加えなければならないのだ。それなのに、ハリーとロンはもう少しで出来上がるのなら、何の心配もないと言いたげな顔をしている。

「そりゃあ、本当は自分なんだって言いたくてしょうがないからさ」最近、ドラコ・マルフォイが必要以上に苛々しているという話になると、ロンがわけ知り顔でそう言った。「あいつは自分の悪行の功績が全部ハリーの手柄になっているってことが許せないんだよ」

「だけど、マルフォイの口から真実を聞く日も近いわ。もうしばらくの我慢よ」

 三人はやはり、スリザリンの継承者はドラコだと信じて疑わないようだ。もちろん、それを確かめるためにポリジュース薬を作っているのだが、それでもルイスは、ドラコがスリザリンの継承者だとはどうしても思えなかった。

 ハリー、ロン、ハーマイオニーはルイスがクリスマス休暇で家に帰る日、玄関ホールまで見送りに出てきてくれた。その少し後ろでは、ドラコ・マルフォイが何かを言いたげにこちらを見ていたが、ルイスはそれに気付かないふりをした。

 ルイスは、ドラコがスリザリンの継承者だとは思っていないし、誰かを襲ったとも考えていない。けれどそれでも、ハーマイオニーのことを穢れた血と呼んだことが、どうしても許せなかった。そうした理由で、以来ドラコとはあまり話をしていない。

 それに、ハリーがサラザール・スリザリンの末裔だとか、スリザリンの継承者だとかと噂されるようになった最大の原因はドラコにある。おかげで、ハリーといつも一緒にいるルイスも、ハリーと協力をして学校中のマグル出身者を襲うのではないかと、そう考えられているのだ。

 そのような噂はまったくもって馬鹿馬鹿しい話だとは思うが、ただひとつ気になるのは、ルイス自身がハリーの話した蛇語を理解できたということだった。パーセルタングを話せたのは、決してスリザリンただひとりきりというわけではないはずだ。父親も蛇語を話したのだろうか。ジュリアード家が代々パーセルマウスの持ち主だという話は、今までに一度だって聞いたことがなかった。

 クリスマス休暇で帰る生徒たちは、またあの不気味な生きものが引く馬車に乗ってホグズミード駅に到着した。ルイスは馬車を降りてからじっくりとその馬の役目を果たしている生きものを見たが、そこでふと考えた。

 どうして他の者たちは、この生物を全く気にしていないのだろう。まるで何も見えていないかのように、その馬の横でにこにこと笑っていられるのだろう。その神経がルイスには分からなかった。

 ルイスはルナの入った籠とトランクを引っ張りながら、とりあえず空いているコンパートメントを探した。すると、早めに汽車に乗り込んだおかげか、運良く誰もいないコンパートメントを見つけ、そのなかに荷物を押し入れる。

 誰も入ってこないということは分かり切っていたので、ルイスはコンパートメントの中を広々と使うことにした。どうせならルナを鳥かごから出してやろうかと思ったが、車内販売のおばさんが来たときに迷惑になるかもしれないと思い、出すのをやめた。

「キングズ・クロス駅に着いたら、そこから地下鉄に乗るんだよ。それに、漏れ鍋からはあたしたちの嫌いな煙突飛行が待っているし、ここから家まで飛んで帰ってもいいよ?」

 ルイスは格子の隙間から指を入れて、ルナの柔らかい羽を突くようにして撫でた。すると、ルナは、ホウ、と一声だけ鳴き、それきり眼を瞑って眠り込んでしまったので、ルイスはとうとう退屈を拗らせてしまった。誰も来てはくれないだろうということは分かりきっているのに、少しだけ心細い。だが、今やルイスはハリーと並んで邪悪な存在だったし、話をしただけでも石にされると思われているのだ。今、ルイスの姿を見ても怯えないのはホグワーツの先生方と、グリフィンドールの生徒たちくらいのものだった。

「あーあ、お前はのんきでいいね、ルナ」

 そうして嫌味を口にしても眠っているルナに聞こえるはずもなく、起きていたとしても答えてはくれないだろう。ルイスは車内販売にやってきたおばさんからパイとジュースを買い、それを黙々と口に運んだ。

 しかし、だからこそ、ルイスは家に帰れることが嬉しくて堪らなかった。あの森に囲まれた家に帰れば、誰も自分を見て怯えることはないし、逃げ出すこともない。ふたりの愛すべき家族と、動物たちがいるだけだ。

 ルイスは気を持ち直して、残りの汽車の旅を本を読んで過ごすことにした。トランクを開けるとギルデロイ・ロックハートの本がちらりと視界に入り込んだが、ルイスは見なかったことにして、家から持ってきた魔法薬学の本を引っ張り出した。

 けれど、ルイスが本を手にして椅子に座りなおしたとき、コンパートメントの扉ががらりと開いた。思わず顔を顰めて扉のほうを見やると、そこにはこちらに目を向けて微笑んでいるセドリック・ディゴリーの姿がある。

「やあ、ルイス」

 セドリックは出入り口に立ち、片手でコンパートメントの扉を押さえながら言った。ルイスはきょとんとした顔でセドリックを見上げ、僅かに首を傾げた。

「こんにちは、セドリック」

 ルイスの口からやっと出てきた言葉は、それだけだった。これは何かの冗談だろうと思った。自分のコンパートメントに誰かがやってくるなど、ありえないことだと思い込んでいたからだ。

「――これは罰ゲームか何かなの?」

「えっ?」

「あたしと話すと石にされるっていう噂を聞いたけれど」

 ルイスがそう言って自嘲的に笑うと、セドリックは困ったような顔をした。

「通路を歩いていたらひとりでいるのが見えたから……いつも一緒にいる子たちは?」

「帰るのはあたしだけで、みんなはホグワーツに残ったの」

 ルイスは読もうとしていた本を傍らに置いた。それから、セドリックに席を勧めるべきかどうかを真剣に悩んだが、結局は何も言わなかった。

「あ、あの……」少し戸惑った様子のセドリックは、ルイスを見て何かを言いかけた。「その、ハッフルパフ寮の生徒が君に何か失礼なことを言ったって聞いて、謝るよ。みんな、ジャスティンが襲われて少し――」

「少し神経質になっているだけ。分かってる。大丈夫、あたしは気にしていないから」

 にこりと笑って言うルイスだったが、内心全く気にしていないというわけではなかった。しかし、セドリックの気持ちはとても嬉しかった。同時に、どうしてこんなにも気を使ってくれるのだろうという、困惑するような気持ちも感じていた。

「僕――僕は、ルイスがスリザリンの継承者だとか、ジャスティンを襲った犯人だとかは、思っていないから。もちろん、君の友達も疑ったりしない。だから、何か困ったことがあったら力になるよ」

 それじゃあ――セドリックは口を挟む隙さえ与えずに急いでそう言うと、慌てたようにコンパートメントの扉を閉めて行ってしまった。ルイスは一瞬唖然として、それからすぐにコンパートメントの扉を開けると、セドリックの姿を探した。

「セドリック!」

 離れたところでセドリックは立ち止まり、少し驚いた顔をして振り返った。ルイスは微かに照れたように笑い、セドリックを真っ直ぐに見つめる。

「あの、ええと」ルイスは長い髪を指先で弄びながら、頬を少しだけ染めた。「どうもありがとう」

 すると、驚いた顔をしていたセドリックはすぐににっこりと笑って手を振ると、自分のコンパートメントの中に入っていった。ホグワーツにはまだ、自分やハリーに怯えない人がいるのだと思うと、ルイスはとても嬉しくなった。

 ホグワーツ特急がキングズ・クロス駅に到着すると、生徒たちは雪崩のように汽車から降りていった。ルイスもその中でもみくちゃにされながら歩き、ルナは不愉快そうに鳴き声をあげる。周りで自分について話している人たちの声を無視して、ルイスは外に出るための列に並んだ。

「あ、いた! いたよ、アンジェリーナ!」

 クィディッチの名実況者の声が聞こえてルイスが振り返ると、リー・ジョーダンとアンジェリーナ・ジョンソン、ケイティ・ベルが人垣を掻き分けながら、こちらに走ってくるのが見えた。

「ちょっと、ちょっとごめんよ、ほら、退いてくれるかい? やあ、ルイス!」

 三人は周りの人たちに迷惑そうな目を向けられながら、ルイスの所までやってきた。リーはにっこり笑ったが、アンジェリーナは少し怒っているように見えて、ルイスは僅かに首を傾げた。

「いったいどこにいたんだ? だから言ったんだよ、探しに行った方がいいんじゃないかって」

「――何の話?」

 ルイスが困ってケイティを見ると、すぐに苦笑が返ってきた。

「ハリーたちは学校に残っているから、あなたがひとりなんじゃないかって心配していたの」

「ジョージとフレッドにも言われたんだけど、本当は汽車に乗る前に声をかければよかったんだ。だけど僕たち、君を見失ってしまって」

「気にしなくていいのに」

 ルイスが軽く肩を竦めて笑うと、三人は少し心配そうに眉を顰めた。

「僕たち、ルイスやハリーがあんなことをしたなんてちっとも思っていないからね」

「あんな噂、本当に馬鹿馬鹿しいわ。そうでしょう?」

「うん、ありがとう」

 ルイスは三人と休暇が終わってホグワーツに戻るときは、一緒に汽車に乗ろうと約束をしてから別れた。みんなは父親や母親が迎えにきていたが、ルイスはクリスマス休暇に家に帰ると手紙を送っていなかったので、ラウルもリーマスも迎えにきていない。それなので、ルイスは去年のクリスマス休暇のときと同じようにひとりで地下鉄に乗り、ロンドンにある漏れ鍋に向かった。

 漏れ鍋からは暖炉を使って煙突飛行で帰る。しかし今日は、一旦トランクとルナをバーテンのトムに預け、杖を片手に中庭へ行くと、ダイアゴン横丁へ繰り出した。去年は一度家に帰ってしまい、翌日また煙突飛行をする羽目になってしまったので、今年は同じ過ちを繰り返さないよう、クリスマスプレゼントを早いうちに買ってしまおうと考えたのだ。

「さてと、今年のプレゼントは何がいいかな」

 ルイスは独り言を漏らしながら石のアーチを潜り抜けた。ラウルとハーマイオニーには、去年と同じように本でいいだろうか。ふたりはかなりの本の虫だ。そう思いながらフローリシュ・アンド・ブロッツ書店に行き、棚を歩きながら見て回る。店内は空いていたので、棚の間を好きに見て回ることができた。

 ハーマイオニーには古代ルーン語の優しい学び方という本を、ラウルには天文全集の改訂版を購入した。ラウルに買った本はルイスも個人的に興味がある本だったので、共用にしてもらうのもいいかもしれない。

 ギャンボル・アンド・ジェイプス悪戯専門店では双子のフレッドとジョージに新発売だという悪戯グッズを買い、ハリーとロンには今年も二人がご贔屓にしているチームのステッカーのセットを買った。ジニーには髪に飾るリボンを贈ることにした。

 今年もリーマスへのプレゼントが最後まで残ってしまったと思いながらふらふらしていると、オリバンダーの店並にレトロ感がそこはかとなく漂う店を見つけ、ルイスは何となくその店に足を踏み入れてみることにした。以前からこんな店はあっただろうかと首を捻りながら店内を見回すと、アクセサリーやちょっとした小物を売っている店なのだということが分かった。

 やはり、何度もダイアゴン横丁にやってきているのに、初めて入る店だった。

「いらっしゃい――あら? 小さなお客さんね」

 そう言って店の奥から出てきたのは、年の頃は三十歳前後の女の人だった。ブロンドの髪が細かく波打っていて、瞳はエメラルドグリーンだ。綺麗な人だった。

 言葉もなく茫然としていると女の人は不思議そうにしていたが、ルイスの顔を覗き込むと、何故か納得したように何度か頷いてみせた。

「あなた、ジュリアード家の子ね。ルーファスさんのところの――ルイス、だったかしら。ラウルは元気?」

「あ……はい、多分、元気だと思い、ますけれど」

 この女の人の言葉を理解するのに、ルイスはほんの少しだけ時間がかかった。この人はどうして、自分の顔を見ただけでジュリアード家の者だということが分かったのだろうと思い、眉を顰める。すると、女の人はその心を見透かしたようにくすくすと笑いながら言った。

「その耳飾りを見て分かったのよ。ジュリアードの耳飾りは、私の先祖があなた方のために仕立てたものだから。それを付けていたから、ここを見つけることができたのね」

「あの、失礼ですが、あなたは……? ここは一体どこですか?」

「私はミリア・トロリスよ。ここはご覧の通り、そう、雑貨屋ね。ただの雑貨屋ではないのだけれど、そういうことにしておいてくれるかしら」

「あたしの父さんを知っているの?」

「ええ、ルーファスさんにはご贔屓にしてもらっていたから」

 自由に見ていいわ――ミリアと名乗った女の人はそう言うと、また店の奥へ引っ込んでいってしまった。

 ジュリアードの耳飾りを仕立てたとか、見つけることができたとか、ご贔屓だとか、よく分からない。ルイスはこのまま帰ってしまおうかとも思ったが、少し惜しいような気もして、店内を見て回ることにした。

 アクセサリーも雑貨の類も、一見するだけでは普通のそれらと何ら変わりないものだ。普通の雑貨屋ではないと言っていたが、どの辺りが普通ではないというのだろう。

 ルイスはひとつの写真立てを手に取った。フレームの部分は、星屑が散りばめられているのではないかと思うほどきらきらと輝き、まるで夜の星空を思わせる。

「それ、気に入った?」

 いつのまに隣にきていたのだろう。ルイスはそう思い、驚いて飛び上がりそうになった。

「ここにある物には、それぞれ魔法がかけられているの。今この時の空がフレームに映るのよ」

「魔法?」

「そう。魔法省に見つかると厄介なものも売っているから、この店は隠してあるの」

「隠す? 隠すって……」

「隠す方法ならいろいろあるわ。そのなかでも一番有効的な方法よ」

 ということは、ここは完全に違法な店なのではないかとルイスは思ったが、このミリアという人は決して悪い人には見えない。むしろ、とても優しげで、いい人そうだ。

「……これ、いくらですか?」

 ルイスが写真立てを手に取って言うと、ミリアは少し考える素振りを見せてから、首を左右に振った。

「あげるわ。初来店記念に」

「それは駄目、貰ったものをプレゼントできないもの」

「そうねぇ、それじゃあ、一ガリオンかしら」

 ルイスはそう言われて、ポケットからガリオン金貨を出しかける。しかし、すぐ近くにあった棚にも思わず目を止めた。棚に収まっている小さなガラスケースのなかに、トップにサファイアのついたペンダントが見えた。

「あのペンダントは?」

 ルイスが指を差すと、ミリアはケースの中からペンダントを取り出してくれた。

「これは、ただのお守りみたいなものかな」ミリアはそう言うと、ルイスの手の平にそっとペンダントを置いた。「これと写真立てを合わせて、ちょうど一ガリオンでいいわ」

「え、でも」

「いいから、いいから。その代わりに、ちょっと頼みごとを聞いてほしいの」

 ――この手紙を、ラウルに届けてちょうだい。

 ミリア・トロリスはそう言うと、写真立てとペンダントをそれぞれ綺麗に包装してくれたものと一緒に、一通の手紙を差し出した。

「必ず渡してね」

 ミリアは店先まで出てくると、そう言ってルイスを外に送り出した。

 両手いっぱいの荷物を抱え直して後ろを振り返ると、確かにその店はある。それなのに、周りを歩く人たちは、まるでそこには何も存在していないかのように通り過ぎていくのだ。マグルが漏れ鍋を見つけられないのと同じように。

 ルイスは頻りに首を傾げながら郵便局に行って、ホグワーツに送るプレゼントを預けた。手元に残ったのは、写真立てとペンダントと本だけだ。時間を確認し、ずいぶん遅くなってしまったと思いながら、急いで漏れ鍋に戻る。

「荷物をありがとう、トム」

 ルイスが軽く息を切らして戻ってくると、トムはにっこりと笑って迎えてくれた。

「今日はずいぶんかかったね」

「クリスマスのプレゼントを買っていたら遅くなってしまって」

 ルイスが鳥かごとトランクを暖炉に詰め込んでいると、気を利かせたトムがゴブレット一杯の水をくれたので、ルイスはそれを一気に飲み干した。

「ありがとう。じゃあ、また」

 ルイスはゴブレットをトムに返し、自分も暖炉の中に入って一掴みの煙突飛行粉を掴み取り、足元に叩きつける。そして、深呼吸をひとつしたあと、はっきりとした口調で「ジュリアード!」と叫んだ。

 飛行中は、肘を内側に入れるとか、荷物をしっかり抱えろだとか、正直に言ってそんな初歩的なことを考えている余裕は一切ない。片腕でルナの鳥かごと、先ほど買ったものを胸の前で抱えるように持ち、もう片方ではトランクを決して離さないようにするだけで精一杯だ。

 すると、案の定――ドカッ!!

「……い、痛い」

 トランクは床を滑り、ルナの入ったかごは床を転がって、腕のなかに残ったのは、買ったばかりの綺麗に包装されたプレゼントだけだった。

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