ハリー・ポッターと呪われた一族の少女   作:しきり

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Christmas holidays 3

 翌日、クリスマスの朝、目を覚ますとベッドの足元にはクリスマスプレゼントが山のように積み上げられていた。ルイスはもぞもぞとベッドから起き上がり、カーディガンを肩に引っ掛けて床にぺたりと座り込んだ。

 欠伸を漏らしながら一番上の箱に手を掛けると、それはロンから贈られた大きな箱に入った百味ビーンズだった。ハリーも同じくお菓子の詰め合せで、ハーマイオニーからは新しい羽ペンと羊皮紙のセットだ。ラウルからは天文小辞典という本だった。ルイスもラウルに天文全集の改訂版を贈っていたので、似たような考えであったことを少なからず嬉しく感じた。リーマスからは耳飾りと揃いの赤い石が埋め込まれた、シルバーの髪留めだ。双子やリーからは、去年と同様悪戯グッズで、去年の使っていないままの悪戯グッズと合わせて、かなりの量が溜まってしまうことになる。

 ルイスはパジャマから着替えを済ませると、リーマスからもらった髪留めを手に取って、机の上に置いてある鏡の前に立った。いつもは下げたままの長い黒髪を高い位置にまとめ、髪留めで結い上げる。そして、そのまま部屋を出ようと振り返ろうとしたとき、目の端にきらりと輝くもの映った。その場所に目をやると、あの日買ったサファイアのペンダントが無造作に置いてある。

 ルイスは一瞬考えてから、そのペンダントを手に取ると、戸の開いた籠の中でぐっすり眠っているルナを揺り起こした。

「ルナ。ルナ、起きて。仕事だよ」仕事という言葉にびくりと飛び起きたルナは、寝呆け眼で力なく鳴いた。「すぐ近くだから。これをフェリオに届けてほしいの」

 ルイスはルナの足にペンダントをくるくると巻き付け、自分の腕にとまらせて窓のところまで連れていった。

「それから、ごめんねって」

 そして、また鳴き声をあげたルナはどこか面倒臭そうにルイスを見上げたが、窓を開けてやると渋々森のなかへ飛んでいった。外は一面の銀世界で、誰の足跡もない。動物の足跡さえ見当たらないそこは、どれくらいの深さがあるのかすら分からなかった。

 ルイスはルナがいつ帰ってきてもいいように窓を少しだけ開けたままにして、階下に降りていった。

「おはよう、ルイス」

 朝食の後片付けをしていたリーマスが振り返って言った。昨日の会話など、最初からなかったかのような、いつもどおりの顔だった。

「おはよう、リーマス。素敵なプレゼントをありがとう」

 ルイスがにっこり笑って自分の頭を指すと、リーマスは少し照れたように微笑んでみせた。ラウルはというと、いつも通りリビングのソファに腰を下ろして本を読んでいた。しかし、いつも以上に目をきらきらとさせて、舐めるように一ページ一ページ読んでいる。

「おはよう、ラウル」

 そうして一応挨拶をしてみたものの、ラウルの耳には届いていないのか、返事は返ってこなかった。近づいて何の本を読んでいるのかと覗き込んでみると、それはルイスがクリスマスプレゼントとしてラウルに贈ったもので、全集がテーブルの上に積み上がっている。

「朝からずっとこの調子なんだ」

 さすがのリーマスも呆れてしまっているようだ。

「とりあえず、あたしのプレゼントに不満じゃないということだけは分かった」

 ルイスはわざと荒々しくラウルの隣にどっかりと座ったが、ラウルは微動だにしない。

「お茶を飲むかい?」

 リーマスがそう言ってくれたのでルイスが頷こうとしたとき、ラウルが杖を振ってティーセットを呼び寄せてくれた。人の話を聞いているのだろうと思うような行動だったが、ラウルは自分のカップにしか紅茶を注ごうとはしなかったので、ただ単に自分自身が紅茶を飲みたかっただけらしい。

 リーマスはまた呆れたように苦笑して、カップをふたつ持ってくると、紅茶を入れてくれた。

「私も、プレゼントをありがとう、ルイス。素敵なフォトスタンドだね」

「あれには魔法がかかっていて、今の空がフレームに映るんだって」

「素晴らしい朝日だったよ」

「何か写真を飾ってね。そうしないと写真立ての意味がないもの」

「そうだね。せっかくだし、今度みんなで記念撮影をしようか」

 ルイスがラウルの出したマフィンに手を伸ばすと、同時に隣からも手が伸びてきて、バスケットの上でぶつかった。ルイスがびっくりして手を引っ込めると、本を読んでいたラウルがやっと顔をあげた。

「ああ、ルイス、おはよう。いつからそこに?」

「おはよう。さっきからずっといたけれど、ラウルは本に夢中で気が付かなかったみたい」

 ルイスは今度こそマフィンを手に取って、それを一口頬張った。

「この本、前から買おうと思っていたんだけど、まさかプレゼントしてもらえるなんて思ってもいなかったよ。どうもありがとう」

「あたしがもらったプレゼントも同じような本だったから驚いちゃった」

「僕も驚いた」

 ラウルはそう言うと、本当に嬉しそうに笑い、ルイスと一緒になってマフィンを頬張った。

 ルイスは口のなかのマフィンを紅茶で流し込みながら天文全集の第三巻を手に取る。ぱらぱらと捲って眺めていると、本の中から製図が飛び出して、目の前に大きく展開した。アルビレオを中心に、星がきらきらと輝いている。

「凄いね」

 向こう側のソファに座っているリーマスが、本を見ながら感心して言った。ルイスはこくりと頷くと、次のページを捲った。

「ふたりとも、天文学が好きなのかい?」

「うん、あたしは大好き」

「満月以外ならね」

 ルイスが隣を見ると、ラウルは少し眉を顰めて苦笑を浮かべていた。

 そういえば、自分が去年もらったクリスマスプレゼントも天体に関するものだった。そして、天文学に興味があるのはもちろんラウルの影響もあるが、一番の影響を与えたのはケンタウルスのフェリオにあるのではないかと、ルイスはそう考えていた。ルイスは星について語るフェリオが好きだった。

「あ、そういえば」ルイスは突然思い出し、本から顔を上げてリーマスを見た。その声に驚いて、ラウルもこちらに目を向けている。

「あの鳥はどうした? ダンブルドアからの手紙を届けに帰ってきたあとは、どうしたの?」

「ルイス、ダンブルドア先生だ」ラウルはいつものように訂正したが、ルイスはそれを無視した。「森に放したよ。いけなかった?」

「ううん、いいの。もちろん、そうしてくれてよかった」

 あの空色の鳥が分かっていたか定かではないが、ルイスは確かにあの鳥と、そのように約束をしていたのだから。

「それで?」

「え?」

「厄介なことに首を突っ込んではいないだろうね?」

 にやりと笑うラウルを見て、ルイスは少し顔を顰めた。この顔はルイスが何も言わなくても全てを分かっているという顔だ。間違いなくからかわれている。

「自分から厄介ごとに首を突っ込んだわけではないもの。勝手に向こうから飛び込んでくるの」

「みんな心配しているよ」

「みんな?」

「例の三人がさ。頼んでもいないのに、次から次へと手紙がやってくるからね」

 例の三人というのはダンブルドアとマクゴナガル先生、それからセブルス・スネイプのことだろう。心配してくれるのは素直に嬉しかったが、ある意味ではいい迷惑だった。

「ルイスのことだから、釘を刺しておかないといけないね」ラウルは少し複雑そうな顔をしていた。「いいかい? 去年のことがあるからね、もう一度言っておくけど、スリザリンの継承者だとか秘密の部屋だとか、そういうものを絶対に探そうとしてはいけないよ。ハリー・ポッターがパーセルマウスだということを耳に挟んだけど、それは多分ヴォルデモート卿に関係があるんだと思う」

「ヴォルデモート卿に? どうして? 確かにヴォルデモート卿もパーセルマウスらしいけれど」

「多分、あの額の傷に何かあるんじゃないかな。僕も詳しくは分からないけど、力の一部がハリーに移ったということは大いにありうるよ。ただ蛇語を話せるというだけでは、闇の魔法使いにはなりえない。ルイスやハリーがそう噂されているようだけど、本当に馬鹿馬鹿しい話だよ」

 昨日リーマスに聞きたかったことの答えが、今ラウルの口から返ってきて、ルイスは少し困惑した。聞きたかったはずのことなのに、聞いてしまって少し後悔しているような気もしている。ハリーが蛇語を話せるのは、ヴォルデモート卿の力の一部がハリーに移ったからだと、そう言ったらハリーは一体どんな顔をするだろう。絶対にそんなことを自分の口からは言えないと、ルイスはそう思った。

「秘密の部屋のこと――は、また今度話そう」

 ラウルが一瞬驚いて目を見開いたので、ルイスはその様子を見上げながら首を傾げた。リーマスも驚いて窓の外を見つめている。

「どうやらお客さんが来たみたいだよ、ルイス」ラウルはどこを見て来客の存在に気付いたのか、そういうと立ち上がって窓を開けに行った。「やあ、フェリオ。わざわざ家に尋ねてくるなんて珍しいね」

 ラウルはそう言って家に入るように勧めたが、フェリオは首を横に振った。ルイスが立ち上がって窓の方を見ると、フェリオは窓の外に立ってこちらを一直線に見ていた。心なしか息が上がっているように見えるのは、気のせいだろうか。

「こんにちは、フェリオ」

 ルイスはどう言っていいか分からず、笑いたいような、困ったような複雑な顔をしてそう言った。フェリオの手には、先ほどルナに届けてもらったサファイアのペンダントが握られている。

「少し彼女と話をしたいのですが」

「僕に許可を得る必要はない。ルイス、彼はこう言っているけど?」

「あ、うん」

 ルイスはソファの周りをぐるりと回って、フェリオの前まで移動したが、見上げたフェリオはやはりいつもの通り無表情だった。ルイスがそのまま雪のなかへ出て行こうとすると、ラウルに一度呼び止められる。振り返ると、ラウルの黒いマントが肩からかけられるところだった。

「ありがとう」

「寒いから、あまり遅くならないようにね」

 ラウルはそうルイスに言って、フェリオにもよろしくと言うと、窓を閉めてしまった。

 雪は思っていたほど深くはなかった。ただ、靴のなかに侵入してくる雪の冷たさが、身体中に染み渡っていくと、背筋がぞくぞくと震える。ぐっ、ぐっ、と踏んだ雪が凝縮される音が耳に入り、今日ばかりは蹄の音は響かない。

 しばらくの間、ふたりに会話はなかった。ラウルのマントが、雪を擦っている。ルイスは時々それを払いながら歩いた。

「……本当に、あなたたちはどうして」後ろをゆっくりと歩いていたフェリオが不意にそう言ったので、ルイスは足を止めた。「あなたたちはどうして、どうしてそうなのですか?」

 振り返って見上げた顔は今にも泣き出してしまいそうで、ルイスはびっくりして、それから困惑した。

「どうしてって、そんなことを言われても……」

「あなたが謝る必要はないのです」

「え?」

「あなたは私にジュリアードの人間だから他とは違うのかと、そう言いました」

 フェリオはルイスの前に回って、顔を覗き込むようにして身を屈める。サファイアブルーの瞳に映っている自分の顔を見つけて、ルイスは少し不思議な気持ちになった。それは、ルイスが贈ったサファイアの宝石などとは比べられないほど美しく、透明感のある色をしている。

「あなたの父親も、私に同じことを言いました。そして、こうも言いました」

「『もしジュリアードの名で私を見ているのだとしたら、私はそんな名前はほしくない。私がただのマグルだったとしても、今と変わらず接してくれる事を信じている』とか?」

 信じられないという顔をして途轍もなく驚いているフェリオを見て、ルイスは堪らずくすくすと笑ってしまった。

「あたしね、あれから考えたの。そうしたら、きっと父さんならそう言うんじゃないかと思って。もちろん、あたし自身もそう思っているけれど」

 ルイスがさらさらとした雪を蹴るように足を前後させると、粉雪がふわりと舞った。日の光を浴びて、きらきらと輝いて、それはあまりにも美しかった。

「だけど、それはあたしが勝手に思っているだけ。だから、フェリオがどう思っているかなんて分からないけれど、でも、もういいの。あたしはフェリオが好きだから。フェリオがあたしをどう思っていようと、それこそ、あたしを嫌っていようと、あたしはフェリオを大好きだから」

 何となく、自分でもとても恥ずかしいことを言っているのではないかと思ったが、それは自分自身の本心だったので、ルイスは少し照れたように笑っただけで、他には何も言わなかった。対するフェリオは面食らったようにきょとんとした珍しい表情を見せて、手に持っていたサファイアのペンダントを雪の地面へ落としてしまう。

「ラウルやリーマスと一緒。あたしはフェリオを家族だと思っているし、それはこの先も変わらない。ううん、変えられないの。例えフェリオが嫌がってもね」

 最後の言葉は悪戯っぽく笑って付け加えたが、フェリオは相変わらず笑い返してはくれない。けれど、それがルイスの知っているフェリオだったので、その表情に妙に安堵していた。

 ルイスはしゃがんで雪の中に手を入れ、落ちたペンダントを取り上げると、それを強引にフェリオのごつごつとした大きな手に押しつけた。

「家族にはクリスマスプレゼントをあげるものなの。嫌でも受け取ってもらうからね」

「……いつ、私があなたを嫌がりましたか?」

「え? 何?」

「私がいつ、あなたを嫌いだと言いましたか?」

 今度はルイスがきょとんとする番で、その顔のままフェリオを見上げた。

「昔はずっとあたしを嫌がっていたでしょう? 嫌っていたのではないの?」

「あれは」フェリオは少しだけ困った表情を見せた。「戸惑っていたのです。どうすればいいのか、私には分からなかった。あなたとどのように接すればいいのか、分からなかったのです。ルーファス・ジュリアードとは違うと分かっていた。それでも、あなたを見ていると彼を思い出さずにはいられなかった。彼と同じように、あなたも笑うから」

「あたしを見て、父さんを思い出していたの? あたしを見ていて、つらかった?」

「いいえ」フェリオはゆっくりと首を横に振った。「つらくはありませんでした。むしろ、嬉しかった。あの時は、彼が帰ってきたと、そう思った」

 ルイスは父親を知らない。だから、自分がどれほど父親と似ているのかが分からない。父親を知っている人は、その多くがルーファスによく似ていると言うけれど、どこがどう似ているのか、ルイスには全く分からないのだ。

 自分のなかに父親を見るほど、ふたりは似ているということなのだろうか。たまに、学校でも一部の先生たちはルイスを見て目を細めることがある。最初はその行為の意味が分からなかったが、あれは自分の中に父を見ていたのだろうか。自分自身を通り越して、その向こう側にあるルーファスの面影を見ているのだろうか。それは何とも不思議な感じがすると、ルイスは思った。

「ですが、勘違いはしないでください」

 フェリオがルイスの肩に手を置いて言った。見間違いでなければ、フェリオは少し微笑んでいるように見える。

「あなたは、あなただ。他の誰でもない。ましてやあなたは、ルーファス・ジュリアードではないのです。あなたに彼が見え隠れするのは、あなたのなかにはまだ、確かにルーファス・ジュリアードが生きているからです」

「あたしの、なかに? 父さんが、生きている?」

「彼はいつもあなたの傍にいます。どうか、忘れないでください。何があっても、彼はあなたの味方であり続ける。この世に残れない身体となっても、それは変わりません。ずっとあなたの傍にいて、あなたを護っている。どうか信じてください。あなたのなかで生き続けている、ルーファス・ジュリアードを。そして、決して疑わないでください」

 淡々と語るフェリオの声が、ルイスのなかにすんなりと入り込んでくる。ルイスは何だかとても嬉しくなって、それなのに突然、とても泣きたくなった。

「……去年ね、賢者の石の事件のとき、何となくだけど、それでも近くに父さんを感じた気がしたの。だからね……うん、信じるよ。きっと、父さんはいつも傍にいるんだって。今までも、そして、これからも」

 そう言ってルイスが笑うと、驚いたことに、フェリオもにこりと微笑んでいた。

 ルイスは唖然として口を開け、一瞬頭の中が真っ白になった。そして今、自分が見たものは、夢や幻の類ではないかと、そう疑った。そう感じてしまうほど、その笑顔はとても美しかった。

「私は、あなたがジュリアード家の人間だから他とは違うと、そう思ったことはありません。私はあなたが嫌いではないし、嫌っていたことなど一度もない」

 ルイスはそのフェリオの言葉にとても安堵して、思わずその体に抱きつきたくなった。本当にそうしたらどうなるだろう。今は、そう思うだけで留めておくことにした。

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