ハリー・ポッターと呪われた一族の少女   作:しきり

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Mysterious diary

 ルイスは翌日の朝、セブルス・スネイプの部屋で目を覚ました。時計を見るとまだ少し早い時間帯だったが、もぞもぞとベッドから起き上がると、机の上にグリフィンドールの制服一式が置かれているのが目に入る。多分、昨日のうちにセブルスが用意してくれていたのだろう。

 当の本人は、ルイスがベッドを奪ってしまったせいで、ソファに横になって眠っていた。セブルスは眠っているときでも眉間に深い皺を寄せている。きっとその状態が癖になっているのだろうと、ルイスは思った。

 ルイスはすぐに、グリフィンドールの制服に着替えた。着替えている最中にセブルスが唸り声をあげて身じろぎをしたので、シャツのボタンを大慌てで留め、スカートを履くとタイを結ぶ。

 試しに杖なし呪文なしで魔法を試してみようと、遠くにある本を呼び寄せてみようとしたが、薬のせいか本はぴくりとも動かなかった。ルイスは杖もない丸腰のまま部屋を出ていこうとしたが、それではセブルスのことを言えないくらい薄情者のような気がして、机の上にあった羊皮紙を少しだけ失敬すると、インク瓶に浸した羽ペンですらすらと文字を書き記した。

 

 お世話になりました。ありがとう。

 

 結局何と書いていいか分からず、ルイスはそうとだけ記すと、羊皮紙の切れ端を机の上の目立つ場所に置いた。それから一度だけセブルスを振り返り、何もかけないまま眠っていたらしい姿に思わず呆れて、ベッドに戻ると毛布を掴んで、起こさないように注意をしながら身体の上にかけてやった。

「寝坊しないでね、スネイプ先生」

 小さく声をかけるとセブルスは煩そうに眉間の皺を濃くしたので、ルイスは足音すら立てないようにして寝室を出て、地下から階段を上り、まっすぐ大広間に向かった。朝食に降りてきている生徒の数は少なかったが、それでも全くいないわけではない。グリフィンドールのテーブルにハリーの姿を見つけて、どうしてひとりでいるのだろうと考えながら、ルイスは背後から近づいていった。

「おはよう、ハリー。ロンとハーマイオニーは?」

 ルイスがハリーの背中にそう声をかけて隣に座ると、ハリーは驚いてこちらを見た。その表情には、様々な疑問が見え隠れしている。ルイスはそんなハリーを見てくすくすと笑った。

「ちょっと早く起きてしまったから、先に食事をしに来たんだ。多分ロンはまだ寝ているよ」

「あたしがハーマイオニーより早く起きるなんて珍しいこともあるのね」

「ああ、いや、ハーマイオニーは医務室にいるんだ」

「医務室に? どうして?」

 ルイスはティーカップのなかにスプーンを落として、信じられないという顔をハリーに向けた。何だか嫌な予感がして、顔から血の気が引いていくのを感じる。自分自身にいろいろなことがあって忘れていたが、今ホグワーツではスリザリンの継承者だとか、襲われて石にされるだとか、とにかく物騒な状態が続いているのだ。

 まさか、ハーマイオニーがスリザリンの後継者に襲われたのではないかとルイスが考えていると、それを察したらしいハリーが慌てて首を横に振った。

「ハーマイオニーなら大丈夫だよ。スリザリンの継承者に襲われたわけじゃないんだ」

「それなら、どうしてなの?」

 ルイスはひとまず安心をして息を吐くが、ハリーは少し複雑な表情を浮かべてルイスを見た。笑いたいけど笑えない、そのような顔だった。

「ほら、僕たちクリスマス休暇中にポリジュース薬を使って、スリザリン寮に入り込む手筈だったろう?」

「うん、ちゃんと成功した?」

 ルイスはいつものように紅茶をゆっくりと飲みながら訊ねた。

「僕たちは一時間でスリザリン寮から戻ってきた。僕たちって、僕とロンのことだけど、ハーマイオニーはその間中ずっと個室に閉じこもって、いくら呼んでも出てこなかったんだ。どうも様子がおかしくてさ、戻ってきてから僕とロンが個室から出てきたハーマイオニーを見たら、その――猫になっていたんだよ」

「猫? まさか!」ルイスが大きな声を出すと、ハリーは唇の前に人差し指を立てた。「猫の毛をポリジュース薬に入れたのね? ポリジュース薬の使用は人間だけに限られていて、動物に変身してはいけないの。まさか、そんな初歩的なことをハーマイオニーが知らないわけない」

「だけど、本当なんだ。ハーマイオニーはミリセント・ブルストロードのローブについた髪の毛を取ったつもりだったらしいんだけど、本当は人間の髪の毛じゃなくて、猫の毛だったんだよ」

「それで医務室に入院してるということ? いつ頃退院できるの?」

「二月には退院できるってマダム・ポンフリーは言ってたけど、それより、ルイス」

 ハリーはルイスからの質問を無理やり打ち切って、ルイスに向き直った。

 ルイスにはハリーの言いたいことが分かっていたが、わざと分かっていないふりをして首を傾げた。

「ホグワーツ特急で倒れたって聞いたけど、大丈夫なの? マクゴナガルは詳しく教えてくれなくて――今までどこにいたの? 僕たち昨日もハーマイオニーのお見舞いで医務室に行ったんだけど、君、医務室にもいなかったよね?」

「あ、ああ、うん」

 ルイスは曖昧に頷くと、周りをきょろきょろと注意深く見回してから、声をできるだけ低くした。しかし、そのようなことをしなくても、ハリーやルイスに近づこうとする物好きな人はそういないので、そもそも盗み聞きされる心配はないだろう。

「一昨日の夜からずっとセブルスの部屋にいたの」

「何だって――!?」

「静かにして、声が大きい」今度はルイスがハリーにそう指摘をする番だった。「倒れたのは――そう、ちょっといろいろあったの。あたしもよく分からないんだけど、いろいろね。セブルスに薬を調合してもらったから、今はもうよくなった。だけど、昨日一日ずっと安静にしていろと言われたから、一歩も外に出してもらえなかったの」

 ルイスはたくさんの複雑な問題を、いろいろあったという一言で誤魔化すことにした。この問題を説明できるほどルイス自身も事態を把握しきれていなかったし、上手く言葉にできる気もしなかったからだ。

 ハリーがこの程度の説明で納得するとは思えなかったが、セブルスが煎じた薬を飲んだという事実を突き付けられたことで、他のことすべてが頭のなかから消滅してしまったようだ。

「ルイス、本当に? 飲んだのかい? スネイプの作った薬を……?」

「飲んだよ。これからも当分は、セブルスの調合してくれた薬を飲むことになっているし」

「で、でも、だけど、危ないよ! 相手はあのスネイプだ!」

「平気だってば。別に毒を盛られるなんてことはないから、心配しないで」

 あっけらかんとして言うルイスをハリーは少し哀れそうに見て、このことは忘れようと思ったのか、遠い目をして正面に向き直ると、オートミールを口に運んでいた。

「だけど、ロンにはこのことを黙っていたほうがいいかもね」ルイスがそう呟くと、ハリーは少し不思議そうにこちらを見る。「きっと、あたしがセブルスの煎じた薬を飲んでいるなんてことを知ったら、ロンはショック死してしまうかもしれないでしょう?」

 ルイスが悪戯っぽくそう言って片目を瞑ると、ハリーは少しだけ笑った。しかし、その笑顔もすぐに消し去り、取って付けたような険しい表情になる。その目は明らかに自分の背後を見ていたので思わず振り返ると、まだ少し眠そうな顔をした仏頂面のセブルス・スネイプが、こちらに向かって歩いてくる姿を見ることができた。

「ミス・ジュリアード」

「はい、スネイプ先生」

 ルイスが笑みを浮かべてそう応じるとセブルスは一瞬怯んだが、ハリーを一瞥したあとで再びこちらを見た。

「また気分が悪くなったら、すぐに私のところへ来るように。症状に合わせて薬を煎じる。それから、月の満ち欠けの計算をしておくのだ。薬の服用日を忘れぬように」

「分かりました、先生」

 セブルスは返事を待たず、ルイスが答える頃にはもう既に、こちらに背中を向けていた。ハリーはその後ろ姿を苦々しげな表情で睨み付けていたが、ルイスが脇腹を突くとこちらを向いた。

「ねえ、ハリー。ロンとハーマイオニーには、あたしがセブルスの部屋にいたということは秘密にしておいてほしいの。今回のことは、ええと、突然死にそうなほど具合が悪くなったから、一度家に帰ったということにしておいてくれればいいから」

 ちょうどふたりの話が終わったとき、段々と賑わってきた大広間の入り口にロンの姿が見えた。ロンはふたりの姿を見つけるなり駆け寄ってきて、ルイスにこれでもかというほどの質問を浴びせかけた。今までどこにいたんだという質問になると、ルイスは当たり前のような顔をして、一度家に帰っていた、と答えた。ホグワーツのどこを探しても見当たらなかったのだから、そうかもしれないとロンは納得していたが、ここで本当のことをロンに打ち明けたらどうなるだろうと思い、ルイスは人知れずにやりと含み笑いを浮かべていた。

 その日の夕方、すべての授業が終わったあと、ハリー、ロン、ルイスはハーマイオニーの見舞いに行った。ロンは何冊もの本を抱えている。ハーマイオニーは医務室にいるというのに、それでも毎日宿題を欠かさずこなそうとしていた。

 ハーマイオニーの症状は、ルイスが考えていたほど酷くはないようだった。顔にも毛は生えていなかったし、尻尾も生えてはいない。それほどショックを受けてもいないようだった。

「何か新しい手がかりはないの?」

 ハーマイオニーもルイスが倒れたことを聞いていたようで、多少の後ろめたさを覚えながらも、ロンのときと同じように家に帰っていたという嘘を吐く以外、他になかった。ハーマイオニーはラウルとセブルスが友人だということを知っているので、別段隠す必要はなかったのかもしれないが、ロンがいる手前本当のことを教えるのが憚れたのだ。

「何にも収穫なしだよ」

 ハリーはマダム・ポンフリーを気にしながら憂欝そうに言った。

「絶対にマルフォイだと思ったんだけど」

 その言葉はルイスが今朝ロンに会ってから、もう何百回と聞いた言葉だった。

 ルイスがそこから話を逸らそうと別の話題を探していると、ハーマイオニーの枕の下から何か金色のものがはみ出しているのが見えて、思わず首を傾げた。

「ハーマイオニー、それは何?」

「え? ああ、ただのお見舞いカードよ」

 ハーマイオニーはそう言って、慌てて枕の下にそれを押し込もうとした。しかし、それよりも早くロンが金色の何かを取り上げ、声を出して読み上げる。

「ミス・グレンジャーへ。早く良くなるように、お祈りしています。あなたのことを心配している、ギルデロイ・ロックハート教授より」ルイスはぎょっとしてハーマイオニーを見、ロンは心底呆れ果てていた。「君はこんなものを枕の下に入れて寝ているのか?」

 しかし、ロンがそう言うのとほぼ同時に、マダム・ポンフリーが夜の薬を持ってハーマイオニーのところへやって来る。三人はそれからすぐに、医務室を追い出されてしまった。

「ロックハートのやつ、どうかしてるだろ。わざわざ生徒にお見舞いのカードを書く先生なんているか? ハーマイオニーもハーマイオニーだよ、あんなやつのカードを枕の下に入れて寝るなんて、毎晩馬鹿みたいな夢ばっかり見ることになりそうだ」

 グリフィンドール塔へ向かう階段を上りながら、ロンが心底不快だという顔をして言った。

 これ以上ロックハートの話を続けたくなったルイスが、今日の魔法薬学の授業でどっさりと宿題を出された話を持ち出すと、ハリーとロンはますます不快そうな面持ちを浮かべた。

「髪を逆立てる薬には、鼠の尻尾は何本入れればいいんだっけ?」

「鼠の尻尾? それなら――」

 ロンが訊ねてきたので、ルイスがそれに答えようとすると、上の階で誰かの怒り狂っている声が聞こえてくる。

「フィルチだ」

 ハリーがそう言ったのを合図に、三人は階段を駆け上がって身を隠し、じっと耳を澄ませた。

「また誰かが襲われたわけじゃないだろうね」

「縁起の悪いこと言わないで」

 三人は身を寄せ合って隠れながら、それでも必死で声を聞こうと耳を傾けていると、フィルチの苛立たしげな声が聞こえてくる。

「……また余計な仕事だ! 一晩中モップをかけるなんて! もうたくさんだ! ダンブルドアのところに行くぞ!」

 足音が段々と遠退き、小さく扉の閉まる音がした。三人は廊下の曲がり角から首を突き出し、その場所を確認する。三人はまたしても、ミセス・ノリスが襲われた場所にきていた。おびただしい量の水が廊下の半分を水浸しにしていたので、そのせいでフィルチが怒り狂っていたのだろう。水が漏れているのは、嘆きのマートルが取り憑いているトイレからで、そのなかからはマートルの叫ぶ声が聞こえ出していた。

「マートルがまた騒ぎ出したみたいだけど、何があったんだろう」

「取り敢えず入ってみよう」

 三人は互いに頷きあい、ローブをくるぶしまでたくし上げると、水でぐしょぐしょになった廊下を横切ってトイレの中に入った。マートルはいつもより一層大声で、その名前の通り嘆いていた。いつものように隠れているようだ。トイレは床どころか壁や天井まで濡れていて、蝋燭の灯りも消えてしまっている。

「マートル、どうしたの?」

 そう言ったハリーは、まるで無機質な便器に話し掛けているようだとルイスは思った。

「そこにいるのは誰なの? また何か私に投げ付けにきたの?」

「どうして僕が君に何かを投げ付けると思うの?」

「私に聞かないでよ!」マートルはそう叫ぶなり、また大量の水をこぼしながら姿を現した。「私はここで誰にも迷惑をかけずに過ごしているだけなのに、私に本を投げ付けて面白がる人がいるのよ!」

「だけど、君は本をぶつけられても、その、痛くはないだろう? 身体を通り抜けるだけだし」

「ちょっと、ハリー!」

 ハリーの言ったことは、とても理に適っていたが、それは言っていいことではない。特に相手がマートルなら尚更だ。案の定、マートルは大きく膨れ上がって、大声で喚き出した。

「さあ、マートルに本をぶつけよう! 大丈夫、あいつは何にも感じないんだ! 腹に命中すれば十点、頭を通り抜ければ五十点! なんて愉快なゲームだ――どこが愉快だっていうのよ!」

「一体誰が投げ付けたの?」

 ハリーは不思議そうにそう訊ねたが、マートルは芳しい回答をくれなかった。

「そんなこと、知らないわよ。私はU字溝のところに座って、死について考えていただけだもの。そうしたら、頭の天辺を通って、あれが落ちてきたわ」マートルはそう言って、三人を睨み付けた。三人が何かを自分に投げ付けてくるのではないかと、まだ疑っている顔だった。「投げつけられたものなら、そこにあるわよ。私が流し出してやったの」

 マートルが指を差している手洗い台の下を、三人は横並びになって覗き込んだ。すると、小さな薄い本のようなものが落ちているのを見つけて、ルイスはハリーの肩を叩いた。

「ハリー、あれじゃない?」

 ぼろぼろの黒い表紙が、びしょびしょに濡れて落ちていた。ハリーもそれを見つけて拾おうと一歩足を踏みだすと、ロンが慌てて腕をのばし、ハリーの身体を止めた。

「何? どうしたの?」

「おい、気は確かか? 危険かもしれないのに。物は見かけによらないんだ」

 ロンは不審そうに言って、何故か助けを求めるようにルイスを見た。

「まあ、それは確かにね。本の中には、怪しいものもあるけれど。呪われた本とか」

「そうさ。魔法省が没収した本の中には、見ただけで目を焼いてしまう本があったってパパが言ってた。死ぬまで馬鹿馬鹿しい詩の口調でしか喋れなくなったり、読み出すと絶対やめられなくなる本だったり」

「もういいよ、分かった。だけど――」

 何やら言い合っているハリーとロンの隣で、ルイスはその本をじっと見つめていた。何か、そう、何かは分からないが、何かがおかしい。ルイスは直観的にそう思った。それなのに、身体は勝手に動いて、気がつくとその本はルイスの手のなかにあった。

「大丈夫、ただの日記帳みたいだ」

 それを持ったルイスの手元を覗き込みながら、ハリーが言った。手を差し出してきたので、ルイスがその手の平に日記を乗せると、ハリーはすぐに最初のページを開いた。そのページには今にも消え入りそうな、やっと読み取れるくらいの文字で、名前が記されている。

 

――T・M・リドル――

 

「ちょっと待ってよ」用心深く二人に近づいてきたロンが、日記帳を二人の間から覗き込んだ。「僕、この名前を知ってる。トム・M・リドルだ。五十年くらい前に、学校から特別功労賞をもらった生徒だよ」

「どうしてロンがそんなことを知っているの?」

 ルイスが眉根を寄せて問うと、ロンは恨みがましく言った。

「罰則のとき、フィルチに五十回以上もこいつの盾を磨かされたんだ。嫌でも覚えるに決まっているだろ?」

 ハリーは濡れたページを、破らないようにそっと捲っていた。しかし、そこには何も書かれていなかった。他のどのページにも、何も書かれていない。

「この人、日記に何にも書かなかったんだ」

 ハリーは何か特別なことが書かれているかもしれないと期待していたのだろう、その声はとても落胆しているように聞こえた。

「そのどっかの誰かさんは、何だってこんな何も書かれていない古びた日記帳をトイレに流そうとなんてしたんだ?」

 ロンは何だかんだ言いつつも、かなり興味津々の様子だった。

「ほら、見て。この人はマグル生まれに違いないよ。ボグゾール通りで日記を買っているんだから」

「ホグゾール通りって?」

 ルイスが不思議そうに尋ねると、ハリーは信じられないものを見るような目でルイスを見たが、すぐに知らなくて当然だと察してくれたようだ。だが、ハリーがホグゾール通りについて説明してくれようとしたとき、ロンが口を開いた。

「ホグゾール通りだかホグワーツ通りだか知らないけど、こんなものは君が持っていたって何の役にも立たないっていうことだけは、僕にも良く分かるよ。何にも書かれてない日記帳なんて、落書きをするくらいしか使い道はないさ。それか――」ロンはハリーとルイスにやっと聞こえるくらいの声で続けた。「マートルの鼻に命中すれば五十点だ」

「ロン」

 ルイスが咎めるように言うと、ロンは少し困ったように苦笑を浮かべた。その隣でハリーがポケットの中に日記帳を忍ばせているのをルイスは見たが、特に何も言わなかった。しかし、ロンはそれが信じられなかったらしく、嫌悪感の滲む面持ちで見つめていた。

 

 

 二月に入ると、マダム・ポンフリーがそう宣言していた通り、ハーマイオニーはすっかり元気になって医務室から退院することができた。グリフィンドール塔に帰ってきたその夜に、ハリー、ロン、ハーマイオニー、ルイスは談話室でこれまでに起こったことを話し合っていた。そしてハリーは、トイレで拾った日記帳をハーマイオニーに見せ、意見を求めている。

「もしかしたら、なにか隠された魔力があるのかもしれないわ!」

 ハーマイオニーは、ロンやルイスの予想に反してとても興味津々だった。ハリーの手から日記帳を受け取り、詳細に調べている。

「魔力を隠しているとしたら、完璧に隠しきっているよ。恥ずかしがり屋なのかな。ハリー、何でそんなものを捨ててしまわないのか、僕は不思議で仕方がない」

「僕はただ、誰かがどうしてこれを捨てようとしたのか、それが知りたいんだよ。それに、リドルがどうしてホグワーツ特別功労賞をもらったのかも知りたいし」

「そりゃ、何でもありだろ? O・W・Lの試験で三十科目受かったとか、大イカに捕まった先生を救ったとか。極端な話、もしかしたらマートルを死なせてしまったとかさ」

 ルイスはロンの仮説を聞いて鼻で笑い、魔法薬と変身術で出された宿題をせっせと片付けていた。そんなルイスを、ロンは不快なものでも見るように一瞥した。

「秘密の部屋は五十年前に開けられただろう?」ハリーが言い聞かせるように話しだした。「マルフォイがそう言ったんだ」

「うーん……」

「そして、この日記は五十年前のものなのよ」

 ハーマイオニーは完全に興奮した状態で、目を爛々と輝かせ、とんとんと日記を叩いた。

「それがどうかした?」

「何よ、ロン。目を覚ましなさいよ。秘密の部屋を開けた人が、五十年前に学校から追放されたことは知っているでしょう? T・M・リドルが五十年前、ホグワーツ特別功労賞をもらったのは、秘密の部屋を開けた犯人を捕まえたからとは考えられない? この日記はすべてを語ってくれるかもしれないわ。部屋がどこにあるのか、どうやったら開けることができるのか、そのなかにどんな生物が棲んでいるのか。今回の襲撃事件に関係している人物にとっては、日記がその辺に転がっていたら困るでしょう?」

「そいつは素晴らしい論理だよ、ハーマイオニー」ロンが何て愚かなんだとでも言いたげな口調で言った。「だけど、ほんのちょっと小さな穴があるのを忘れていないか? 日記にはなーんにも書かれてないんだ」

 けれど、ハーマイオニーは鞄の中から杖を取り出すと、日記にそれを向けた。その弾みでルイスのインク瓶が横倒しになると、まだ中にたっぷりと残っていたインクが羊皮紙に大きな染みを作る。その途端にハーマイオニーはぎょっとして、一瞬自分が何をしようとしていたのかすら、忘れてしまったようだった。

「あ、あの、ルイス、ごめんなさい!」

 魔法薬のレポートはもう終わりかけだったので、ハーマイオニーは顔を青くして申し訳なさそうに謝った。

「平気、気にしないで」

 ルイスも自分のポケットから杖を取り出すと、そしてそれを一振りした。すると、羊皮紙の上にできたインクの染みだけが綺麗に消え去り、規則正しい文字の羅列だけが残される。

 ルイスは確かに、セブルスが煎じてくれた薬のおかげで、あの夢のようなものは見なくなっていたし、杖と呪文なしで魔法を使うこともできなくなっていた。しかし、完全には力を抑えきれていないのか、杖を使えば頭の中で念じるだけで魔法を使うことができた。

 その後、ハーマイオニーは日記を軽く三回杖で叩いて、アバレシウム、と唱えてみたり、現れ消しゴムでページを擦ってみたりしていたが、やはり文字が浮かび上がることはなかった。

「だから言っているじゃないか。何も見つかるはずがないよ」ロンが勝ち誇ったように言った。「リドルはクリスマスに日記帳をもらったけど、何も書く気がしなかったんだ」

 しかし、ルイスには何故かそうとは思えなかった。五十年前のことがどうというより、その日記帳自体が気になって仕方がない。どうやらハリーもそうらしく、よく日記を取り出しては白紙のページをぺらぺらと捲ったり、撫でたりしていた。

「ハリー、どう? 何か分かった?」

 夕食後の談話室で宿題をしながら日記帳を眺めているハリーを見つけて、ルイスはその隣に腰を下ろした。すると、ハリーは力なく首を横に振り、項垂れてしまった。

 この間、トロフィールームにトム・M・リドルのことを調べに行ったときも、これといってホグワーツ特別功労賞を与えられた理由は分からなかった。魔術優等賞という古いメダルと、首席名簿の中に、同じ名前を見つけただけだった。

 けれど、ハーマイオニーがその中にラウル・ジュリアードの名前を見つけたときは、なぜか大騒ぎをしていたことを思い出す。

「まあ! あなたのお兄さんって首席だったのね!」

 そう言ったハーマイオニーに尊敬の眼差しを向けられたのが、何だか少し嫌だった。それからこっそり自分の両親の記録を見つけ、ルイスは思わず声を上げそうになる。首席と次席のところで仲良く並んだ名前を目の当たりにしたときは、心底驚いた。

「でも僕、この名前、トム・M・リドルなんて名前は聞いたことがないはずなのに、どうしてだか分からないけど、知っているような気がするんだ。何か、とても不思議なんだけどさ」

 ハリーはそう言って、頻りに首を傾げていた。

 ルイスには少し、その気持ちが分かるような気がしていた。初めて聞く名前のはずなのに、そのような気がしないのだ。もうずっと前から、その名前を知っていたような気がすると思いながら、ハリーの手のなかにある日記帳を、ぼんやりと眺めていた。

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