ハリー・ポッターと呪われた一族の少女   作:しきり

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Eavesdropping

 グリフィンドール寮に戻ると何度言い張っても、セブルスは今戻ると騒ぎになるだけだと言って、ルイスのいうことなどちっとも聞いてはくれなかった。おそらく、ハリーとロンはルイスがいないことに気付いているだろう。悪くすれば、ルイスも何者かに襲われたまま、まだ誰にも見つかっていないのだと、そのように考えているかもしれない。今戻らない方が逆に騒ぎを大きくするような気もするが、この不機嫌そうなセブルスに逆らうのはやめておいたほうがいいと経験上知っていたので、これ以上余計なことは言うまいと決意した。

 ベッドの上でああでもない、こうでもないと喚き散らす自分を、ソファで大人しくしているのなら構わないと妥協をしてくれたことだけでも、喜ぶべきなのだろう。

「ねえ、セブ――」

 しかし、椅子に座っているだけというのはやはり思いの外暇なもので、ルイスが理由もなく何度目かにセブルスの名を呼ぼうとした時、机に向かって仕事を片付けていたセブルスがこれ見よがしにため息を吐いて、不機嫌極まりない面構えをこちらに向けた。

 ルイスはその顔を目の当たりにし、声をかけるのではなかったと思いながら亀のように首を竦める。そして、なんでもない、と言いかけると、セブルスは徐にローブから杖を取り出して一振りした。まさか呪いでもかけられるのではないかと思い身構えるが、想像とはまるで違うことが起こった。目の前のテーブルに、ティーセットとクッキーの缶が現れたのだ。

 自分に呪いがかけられることよりも大きな衝撃を覚え、ルイスはセブルスをまじまじと見つめた。紅茶はともかく、セブルスがクッキーを出してくれる日が訪れるなど、想像したこともなかったのだ。

「それでも食べて少し大人しくしていろ」

 本当は早急に出て行ってほしいのだろうが、そういうわけにもいかないだろうという葛藤と戦っているのが、その表情からは感じ取ることができた。

 ルイスはそのようなセブルスをかわいそうに思いながら、ティーポットの頭を二度杖で叩き、水を湧かせると次いで沸騰をさせ、缶から取り出した茶葉をそのなかに三杯落とした。お茶の葉は深みのあるダージリンだ。香りたつ湯気に鼻先を近づけるだけで、とても幸せな気持ちになる。

 カップのひとつを手に取ると、ルイスはセブルスが仕事をしている机に足を向けた。難しい顔をし、ぶつぶつと独り言を漏らしながら頭を抱えていたので、論文でも書いているのだろうと思っていた。しかし、何のことはない、実際は生徒から提出されたレポートの採点をしているところだった。

 眉間にくっきりと寄った皺を見て、それから机の上に広げられている羊皮紙に目を移すと、そこにグリフィンドールのネビル・ロングボトムという名前を見つける。ここで自分がセブルスの気に障るようなことをすれば、ネビルのレポートの点が更に悪くなってしまうような気がして、ルイスは早々に退散することにした。

「はい、セブルス。熱いうちに飲んでね」

 ルイスは努めて明るく言ったが、セブルスにはその声さえ届いてはいないようだ。もしくは、聞こえているが無視をしているのだろう。こめかみに浮いている青筋を更に目立たせ、ネビルのレポートを睨みつけていた。

「……紅茶は冷めてしまうと、美味しさがが半減して……聞いてないよね」

 ルイスが呆れ返って背を向けると、今度は小さく呪文を呟くような声が聞こえてきたので、背筋がぞくぞくっと震えるのを感じた。誰かを陰ながら呪うとき、絶対にこうして呪文を唱えるに違いないと思うような陰湿さだ。そう思って振り返るが、セブルスはただレポートに対して文句を言っているだけのようだった。

「こいつはいったい、授業の何を聞いているんだ……」

 あなたに怯えて話を聞くどころではないんだよ――と、突っ込むこともできず、ルイスは椅子に戻って自分の入れた紅茶を飲んだ。クッキーを食べながら――きらきらと宝石のように飾られたジャムが輝いている――紅茶を飲んでいたのだが、やはり暇なことには変わりがない。杖を手に取り、研究室にある本棚から本を次々と呼び寄せていると、目の前を本が飛びかうのがそれほど嫌だったのか、間もなくしてセブルスの雷が落ちたのは言うまでもなかった。

 時刻は刻々と過ぎ、ルイスは今夜もセブルスのベッドを奪わなくてはならないのかと考えると、少し気分が沈んだ。

「ねえ、セブルス。あたし、やっぱり寮に戻りたいんだけど……」

 ルイスは意を決して再度そう言うが、肝心のセブルスは予想以上に採点に夢中らしく、こちらの話などまるで聞いていないようだった。このまま何も言わずに出て言ってしまっても、セブルスは気が付かないのではないだろうか。そんな考えが頭をよぎり、ルイスは堂々とセブルスの座っている机の前を通り過ぎ、ドアの前に立った。

 ルイスの思った通り、セブルスはその不審な行動に気が付きもしない。気を緩めすぎだと思いながら、これは好都合だと感じたルイスは、こっそりと魔法薬の研究室から抜け出した。

「……セブルスって、意外と間抜け」

 音を立てないように階段を上りながら、ルイスは小さく呟いた。どうせ寮に戻って眠るだけだ、セブルスもそれほど怒りはしないだろう。

 ルイスはそのくらいの生易しい気持ちでいた。しかし、その軽い気持ちもすぐに消えてしまった。階段を上りきって玄関ホールに出たところで、静まり返った校内に荒々しく響く扉を閉める音と、足音が近付いてきたのだ。それは明らかに地下から聞こえてくるもので、ルイスは反射的に大慌てで物陰に身を隠した。

 どうして隠れる必要があるのだと思いながらも、必死に息を潜めてその場をやり過ごそうとした。しかし、ルイスは更に恐ろしい現場を目の当たりにして、思わず小さく悲鳴を上げそうになる。両手で口に蓋をすると、どくどくと鼓動を繰り返す心臓の音を煩わしく思いながらも、しばらくの間息を止めていた。

 ルイスは廊下の影に隠れて、玄関ホールの方を覗き込んだ。そこには、目をぎらぎらとさせてルイスを探しているセブルス・スネイプと、不自然なくらい身を寄せあっているハリーとロンの姿が見える。それなのに、セブルスにはそのふたりの姿が見えていないようで、ルイスは不思議に感じながら眉を寄せた。だが、それがなぜなのかはすぐに判明した。ハリーとロンは透明マントを被っているのだ。そう考えれば、あの不自然な格好も頷ける。

 ルイスは自分でも、あの夢のようなものを見たあとは魔法の力が異常に高くなることが分かっていたので、透明マントを透かし見ることができても、それ以上の驚きを抱くことはなかった。

 とはいえ、この状況は非常に危うい。マントは完全に姿を隠すが、存在を消してはくれないのだ。衣擦れの音も、呼吸をする息遣いも、それらの音は決して消えることがない。

「――シュンッ……」

「こんちくしょう」

「あっ――」

 その三つの声が玄関ホール内に同時に響いた。それぞれが発した自分の声に、それぞれの声がかき消され、奇跡的に、他の誰かに自分の声が聞かれることはなかった。

 セブルスは玄関ホール付近を探すことを諦めたのか、くしゃみのあとすぐにその場を立ち去った。ハリーとロンはほっとしたように息を吐くと、急いで正面玄関の樫の扉をうっすらと開けて城から出ていく。

 ルイスは一瞬躊躇ったが、周囲に誰もいないことを確認してから、忍び足でふたりの後を追いかけた。ふたりは幾分足を速めて、ほとんど走るようにしてハグリッドの小屋へ向かっているようだった。

 何故このような夜更けにハグリッドの小屋へ行く必要があるのだろうと、考える必要はあまりなかった。理由は分かっている。ハリーは日記のなかで、ハグリッドが秘密の部屋を開けた犯人だという事実を突きつけられたと話していた。そして今日、ハーマイオニーたちが襲われ、その事実を確かめるときが来たと考えたに違いない。

 ハリーとロンがハグリッドのいる小屋へ辿り着き、扉を叩いたところでやっと、ルイスはふたりに追い付いた。しかし、ハリーもロンも、まだルイスの存在には気付いていないようだ。

 扉はすぐに開き、真っ正面に現れたハグリッドは三人に向かって石弓を向けていた。ファングはその後ろでけたたましく吠えている。

「おお」ハグリッドは慌てた様子で石弓を下ろすと、三人をまじまじと見た。「三人とも、こんなところで何しちょるんだ」

「三人!?」

「三人だって!?」

 ハグリッドの言葉に驚いたハリーとロンは声を揃えてそう言い、慌てて後ろを振り返った。目を見開き、突如として現れたゴーストでも見るかのような顔をしたふたりの顔を見ると、ルイスは小さく吹き出した。

「ルイス! どうして君がここにいるの?」

「悪いとは思ったけれど、後をつけてきたの。さっきは危なかったね、スネイプに見つかりそうになっていたでしょう?」

「後をつけたって、僕たちは透明マントを被っていたのに、何で……」

「透明マントのなかが見えるの。今だけね」

 ルイスはハリーとロンを小屋のなかに押し込み、重たい扉を閉めた。ふたりが怪訝そうにルイスを見ている横で、ハグリッドはお茶の準備をしている。だが、やかんから水をこぼして暖炉の火を消しそうになったり、がたがた震える手がテーブルの上にあるカップを取り落とし、それを粉々にしたりしていて、何かに対して動揺していることは明らかだった。

「ハグリッド、大丈夫?」ハリーが心配そうに声をかけた。「ハーマイオニーのこと聞いた?」

 ハーマイオニーという名前に反応を示したルイスをハリーは一瞥したが、すぐにハグリッドへ視線を戻した。ルイスは杖を取り出すとそれを一振りして、床で粉々になったカップを元通りにした。

「ああ、聞いた」

 ハグリッドはそうとだけ言うと、窓の外を不安そうに何度も伺いながら、三人に熱湯入りの特大マグカップを差し出した。それは間違いなくただの熱いお湯で、ティーバッグも入っていなかった。そして、ハグリッドが分厚いフルーツケーキを皿に盛っているとき、ルイスは何かが近づいてくる気配を感じ、咄嗟に後ろを振り返った。すぐさまハリーの手から透明マントを引ったくり、ふたりの頭の上から被せると、ほとんど同時に扉がノックされる。

 ルイスはテーブルの上に並んだ三つのマグカップとフルーツケーキを消却呪文で消し去ってから、すぐに透明マントのなかに隠れた。

「何をしたの?」

「ハグリッドしかいないこの小屋で、マグカップが三つも並んでいたら不自然でしょう?」

 ハグリッドは三人が透明マントからはみ出していないことを確認すると、またあの石弓を手に取ってから扉を開けた。

「こんばんは、ハグリッド」

 そこに立っていたのは、アルバス・ダンブルドアだった。

 ダンブルドアは深刻そうな表情を顔に貼り付けて、小屋に入ってきた。しかもひとりではない。後ろからもうひとり、男が入ってくる。

 ルイスはその男が誰なのかを知っていた。コーネリウス・ファッジ、魔法省大臣だ。ファッジは背が低く、恰幅の良い身体つきをしている。癖のある白髪頭で、おまけに、何とも趣味の悪い色のローブを着ていた。

「コーネリウス・ファッジ、魔法省大臣だよ! パパのボスだ!」

 思わずというように声をあげたロンを、ルイスとハリーは肘で小突いて黙らせた。

 ハグリッドは酷く青ざめて、嫌な汗をかきはじめている。動揺した様子で椅子にどっかりと座り込み、ダンブルドアとファッジを交互に見た。

「状況はよくない、ハグリッド」ファッジはぶっきら棒に言い、更に続けた。「非常によくない。だが、ここへ来ないわけにはいかなかった。マグル出身の者たちが四人も襲われたんだ。もう始末に負えんよ。我々は魔法界に対し、十分な対策を執っていることを主張しなければ」

「俺じゃねぇ、俺じゃねぇんだ。俺は決して、ダンブルドア先生、知ってなさるでしょう? 俺は決して……」

 縋るようにハグリッドが言うと、ダンブルドアは眉を顰め、咎めるようにファッジを見た。

「しかしな、ダンブルドア。ハグリッドには不利な前科がある。魔法省としても、何かしら手を打たねばならんのだ。特に学校の理事たちがうるさい」

「コーネリウス、もう一度進言させてもらうぞ。ハグリッドを連れて行ったところで何の解決にもならん。彼はこの一件に何の関係もないのじゃ」

 ダンブルドアの青い目は、強い意志を持って力強くファッジを見据えていた。

「私の身にもなってくれ、ダンブルドア。理事から圧力をかけられている。何か手を打ったという印象を与えないと。ハグリッドじゃないと分かれば、彼はここに戻り、何の咎めも受けない。彼を連行せねば。どうしてもだ。私にも立場というものがある」

「俺を連行?」ハグリッドは声も身体も大きく震えていた。「い、いったいどこへ?」

「ほんの短い間だけだ。罰ではない、ハグリッド。念のためだ。他の誰かが捕まれば、君は十分な謝罪の上、釈放されるだろう」

「まさか、アズカバンじゃ……?」

 ルイスはアズカバンという言葉に、思い切り顔を顰めた。しかし、ハグリッドの言葉にファッジが答える前に、また激しく扉を叩く音がする。今度はダンブルドアが扉を開けに向かうと、ルイスは一瞬、自分の目を疑った。ロンの隣でハリーが大きく息を呑む音が聞こえた。

 開けられた扉から入ってきたのは、ルシウス・マルフォイだった。マルフォイ氏は長い漆黒のマントに身を包み、冷たくほくそ笑んでいる。ファングが威嚇をするように唸り出した。

「もう来ていたのか、ファッジ」

 仮にも魔法省大臣のファッジに対しても、マルフォイ氏は馴々しい態度だった。

「何の用があるんだ? 俺の家から出て行け!」

 ハグリッドは激しい口調で言った。ルイスも全く同じ気持ちだった。ルイスはこのルシウス・マルフォイという男のことが、あまり好きではなかった。

「威勢がいいね。だが、言われるまでもない。君の、これを家と呼べるのかどうかは別として、私はここにいるのが非常に本意ではないのだ」マルフォイ氏はそうせせら笑いながら、確かにマルフォイ家とは比べものにならないくらいちっぽけな丸太小屋を見回した。「ただ学校に立ち寄っただけなのだが、校長がここだと聞いたものでね」

「それではいったい、わしに何の用があるというのかね? ルシウス」

 ダンブルドアの言葉遣いはとても丁寧だったが、その眼差しはマルフォイ氏を睨むようでもあった。

「実に酷いことだ。言い難いのだが、言わねばならない」マルフォイ氏は長い羊皮紙の巻紙を取り出して、嫌らしく笑った。「理事たちは、あなたが退くときが来たと感じているようだ。ここに停職命令がある。十二人の理事が全員、このように署名をした。残念ながら、我々理事は現校長が現状を把握しきれていないと、そう感じておりましてな。これまでに何度も生徒たちが襲われ、今日の午後にもまたふたり、生徒が襲われたそうではありませんか。この調子では、ホグワーツにはマグル生まれの魔女や魔法使いはひとりもいなくなるでしょう。それがこのホグワーツ校にとってどれだけの損失になるか、分かったものではない」

 ダンブルドアを停職になるなど、そんな馬鹿なことがあってたまるかとルイスが思っていると、ファッジも驚愕して言った。

「待ってくれ、ルシウス。ダンブルドアが停職だと? そんなことは駄目だ、絶対に許されん。こんなときだというのに、それだけは絶対に困る」

「校長の任命、そして停職や解雇も、理事会に一任されていることは知っての通りだ、ファッジ。それに、ダンブルドアは今回の連続襲撃を食い止めることができなかった

「ルシウス、ダンブルドアでさえ食い止められないのなら、いったい他に誰ができるというのだ」

「今後の選任については追って報告があるだろう。しかし、今回の一件は十二人全員の投票で下された結論だ、何者も逆らうことはできない」

 マルフォイ氏が勝ち誇ったような面持ちでそう言うのを黙って聞いていたハグリッドが、突然椅子から立ち上がり、もう何年も櫛を通していないような髪を大きく振り乱した。

「そんで、貴様はいったい何人の理事を脅した? 何人脅迫して賛成させたんだ? え? マルフォイ!」

「そういう君の気性が、近いうちに墓穴を掘ることになるだろう、ハグリッド。アズカバンの看守にはそうして怒鳴らないようご忠告申し上げる。あの連中の気に障るだろうからね」

 それでは、ハグリッドは本当にアズカバンに送られてしまうのだろうか。これほどまでに理不尽な話はないと思いながら、ルイスは握り締めた手の平に爪が食い込むのを感じていた。

「ダンブルドアを辞めさせられるものなら、やってみろ! そんなことをしたら、マグル生まれはおしまいだ! この次は殺しになる!」

「落ち着くんじゃ、ハグリッド」ダンブルドアがハグリッドを厳しく嗜めた。それから、見た相手の心を見透かすような青い目で、マルフォイ氏を真っすぐに見つめる。「理事たちがわしに退陣を求めているのであれば、ルシウス、わしはもちろんそれに従おう」

「しかし」

「ダメだ!」

 ファッジは口ごもり、ハグリッドは怒鳴り声をあげた。けれど、ダンブルドアは明るい青い色の目で、ルシウス・マルフォイの冷たい灰色の目を更に強く見据えた。

「しかし」

 ダンブルドアはゆっくりと明確に、その場にいる者が決して聞き逃すことのないように言葉を選び、先を続けた。ダンブルドアには自分たちの存在が見えているのではないかと、ルイスはそう思う。

「覚えておくがよい。わしが本当にこの学校を離れるのは、わしに忠実な者が、ここにひとりもいなくなったときだけじゃ。ホグワーツでは助けを求める者には、必ずそれが与えられる」

 そしてルイスの思いは、予感から確信へと変わった。ダンブルドアは一瞬だけ、透明マントに隠れて見えないはずの三人に視線を向けたのだ。

「ダンブルドア。我々はあなたの、えー、非常に個性的なやり方を懐かしく思うでしょうな。そして、後任者がその、殺しとやらを未然に防ぐのを望むばかりだ」

 マルフォイ氏は扉のところまで大股で歩いて行き、戸を開けると、ダンブルドアに向かって先に出るようにと促した。ファッジは山高帽をいじりながらハグリッドが先に出るのを待っていたが、ハグリッドはその場に留まり、深呼吸をすると、言葉を選びながら慎重に言った。

「誰かが何かを見つけたかったら、蜘蛛のあとを追っ掛けて行けばええ。そうすりゃ、必ず糸口が分かる」

 ファッジは呆気にとられた表情でハグリッドを見つめていた。いったい何に向かって話しかけているのかと、奇妙に思ったことだろう。まるで恐ろしいものでも見るように一瞥し、逃げるようにして小屋を出て行く。

 最後まで残っていたハグリッドは厚手な木綿のオーバーを着ると、ファッジのあとに続いて小屋を出て行こうとしたが、何かを思い出したように足を止めると、大声で言った。

「それから、俺が帰ってくるまでの間、ファングの世話をしてやってくれ」

 扉が閉まると同時に、三人は一気に透明マントを脱ぎ捨てた。

「大変だ」ロンの声は酷く怯えていた。「ダンブルドアはいない。今夜中にも学校を閉鎖したほうがいいに決まってるよ。ダンブルドアがいなくなれば、一日ひとりは襲われるようになる」

 ファングが閉まった扉を掻き毟りながら悲しげに泣きはじめた。ハリー、ロン、ルイスは代わる代わるファングを慰めるように撫でると、ハグリッドの小屋を後にした。

 ルイスはハリーとロンに透明マントを被せる前に、そっとハリーに耳打ちをする。すると、ハリーは同情するような眼差しでこちらを見、小さく頷くとマントを被った。

 三人は城の扉を開け、玄関ホールに入るとできるだけ物音をたてないように神経を尖らせながら歩いた。そして、ルイスは地下へ下りる階段の前まで来るとマントをこっそりと抜け出し、早足に階段を下る。そして研究室の扉を開けようと把手に手を掛けると、鍵が掛かっているのか、押しても引いても開かなかった。

 仕方がないと、そう思ったルイスはローブに手を入れ、杖を取り出そうとした。だが、後ろから誰かにその手を掴まれ、杖には触れることもできなった。

「どういうことなのか、ご説明いただけますかな? Miss.ジュリアード」

 背筋が凍るほどの猫なで声に振り返ると、案の定、そこに立っていたのはセブルス・スネイプその人だった。しかし彼は今、ハリーを見るような眼差しで咎めるようにこちらを見ている。まさかこの目が自分に向けられることなどないと思っていたルイスは、半歩後ろに飛び退いた。

「あの、ちょっと、夜の散歩をしようかな――なんて……」

「夜の散歩。物騒なことが続いているこの時期に、夜の散歩とは随分なご身分だな。君がその散歩をしている間中、我輩はこの校内をどれだけ歩き回ったと思っているのだね」

「ほら、セブルスも散歩をしたと思えば」

「散歩など悠長なことを考えていられるほど――」

「――考えていられるほど?」

「……」

「セブルス?」

「……もういい。中に入れ」

 頭から怒鳴られると思っていたルイスは、そう言ってため息を吐くセブルスを見て、思わず拍子抜けしてしまった。杖を取り出して扉を開け、先にルイスを中へ通す。そのままソファに座ると、怒鳴り付けるどころか紅茶を入れてくれたので、何だか逆に気味が悪かった。

「それで?」

「それでって、何が?」

 まだ熱い紅茶に息を吹きかけていると、セブルスはこれ見よがしにため息を吐いた。

「散歩は楽しかったか」

「全然楽しくなかった」

 ルイスがそう速答すると、セブルスは怪訝そうに眉根を寄せたまま、紅茶を飲んでいる姿をじっと見つめてくる。ルイスはその様子を観察した後、急に閃いた。

「もしかして、あたしのことを心配してくれていたの?」

「……だったら何だというのだ」

 まさか素直に肯定されるとは思わず、ルイスは目を丸くしてしまった。

 いやしかし、この肯定こそが、何か企んでいる証拠かもしれない。そのように疑ってもみたが、疑っても仕方がないことを思い出し、ルイスはセブルスを見てにっこりと微笑んだ。そして「ありがとう」と、そう言おうとしたとき、不意に扉をノックする音が部屋に響いた。

 ルイスとセブルスは顔を見合わせ、時計を見る。さきほどのハグリッドの小屋であった出来事を、マクゴナガル先生が大慌てで伝えにきたに違いない。そう思って椅子に座ったままでいると、扉から入ってきたのは、想像もしていなかった人物だった。いや、心のどこかでは想像していたかもしれない。

 最悪だ。こうなるのなら、明日怒鳴られるのを覚悟でグリフィンドール寮に帰ればよかったと、今更ながら後悔していた。

「やあ、セブルス。夜分に失礼だとは思ったのだが――おや?」

 そう言った男の視線がルイスの背中にぐさぐさと突き刺さる。絶対に振り向きたくないと思ったが、小さく深呼吸をして覚悟を決めると、ソファから立ち上がってくるりと振り返った。

「こんばんは、マルフォイさん。お久しぶりです」

 ルイスはかなり驚いたふりをして、ルシウス・マルフォイに軽く会釈をした。

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