「ルイス、スネイプと一体何の話をしていたんだ?」
三時五分前にホグワーツ城を出てハグリッドの小屋へ行く途中で、ロンが遠慮気味に訊ねていた。
「あの、授業のことで呼び出されたの? 僕の代わりに、その……」
「違うよ。汽車のなかでドラコを呪ったのがセブ……じゃなかった、スネイプに知られちゃったみたいで」
「えっ!?」
「でも、大丈夫。減点も処罰もなし。正式な入学も組み分けもまだだったから、減点するわけにはいかなかったみたい」
「でもそれが僕だったら、きっと寮から百点くらい減点されていたと思うよ」
ハリーは未だにセブルスに減点されたことが尾を引いているらしく、気分が酷く沈んでしまっているようだった。
「大丈夫だよ、ハリー。気にすることない」
ルイスがそう言って元気づけるようにして笑うと、ハリーは力なくそれに応えるだけだった。
禁じられた森の端に、ぽつんと一軒だけ木の小屋が建っている。その前に到着すると、三人は横に並んで大きな扉をノックした。すると、中から爪で戸を引っ掻くような音と、何かの唸り声が聞こえてくる。すると、ロンが不気味そうに顔を強張らせた。
「これ! 退がれ、退がらんか! ファング!」
中からそう言う大声が聞こえたかと思うと、ハグリッドは巨大な黒い犬の首輪を押さえながら扉を開き、にこにこと嬉しそうに笑いながら三人を部屋のなかに招き入れた。小屋のなかはワンルームで、天井からは肉の燻製や森で摘んできたらしい薬草を干したもの、何かの球根、魚の開いた干物等々がぶら下がっている。大きなベッドには酷く擦り切れたパッチワークキルトのカバーが掛けられていた。
「三人とも、よう来たな。まあ、座ってくれ」
ハグリッドがファングを離すと、ファングは一目散にロンに飛び掛かり、その耳を舐め回した。ルイスが三人くらいなら並んで座れそうな大きな椅子に腰掛けると、ハリーはハグリッドにロンを紹介した。
「ハグリッド、紹介するよ。僕の友達で、ロン・ウィーズリーだよ」
「ああ、ウィーズリー家の子か? え? その髪の色を見れば誰でもすぐに分かるってもんだ。お前さんの双子の兄貴たちを森から追っ払うのに、俺は人生の半分を費やしているようなもんだからな」
ハグリッドが豪快に笑いながら言うのを聞き、ルイスは意図せずに双子のことを思い出してしまった。そして、少しだけ気が滅入る。組み分けの儀式以来、彼らとは一言も話していなかった。
ハグリッド、ハリー、ロンは、これまであった授業のことや先生のこと、フィルチのことを話している。そして、ハリーがセブルスのことを話し出すと、ハグリッドもロンやルイスと同じように気にすることはないと言った。
「でも、あの人は僕のこと本当に憎んでいるみたいなんだよ、ハグリッド」
「ばかな、そんなことがあるもんか。なんでハリーを憎まなきゃならん?」
ハグリッドの声はどこか上ずっていて、落ち着きがないように聞こえた。何か重要なことを隠しているようにも感じられる。それでもルイスが何も言わずに黙っていると、ハリーの膝に頭を乗せていたファングが鼻をくんくんと鳴らしながら、ルイスに近寄ってきた。ルイスが無意識のうちに耳の後ろを撫でてやると、ファングは気持ち良さそうに目尻をとろんとさせた。
「……不思議ね、あたし、あなたみたいな大きな黒い犬に会ったことがあるような気がするの」
なぜだか分からないが、ルイスはそんな気がした。頭を撫でてやると、今度はルイスの膝に顎を乗せ、もっと撫でてくれと強請る。
「ん? どうした? ルイス、元気がないな」
黙りこくっているルイスを気遣わしげに見たハグリッドは、知らない間に入れられていたカップの中の冷めた紅茶を入れ直しながら言った。
「お前さん、ラウルには手紙を書いたか? 首を長くしてまっちょるだろう?」
「まだ書いていないの。だけど、今朝ラウルから手紙が届いて、嫌味ばっかり聞かされちゃった」
「ラウルはルイスが心配なんだ。そのことはちゃんと分かってやらんとならん」
「ねぇ、前から思っていたんだけど、ルイスはどうして有名なの?僕は、えっと、この傷が原因だって分かってるけど、ルイスはどうして――?」
ハグリッドとルイスが話しているのを黙って聞いていたハリーだったが、もう我慢できないというように、話に割って入ってきた。ふたりは目をぱちくりとさせてハリーを見たが、ロンはやはりぎょっとして顔色を悪くさせた。
「ハ、ハリー?」
ルイスはロンの、そんなおどおどとした態度が気に入らなかった。ハリーは質問に答えてくれるのを待っているし、ハグリッドはどう言っていいか分からないという顔でルイスを見ている。
「別にいいのよ、ロン。思っていることを言ってくれても」
ルイスは少し苛々としながらロンに向かって言い放った。自分を見てびくびくするのはやめてほしいと、そう心底思っていた。
「ロン、多分お前さんが聞いた話は根も葉もない噂話だぞ」
ハグリッドはルイスが癇癪を起こすのではないかと気にしながら、ロンに言い聞かせる。しかしそれくらいで安心できるほど、ロンの聞いた噂は生半可な噂ではないようだった。
「だって、でも、ずいぶん前にパパとママが言ってたんだ。ジュリアードは、ジュリアードは――」
「ヴォルデモート卿に最も近しい側近だった?」
ルイスが鼻で笑いながら言うと、ロンとハグリッドはヴォルデモートの名前に反応して、ひっと悲鳴にならない悲鳴を上げた。
「ヴォルデモートの側近?」
「噂だ、ただの噂だぞ、ハリー。俺はルイスの父ちゃんも母ちゃんもしっちょるが、そんなことはなかった」
ハグリッドが慌ててそう繋げたが、その慌てようが逆に怪しくハリーの目には映ったようだった。ハリーがルイスを横目に見ると、疑わしげな眼差しを向けられた当人はハグリッドの焼いた、本当に石のように硬いロックケーキを何食わぬ顔を噛み砕いている。
「ねぇ、ハグリッド。その切り抜きは何?」
「ん? 何の切り抜きだって?」
ルイスがティーコゼーの下から覗いている新聞の切れ端を指差すと、ハリーがそれを手に取った。それは、日刊預言者新聞の切り抜きだった。
「ハグリッド! グリンゴッツに侵入があったのは、僕の誕生日だよ! 僕たちがあそこにいる間に起きたのかもしれない!」
「グリンゴッツに侵入?」
怪訝そうに言うルイスに、ハリーはその切れ端を差し出した。
グリンゴッツ侵入事件
七月三十一日に起きたグリンゴッツ侵入事件については、未だ捜査が続いている。だが、上層部の見解では、犯人は知られざる闇の魔法使い、もしくは魔女の仕業ではないかと考えているようだ。
グリンゴッツの小鬼たちは、日刊預言者新聞の記者に対して「盗られたものは何もない」と主張している。侵入された金庫は既に空っぽであったと責任逃れとも取れる発言をした。「中にあったものはなにかと言う質問に答えることはできない。ただ、詮索はしないほうが身のためだ」と言って、我々記者団を脅しつけた。
ルイスは渡された新聞の切れ端を軽く二度読み返し、それをテーブルの上に置いた。
ハリーが何かを言いたげな様子だが、ハグリッドはそれをはぐらかそうと必死に見える。ルイスはハグリッドが隠そうとしていることが気にならないわけではなかったが、必死のハグリッドを見ていると何だか可愛そうになってきてしまい、咄嗟に話題の矛先を他に向けることにした。
「ねえ、ハリーの誕生日って、あたしたちが初めて会った日だったんだね。あ、そっか。そういえば、誕生日プレゼントにヘドウィグを買ってもらったって言っていたっけ?」
すると、ハグリッドはあからさまにほっとと息を吐いた。途端にいつもの調子を取り戻し、これ以上のことを詮索される前に行動に移すべきだと考えたようだ。子供たちを追い出してしまえとでもいうような勢いで、三人を小屋から追い出そうとした。
しかし、それでなくとも夕食の時間が迫っていたので、三人はハグリッドが持たせてくれたロックケーキをポケットに押し込んで、後ろ髪を引かれながらも小屋を後にした。
ロンはルイスを恐がっている。ルイスは自分を見てびくびくしている相手に話し掛けるのは嫌だった。ハリーは何かをずっと考え込んでいるようだったので、三人は無言のまま歩き続け、城に戻った。
それから数日後、グリフィンドールの談話室に飛行訓練について記された紙が貼り出された。グリフィンドールとスリザリンの合同授業だと書かれたその紙を見て、皆は一様に複雑そうな表情を浮かべる。
「これでお望みどおりだろうね。僕はマルフォイの目の前で箒に乗って、物笑いの種になるんだ」
ハリーは楽しみにしていた分がっくりと肩を落とし、見るからに落胆していた。隣でロンが慰めていたが、あまり効き目はないようだった。
木曜の朝食の時間になると、ハーマイオニーはクィディッチ今昔で読んだ内容を、うんざりするほどルイスに話して聞かせた。しかし、その話を熱心に聞いていたのはネビルひとりだけで、隣に座っていたルイスはただ聞いている振りだけをして、いつものようにジュースを少しずつ飲みながら、スクランブルエッグをフォークの先で突いていた。
間もなくして大広間にふくろうが飛び込んできたのを見て、ルイスは不意にラウルに手紙の返事を書いていないことを思い出した。早く返事を出さなければ催促の手紙どころか、そのうち吠えメールが届くかもしれない。ラウルならやりかねないと思ったルイスは、空き時間ができたら早速返事の手紙を書こうと心に決めた。
ルイスが青ざめながらそのようなことを思っていると、一羽のめんふくろうが目の前を通り過ぎていった。それを目で追うとネビルの前に着地をし、早く包みを外せとでも言うように足を突き出している。ネビルがうきうきとそれを開けて、白い煙のようなものが詰まっているガラス玉を皆に見せた。
「思い出し玉だ!」ネビルがそれをぎゅっと握ると、玉は突然真っ赤に染まった。「ええと、これは何かを忘れてるってことなんだけど……」
ネビルが必死に忘れたことを思い出そうとしていると、ドラコがグリフィンドールの席の傍を通りかかり、ついでにネビルの持っていた思い出し玉を引ったくった。ハリーとロンはここぞとばかりに立ち上がり、喧嘩の口実ができたと内心喜んでいるようだ。ルイスも持っていたフォークをぎゅっと握ったが、マクゴナガル先生が騒ぎを嗅ぎつけて颯爽と現われたので、残念ながら大騒動になることはなかった。
ドラコはクラッブとゴイルを連れて逃げる間際に、物言いたげな視線をルイスに投げ掛けたが、ルイスはその視線をするりと流し、この時ばかりはハーマイオニーの話に耳を傾けていた。
午後三時半、ルイスはハリーやロン、そしてグリフィンドール生たちと一緒に、初めての飛行訓練を受けるために校庭へとやって来ていた。空は清々しいほど青く、眩しさに目の奥が痛くなるほどだ。風が足元の草を撫でていく。
グリフィンドール生が到着すると、そこには既にスリザリン生が揃っていた。箒が地面にずらりと並んでいた。後から到着した生徒たちが箒の周りで右往左往していると、鷹のような黄色い目をした白髪のマダム・フーチが、きびきびと怒鳴り付けた。
「みんな箒の傍に立って。さぁ、早く!」
ルイスは適当な位置を陣取った。隣には不安顔のハーマイオニーと、早く試したそうな顔のハリーがいた。講義などはなにもないようで、マダム・フーチは魔法族ならば初見で飛べて当たり前、とでも思っているのか、初めて空を飛ぶような生徒たちに対しても容赦がなかった。
「右手を箒の上に突き出して。そして、上がれ、と唱える!」
早く空を飛びたくてうずうずしている全員が、すぐさま上がれ! と叫んだ。
ハリーは箒に乗ったことなど一度もないと言っていたが、そうとは思えない勢いで飛び上がった箒は、何の障害もなくその手の中に納まった。ルイスは一度目の掛け声ではぴくりとしか動かなかったものの、二度目では僅かに浮き上がり、三度目には何とか柄を握り締めることができた。
ハーマイオニーの箒は地面をころり、ころりと転がるばかりで、ネビルの箒はぴくりとも動かない。ドラコが間違った箒の握り方をマダム・フーチに指摘されているのを見て、ハリーとロンは互いに目配せをし合い、大喜びしていた。
「では、今度は私が笛を吹いたら、地面を強く蹴るように。箒はぐらつかないようにコントロールし、二メートルくらいの位置に浮上をしたら、少し前屈みになって降りてくる。私が笛を吹いたら――」
ところが、マダム・フーチが何度もそう念を押したにもかかわらず、ネビルは皆に後れを取りたくないと思ったのか、合図の前に地面を思い切り蹴ってしまっていた。
「ネビル・ロングボトム! 戻ってきなさい!」
先生がそう叫んでも、ネビルはその声に反発するようにどんどん高度を上げていった。その身体は空高く舞い上がり、そして次の瞬間には、突然急降下をはじめる。ルイスが箒を飛ばすのと、ネビルの急降下、どちらが早かっただろう。ルイスの乗った箒は地面すれすれのところを低空飛行で飛び、急降下してくるネビルの体の下に、自分の体を滑り込ませようとした。誰かがルイスの名を叫んだが、ルイスにはその声が誰のものかなど確かめている余裕はなかった。
――間に合わない!
そう思いながらも杖を取り出そうとローブに手を突っ込んだ状態のまま、上から降ってくるネビルを受けとめる形になったルイスの耳に、ぼきっという嫌な音が聞こえてきた。乗り手を失ったネビルの箒は禁じられた森の方へ猛スピードで飛んでいき、すぐに見えなくなった。ルイスの箒は地面すれすれを飛び続け、壁にぶつかって死んだように動かなくなった。
マダム・フーチはネビルと同じくらいの青い顔で、ネビルとルイスの元に駆け寄ってきた。
「手首が折れてるわ」
先生がネビルを抱き上げながら言うのを、ルイスはひとりで立ち上がりながら聞いていた。どうやらさっきの嫌な音は、ネビルの手首が折れる音だったらしい。
折れたのは自分じゃなかった。そう思って立ち上がったのも束の間、ルイスは突然足に激痛が走り、その場でよろけてしまった。あまりの痛さに声も出ない。ルイスの支えを失った体は受け身を取ることもできず後ろに倒れそうになったが、どういうわけか後ろに倒れることはなかった。肩越しに振り返ると、二人の男の子が顔面蒼白になってルイスの体を支えてくれていた。
「ありがとう。ハリー、ロン」
その後ろではハーマイオニーが青を通り越して、もうほとんど白に近い顔色で、胸の前で祈るように両手をがっちりと組んでルイスを見ていた。
ルイスは自分の足元を見たくないと思った。もしかしたらネビルの手首と同じように、足首が折れて変な方に向いているかもしれない。絶対に折れているという確信を持ちながらも、折れていないでほしいという願望のほうが強かった。
「ジュリアード、あなたは?」
先生がやっとのことで立たせたネビルを連れて、今度はルイスの元へやってきた。ルイスはハリーとロンに支えてもらいながら無言で足を指差すと、自分の取った行動を誤魔化すように曖昧に笑ってみせた。
ルイスが歩けない状態だということが分かると、先生は魔法で担架を出し、その上にルイスを乗せてくれた。
「私がこの子たちを医務室に連れていきますから、その間誰も動かないように。箒もそのままにして、全員じっとしていなさい。さもないと、クィディッチのクを発言する間もなくホグワーツから出ていってもらうことになりますよ」
先生のその声には、危機迫るものがあった。宙に浮いた担架に乗せられていくルイスを心配そうに見ているハリー、ロン、ハーマイオニーに苦笑を浮かべて、ルイスは低く手を振った。医務室へ向かっているというのに、ネビルはまだ青い顔をしていた。自分の折れた手首に目をやるたび、ぶるぶると体を震わせている。
「ネビル、大丈夫?」
こんなに近くにいるルイスの声すら、ネビルには届いていないようだった。その代わりに、ネビルではなくマダム・フーチの怒った声がルイスに返ってきた。
「大丈夫じゃありません。あなたもですよ、ジュリアード。奇跡的に大した怪我もなく済みましたが――」
先生の小言は医務室に到着するまで続いたが、先生が二人を置いて授業に戻ると、今度はマダム・ポンフリーの小言が待っていた。
「落ちてくる人を助けるために下敷きになるなんて! あなたは一体何を考えているの? 幸い足の骨を折るだけですみましたけどね、下手をしたらどんなことになっていたことか!」
マダム・ポンフリーの怒り具合は、マダム・フーチとは比較にならないものだった。今ここでマダム・ポンフリーに逆らうことより恐いものはないと思ったルイスは、おとなしくされるがままになっていた。
しばらくはベッドに横になって安静にしているようにと言われ、ルイスは酷く退屈をしていた。やることといったら、医務室の壁や天井を見つめることくらいだ。しかし授業が終わるとすぐに、ハーマイオニーがもともと脹らみのある髪を更に膨張させて、医務室へ入ってきた。
「ああ! ルイス、あなた、大丈夫なの? 本当に?」
マダム・ポンフリーが煩そうに見ているのも関係なく、ハーマイオニーは目を真っ赤にしてベッドの脇に駆け寄ってきた。ルイスは逆に、自分を心底するハーマイオニーを見てとても驚いていた。
「うん、大丈夫。ほら、ちゃんと足も繋がってるし、それに――」
ルイスが最後まで言い終える前に、ハーマイオニーは二つの目からぼろぼろと涙を零し、顔を両手で覆ってしまった。
「ね、ねえ、泣かないで、ハーマイオニー」
ルイスの方がどうすればいいのか分からなくなり困り果てていると、マダム・ポンフリーがハーマイオニーの肩をそっと抱えて、医務室の外へとハーマイオニーを連れていってくれた。ルイスはそれを親切と思いたかったが、あの怒ったマダム・ポンフリーを思い出すと、ただハーマイオニーが煩かったから追い出したとしか思えない。
すると今度は、夕食後に立て続けにお見舞いがやってきた。最初は医務室の棚から薬品を盗み出しにでもきたのかと思ったが、そうではないらしい。フレッドとジョージ・ウィーズリー、そしてリー・ジョーダンが両手いっぱいのお菓子を手に、ルイスのところへやってきたのだ。
三人は一体何の為にきたのか、しばらくの間、お互いに体を突き合ってもじもじとしていた。どうやって話し掛ければいいのかを探っているのか、ルイスと目が合うと気まずそうに眉を顰める。その様子があまりにも滑稽だったのでルイスが吹き出すと、三人は顔を見合わせてにやりと笑った。
「俺たち、君に誤ろうと思って来たんだ」
「君を傷つけたんじゃないかと思って」
「ごめんよ」
三人は代わる代わるそう言ったかと思うと、申し訳なさそうな表情を見せた後、たくさんのお菓子をルイスのベッドの上に広げた。
「あたし、こんなにたくさんのお菓子をひとりじゃ食べきれないと思う」
ルイスがそう言うと、三人は嬉しそうに微笑んでお菓子の包みを手に取った。
「今晩はここで寝るのかい?」
「そうなりそう。マダム・ポンフリーが明日になるまで寮に戻っては駄目だっていうから」
「さっき、城の抜け道を見つけたんだ。ルイスがよくなったらその場所を教えてあげるよ」
リーは嬉々としてそう言ったが、双子はそれを見て含みのある笑みを浮かべた。
「俺らはたぶんその抜け道を知ってると思うぜ、親友よ」
「ホグワーツに入学して初めの週に見つけたやつさ」
三人は暫くの間ああでもない、こうでもないと言い争いを続けていた。けれど、結局は確かめに行ったほうが早いと言い出し、お菓子を置いたまま医務室を出ていってしまった。
それから次にやってきたのは、少し怒っているような、あまりの嬉しさに頬の筋肉が引きつるような微妙な表情を浮かべた、ふたりの男の子だった。
「ルイス、大丈夫かい?」
「うん。でも、マダム・ポンフリーが今夜はここにいないと駄目だって。足はもう治ったんだけど」
「どうして駄目なの?」
「足の骨を折ったのに、にこにこ笑っていられるような人は、きっと頭を打ったに違いないって。あたし、頭を打ってなんかいないのに」
ルイスがむすっとした表情を見せると、ハリーとロンは揃って苦笑を浮かべた。
「このお菓子は?」
ロンはお菓子の中の蛙チョコだけを見つめて言った。
「フレッドとジョージとリーが持ってきてくれたの。よかったら食べて」
ルイスがそう言うと、ロンは素直に手を伸ばしかけたが、ふと我に返ったような表情を見せると双子たちと同じようにもじもじとしはじめた。
「ロンは君に言いたいことがあるんだって」
ハリーはそう言うとにっこり笑った。するとロンは、もじもじしながらも言葉を紡ぎはじめた。
「あの――僕、君に言いたいことっていうのは、その、あー……飛行訓練の時、凄く格好よかった」
本当はそんなことが言いたいわけじゃない、と言いたげな顔だった。俯きながらも上目遣いでルイスを見て、ロンは曖昧に笑った。少なくとも、以前みたいにおどおどしてはいなかった。
「ありがとう、ロン。さぁ、お菓子を食べて。もちろん、蛙チョコのカードは全部あなたにあげるから」
ロンは嬉しそうに笑い、今度は本当にお菓子に手を伸ばした。
「そうだ、僕からも話があるんだ」
「凄いんだよ、なんてったって百年ぶりなんだ!」
「何が? 何の話?」
「クィディッチのグリフィンドール代表に選ばれたんだ! シーカーだよ」
興奮した様子のハリーを見て、ルイスは目を見開いた。
「ハリー。それ、本当?」
「本当だよ。君が医務室に運ばれていった少し後で、マルフォイがネビルの思い出し玉を見つけたんだ。あいつが箒に乗ってハリーを挑発して……あれは君も見るべきだったよ、ハリーったら本当に凄かった!」
「ちょっと、ロン。少し落ち着いたらどう? ハリー、どういうこと?」
すると、ハリーも興奮してはいたが、ロンよりもずっと落ち着いた様子で、その時のことをルイスに話してくれた。ハリーはドラコが上空から落としたネビルの思い出し玉を、十六メートルも急降下して掴んだというのだ。それを聞くと、さすがのルイスも興奮しないわけにはいかなかった。
「凄い! あたしも見たかったなぁ」
「来週から練習がはじまるんだって。でも、誰にも言わないでくれるかい? ウッドが秘密にしておきたいって」
「もちろん」
それから――と、今度は一変して渋い表情を浮かべ、ハリーは続けた。
「今夜、マルフォイと魔法使いの決闘をすることになった」
「決闘? ドラコ・マルフォイと?」
ルイスは怪訝そうに言った。
「ああ、そうだ。僕が介添人をするんだ」
「ドラコが決闘だなんて、怪しいと思うけれど。罠かもしれない」
「罠じゃないかもしれないよ。僕、マルフォイに腰抜け呼ばわりされるのはごめんなんだ!」
医務室内が一瞬だけ静まり返った。ルイスは小さく息を吐き、肩を竦めながらハリーを見た。
「その気持ちは分からなくもないけれど」
「ホグワーツ特急の中で、ルイスはマルフォイに、その、何とかって呪いをかけただろう? それを教えてくれないかと思って」
「鼻に腫物を作る呪い? どうせならクラゲ足の呪いなんてどう?」
ルイスが楽しそうにくすくすと笑うと、ハリーとロンもつられて笑った。
「よかった、ルイスがハーマイオニーみたいにがみがみ言いだしたらどうしようかと思ってたんだ」
ロンが苦いものでも食べた後のような顔をしてその名を出すので、ルイスは直観的にハーマイオニーの口にした言葉を理解したような気がした。ハーマイオニーの性格を考えると、彼女がそう言いだすのは自然なことのように思えた。
「別に、夜中ベッドを抜け出すことが悪いとは言わない。フィルチや見回りの先生たちに見つからない自信があるのならね」
ルイスもできればハリーたちと一緒に行きたかったが、今晩は一晩中マダム・ポンフリーに監視されるだろうということは予想できたので、何とか我慢をして気持ちを押さえ込んだ。その代わりにファーナンキュラスの呪文と杖使いをハリーに教え、必ず成功させるようにと約束させた。
「心強いよ」
「いい? ドラコが現れようが、現れまいが、絶対に見つかったり、捕まったりしないようにね」
ルイスたちは近くにやってきたマダム・ポンフリーに聞かれないよう、小声で話をしていた。マダム・ポンフリーは先ほどから、ハリーとロンを追い出したそうにそわそわとしているのだ。
「そろそろ談話室に戻ったほうがいいんじゃない?」
ルイスがふたりにそう提案をすると、ハリーとロンはルイスに軽く目配せをした後でこくりと頷いた。それから揃っておやすみの挨拶をし、医務室から出て行く。
二人の足音が遠退いていくのを確かめてから、マダム・ポンフリーはルイスのベッドに歩み寄り、サイドテーブルのランプの炎を吹き消した。そして、起き上がっていたルイスの身体を強引にベッドに押し付け、今すぐ眠るようにと命令をした。