ハリー・ポッターと呪われた一族の少女   作:しきり

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 夏休みになると、よく自分の部屋の窓を叩くふくろうの觜の音で目を覚ますことがある。そして、今日もその音でルイスは目を覚ました。夏の休暇も残り一日だけとなり、残念やら嬉しいやら複雑な気持ちで、ベッドから素足のまま滑るように降りた。

「おはよう、エロール」

 ルイスが窓を開けてやると、ウィーズリー家のくたびれきって今にも死んでしまいそうな老いぼれたふくろうが、ルイスの腕のなかに転がり込んできた。足には一通の手紙が括り付けられている。ルナは相変わらず森に行ったまま帰ってきていなかったので、空っぽの鳥かごにエロールを入れてやった。

 ルイスはいつになったら、この老いたふくろうを引退させてやるのだと息を吐きながら、手紙の封を切った。

 

 やぁ、ルイス。この夏の休暇はどうだった? 僕は――もしかしたら日刊預言者新聞で見たかもしれないけど――パパが魔法省のガリオンくじグランプリを当てて、家族全員でエジプトに行ってきたんだ。ビルが墓地を案内してくれたんだけど、古代エジプトの魔法使いがかけた呪いって凄いんだ。きっとルイスが行っても夢中になったと思うよ。ビルとチャーリーに君のことを話したら、是非会いたいって。機会があったら僕の兄さんたちに会ってくれるよね? パーシーよりはずっと常識人だから安心してよ。パーシーと言えば、あいつ首席になったんだ。フレッドとジョージが散々馬鹿にしているけど、ママは嬉しくて仕方がないみたいだ。

 僕たち――もちろん、ハーマイオニーも――休暇の最終日は学用品を揃えてから、ダイアゴン横丁の漏れ鍋に泊まって、そのまま直接キングズ・クロス駅に行くんだけど、もしまだ学用品を揃えていなかったら、ルイスもこっちに来ない?

 そういえば、ハリーのこと聞いた? おばさんを膨らませてしまったっていうやつ。パパが少し教えてくれたけど、どうやらそのことはほとんど問題にされなかったみたいだ。もしかしたらハリーは退学処分になるんじゃないかって、僕たちひやひやしていたよ。でも、おばさんを膨らますなんて、本当に最高だよな!

 それじゃ、休暇の最終日にダイアゴン横丁で会えることを楽しみにしているよ。

 

 追伸 ネズミのスキャバーズにはエジプトの水が合わなかったみたいだ。最近、ずっと元気がないんだよ。

 

 最後まで一気に読んでしまい、そして、呆れ果てたため息を吐いた。確か去年の夏もそうだったはずだ。ぎりぎりで手紙が届いて、ルイスはその手紙に慌てて出掛けていく。しかし、問題はきっとロンにではなく、この老いたふくろうのエロールにあるようなので、誰にも文句は言えない。

 クローゼットからローブを取り出したルイスは、急いで着替えを済ませた。エロールがいつでも出ていけるように部屋の窓を開けっ放しにして、机の引き出しからグリンゴッツの金庫の鍵を取り出すと階段を駆け降りていく。

「おはよう」リビングに降りていくと、そこにはラウルの姿しかなかった。「リーマスは?」

 ルイスが欠伸まじりにそう訊ねると、ラウルは新聞を構えた格好のままこちらを一瞥した。

「おはよう、ルイス。リーマスなら、ダンブルドアから呼び出しを受けて出掛けていったよ。緊急の用事みたいだったけど」

 緊急という言葉が少し気になったが、ルイスは適当に相槌を打つと眠い目を擦りながら暖炉のほうに向かった。最近は新学期の準備も落ち着いたようで、リーマスも家でゆっくりしていることが多かったのだが、寸前になってなにがあったというのだろう。

 ルイスがそう思いながら煙突飛行粉を手に取っていると、その背中にラウルの声がかかった。

「どこかに行くの?」

「うん、ちょっとダイアゴン横丁に行ってくる。新学期に必要な学用品をまだ揃えていなかったし、ロンやハーマイオニーも漏れ鍋にいるっていう手紙が届いたから」

 結局、ルイスはあれからハリーの様子を見にいこうと思いつつも、セブルスの出した宿題に思いのほか手こずり、それが終わったのが昨日の夜ということもあって、ハリーの様子を見に行くどころか、ほとんど家に引きこもるという生活が一週間以上続いていた。

「金庫の鍵は持った?」

「うん、持った」

「あまり遅くならないうちに帰ってくるんだよ。明日から学校なんだからね」

「はーい、行ってきまーす」

 ルイスはそう言って煙突飛行粉を暖炉のなかに投げ入れた。すると、たちまち火の気のない暖炉からエメラルドグリーンの炎が立ち上り、憂欝な気分で足を踏み入れる。言わずもがな、ルイスは煙突飛行が大嫌いだ。ホグワーツで魔法薬学の教鞭を取っているセブルス・スネイプも顔負けの皺を、目一杯眉間に寄せていた。

「漏れ鍋!」

 ここからは、辛抱の一言に尽きる。ルイスは自分の肩を抱き、ぎゅっと目を瞑って身体が漏れ鍋の暖炉から吐き出されるのを待った。しかし、待てども待てどもいつもの衝撃が襲ってこない。それどころか、妙な浮遊感がある。

 意を決してゆっくりと目蓋を押し上げると、目の前に、本当に目と鼻の先に、見たことのあるハンサムな顔がにっこりと笑っていたので、目を丸くして驚いた。

「やあ、ルイス。こんにちは、久しぶりだね」

「……こんにちは、セドリック」

 ルイスはセドリックに半ば抱えられるような形で、漏れ鍋の暖炉の前にいた。唖然としながら、それでも一応挨拶をすると、セドリックは爽やかに笑ってゆっくりと立たせてくれた。

「びっくりしたよ。ここから家に帰ろうとしたら、いきなり君が飛び出してくるから」

「ごめんなさい。あたし、煙突飛行が苦手で」

「でも、目はしっかり開けておいたほうがいいよ。飛び出すときに危ないからね」そう言ってくすくすと笑うセドリックを見て、ルイスは少し困ったように笑った。「これから新学期の買い物?」

「うん、そう。友達が漏れ鍋に泊まっているそうだから、一緒に買い物をしようと誘われて」

「友達って、ポッター?」

「あー、ええと。うん、そう」

 本当はロンとハーマイオニーも一緒だったが、ルイスはわざわざ説明するのが面倒でそう答えておいた。

「セドリックはもう買い物は済んだ?」ルイスはセドリックが足許に置いていた荷物を見た。「そういえば、五年生ってOWLの試験があるんでしょう?」

「そうだよ。だけど、今年はクィディッチの試合も頑張りたいんだ。今年は僕がチームのキャプテンに選んでもらえたから、期待に応えたいと思っているんだよ」

「へえ、すごい」実際のところ、そこまで凄いことなのかどうかも分からないまま、ルイスはそう口にしていた。「でも、勉強とクィディッチの両立なんて大変でしょう?」

「そうだろうけど、やってみる価値はあると思うから」

 そうして少しの間、暖炉の前で立ち話をしていると、セドリックの向こう側に見知った顔が見えた。そちらもルイスの存在に気づいたのか、にっこりと優しげに笑うと、こちらに向かって歩いてくる。

「ルイス、元気にしていたかい?」

「こんにちは、ウィーズリーさん。日刊預言者新聞、拝見しました」

 こちらにやってきたのは、ウィーズリー家の大黒柱、アーサー・ウィーズリーだった。人のよさそうな笑顔を浮かべて近付いてくると、ルイスに次いでセドリックにも目を向ける。

「これは、セドリック。元気かい?」

「こんにちは、ウィーズリーさん」

「君も学用品の買い物に来たのかな」

「はい」

 どうやらふたりは知り合いだったようで、親しそうに話をしている。その様子をルイスがどこか不思議そうに眺めていると、ウィーズリー氏がこちらを見た。

「ディゴリー家と我が家は比較的近所でね。セドリック、エイモスによろしく伝えておいてくれると嬉しいのだがね」

「もちろんです、ウィーズリーさん」

 セドリックは爽やかな笑顔を浮かべながら、ウィーズリー氏に向かって軽く会釈をした。それから煙突飛行粉を手に取ると、ルイスに目を向ける。

「じゃあね、ルイス。またホグワーツで会おう」

「うん、ホグワーツで」

 ルイスは手を振りながら、暖炉から姿を消すセドリックを見送った。そして、傍らに立っていたウィーズリー氏を振り返る。しかし、ウィーズリー氏に話しかけるより早く、その後ろからぬるりと現れた双子のフレッドとジョージ・ウィーズリーが、ルイスの前に立ちはだかった。

「こんにちは、フレッド、ジョージ」

 すると、双子たちは悪戯な笑みを浮かべて、わざとらしくルイスの前に跪く。

「これはこれは、ご機嫌麗しゅう」

「Miss.ジュリアードにおかれましては、お変わりなく美しくていらっしゃるようで」

「我々はあなたの前に喜んで跪きます」

「ああ、この手に触れられるなど、何たる光栄」

 ルイスは双子の様子にぎょっとして、思わず握られていた手を振りほどきそうになった。指先から腕にかけて、ぼつぼつと鳥肌が浮かぶのを感じる。ふたりはそのような様子のルイスを満足気に見てから、すっくと立ち上がった。

「冗談さ」

「ほんのちょっとからかっただけだよ」

 その言動を一部始終見ていたウィーズリー氏に、双子は弁解でもするように言った。ウィーズリー氏はルイスに向かって何かを言いたげだったが、双子のいる前ではできない話なのか、二言三言話したあと、バーカウンターのほうへ行ってしまった。

「おい、ルイス、聞いたか?」

「何を?」

「我が家の石頭のことだよ」

 石頭? ルイスはそう思いながら怪訝そうに首を傾げてみせたが、ふたりが言わんとしていることを察すると、小さく吹き出した。

「知っているよ、パーシーのことでしょう? ロンが手紙で教えてくれた。それに、日刊預言者新聞の写真を見たときに、バッジをつけているのが見えたの」

「まったく、あんなやつは我が家の恥さらしだよ」

「首席なんて、絶対になるもんじゃない。そうだろ?」

「まあ、そうかもね。あたしもあんまり興味がないから」ルイスがそう言って曖昧に笑うと、ふたりはもっともだという顔で頷いた。「ねえ、ふたりはもう買い物は済んだの? あたしはこれからなのだけれど――」

 ルイスは暖炉の前から離れ、小さな裏庭に向かって歩き出しながら言った。しかし、裏庭へと出る扉をくぐったところで、自分が今、杖を携帯していないことに気づく。ルイスがその場でぴたりと立ち止まったので、後ろからついてきていたフレッドとジョージが不思議そうにこちらを見下ろした。

「どうしたんだ?」

「杖を家に忘れてきちゃった」

 ルイスがぺろりと舌を覗かせながらそう言うと、フレッドが前に進み出て、ごみ箱の上の左から三番目の煉瓦を軽く叩いた。すると、ダイアゴン横丁へのアーチ型の入り口が広がり、フレッドとジョージは何事もなかったかのように道を進んでいく。

「そんなところに突っ立ってないで、早く来いよ」

「周りの邪魔になるぜ」

 これが年上というものかと思いながら、ルイスは黙ってふたりの隣に並んだ。ハリーともロンとも違う、少し大人の気遣いを感じる。

「そうか、ふたりとも今年で五年生だものね」ルイスが声に出してそう言うと、ふたりは何を今更そんなことを、と言いたげにこちらを見た。「ふたりとも、今年はOWLの試験があるのでしょう?」

 ルイスがそう指摘をすると、フレッドとジョージはぎくりと肩を震わせた。思い出したくないものを思い出したというふうに、苦虫を噛み潰したような顔をした。

「おい、ルイスまでそんなことを言い出すのはやめてくれよ」

「おふくろさんの次はハーマイオニー、ハーマイオニーの次はルイスだ」

「俺たち、その問題については極力考えないようにしているんだよ」

「OWL試験なんてどうだっていいのさ。あんなもの、俺たちの何の役にもたたないしな」

 その開き直ったような様子を目の当たりにして、ルイスは目を丸くしたあと、くすくすとおかしそうに笑った。

「ねえ、ロンやハーマイオニーは? ハリーもここにいるのでしょう?」

「ロンとハーマイオニーなら、ふたりで仲良くどこかに出掛けていったよ」

「僕たち、実はまだハリーには会っていないんだ」

 話題が変わったことで心なしかほっとしているように感じられる双子を見て、ルイスはまた笑いが込み上げてきた。小刻みに肩を震わせているルイスの様子を、ふたりは少し困ったように思っているようで、物言いたげに顔を見合わせている。結果、ルイスの思考を別の方へ向けたほうがいいと判断したらしい。何か面白い話題を必死に探しているようだった。しかし、咄嗟にはルイスを面白がらせるほどの話題は思いつかなかったらしく、問いかけられたのは至って普通の質問だった。

「これからどこに行くの?」

「グリンゴッツに行って、まずはお金を引き出さないと。その後は、書店で新しい教科書を買って――ああ、それから、薬問屋にも行かないといけない。注文していたものが入ったから、それを取りにくるように言われているの」

 双子はそのままグリンゴッツまで付き合ってくれるのかと思いきや、突然高級クィディッチ用具店の前で立ち止まり、店頭のショーケースに飾られている一本の箒に魅入られてしまっていた。その箒はファイアボルトという最高級の箒らしい。僅か十秒で時速二百四十キロまで加速することができる殺人級の箒で、とても高価なものだ。

 しかし、ルイスはそもそもクィディッチや箒にあまり興味がないので、ふたりに一声かけた後、ひとりでグリンゴッツまでお金を引き出しに向かった。

 相変わらず、グリンゴッツのトロッコはスリルがあって愉快なものだった。ルイスはベルベットの巾着袋とポケットに金貨をたっぷりと詰め込んで、銀行を出ると真っ先にフローリシュ・アンド・ブロッツ書店に足を向けた。

 買うべき本のリストは頭の中にたたき込んできたので、ルイスはなぜか疲れ切った様子の店員をひとり捕まえると、新しい教科書を注文した。しかし、なぜその店員が疲れ切っているのかをすぐに理解する。

 魔法生物飼育学の教科書で、怪物的な怪物の本がその原因だった。

 その本はショーウィンドーにある鉄の檻のなかに何冊も入れられていて、本同士が取っ組み合いをはじめたり、お互いのページを食いちぎりあったりしていた。いくらラウルでも、この本は絶対に購入することはないだろう。そう思いながら、ルイスは店員が怪物的な怪物の本を檻のなかから取り出すのを見ていた。

 しかし、その本を受け取ってみると、案外触り心地がいいことにルイスは気づいた。思わず本を手の平で撫で回していると、ぎゅるぎゅると奇妙な音を出して急に大人しくなる。店員はその様子をきょとんとして見ていたが、すぐに気を取り直して次の注文を聞いてきた。

「カッサンドラ・ハブラツキーの未来の霧を晴らすと、中級変身術、それから三年生用基本呪文集をください」

 すると、店員は手際よくそれらの本を小脇に抱えて持ってきてくれた。ルイスは金貨で代金を支払うと、そのまま書店を後にした。周りを見回し三人の姿を探しながら歩いていると、ふと聞き覚えのある声が耳に届いた気がして、ルイスはゆっくりと後ろを振り返った。

 フローリシュ・アンド・ブロッツ書店の斜め向かい側には、イーロップのふくろう百貨店がある。見慣れた顔の三人は、その店の前で何やら言い争いをしていた。

「ハーマイオニー、そいつ、危うく僕の頭の皮を剥ぐところだったんだぞ!」

「そんなつもりはなかったのよ。そうよね、クルックシャンクス?」

「それに、スキャバーズはどうしてくれる? こいつは安静にしてなきゃいけないんだ。それなのに、そんなやつに周りをうろうろされたら安心できないだろ?」

「それで思い出したわ。ロン、あなたネズミの栄養ドリンクを忘れていったでしょう」

「だけど、ロンのネズミは男子寮にいればいいし、ハーマイオニーの猫だって男子寮には入らないだろうから 大丈夫なのではない?」

「それはどう――って、わっ! 何時の間にここにいたの?」

 三者三様で驚いているのを見て、ルイスは心底おかしそうに声を上げて笑った。

「たった今、フローリシュ・アンド・ブロッツ書店で教科書を買ったところだったの。みんな久しぶり。ハーマイオニーは猫を買ったの?」

 三人はルイスが突然現れたことに驚いていたが、すぐににっこりと親しげな顔になると、久しぶりの再会を喜んだ。みんなと話をしながら、ルイスがハーマイオニーの腕に抱かれている猫の耳の裏を掻いてやると、猫はとても気持ちが良さそうにごろごろと喉を鳴らした。

 クルックシャンクスの顔は平べったく、押し潰されたような形をしていて、お世辞にも可愛らしいとは言えなかった。けれど、ルイスは基本的に動物が好きだったので、容姿のことはまったく気にならなかった。

「ちょっと薬問屋に寄ってもいい? 注文していたものを取りに行かないといけないの」

 ルイスはそう言うと大急ぎで店のなかに入り、代金を支払って注文の品を受け取ると、すぐに店を出てきた。

「何を注文していたの?」

 ハリーがそう不思議そうに聞いてきたので、ルイスは神妙な顔で首を横に振ると、聞かないほうがいい、と小さく呟いた。まさか、犬の舌を注文していたなどと言ったら、どんな顔をされるだろう。

 漏れ鍋に帰ってくると、ウィーズリー氏が日刊預言者新聞を読みながら、まだバーカウンターに座っていた。ルイスたちが近づいていくと顔を上げて、ハリーに笑いかける。

「やあ、ハリー、元気かね?」

「はい、元気です」

 買い物袋を抱えた四人はウィーズリー氏の近くに並んで座った。すると、ウィーズリー氏が下に置いた新聞から、日刊預言者新聞の顔となりつつあるシリウス・ブラックがこちらを睨んでいるのが見えた。

「それじゃあ、ブラックはまだ捕まっていないんですね?」

 ルイスはまさか、ハリーの口からシリウス・ブラックの名前が飛び出してくるとは思っていなかったので、思わずびくりと肩を震わせた。幸い、そのような反応を示したルイスを見ていた人はいなかったようだ。

「魔法省全員が通常の任務を返上してブラック探しに努力してきたのだが、まだ吉報がない」

「僕たちが捕まえたら賞金がもらえるのかな。また少しお金がもらえたらいいだろうなあ」

 ロンが思わずというようにそう漏らすと、ウィーズリー氏は緊張した面持ちで自分の息子を見た。

「馬鹿なことを言うんじゃない。十三歳の魔法使いにブラックが捕まえられるわけがない。やつを連れ戻すのは、アズカバンの看守なんだよ。肝に銘じておきなさい」

 ちょうどそのとき、ウィーズリー夫人がバーに入ってきた。山のような荷物を抱えて、後ろにはパーシー、双子のフレッドとジョージ――そういえば、いつの間にか高級クィディッチ用具店の前からも姿を消していた――それから、末っ子のジニーを従えている。ジニーはハリーの姿を見つけると顔を髪と同じくらい真っ赤にして、ハリーの顔をまともに見ることもなく消え入りそうな声で挨拶をした。一方、パーシーはというと、まるで初対面の人に会うかのようにハリーとルイスに向かって挨拶をした。

「ハリー、ルイス、お目にかかれて誠に嬉しい」

 ルイスは先ほどのフレッドとジョージのことを思い出し、思わず吹き出しそうになってしまった。

「やあ、パーシー」

「こんにちは、パーシー」

 パーシーはきっと、首席のことに触れてもらいたいに違いない。こうなったら絶対に触れてやるものかと、すぐに違う方を向いた。すると、今度は真正面から双子と目が合ってしまう。ルイスが呆れたように肩を竦めてみせるとふたりはにやりと笑って、まずはフレッドがパーシーを脇へ押しやり、ハリーの前に出て深々とお辞儀をした。

「おお、ハリー。お懐かしきご尊顔を拝し、何たる光栄――」

「ご機嫌麗しく」続いてジョージがフレッドを押し退けて、ハリーの手を取る。「恭悦至極に存じ奉り」

 その様子を見て、パーシーが顔を顰めた。

「いい加減におやめなさい」

 ウィーズリー夫人が怒鳴った。

「お母上! お目もじ叶い、何たる幸せ――」

「おやめって言っているでしょう!」

 ルイスが耐えきれずにくすくす笑いはじめると、フレッドとジョージは満足そうにしたが、ウィーズリー夫人は少し恥ずかしそうな表情を見せた。

「こんにちは、ハリー、ルイス。我が家の素晴らしいニュースを聞いたでしょう?」パーシーの胸にきらりと光る真新しい銀のバッジを指差し、ウィーズリー夫人は誇らしそうにそう続けた。「我が家のふたり目の首席なのよ!」

「そして最後のね」

 フレッドが声を潜めて、ただし全員に聞こえるようにはっきりと言った。すると、ウィーズリー夫人はフレッドとジョージを鋭く睨みつける。

「その通りでしょうよ。ふたりとも、監督生になれなかったようですものね」

「何で俺たちが監督生なんかにならなきゃいけないんだい?」

「人生お先真っ暗じゃございませんか」

 ジニーがくすくすと耐え切れずに笑い出すと、ウィーズリー夫人の表情はますます不愉快そうに歪んだ。

「お前たち、妹のもっといいお手本になりなさい!」

「母さん、ジニーのお手本なら他の兄たちがいますよ」

 鼻高々に気取ってみせるパーシーを見て、ルイスはまた小さく肩を竦めた。首席や監督生がそんなに偉いのだろうか。このことに関しては、ウィーズリー夫人よりも双子たちの意見に共感していた。少なくともルイスは、監督生や首席にはなりたくないと思う。

「僕は食事の前に着替えてきます」

 パーシーがいなくなると、ジョージがため息を吐いてハリーとルイスに話し掛けた。

「俺たち、あいつをピラミッドに閉じ込めてやろうとしたんだけど、おふくろさんに見つかっちゃってさ」

 それを隣で聞いていたハーマイオニーが大きく声を上げて、ジョージに何かを言いそうになったので、ルイスは慌てて立ち上がった。時計を見て、家ではそろそろ夕食の準備をしている頃だろうと思った。

「そろそろ帰らないと」

 ルイスがそう言って下に置いた荷物を抱えると、誰よりも先にウィーズリー夫人がその言葉に反応した。

「そんなことを言わないで、ルイスも一緒に夕食をいかが?」

「そうだよ、食べていきなよ」

 ロンもウィーズリー夫人に便乗してそう言ったが、ルイスは困ったように笑って首を横に振った。

「せっかくお誘いくださっているのに、ごめんなさい。帰ってホグワーツに行く支度もしないといけないので」

 ルイスがそう言ってもウィーズリー夫人は尚も食い下がったが、そこでウィーズリー氏が助け船を出してくれた。

「そう引き止めるものではないよ。ラウルがルイスの帰りを待っているだろう。さあ、早く帰ってあげなさい。帰りが遅いと心配するだろうからね」

 ルイスはほっと安堵の息を吐いてから、その場で小さく会釈をした。

「明日、ホグワーツ特急でね」

 ルイスはそう言うと、ひとりで暖炉の方へ向かった。憂欝だが、仕方がない。姿くらましが出来ないかぎり、長距離移動手段は煙突飛行だけだ。

 最後にちらりと後ろを振り返ると、わいわいと楽しげに話しているウィーズリー家の面々と友人たちを見た。すると、ハリーがこちらを見て手を振ってくれたので、ルイスも微笑んでみせてから小さく手を振り返す。

 暖炉に煙突飛行粉を放り、意を決して炎のなかに飛び込んだ。

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