「先にグリンゴッツへ行ってもいい? まずはお金を下ろさなくちゃいけないから」
ルイスは煙突飛行の最中にぶつけた右手の甲を撫で擦りながら、不機嫌そうに言った。朝が早いので、ダイアゴン横丁に人の姿はあまりない。そのせいでグリンゴッツに足を踏み入れると小鬼たちの姿ばかりが目立ち、小鬼たちはルイスとリーマスを珍しい動物を見るかのようにじろじろと眺めた。
「ルイス・ジュリアードの金庫をお願い」
ルイスはポケットから金庫の鍵を取り出し、それをカウンターに座っている小鬼に差し出した。小鬼は何故かその鍵を興味深そうに眺めたあと、近くにいた小鬼に金庫までの案内を命じる。
「リーマスの用事って何?」
金庫でがさがさとガリオン金貨を袋に詰め込みながら、ルイスは急に思い立ってリーマスに尋ねた。
「うん、ちょっとね」
リーマスは肩を竦め、ルイスの袋に金貨を詰めるのを手伝ってくれた。だが、大方自分と同じように、リーマスもプレゼントを買いにきたのだろうとルイスは思った。
「みんなのプレゼントは何がいいと思う?」ルイスは心配そうにリーマスを見上げた。「あのね、あたし、友だちにプレゼントなんて贈ったことがないの」
リーマスは顎に手を添えて少し考える素振りを見せ、トロッコに乗って乱れた髪を手櫛で整えていた。自分が子供の時に何をプレゼントし合ったかを思い出しているのかもしれない。
「何か、そうだな、みんなの好きなものをプレゼントしたらどうだい?」
「好きなもの?」
「それぞれ好きなものがあるだろう? 食べ物が好きだとか、本が好きだとか」
そういうことならば、ハリーは箒やクィディッチが好きだ。ロンもクィディッチの大ファンだったけれど、ハリーとは別のものを贈ることにしよう――ルイスはリーマスの助言に従い、頭のなかで次々とプレゼントを決めていく。ハーマイオニーには何か新しい本をプレゼントするのがいいかもしれない。双子のウィーズリー兄弟やリーには、悪戯グッズがいい。
ルイスはみんなの喜ぶ顔を想像しながら、うきうきとした気分でグリンゴッツ銀行を出る。ふたりは二時間後に漏れ鍋で待ち合わせをして、一旦別れることにした。
ルイスはまず、キャンボル・アンド・ジェイプスの悪戯専門店へ行き、ウィーズリー兄弟とリーに新商品だとすすめられた悪戯グッズを箱一杯に買った。初めて見るものばかりで興味は惹かれたが、まだまだ買わなければならないものがたくさんあるのだ。そう自らに言い聞かせ、悪戯専門店を後にする。
次に向かったのは、ニンバス2000が店頭に飾られている高級クィディッチ用具店だ。壁にたくさんの真新しい箒が立て掛けられ、磨きたてられた柄がきらきらと輝いていてとても綺麗だ。店内を数十分もうろついていると、ルイスは興味深いものを見つけた。クィディッチのミニチュア模型だ。十四人の小さな選手たちが三十センチほどしかない競技場の中で飛びかい、チェイサーたちがゴールにクァッフルを入れようとしているのを、キーパーが阻止している。ふたつのブラッジャーが飛び回るのをビーターが棍棒で殴り相手の選手にぶつけようとすると、相手チームが一斉に罵り声を上げた。気が付くと、キラリと輝くスニッチをシーカーが追い掛けている。
ルイスはこれをハリーにプレゼントすることにした。ロンには、クィディッチのアイルランドチームの選手たちが動き回っているポスターを買った。
フローリシュ・アンド・ブロッツ書店では、ハーマイオニーとラウルのプレゼントを買った。ハーマイオニーと同じようにラウルは読書が好きなので、ルイスは毎年ラウルが好きそうな本を選んで買っていた。
そして書店を出たところで、ルイスははたと足を止めた。最後まで残ってしまったのはリーマスに贈るためのプレゼントだった。
ルイスにはリーマスの好みが分からなかったし、リーマスが何を好きなのかすら知らない。両手いっぱいの荷物を抱えたまま、ルイスはその場で頭にリーマスの姿を思い浮べた。白髪混じりの髪や青白い顔は、どうすることもできない。ただ、ぼろぼろのローブならどうにできると、そう思った。
ルイスは思い立つとすぐに、マダム・マルキンの洋装店に走った。
「あらまあ、ルイス! そんなに荷物を抱えてどうしたの?」
「こんにちは、マダム」ルイスは取り敢えず、荷物を脇の方にまとめて置かせてもらった。「ローブを二着新調してほしいの」
そう言うと、マダム・マルキンはルイスを踏み台の方へ押しやろうとしたので、慌てて首を振った。
「あたしのではなくて、男の人のローブをお願いしたいの」
「ラウルにプレゼントでもするの?」
マダム・マルキンは不思議そうに首を傾げた。
「ラウルにではないけれど、そうね、丈も幅もラウルと同じくらいだと思う」
ルイスはマダム・マルキンとふたりで相談をして、ローブの色を選んだ。マダム・マルキンはしきりに流行の明るい色をすすめたが、結局はルイスの希望どおり紺色のローブになった。リーマスがマダム・マルキンに勧められたようなローブを着たら、下手をすると道化師のようになってしまいかねない。ルイスは純粋に、それだけは嫌だと思った。
ルイスが二着の上等な紺色のローブと、揃いの靴を買って店を出たときには、リーマスとの待ち合わせの時間を十五分も過ぎてしまっていた。
「物凄い荷物だね」
時間に遅れて待ち合わせ場所にやってきたルイスを、リーマスは笑顔で迎えてくれた。
「ごめんなさい、買い物に少し時間が掛かってしまって」
「大丈夫だよ、私も今到着したようなものだからね」
「用事はもう済んだ?」
ルイスがこれだけ多くの買い物をしたのは、ホグワーツの買い物を除けば生まれてはじめてのことかもしれない。普通ならひとりで抱えるのは困難と思われるクリスマスプレゼントの山がテーブルの上に置かれるのを見ながら、リーマスは頷いた。
「それより、何か食べて帰るかい? 朝食はあまり食べていなかっただろう?」
リーマスはそう言ってウェイターを呼んだ。ルイスはいちいち説明するのが面倒だったが、いつものように言った。
「朝は食べないんじゃなくて、食べられないの」
「それでも、少しは食べるべきだと思うけどね」
リーマスはウェイターがもってきたメニューを渡そうとしたが、ルイスはそれを見もせずに適当に頼んでくれとお願いをする。買い物疲れをしていて、それどころではなかったのだ。すると、リーマスは本当に、適当にメニューを指差して注文していた。
「これを食べたら、今度は郵便局へ行かないと」
ルイスは運ばれてきたミートパイを頬張りながら言った。本当は先に済ませてしまった方がよかったのだが、リーマスを更に待たせてしまうと思い、郵便局を後回しにしたのだ。
「あまり時間は掛からないと思うから、リーマスは先に帰っていてね」
「でも、その荷物をひとりで運べるのかい?」
リーマスはテーブルの上の荷物をちらりと一瞥した。それに釣られてルイスも目を向けるが、ここまでどのようにして運んできたのだったかと考えてしまうほどだった。
「ここまで運んでこられたんだし、多分大丈夫……」
「私も手伝うよ。それに、ルイスを置いて先に帰ったりしたら、ラウルに何を言われるか分からないからね」
結局、ルイスはリーマスの申し出を断ることができなかった。ルイスはリーマスへのプレゼントを内緒にしておきたかったので、ハリーたちのプレゼントに紛れ込ませて、二着のローブもふくろうに持たせることにした。
「みんな喜んでくれると思う?」
ルイスが今になって不安そうにリーマスを見上げると、リーマスは意地悪く微笑んで、どうかな、と言った。ルイスにとって一番不安だったのはリーマスへのプレゼントだったが、そんなことをリーマスが知るはずもない。クリスマス当日までこの不安に耐えなければならないのだと思うと、それはルイスにとって大きな苦痛だった。
憂鬱に思いながらルイスがリーマスと煙突飛行で家に帰ってくると、これまた憂欝そうにゴブレットを手に持って青白い顔をしているラウルが、ふたりを出迎えてくれた。ルイスは咄嗟に頭の中で計算をし、今日からちょうど一週間後に満月の日が控えていることを思い出した。
「おかえり、ふたりとも」毎月のことだが、ラウルは今にも吐きそうな顔色をしている。「リーマスも早く飲んでしまったほうがいい。満月がクリスマス当日じゃなくてよかったよ」
「一ヶ月なんて本当にあっという間だ」
「嫌になるね、まったく」
リーマスはテーブルの上に置いてある、おどろおどろしい色の液体がなみなみと注がれたゴブレットを手に取った。そして、ラウルと顔を見合わせると乾杯をするように掲げてみせ、それを一気に飲み干した。ぎゅうっと顰められた顔を心配そうに覗き込みながら、ルイスは空になったゴブレットを受け取る。
「大丈夫? ふたりとも、お水を持ってこようか?」
「ああ、頼むよ」
途端にぐったりとしてしまったリーマスはラウルの隣に倒れ込むようにして座った。ルイスは慌ててキッチンに走り、別のグラスに冷たい水を注いでふたりのところまで持っていった。
「あとほんの少しでもまともな味だったら、いくらでも喜んで飲むんだけどね」
ルイスが運んできた水をありがとうと言って受け取ってから、ラウルがそう言った。リーマスは口さえ利けないようで、紫色に変色しつつある唇を僅かに動かして感謝の気持ちを伝えようとしてから、水を煽るようにして飲んでいた。
そして、ようやく訪れたクリスマスの朝、目を覚ますとベッドの足許にはプレゼントが山のように積まれていた。それなのに、ルイスは中々ベッドから出ようとはしない。むしろ、眠っていたときよりも深く布団に潜り込んだ。
外はさんさんと太陽が輝いているのか、昨夜遅くまで降り続いていた真っ白い雪が太陽の光を反射させて、より強い光を発散させている。恐る恐る布団の中から顔を出すと、あまりの眩しさに目の奥が痛くなった。
「ルイス、朝食ができて――おや、まだ寝ていたのかい?」
とんとんとん、というノックのあとで開いた扉から部屋の中に入ってきたのは、いつもの継ぎ接ぎだらけのローブを着たリーマスだった。リーマスはまだベッドの中でぬくぬくとしているルイスを呆れたように見た。
「あたしのことは気にしないでいいから、放っておいて……」
ルイスはお願いだからと言って、また布団を頭から被ってしまった。
「ほら、こんなにたくさんプレゼントが届いているよ」
「そうね」
「ルイスが開けないのなら、私が代わりに開けてしまおうかな」
「どうぞ」
「本当に開けてしまうよ?」
リーマスはまるで早くプレゼントを開けてほしいのだと言っているようだった。ルイスが起き上がってがさごそとうるさい足許に目をやると、リーマスは本気でプレゼントの山に手を掛けていた。
「開けるのはいいけど、誰がどのプレゼントをくれたのか、ちゃんと覚えておいてね」
「……開けないでって騒ぐと思ったんだけど」
「プレゼントは逃げないもの」
ルイスはパジャマ姿のままベッドからするりと降り、頭を軽く左右に振った。それからリーマスの隣に座り込むと、端からプレゼントの包装を無造作に破いていく。
「これはハーマイオニーからね。お菓子の詰め合せ? これ、マグルのお菓子だって!」
ルイスはそのお菓子を物珍しそうに、穴が開くほど見つめた。
「これはハリーとロンから」
ふたりは学校にいるから、プレゼントを買うことができなかったのだろう。それでも、ふたりで書いたと思われるクリスマスカードは魔法が施されていて、とても華やかだった。双子のフレッドとジョージ、そしてリーからは、ルイスが彼らに贈ったものと同じような、悪戯グッズの袋詰めセットが贈られてきていた。
リーマスがその悪戯グッズを懐かしそうに眺めている間に、ルイスは残ったふたつの包みを開けにかかった。中くらいの包みと、小さな包みが残ったので、ルイスは迷った挙げ句に中くらいの包みを先に開けることにした。
「――わぁ!」
ルイスは思わず声を上げた。そのプレゼントは、ラウルとリーマスから贈られたものだった。
「あたし、前からこれが欲しいと思っていたの!」
包装を破り中の箱を開くと、出てきたのは青い、手のひらに納まるくらいの球体だった。球体には小さなスイッチのようなものがついていて、そのスイッチを押すと、その球体から天体が飛び出す仕組みになっている。夜、部屋の中でそれを使用すると、部屋中が星に包まれるのだ。
ルイスは以前、何かのカタログでそれを見て以来、いつか欲しいと思っていた。
「本当にありがとう、リーマス」
ルイスは急に上機嫌になり、リーマスに向かってにっこり微笑みかけた。そして、残ったのは小さな包みがひとつだけだ。貰うべき相手からのプレゼントは全て開け終えていたので、訝しげな表情を浮かべて最後のプレゼントを取り上げた。
「誰からだろう……」
ルイスが呟きながら包みを開くと、小さな銀の箱が表れ、それには短いメモが添えられていた。
「『これは、あなたのお父さんが生前、身につけていたものです。あなたに返すときがきました。どうか、大切にしてください』……?」
ルイスは訳の分からない状態のままメモを読み上げ、その小さな箱を開けた。箱の中から出てきたのは、細かな細工が施され、赤い石が下がっている、美しい一組の耳飾りだった。
「ねぇ、リーマス、これ誰からだと思う?」
ルイスがぱっと見ただけでも、それはもの凄く高価なものに違いないものだ。リーマスもその耳飾りを見て驚き、ルイスを慌てて立たせるとすぐにラウルのところへ連れていった。
「ちょ、ちょっとリーマス、何なの?」
リーマスに背中を押されてリビングまでくると、ラウルがソファに座ってルイスがプレゼントした本を、早速読んでいるところだった。
「ラウル、君が探していたのはこの耳飾りじゃないか?」
リーマスはそう言うと、箱を持っているルイスの手ごとラウルの前に突き出した。ラウルは耳飾りという言葉に身体ごと反応すると、急いでルイスの手に掴み掛かった。
「誰がこれを?」
ラウルが目の前に立たされているルイスの顔を下から見上げた。リーマスを見ても思ったが、ラウルの顔色は昨日に増して悪い。
「誰かは分からないけれど、メモがついていたの。ちょっと待って――ほら、これだけれど」
ルイスは自分の手の中でクシャクシャに握り締められていた紙を開いて、ラウルに差し出した。ラウルの目が確認するように何度も紙の上を滑る。
「まずは、これが誰から届いたかってことだけど」
ラウルは勿体ぶるように間を置いて、ルイスの手から耳飾りの入った箱を抜き取った。
「恐らく、アルバス・ダンブルドアだ。いくら家を探しても見つからなかったのは、ダンブルドアが持っていたからだったんだ。どうりで見つからないはずだよ」
ラウルは少し怒ったような顔をして、その赤石の耳飾りをじっと見つめている。
「……どうしてダンブルドアが父さんのピアスを持っているの?」
「ダンブルドア先生だよ、ルイス」ラウルは根気よく訂正をしたが、すぐに話を戻した。「君の父さんは生前、ダンブルドアにとても深い信頼を寄せていたんだ。ダンブルドアも同じように、君の父さんに深い信頼を寄せていた。だから、その耳飾りを彼に預けたんだと思う」
ラウルはそう説明をしながらも、未だにまじまじと耳飾りを眺めている。
「この耳飾りは、代々ジュリアード家に伝わるものなんだ。この耳飾りには複雑な魔法が閉じ込められている。大抵の呪いなら撥ね返してしまうと聞いているけど、僕も詳しくは知らない」
ラウルはルイスの手に耳飾りを返した。
そして、ルイスもラウルと同じように、もう一度その耳飾りをじっと眺めた。リーマスも脇から箱のなかの耳飾りを覗き込んだ。
「これと同じものを、アリアさんが付けていたような気がするけど――」
アリアというのは、ルイスとラウルの母親の名前だ。旧姓は、アリア・カトレット。純血の家系だ。
「あのふたりは、お互いが遠く離れた場所へ行かなければならなくなったとき、ひとつずつ耳飾りを身につけていたんだ。どちらかの身に何かあったとき、すぐに駆け付けられるようにって」
「駆け付ける?」
「片方の耳飾りを付けた者に何か危険が迫ったとき、もう片方の耳飾りに何らかの変化が起こるらしい。実際にどうなるかは、僕も見たことはないけれどね」
「それじゃ、これは物凄く大事なものだってこと?」
「その昔は、ジュリアード家の直系の者しか触れてはならないと言われるほどにね」
ルイスは目を点にした。ラウルはそれを見て苦笑をし、悪戯っぽく言った。
「きっと君の父さんとダンブルドアは、僕にこれを預けたら、ルイスの手に渡る前になくしてしまうと考えたのだろうね」
ルイスは耳飾りを手に取ってみた。それはとても小さいのに、手の平にずしりとした重みを感じさせる。重みというより、存在感というほうが正しいかもしれない。その耳飾りに何かが宿っているような、そんな感じがした。
「さあ、早速だけど付けてしまおうか」
「え? 付けるの? 今すぐに?」
「本当ならもっと早くに付けなければいけないものだったんだよ」
「でも、まさか、学校にいる間は……」
「もちろん、付けたままだ」
ルイスは顔色を悪くした。耳飾りを付けたルイスの姿を見て、マクゴナガル先生は何と言うだろう。ラベンダー・ブラウンやパーバティ・パチルがアクセサリーを付けていると、マクゴナガル先生がことごとく見つけだし、没収されそうになるのを何度も目の当たりにしている。
「大丈夫だよ、ダンブルドアが返してくれたんだ。いつでも身につけておくようにってことだよ」
ラウルがルイスの手に乗った耳飾りを取って、そのまま耳に入れようとしたので、ルイスは慌ててそれを制した。
「待って! まさか、そのまま刺すつもり?」
「大丈夫だから。少しじっとしていて」
ルイスは耳に感じるであろう痛みを想像しながら、目を強くぎゅっと瞑った。しかし、いつまで経っても痛みは襲ってこない。ただ左右の髪と頬にラウルの手が触れる感触があるだけだった。
「ほら、もういいよ」
ルイスはその声を合図に、ゆっくりと目を開いた。途端にラウルの苦笑が飛び込んできて、慌てて耳に手をやった。
「これ、どうなったの?」
顔を左右に動かすと、赤い石がふるふると揺れるのが分かる。
「刺さっている?」
「刺さっているよ」
一部始終を見ていたリーマスが、おかしそうにくすくすと笑った。
「痛くなかっただろう?」
「痛くはなかったけれど……」
その耳飾りを付けた途端、ルイスは何かに身体中を覆われているような感覚になっていた。あたたかいとも冷たいともつかない何かが、まとわりついているような感じがする。
「何か、気持ちが悪い」
「すぐに馴れるよ。さあ、部屋に戻って着替えておいで」
そう言われて初めて、ルイスは自分がまだパジャマのままだったということに気づいた。まだ朝だというのに、なぜだかどっとした疲れを覚えていた。
「ああ、そうだ」ラウルは傍らに置いていた本を手に取った。「本をありがとう」
「あたしも、ありがとう。前から欲しかったものだから、凄く嬉しかった」
ルイスは心からそう言ったつもりだったのに、口から紡ぎだされた言葉が思った以上に無感情だったことに驚いた。そんな自分の声に後悔をしながら、苦い笑みを浮かべて耳にぶら下がっている赤い石に手を触れた。
「私も、お礼を言わせてもらうよ」リーマスは照れているような笑顔を浮かべた。「あの、あれを、本当に? もらってもいいのかい?」
「あたしに返されても困るでしょう?」
ルイスはずっと気になっていたことを聞いてみようと思った。
「丈と幅はどう? 大丈夫だった?」
「いつ計ったのかって不思議になるほどぴったりだったよ。ありがとう。大事にさせてもらうからね」
「それならよかった。じゃあ、あたしは着替えてくるね」
ルイスは心底ほっとして、今度こそにこりと笑い、ぺたぺたと足音をたてながら階段を駆け上がっていった。