【完結】ふぇす・ざ・ぽっぷ!~ヒトモドキの狂詩曲~   作:エーデリカ

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シンコーミュージック様がぼざろのバンドスコア出すようですよ。読者の皆様もバンドやりましょうバンド。
私は私でリードギターの弾いてみた動画を見ながら、軽く絶望しつつ練習してます……。


#7 夜の黒騎士-B

 台風を打ち消すようなライブだった。その熱量や観客を点火したのは、私的にはぼっちちゃんだと思っている。しかし、そうは問屋が卸さない。どうやら雨は止んだらしいのだが、お店の片づけをしていた頃に突如嵐が舞い降りたのだ。

 

「何でウチに手前ぇが来るんだよ!」

「うるせぇ! こちとらお前がいる事すら知らなかったんだぞ!」

 

 ギョッとしているのは栗原先輩。もともと迎えが来るから打ち上げ前に撤収する予定で、家族が車を寄せるまではウチで待機していたのだ。問題はその後。先輩のLOINEが来たという反応を受けたお姉ちゃんが、出入口でお出迎えをしようとお店の鍵を開けに階段を登った。

 不自然なくらいに時間が空いた所、半開きのドアから近所迷惑レベルになる怒鳴り声が飛び込んできた。流石に心配で栗原先輩を連れて向かえば、あの狭い空間にいがみあっている野良犬の構図。寝癖のようなカールがかかる黒髪に眼鏡の男性。暴力沙汰になってないのが可笑しい位の、一触即発の空気である。

 

「あれ、司さんじゃないですか。オハでーす」

「こんな時に誰だ……は、もしかして廣井きくりか!? キャラ変わり過ぎにも程があるだろ……」

「そっちは元気そーですね!」

 

 私達の後ろからニョキっと生えてきた三つ編みの女性。お姉ちゃんの知り合いの廣井さん。悪びれのない態度に怒りの気勢を削がれた男性は、渋々と先輩の肩を叩いた。

 

「ったく。ケイ、帰るぞ」

「星歌さんすみません……今日は此処で失礼します」

 

 本当に申し訳なさそうな栗原先輩に気後れするが、一体あの短時間に何があったのだろうか。お姉ちゃんは戻った頃には、いつものぶっきらぼうな店長職へと表面上は戻っていた。飲み会の席でも上の空。確かに受け答えはしっかりしてるんだけど、何処か靄がかかったような仕草ばかりをする。

 この感じ何処かで……そうだ。お姉ちゃんがバンドを辞めるって宣言したり、STARRYを始めるって宣言した時くらいに追い詰められた時と一緒。もしかしてバンドをやってた時の関係者かもしれない。でも、私の記憶にはあんな人はいなかった気が……。

 

「われー。妹ちゃんは呑み足りなかったりぃ?」

「いや、私は未成年なんですケド」

 

 店の外での黄昏はまだ終わっていない。いや、日はとっくに沈んでいるのだが。先に戻ったぼっちちゃんを敢えて私は追わなかった。「ぼっちざろっくを見せて」なんて告白じみた表現でオーバーヒートした頭を冷やすには夜風が最適だったから。そんな間隙を縫ってきたのは、よく我が家に出没する呑んべぇである。

 

「廣井さんって、只の酔っ払いじゃなかったんですね」

「しょれどーゆーいみ?」

「ぼっちちゃんに色々とアドバイスをしてくれたみたいで」

 

 らしいというのは、先程までの雑談の成果。私達がスタ練で合わせをしている時に、リプライする余裕もなくぼっちちゃんが奔走していた頃の話だ。ノルマ未達成分はお金で解決すれば良いやと、半ば諦めにも近い感情があった。

 だから仮にぼっちちゃんが1枚とて売れなくても、攻める予定もなかった。その距離感が逆にぼっちちゃんを追い詰めてしまっていた。そこまで考慮しなかった私の失策だ。

 

「んあー。でもセッションしたのは成り行きだよ。しじみ汁奢ってくれたし、その恩返しというか」

 

 明らかな年下に対してたかり過ぎではなかろうか。そして脳裏から、全く関係ないリョウを追い出した。お前はお前で自重しろ。

 

「私も廣井さんには家事とかお世話してる訳ですし―……何か御褒美あっても良いと思うんですけど」

「え? 妹ちゃん、私に身体を求めてる訳?」

「そうは言ってませんってば……」

 

 まぁ、この人の()()()()()()は今に始まった事じゃない。向こうのペースに合わせては、全く話が進まないのも分かっている。

 

「いやー。でも、最近の子達って面白いね。ぼっちちゃんも素の奇行はヤバいけど、補って余る実力がある。ケイちゃんはそうさなぁ……砕き方を知らない宝石みたいな色をしてたよ」

 

 例え方がピンとこないので、私はつい首を傾げた。

 

「格好良くテキトーな事を言ってません?」

「うわ……辛辣ゥ。ケイちゃんは伸びしろはないけど、手塩にかけたいって事だよ」

 

 相当なネガキャンである。面と向かって言われたら本人は結構ショックだろうな。

 

「いやいや。実力を否定してないって! そうさなぁ……妹ちゃんは小さい時に河原とかで石遊びをした事がある?」

 

 お母さんがいた頃は、色々と夏は水場へ足を運んでいた。それとこれと何が関係が? 

 

「私も昔さ、ツルツルした石を拾ったんだ。乳白色っていうか琥珀色? お店の売り物みたいじゃないけど、楕円形で綺麗な奴。大事にしてたんだけど、ある日落としちゃって割れちゃった」

 

 道端のアスファルトに転がっている小石を、廣井さんは下駄で華麗に蹴り上げた。3、4回跳ねたら夜の闇に消えていった。

 

「そしたらビックリ。断面からそれ以上の宝石みたいな色が出てきた訳よ。形は不格好になったけど、本来の輝きはこっちだって思い知らされたねー」

「それとこれとが何の関係が?」

「んみゃあ……つまり殻を破る努力をした人間の方が、素の才能なんかより大事だってかな?」

 

 何故に言った本人が疑問形なのか。胡乱な目を向けるが、本人は意に介しない。

 

「まー。ケイちゃんが高校卒業して、フリーになったらスカウトするつもり」

「スカウト?」

「そうそ、新宿で私らがだーいじに育ててみようかなってね」

 

 そういえば、廣井さんのバンドが何をやってるか聞いた事がない。まして、お姉ちゃんとの友人関係も。もしかしたら……。

 

「廣井さんは、あの人の事を知ってるんですか?」

「わの人ぉ?」

「ほら、さっきSTARRYの前でお姉ちゃんと怒鳴ってた……」

「あぁ、司さんね。先輩の恋人じゃん」

 

 げっぷと共にさらっと廣井さんは流した。コ・イ・ビ・ト………………え、ウチの姉が? 男勝りでぶっきらぼうで、色気の欠片もないウチのお姉ちゃんが? 

 

「あっ、ゴメン。元カレだったかな?」

「元とかそういうの関係ないです! お姉ちゃんに限ってコイビト!? ありえないんだけど!?」

「ちょっ……妹ちゃん、圧が強い。強いってば」

 

 つい全身を揺さぶってしまい、ギブだとジェスチャーをされてしまった。

 

「うへぇ……吐きそう。っていうか、先輩に直接聞けば良いじゃん。珍しく酔っぱらってるし、案外教えてくれるかもよ?」

 

 その言葉を聞いて、もやもやしていた気分が吹っ切れた。お店に戻り喜多ちゃんらと談笑していたお姉ちゃんに、直接質問を叩きつける。というかお酒が得意な訳でもないし、いつもと比較したら呑み過ぎにも程がある。

 

「お姉ちゃん」

「ぁんだよ虹夏。まだ呑めるから大丈夫らって……」

「今日、ライブが終わった後。栗原先輩を迎えに来てた人、お姉ちゃんの知り合いなんでしょ」

 

 どんな相手だと単刀直入に。最初ははぐらかそうとしたらしいが、前に居座った私を見てお姉ちゃんの目が焔の色に染まった。

 

「お前には関係ない……」

「関係あるよ! お姉ちゃんが理由もなく喧嘩する訳ないじゃん。栗原先輩がお姉ちゃんの恋人を寝取った訳ぇ!?」

 

 その発言に周りにいたSTARRY関係者はともかく、カウンター席で悲しき背をするサラリーマン達すらギョッとしてこちらを一斉に見た。

 

「ばッ!? お前! 此処で言って良い事と悪い事があんだろ!」

「人目を気にするような後ろめたい事情はないんでしょ!」

「店長の修羅場……胸アツ」

「よっ、妹ちゃん! やれやれぇ!」

 

 外野が五月蝿いが此処で引き下がるつもりはない。っていうか喜多ちゃんも目をキターンってさせてるし、野次馬根性でもあるのか。

 

「アイツはケイちゃんの兄な訳! だから、寝取ったとかそういう話じゃない!」

「あっ。恋人ではあるんですね……」

 

 目を白黒させていたぼっちちゃんがボソリと呟いた。対して、お姉ちゃんの顔は真っ赤である。

 

「恋人……じゃねぇよ。勝手に期待して、幻滅して。本当に厄介な奴ってだけで……」

「コレで付き合ってないのが不思議って位に仲が良いんだよー。二人してさぁ」

 

 廣井さん。絶対にこうなる事が分かってて、わざと私をけしかけたな。

 

「まぁ、不埒な関係じゃない事は分かったけど。人前で()()()()()じゃん。何で喧嘩してた訳?」

 

 バンドを辞めるのだって、STARRYを開くのだって。いつもお姉ちゃんは勝手に決めて事後報告をしてくる。今日という今日は逃がさないぞ。まして栗原先輩(おともだち)が関わっているのなら猶更だ。

 

「久しぶりに会ってムカついた……」

「え…………?」

 

 それだけですか。本当にそれだけ。周りの皆の反応も何か憐れむような視線しか残ってない。

 

「あーっと。お姉ちゃん? てっきり私は、栗原先輩のお兄さん……えーっと、司さんだっけ。その人とタダならぬ関係なのかなーって思ってたんだけど」

「うるしゃい! キスすらしてないわこちとらぁ!」

 

 仕舞いにはPAさんに抱きついておろろと泣いている。

 

「まー。こんなだから、私が代わりに説明しよう! 私ら、学生時代にあの人と会ってんの。確か先輩の留年を数えないようにすると……4回生の時だっけ」

「え……店長さん、留年してたんですか?」

 

 喜多ちゃんの目がロックって怖いって顔してる。っていうか、お母さんの件があるまで遊び歩いていたお姉ちゃんが悪い。せめてもの情けで卒業まで待ってくれた父には、本当に頭が下がる勢いだろう。

 

「お姉ちゃんさ」

「なんらよぉ」

「まさかとは思うけど、自分の恋愛感情が上手く表現できないからって八つ当たりだけはしてないよね?」

「…………してないれしゅぅ」

 

 正直お姉ちゃんが酒の力を借りているとはいえ、こんなに弱り切っているとは。

 

「お姉ちゃん。真剣に答えて欲しいんだけど」

「んだよ、無駄に改まって……」

「私と栗原先輩の友情がかかってるの!」

 

 これがお姉ちゃんの色恋沙汰の巻き沿いでパーになったら、目も当てられなくなる。

 

「さっきの人。これからもちゃんと仲良くできる? STARRYに来ても喧嘩しない?」

「それは関係ないだろ!」

「お・ね・え・ち・ゃ・ん?」

 

 この期に及んで逃げようとする我が姉。精一杯の睨みを利かせたら、拗ねた子供のようにうずくまってしまった。

 

「伊地知先輩……目が怖いです」

「こーゆーお姉ちゃんにはお灸を据えないと。私から謝っとくから、後は当事者で何とかしてください!」

「虹夏……お前勝手に……」

 

 後の台詞なんて聞きたくない。昔の話を引きずって何になるというのだ。再びお店のドアをピシャリと閉めた。お店を出てスマホを見た所、既にLOINEに着信が来ている。30分ほど前だから、まだ間に合うだろうか。もう真夜中という時間だが、相手は直ぐに出てくれた。

 

「あー、栗原先輩。こんばんは」

『……ゴメン。折角のライブ、台無しにした』

 

 こりゃ、向こうも相当ダメージ負ってるな。疲労困憊の声を聞いて、軽く同情する。

 

「営業終了後の話なんですんで、そんな気を使わなくて良いですって」

『星歌さん……怒ってましたか?』

「うぅん。むしろ珍しく狼狽えてたし、面白い物見れちゃったよ」

 

 暫くお互いに無言が続く。その沈黙が嫌で、私から切り出した。

 

「今日のライブはさ……栗原先輩にも、色々と支えて貰ってたんだと思ってる」

 

 ぼっちちゃんのチケット販売手伝ってくれたんでしょ──そう呟く。

 

『もともと山田さんから買ってたし、成り行きで演奏したってだけだよ』

「でも、それがきっかけで結束バンドを知って貰えたんだし」

 

 それに女大生2名と廣井さんくらいしか、私ら目当てで来なかった訳だしと嗤う。

 

「初ライブがあんな感じで、緊張も一杯一杯だったけどさ。もしもっと盛況だったら、ビビッてドラムが奔ったかもしれない。だから今日はコレが最善だったと思ってる」

 

 それに、結局はあの程度の人数相手でも怖気づいてしまったのだ。

 

「ぼっちちゃんがさっき打ち上げで話してくれたんだ。2曲目のイントロで突っ走った理由」

 

 正直、私は先輩に妬いている。ぼっちちゃんを焚き付ける何かを得られていない。そう、伊地知虹夏は後藤ひとりに庇護を受けた存在である。それはバンドメンバーとして対等な関係ではない。

 

「駅前で路上ライブをした時に、事あるごとに先輩のキレが増した……その度に演奏中でも気が逸れちゃうくらい、気になって仕方がないって」

 

 セッションでも押し入れの中みたいに自由に弾いたって構わない。そう踏ん切りがついたとぼっちちゃんは吐露したのだ。

 

「技術がなくて浮いてたって構わない。でもお客さんの注意を少しでも音楽で惹ければ、曲は後からついてきたって」

 

 ギターの事は分からないけど、お姉ちゃんやぼっちちゃんと比較すれば先輩は下手となるのだろう。しかし下手な事と、観客を揺り動かすのは背反していない。

 

「路上ライブの時に、先輩が音外してたけどボーカルやってくれた。あれで緊張が解れたんで、自分の演奏が出来たって」

『あの時は観客の反応を見て、インストだと受けが悪いなぁって思っただけだし……』

「でも、喜多ちゃんやリョウなしで演奏した(やれた)訳でしょ。ぼっちちゃんは、それこそ信用してるみたいです」

 

 だから、失速した私達を鼓舞するようなギターソロを披露した。打ち合わせなんかしていない。ヤケクソでもない。この方法なら成功できるという確信があっての行動。それを師事する……お手本になったのは栗原先輩ではないか。

 

「ぼっちちゃんが、いつもの一人じゃなくても……バンドで実力を発揮できた事。多分、先輩も気付いてたましたよね」

『まぁ、最初のライブとえらい違いだと思ったよ』

「ぼっちちゃんはセッションがしたくて弾いてくれた。そのスタンドプレーに引っ張られて私達は成功できた。切っ掛けを作ってくれたのは栗原先輩。これで感謝しない筈ないですよ」

 

 私達のバンド演奏は未熟だ。結成から数ヶ月。ましてオリジナル曲のみで、ファンの地盤もようやくこれからという駆け出しだ。喪うものすら持ち合わせていない。それでも、得ているものはほんの僅か。闘う武器を与えてくれるというのは、努力と才能はともかくとして偶然(うんめい)も必要だった。

 

 人と人との出会いが……ぼっちちゃんとあの公園で出会わなかったら。まして喜多ちゃんが逃げたギターにならなければ。リョウが前のバンドを辞めなかったら。そして風邪で寝込んだ私を、事情があれど見舞ってくれた栗原先輩がいなければ此処まではこれなかった。

 

「そーゆーとこ、今までお礼を言ってなかったなって思って。先輩はどう思ってたんですか? お邪魔でした?」

『虹夏さんが思ってる程、私はよくできた人間じゃないよ。我ながら浅はかだなぁって思っただけ。路上ライブの時だって、後藤さんや廣井さんに対する嫉妬があったから挑戦したのにね』

 

 曰く、同じ演者の中で感じた劣等感。それを払拭しようと、打ち合わせにない芸をやらかす。そのアドリブに対して廣井さんとぼっちちゃんは喰らいつくどころか、更に上をいかれて焦った事も。

 

『だから正直、今回の一件は結束バンドを遠ざける理由にしたいかなぐらいには思ってた』

「そんな勝ち逃げみたいな事、絶対させませんよ」

『負けてるのはこっちだよ? まぁ、勝手に盛り上がって悪いとは思ってる』

 

 それは言葉の綾という奴だ。とはいえ彼女の発言を聞いて、落とし所は決めた。

 

「もし先輩が成り行きとは言え罪悪感があるなら、私に何をしてくれます?」

『生命や尊厳に支障がない限りの範囲でなら、まぁ何でも……』

 

 とはいえ、さしあたって希望もない。これからも仲良くして下さい……って改めて言うのも気恥ずかしいし。そうだ……。

 

「そしたら、貸し1にします。明日からは普段通り。これで先輩が納得すればチャラです」

『分かった……それじゃ、決めたら教えて』

「はーい。じゃあお休み、先輩」

 

 そうしてさらっと通話を終わらせた。スマホのスリープボタンを押し込んだら、今頃急に冷や汗が出てきた。

 此処だけの話だが、他のメンバーと栗原先輩はセッション楽しんでいるような気がする。リョウもベースがどうこう言ってたし、喜多ちゃんもオーディション前に練習を手伝ってくれたみたいな事を言ってたっけ。

 であれば、私だって好き放題お願いしても良いじゃないか。心の何処かで、もう一人の私が嗤う。

 

「青春で何が悪い……ってね」

 

 そうしたら、作詞・作曲のいくつかぐらい手伝って貰っても罰は当たらないだろう。見上げると黒く広がった天球には、雲一つない星空が広がっていた。

 




割と投稿日の深夜まで書いてるくらいは、時間に余裕がなくなりつつある……。その割には来週推しのバンド(恒星ライブではない)に参加してきます。モチベにつながる事を祈って!
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