【完結】ふぇす・ざ・ぽっぷ!~ヒトモドキの狂詩曲~ 作:エーデリカ
同僚が懲戒免職になり、火消しで頭下げて手足で稼いだ日々。
舞台ぼっちに出会って脳味噌と財布を溶かしたり。
合同誌4つに参加したり……でも本は出なかった事もあったり……。
お待たせ致しました。不定期ですが再開します。
結束ロック!3に寄稿しております。お立ち寄り頂ければ。
https://twitter.com/edelike/status/1697893586568957979
猫の手も借りたいという言葉はあるが、その意味を考えると理想は違うのではなかろうか。例えば出力は50%で構わないから別の場所へと、自分自身を二人派遣させたりとかだ。
昔読んだ漫画で「身代わり」という技が自身のエネルギー体を生成する事で、オリジナルが進めない過酷な領域に到達して目標達成をするというストーリーがあった。
カミサマ。どうか力仕事をしながら50m先の来場者対応をできるような能力を恵んで下さい。しかし現実は非情であるので、四苦八苦している後輩に全てを任せる事になる。
「裏方の仕事も性に合っているじゃねぇか」
秋口の朝一だというのに、袖で頬の汗を拭うのは星歌さん。STARRYのスタッフも来てくれてはいるが、高額な機材という事もあって店長自身も精力的に運んでいる。自動販売機のスイッチを押し込めば、時間差でアルミ缶が音を立てる。座り込んでいる彼女に差し出せば、熱冷ましシート代わりに頭部に当てている。
「1つ80円とか安いなオイ」
「1杯500円と比べれば。ですよね?」
「……根に思ってるな」
「学校の補助が入るから単価が安いだけですよっと」
スカートの埃を払って立ち上がる。時刻は11時30分を過ぎた所だ。午後のステージイベントまであと1時間も残っていない。
「しかし、前日の機材搬入すら断られるとはな」
「そこについては、ウチの
「ケイちゃんを攻めても解決しないってくらいは分かってるよ」
問題は音響の打ち合わせすら出来ねぇのはとぼやく。
「計21組ね……十分集まったじゃねぇか。インターバル含み45分で周回させれば良いって、持論は分かるが1日目6時間で2日目9時間だろ。人使いが荒いな」
「本っ当ギリギリでしたよ。体育館に捻じ込んだのも。私だって後夜祭を放っぽリ出して撤収作業ですよ」
「他の連中が意味のないキャンプファイヤーをやってる間に、縁の下を支えるってのも大事な仕事だぞ」
冥利に尽きてんじゃんねぇか。飲み干された残骸が弧を描いてゴミ箱へと入っていく。
「自己犠牲精神サマサマだな」
「その時間は学校という牢獄から解放される訳ですから。しかも合法に」
「スタジオ練習を理由に、イベントサボっている虹夏に比べりゃ立派だよ」
お陰様で渋々クラス企画をやっているようだと嗤う。
「自分で思っていて何ですが……」
「急にどうした」
「私なりに頑張った結果、バンド組んだり実行委員会に仲間ができました」
「良いじゃねぇか」
「その分、クラスで更にぼっちになりました」
星歌さんの眼が冷たい。そんな本末転倒なみたいな表情をしている。
「……ケイちゃんさ。後悔してんのか」
「何を今更って感じですね。それを言い出したら、下北高校に来た事も勉強に遅れて文系選んだのも……」
もう手遅れなんですよ。呟いた台詞の何と無意味なものか。
「だからその清算が済めば良いんです。結局、人間関係なんてものは大学に行けばリセットされるんだし」
「やっぱり進学するのか」
「えぇ。学力も悪い訳じゃないですし、将来を考えると悪くない選択肢です」
配線用のケーブルが詰まったダンボールを抱えて体育館前へ。観客がいないフロアは外光を受けて照り返す。ワックスが業者の手によって均一に塗り拡げられた床は、生徒達の手によって軟質性の滑り止めシートで上書きされていく。壇上には1日目のライブ参加者がマイクチェックを進めている所だった。
「この下北祭は、別に私達だけの為じゃないんですよ」
そう呟くのが何と虚しい事か。自分だって分かっている癖に。名残惜しいが踵を返して玄関方面へ。感傷に浸っている余裕はない。あと少しすれば、自分の番が回ってきてしまう。
「実行委員会なんてただの神輿です。生徒の声を受けて、先生方と喧嘩する。その役割があれば生徒会が兼任したって構わないんですよ」
であれば、なぜそんな不要なものをわざわざ作るのか。
「
これ程都合が良い存在は他にないでしょと自嘲する。
「刹那を生きてるなんてよっぽど青春してんじゃねぇか」
「星歌さんほど、夜空に瞬く星の歌みたいに輝いてないですって」
「それと似たような事を喜多ちゃんから言われたな。丁度、お前のお兄さんと喧嘩した夜だった」
そうやって星歌さんは自分の髪を梳いた。照れ隠しのように。
「そういや、アイツとの馴れ初めとか話をした事なかったな」
「むしろ恋人だったんですか?」
「……お互いそうは思ってなかっただろうから、一応否定はしておくか」
苦々しく顔を歪める。私も青かった頃の話だと嗤う。
「実はさ。少し昔にケイちゃんに会った事があるって言ったら信じる? もう8年にもなるか」
「いや。初耳なんですけど」
「駅のホームに飛び込もうとしたのを阻止された」
あっけらかんというが、さらっと爆弾をかましてくるなこの人は。
「酷い雨の日だった。母さんがいなくなって自暴自棄になってたんだ。私の所為だって追い詰められて、もうどうでもよくなった。あとちょっとって所でさ」
そんな少女漫画みたいな展開をうちの兄が颯爽と? 息を詰めて唾を呑む。
「線路に酔っ払いのサラリーマンが転落した」
「ハァッ!?」
つい女子高生らしくない発声をしてしまった。
「どうせ死ぬ気だった命なんだと思って、アタシもホームに飛び込んだ。体力に自信はあったけど、半分意識がない雨水吸った人間を引き揚げるのは本当に重たくてさ。何百メートル先に電車のヘッドライトが見えた時には本望だなって思ってさ」
そうしたら……。思わず息を飲む。
「凄い形相で男子がこっちをホーム下に押し込んでさ。コンクリートに全身強打してて。それでも死ぬよりはマシだって気付いた。その後は濡れ鼠のまま駅長室で大人どもにお説教だよ」
むしろ風邪ひいて死にかける程、夏の筈なのに寒かったと。
「緊急停止ボタンをまず押しに行けって凄い睨まれてさ。おまけに終電を逃して帰れなくなった私を引っ手繰るように連れ出して……」
「あっ。思い出した」
兄が高校生だった頃、両親がいない事を電話で念入りに確認されたのを覚えている。
「そういえば昔に不良のお姉ちゃんを介抱した覚えが……」
「そのMASAKAだよ。っていうか、ケイちゃんからみてそんな風に映ってたのかよ」
「私だって当時は10才程度の乙女ですから」
連れ込むとか連れ込まないとかの意味を理解していなかった私は、押しかけてきた怖い人というイメージだ。それに当時ビクついて冷蔵庫の発泡酒を手渡した所で相当酔っぱらっていたのを覚えている。
「そう……だったんですね。星歌さんが私の兄を繋ぎ止めてくれたんだ」
「話が読み込めないが……」
「二人は似た者同士だったって事ですよ」
そう笑えば、星歌さんが首を傾げる。
「ちょうど、今の私と同じくらいの年齢だったんじゃないですか。長男ですから、親の期待……というかプレッシャーは相当だった。何せ子供は親の所有物ですから、その人生のレールを上手に引くのが教育であって。その成果が学業だった」
あの頃の兄は表面上の優等生で、大分参っていたように感じる。だから限界に達した時、全てを拒絶した。
「学費諸々の優待生扱いに成れるくらいまで努力してたのは、きっと家族と縁を切ろうとしてたからなんですよね。卒業したら本当にそうなってたかもしれないです」
「……アイツもアイツで色々あったんだな」
「あんな状態の星歌さんを泊めるのに、結局実家を借りなかったら……が結構ショックだったらしいです」
それが今じゃつまらない男になっちゃってと溜息を吐けば、隣の星歌さんは対照的に口角を歪めた。
「再会したのはアタシが大学5年目って頃か。ちょうど廣井が酒に溺れない時って記憶がある」
「廣井……さんって三味線ベースの?」
「知ってたのか。そうそう、この前STARRYに来てたアル中女史」
やたらと後藤さんや星歌さんにウザ絡みしていた三つ編みの女性。金沢八景での時より、更に悪化していたような気がする。
「廣井達のバンドが他大の学園祭に軽音部のよしみで参加した訳よ。そこでギタボの奴が急病で搬送されてさ。代わりが出来る奴がいないかって泣きつかれてヘルプした訳よ」
何やら心が温まりそうなエピソードじゃないですかと呟けば、それで終われば良かったんだと頬を掻いた。
「でも演奏後に、1年なのに総務局長だかをやらされてたアイツが飛び出してきてさ。もう怒り心頭になってて」
「そんな事態になりかねます?」
「事前にバックパスの申請してなかった訳よ。それで芸能人ゲストやらの待機室の前とかを不法侵入状態でステージ参加してて、オフィシャルな人達に見咎められたらしい」
そういう武勇伝みたく語られては、おそらく兄の心労は相当だったに違いない。
「学外の人間に頭下げさせる訳にはいかないから、運営側の采配ミスで通し切ったんだと。他人の泥を被れるあたり、アイツの方が良い人間してるよ」
「そりゃぁどうも……伊地知さん」
絶対零度の声が、秋の寒風に負けないように吹き下ろしてくる。その主は他でもない。
「相変わらずの苦労性気質は血統か? ケイちゃんも同じ道を辿ってるじゃねぇか。ツカサ」
「人生もギターも宙ぶらりんなのは、結局そういう事でしょう」
「お前な、可愛い妹ちゃんを労えよ。それに、私が次の年も助けてやったの忘れてないだろうな?」
「感謝はしてますよ? それとこれとは話が別です」
この二人、本当に一触触発だな。巻き込まれないように遠巻きに見守るに限る。
「という訳でだ。ステージイベントのオープニングアクト。万全で挑めよ」
「…………何の話ですかね?」
「今日まで運営に精一杯で練習どころじゃなかっただろ。つーかさっきPAから聞いたんだが、10時からのリハすら参加してないんだろ。大丈夫かよ」
本当に痛い所を突いてくる。とはいえ事実は事実。
「正直言うと演奏する事よりも、こうして裏方に徹するのが私に合ってます。それに私のベースモドキが一人欠けた所で、演奏に影響なんて……アイタッ!?」
脳天直撃チョップ。星歌さんがやれやれといった表情でこちらを見る。
「走れよ青春乙女。仲間が待ってんだから。仕事なんか放っぽリ出して、全力出し切れ。ケイちゃんにとって
兄が私の腕章を器用に梳くって、自分の腕に留め直す。
「俺だって伊達に修羅場は潜ってねぇよ。裏方は任せて先に往け、バカ妹が」
こういう時にだけ人生の先輩面をする二人には申し訳ない。足を叱咤して体育館に駆け抜ける。渡り廊下や体育教官室の前の教師陣を回避しつつ、自分の持ち場へ。
会場に踏み入った時には、人人人の波。こんな人口が下北生の……いや、ご近所含めていたのかどうか。皆の期待が此処に固まっている。先程はこんなにいなかった筈なのに。つい立ち止まってしまった私に対して、キャットウォークに備えつけられた例の照明がこちらを見る。
『えー。皆様、長らくお待たせいたしました。うちのお局さんがようやく懲役からシャバに出てきたようですー』
会場がくだらないMCに湧く。その言葉の主はもちろん……。ステージ前の階段を駆け上がる。目の前にはボーカル用のマイクが。引っ手繰って言葉を叩きつける。
『ちょっと織口さん!? 後でお話しましょうか? 先生方が備品管理長がどこ行ったって血眼になって探してたんですけど!?』
『いやー、悪い悪い。でも、こういうお客さんを相手に場を繋ぐって大切なお仕事って訳で簡便してちょー』
っていうか、体育館の解放がなんで30分近くこんな前倒しなのか、私は何も聞いてない。状況整理すれば、きっと簡単な事なのだろう。皆からの熱が会場を動かしてしまったのだと。
『えー。改めまして、メンバーが揃いましたのでバンドの紹介をしまーす。実行委員会の申し子が……もとい人身御供が二人もおります……《chorus leaf》のー。ギタボ織口優ですー。今日はよろしくお願いいたしまーす!』
それに合わせて、私以外のバンドメンバーが各々の武器を掻き鳴らす。っていうか、私の疑似ベースもといギターは何処だ。探している内に、緩慢な台詞が続く。
『本日は足元がお悪い中、ご来場賜りまして誠にありがとうございます。不束者でございますが、開幕は我々が努めさせて頂きます。至らぬ点あると存じますが、全力で望む所存です。よろしくお願い申し上げます』
『こんな堅苦しい挨拶してますが、うちのバンドのリーダーです! リードギター! 垣沢宣ッ!』
滅多にやらないタッピングで、場の雰囲気を完全に掴みに行く。自称進学校のテクニックがどれ程のものかと。
『……堅苦しいとは何でしょう?』
『
『え……下北高校の学力カースト最下層ってブレブレのガタガタなんじゃないんですか?』
だから足元が悪いと。その自虐ネタに会場の下北生が、一斉にブーイングもとい黄色なのか雄々しいのか分からない声援が飛ぶ。調子に乗った発言者が、シンバルとキックをこれでもかと鳴らす。
『あー、テステス。メタ発言はここまでにしましょうか。それ以上やると先生方の説教で済まなくなりますんで。100均ドラマー 尾島千尋!』
ひとしきりの打楽器をスティックで一周させる。会場のボルテージはこれでもかというくらい。
『っていうか、うちのキーボード何処行った……って、いた』
『……今日の出番はこっちじゃなくて?』
『いやなんでさ!?』
『全校生徒の前で弾くならこっちじゃない? ほら……もう体育館埋め尽くすくらいの会場……あー、皆様。拍手のほどありがとうございます』
座るのが本来拒否している筈のグランドピアノに優雅に腰かけている。っていうか、ご丁寧にマイクまでセット済み。仕込んでるじゃん!? 30秒程の有名なフレーズに、更に会場が湧く。
『久石先生のsummerでした……。結構メジャーな曲を選んだので、会場の方も殆どご存じですかね。夏の終わりには時間が経ち過ぎていますが、私は好きです。次の曲紹介ですが……』
『前振りなさ過ぎて、音響さん苦笑いっつーか眼が笑ってないっすね……ハイハイ! この話やめやめ! ショルキーです! 川田早紀!』
今度こそ自分の楽器を彼女も掻き鳴らす。音楽嫌いな彼女すら、ここ一番に盛り上がっている。残るメンバーの視線が私を向く。後はお前だけだぞと言いたげに。私は震える手でマイクを握り直す。
『皆様、本日はご来場ありがとうございます。まさか、こんなに人が集まってくれると思っておりませんでした』
『見込み違いっていうか、お仕事集中し過ぎもよくないよねー』
織口さんはちょっとお口にチャックしましょうねー。小言のつもりがマイクが拾っていたらしく、全体から失笑がくすぐる。
『自分はバンドに全てを捧げて来た訳ではありません。勉強に埋もれて……良い思い出なんてない高校生活の最後くらいは、私だって青春したかったんです。今はこうして仲間に支えられて、例年にないバンド演奏できる場を作る事ができました』
あの日、STARRYに行かなかったら。星歌さんや虹夏さんと出会わなかったら。私の人生はきっと灰色のままだったろう。
『今は、仲間がいます。こんな学園祭なんてクソ喰らえだって。ぶっ壊したいって思う同士がたくさんいます。最高じゃありませんか!? 在校生の声が、ここまで下北祭を動かしました!』
めいっぱいのお辞儀に感謝を込めて。たかが一イベントにここまで楽しみにしてくれた事を。そして頭上を大音量が吹き抜ける。ショルキーが、ドラムが、ギターが。私の背中を押す。返ってくるのは、大歓声。
『タイミングズレちゃいましたけど、うちの大黒柱の栗原佳ちゃんでした! さーて、皆様お待ちかねかと思います。予定が前倒しになりますが、これ以上は引き延ばせないっす!』
その声にまた観衆が湧く。っというか、ここの人達は大分聞き手として手慣れてないか……。というか、それ以上に娯楽に餓えているのか?
「さー、ケイちゃん。トップバッターとして、これ以上のないクラウチングだね?」
マイクの外で、織口さんが茶目っ気にウインクをする。そうだ、後は音楽で語るしかない。私達が伝えたい、この想いを。楽器に乗せてぶつけるしかない。
『それでは《chorus leaf》の一曲目です………………』
相棒とピックを片手に、私達の夢は走り出した。
前書き通り、
夷隅故風様@isumikofu
https://twitter.com/isumikofu/status/1682013216531169282
シオト様@shioto
https://twitter.com/shioto/status/1697154474354298966
の合同誌に参加させて頂いております。
そして全人類、舞台ぼっちの円盤買って!