【完結】ふぇす・ざ・ぽっぷ!~ヒトモドキの狂詩曲~ 作:エーデリカ
作品完結まであと3話。まだまだ募集しております。
可能な限りプラスエピソードとして盛り込みたいと思います。
(プロット切ったら3万字程度か?)
それでは、本編どうぞ。
「何だか面白い事になっちゃいましたね。先輩」
「どういう意味だ廣井」
「分かってる癖にぃ」
舞台袖から見ていた私達は、彼女らの雄姿を拝もうとグリルと観客側へ回り込んだ。それはもう楽しそうにステージに立つ5人の姿がある。成り立ちは違えど、ここまで不思議と噛み合っているバンドはそう多くない。まして、メインギター不在でよくここまで盛り立ててくれたもんだ。
「それでも『私らのSICK HACKには及ばない』って顔してんな」
「その台詞……そっくり先輩達のバンドに返しますよ」
だって二度と越えられない壁になっちゃったじゃないですか。
「それにしても、ケイちゃんが正式にサポート入りねぇ〜。妬いちゃうなぁ」
「元々そういう気質はあっただろ。本人が結束バンド相手に深入りしないようにって、自分で一線引いてたんだから」
「でも、その箍は外れちゃいましたね」
何が言いたいという目で、先輩は私を見る。
「……言い方を変えるか。
「何それ? 好きな事を仕事にしたくないって?」
「自分の
大学受験を機に引退するバンドマンだって、世の中にはたくさんいる。彼女だって、その一人に過ぎないとでも言いたげだ。
「だからこそ、あらかじめ唾付けときたいと思いません?」
「どういう意味だよ」
「実は前から『SICK HACK』に誘ってるんですよ。彼女」
いつもクールな先輩が、珍しく動揺して面白い光景になっている。まぁ、保留中らしいんですけどと呟けば、ほっと胸を撫で下ろしたらしい。何とも分かり易い。
「まぁ、社会勉強って奴ですね。新宿FOLTにいれば、おのずとそういう関係者との縁も深くなる。ウチの銀ちゃんも
「……別の意味で将来有望だな」
「はい、きっと優秀なイベントブッカーになってくれますよーだ」
「それはそれで……その道に進んだら、ケイちゃんの胃が保たないだろうな」
おそらく過労死するだろうのが目に浮かぶ。二人してまったく同じ想像をしてしまったらしく、目を合わせてつい苦笑した。
まぁ、十数年後なんて気にしたって意味がない。大事なのは、今目の前で彼女はまだバンドマンとして振る舞っているという意義。そして、ぼっちちゃんとケイちゃんの
『聞いてくださいっ! 「青春コンプレックス」ッ!』
喜多ちゃんの紹介と妹ちゃんのシンバルで滑り出せば、私達にとっては聞き慣れたフレーズが流れ出す。よくよく考えると、まぁ何ともアラサー世代に刺さりそうなタイトルをしている。え……私は好きだよ? 20台半ばだけど……そして、先輩からの視線が冷たい。
『暗く狭いのが好きだった』
ぼっちちゃん。ダンボールに籠りきりのキミにとって、世界はどう映ったんだろうね。深く視線を隠しても、もう恨んだ目でキミを見る人はいなくなっただろう? キミが求めれば、仲間や観客はきっと応えてくれるんだ。だからさ、め一杯挑もうよ。
『雨に濡れるのが好きだった』
妹ちゃん。キミが小さい時、実は何周忌かにお母様へ線香をあげに行った事があるんだ。嵐に負けない位の曇り顔。それをキミは持ち前の笑顔で塗り替えていったよね。きっと似合わないって分かってたから。ようやく報われたようで、少しは胸がすく思いだよ。
『悲しい歌ほど好きだった』
ファンの子、リョウちゃん。
『明るい場所を求めてた』
この子は厄介だよねぇ……喜多ちゃん。自他共に認める陽キャ。いや、そう思い込んでいるに近いのか。今ステージに立ってどう? センターで叫ぶ気持ちは? きっとサイコーなんだろうね。誰かと成すべき事。成したい事がキミには見つかったかな。
『誰にも言わない筈だった』
ケイちゃん。これはキミが皆に働きかけたからこそ、産まれた物語だ。クソったれな下北沢高校でも、やればできるんだって。自分の感情にケリをつけたかい? そんなお上品なもんじゃないだろう。こんな所で終わらないだろう、
歪な線だとしても。例え周りから疎まれても。
打ち合わせなしの単音弾き。楽譜に縛られている本来の結束バンドでないからこそできる芸当だ。基本的なコード進行と
私を見ろと言わんばかりに、己の音楽を奏でる。
『わたし 俯いてばかりだ それで良い 猫背のまま(本当に?) 虎になりたいから(衝動的感情 吠えてみろ!)』
舌触りの良い歌詞なんて、都合が良いもの並べてご様子伺いしてんじゃないよ。そんなものか、こんなものかと聴衆に嘲られるな。今この瞬間しかキミ達の音楽を聞ける人がいないんだ。だから……。
「吠えてみろー!」
つい私も叫んじゃうじゃないか。キミ達のロックに盃を傾ける為に。次の瞬間、妹ちゃんのバスドラが比喩的に爆発する。その音圧が、心が。最後列まで駆け抜ける。
全てを薙ぎ倒した後に、ベースの重低が煉瓦を積んでいくようにドシリと鳩尾深くまで抉る。装飾するように3本のギターがメロディを奏でる。そしてボーカルと観客の雄叫びが、これでもかと組み上がった音楽を、砕いて・削って・叩き延ばして・練って・組み上げて・コトを成す。
『さあいこう 大暴走獰猛な 鼓動を 衝動的感情』
『「「「「吠えてみろッー!」」」」』
最後のサビと独特のアウトロ演奏を以って、ついに
そう。バンド演奏ってのは、素人にだって玄人にだって素晴らしいんだよ。所謂「タカトン・ジャーン」で締めた5人。流れ落ちる汗が、彼女たちの必死さを物語る。それと同時に帰らなきゃいけない現実が差し迫っている事を。
隣の先輩が頭上に両手でバツを掲げる。これはぼっちちゃんが戻ってくるかはともかく、事前の打ち合わせ通りだ。それに加えて
間に合ったぼっちちゃんが準備する時間も、僅かながらに必要とした……それが致命的だね。鬼ころが手元にあったら開封してただろうよ。やってられっかこんなの。
『あーっと……名残惜しいですが、ちょっと茶番の関係でお時間が一杯みたいです。すみません。さっきのが最後の曲になります』
焦った喜多ちゃんの声に、えーという声が会場に木霊する。ここまで当てられた空気というのは変わりようがない。ブーイングとは言わないまでも、その
「ねぇ、先輩」
「駄目なもんは駄目。仕事上、
「いけずですね……」
「私だって不本意さ……先生方もこっちを見てる。ケイちゃん達実行委員の活躍に泥を塗る気か? それに、ココから漏れ出た音っていうのはご近所トラブルになるんだよ。責任取れんのか?」
時計は既に17時12分を回っている。1分1秒を争う鉄道じゃないんだからさ。っていうか、アーティストに厳守を求めんなっての。
「立場が立場なら本気で強行しただろうさ。でも、そうはいかない。私らは当事者じゃない……もう傍観者だ」
悔しいのは先輩も一緒なのか。唇をきつく咬んでいる。しかし、そんな袖を引くのが一人いた。
「えっと、店長の伊地知さん? ウチの織口からの頼みがあります」
「確か……ケイちゃんの所のドラマーだっけ」
「はい、尾島です。先生方には
なんだかんだで、この子らも相当なレジスタンスだな。これから実行委員会のお膳立てした枠組を派手にぶっ壊そうってのに、まったくの躊躇がない。それはケイちゃんへ弓を引く行為と同じなのでは?
私が首を捻れば、残りのバンドメンバーは何を今更という表情をする。リーダー格の子が、不敵に嗤う。
「栗原佳にとっては、大小のクレームの嵐なぞ造作もないでしょう」
「まぁ私達は、これを機会に一矢報いてやろうって算段だし」
「やらかしたら……来年、下北祭でバンド演奏が禁止されるかもしれないのにか?」
先輩の指摘は当然だ。なのにも関わらず。ケイちゃんのバンドメンバー3人は顔を見合わせて苦笑する。
「どうせ去年もやってなかったし、私らは卒業しちゃうし」
「考えるだけ無駄ですかね。だから……」
盛大にぶちかましたいじゃないですか。大人に成り損ねの
「うら若いのにロックだねぇ……」
「おい、廣井。あんまり焚き付けるような真似は……」
「先輩はどうしたいんですか? STARRYの看板背負ってるだけで尻込みしてます?」
それに痛い所を突かれたという顔をする。この人はいつもそうだ。自分が置かれた状況に言い訳して、仕方がないと諦めている。ライブハウスを始めたのは、ある意味の妥協だって事も私は薄々勘づいている。多分、妹ちゃんもじゃないかな。
今更良い子ぶっても先輩の過去のやらかしは消えませんからねーとおちょくれば、両手で雁字搦めにされてヘッドロックされる……ギブギブですって先輩。
「ケホッ…………せっかく妹ちゃんのライブなんです。姉としてもっと贔屓しても良いんじゃないですか……?」
「それが簡単に出来れば世話がないな……」
対する溜息。でも、もう目は据わっているように見えた。何が起きても良いようにと、腹を括ったらしい。さぁ、あとはどう舞台が爆発するんだい? 待ちかねようじゃないか。
『名前だけでも覚えてって下さい! 今度はSTARRYでお会いしましょう! 結束バンドでした!』
喜多ちゃんがそう頭を下げる。続いて他のメンバーも。仕方がないと食い下がる観客。だが、これで終わらせない
そしてそれは、唐突に訪れる。まばらになる拍手の間隙を縫って、一番後ろから芯の通った声量が轟いた。なるほど、そういう事か。もっとも現実的で、もっとも非合理な方法とは恐れ入ったよ。
「かぁあーきぃいーなぁあらぁあせぇえ──────────!」
clap clap clap clap clap clap clap clap 。そう体育館の体積比的には僅かな。しかし必死の手拍子が8回。雑踏に負けそうなくらい儚く響く。
「らぁーいぁーめぇえーいぇーをぉお──────────!」
clap clap clap clap clap clap clap clap 。再び、外へ移動する観客を繋ぎ留めようと虚しく響く。
「「かーきー鳴らせー!」」
clap clap clap clap clap clap clap clap。立ち止まる人が増えてきた。これで終わりと気持ちの整理をつけていても、応援の意味も兼ねて。
「「らーい めーいーをー!」」
clap clap clap clap clap clap clap clap 。何でこんな事をやっているんだろう。日本人の性、分からなくとも周りに巻き込まれて仕方がなく。
「「「かーきー鳴らせー!」」」
clap clap clap clap clap clap clap clap 。今度は力強く。会場に波を起こす。困惑していた人達も、まるで最初から仕組まれていたかのような錯覚を起こす。
「「「らーい めーいーをー!」」」
clap clap clap clap clap clap clap clap 。ここまで来たら、もう止められない。しようものなら先公ドモを連れて来いってんだ。
「「「「かーきー鳴らせー!」」」」
clap clap clap clap clap clap clap clap 。さぁ、どうする結束バンド。オーディエンスはヤル気だぞ。尻尾巻いて逃げ出すかい?
「「「「らーい めーいーをー!」」」」
clap clap clap clap clap clap clap clap 。ステージ上では、意を決したような皆の表情。そうだよ、だから
意を決した喜多ちゃんが両手でマイクを握る。目を伏せ、バックミュージックが鳴らない環境で独唱が始まる。
『かき鳴らした……光の先で さぁ行こう このどうしようもない感情を 打ち鳴らした……嘆きの方へ どうしよう………………えーっと…………まだ、私達は謳って良いですか?』
観客の雄叫びが裏返る。場を熱気が支配する。その反応に、心の中では楽しくてしようがないのだろう。笑みを隠さず中央の喜多ちゃんが吠えた。
『お願いひとりちゃん!』
「はいッ!」
「PA!」
「抜かりないですよー」
焦った様子の先輩に対して、音響側は知った風をする。何度こんな土壇場を潜ってきただろうかと。ステージ上ではぼっちちゃんがエフェクターを踏み倒し、今度は返し用のアンプに足をかけた。
台風ライブで魅せたレベルの独奏。本気を出したぼっちちゃんのオーラは、並大抵の女子高生で太刀打ちできる技術ではない。いや、すぐそこに一人いたな。その最高峰を最低限まで模倣できる存在が。
一対のギターがお互いにかけあう。ケイちゃんの武器も負けじと唸る。三度繰り返した所でメインボーカルにバトンが帰る。
『皆さん、まだまだ盛り上がれますかッ!? 行きますよ──「Distortion!!」ッ!』
各々が楽しんでいる中、私は出口の方を見る。やりきった表情の、ケイちゃんバンドのギタボの子。こっちを見てガッツポーズをしている。それを摘まみ出している先生方も、やれやれといった様子だ。どうやら大人達には理解はされなくても、多分赦してくれたみたいだね。ケイちゃん。そして……。
「こんなキラキラした時代が私にもあったはずなのに……今夜はやけ酒だ……」
「折角良い所が台無しだなオイ」
そう先輩に憐れまれて、私は肩を叩かれた。