【完結】ふぇす・ざ・ぽっぷ!~ヒトモドキの狂詩曲~   作:エーデリカ

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10ヶ月に及ぶこの作品にお付き合い頂きましてありがとうございました。
これにて完結です。残りは後書きで!


#12 present to you-B

「そんじゃぁ~、ケイちゃんの卒業を祝って乾杯っ!」

「「「かんぱ~い!」」」

 

 各々がグラスを傾けた。机の上にはスナックやら寿司やらケーキやらが。そして一升瓶が何本も並んでいた………………そう、1時間くらい前までは。

 

「あの……店長さん?」

「どうした、ぼっちちゃん」

「開店前に良いんですか? こんな事しちゃってて」

 

 サプライズで卒業パーティーをするとは聞いていたけど、そもそもバイトのシフトは入っていた筈だ。対して店長さんは気にするなと爽やかだ。

 

「ケイちゃん達の活躍で儲けさせて貰ったからな。今日は表向きにはスタジオ貸し切りって扱いにしてる」

「……お酒が置いてあるのも?」

「アレは廣井が五月蝿いから仕方なくだ」

「もう全部空っぽみたいですけど……」

「…………志麻がいるから大丈夫だろ」

 

 既に酔っぱらってウザ絡みに行っているお姉さん。表情は引き攣っているけど、ケイさんも楽しそうで良かった。虹夏ちゃんと何かあったみたいだけど、傍から見ると姉妹みたいにベッタリしてる…………し、問題ないのだと思う。それにSICK HACKの人達も保護者としているし、多分……大丈夫かも。

 

「そういえば最近、STARRYもお客さんが増えて来ましたね」

「あぁ……一見さんみたいな初心者も顔を出すようになったし、下北祭での広告効果はテキメンだな」

「そんな中で私はまた不躾な接客態度を……」

「ぼ、ぼっちちゃん!?」

 

 そう。結束バンド目当てで来てくれる人も段々といる。未確認ライオットのデモ審査用のミュージックビデオを撮ったし、毎週路上ライブもやってるし。私達の冒険はこれからだー! って感じで。

 でも、やるスケールが大きくなっただけであって。本当に後藤ひとりは一歩を踏み出せているのかって。それと比べてケイさんは立派だなぁ。ちゃんと勉強できるし、大学進学決めちゃうし……。

 

「今週のぼっち・ざ・とーくのお時間です」

「山田ァ!」

 

 こうしてリョウさんとの漫才も何週目だろう。早くメジャーデビューしなきゃ、私の高校中退の夢も……。

 

「後藤さん」

 

 その声に顔を上げれば、本日の主役がこちらを覗き込んでいる。

 

「ちゃんと謝らなきゃって思ってたんだ。ライブの時に役目を奪っちゃったでしょ」

「いえっ!? アレは私が寝坊しただけでッ……」

「後藤さんが間に合わなそう良い事に、私が出張っちゃったのがいけないよ」

 

 まるで飲み会での席替えのように、よっこいせと腰を下ろした。

 

「本当にやるべきは、後藤さんを信じて先生方を説得するべきだったんだ」

 

 そうかもしれなくても、下北沢高校が厳しい校風なのは私も知っている。ライブを成功させる為に……結果的に悪手になったとしても、喜多ちゃんと直前まで練習した。でもケイさん達は、それ以上に頑張って舞台を整えてくれていた。勝ち負けとかそういう話じゃない。

 

「まさか、体育館の時計を使えなくしたのは発想が凄いと」

「アレはウチのバンドメンバーが勝手にやった事なんだけどね……」

 

 あっ、死んだ魚の目に戻ってしまった。私もまさか、舞台の裏で物理的な時間調整をしているとは想像できなかったのである。時計の針が進まなければ問題ないと。終わった後で凄く怒られたんだろうなぁとは勝手な推測だ。

 

「それに、ケイさんのお兄さんが連れてきてくれなきゃ、多分力尽きていたと思います」

 

 比喩でもなく本当に。知らない番号から電話がかかってきて、出てみると織口さんからだったし。待ち合わせると、運転手は店長さんと喧嘩してた人と一緒だったし半分パニックだった。

 

「でも、絶対に間に合わせるって心強かったです」

 

 私の緊張を解す為か、道中で面白いエピソードばかり語ってくれた。

 

「店長さんとの昔話とか……大学祭のステージで、仲が悪いあの二人が実はセッションしてたらしいですよ」

「それ、私もめっちゃ気になるんだけど」

 

 もう記憶から抹消したいと本人は嗤っていたけど。横にいた虹夏ちゃんも話に割り込んでくる。

 

「急遽、ステージイベントのゲストが遅刻しちゃったみたいで。芝生広場がお客さんで一杯。こういう場合の軽音部も、むしろ観る側に回ってしまっていたらしくて……」

 

 運営側の事情を知っていて、それでも頼める相手がいなかったそうで。まぁ、何とも絶望的な状況だったらしい。

 

「それは、お()ぃに人望がなかったからでは?」

「間が悪かったって、終わってから皆が口を揃えたらしいです」

「何その()()()()()()()()構文……」

 

 虹夏ちゃんのツッコミも当然だ。とはいえ、どうにかなったという訳で。

 

「ちょうど遊びに来てた店長さんが、一人で独演会やるって言い出したらしくて。学外の人間をこんなヤバイタイミングで放り込むのも、運営側としては看過も無視もできないらしく……観客も段々待ちきれなくなってきて……」

「その折衝案が、お()ぃのバンド出演?」

「はい。実行委員会のメンバーと楽器できる人を集めて、店長さんがギタボやったらしいです」

「あーアレね~。めっちゃ盛り上がってたよー!」

 

 既に茹蛸みたいに赤くなっているお姉さんが、更に私達の話を肴に乗り込んでくる。

 

「だって事務所からスカウトされるレベルなんらよ~。先輩が生半可なスキル披露する訳ないじゃんさ~。あの時も恰好良かったし、勝手に観客が前座扱いでコール鳴りやまなかったし……」

「昔話もそこまでにしとけ、廣井。そろそろ打ち合わせすっぞ」

 

 ウゲッ先輩という擬音と共に釣られていった。よく分からないけど、当時の事を知る人間がいなくなって話題も止まってしまう。

 

「……とまぁ。ウチの兄はトラブルを解決する側の筈なのに、トラブルメーカーで有名だったらしくて」

「それは純粋に抱える問題が多すぎただけでは?」

 

 虹夏ちゃんの目も憐れんでいるように見える。というより、ケイさんも同じような悩みを抱えて学園祭を運営していたような気もする。血は争えないというか……。苦労性だし、仕事を押し付けられてそう……。

 

「それと『あと1年頑張れよって』励ましてくれたんですけど……それって、来年も下北祭とかでライブができるからですかね?」

 

 遅れても大丈夫だよって意味かなぁと。その台詞に、どうやらケイさんは眉を顰めたらしい。でも、どうして? 兄妹だから通じるのもあるのだろうか。

 

「お()ぃらしいね……例えば後藤さんはさ。1年後の事って想像できる?」

「1年後ですか?」

 

 ついに私も3年生かぁって感じですかね。そうボソッと呟いたのを、彼女は聞き逃さなかったらしい。

 

「私がぼっちになったのもその時。まして下北祭に関わって人生変わったのって、そこから半年くらいしかなかったんだよね」

「えーっと。あんまり想像できないです」

「後藤さんなら、まだまだ友達できるだろうし大丈夫…………大丈夫だよね?」

 

 だいじょばなさそうです。クラス分けとかそういう依然の問題で、喜多さん以外に友達いないんですけど!? 

 

「あー。学校の話はもう止めておこうか…………なら、1年後に後藤さんがどんな気持ちでSTARRYにいるか考えながら見ててくれる?」

 

 悔いがないようにね。まるで吐き捨てたような乱雑さ。そして慈愛のような響きを以って、相反する二つの感情が揺れた。虹夏ちゃんと二人して顔を見合わせた。ケイさんは何が言いたかったのかな。それに見ててくれるって? 答えは直ぐに訪れた。

 

「そんじゃぁ! ケイちゃん! 追い出し(そつぎょう)ライブ行っちゃおうかぁ!」

「お姉ちゃん!? こういうの聞いてないんだけどッ!?」

 

 店長さんは最初から知ってたみたい。お姉さんの破天荒さは今に始まった事じゃないけど、何か言い出してる。ゑ? ライブの準備って、もう始まってたんですか? というか追い出しライブって、普通は後輩側が仕掛けるのでは? 

 

「それに……栗原先輩はそっち側なんですか?」

「言ってなかったっけ。受験期でも私、SICK HACKで武者修行中だったから」

 

 センターの結果で半分諦めがついてたし……ケイさんの顔が死んでる。アハハというか、もう自暴自棄のような……。まぁ、先輩が後悔してないのなら良いのかな。お姉さんのバンドメンバー、志麻さんとイライザさんも準備が終わってるみたい。

 

『あーテステスー。今日はSICK HACKのライブに来てくれてありがとー!』

『お前の為じゃないからな廣井!? 栗原ちゃんを労う(おくる)会だって……』

『きくり~! ココはFOLTじゃないヨ~』

『ゴメンって! ほんじゃSTARRYのみなさーん! 楽しんでますかー!』

 

 イエーイ! と盛り上がるのは、こういうノリに強い喜多さんくらい。というか、ほぼ身内とはいえ貸し切りって贅沢だなと思う。志麻さん達のツッコミに対して、お姉さんは何処吹く風である。

 

「今日の貸し切りはこういう為だよ」

 

 いつのまにか店長さんが戻ってきた。此処に置いとくよと、私のパシフィカがステップ上のギタースタンドの定位置へと収まっている。

 

「お前らの関係は軽音部の先輩後輩って訳じゃないだろ? せめて、華を持たせて送り出したいと思うじゃん」

「店長さんって……ケイさんの事が大好きですね……」

「……ぼっちちゃん達の時にも準備してやるから気にすんな」

 

 照れ隠しのようにプイと顔を背けられてしまった。ほら始まるぞ。そんな捨て台詞に苦笑しながらも、私は虹夏ちゃん達と待つ事になる。

 

『それじゃあ……ケイちゃん、曲紹介行っちゃおうかぁ』

『えーっと。私が尊敬しているバンドのコピーをさせて頂きました。メンバーが個性的で、私の心の奥底を描き乱すような。そんな彼女達の眩しさと陰にいつも惹かれます。私には眩し過ぎた……それでもコレが最後ですから、演奏せずにはいられなかったです』

 

 一度髪を振りかぶって、ケイさんの視線が上がる。吸い込まれるような闇に似た瞳孔。辺りの正を内包した光彩。彼女のピックが弦を叩く。

 

『聞いてください……』

 

 もう曲名なんて聞こえない。予想外の事態に目を白黒させた。その曲はお披露目してから……まして、動画サイトに出してから二週間すら経っていない筈。それを……この四人は、ここまで完璧にコピーして仕上げてきた。

 実力もまだしも、粗削りだが勢いが違う。クオリティとかではない。熱が、音が。私達のいるSTARRYをあっという間に呑み込んでいく。イントロの特徴的なメロディ。私と喜多さんのものじゃないのは分かる。イライザさんとの掛け合いは本当に楽しそうで……。

 

『私 プラス (きたい) マイナス 孤独(ふあん) カケル ギター イコール ライク(ロック)だ」

『私 プラス (キミ) マイナス (じかん) ワル ベース(ギター) イコール ライフ(ライブ)だ」

 

 私達と敢えて違う歌詞。それでいてお姉さんとケイさんのツインボーカルは、違和感なく耳に入ってくる。ここら辺はお姉さんなら即興で唄えるくらいだろう。まして動画サイトで弾いてみたの模倣を得意とするケイさんが噛み合えば、本当に鬼に金棒である。

 

『生まれたよ一つ 新しい世界が』

『この時間 この場所 まるで絵空事』

 

 文字通り生まれたのだ。SICK HACKというベテランがこの場を借りて、結束バンドの音楽が違う色を湛えて波紋のように広がっていく。演奏の技術じゃない。実力だったら、ケイさんより私の方が上だ。それでも……これだけ弾きたい音楽だけを前にして、怖気もせず挑む彼女が私には眩しすぎる。

 光の中へ。これ以上に私の現状を皮肉る曲名(タイトル)はないだろう。この曲は結束バンドの為に書いた曲だ。それが、結束バンドの皆に(ワタシたち)対して歌われる事で分かる。闇が浅い? 違う。陽キャが歌う意外性が甘い? 違う。この曲は、本当は最初から輝いていたのだって。

 正直、悔しい。どうしてこんな演奏ができなかったのだろうと。聞く立場になってはじめて分かる。書いた私がこの曲の事を……本当に理解しきれてないなんて! 

 

『私 プラス 世界(せけん) マイナス ドラム(いしそつう) カケル 未来(りかい) イコール トーク(アウト)だ」

『私達 (プラス)キミ マイナス(はバイアス) 願い(おと) ワル サヨナ……「ハハッ そうだよねぇ~ やっぱ楽しみたいじゃんか!」』

 

 マイク越しにお姉さんの声が高らかに嗤う──────イコール バンドだ。そう真正面から対抗して歌い上げたのは喜多ちゃんだった。ステージから引っ手繰ったマイクを構え、お姉さんの茶々に負けないように声を張る。そしてリョウさんは最初から知ってたみたいに、何時の間にか用意されていた壁際のベースアンプに繋いでおりもう参戦ムードだ。

 

「ほらよ、ぼっちちゃん」

 

 こうなると店長さんも仕掛け人だろう。家ではレスポール。STARRYではパシフィカ。それが、何時の間にか当たり前になっていて、つい忘れていた。通学も大変だし、せっかくだから片方のギターをSTARRYに置いておきなよと提案されたのはつい先日だ。私も成り行きで預けていたが、実は今日のこの日を見越しての用意だったのだと。

 アンプは電源を入れればすぐに使って良いってものじゃない。暖気運転も済んでいるなんて、本当に都合が良すぎる。スタジオ貸し切りにしてあるから……最初に店長さんはそう言っていた。いつもと比べて不自然な音響機材の配置。PAさんもドリンクを放り出して既にスタンバイしていた。

 もう最後だから……違う。こんな茶番を用意したのは、私達を揶揄う為だけじゃない。1年後……それは、虹夏ちゃんとリョウさんにも差し迫るタイムリミットだって事だ。それを覚悟した時に、後藤ひとりは冷静になれるかだって。虹夏ちゃんが情緒不安定だったのはそういう事だ。先輩との別れを惜しむ。ただそれだけなんだ。

 

「お願いです……虹夏ちゃん。私はあの人達と勝負し(たたかい)たいです」

「そだね…………もうさよなら……なんだ」

 

 私はクリスマスに店長さんの誕生日を祝おうと、オリジナルソングを弾き語ろうとした。あぁいう冗談ではない。もう二度と、ケイさんとセッションする機会はなくなっても可笑しくないと。これが来年の春を迎えて、二人の卒業を心から祝えるのだろうか。

 考えたくない。肯定や否定すらしたくない。先延ばしには出来る。でもいつかはやってきてしまう。返答代わりに、ケイさんの唇が歪む。私への警句を込めて。虹夏ちゃんの事を頼むと──────告げる。

 

光の先(ミライノサキ)ダイブする(ふみだす)歌』

 

 焦りの汗か身震いの涙かも分からない。私はひたすらギターにしがみ付いて感情を奏でる。隣を見れば、キャリーバッグと机を相手にスティックを裁く虹夏ちゃんがいる。私達の音楽だって負けてないッ! 

 まだいるんだ。まだいてくれるんだ。来年同じ立場であろうと、それを吹き飛ばせるくらい頑張ってバンド力を上げて…………。

 また貴女に、私達の音楽を見に来て欲しいです。それだけが、私の願いだ。

 

『生まれたよ一つ 新しい世界が』

『この時間 この場所』

『『まるで絵空事』』

 

 本当に絵空事だ。8人でのバンド演奏……まして、実質的な対バン形式で同じ曲を同時にやるだなんて。

 

『束ねていこう 今を』『今を』

 

 今しかないのだ。この楽しい時間は、今日で終わりなのだ。

 

『明日も』『明日も』

 

 もう貴女(センパイ)がいない世界だとしても。何処かで元気でいてくれるなら。

 

『もっと』『もっと』

 

 遊んでいたかった。話をしたかった。もし叶わぬなら、何時か会えますように。

 

『『きっと』』

 

 そうだよきっと。貴女と結束バンドとの()()は。

 

『何処までも』

 

 きっと……何処までも続いている。




長かった……非常に長い戦いだった。プロットはあるもののライブ形式で書いていくのは久しぶりで、どこに転ぶか分からないのは良くも悪くもスリル満点でしたね。

とりあえず作品自体をしばらく完結状態に移行します。その際に現在の投稿はChapter 1になる予定です。

また募った番外編の企画をぼちぼちやっていこうかと思います(2-3月中旬頃かな)それまでプロットを練る時間があるので、まだまだアンケートを受け付けてますので、よろしくどうぞ。

それまで一切執筆できる環境ではなさそうなので、ストックなしの月1更新になると思います。全8話構成で2024年秋に完結?先が長そう。それまでには、ぼざろ2期も見えて来るんじゃないかな……。

それでは次回 intermission でお会いしましょう!
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