ようこそ成敗至上主義の教室へ 作:もうすぐ死にます
一之瀬と別れた後、俺はこれから世話になるだろう1-Dの教室へ入る。すると黒板には席順表であろう物が掲示されていた。
「俺の席は……ここか。」
指定された席へと腰掛ける。俺の席は一番後ろの席であり、窓側とは逆の廊下側の席だ。辺りを見渡してみると、まだ時間に余裕が有るからか、人は少ない。取り敢えず隣の席の者に話し掛けてみようか。
「すまん、そこの君。」
「は、はい!」
隣に座っていた女子生徒は声を掛けられた事に驚いたのか、両肩をビクリと跳ね上げた。
「ああ、驚かせてしまったか。」
「い、いえ……」
その者は眼鏡を掛けており、濃い桃色の髪を持っている。バスで出逢った一之瀬も麗しい顔立ちだったが、この者も大層美しい容姿の持ち主だ。だが、どうにも人見知りらしく、目を合わせて話すことが苦手の様だった。
「隣の席同士よろしく頼む。俺は徳田新之助。君は?」
「さ、佐倉愛里……です。」
こう言った者は、此方から歩み寄らねば親しくなる事は難しい。こちらから名乗ると、彼女の方も同じように返してくれた。
「佐倉か、宜しく頼むぞ。」
「は、はい……」
返事は有るものの、彼女の声は震えており、緊張と恐怖が感じられる。やはり話すのが苦手らしい。すると髪を後ろに纏めた黒スーツの女子生徒が教室に入って来た。どうやらこのクラスの担任らしい。
「えー新入生諸君。私はDクラスを担当することになった茶柱佐枝だ。普段は日本史を担当している。この学校には学年ごとのクラス替えは存在しない。卒業までの3年間、私が担任としてお前たち全員と学ぶことになると思う、よろしく。今から一時間後に入学式が体育館で行われるが、その前にこの学校のルールについて書かれた資料を配らせてもらう。以前入学案内と一緒に配布してあるがな。」
茶柱佐枝。やはりこの女子が私達のクラスの担任の様だ。しかしこの時代の寺子屋の教師は如何なる物か……女子にしては肌を見せすぎではないか? ‥‥思えば、転生してからこの時代の女子は少し露出過度な衣服を好んでいたな。学校の制服も足を露出しているのは目のやり間に困る。……この時代の認識ではそれ程恥じる事はない様だが……
茶柱先生の服装を見て、時代の違いを痛感する。確か今世ではこの様な事を『ジェネレーションギャップ』と言うのだろうか。
「施設内では機械にこのカードを通すか、提示することで使用可能だ。使い方はシンプルだから迷うことはないだろう。それからポイントは毎月1日に自動的に振り込まれることになっている。お前たち全員に平等に10万ポイントが既に支給されているはずだ。なお、1ポイントにつき1円の価値がある。これ以上の説明は不要だろう。」
説明を聞くなりクラスのほぼ全員が喜びの声を上げる。説明が正しければ自分達は入学早々10万円という大金を支給されたのだ。燥ぎたくなるのも無理もない。
しかしクラス一人に10万か‥‥もしこの学校の生徒一人一人に毎月10万もの大金を支給しているとなると、日ノ本も随分富んだ物だ。…いや、まさか俺が将軍になる前と同じ状況に立たされているのか?この学校は国立と言うのも有り、こう言った物は基本的に税で賄っているものだろうが、少々財政が不安だ。
「ポイントの支給額が多いことに驚いたか? この学校は実力で生徒を測る。入学を果たしたお前たちにはそれだけの価値と可能性があると言うことだ。だが無理矢理カツアゲするような真似だけはするなよ。学校はいじめ問題にだけは敏感だからな。こちらからは以上だ、質問があれば受け付けるが何かあるか?」
最後の確認事項として、質問を受け付ける茶柱先生。丁度いい、少しポイントについて気になっていた所が有った。この際聞いて見る事にしよう。
『実力で測る』という言葉、少々不審だ。彼女の言う通りこの学校を受験し、その実力を評価してこの10万ポイントを支給したとなれば、その後の事はどうなる? 瘦せ細った剣士でも実際に手合わせしてみれば意外に手強い事も有る。その逆もまた然りだ。もし入学した後に『実力無し。』と判断された場合、ポイントはどうなる?
「失礼。宜しいか。」
「ん? 徳田か。 何だ?」
「今回10万と言うポイントを自分達は頂きましたが、来月はどうなるのです?」
「ポイントは毎月1日に支給される。安心しろ。」
再び教室の生徒達はざわつく。当然だ、毎月大金を貰えるとなれば、誰しもがそうなる。だが余の憶測では……
「失礼、もう1つ宜しいでしょうか?」
「何だ? 言って見ろ。」
「先生は先程『この学校は生徒を実力で測る』と仰っていましたが、もし実力が無い者と判断した場合、このポイントは貰えなくなるのでしょうか?」
瞬間、茶柱先生の眉が一瞬ピクリと動くが、直ぐに腕を組んで返答した。
「……時と場合によって異なる。」
何とも漠然な。しかしこれで僅かに答えが見えた。彼女が否定をしなかったと言う事は、実際この学校の教師、あるいはそれに準ずる機関が生徒の実力を判断し、『実力なし』と判断すればポイントの支給が無くなる可能性が有ると言う事だ。
もしそれが正しければ何とも極端な政策か。確かに国全体の出費を抑える事は出来るやもしれんが、これでは富める者と貧しい物が極端に別れてしまい、次第には一揆を招く事になるぞ。
「質問は以上か?」
「はい、それさえ解かれば。」
前世で改革を行った時の失敗を思い返しながら、そそくさと去っていく茶柱先生を見届ける。
これだけでも随分と情報を集められた。だが実証する余地がない為、不安分子が多すぎる。確証に至るには少し骨を折る必要が有りそうだ。
他の生徒も私の質問や、茶柱先生の回答に対して思う所が有るらしく、小さくそれに関して相談の声が聞こえる。だが、そんな空気を明るく変える様に、一人の男子生徒が立ち上がった。
「みんな色々思う所も有るだろうけど、折角同じクラスになったんだ。これから自己紹介をしないかい? 僕は平田洋介。基本的に運動が好きでサッカー部に入ろうと思ってるよ。これから宜しく」
心なしか辺りの女子達が騒がしい。やはり見栄えが良と言うのが一番の理由だろう。しかし、余は彼に少し言わねばならぬ事が有る。
「少し待ってくれ。」
彼に少しを待ったを掛けるべく、立ち上がり、皆が気を悪くせぬ様に声を上げた。
「止めてすまない。私は徳田新之助と言う。確かに互いを知る為に自己紹介は重要だ。だが、この場が苦手な者も少なくない筈だ。それらの者は同調圧力に屈する事になるのではないか?」
「…そうだね。個々でする事にするよ…言い難い意見を言ってくれてありがとう。一応僕だけ自己紹介しておくよ…平田洋介、基本的に運動が好きでサッカー部に入ろうと思ってるよ。これから宜しく」
「ああ、宜しく頼む。平田。」
教室は個々で自己紹介を始め、一部では俺の発言で安心した顔をしている者も居る。そんな中、俺は隣の佐倉愛里に身を寄せると、小さく呟く様に話した。
「これで一安心だろう?」
「は、はい……有難うございます……」
その後、此処のクラスメイトについて色々解った。先ほど俺が話した平田洋介に、世渡りが上手そうな櫛田桔梗。少々軽い雰囲気を纏った軽井沢恵に佐藤麻耶。お調子者の山内春樹に池寛治。やはり前世では見知らぬ顔ばかりだ。
しかしこの雰囲気が気に食わぬものも多少はいる様であり、俺の前の席に座る男子生徒は『馬鹿馬鹿しい』と教室を後にし、窓際に座り本を読んでいた女子生徒にも自己紹介を断られてしまった。
しかし高校での学友か……随分癖の強い者達が多い様だが、これからどうなる事やら……
今生の人間関係について期待を胸に抱える中、俺は入学式までの僅かな時間を過ごすのだった。
もういっそのこと堀北会長失脚させて上様を生徒会長に就任させてやろうかとヤケになっている作者です。
この作品で須藤君は辰五郎の様な立ち位置にしたいと思います。御庭番についてはまだ検討中。
ご感想お待ちしています。
上様最初の成敗は?
-
堀北学 成敗
-
茶柱佐枝 成敗